仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

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 三葉睦月は、とある不動産会社の社長とその秘書との間で生を受けた。とある会社と書いたが、それは誰もが知ってる大企業で、あの高見沢グループに次ぐ大きな会社だった。いわば、お坊ちゃんというヤツだ。

 睦月は両親をとても尊敬していた。何万人という社員に愛されながら、彼らを守る為に日々働いている姿がとてもカッコいいと感じた。だから、大きくなったら父親の会社を継ごうと思うまで、そう時間は掛からなかった。

 その為に睦月は勉強を頑張った。小学校時代から勉強を頑張り、成績は常にトップを維持していた。そして、父親と同じ大学・学部に合格することが出来た。

 せっかく大学に入ったのだから、勉強だけでなく大学生ぽい事をやりたい。そう思った睦月は入学してすぐに写真サークルへ入った。写真を撮ることは昔から好きだった。小さな頃はよく、物件や土地の宣伝用の写真撮影に同行していたからだ。

 初めは誰かと一緒に知らない場所へ出掛ける事自体が好きだった。しかしある日、「一枚撮ってみないか?」と言われた。辺りを見渡すと、青紫の紫陽花が咲いていた。雨上がりだった事もあり、葉や花びらに雨粒がついていて、それが太陽の光に反射し、キラキラ輝いていた。睦月はとてもキレイに思い、一枚写真に収めた。

 カメラを渡した人もとても驚いていて、「これは凄い」とか、「将来はカメラマンに向いている」とか言っていたのだが、睦月はほとんど聞いていなかった。自分が先ほど撮った写真、それをただ眺めていた。

 この写真は、昨日では撮れなかった。明日でも絶対に撮れなかった。今日ここにいて、カメラを手渡されて、その時間、その瞬間にその場所でカメラを向けていなければ撮れなかった光景だった。

 一秒ずつ変化していく景色。その瞬間を写すカメラ。その一瞬を記録し、永遠に人の目に触れる事ができる。写真というのは、いくつもの奇跡が積み重なって生まれるモノ。

 睦月はそんな写真の魅力に一気に虜になった。

 それからも睦月は行く場所行く場所でいくつもの一瞬をカメラに収めていった。そんな睦月だったから、大学では何の迷いも無く写真サークルに入ることを選択した。

 そんな睦月に、一つの転機が訪れる。



第36話 かかわり

 「あなた、三葉睦月、よね?」

 

 ある日、とある写真コンクールの作品を見に行った時にふと声を掛けられた。

 

 「そうだけど、君は?」

 

 「あれ?分からない?私よ私!大沢南(おおさわ みなみ)!同じ写真サークルの、1年先輩の!」

 

 「はっ、はぁ…」

 

 名前を言われてようやく分かった。他の先輩から聞いた事がある。写真サークルの中に、一人天才的に上手い撮影をする人がいると。

 

 「おいおい、そんなに後輩を困らすなよ。お前ほとんどサークル行ってないって言ってたじゃねぇか」

 

 そう言って一人の男も近付いてきた。

 

 「だって~」

 

 「え~っと…」

 

 「あぁ、悪い悪い。俺は多摩堀之(たま ほりの)。こいつの写真仲間だ」

 

 睦月の反応を察して堀之は言った。

 

 「だってしょうがないじゃない!あのサークルの人って皆遊ぶだけで全っっ然カメラ上手くなろうとしないんだもん!」

 

 そんな自己紹介もそこそこに彼女は不満を言う。

 

 「あの、では何で俺の事は知ってたんですか?」

 

 「そりゃぁ、あなたは別だもの。前に作品展で出してたでしょ?それを見て分かったの。あぁ、この人はカメラを愛してるんだなって」

 

 作品展というのはサークル内で月に一回行われる発表会の事だ。自分がその月に撮った中で一番良かったモノを出品し、最も良かったモノを決める。

 

 と言っても、やはり学生間で行われる催しだから公平ではない。どうしても仲が良いからとかいつもお世話になってるからとか、そういう私情的な理由で投票する人がほとんどなので、どうしても先輩が選ばれてしまう。

 

 しかし睦月は、それを一つの節目とだけ見ているので別にどうこう言うつもりは無かった。一つのノルマ、目標、モチベーションの維持、それに発表会は相応しいと思っていたからだ。

 

 「あなたとは一度ゆっくり話したいと思ってたのよ!どう?今からいい?」

 

 「えっ、いや…」

 

 「はい、決定決定!さ、行くわよ!」

 

 「ちょっちょっと!」

 

 腕を捕まれ、そのまま引きづられるように連れていかれた。堀之は苦笑いして、小さくごめんなと言った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「どう?どう?」

 

 近くのカフェに入ってすぐに南は写真を得意気に見せてきた。

 

 「凄い…」

 

 睦月はそれを見て感嘆の声をあげた。それは流石サークルの人が絶賛するだけあって、どれもかなり良く撮れていた。

 

 風に揺れる木々、朝露できらめく花、朝日に反射して水晶のように輝く氷柱。

 

 写真を見るだけでそれらがどう躍動していたのかが手に取るように分かる。

 

 「俺のも見るか?」

 

 続けて堀之が写真を何枚か出して見せた。

 

 彼の写真は自然ではなく動物の写真だった。雲一つ無い青空に向かって飛ぶ鳥、花畑で羽ばたく揚羽蝶、大胆かつ繊細な動きを見せる様がしっかりと写されていた。

 

 「凄いですね!」

 

 「まぁね」

 

 堀之も少し得意気だ。

 

 「俺は元々キャンプが趣味でな、それで暇潰しに色々パシャパシャ撮ってる内に何かハマっちゃったんだよね」

 

 「それである時私と出会ってね、それで意気投合しちゃったんだよね~」

 

 南が続けて言った。

 

 「それで二人は今は付き合ってるって事ですか?」

 

 ふと、睦月が尋ねた。てっきり「そうそう」という解答が返ってくるかと思いきや―

 

 「「は?」」

 

 二人同時に謎の疑問符を返された。そして、二人で顔を見合わせると大声で笑った。

 

 何か変な事言ったか?

 

 睦月の顔に気付いて堀之が笑いながら言った。

 

 「いや、ごめんごめん。違う違う。こいつとはそういう関係じゃ無いって。ただの写真仲間」

 

 「そうそう。っていうか、多摩君は彼女いるし!」

 

 「はっ、はぁ…」

 

 それなのに別の女子と会って大丈夫なのか?

 

 「大丈夫よ。公認だから」

 

 心が読まれた。

 

 「桜―俺の彼女の名前だけど―は虫とかダメだから同行はNG。だから基本一人で行ってるって訳」

 

 「なるほど」

 

 「ね、それよりもさ、今度私達、またどこかでキャンプしようと思ってるんだけど、一緒に来ない?」

 

 「えっ、良いんですか?」

 

 「良いも何も、大歓迎よ!写真を愛してるならなおさら!」

 

 良い腕だと評判の南とその仲間の堀之。その二人の技術には凄く興味があった。

 

 だから睦月は迷わず頷いた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そこからは楽しい日々が続いた。空いた日には決まって大学や自然公園へ撮影しに行ったし、彼女らの構図の取り方を勉強したりした。

 

 3人の休日が重なった時は遠出をしたりもした。

 

 彼女らは睦月にカメラの事を丁寧に教えてくれて、睦月の腕もかなり上がった。

 

 今まで、一人趣味に没頭していた睦月にとって、それは新しい喜びであり、とても楽しかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そんなある日だった。

 

 「湖?」

 

 「そ!私達も初めて行くんだけど、この山の開けた場所に凄く綺麗な湖があるんだって!今度の休みにここ行ってみない?」

 

 「面白そうですね。もちろんです!」

 

 「じゃ、早速準備しましょうか。と言っても持ってく物はいつもと同じで…あっ、あなた、バイクの免許持ってたっけ?」

 

 「えっ…持ってないですけど…」

 

 「あ~やっぱりか、いや、いつもだったら日帰りだったから交通の便の良い場所に行ってたんだけど今回はそれが難しいんだよなぁ…」

 

 「ねぇ、三葉君ってお金持ってるわよね?」

 

 「ん…まぁ~幾らかは…」

 

 お金なら余程の事が無い限りは両親が幾らか補償してくれるし、そもそも睦月自身がそんなに散財するタイプじゃないから貯金が幾らかあった。

 

 と言うか、何で知ってるんだ?

 

 「だったら取って!夏休みまでに!すぐ!」

 

 「えっ…いや、俺が不器用なの知ってますよね?そんなにポンポン行かないと思いますが…」

 

 「大丈夫よ!あんた、言われた事だけは出来るんだから!人間はやろうと思えば1ヶ月で免許取れるから、さぁ、go!!」

 

 「はっ、はい~」

 

 南に言われるがままに免許センターに行った。そして、本当に1ヶ月弱で取れてしまった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そして夏休みが後半に差し掛かったある日、ついに湖に行く日が来た。

 

 しかし、キャンプ当日は生憎の雨だった。しかも予報では、夜になるほど益々強くなるという話だ。

 

 「本当に延期にしなくて良かったんですか?」

 

 「ん~、今回泊まるキャンプ場、キャンセル料取られる場所だから、何か勿体なくてね~」

 

 「それでも目当ての湖に行けなかったら本末転倒じゃないですか」

 

 「あ~それなら大丈夫だ。明日にはカラッと晴れるって話だし、今日はテントじゃなくてログハウスを取ってるから安全面でもクリア」

 

 「あれ?テントじゃないんですか?」

 

 キャンプと言うからテントをイメージしていたので睦月は少し驚いた。

 

 すると堀之は真顔でこちらに顔を向けると言った。

 

 「お前、テント組み立てられるの?」

 

 「ん~、多分出来るかと…」

 

 「キャンプの経験は?」

 

 「無いです…」

 

 それを聞くと堀之は黙って睦月の肩に手を乗せると呆れ気味に言った。

 

 「言われた事しか器用にできないヤツには絶対無理だ」

 

 「その根拠の無い自信、ある意味尊敬するわ…」

 

……………

 

 そんなやり取りの後、三人はバイクで目的地へ。バイクを走らせ三時間、何のトラブルも無く山へ着いた。

 

 近くにハイキングコースがあるという事で幅広い層から人気のキャンプ場だった。尤も、今は大雨で人もほとんど居なかったが。

 

 三人が泊まったのはテントを建てられる場所やログハウス郡から少し離れた高い場所にある、崖の側のログハウスだった。近くには火を起こせる場所もある。と言っても、今は雨だから使うことは無いが。

 

 「いや~、もう濡れた濡れた!」

 

 入るとすぐに睦月はレインコートを脱いでハンガーにそれを掛けた。そして窓を見ながら言った。

 

 「これ、本当に明日止むんですか?仮に止んでもこれだけ酷いなら明日湖は―」

 

 ブオン!

 

 その時、首に鋭い痛みが入ったと思ったら、突然目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 目が覚めた。起き上がろうとすると、首に鋭い痛みが走った。

 

 それを堪えて何とか起き上がり、立ち上がろうとしたが出来なかった。ログハウスにある柱に、ロープで完全に固定されていた。

 

 「目が覚めた?」

 

 声を聞いて顔を上げた。するとそこには大沢南と多摩堀之が並んで立っていた。二人は見たことの無いような表情をしていた。

 

 「大沢さん…?多摩…さん?一体これは…?」

 

 「は~、ここまでされてるのに本当鈍いのね。あんたはこれから殺されるのよ。私達によって!」

 

 「はっ…?」

 

 「おっと、助けを呼んでも無駄だぜ。ここは他のキャンプ地とは離れた場所にあるし、例え大声を出したとしても、この雨じゃ届かねぇよ」

 

 雨はいつの間にかかなり激しくなっており、時折雷が鳴るのが聞こえた。

 

 「そんな事言ってるんじゃない!どういう事だ!?何で俺を?何かの冗談だよなぁ?おい!」

 

 「これを冗談だと思えるならお笑い草だな。あんたの父親が、俺たちに何をしたか知ってるか?」

 

 「一体、何の話を…?」

 

 「私達はあんたの父親に家族を殺されたのよ!」

 

 「………え?」

 

 「私と堀之のパパはどっちもあんたの父親の会社に吸収された会社に入ってたのよ。だけど吸収なんて上部だけ。本当はパパの会社にあった情報が欲しかっただけ!吸収されるや否やすぐに人材を切り捨てた。私達のパパもそうだったのよ。クビにさせられた。そのまま自殺よ。あんた達の性でね!」

 

 「――――!」

 

 「だからあんたがあのサークルに入った時は驚いたわよ。こんな偶然があったんだって。そして同時にチャンスだと思った。あんたのパパに復讐するチャンスがね!」

 

 「復讐…?」

 

 「大事な人を突然失う事がどれだけ辛いか分からせるの。あんたを殺してね!」

 

 そして南は傍にあったナイフを、堀之はスタンガンの目盛りを最大にして手に持った。

 

 「じゃあ…嘘だったのかよ…?今までの事も全部…」

 

 「友達だった事を言ってるのか?バカか。俺たちはお前を友達だと思った事なんて一度もねぇよ!」

 

 外から閃光が走った。白く輝き、二人の表情が見えなかった。

 

 「さ、無駄話はここまで。さっさと始めm」

 

 その時だった。ログハウスから爆発とも思わせるような大きな衝撃が響いた。黒い影が睦月の前に見えてそして――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「!!!」

 

 睦月はガバッと顔を上げた。

 

 そこはログハウスでは無かった。アパートクインテットの中だ。

 

 「夢………」

 

 いつの間にか睦月はテーブルに突っ伏して眠っていたようだった。

 

 そう言えば、なぎさちゃんが倒れてから録に眠って無かったっけ…。

 

 時計を見ると午前4時。もう深夜というより明け方だ。空は黒というより藍色になっていて、星もまばらだった。

 

 睦月はそっと、なぎさの部屋を覗いた。

 

 「なぎさちゃん…?」

 

 なぎさは顔を窓に向けて、一定周期で呼吸をしていた。疲れて眠っているようだった。回り込んで寝顔を見ることはできなかった。

 

 目覚まし時計、キーホルダー、鉛筆、ペン…。辺りはなぎさが投げつけたモノでごちゃごちゃになっていた。

 

 入り口に置かれたお粥は置いたままの状態だった。完全に冷めきっていた。

 

 睦月は黙ってお盆を下げた。三角コーナーにお粥を捨てると、できるだけ音を立てないようにしながら洗った。

 

 

 あの後…

 

 南と堀之が武器を構えた後…。睦月は意識を失った。次に気が付いた時、そこは病院のベッドだった。

 

 両親から、その後の事を聞かされた。

 

 あの後、あのログハウスは土砂が転がり込んで、大破したという。落雷の衝撃で、ログハウスの真上で土砂崩れが起こったのだとか。それに巻き込まれて二人は崖に転落。睦月は縛り付けられてたロープのお陰で柱にぶら下がるような形になったので転落せずに済んだ。

 

 衝撃音を聞いた近くの人が通報して、睦月は助け出された。

 

 後日、崖下から二人の遺体を発見。堀之が持ってた手帳に犯行計画が書かれていたらしく、それで事件だと発覚した。

 

 どこからか嗅ぎ付けたマスコミがそれを大きく報道。動機も大々的に報じられ、父の会社も大きなバッシングを受けた。信頼はがた落ち。そのまま倒産との噂も立っていたが、それは何とか避ける事に成功したらしい。―どうでもいい事だが。

 

 睦月も一時注目の的になった。特に写真サークルでは、南さんを知らない人はいなかったので、尚更だ。

 

 父親の事、二人の事、その他もろもろ聞かれたが、睦月は全て無視。適当にあしらった。

 

 全てどうでもよかった。

 

 毎月開かれる写真展。その為に撮っていた写真も、父親の会社を継ぐという夢も全て。

 

 これまで撮った写真は全て捨てた。カメラも、これまで使っていたモノは捨て、代わりに小さなデジタルカメラを使うようになった。写真を撮る頻度は毎日だったのが三日に一度になり、一カ月に数枚になり、とうとう発表会に出展することもまばらになった。他人とも、完全に避けるとはしなかったが、必要最低限の関わりしか持たなくなった。クインテットで住むようになったのもこの時だ。大学は、実家からでも十分に通える距離だったが、睦月が一番親しくしていた人が大家をやっているアパートに、人が入らなくなって困っていると言っていたのを思い出して入った。しかし、それは両親に理由を聞かれた時に話した建前。本当の理由は単純。一人になりたかった。しばらくと言わず、ずっと。

 

 このまま、適当な企業に就職し、誰とも関わる事無く、影薄くサラッと一生を終える。それでもいいやと思ったときもあった。

 

 それなのに、それなのに、それなのに…

 

 そんな時だ。不思議な夢を見て、なぎさ達に出会った。

 

 海では童心に還ったようにはしゃぎ回った。レントでのバレーボール対決は本当に燃えた。ショッピングモールでの買い物などいつ以来だろう?ご飯があれだけ美味しいと感じたのは初めてだ。デジタルカメラのシャッターにも、自然に指が掛かるようになった。

 

 5人との生活は本当に楽しかった。あの事件以来初めて、そう心から思えた。このままずっと、そんな生活が続けばいい、続いてほしいとそう思っていた。

 

 睦月は洗い物を終えると、ダイニングテーブルに再び座った。

 

 『なぎさは、助からなければ良かった!』

 

 『私…魔女、だったんですよね?』

 

 『私ね、思い出したのよ。魔法少女になる前の事、なってからの事、そして何故魔女になったのかも全て』

 

 『嘘よ…そんな…私…』

 

 救えたつもりでいた。魔女と戦って、グリーフシードを手に入れて、REMOTEで元の姿に戻せば救えるとずっと思っていた。救えた気になっていた。

 

 だけど、それは間違いだった。救えた気になっていただけで、全く救えていなかった。

 

 考えてみれば当然の話だ。睦月はずっと、彼女達に魔女だった頃の話をするのを極力避けていた。魔女だった頃の自分と向き合わせたく無かった。臭いものに蓋をするように、魔女であったという最悪な記憶は忘れてしまえばいい。いつか、それは遠い記憶になって、気が付いたら消えるだろうと、そんな甘い考えがどこかにあった。

 

 最悪な記憶程、鮮明に覚えている。自分が一番それを分かっていた筈なのに。晴人達が行動を起こさなくても、遅かれ早かれそうなっていただろう。全部自業自得だ。小夜を死なせた事も、舞花が行方をくらましたのも、愛矢が過去の記憶に耐えられなくなった事も、なぎさが今まさに自分の過去に押し潰されそうになっていることも。

 

 それに対して何て声を掛けたらいいのかが分からない自分がもどかしかった。

 

 救世主気取りだった自分がとにかく惨めだった。

 

 なぎさが投げたモノが腕に当たった時のジンジンする感触が未だ消えない。どんな怪物の、魔女の攻撃よりも痛い。

 

 

 急に明るくなって来たのを感じて睦月は時計を見た。もう午前7時だ。いつの間にか太陽は、山よりも高く昇っていた。

 

 ふと、デジタルカメラが目に入った。

 

 いつの間にか、出掛ける時の必需品になった小さいデジカメだ。

 

 そう言えば昔は、何か悩みがあった時は過去に撮った写真を眺めていたっけ。

 

 友達と喧嘩した時とか、学校で嫌な事があった時とか、大学受験で成績が上がらなかった時とか。何かあれば写真を見て、気持ちをリフレッシュさせていた。

 

 だから今回も―

 

 

 

 ピッピッピッ…

 

 小さな電子音だけが部屋に響く。

 

 いつもなら、悩みも晴れてスッキリする。しかし、今回はそうは行かなかった。

 

 むしろ逆だ。

 

 晴人が写っている写真を見るたびに怒りが芽生えたのも確かだが、それ以上に感じるのは自分への怒り、後悔、罪悪感。なぎさ、愛矢、舞花、小夜。彼女達の顔を見るたびに罪悪感が胸に溜まる。あの時こうすれば良かったと、そんな意味の無いたらればを考えてしまう。

 

 自分は一体、何がしたかったのだろうか?

 

 『なぎさは、助からなければ良かった!!』

 

!!!!!!!!!!!!!

 

 ドン!という音を立ててデジカメが床に転がる。睦月が咄嗟に投げたのだ。弾みでボタンが押されたのか、写真がパッと切り替わった。睦月はそれをまじまじと見つめた。

 

 それは、クインテットの前で撮った、睦月、なぎさ、愛矢、舞花、小夜の5人で写ったたった一枚の写真だった。

 

 

続く


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