仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

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第30話 希望も勝利も無いんだよ

 「ここだ」

 

 四人はようやく目的の場所へ着いた。

 

 そこには広い庭が広がっていて、奥には豪邸があり、見るからにお金持ちが住むようなお屋敷というような感じだった。

 

 そして、その豪邸の玄関の扉がまるで四人が来るのを待っていたかのように開いた。

 

 「――!」

 

 晴人がそこにいた。

 

 「晴人…」

 

 「ようこそ。私の別荘へ。思ってたよりも遅かったじゃねぇか」

 

 睦月達が来ている事に全く驚いて無いようだった。

 

 「やっぱり…そういうことか」

 

 「その様子だと、気付いたようだな」

 

 考えてない訳では無かった。相手は、今まで通っていた大学にもほとんど手掛かりを残さなかった人間だ。そんな人が自分のアジトの住所を敵のパソコンに残すというヘマを犯すのかと。最悪の可能性だが、それが当たってしまった。

 

 「さて、あの時出来なかった事をやらせてもらうよ。そこにいる三人を貰う」

 

 そう言って晴人はなぎさ達を指差した。

 

 「どうして彼女達を狙う!?」

 

 「これからの計画を敵に話すバカがどこにいんだ?」

 

 晴人は懐からオルタナティブ・ゼロのデッキをかざした。

 

 「それは…?」

 

 「この前俺のベルトが壊れちまったからな。スペードに代わる俺の新しい力さ」

 

 どこからともなくベルトが現れて彼の腰に装着された。

 

 「変身」

 

 そしてデッキをセットした。彼は黒と金のライダー、オルタナティブ・ゼロに変身した。

 

 「皆は下がってて」

 

 なぎさ、愛矢、舞花の三人を後ろに追いやると、睦月もベルトを巻いた。

 

 「変身!」

 

 『♧Open Up』

 

 睦月はレンゲルに変身した。

 

 『SWORD VENT』

 

 オルタナティブは早速カードを入れた。他のライダーとは違い、女性の声がし、オルタナティブはスラッシュダガーを召還した。

 

 レンゲルもレンゲルラウザーを構えた。

 

 「行くぜ」

 

 先に動いたのはオルタナティブだった。剣を構えて大きく横に振る。レンゲルはそれをラウザーで防ぎ、胴体に蹴りを入れると続けてラウザーで突いた。

 

 が、それはスラッシュダガーを盾に防がれ、空いた方の手でラウザーを掴むとそのままグイッと引き寄せ、剣の下から上への攻撃を食らった。

 

 「ガハッ!」

 

 さらに続けざまに下から斜めに振った一撃を与えられた。

 

 「ガアァァァ!!」

 

 レンゲルはそのまま地面に転がって倒れた。

 

 「俺に勝てると、本気で思っていたのか?魔女との戦いを通じて学ばなかったかね~?俺の方が戦闘技術は上だって」

 

 「それはどうかな!?」

 

 『♧ABSORB QUEEN』 『♧FUSION JUCK』

 

 レンゲルの体格が一回り大きくなり、ジャックフォームに変化した。

 

 「それは…小夜が使ってた」

 

 「あの子の名前を、気安く言うんじゃねぇよ!」

 

 そして両手の握りこぶしを合わせると、そのまま駆け出し、モーニングスターの一撃をオルタナティブに与えた。

 

 「グオッ!」

 

 スラッシュダガーで防いだが、それでも勢いを殺しきれず、彼の体は大きく後退した。

 

 「お前の企みを全部終わらせて、小夜の前で土下座でもさせてやる!!!」

 

 「面白ぇ」

 

 オルタナティブも負けじとスラッシュダガーを振り下ろした。―が、それを片手で軽々と受け止めると、大きな拳のパンチを彼の胴体に与えた。

 

 「グホォ!」

 

 「今のは俺からの分だ。そしてこれからの一撃は、大切なものを失った、彼女達全員の分だと思え!!」

 

 「お~お~、そいつは痛そうだ。だったら…」

 

 『ADVENT』

 

 「さっさと用を済ませるとするか!」

 

 いくつも穴が開いた顔面からいくつもチューブが体に伸びたロボットを思わせる出で立ちのミラーモンスター、サイコローグが現れ、それが真っ先になぎさ達のいる方向へ向かい出した。

 

 「さぁ行け!」

 

 バサササササ!!!

 

 サイコローグが一目散に接近してきたその時、彼女たちの頭上を何かが飛び去り、それがサイコローグと激突した。

 

 「何!!?」

 

 それは、怪人の風貌をしていたが、モンスターとは雰囲気が異なっていた。

 

 「まさか…」

 

 それはミラーモンスターではなくアンデッド。コウモリのような姿をしたダイヤのカテゴリー8に封印されていたバットアンデッドだった。

 

 「お前、まさかあれを既に使ってたのか!」

 

 「ここ自体が罠って可能性もあったし、そうじゃなくても連れていくと決めた以上全力で守るって決めたからな。万が一の用意をしておいて正解だった」

 

 アンデッド。それは睦月たちの味方になってくれるようなものでは無い。しかし、REMOTEの力で解放されたモノであるなら、目的意識を持って解放したモノについては操れる事を、晴人との実験で分かっていた。バットアンデッドには、なぎさ達を守ってほしいという目的意識を念じながら解放した。つまり、今のアンデッドはボディーガードのようなものだ。

 

 そして、その事を指摘したのは他でもない晴人なのである。カードの効果を改めて確認しようと提案した時、睦月にぽつりと言ったのだ。

 

 『REMOTEか…なぁ、ちょっと思ったんだが、このカードに書かれてるのって「遠隔」だろ?前にお前、これを使ったら怪物が飛び出して襲ってきたって言ったけど、本当は自在に操れるんじゃないのか?』

 

 「その事を俺に言ったのは失敗だったな」

 

 「凄い。まさか怪物が私たちを守ってくれたなんて…」

 

 「びっくりなのです」

 

 「あんたが出かける直前にやってたのってこれだったのね」

 

 なぎさ達には、怪物が守ってると知れば気味悪がるかもと思い黙っていたので驚きの表情を浮かべていた。

 

 「ちっ!面倒なことをやってくれたな。オイ!」

 

 『SPIN VENT』

 

 「睦月さん、後ろ!」

 

 「ハァ!」

 

 「がぁぁ!」

 

 「くっ!」

 

 ガゼルスタッブを付けたインペラーとバイドワインダーを持ったベルデが背後から現れたが睦月はそれをモーニングスターで弾き返した。

 

 「やっぱりいたか」

 

 「ちっ!」

 

 「お前ら!睦月は良い!なぎさ達を狙え!」

 

 「ハイハイ、分かってますよ!」

 

 『ADVENT』

 

 インペラーのゼール軍団が一斉になぎさ達の方向へ向かった。しかし、その行く手をさらに別のアンデッドが遮る。クラブのカテゴリー7のジェリーフィッシュアンデッド、ダイヤのカテゴリー9のゼブラアンデッドだ。

 

 「なっ…!」

 

 「敵が複数だって予想するなら、それなりの対策はするさ」

 

 「くっ!この野郎!」

 

 『♧2 STAB』

 

 ガゼルスタッブを構えて突進してきたインペラーの攻撃を屈んで躱し、彼の懐にレンゲルラウザーを叩きこんだ。

 

 「グワァぁ!」

 

 「もう終わりだ。ここで決着をつける!」

 

 その時、オルタナティブが近づいてきて言った。

 

 「まさか、ジャックフォームに変身していたとは驚いた」

 

 しかし、言葉とは裏腹に別段驚いていないようだった。

 

 「これは完全にこちらの想定外だ」

 

 それどころか、楽しんでいるようにも感じられた。

 

 「だけど、それ以外は上出来だ」

 

 ―――――何?

 

 「芝浦!」

 

 「芝浦!出番だ!」

 

 『STRIKE VENT』

 

 晴人の叫びを合図に、メタルホーンを付けた仮面ライダーガイが飛び出してきた。

 

 そして、バットアンデッドに一撃を入れる。

 

 「さて、お仕事開始と行こうk―」

 

 しかしそこに、別のアンデッドが飛び込んできた。ダイヤのカテゴリーQ、サーペントアンデッド。

 

 突然の奇襲に、ガイはメタルホーンを振り回して牽制し、結果なぎさ達の元から離れた。

 

 「フン!まだ居たのか」

 

 「敵のアジトに乗り込むんだ。これでも足りない位だぜ」

 

 オルタナティブとインペラーはレンゲルに、メガゼールたちはジェリーフィッシュアンデッドとゼブラアンデッドに、サイコローグはバットアンデッドに、ガイはサーペントアンデッドに阻まれて、完全に動きを足止めされていた。

 

 これならいけると睦月は思った。オルタナティブはこのまま畳み掛ければ倒せるし、インペラーとモンスターはアンデッドの相手で精一杯。ガイについては若干押されている。仮にベルデが現れてもサーペントアンデッドで対処できるし、いざとなればまだ潜ませてるクラブのカテゴリー3、モールアンデッドを行かせれば良い。このまま一気に押しきる。

 

 「ぬうおぉぉ!」

 

 スラッシュダガーを弾き、そのままオルタナティブにモーニングスターをぶつけた。

 

 スラッシュダガーを落とし、オルタナティブ自身も若干よろける。

 

 「まさかここまで…」

 

 「何だ。ここまで追い込まれてるのがそんなに意外か?嘗めるなよ、俺たちを。いつまでもお前の計画通りに行かせるか」

 

 「クックック…」

 

 その言葉に晴人は低く笑った。滑稽だと言わんばかりに。

 

 「何がおかしい!?」

 

 「いやいや、ごめんごめん。そうか、俺たちの掌の上に居るのがそんなに嫌だったか。だけどごめんね~。この状況、ほぼ全て計画通りなんだわ」

 

 ―――――――――は?

 

 ちょうどその頃、芝浦は懐から"あるもの"を取り出して右手首に付けた。

 

 「上出来だ。初陣には丁度良い」

 

 そして後ろに空いている穴に、グリーフシードをセットした。そして前方の突起部をサーペントアンデッドに向けると、

 

 「ホラよ!」

 

 黒い霧をアンデッドに向かって噴射した

 

 「ガァ!あっぐぐゥォXG」

 

 サーペントアンデッドは突然頭を抱えて苦しみだした。そして、ガイを睨むと飛び掛かった。

 

 「うお!」

 

 ガイは咄嗟に下に避ける。失敗したかと一瞬思ったが―、

 

 「いや、成功だ」

 

 サーペントアンデッドはガイに攻撃を仕掛けるのではなく、その後ろで戦っていたゼール軍団とジェリーフィッシュアンデッドとゼブラアンデッドの戦いに飛び込んだ。援護に行った訳では無いのは明白だった。何故ならそのアンデッドはモンスターだけでなくジェリーフィッシュアンデッドにも攻撃をしてきたから。まるで、獣のように、目に見えるモノ全てを敵として見ているようだった。

 

 「ヘッ!」

 

 自由になったガイは、今度はサイコローグと戦っていたバットアンデッドに先ほどのモノを向けると、再び黒い霧を噴射した。サーペントアンデッドと同様に頭を抱えて苦しんだと思えば、モンスターと、別のアンデッドも見境無しに攻撃し始めた。続けてジェリーフィッシュアンデッドとゼブラアンデッドにも同じ事を。

 

 攻撃対象には当然レンゲルも入っていて、バットアンデッドはレンゲルに飛び込んだ。

 

 「ぐわぁ!!何でこいついきなり…!」

 

 突然の事にレンゲルは対応する間もなくバットアンデッドともみくちゃになり倒れた。すぐにラウザーで引き剥がした。

 

 「いきなり何だ!?」

 

 「クックック…やったぞ!成功だ!これなら行ける!おっと!」

 

 高笑いをする晴人に反応し、ゼブラアンデッドが飛び出してきた。

 

 「うまくいったはいいが、これは面倒だな」

 

 「お前、何をした!?」

 

 「やったのは正確には芝浦だが…まぁ良い。説明したいのは山々だが、こいつらが暴れまわってる中でするのは面倒なんで、そいつはまた今度だ」

 

 サイコローグがレンゲルを攻撃対象にして向かってきた。

 

 「お前はそいつらの相手してろ」

 

 「なっ!クソ!」

 

 「さて、俺はこのまま…ん?」

 

 そこに、モールアンデッドが割り込んできた。

 

 「ったく、まだいたのか。芝浦!」

 

 「ハイハイ。ったく、人使い荒いぜ」

 

 もはやそんな障害など、何とも感じていないようだった。当然だ。襲い掛かってくるアンデッドはモンスターの側にでもどかせば、それの矛先はモンスターに変わるのだ。近くの敵にしか反応しなくなった敵など、いくらでも対処できる。ガイはゆっくりと発射口をアンデッドに向けた。

 

 「うりゃぁぁぁぁ!!!」

 

 と、そこに、舞花が飛び込んできた。

 

 「なっ!」

 

 「これ以上、あんたらの思い通りにはさせない!」

 

 そう言うと、ガイが右手首に付けていたモノを外そうと手を伸ばした。

 

 「こんの鬱陶しい!」

 

 「キャッ!」

 

 すぐにガイに振りほどかれて、千翼は地面に落とされた。しかし、その間にモールアンデッドはオルタナティブと黒い霧が届かない場所まで移動しながら戦闘を行っていた。

 

 「馬鹿な女だ俺たちの狙いはお前らだぜ?あんな怪物守っててめぇが出てきたら本末転倒じゃねぇか。さっさと逃げればいいものを」

 

 「舞花!早く逃げろ!」

 

 ガイの目の前に立ちふさがった舞花を目にし、睦月は叫んだ。そんな睦月の叫びを舞花は無視して言った。

 

 「逃げる?それはできないわね。私はね、決めたのよ。あの子が守ったモノを、これからは私が全力で守るんだって」

 

 この時、舞花の脳裏には小夜の姿が浮かんでいた。皆が絶望している中、一人飛び込み、満身創痍になりながらも必死に食らいついた彼女の姿が。

 

 彼女が守ったモノ。それは舞花、なぎさ、愛矢だけでなく睦月も入っている。仮に逃げ出しても睦月一人では暴走したアンデッドとライダーとモンスターの相手は分が悪い。無理だ。

 

 「守る…ねぇ。だったら、今回はあんたに決定だ。高見沢!後は頼むぜ!」

 

 そう言ってガイは丸い鏡を投げた。その鏡の中からベルデのバイドワインダーが舞花に向かって伸びていき―

 

 気が付くと、舞花の体は後ろへ後ずさっていた。怖くなったからとかではない。誰かが肩を掴んで後ろへ押したのだ。その人物は、舞花を守るように、否、守るために前に立ち塞がった。

 

 ごめんね。小夜が守ったモノをこれからは私が全力で守る。それは私も同じだから。

 

 「愛矢!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 なぎさがそう叫んだ時には、愛矢の体はバイドワインダーに巻き付かれ、鏡の中に吸い込まれていっていた。

 

 「おいおい、見せてくれるねぇ。最後まで。だけどまぁ、任務完了だ!!!!!!行くぞ!」

 

 「待って!!」

 

 なぎさと舞花が急いで飛び出していったが、ガイは高くジャンプしてそれを振り切る。

 

 「じゃあな」

 

 そう言うと立てかけてあった鏡に入っていき、追いかけてこれないようにすぐにその鏡を割った。

 

 「愛矢!!?クソッ!!!!!!!!!!!!」

 

 レンゲルはモーニングスターでサイコローグを牽制すると早く辿りつけるようにとジャックフォームを解いてすぐに屋敷の鏡の元に向かって走った。

 

『ACCEL VENT』

 

 しかしそれも高速化したオルタナティブに斬られて叶わなかった。

 

 「ダメダメ。関係者以外は立ち入り禁止だよ」

 

 その間にもインペラーとそのモンスターもどんどん鏡の中に入っていき、次々と窓が割れていく。

 

 「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 レンゲルはラウザーでオルタナティブに斬りかかったが、

 

 「ジャックフォームになっていなければ、お前なんて赤子の手をひねるようなモノなんだよ」

 

 「ぐわぁ!」

 

 スラッシュダガーによってラウザーごと押し切られ胴体をばっさりと斬られた。上へ弾け飛び、そのまま地面に倒れこむ。

 

 そんなレンゲルの横をオルタナティブはただ通り過ぎた。

 

 「愛矢を…返せ…」

 

 痛みをこらえて立とうとしながら睦月は言った。

 

 「安心しろよ。殺すつもりはないから。ただ実験のために必要なだけだ。―最も、結果次第では死よりもむごい結末になるかもしれないが―」

 

 「おい!それってどういう―」

 

 オルタナティブは最後の窓ガラスの中に入り、それはすぐに割られた。

 

 気が付くと、モンスターの姿は一匹も無く、睦月が解放したアンデッドもモールアンデッド以外は全て本能のまま散らばってしまい、先程までの戦闘が嘘のように静まり返っていた。

 

 「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

 

 睦月は拳を地面に押し付けてただ怒り叫んだ。なぎさと舞花はまた守れなかった事を悔やみ涙を流していた。

 

 クインテットは、二度目の敗北を迎えた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「私を、どうする気?」

 

 高見沢グループが所有する施設の一つ。その中の一室で愛矢はロープで完全に縛られた状態でいた。

 

 「ちょっとした実験だよ、愛矢、これは何か分かるかい?」

 

 そう言って晴人は愛矢の前にあるモノを見せた。

 

 「グリーフシード…」

 

 「その通り。これはお前らから奪ったのとはまた違うところからいただいたモノなんだが、この魔女には自身の嫌な記憶を引きずり出す能力があるらしいんだわ」

 

 次に晴人は先程までガイが取り付けていた装置を見せた。

 

 「こいつは、ウィッチバイザーと言って、俺と、ここにいる芝浦の二人で共同開発した装置だ。こいつは、グリーフシードをセットすることで、その魔女が使ってた魔法を自在に使うことができる。さっき、睦月が出したアンデッドが急に暴走し出したのもこれのお陰さ。大方、自分が封印された頃の記憶でも戻ったんだろうよ」

 

 そして晴人はグリーフシードをウィッチバイザーにセットした。

 

 「さて、じゃあこのてめぇの黒歴史を呼び覚ます魔法を、記憶喪失のお前に使ったら、果たしてどういう成果が得られるかねぇ?絶望して廃人になるか、それとも―」

 

 「待って!嫌!嫌!!!」

 

 「じゃ、いってらっしゃ~い」

 

 「待って!止めて!嫌!!!!!!!!!」

 

 愛矢の叫びもむなしく、彼女の体は黒い霧に包まれていった。

 

 たちまち、針で刺されたかのような鋭い痛みが頭の中で広がっていった。何かが、彼女の中に入っていく。

 

 止めて…来ないで…私の中に入ってこないで…

 

 沈む。沈む。沈む。沈む。沈む。沈む。沈む。沈む。

 




9月1日

 ほとんどの小中高等学校で二学期が始まる日。そして同時に、転校生がやって来るのが比較的多い日でもある。

 私も、例外では無かった。と言っても、親の転勤が理由では無い。家庭の事情というのが…半分の理由だ。

 憂鬱だ。もう何度目だろうか。数えるのも面倒くさい。もう期待を持つことにも疲れた。どうせここも同じだ。

 「今日は皆に、転校生を紹介します。徳山さん、入ってきて!」

 先生に呼ばれて、私は教室の中に入った。たちまち起こるざわめき、囁き声。

 ねぇ、あの子って…、マジで!?、何で内の学校なんかに…

 先生が慌てて皆が静かになるように呼びかける。

 そんなことしなくても大丈夫ですよ、先生。もう慣れっこですから。やっぱりここも同じだった。

 そう思った私は、ホワイトボードに自分の名前を書くとただ機械的に、淡々と

 「徳山愛矢です。よろしくお願いします」

 そう、自己紹介をした。
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