仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

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私、百江なぎさは、見滝原に住む魔法少女…だった。魔女になった所を助けてくれた睦月と一緒いる内に何かが変わっていくと思っていたのに、毎晩見る夢でモヤモヤが貯まっていったのです。それがある日爆発して、睦月に強く当たってしまったのです。そんな時、愛矢からなぎさ達の体の真実を告げられて、一緒に来てと誘われたのですが―。


三十七之巻 波寄る場所

~集~ 

 

 それは、小夜がギャレンとして戦う決意をしてから数日後の事だった。

 

 「写真?」

 

 何の脈絡もなくいきなり舞花が提案してきた。

 

 「そ!私達が住んでる場所ってクインテットでしょ?せっかくこうして5人揃ったんだから、そのお祝いにってね!」

 

 アパートクインテットは、一階に三部屋、二階に二部屋の合計五部屋あることから付けられた安直な名前だ。

 

 「昨日テレビでクインテットは五重奏って意味だって知ったから撮りたいんですよね」

 

 「ちょっと小夜!それは言わない約束でしょ!?」

 

 やっぱりなと思った。舞花は、ベタだが楽しい事が好きだけどそれ以外はさっぱりというタイプだ。当然勉強も。

 

 「ちなみに舞花はクインテットってどういう意味だと思ってたの?」

 

 横で聞いていた愛矢が口を挟んだ。

 

 「えっ…別に…ってかそんなの考えた事も無かったし」

 

 ですよね。

 

 「とにかく!写真撮ろ?ね?良いでしょ?」

 

 そう言えば全員で揃った写真はあまり撮った事無かったなと思った。

 

 「それは構わないけど」

 

 「やた!じゃあ皆、すぐに準備してクインテット前に集合!」

 

 そう言うと舞花はすぐに自分の部屋に戻って行った。小夜も後から続く。

 

 相変わらず元気だな。

 

 さてと、と、睦月は引き出しからデジカメを取り出した。

 

 「あれ?」

 

 「どうしたの?」

 

 「いや、電池がさ」

 

 「あぁ~、無くなってるね」

 

 カメラの画面には電池切れを知らせる表示が一定周期で点滅していた。しかも、傍にしまっている単3電池の買い置きも丁度切らしていた。

 

 「ちょっと買ってくるから、先に準備しといて」

 

 「ん。分かった」

 

 睦月はすぐに近くのコンビニまで出掛けた。

 

 コンビニまでは徒歩で10分の距離だ。30分弱経過して、睦月は戻った。

 

 遅いだの、待ちくたびれたなど舞花からブーブー文句を言われるかなと考えていたが、

 

 「あ、睦月やっと帰ってきた!ねぇ、ちょっと手伝ってぇ!」

 

 「ん?どうした?」

 

 なぎさ達が近くの茂みで何かをごそごそと探していた。

 

 「四つ葉のクローバー。小夜がさっきね、折角撮るならライダーぽさも出したいなって言ったから、それなら睦月の象徴のクローバーも写そうってなって、それなら一番レアな四つ葉のクローバーにしようって話になったんだけど」

 

 「そっか、小夜が…」

 

 「よっしゃ!じゃあ、俺も探すか!」

 

 睦月も意気揚々と草むらに入った。

 

 四つ葉のクローバーもそうだが、小夜がそれを提案したというのが嬉しかった。

 

 初めて会った時は、かなり遠慮があったから。随分と馴染めるようになったと実感できて。

 

 

 

 「ダメ~!全っっっっっっ然見つからない~!」

 

 数時間が経過した。炎天下での四つ葉探索はさすがに骨が折れた。既にクインテット内での探索は諦め、場所を変えてみたが結果は同じだった。

 

 「何か…すいません。私の性でこんな大事になってしまって…」

 

 「いやいや、小夜は悪くないでしょ。むしろ悪いのは私達の運の悪さ…」

 

 舞花は一面の茂みを一瞥して、

 

 「あ~!三つ葉だったら一杯あるの…に……」

 

 「?どうかしたの?」

 

 「それよ!!」

 

 

 

 「これは面白いのです!クインテットぽいのです!」

 

 「もっと早く思い付いてればここまで苦労しなくて良かったのにね」

 

 「分かってないわね~。あれだけ苦労したからこれを思い付いたのよ。さっすが私!」

 

 「ごめんごめん。遅くなった。さ、始めるよ」

 

 そう言って睦月は三つ葉のクローバーとトランプのクラブの5のカードを取り出した。

 

 小夜と舞花は立ち上がり、その少し前になぎさが、その更に前に愛矢が並び、それぞれ三つ葉のクローバーを掲げた。

 

 睦月は更にもう片方の手でトランプも掲げた。

 

 舞花が考えたアイデア。それは、謂わば人間トランプ。5人がそれぞれ三つ葉のクローバーを持った状態で並び、トランプの5を再現するというモノだった。

 

 「それじゃあ、撮るよ~!」

 

 睦月はデジカメをタイマーにすると、すぐに走って行き、愛矢の隣に立て膝をして三つ葉のクローバーと、もう片方の手にトランプを掲げた。

 

 「3、2、1!」

 

 この時、初めてクインテットの皆が一つに、家族になれたように感じた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「なぎさちゃん、入るよ」

 

 睦月はスッと扉を開けた。

 

 「あ!」

 

 しかし、そこにはなぎさが居なかった。ベッドももぬけの殻だ。見ると、側の窓が開いていた。近くには雨樋。

 

 すぐに分かった。睦月にも経験があった。

 

 多少危ないが、なぎさの部屋からは雨樋を伝って滑り棒の要領で下に下りる事ができるのだ。小さい頃は面白半分でそれをやり、後で大家さんにこっぺり絞られた事がある。

 

 あぁ!そんな事は今どうでも良い!

 

 「何で!どうして!どこに!」

 

 どうしても伝えたい事があったのに!俺がもっと早く来ていれば変わっていたのか。また、居なくなるのか? 自分のタイミングの悪さを呪う。

 

 ふと、紙のこすれる音が聞こえた。

 

 

~観~

 パラディ 旧アジト 屋根の上

 

 その一角を陣取って、下を見下ろしている一匹の姿があった。願いと引き換えに普通の少女を魔法少女にし、それの希望が絶望に相転移する時に発生するエネルギーを回収し、宇宙の寿命を伸ばすことが目的の、地球外生命体。インキュベーター、通称キュウべえ。

 

 「………………」

 

 「君の方から僕を呼ぶなんて珍しいね。何の用?」

 

 「まだ何かが起こるって確証は無いんだけど、もうすぐ、僕の想像を越える出来事が起こるかもしれないからね。情報は共有するように決めただろ?ウール」

 

 「へぇ~、何でも分かってる風な君でも予想し得ない事が起こるんだ」

 

 タイムジャッカーのウールが皮肉を隠さずに言った。

 

 「勘違いしないで欲しいんだけど、前に君に話したのは起こった事象から考察した推測だ。ここで起こる出来事自体は、僕でも把握しきれないんだよ」

 

 「ふーん…」

 

 「前々から思っていたんだが、何で君はそう僕に敵意を向けるんだい?君の話を聞く限りだと、この現象は僕にとっても君にとっても良いはずだよ?僕はあの世界よりも遥かに効率よくエネルギーを回収できる、君はスウォルツという人物から永遠に離れられてしかも自分だけの世界も作れる。その立役者は僕達だ。だから、より良好な関係を築ける筈だけど?」

 

 その態度だ!と、ウールは思った。

 

 何でも分かってる風な口調、いつも自分が優位に立ってると思わせるような仕草、その他もろもろ全てがジオウの隣にいたウォズを彷彿とさせる。

 

 キュウべえから目をそらすようにウールは眼前を見渡した。そこには、一人の少女が立っていた。見たところ、誰かを待っているようだった。

 

 「あれは、確かキックホッパーの…」

 

 「そう、かつて魔女と呼ばれる存在になり、三葉睦月によって姿を戻された徳山愛矢だ」

 

 『姿を戻された』。彼女らの体が普通と異なると判明してからは、キュウべえはそういう言い回しをするようになった。

 

 あくまで事実だけを、機械的に、事務的に伝えるといったような感じだ。

 

 「もうすぐここに、百江なぎさが来る可能性がある」

 

 「百江…あの時妙な力を出したヤツか」

 

 『あの時』、とは、愛矢がパラディに入り初陣をした時だ。あの時はウールも驚いた。人の姿をしながら劣化とはいえ結界と使い魔を出したのだから。

 

 その後、愛矢はなぎさに体の事を伝えた。

 

 それをキュウべえが陰から見ていたので、二人(正確には一人と一匹)は把握していた。

 

 「あの時の彼女は、確かに絶望の底にいた。もしも魔法少女だったら、ソウルジェムは完全に濁り、円環の理に導かれるだろう位にね。そんな彼女がこれからどんな選択をし、それによって何が起こるのか。いずれにしても、この世界にまた何かが起こる可能性が高いと考えているよ」

 

 『可能性が高い』と話しておきながら、半ば確信している様子だった。

 

 とは言え、彼女らの動向には確かに興味があった。ウールは黙って屋根の上に腰を下ろした。

 

 「ウール、分かってると思うけど…」

 

 「あぁ、僕の力は使わないよ。過度な干渉はしない。それが情報の共有の条件だからね」

 

 

~待~

 

 パラディ 旧アジト

 

 とてもアジトとは思えない大きく荘厳な屋敷の前で徳山愛矢は待っていた。

 

 『ずっと、待ってるから』

 

 一昨日は、なぎさにそう言い残して去った。しかし、その時点で既になぎさはこちらに来ると確信があった。

 

 なぎさの目、顔。それが、自分の表情と同じだったから。

 

 全てを思いだし、絶望し、自分の願いに、欲望に、運命によって呪われる。そして、魔女だった時に殺された方がましだったと結論付ける。だけど、感情を手に入れた今、安易に自殺を選ぶこともできない。生きたいと思う心が、それを邪魔する。なぎさが自分に殺してほしいと頼んだことが何よりの証拠だ。

 

 生と死の板挟み。完全な生き地獄。

 

 全て、全て自分と同じだった。

 

 それから救われる為には、たとえ友達の仇だったとしてもこちらに来るしかない。無限に願いを叶えられる力。その力で体も記憶も全てリセットして、新しい世界で生きるしか。

 

 「ん?」

 

 そんな事を考えている間に、屋敷の門を通って真っ直ぐこちらに向かってくる小さな影が見えた。

 

 思った通りだ。

 

 なぎさは、愛矢の前で立ち止まった。

 

 「本当に良いんだね?」

 

 答えの分かっている決まり文句をなぎさに問い、なぎさはこくんと頷く。

 

 愛矢はニコっと微笑んだ。

 

 「じゃあ、改めて歓迎するわ。ようこそ、パラディへ!」

 

 愛矢はなぎさに手を差しのべた。

 

 なぎさはその手を取ろうと手を伸ばして―、

 

 「なぎさちゃん!」

 

 聞き覚えのある声になぎさはハッと目を見開いた。振り返ると、息を切らしてやって来ただろう睦月の姿があった。

 

 「睦月…」

 

 「あなた、何で!?」

 

 「だから言ったんだ、あの時連れてきゃ良かったってなぁ!!」

 

 その声と共に、近くにあった溜池から仮面ライダーガイが飛び出してきた。

 

 『STRIKE VENT』

 

 ガイは右腕にメタルホーンを付けると、それを勢いよく振り下ろした。

 

 「うわっ!」

 

 睦月は反射的にそれをかわし、レンゲルベルトを付けた。

 

 「変身!」

 

 『♧Open Up』

 

 睦月はレンゲルに変身した。

 

 「ほら愛矢、こいつは俺に任せてさっさと連れてけ」

 

 レンゲルを牽制しながらガイは言った。

 

 「了解。ほら、なぎさ、早く行くわよ!」

 

 愛矢はなぎさの腕を掴むと側にある鏡に向かって駆けだした。

 

 「待て!行くな!」

 

 「行かせねぇよ!」

 

 「グワ!」

 

 背中が思い切り斬り裂かれた。見るとガゼルスタッブを構えた仮面ライダーインベラーの姿が。

 

 インベラーとガイ、二人のライダーの妨害でなぎさの元へ行けなかった。既に愛矢はベルトを巻き、ホッパーゼクターを持ち変身しようとしている。適当な姿見に飛び込み、ミラーワールドルートでアジトに戻るためだ。

 

 「―――――!」

 

 「なぎさちゃん!ごめん!!!!!!!!」

 

 本当はクインテットで、落ち着いて言いたかった言葉。それを全て、今、なぎさに伝えた。

 

 睦月はラウザーでガゼルスタッブとメタルホーン、二つを牽制しながら続けた。

 

 「今まで苦しい思いをさせて、それを気付けなくて、本当にごめん!!!!!」

 

 分かったつもりでいた。だけど、なぎさの心は何も分かっていなかった。ライダーになって魔女から助けた事に浮かれて、魔女になった事が、魔法少女だった事がどれだけ心にしこりを残していたのかを、まるで分かっていなかった。当然だ。そんなの、当事者にしか分からない。何を思い絶望し、その結果自分が今まで何をやったのか。そんな現実をいきなり叩きつけられた人の気持ちなんて、「分かってる」なんてとてもじゃないが言えない。

 

 許してくれとも言えない。

 

 なぎさが、愛矢が何を期待して晴人の元へ行ったのかも分からないし、それを否定する事も、自分にはできないのかもしれない。だって、そこまで追い詰めてしまったのは自分の失敗だから。

 

 それでも、言わずにはいられなかった。

 

 「お前は、本当にそれでいいのか!!!?」

 

 「――――」

 

 「このまま、全部壊して終わりにして、本当に良いのか!?」

 

 やっと分かったのだ。誰かと一緒にいる事に意味を見出すことが出来なくなった自分が、それでも何故彼女達の為に命がけで戦う事にためらいが無かったのか。

 

 「今さらなに言ってんだ!?あいつがここに来た時点で、答えは決まってるもんだろ?」

 

 「そうそう、意志は大切にしないと、な!」

 

 ガゼルスタッブで胸を突かれ、睦月の体は吹っ飛ぶ。

 

 それは違う。

 

 睦月は確信していた。確かにあの時、なぎさが黙って出ていった時は手遅れかと思った。感情の無い魔女から感情の持った人間に戻され、それを行った睦月への恨みが全てを覆ってしまったのだと。だけどー、

 

 何故睦月が今ここにいる?何故なぎさと愛矢の合流場所が分かった?

 

 それは、窓の側に住所が、愛矢との合流場所を記したメモが置いてあったからだ。

 

 なぎさは子供ながら賢い。もしも本当に睦月に邪魔されたくないのなら、メモは置いて行かない。

 

 その時思った。まだ間に合うと、なぎさの心は完全に絶望に染まっていないのだと。

 

 もしも、このままなぎさまで行ってしまったら、本当に後戻りできなくなる。

 

 だったら、そこから呼び寄せる。なぎさ自身だって、本当はそれを望んでいない筈だから。

 

 「なぎさ!」

 

 だって―

 

 「今まで俺たちと過ごした時間も全部苦しかったのか!?」

 

 なぎさはここに来てから一度も

 

 「楽しくなかったのか!!?」

 

 笑顔を見せていない。

 

 

~考~

 何を今さらと思っていた。

 

 なぎさの事、何も分かってない癖に。魔女になって、人を殺して、その時の感覚が昨日の事のように思い出す苦しさなんて、睦月には一つも分からないでしょ?

 

 そう、思っていた。

 

 「待て!行くな!」

 

 だから、そう言われた時も、なぎさは立ち止まるつもりなんてさらさら無かった。

 

 全てを無かった事にするしか、この苦しみを終わらせる方法は無いと思っていたから。

 

 それなのにー、

 

 「お前は、本当にこれでいいのか!?」

 

 それでも良いと、そう思っていたからここに来た筈だった。

 

 なのに何故?

 

 何故か睦月がここに来てから、声を聞いてから、足が思うように動かない。

 

 「このまま、全部壊して終わりにして、本当に良いのか!?」

 

…………………、

 

 「今まで俺たちと過ごした時間も全部苦しかったのか!?」

 

…………………

 

 「楽しくなかったのか!!?」

 

………………………………………………………

 

 

~無~

 その時、なぎさの体が、魂が今いる場所から抜けて、遠く離れた、周りが壁に囲まれた殻の中にいる錯覚を覚えた。

 

 そこでは、大きな屋敷の景色も、睦月の声も、武器がぶつかる音も、愛矢が手首を掴む感触も無い。

 

 あるのは、フワフワとその場を漂っているスクリーンだけ。

 

 

~問~

 どうしてなぎさは、昨日パラディに来ないか誘われた時、すぐに返事が出来なかったのか。どうして足が動かないのか、どうして睦月の言葉を無視できないのか。

 

 その答えは―、

 

 

~思~

 始めは、眠りから覚めるような感覚だった。朝、学校がある日と同じように目が覚めて、凝った体に少し不快感を覚えるような、そんないつもの朝。

 

 でもそれはすぐに終わった。上書きするように次々に思い出した。魔法少女になってからの一人ぼっちの日々、ソウルジェムが黒く濁りきった時の想像を絶する苦しさ、人を殺した時に感じた肉の感触。

 

 目の前にいる黄金の仮面を被った男を殺そうと襲い掛かった事…。

 

 そんな罪悪感に耐えきれなくなって、逃げ出したけど…、

 

 『誰がどう思おうと、今の君はなぎさっていうかわいい名前の付いた女の子だよ』

 

 そう言われた時、少し心が軽くなったように感じた。許してくれたように感じたから。

 

でも―、

 

 

 

チョコレート、クッキー、シュークリーム、ビスケット、タルト、プリン、マカロン、アイスクリーム

 

 

 ここにもそこにもあそこにも、お菓子がいっぱいお菓子がいっぱい。でもあれだけが見つからない。大好物なのに見つからない。どこどこどこどこ私のチーズ。

 

 

 探して見つけたのはチーズじゃなくて、世にも珍し動くお菓子。

 

 

 チーズでは無いけれど、おいしいのかな?いただきます。

 

 

 バリバリボキボキバリバリボキボキ

 

 

 あぁ、なんだ。

 

 

 チーズよりもおいしいじゃないか

 

 

 

 あの夢が、なぎさをしつこく付きまとった。

 

 『なぎさちゃん、今朝も聞いたけど、本当に俺が学校に行って大丈夫か?無理だったら、今日は休んで一緒にいてもいいんだよ?』

 

 『なぎさは大丈夫なのです。なぎさの為にズル休みをするのはいけないことなのです』

 

 これ以上、自分の為に睦月に迷惑は掛けられないと思い、大丈夫だと嘘をついた。

 

 本当は凄く苦しかった。一人になった途端、毎晩見る悪夢が、たくさんの人を殺したという罪悪感がなぎさの全てを覆い尽くしてしまう。

 

 睦月は、お昼を作ってくれていた。でも、一口食べると人の腕、脚、唇、脳…、それらを食べた時の事を思い出す。それでも、食べないと睦月が心配するから、無理矢理喉に流し込んだ。

 

 その性で戻してしまった事も何度かあったが…。

 

 『だってそうでしょ!!!!??あなたたちの話の通りなら、私は魔女として、怪物として!何の罪もない人たちを殺してたってことでしょ!!?あなたのことだって殺そうとしたってことじゃない!!!なのに何で・・何で私を助けたのよぉ・・・」

 

 愛矢が、自分が魔女だったと知った時、彼女はそう言った。本音を言えば、ちょっとだけ羨ましかった。愛矢が言った事は全部、あの夢を見た後いつも考えた事だし、そうやって、泣いて当たり散らしたいと思った事も一度や二度じゃ無かった。

 

 でも、もし愛矢と同じように自分も言ってしまったら、睦月が傷付くかもしれない。そんな顔、見たくなかったからそれも全部我慢して、愛矢に近付いた。

 

 そうやってずっと過ごしてきたのに…、

 

 愛矢に付いていけば、この苦しみから解放されるのに…。

 

 

~問~

 どうしてなぎさは、昨日パラディに来ないか誘われた時、すぐに返事が出来なかったのか。

 

 

~問~

 どうして足が動かないのか。

 

 

~問~

 どうして睦月の言葉を無視できないのか。

 

 

 

その答えはただ一つ。

 

 

 

~答~

 なぎさは、目から一粒の涙を流していた。そして、掠れるような声でポツリと言った。

 

 「楽しかった…」

 

 単純だ。楽しかったから。それ以外にない。

 

 愛矢に誘われた時もずっと睦月や皆との日々がちらついていた。全てを思い出した後もずっとだ。むしろ、魔法少女になる前の記憶に比べて、今までの日々は楽しい思い出ばかりでそれだけが強調されていて―。

 

~思~

 『ただいま』

 

 『睦月!お帰りなさ~い!!』

 

 どれだけ辛くても、苦しくても、睦月の「ただいま」の声を聞くだけで安心した。

 

 お昼ご飯と違って、睦月と食べた晩御飯の時は、あの感覚はほとんど思い出さなかった。それ以上に、睦月とのお話が楽しかった。凄く、おいしかった。

 

 愛矢や舞花、小夜と出会ってからはその悪夢を見ることはほとんど無くなった。そんな事を考える暇も無いほど楽しい日々だった。

 

 愛矢のご飯は凄くおいしかった。舞花からはいつも元気を貰っていた。小夜の笑顔を見てると、こっちまで嬉しくなった。

 

 皆で行ったショッピングモール、一杯かわいい物やお揃いを買った。レントでやったバレーボール対決、バッティングセンター、ボウリング、どれも凄く熱くなった。海、なぎさにとっては、魔法少女になる前も含めて初めて行った場所だった。海の水は冷たくて、しょっぱくて、キラキラしていて、どれもこれも凄く新鮮だった。皆でワイワイ騒いだ焼き肉パーティーではいつもとは違う美味しさがあった。キャンプでは、睦月が意外に不器用だって分かって、ちょっと面白かったっけ…。

 

 他にも、部屋変えだったり四つ葉のクローバーを探したり、写真を撮ったり、皆で一緒に食べて、お喋りをして、笑って、眠って…………………。

 

 全部、全部、全部、本当に楽しかった。

 

 それもこれも全部、睦月が助けてくれたことが始まりだった。

 

 睦月と出会ってから3ヶ月とちょっとしか経っていないのに、楽しい思い出が数え切れないほどできた。確かに辛かった記憶もあるし、悪夢だって見たけど、それでも楽しかった思い出の方が多かった。心を満たしてくれた。

 

 もしかして、なぎさが本当に願っていた事は―。

 

 

~響~

 気が付くとなぎさは両目から大粒の涙を流していた。その涙が頬を伝い、地面に黒い染みを作っていった。

 

 唐突ななぎさの変化に、愛矢も面食らっていた。

 

 「楽しかった…楽しかった!!」

 

 なぎさは、涙を流しながらそう叫んだ。なぎさの声が辺り一面に響き渡った。

 

 睦月はつい表情が緩んだ。

 

 良かった―。

 

 睦月には、魔法少女になる前の、なってからの、魔女になった後の苦しみがどれほどかは分からない。今まで(大学に入るまでの18年間)、平凡で何不自由なく生活をしていたのだから当然だ。

 

 だけど、なぎさと、皆と出会ってからの日々は知っている。

 

 どんな時に笑うか、どんな時に不機嫌になるか、全部分かってる。

 

 なぎさが楽しかったように、睦月だって楽しかったんだから。

 

 あの時、南と堀之に裏切られてからずっと、一人でいいやって思ってたのに、その心を皆が解かしてくれた。

 

 そして、その楽しい日々をもっと過ごしたい、まだ見ぬ魔法少女達にもこんな思いをさせたい。

 

 その思いから、レンゲルは戦うんだ。

 

 「だったら、もう一回、それを作ろうぜ!」

 

 「でも!」

 

 なぎさはここで初めて、振り返ってレンゲルを見た。

 

 「なぎさは…いっぱい人を殺したし、いっぱい傷付けたし、もう体も普通じゃない。もう、遅いのです…」

 

 「遅くない!」

 

 「―――!」

 

 「それなら、いっぱい謝ればいい!傷つけたなら、仲直りすればいい!俺も一緒に謝る!なぎさが皆から許しを貰うまで、俺も一緒に戦う!!俺も、お前の後悔も罪も全部背負ってやる!」

 

 それでなぎさが笑顔になるなら。

 

 「だから、自分が今一番何がやりたいのか、もう一度考えてくれ!!罪とか過去とかじゃなくて、自分がこれから何をしたいのか、本当の願いを教えてくれ!!」

 

 「お前が、自分は幸せになっちゃいけないっていうなら、俺が何度でも違うって言ってやる!だから、もう一度楽しい時間を作ろう!だから―、」

 

 そして睦月は、心の底から想いを叫んだ。

 

 「だから頼む!戻ってきてくれ!!!!!」

 

 睦月にとっても、なぎさが、皆がいない生活なんて考えられないから。

 

 「フン!ばっかみたい!いつまで夢を見てるんだか…。もう遅いのよ。さ、なぎさ、あいつが足止めされてる内にさっさと行くわよ」

 

 愛矢はなぎさの腕を掴んだまま、再び鏡に向かって歩き出す。

 

 パンッ!!

 

 その手をなぎさは思い切り振りほどいた。

 

 愛矢は、驚いた表情でなぎさを見た。

 

 「なぎさは…、また、皆と一緒に遊びたい。キャンプの時までの、皆がいて、凄くキラキラした時間をもう一度過ごしたい」

 

 だから―と、凛とした目で愛矢を見つめて続けた。

 

 「なぎさは行かない!!愛矢も、なぎさと一緒に帰るのです!!!」

 

 「はっ、はぁ?今さら何を言ってるの!?私たちは普通じゃないの!新しい命を、体を、魂を手に入れなくちゃ幸せは来ないのよ!!」

 

 「それでも!なぎさは、今が良い!クインテットの皆と一緒に、いっぱい思い出を作る方が、なぎさにとっての幸せなのです!!」

 

 「なっ…」

 

 「なぎさちゃん…」

 

 「チッ!やっぱさっさと連れてきゃ良かったんだよ!」

 

 『ADVENT』

 

 突如マガゼールが池から飛び出し、睦月は撥ね飛ばされてしまった。その隙にインベラーはジャンプしてなぎさの元に駆け寄り、ガゼルスタッブを構えた。

 

 「なら今は、ただバカデカい力を持った危険因子って事だよなぁ!!」

 

 「しまった!なぎさちゃん!」

 

 「!!佐野さん、待って!」

 

 ガゼルスタッブが、なぎさの体に届くまで、残り4メートル… 3… 2… 1…。

 

 

~未~

 気が付くと、なぎさは白い空間の中にいた。そこには屋敷も、愛矢も、睦月も、もちろん他のライダーやモンスターもいない。なぎさだけがいる世界だった。だけど、先ほどとは違い、今度のは幻覚であると同時に物質であるとも感じられた。夢と現実の境界のような…。

 

 ふと、下を見ると、小さな二葉が生えているのが見つかった。

 

 それが本葉になり、子葉が枯れ、どんどん成長していった。そして、なぎさの背丈位まで伸びると、その先端に見たこともない木の実がなった。

 

 それは、鬼灯のような見た目をしているが、その皮は赤紫色で見るからに分厚く、下からは藍色の何かがはみ出している。見た目は異様なのに、凄く美味しそうに感じた。

 

 コツッ、コツッ、コツッ…

 

 何も無い筈の場所から突然、足音が聞こえてきた。

 

 顔を上げると、どこから来たのか、一人の男が立っていた。

 

 睦月と同じ位の年に見える。髪は目映く輝く金色で、銀色の甲冑で身を包み、染み一つない真っ白なマントを羽織っていた。

 

 「繋がった」

 

 男は言った。

 

 「まだか細い程に小さな糸だが、ようやく君の今いる世界と、俺たちの世界、そして、"彼女"の世界を結ぶ事ができた」

 

 男は、なぎさと目を合わせると、優しく微笑んだ。

 

 「君の希望が、俺たちを繋いでくれたんだ、ありがとう」

 

 「…………………」

 

 なぎさはただただ彼を見つめていた。どうしてだろう?初めて会ったはずなのに、今自分がどこにいて、そこに立っている人が誰なのか、全く分からないのに、凄く安心する。

 

 「君の前にある果実は、俺と"彼女"の力を合わせた結晶。これを手にすれば君は、戦う力を手にする事ができる」

 

 "彼"は神妙な面持ちになって続けた。

 

 「だが、それを受けとるかどうかは自由だ。それを手にすれば、君は一生、戦い続ける事になるし、一生の苦しみを背負う事になる」

 

 「一生…戦う…?」

 

 「そうだ。君は今、運命を選ぼうとしている。君はこれから何をしたい?何が欲しい?」

 

 なぎさは、ゆっくりと目を瞑った。一生戦い続ける運命を背負わされる力、まるで魔法少女だとなぎさは思った。また、あの時みたいに苦しくて痛い思いをするのか?ようやく戦う運命から解放されたのに、またそこに足を踏み入れるのか?

 

 「なぎさは…」

 

 しばらく沈黙した後、なぎさは口を開いた。

 

 

~欲~

 「なぎさはまた、戻りたい。睦月と、愛矢と、舞花と、皆で楽しく過ごした時に戻りたい。魔女になって、後悔している人に皆に、幸せになって良いんだって言ってあげたい。本当の事を言うと、痛いのも苦しいのも、もう嫌だけど、戦いたくないけれど…」

 

 なぎさは自分の胸をギュッと掴んだ。

 

 『なぎさちゃん!』

 

 皆の為に、一人、傷つくことも厭わずに大きな力に立ち向かった、兄のような存在の男はいつもそう呼んで、なぎさを守るように前に立ち塞がった。

 

 『皆の事は、私が守ります!』

 

 誰よりも臆病だったけどだれよりも優しく、そんな小さな勇気でいつも自分を守ってくれた少女がいた。

 

 

 「それでも、睦月や小夜や皆が、苦しむ顔を見るのはもっと嫌だから!」

 

 なぎさはカッと目を見開き、目の前の男の顔を見つめながら最後に言った。

 

「だから欲しい!力が!なぎさの大切な人を守れる力が!睦月のお手伝いができる力が!楽しかった生活に戻れる力が欲しい!!!!」

 

 

~願~

 それを聞くと"彼"は、満足そうに頷くと、果実を取るように促した。

 

 なぎさは黙って一歩前に進むと、その果実を手に取った。何故か、美味しそうと思う感情は沸かなくなっていた。

 

 それは、なぎさが初めて心の底から思った欲望、否、願いだった。

 

 

 なぎさは今まで、"何かが欲しい"と思う事は悪い事だと考えていた。なぜなら、絵本に書いてある悪役のほとんどが、"何かを欲しい"と思った為に大変な事になったから。

 

 だけど、"何かが欲しい"。この気持ち自体は悪いモノでは無かったのかもしれない。

 

 「木こりの泉」では、正直者のおじいさんが、"自分が使っていた斧を返して欲しい"という欲望から、自分の斧と金の斧、銀の斧を手に入れた。

 

 「サルかに合戦」では、"皆で仲良く柿を食べたい"という欲望から木に柿をいっぱい実らせた。

 

 

 果実をもぎ取ったその瞬間、その果実は目映く光輝くと、さっきまで何も無かった白い空間が、鮮やかな世界へと変貌した。

 

 地面は青々とした原っぱが広がり、花々が一面に咲き誇っていた。なぎさの足下を二匹のウサギが通りすぎた。友達だろうか。とても仲良さそうに追いかけっこをしていた。側を流れる川は底が見えるほど透き通っていて、時折魚が跳ねていた。空は青く輝き、雲が優雅に流れている。そこを鷹が自由に羽ばたいていた。

 

 その奥には、"彼"と同じように白いローブを纏った金色の髪の女性が微笑みながらこちらを見つめていた。

 

 そうか、これが、"彼"の世界なんだ。

 

 「ならば受け取ると良い!今この瞬間を以て、この力は正真正銘君の物になった!!」

 

 "彼"がそう宣言した瞬間、なぎさの体はフワッと浮き上がった。元の世界に帰るのだと、なぎさは思った。

 

 「ちょっと待ってください!あなたは、あなたは誰なのですか!?」

 

 なぎさは急いで、一番気になっていた事を尋ねた。

 

 「俺は『始まりの男』!また会うその日まで、幸運を祈る!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 インベラーは、今さっき起こった現象が信じられなかった。確かに、俺は今ガゼルスタッブを構えて彼女を貫こうとした。だけどそれは、見えない壁に阻まれたように彼女の体の直前で止まり、その衝撃がそのまま跳ね返された。

 

 「なぎさ……ちゃん…?」

 

 「何だ?あれは…?」

 

 

 『核になってるのは大体ここ。胸の真ん中辺りね』

 

 

 愛矢がそうして指差した場所、彼女のそこが白く光溢れていた。その光は留まる事を知らず、時間が経つごとにどんどん深く、眩しくなっていった。

 

 「何だよ…あれは…?」

 

 その現象に、屋根の上にいたウールとキュウべえが気にならない訳がなく。

 

 「彼女の魔力が、あの時よりも更に強く出現している。これは、魔法少女にも匹敵する力だ!」

 

 「!」

 

 次の瞬間、彼女の胸にあった光が最高出力で一気に拡散された。あまりの眩しさに全員が目をつぶる。

 

 そして、今まで無作為に放出されていた光が今度は少しずつ収束していった。

 

 「あれは…何かを作っている……?」

 

 薄目を開けたウールがそう呟いた。

 

 「あれは、ソウルジェムでもグリーフシードでも無い。あの形状は…僕の見た限りだと、『錠前』に近いかもしれないね」

 

 「『錠前』?まさか!!」

 

 キュウべえの言うとおり、収束した光は徐々にその形になるように集まって行った。そして、徐々に光は晴れ、形が明らかになった。

 

 それは、銀色の南京錠で、鍵の表面にはメロンが描かれていた。

 

 いきなり現れたそれにウールは大いに驚いた。

 

 「あれは…ロックシード!?」

 

 なぎさはそれを手に取ると、インベラーに振り返り、それを構えた。

 

 「変身!」

 

 なぎさはロックシードを解除した。

 

 『メロン』

 

 すると、上空がファスナーのように開き、そこから大きなメロンが現れた。

 

 そして、なぎさはロックシードをいつの間に付けていたのか、小さな刀が付いたベルトにセットした。

 

 「戦極ドライバー…何故!?」

 

 『LOCK ON!』

 

 辺り一面に角笛が鳴り響いた。

 

 それを合図になぎさはベルトに付いていた刀を上に引き、ロックシードのメロンをバサッと切った。するとそれは、紋所のようにパカッと開き、その断面が現れる。

 

 『セイヤ! メロンアームズ!!天下御免!』

 

 その音声と共に上空のメロンを頭から被り、そのまま皮が剥かれその姿が露になった。

 

 頭は、頭上に三日月型の飾りが付いていて戦国武将の兜を想起させ、胴体は全て白いスーツで覆われ、上半身に先程剥けたメロンの皮が今度は鎧のようにセットされた。その衝撃でメロンの果汁が飛び散った。

 

 それは、戦国時代にいたとしても違和感が無い姿だった。

 

 仮面ライダー斬月。

 

 いきなりの変身に全員が呆気に取られていた。

 

 「なぎさちゃん…」

 

 「何だ?あのライダーは…」

 

 「チッ!! 次から次へと予想外の事を起こしやがって!!」

 

 初めに動いたのは、先程飛ばされたインベラーだった。

 

 「やっぱ今、殺すしかないよな!!!」

 

 インベラーはガゼルスタッブを構え再び突進していった。それが今度こそなぎさの体を貫…

 

 「何!!?」

 

 く事は無かった。どこから現れたのか、メロンの皮を模した盾で彼の攻撃を防いでいた。

 

 さらになぎさは右手にラッパのようなモノを持つと、インベラーの胴体に向けてそれを発射した。

 

 「ウワッツッ!グオッ!!」

 

 銃弾のような物を一気に浴び、彼の体は後退し、あまりの威力に膝を付いた。

 

 

 「あの武器は…」

 

 その攻撃にキュウべえは反応した。

 

 

 「こいつ…小娘のクセに…」

 

 「小娘でも、今まで魔法少女として命懸けで戦ってきたのです。だから、あなたには負けないのです!」

 

 「生意気な!」

 

 『ADVENT』

 

 インベラーはメガゼールを2体召還し、斬月を襲うように指示を出した。その進行は、モンスターの足下に銃弾を放った事で止められた。

 

 「何だ?外したのか?って、ん!!?」

 

 銃弾が当たった箇所、そこから小さな芽が出て、それから急速に丸い生き物が生成された。顔に渦巻き模様がある、シャルロッテの結界にいた使い魔だった。

 

 「何だこれは!?うわぁぁ!」

 

 その使い魔が飛び掛かって攻撃してきたので、インベラーもメガゼール2体もその対処に追われた。使い魔の頭突きによって、その距離は徐々に離されて行った。

 

 「おい!何やってんだよお前は。待ってろ!今助けに…!」

 

 「行かせると思うか?」

 

 ガイのメタルホーンをレンゲルラウザーでふさいだ。

 

 「チッ! 退けよ!」

 

 「退かないよ!」

 

 『♧3 SCREW』

 

 ラウザーの周りに高速で回転する風を付与したことで、メタルホーンは弾き飛ばされた。

 

 間髪入れずにレンゲルはすぐに別のカードをスラッシュした。

 

 『♧5 BITE』

 

 レンゲルはジャンプし、両脚をガイに向けた。ガイは反射的に傍にいたマガゼールを掴み盾にした。

 

 そのお陰で直撃は免れたが、衝撃は防ぎきれずガイの体は吹っ飛び、マガゼールは爆発四散した。

 

 斬月は再びベルトの刀を上に引いた。

 

 『セイヤ!』

 

 すると、彼女のラッパの弾がシャボン玉のように大きく膨らみ、それは緑色の使い魔のような形に変貌した。

 

 「あれは、まずい!」

 

 インベラーは何かを察し、すぐに横に飛び去った。それと同時に斬月はそれを放った。

 

 『メロン スカッシュ!!』

 

 その銃弾は2体のメガゼールに当たり爆発四散、横に飛び退いたインベラーには当たらなかったが、爆発の煽りを受けて転がり倒れた。

 

 「クッ!!いてぇ!」

 

 なぎさは、インベラーを警戒しながら、再び愛矢と向かい合った。

 

 そんな様子を見て、愛矢は言った。

 

 「……何で…何であんたはそうなのよ!!何また希望掴もうとしてるの!?何で睦月と居ようとするのよ!あんた、こっちに来るんじゃなかったの!?」

 

 愛矢は見たことも無い形相で睨んでいた。でもその顔が、なぎさには怒りよりも悔しさに見えて―。

 

 「愛矢、ごめんなさい。やっぱりなぎさは、そっちには行けないのです。だってなぎさは、睦月と一緒に居たいって思ったから」

 

 「ふざけんじゃ無いわよ!」

 

 「愛矢、あなたもですよ。なぎさは、あなたとも一緒に居たい。だから一緒に…」

 

 「ふざけんな!!私はもう決めたの!こっちの道を行くって!普通の命と、普通の生活を手に入れる為に!その為なら何だってするって誓った!!」

 

 愛矢は、ホッパーゼクターを構えた。

 

 「そんな事を言うのならもう良い。あなたを倒して、目を覚まさせてあげる!」

 

 「おいおいもう止めろ。潮時だ」

 

 「えっ?」

 

 その時、愛矢の後ろの鏡から、一人の男が出てきた。オルタナティブ・ゼロ、晴人だった。

 

 「晴人…」

 

 「帰りが遅いから来てみれば、まさかこんな事になってるとは…俺たちとも睦月とも違うライダー。全く、お前ら元魔女は本当、退屈させないなぁ」

 

 「晴人!私は…」

 

 「もう良い。今日は、元魔女の新しい可能性が見れただけで良しとしよう。お前らも、さっさと帰るぞ!」

 

 ガイとインベラーは、まだ不満があるようだが、小さく舌打ちするとそのまま水溜まりの中へ入っていった。

 

 愛矢も晴人に従い、渋々と鏡に向かっていった。入る直前、愛矢はもう一度なぎさを睨んだ。

 

 「分かった、ならもう容赦はしない。絶対にあなたを倒すから」

 

 「助けるですよ。なぎさが、必ず」

 

 ケッと愛矢は吐き捨てるとキックホッパーに変身し、鏡の中に入って行った。それと同時に鏡が割られた。

 

 

~謀~

 東京都内 某所

 

 車のヘッドライトや街灯、ビルの明かりがきらびやかに光る中寂しく佇む廃ビル、その屋上にウールはいた。

 

 夜とは言えまだ7月。生暖かい夜風に当たりながら、ウールは今日起こった出来事を反芻した。

 

 百江なぎさ、魔女から人の姿に戻された彼女は、突如現れた戦極ドライバーとロックシードの力で仮面ライダー斬月にへと変身した。

 

 戦極ドライバー、ロックシード…どちらも、ユグドラシルコーポレーションという会社で作られたモノであり、斬月もまた、そのテクノロジーによって作られた、仮面ライダー鎧武に連なるライダーの筈だ。

 

 しかし、2002年現在、それを生み出すテクノロジーはまだ無いし、もちろん突然降って来るような代物でもない。ならばあれはどこから来た?

 

 さらに不可解だったのは彼女の、ラッパ状の銃だ。斬月は、盾のメロンディフェンダーと無双セイバーという武器で戦うライダーの筈だ。しかし後者の武器は一切登場しなかった。

 

 

 「魔法少女の力?」

 

 武器について、キュウべえが言った言葉だ。

 

 「あれは、百江なぎさが契約を交わした時に生成された武器と形状が同じだ。ライダーの為なのかに銃として改良されてたり、銃弾が使い魔だったりしてたけどね」

 

 「どういうことだよ?仮面ライダーなのに魔法少女の力を使ったってこと?」

 

 「今回の現象で推測するならそうだね。それに、あり得ない話ではない。僕が君に話した推測とも辻褄が合うじゃないか」

 

 

 2002年、そこは元々仮面ライダー龍騎達がミラーワールドでライダーバトルが繰り広げられていた。そこにレンゲル、ブレイド、ギャレンが現れ、全く別の世界にいた魔女と呼ばれる存在が紛れ込んだ。さらにそこに仮面ライダーキックホッパー、斬月が正史とは違う形で登場した。

 

――――――

 

 

 『なるほど。君の話でようやくきちんとした推測が立てられた。ウール。単刀直入に言おう!恐らくこの現象は…』

 

 

 「歴史の再編…再構築…」

 

 そう、ウールは呟き、手元にあるアナザーライドウォッチの一つを見つめた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 家に戻ったなぎさは、事の表しを説明した。ベルトとロックシードを手に入れた時に見た世界の事、その世界にいた『始まりの男』と名乗る男と女性の事を。

 

 「『始まりの男』…その人はそう呼んだんだね?」

 

 なぎさはこくんと頷いた。睦月はメロンのロックシードを注意深く観察しながら言った。

 

 「『始まりの男』…か…。俺にもさっぱりだけど、悪いやつでは無いかもしれないな。何せ、なぎさちゃんを助けてくれたんだから」

 

 なぎさはもう一度大きく頷いた。

 

 ロックシードを見ても、やはりオモチャの錠前にしか見えない。正直何も分からないが、今は彼を信じようと思った。

 

 あの時は本当に危なかった。その『始まりの男』の介入が無ければまた失う所だった。守ると言っておいてこれなんだ。本当、情けない。彼の正体は気になるけど―

 

 「『また会うその日まで』って言ったんだ。その時にまた聞けば良い。それでなぎさちゃん、これからだけど…」

 

 「もちろん、睦月と一緒に戦うのです!睦月のお手伝いもしたいし、愛矢も連れ戻さなくちゃいけないし、千翼も助けないといけない。もう守られるだけじゃ嫌なのです。一緒に、あの日々を取り戻したい!」

 

 即答だった。もうなぎさには迷いは無かった。だったら、それを止める事はない。第一、悔しいけど自分だけじゃもう力不足だ。

 

 だから、睦月も肯定した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 それから、しばらくの沈黙が続いた。なぎさは口を開きかけてはグッと閉じる。そんな事を繰り返していた。コチコチと、時計の音だけが鳴り響いた。

 

 「じゃあ、なぎさはそろそろ…」

 

 しばらく経ってから、なぎさは言った。

 

 「うん、お休み」

 

 なぎさはスッと立ち上がり自分の部屋に戻った。

 

 それを見届けると、睦月も自分の部屋へ行った。ところが、幾分もしない内に、睦月の部屋が開かれた。

 

 「睦月…お話が…あるのです…」

 

 「………………………」

 

 「なぎさの…昔の事…」

 

 来るだろうと思っていた。帰る時も、ご飯を食べていた時も、今さっき話していた時もずっと、なぎさはソワソワしていたから。だけど、なぎさにも自分のペースや気持ちをまとめる時間が必要だろうと敢えてこちらから振るような事はしなかった。

 

 睦月は静かに頷くと、こちらに来るように促した。睦月は机の側の椅子に座っていたので、なぎさは近くのベッドに腰を下ろした。

 

 なぎさは、唇にグッと少し力を入れると、

 

 「あのね、なぎさは…」

 

 と、ポツポツと自分の事を話し始めた。魔法少女になるまでの自分の事、家族の事、キュウべえとどう出会い、自分が何を考え、何を願い魔法少女になったのかも。

 

 止めるような事はしなかった。

 

 これは、彼女なりの償いだ。全てを話し、自分の罪を数える事で前へ進む為に。

 

 話していく内になぎさは涙を流し、それはどんどん激しくなっていった。

 

 魔法少女になってからの事を話した時にはもうそれは止まらなくなっていた。

 

 「それで、あの時の魔女は…………どうしても……倒せなくて…それでも…あ…頑張って………でも……逃げられて………ふ…それで……ソウルジェムが…凄く寒くて…痛くて苦しくて………うっ…ウワァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 なぎさはそこまで話すと睦月を抱き締めて大声で泣いた。それは、今までのすすり泣きとは違う、我慢の無い本物の涙だった。

 

 「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなざい…」

 

 後悔、悲嘆、寂しさ、苦しさ…そんな感情がごちゃ混ぜになって、「我慢」という決してほどけない糸で丸め込まれてぐちゃぐちゃになったモノこそが、今まで溜め込んでいたモノの正体だった。

 

 睦月も静かに抱き締め返した。今まで気付かなかった事への謝罪、少しでも彼女の感情が多く流れる事を祈って。

 

 「ごめんなざい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 睦月は、止めるような事はしなかった。ただ静かに、なぎさのしたいことをずっと見守った。

 

 「ごめんなさい…ごめんなざい…ごめんなざい…うっウワァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 なぎさは、一晩中泣き続けた。ダムのように溜め込んでいたモノを全て洗い流すように、生まれてからずっと我慢していた事を全て吐き出すように。

 

 それを睦月は見守るように、優しく抱き締めながらなぎさの泣き声をずっと聞いていた。

 

 いつまでもいつまでも、二人は涙を流し続けた。

 

 

 

 

それは波打ち際を意味する言葉。ずっと漂っていた波が打ち寄る場所。どこを見渡しても水平線で一人ぼっちだった波がようやく見つける、安心できる波の終着点。

 




 今話は、他の話と比べて長いにも関わらず、最後まで読んでいただきありがとうございます。

 また、前回の話から1ヶ月以上も更新を止めてしまい、申し訳ありません。

 これからもスローペースではありますが、最後まで更新は止めないことは約束します。

 三章もいよいよ終幕。皆さま、これからもよろしくお願い致します。
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