私は、小夜に二度助けられた。一度目は、皆で海に行った帰り道。セミの化け物に襲われそうだった私を間一髪で避けることができた。二度目は、私がハートのカードの中に入っていた怪物に乗っ取られた時。あの子は、私のために体を張ってそこから助けてくれた。なのに私は今日まで、ちゃんとしたお礼が言えないでいる。私は、それがずっと気になっていた。
お菓子、違う。文房具、違う。本…はこういう時はふさわしくないよね。
「どれもピンと来ないわね」
私はつい、そう声に漏らした。
私は今、隣町にあるショッピングモールに一人で来ている。いつもなら誰かとショッピングをするのだが今日は違う。小夜に改めて、ありがとうとお礼をするためのプレゼントを選びに来たのだ。小夜にはトレーニング用の本を買ってくると言い残し、自主トレをするように言っておいた(その間のマネージャーはなぎさと愛矢)
しかし、来てはみたものの、どの店を見ても小夜のイメージとベストマッチするようなプレゼントは中々見つからなかった。
小夜は優しいから、何をあげても喜びそうな感じはするが、それに甘えるつもりはない。自分の感謝の気持ちを伝えるんだから、彼女の為に考え抜いてこれだと思うモノでなければ意味は無い。
「とは言っても、やっぱり難しいわね」
取り敢えず今は小休憩。一旦ショッピングモールに出た私は近くのキッチンカーで飲み物を買い(睦月からいくらかお小遣いを貰うようになった)、当てもなくブラブラと歩いていた。
「ウワ~!これかわいい!マジヤバくね?」
「うん!ヤバいヤバい!これ買お!お揃いで!」
ふと近くにあった小物屋さんからそんな声が聞こえてきた。背中にテニスラケットバッグを背負っている所を見ると、部活帰りだろうか。
羨ましい。私は二人を見てそう思った。
私には、睦月と会うより前の記憶が無い。だから、私がこれまでどんな生活をしてきたのかが分からない。部活は入っていたのか。友達はいたのか。ああいう風に、一緒にお揃いの物を買ったりしていたのだろうか。私の人生は楽しかったのか。
いや、最後のは答えは出ているか。私は苦笑した。
小夜が思い出した事をきっかけに、私は、元々は魔女だった事を知った。魔女の事は小夜から聞かされた。魔女とは、キュウべえと契約を交わして魔法少女になった者の成れの果てで、心に穢れが溜まった時になるのだという。つまり睦月と会う前の私は、魔女になった段階でバッドエンドに終わった訳だ。ならあんな風に、友達と寄り道しながら帰ったり、夜にやるドラマを見て感動したり深夜まで友達と長電話したり、そんな当たり前の日常をずっと楽しんでいたのだろうと考えるのは希望的推測も良い所だ。
「なんて、何考えてるのよ、私!」
ダメダメ。そんなこと考えちゃ。今は、小夜のプレゼント選びでしょうが!両手をパシッと顔に当て、気合い充電完了!取りあえず、あの子達がかわいいと連呼しているあの店に入ってみよう。
ワンワン!
店に近づいた時に聞こえて来た犬の鳴き声。ふと見ると、店の側に犬小屋があり、その中に真茶色で子犬のチワワが私に向かって吠えていた。ん?この犬どこかで…。
「こらベック!あんまり吠えるとお客さんびっくりするで…あ!」
「あ!あなたは!若葉さん!」
私に吠えて来た犬、なんとそれは少し前にクインテットで保護してたベックで、今目の前にいるのはその飼い主の永山若葉(ながやま わかば)さんだった。そう言えば彼女はアクセサリーショップを経営してると言っていた。ここにお店があったのか。
「久しぶり、でもないか!こんなに早く会えるとは思わなかったよ!ベック!」
「本当に驚きましたよ。本日はお一人で?」
脚に飛び乗ってきたベックの相手をしている私に向かって尋ねて来た。
「はい、そうなんです。実はー」
私は事のあらましを説明した(もちろん、ライダーについては隠してだ)。
「それで、何かお礼のプレゼントをあげたいな何て思ったんですけど、中々良いのが見つからなくて…って、どうしたんですか?」
見ると、若葉さんは、今まで見たことが無いほど優しい顔で微笑んでいた。
「いえ、それだけ誰かを慕っているなんて、小夜さんは本当に良い友達を持ってるんだなと思いまして」
「いえ、そんな…」
良い友達、その言葉を聞いて私は少しこそばゆかった。
「よろしければ、ご自分で手作りしてみたらいかがでしょうか?」
「手作り…ですか?」
「はい。私のお店では、手作りの小物を作るコーナーも設けているのですが、そちらで作ってみるのはどうでしょう?もちろん、私も全力でサポートします」
手作り…確かにそれなら自分の満足できるものがきっと出来るし、月並みだけど、たくさんの気持ちも込められる。だって、小夜の事を誰よりも知ってるのは私なんだから。
「よろしくお願いします!」
私に迷いは無かった。
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色々と迷ったが、私はキーホルダーを作る事にした。これからの応援を含めて、ジャックフォームの象徴である羽を広げた美しい孔雀を付けたキーホルダーだ。
「うーん、孔雀は難しいわよ?私もあまり作ったこと無いですし…」
「いえ、これがあの子にピッタリの組み合わせなので」
私はそう断言した。
「そうですね。なら、頑張りましょう!」
若葉さんも最後には賛成してくれた。
とは言ったものの―、
「あ~!もうまた失敗!」
私は、事あるごとに理由を付けて脚しげく通っていたのだがどうにも出来ない。孔雀の羽を魅せる時の美しさがどうにも出せない。これでもう6回目だ。
「でも初めと比べたら随分良くなりましたよ。私は、これでもいいかなと思いますけど」
「いや、全然ダメ!もっと見た目良くしないと!」
手抜きも妥協もしたくない。作るからには、完璧な物を仕上げたかった。
その後も、何度も何度も挑戦した。
羽の曲がり具合は…ここは直線に少し丸みを帯びるように…
そして―
「出来た~!」
17回目にしてようやく満足のいく物が出来た。色使いにまで拘り、美しく魅せるがその中でもキーホルダーマスコットならではのかわいさも忘れない。そんなキーホルダーが。
「良かった。おめでとうございます!では早速お包みしますね」
「はい!若葉さん、本当にありがとうございました!」
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その日の夜、私は凄く緊張していた。別に彼氏にあげるとか、そういうものではないのに。人にプレゼントあげるなんて、初めてだからかな。
そして―、
「「あ…あの」さ…」
私と小夜、同時に声が出た(えっ?)。だけど、ひどく緊張していた私は、それに気付く余裕が無かった。それは、小夜も同じだったようで。
「「これ!」」
二人同時に、お互いに小さな紙袋でラッピングされた物を差し出した。
「「えっ?」」
私達は不思議に思いながらお互いの紙袋を受け取った。って、この包みは…
私は急いで開けるとそこには、犬の耳が付いたバレーボールのキーホルダーが入っていた。
「舞花さん、これ…」
小夜も気付いたらしく、私が作ったキーホルダーを持ちながら言った。
「えっ?でも、何で?小夜、私に、どうして…?」
「私は、その、お礼です。いつも、トレーニングメニュー作ってくれたり戦いのサポートをしてくれたりしてくれているのでそのお礼」
「それを言うなら私だって、前に2回も助けてくれたからそのお礼にって。嘘~!」
「「私達、お礼のプレゼントを同じ所で作ってたって事!?」」
また、私と小夜の声が重なった。そして、少し間が空くと、お互いに笑い始めた。
「ハハハ…何よそれ、何か笑っちゃう」
「フフ…ええ、本当にね」
そっか、若葉さんと初めて再開した時の微笑み、時々時間を指定して来たのはそういうことだったのか。若葉さんも、全く粋な事をしてくれる。
「これ、孔雀ですか?凄くかわいいですね!もしかして、ジャックフォームの?」
「そう。これからも頑張ってっていう意味も込めてね。こっちも良いわよね。バレーボールに犬耳付けて、センスあるしかわいいわよ」
「ありがとうございます」
そう言って早速小夜はトートバッグにキーホルダーを付け始めた。
「形は違うけど、お互いの為に作ったプレゼントで、同じ店で手作りしてたなんて、これでもう、お揃いですね!」
「!」
『これ、お揃いで買お!』
私が密かに憧れてた日常の一部。だけど、そんな日常の夢は唐突に叶った。
私は再びバレーボールのキーホルダーを見ると、サッと顔を挙げて、小夜の顔を正面から見つけた。
「ええ、そうね!」
私は満面の笑みでそう答えた。
私には、睦月と出会う前の記憶が無い。その為か、記憶を失う前、もっと言うと魔法少女になるより前にあったであろう当たり前の日常にずっと憧れてた。
だけど、それはこれからでも作る事が出来る。だって私には、睦月やなぎさ、愛矢がいて、一番の親友の小夜がいるんだから!
「小夜、これからもよろしくね!」