仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

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今回は、これから投稿する話を入れても一二を争うほどの重要話。

さぁ、講義のお時間をどうぞお過ごしください。


第35話 シグナル

 チョコレート、クッキー、シュークリーム、ビスケット、タルト、プリン、マカロン、アイスクリーム

 

 

 「なぎさちゃん…なぎさちゃん…しっかりして…」

 

 

 ここにもそこにもあそこにも、お菓子がいっぱいお菓子がいっぱい。

 

 

 「大丈夫、大丈夫だから…」

 

 

 でもあれだけが見つからない。大好物なのに見つからない。どこどこどこどこ私のチーズ。

 

 

 「お願いだから…目を開けてよぉ……」

 

 

 探して見つけたのはチーズじゃなくて、世にも珍し動くお菓子。

 

 

 

 「大丈夫。俺がついてるから」

 

 

 チーズでは無いけれど、おいしいのかな?いただきます。

 

 

 「大丈夫。もう大丈夫だから…」

 

 

 バリバリボキボキバリバリボキボキ

 

 

 「! なぎさちゃん!」

 

 

 あぁ、なんだ。

 

 チーズよりもおいしいじゃないか。

 

 

 「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 「なぎさちゃん!」

 

 ずっとうなされていたなぎさが一際大きい叫び声を上げると同時に目を覚ました。なぎさは、ベッドの上に寝かせられていた。

 

 息を荒くしながら、なぎさは目玉だけを動かして辺りを見渡した。初めは天井を、次に睦月を。

 

 「なぎさちゃん…良かった…良かったぁぁぁ…」

 

 睦月はそう言って崩れ落ちた。あの戦いから既に2日が経過していた。

 

 なぎさが目を覚ましたのを見て睦月は安堵の表情を浮かべた。そんな睦月を余所に、なぎさはゆっくりとベッドから起き上がった。

 

 「なぎさちゃん、大丈夫なのか?そんなすぐに動いちゃ」

 

 パンッ!

 

 ……………………………………………………えっ?

 

 起き上がろうとしたなぎさを睦月はすぐに支えようと手を伸ばした。その手をなぎさは勢いよく弾いた。完全に拒絶するように。

 

 「なぎさちゃん…?」

 

 ここでようやく、睦月はなぎさの異変に気付いた。いや、気付いていたけど見て見ぬふりをしようとしただけなのかもしれない。このまま一昨日の出来事は水に流れればいい。そんなずるい思いから。だけど、現実は待ってくれない。睦月は、なぎさの様子にそんな間抜けな言葉しかしか口にできなかった。

 

 「睦月、なぎさは、全部思い出したのです。魔法少女になる前のなぎさの事を」

 

 なぎさは睦月と目を会わせる事なく、ただ布団の一点を見つめながら言った。

 

 「なぎさは、誰にも必要とされていなかったし、愛されてもいなかった。願いを叶えて貰っても、全部失敗だったのです」

 

 布団をギュッと握りしめながら彼女は続けた。

 

 「それでほとんど魔女を倒す事なくただ魔女になって人を食べていた。なぎさは、そんなダメな人なんだって分かったのです」

 

 「なぎさちゃん、それは…」

 

 「うるさい!!!!」

 

 なぎさの声に睦月は怯んだ。今まで、ここまで悲痛な叫びを聞いたことが無かった。

 

 「睦月、言ってたですよね?なぎさは人間だって、普通の女の子なんだって。だから大丈夫だって」

 

 「それは…」

 

 その通り、とは言えなかった。だって、2日前に見たあれは…

 

 「嘘つき…」

 

 ボソッと、なぎさはそう呟いた。

 

 「なぎさは、人間じゃ無かったじゃないですか」

 

 普通の人間なら、分かる訳がない。何かが自分の中から飛び出してくる感覚なんて。

 

 そして、

 

 人間の味なんて。

 

 記憶を取り戻した事をきっかけに、なぎさの中でそれらは鮮明な記憶になっていた。

 

 心臓には少し甘味があって美味しいとか、目玉はヨーグルトのようなスッキリした味わいがあったとか。

 

 そっと唇に触れた瞬間、それらが一気に流れ込み、なぎさは異様な吐き気に襲われた。

 

 「なぎさちゃん!」

 

 異変に気付き、すぐに支えようとするが…

 

 「触らないで!!」

 

 なぎさにそれを断固として拒否された。また手を弾き返されてしまった。

 

 なぎさは吐き気をなんとかこらえながら言った。

 

 「もう、うんざりなのです」

 

 初めてあの夢を見た時からずっと思っていた事だった。だけどその度に睦月の言葉を思いだし、何とか平静を保っていられた。

 

 だけど、愛矢が自分が魔女だった事を知り心が折れそうになっていた時、少し羨ましいと思った。自分もああいう風に吐き出したいと思った。だけどそれをすると睦月が悲しむから。だから、何とかその欲望を抑え込んだ。

 

 だけど、もう限界だった。

 

 今まで耐えられたのも、どこか夢心地であった事も大きかった。物語で言えば、起承転結の「起」を失ったのと同じだ。

 

 夢だってそうじゃないか。眠っている間、唐突にその世界に放り込まれ、疑似的な感覚を体験するが、目覚めればそれは全て終わり。眠っている間に見た世界とは完全に断絶されている世界に帰り、そこで確かな感覚を積み重ねる。

 

 そう。例え自身が魔法少女から魔女になった記憶を持っていたとしても、なぎさにとってのそれは悪夢の延長だとまだ割り切る事が出来たのだ。

 

 もちろんそれは事実であり、確かな過去であった事は分かっている。だが、始まりの記憶を持っていない以上、その逃げ道に行く事も本当に僅かだが可能にしていた。

 

 だが今はどうだ?百江なぎさは、かつて自身が体験した物語の「起」を獲得してしまった。それは、他の「承転結」と繋がり、一本の線となり、それは悪夢から完全な現実にへと昇華した。

 

 それは今もなお頭の中でワンワンと鳴り響く。眠っても起きてもそれから抜け出すことは出来ない。

 

 「こんな想いをする位なら…」

 

 自分の過去、自分の過ち、魔女の感覚。それらを鮮明に思い出す位なら…

 

 ここで初めてなぎさはベッドから顔を上げ、睦月に潤んだ瞳を見て言った。

 

 「なぎさは、助からなければよかった!!!」

 

 「―――――!」

 

 それをきっかけになぎさの感情が爆発した。目覚まし時計、キーホルダー、とにかく手近にあるものを全部睦月に投げつけた。

 

 「出てって!出てって!もう放っておいて!!!」

 

 それに追い出される形で睦月は部屋を出た。

 

 一言も言葉を掛ける事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クインテットの中に重い空気が流れた。小夜と千翼の関係が悪くなった時よりも遥かに重い空気が。

 

 せめて何か口に入れて欲しいと睦月はお粥を部屋に持っていったが、ベッドに潜り、ただひたすらすすり泣いていたなぎさに掛ける言葉が見つからず、そっとお盆を置いて部屋から出た。

 

 

 

 

 なぎさは時間などとうに忘れて、ただただ泣いた。何が悲しいのか、それすらももう分からない程、頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。

 

 『いつまで泣いてるつもり?』

 

 ふと、頭の中で声が聞こえた。誰の声か、一瞬分からなかった。幻聴かとも思い、再びベッドにうつ伏せになろうとしたが、

 

 『窓の外、見て』

 

 再び声が。

 

 なぎさは言われるがまま、カーテンを開けて覗きこんだ。既に時刻は深夜2時を廻っていて、部屋は真っ暗だった。

 

 クインテットの入口にある柵、その近くに仮面ライダーキックホッパーの姿があった。愛矢だった。

 

 『ちょっといい?話がある』

 

 いきなりの事で、なぎさは何も答えられなかった。

 

 『大丈夫。今は何もしないから―というか、何かするつもりなら話しかけたりしないわよ』

 

 『どうせ怪物に見張りでもさせてるんだろうって晴人が言ってたから。だから、ちょっと出てきて。睦月には内緒で』

 

 なぎさは少し考えたが言われるがまま、あちこちに散乱した物や既に冷めきったお粥のお盆の横を通り抜け部屋を出た。何か期待していたのだろうか。

 

 そっとダイニングを覗くと睦月がうつ伏せになって眠っていた。その横を静かに通りすぎ、玄関の扉を開けて外に出た。

 

 「来たわね。久しぶり…でもないか」

 

 なぎさが自身の目の前にやってきたタイミングで愛矢は変身を解除した。

 

 「それにしても驚いたわ。私は変身しないとこの力は使えないのに、あなたはそんな事をしなくても使えるのね。やっぱり、一昨日のあれが原因なのかしら」

 

 「…………………」

 

 なぎさは何も答えなかった。

 

 「…って、その話は後でいいか」

 

 自身がテレパシーを使えた事になぎさは驚いていない様子だった。泣き腫らした目を見て、それすら気を張れない程追い詰められている事は容易に想像がついた。

 

 「今日まで私はずっと待ってたのよ。あなたが目を覚ますのを。そして目を覚ましたからね。案の定、全部思い出した感じね。私もそうだったから。今日はね、提案を持ってきたのよ」

 

 「…………………」

 

 特に反応が無かったが、愛矢は構わず続けた。

 

 「あなたが今感じてるそれ、もう一回全部忘れられるとしたらどう?」

 

 「…………………」

 

 「自分が魔女だった事も、その前の自分も全部忘れてまた1からやり直すの。私は、それがやりたくて、晴人と手を結んだ。あなたも―」

 

 「そんなのどうでもいいのです」

 

 なぎさは話を遮って言った。

 

 「そんな事、全部どうでもいいのです。そんな話をする位なら、なぎさを殺して欲しいのです」

 

 「…………………」

 

 長い沈黙が流れた。

 

 そんな沈黙の後に愛矢は大きくため息をつき、そっと柵にもたれ掛かった。

 

 「言ったでしょ?今日は何もしないって。死にたいなら、私に頼らず勝手にしなさいって感じ。今日はただ話をしに来た。それだけよ。それにしても殺す…か。私たちにはそういう概念が無いこと、あなたはまだ知らないのね」

 

 「…えっ?」

 

 なぎさは初めて愛矢の話に興味を示したようだった。そのこと愛矢は気付き、話を進めた。

 

 「全部、私の話と晴人の調査から導き出した推測だけどね。私たちはね、―薄々気付いてただろうけど―普通の体じゃないの。簡単に言えば、歩くグリーフシードなのよ」

 

 「グリーフ…シード…?」

 

 「その話をするには、ソウルジェムの事から説明しなくちゃね。なぎさは、ソウルジェムって何だと思う?」

 

 「魔女にしちゃうモノ…」

 

 「そうね。ただの変身アイテムじゃないことはもう良いわよね。じゃあ、そもそもソウルジェムって何でできてると思う?何でそれが濁ったら魔女になるの?」

 

 「…………………」

 

何も答えられなかった。そう言えば考えた事も無かった。魔女になるという事実が大きすぎて、そもそもの原因を考えようとは思わなかったのだ。

 

 「キュウべえってさ、嫌なヤツよね。嘘はつかないし、隠すつもりは無い。だけどこっちから聞くまで話さない。だからソウルジェムなんて名前にした」

 

 「何を…言って…」

 

 「ソウル(soul)は魂、ジェム(gem)は宝石。直訳すると魂の宝石。つまり、ソウルジェムって言うのは私達の魂そのものなのよ」

 

 「…………………えっ?」

 

 「キュウべえはさ、契約を交わすとここに耳を突っ込んでソウルジェムを作るでしょ?」

 

 "ここ"と言って愛矢は自身の胸の辺りを指差した。

 

 「その時に魂を入れて、それを入れ物の中に入れて作るのよ。晴人が言うには、魔女と常に万全の状態で戦えるようにするための一番効率的なやり方として、空っぽにしたんだろうって言ってた。体から完全に出しちゃえば、どれだけ体が傷ついても死ぬことが無いからね」

 「空っぽ?だったらあの時の体って…」

 

 「ただの脱け殻。私達はソウルジェムっていうコントローラーで体を操作していたラジコンのような存在だったのよ。魂が無いから体は死んでいる。だからどれだけ血を流しても、内臓がぐちゃぐちゃにされようと死なない。限度はあるけど、大抵は魂の中にある魔力で再生できる」

 

 「…そんな…」

 

 「魔女は呪いを振り撒く存在だってキュウべえは言っていた。逆に魔法少女は希望を振り撒く存在だって。そもそも、呪いとか希望とかって目に見えない物でしょ?それを感じられるのは私たちの感情。それが凝縮されているのが魂。ソウルジェムが濁る。つまり、本体に呪いが溜まると呪いを振り撒く魔女と同じ存在になる。だからグリーフシードに変わり、魂は魔女に具現化するの。普通だったら目に見えなくて拡散しちゃうから、それを保たせる生存本能の為に結界を作ってね」

 

 「…………………」

 

 「でもね、そうなると2つ矛盾があるのよ」

 

 そう言って愛矢は指を2本立てた。

 

 「1つ目。私たちは、睦月の力でこの姿でいられる訳だけど、それが何故魔女の体ではなくこの体なのか」

 

 REMOTEとは本来、封印されてるアンデッドを解放させる力だ。事実、カードにそれを使えば当然その中にいる怪物が解き放たれる。だが、グリーフシードに使うと、魔女が出てくるのではなく、魔女になる以前の体が現れた。グリーフシードの中には魔女の力があるにも関わらず。

 

 「そして2つ目。私達の体の事」

 

 「体……?」

 

 「さっきも言ったけど、ソウルジェムっていうのは体から引き剥がされた本体。そして、それがグリーフシードに変わるということは、それも私達の魂が元になっている。それなのに今の私達の体がその引き剥がされた体なのは変でしょ?それだと、体が2つあることになる。この世界と、私達がいた魔法少女の世界にね」

 

 「…………………」

 

 「でもね、この2つの矛盾が、私達の正体に直接繋がるのよ。答えを簡単に言うと、私達はイレギュラー、つまり、想定外で生まれた存在なのよ」

 

 「…?どういう事ですか?」

 

 「睦月がREMOTEを使った時、グリーフシードは最初は魔女の形で解放されようとするの。だけど、元々魔女というのはある程度の魔力を持っていなければ、結界が無ければその維持さえ出来ない不安定な存在なの。だからREMOTEされた時、魔女の体を形成すると同時に結界も作る必要がある。だけど、倒された直後は自身の体を作りながら結界を作れるほどの魔力なんて全く残って無い訳。だから、別の形で個体を保とうとするの」

 

 「別の形?」

 

 「魔女を形成するためにグリーフシードから魔力が放出される。だけど、一定量まで出たら残りの魔力は急遽体を作る為じゃなくて維持のために、つまり、結界を作る為に使われるの。グリーフシードをコアにして、それを取り囲むようにこの環境に対応できるものを作っていく。その時に作られる形っていうのが、その魔女にとって一番慣れ親しんだモノにした方がエネルギー効率が良い。それが、私達の体よ」

 

 「じゃあ、なぎさの中には、グリーフシード、が?」

 

 「そういうことになるわね。晴人が言うには、私達の感覚自体には特に違和感が無かったから、それは別の形になって取り込んでるって事だったけど、コアになってるのは丁度ここ、胸の真ん中辺りね」

 

 そう言って愛矢はその部分を指差した。

 

 そもそも、晴人がその事に気付いたのは、小夜が変身していたギャレンについて調査したからだった。ギャレンを大抵の実験では、睦月が変身するレンゲルや晴人が変身していたブレイドと特に変わった様子は無かったが、一つだけ、全く異なる結果が出たものがあった。熱検査だ。

 

 ライダーらの熱の様子を調べてみたところ、ほとんどのライダーは全身にほぼ等しく変身前より高温になっていたが、ギャレンだけはその昇温過程が明らかに異なっていた。ギャレンの胸にある菱形、その頂点の温度がレンゲルと比べて遥かに高かったのだ。逆にそこから離れるごとに温度が低くなっていくという結果が出た。

 

 ギャレンだけは、変身の仕方が若干異なっていた。

 

 ギャレン、レンゲル、ブレイドはAと融合することで変身する。それはつまり、変身者の魂と完全に融合するということだ。魂というのは頭の頂点から産毛の先まで等しい濃度で全身に纏っているというのが普通だ。そうしなければ脳からの命令で指を動かしたり歩くといった行為が出来ないからだ。その均等に纏われた魂と完全に融合するのだからAとも等しく融合されなければならないので、全身の体温も等しく上昇するはずだ。

 

 しかし、ギャレンだけは異なっていた。これが意味する事は、魂の濃度に元から差があった事を意味し、胸の部分が極端に高かったと言うことはその部分に魂が集まっている事を表していた。

 

 また、他の人物でも同様の検査をしてみた結果、なぎさ、千翼、愛矢にもギャレン程では無いが同様の結果が得られた事から、晴人はそう推測したのだ。

 

 魔女から戻された体はある部分をコアにして形成されたものなのでは無いか、と。

 

 「そしてそれが正しい事を証明するきっかけになったのがあなたと小夜よ」

 

 小夜は偶発的に胸の辺りをスラッシュダガーで刺された。その後、彼女の体は消滅。初めは晴人もそれはミラーワールドに長時間いたためとも思ったが、そう考えると愛矢やなぎさにも何らかの消滅の兆しが出ていないとおかしいと思いすぐに否定した。

 

 あれは、スラッシュダガーによってコアが破壊されたため、その体の維持ができなくなった為に起こした現象だったのだ。と、愛矢は説明した。

 

 「そして極め付きがあなた。使い魔を出して、魔女の気配と同等のモノを出した。本来魔法少女にしか使えないはずのテレパシーも使えた。それこそがあなたの体が魔女に近くて、歩くグリーフシードと表現されてもおかしくない確かな証明なのよ」

 

 「じゃあ、やっぱり…」

 

 なぎさはガックリと膝をついた。なぎさは、自分が使い魔を出した事をうっすらとだが覚えていた。だけど、あの時意識が朦朧としていたから、夢だと思っていた。いや、夢だと信じたかった。

 

 だけど、それは事実だとハッキリ告げられた。魔女になり、人を、魔法少女を食らった感触があり、それと同等のモノを出せる力がまだあるなんて、これじゃまるで…

 

 「本当に、化け物じゃないですか…」

 

 何で睦月は…

 

 「何で睦月は私達をこんな風にした。そう思ったわね?」

 

 「!」

 

 「そう思うのが自然よ。私だってそう思ったんだから。あいつは多分その事を知らなかったんでしょうけど、それにしたって嫌になるし、ムカつきもした。私達をさっさと倒して、グリーフシードなんか粉々に砕いちゃえば良かったのにってね」

 

 だけど―、と、愛矢は言葉を続けた。

 

 「私はね、―まぁこれは晴人から言われた事でもあるんだけど―これはチャンスだと思ったのよ」

 

 「チャンス?」

 

 「そ、私達は何故かこの世界に魔女として呼ばれて、今はこうして喋る事もできる。それって、ちょっとかっこよく言えば選ばれた人でしょ?だったら、取り戻す事もできるんじゃないかって。キュウべえと契約してからずっと失くしてた、普通の人間の体をね」

 

 「えっ?」

 

 「ここからが本題よ」

 

 ようやくなぎさが興味を示してくれたようで、愛矢は少し上機嫌になりながら言った。

 

 「私達、何かとミラーワールド―鏡の向こうの世界の事だけど―に行ってたけど、あそこはね、本来は何人ものライダーが戦う場所だったのよ」

 

 「戦う…?」

 

 「睦月達とは違うライダー、中央に動物のようなマークがあるデッキで戦う、この世界に本来いたライダーが戦う場所。そこでね、最後の一人になった人には何でも願いを叶えられる権利が与えられるの。私達パラディはね、その願いを叶える力だけを奪って広げる、つまり、無限に願いが叶えられるように活動してるの」

 

 「パラディ…?」

 

 「『楽園』って意味よ。あなた達は気付いてないでしょうけど、そのミラーワールドは今、私達が来たと同時に何故か乱れている。つまり、ミラーワールドを構成していたシステムが脆くなっているから、それを実行できる最大のチャンスってわけ」

 

 さらに愛矢は続けた。

 

 「私は、それに協力して、その力で普通の体、普通の命を手に入れて、過去の記憶も全部無くして完全にリセットするの。それが私の新しい夢。

それを邪魔するなら、誰だろうと許さない。たとえ、睦月でも…」

 

 最後を特に語感を強めて言った。そして、サッとなぎさを正面から見つめると、

 

 「あなたも、こっちに来ない?」

 

 「えっ?」

 

 「私達の計画が成功すれば、何でも願いが叶う。だから、あなたにもその権利を与えられる。キュウべえと契約してからおかしくなった体も、取り戻す事ができる。どう?睦月とは完全に別れて、私と一緒に来ない?」

 

 そう言ってスッと手を伸ばした。

 

 「あっ…なぎさは…」

 

 しかしなぎさは、それを見つめるだけで受けとる事はできなかった。睦月の事が憎いのなら、すぐに手を取る事ができたはずなのに何故か。

 

 一体何に引っかかっているのか、なぎさ自身にも分からなかった。

 

 しばらくそのまま沈黙が続くと、もうダメだと小さくため息をつき、手を引っ込めた。

 

 「ま、先を急ぎすぎたわね」

 

 そして手元のメモ(今まではそれに3分クッキング等で紹介されていた料理のレシピをメモしていた)サラサラと何かを書くと、ビリッと破いてなぎさに手渡した。

 

 「一昨日戦った場所、その住所と簡単な行き方を書いておいたわ」

 

 なぎさは黙ってそれを受け取った。

 

 「2日だけ時間をあげる。明後日、その場所で待ってるから、もしも来る気になったらそこに来て」

 

 そう言うと、もう話は終わりだとなぎさにクルッと背を向けた。

 

 「ずっと、待ってるから」

 

 最後にそう言い残すと愛矢は静かに立ち去った。愛矢の姿は、暗闇に完全に溶け込み、見えなくなった。

 

 なぎさは、愛矢のメモを見つめるだけで、しばらくそこを動かなかった。

 

 

続く

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