祝え!初変身の瞬間を!
右、左、右、右、下…、次々と飛んでくる丸い生き物をとにかく避ける。飛んでくる方向が分かるとかそんな超人みたいなことは無い。全て反射的に避ける。つまり勘だ。火事場の馬鹿力のようなもので、当たったら死ぬという思いから全身の感覚が研ぎ澄まされているだけのこと。
ドームから出ようとしたが、入口のドアはどこにも見当たらなかった。ドームを3周してようやく分かった。これはネズミ捕り。人間というおおきなネズミを捕らえるための罠だ。見慣れない空間に延びる一本道、その先にある明らかに異質なドア。そこに広がるは無限のお菓子。そうして獲物を引き寄せればこっちのものと息の根を止めようと住人が迫る。
この状況を打破するには、この妙な生き物を倒すしかない。だけど、どうやって?武器は無いし、仮にあったとしても今は逃げるのが精一杯だ。
そんなことを考えている時、睦月はクリームの段差につまずいて転んだ。反動で、ポケットに入れていたバックルとカードを入れたケースが転がる。
それを見た時、ふいにあの時見た夢の内容を思い出した。
「今、この世界で、いや、他の全ての世界に危機が訪れている」
「それを救うことができるのは睦月君、君だけだ」
まさか、世界の危機というのはこの化け物のことなのか?そして、それと戦えるのが俺だけだと?でも、どうやって?このベルトを使うにしても、使い方はー
………いや、俺は、使い方を知っている。
今までは思いつかなかったのに、今はこのバックルの使い方がどんどん頭の中に入ってきている。
そう思ったとき、睦月はカードとバックルを持って起き上がった。
今なお迫ってくる丸い生き物を避けながら、バックルの厚さ方向の中央部、そこを横にスライドさせる。そこにカードと同じ大きさのくぼみがある。そこに蜘蛛の絵が描かれたクラブのAを入れてスライドさせ、それを腰の辺りに持っていく。するとバックルから紫色のカードが飛び出し、それがベルトのように睦月の腰に巻きついていく。
前から丸い生き物が迫っていた。しかし、今度は睦月は避けようとはしなかった。バックルの中央部に手を添え、そして叫んだ。
「変身!!」
『♧Open Up』
目の前に蜘蛛の絵が描かれた紫色のカーテンのようなものが飛び出した。目の前に迫ってきていた生き物はその衝撃で吹っ飛ぶ。睦月はそのカーテンをくぐりぬけた。睦月は全く違う姿になった。
緑色のスーツに金色のアーマー、胸にクローバーのマークが彫られている。頭部には紫を基調とした複眼。そこから金色のラインがいくつも伸びていて、まるで蜘蛛のような形をしていた。
仮面ライダーレンゲルの誕生である。
レンゲルは側から頭部がクラブの形をしている杖型の武器-レンゲルラウザーーを取り出した。
右、左、右、右、下…次々と飛んでくる丸い生き物をレンゲルラウザーで薙ぎ払う。
今度は勘ではない。飛んでくる方向が目で追える。変身してから、身体能力が一気に向上したのだ。故に、改めてドームの中の様子を観察する余裕ができた。そして、あることに気が付いた。
この丸い生き物は無作為に配置されてるように見えて、実はドームの中央部、正確にはそこに刺さっているピックの上に置かれた、頭に頭巾をかぶったくたびれた人形のようなものを守るようにして配置されていた。
あれが本体だと確信した睦月は、一気に中央部へ駆ける。途中で迫ってくる生き物を次々と薙ぎ払い、ピックの上部目指してジャンプ。そして目の前にある人形めがけて渾身の力をこめてレンゲルラウザーを突き出した。勝ったと思った。
すると、今までぴくりとも動かなかった人形の顔が大きく動いた。口を大きく開け、中から別の生き物が飛び出してきた。それは黒を基調とした長い胴体を持ち、そこに赤い水玉模様。顔は白く、鼻は長い。目元には黄色い隈取のようなものがあり、赤と青の羽を付け、終始笑みを浮かべたまるでピエロのようないでたちだった。
お菓子の魔女 シャルロッテ
それが大きく口を開け、睦月の後ろから迫って来た。
空中で動きが制限されていた睦月はレンゲルラウザーを大きく横に振り、牙をはじく。なんとかその衝撃で再びタルトの床に着くことに成功した。しかし、蛇のような生き物は尚も迫ってくる。
何とかレンゲルラウザーで反撃しようとしたが、相手は大きく、今まで戦っていた生き物と比べて力が圧倒的に強かったので、決定打を浴びせることはできない。目前に迫る『蛇』の軌道を変えることがやっとだ。
いくら身体能力が上がったと言っても限界はある。このままではいずれこちらの体力が尽きる。
どうすると考えあぐね、ふと右を見ると、カードホルダー(先ほどまでしまっていたケースとはデザインが違う)が付いているのが見えた。
そして、手に持っているレンゲルラウザーにはカードをスキャンするためのくぼみが付いている。睦月は、これらの意味することも既に知っていた。
そして何の迷いもなく、ホルダーから一枚カードを取り出して、レンゲルラウザーにスキャンした。
『♧2 STAB』
そして、目の前にやってくる『蛇』にラウザーを突き付けた。今度は効果があった。大きくてタフにも関わらず、大きく体をのけ反らせる。間髪入れず、今度は胴体にラウザーを思い切りたたきつけた。衝撃で蛇の体はドームの壁に叩きつけられる。クラブの2には、レンゲルラウザーの威力を増大させる力があるのだ。
そして睦月はとどめにラウザーを胴体に突き付けた。そして『蛇』はやられた、わけではなく、『蛇』の口からまた新たな『蛇』が現れた。まるで脱皮だ。『蛇』は上から睦月目がけて口を大きく開けて突進してきた。睦月はそれをジャンプしてかわす。
「しつこい。だったら」
と睦月は再度ホルダーに手を伸ばし、2枚のカードを取り出した。
『♧6 BLIZZARD』 『♧3 SCREW』
『ブリザードゲイル』
そして、手から吹雪のように強い冷気を出し、再び突進してきた『蛇』を凍らせる。
「これでとどめだ」
『♧4 RUSH』
そして睦月は高くジャンプし、レンゲルラウザーを大きく振り、凍った『蛇』の胴体に思い切り叩きつけた。柔軟性の無くなった『蛇』は粉々に砕け、遂に元に戻らなかった。
ドームはなくなり、空間は跡形もなく消え、睦月は元の帰り道に立っていた。
睦月はバックルを閉じ、変身を解いた。そして腰から崩れ落ちた。ドッと疲れが押し寄せたのだ。
「何だったんだよ、今のは」
さっきまで自分の身に起きていたことが全く信じられなかった。いつも通りの帰り道にも関わらず気が付くと見知らぬ空間にいて、そこに棲む生き物に襲われた。バックルをどう使うのか今まで全く分からなかったのに、それが頭の中に入ってきて、手に入れた強大な力を自在に扱う。そんな漫画のようなことがなぜ自分にできたのか、見当もつかなかった。
これが夢で言っていた世界を救う力なのか?無理だ。さっきだって怖かった。死んでてもおかしくなかった。あんな思いを何度もするなんて耐えられない。
しばらくそこでじっとしてから、睦月は大きく息を吐き、とりあえず帰ろうと立ち上がった。そして足元に、見慣れないモノが落ちているのに気が付いた。
全体的に黒く、ピンポン玉くらいの大きさで異様な模様が彫られてあり、そこの中心部にピックのようなものが貫いてあり、明らかに異質だった。あの『蛇』に関係のあるモノだというのは直観で分かった。
戦うにしても戦わないにしても、あの妙な生き物について何も知らないのは嫌だと思い、何かの手掛かりになると信じてそれをポケットにしまい、その場を後にした。
続く
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
質問・感想等お気軽に書いてください。
質問は答えられる範囲でできるだけお答えしようと思っています。
次回もお楽しみに!