わがままなお姫様は、そのまま塔の上から落っこちてしんでしまいました。 おしまい
女の子は泡になって溶けてしまいました。地面にはちいさな染みだけが残りました
おしまい
王様は灰になって、王国は砂に埋もれました。 おしまい
さようなら さようなら もう二度と、会うこともありませんでした。 おしまい
なぎさは昔から不幸なお話をよむのが好きでした。お話を読むだけで、心が軽くなったような気がするから。農民も、お金持ちも、嘘つきも、誰もろくな目に遭わず、それでも最後に”おしまい”が付けば終わり。それだけでなぎさは、自分が救われた気になっていました。
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もういつだったか分からない、失われた時間。見滝原市のある所に百江なぎさという少女がいました。
百江なぎさは学校が終わり家に帰っていると、目の前が不思議な空間で覆われ、大きな怪物が現れました。そこに一人の魔法少女と不思議な不思議な白い生き物が現れて、あっという間に怪物を倒してしまいました。
白い生き物は言いました。
「百江なぎさ、僕と契約して、魔法少女になってよ!」
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ある日の放課後、なぎさは先生に呼び出された。
「本当なの?なぎさちゃん?お母さんが…なぎさちゃんに…?でもそれって、なぎさちゃんが何か悪いことをしたからとかじゃないの?ほら、よく思い出して」
なぎさは少し考えて言った。
「そうだったのです。なぎさがお皿を割ったからお母さんに怒られたのです」
それを聞くと先生は安心したように笑って、
「そう、じゃあ先生からもなぎさちゃんは反省していたって伝えておくね?」
と言った。だけどなぎさは首を横に振って、それは良いと言うと教室を離れた。先生は、酷く心配しているようだったが、なぎさにはそれが少し、めんどくさく感じていた。
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「やぁ、なぎさ。学校の帰りかい?」
なぎさは深くため息をついた。同じ時間、同じ場所で同じ言葉を掛けられるので、いい加減うんざりしていた。
「動物、またお前なのですか?」
「僕はキュゥべえだよ」
このキュゥべえは初めてなぎさが魔法少女を見たときに彼女が連れていたモノだ。元々はその魔法少女をサポートしていたのだが、もう大丈夫だと言い、以来なぎさを契約させるためにしつこく付いてきていた。
「魔法少女になる話、考えてくれたかな?」
「なぎさには信じられないのです。自分が魔法少女になれるなんていうことが」
しかし、なぎさは中々首を縦には振らなかった。どうしても信じられなかったから。自分が魔法少女になれるということも、それ以上に魔法少女が存在するということも。
なぎさにとって魔法少女とはアニメの中のお話だった。魔法少女をいつまでも信じているほど、なぎさは子供ではない。だから、いきなりそれは違うと言われ、自分もその世界に行けると言われ、なぎさは少し混乱していた。
「にわかには信じがたいことであることは認めるよ。だけど君だって見ただろ?実際に戦っている彼女の姿を。僕は嘘なんてついていない。魔法少女は現実に存在していて、君もそれになれる素質があるんだよ」
キュゥべえが話しているのを聞きながら、なぎさは家に向かって歩きだした。キュゥべえも後から付いてくる。これもいつも通りだ。初めは付いてこないでと意思表示していたのだが、構わず付いてくるのでいつの頃からか諦めていた。
「だったら、もう一度その魔法少女に会ってみたいのです」
「そうしたいのは山々なんだけど、その魔法少女は見滝原の子じゃないからね。呼び寄せるのは難しいし、何より別の縄張りの子が見滝原をうろうろしてたら不要な争いを生みかねない。グリーフシードの事は話しただろ?」
なぎさはこくんと頷いた。魔女の卵の事だ。
「魔法少女にとってグリーフシードはとても大切なモノなんだ。だからそれを巡って魔法少女同士の争いが起こるのはしょっちゅうなんだ。通常は町区分で縄張りを決めているから大丈夫なんだけど、もしも別の縄張りの子が戦おうモノなら戦争行為とみなされていさかいが起こる。僕も、魔法少女が減る事は本望じゃない。君を助けた時、あの子の周りに誰もいなかったのはラッキーだったんだよ」
「…………………」
「だから今は本来のここの縄張りの子にコンタクトを取っているんだけど、彼女は少しやる気に欠けていてね、中々僕の話を取り合ってくれないんだよ」
そんな事を話している間になぎさは自分のアパートに着いた。
錆び付いた階段を一段ずつ上がり、いつものように鍵を開ける。既に日は落ち、家の中は暗くなっていた。なぎさは電気も点けずに玄関に上がり、パンパンになったゴミ袋の横をすり抜け、適当な場所にランドセルをおろしてソファに座った。
キュゥべえもピョコンとテーブルの上に乗った。
「それに、魔法少女になれば何でも一つだけ願いを叶えてあげられるんだよ?」
いつもキュウべえは最後にこの話を持ち掛ける。だけどなぎさは、そもそもそれが分からなかった。
「願い…なぎさにはお願いなんて無いのです」
「おかしいな。大抵の子はその話を聞いたら二つ返事で契約してくれるんだけど。願いを叶えてくれるっていうのは、殆どの子に取っては喉から手が出る程欲しいモノなんだよ」
「そもそも、"願い"とは何なのですか?」
なぎさは尋ねた。
「"願い"とは何か…か」
キュゥべえが珍しく答えに迷った。キュゥべえには感情が存在しないから、その概念が無かったからだ。
「それは僕たちより、君たち人間の方が詳しいと思うけど、そうだね…」
だからキュゥべえは、今まで契約を交わした子を機械的に分析して答えを出した。
「君たちの言葉で言うところの"欲望"というヤツさ」
「"欲望"…」
「何かを欲するということだよ。別に物じゃなくても良い。何だって構わない。現在降りかかってる不幸を帳消しにして欲しいと望んだ子もいるし、知力や財力の向上を願った子もいたし、過去の罪の精算を望んだ子もいた。なぎさにもあるだろう?そんな"何かを欲しい、満たされたい"と思う物が」
「別に、なぎさには無いのです」
なぎさは淡々と言った。
なぎさは、"何かが欲しい"と思う事は悪い事だと考えていました。なぜなら、絵本に書いてある悪役のほとんどが、"何かを欲しい"と思った為に大変な事になったからです。
「木こりの泉」では、意地悪なおじいさんが金の斧と銀の斧を欲しいと思った為に、自分が持ってた鉄の斧を最後には失いました。
「サルかに合戦」では、柿の木を欲しいと思ったサルが悪さを働き、最後にはカニと栗とハチとうすによって痛い思いをさせられました。
「舌切り雀」では、欲張りなおばあさんがお金が欲しいが為にスズメから大きいつづらを強引に受け取り、中に入っていた怪物に食い殺されました。
だから、いつも絵本を読んで過ごしていたなぎさにとって”欲望”とは、幸せのモノではなく、不幸になるモノだと考えていました。なぎさは不幸になりたくありません。
「説明されてもピンと来ないのです」
だからなぎさは乗る気になれなかった。
「それに、何かを願うということは、まるで今に不満があるみたいなのです」
「例えば君の栄養状態は芳しくない」
そしてキュゥべえは辺りを見渡して続けた。
「電灯も劣化しているし部屋はゴミだらけ。裕福とは言えない所得。さらに君の対人、集団内での状況。地域の平均を下回っているこれらの状況を"不満"という言葉で言い表すなら、願うべき事柄はたくさんあると思うんだけど」
「随分な言われようなのです」
だがなぎさは否定しなかった。
なぎさには休日に一緒に遊ぶような友達はいないから他の家庭がどんなモノなのかは知らない。だけど、他の家が自分の家と同様にゴミ袋があちこちに散乱していたり、ご飯がコンビニ弁当やチーズで済ましている訳は無い事は分かっていた。
「キュゥべえから見て、なぎさに一番必要な願いは何なのですか?」
「それは難しい質問だ。僕と君たち人間とでは価値の基準が異なるからね」
「別にキュゥべえの意見じゃなくてもいいのです。今までたくさんの人と契約してきたなら、なぎさと似たような子もいたと思うのです」
「僕が伝えた所で君は納得しないと思うよ?」
「いいから言ってみて欲しいのです」
キュゥべえは自身のネットワークを使って今まで契約してきた人間の分析を始めた。
なぎさと似たような境遇・性格・社会的背景を考えると、それは虐待やいじめなど、社会の理不尽さを身を持って経験した人に当たる。なぎさの場合はそれにプラスして、非常に冷めた性格をしているので、それを踏まえた上で導き出される結論は―、
「“特定の人物からの関心・好意を得たい”。あえて君たち風に言うのなら、“愛が欲しい”といったところかな」
「………なぎさはもう十分愛されているのです」
「だろうね」
確かに納得いかなかった。
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見滝原市、某所
「やっと見つけたよ。君は最近、僕の事を避けているようだったからね」
「キュゥべえ…」
「前にも話したけど、この町に魔法少女の素質のある少女がいる。彼女の為にも、ぜひ一度会ってほしいんだけど…」
「またその話…だから言ってるでしょ!?私は教育係をする気は無い。迷ってるなら契約なんてさせなきゃいいのよ!魔法少女なんて増えたらグリーフシードが集めにくくなるじゃない!魔法少女は私だけで十分なのよ!」
最近はキュゥべえと顔を合わせればその話ばかりでいい加減うんざりしていた。
「そう考えるならもっとその魔法少女の本分に力を注いで欲しいものだよ。君が最後に魔女を狩ってから既に10日と13時間だ。他の地域の魔法少女と比べても君のそのペースは彼女たちの平均を遥かに下回っている。君がショウという男に好意があるのは分かるけど、その熱意を少しでも魔法少女のために使わないかい?」
「あなた、なぜそれを…」
キュゥべえの口から予想外の単語が出たので彼女は目を見開いた。
「そりゃ僕だって、君のプライベートにまで首を突っ込みたくないけど、君が魔法少女の仕事をおろそかにしているならその原因を調べるのは当然じゃないか。さっき君はグリーフシードを理由に候補の子と会わないと言ったけど、本音はそれじゃないだろ?教育ともなれば、そのショウという男にあげるお金を手に入れる時間が減ってしまうからね。しかし分からないよ。何故君はそのショウという男に好意を抱くのだい?僕が調べた限りだと、あの男は相当―」
「あの人の事を悪く言わないで!!!!!!!!!!」
彼女は声を荒げてキュウべえの言葉を遮った。全てを見透かしたような言動。彼女はキュゥべえの全てにイライラしていた。だから会いたく無かったんだ。そして、サッとキュゥべえに背を向けると急ぎ足で歩き出した。
「魔女は今日倒すから!バイト終わったら必ず!だから会わない!私は、今忙しいの!!」
「…………」
キュゥべえは彼女の背中を見るだけで、後を追おうとはしなかった。
チラリと見えたグリーフシードが、どんよりと濁っていた。
続く
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
さて、マギレコユーザーの方ならご存知かもしれませんが、今回のお話はマギレコのイベント「百江なぎさは願いを叶えた」をレンゲル風にアレンジした内容になっています。
良い機会ですので補足しますが、この仮面ライダーレンゲルはマギレコには一切繋がりはありません。
悪魔で、アニメのまどか☆マギカとのクロスオーバーです。
よろしくお願い致します。