仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

44 / 59
第39話 一人でできるなんてあるわけない

 始めに、なぎさが感じた気配はゲルニュートの群れだった。しかし、戦っていく内になぎさは他のモンスターの気配を察知。

 

 「ここはなぎさに任せて、睦月はそっちをお願いするのです!」

 

 そう言われ、睦月はもう一方のモンスターの対処にあたった。襲われそうになっていたのはまさかの野原だった。よりラウザーに力が掛かり、多少苦戦しながらも何とか追い払う事に成功したが…

 

 「これ、どういう事なの?あんた、何やってんの!?睦月……」

 

 あっという間にバレてしまった。

 

 こうなってはもう誤魔化せない。睦月は黙って変身解除。なぎさもそれに従う。

 

 「あんた達、一体……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 クインテット 睦月の部屋

 

 そこで二人はこれまでの事を全て説明した。睦月が見た夢の事、ベルトの事、カードの事、モンスターの事、魔女の事、カードの力で魔女を人間に戻した事、魔法少女の事。他にもライダー、パラディ、そしてなぎさ以外にも少し前まで住んでいた少女達の事も包み隠さず話した。

 

 全てを語り終えると、野原は黙って席を立ち、窓の外を眺めた。フーっとため息を吐くとそっと言った。

 

 「なぎさちゃん、ちょっと外出てくれる?」

 

 「えっ?」

 

 「! あ、いや、出てけとか、そう言うんじゃないから安心して?」

 

 言い方が悪かったと野原はすぐに否定した。

 

 「ただ、ちょっと睦月と二人で話したいから」

 

 「はっはい…なのです…」

 

 なぎさはいそいそと部屋から出ていった。

 

 ダイニングには睦月と野原の二人だけが残った。

 

 室内には重い沈黙が走った。

 

 彼女は静かに口を開いた。

 

 「何か隠してるとは、思ってたのよね…」

 

 「……………」

 

 「あの後ね、実は他の部屋も覗いて見たのよ。そうしたら、あんたの隣の部屋、明らかに誰かが使ってた跡があった。さっき言ってた、愛矢ちゃんと千翼ちゃんと、小夜ちゃんかしら?」

 

 「うん…千翼と小夜の…」

 

 「そう…」

 

 「そっか…、まさか、私がいない間にこんな大変な事になってたなんてね」

 

 「あぁ…黙っててごめん…騙すつもりは…いや、結果は同じか。ごめん」

 

 「何を謝ってるのよ!」

 

 野原は睦月に振り返って続けた。

 

 「あんた、よくやったじゃない!!一人で!」

 

 「えっ……?」

 

 「あなたは悪くない。むしろ立派よ!命がけの戦いの中、逃げないで、あの子を助けようとした。それは、ほとんどの人には出来ない事なんだから!あなたはそれをやった。素晴らしい事よ!」

 

 「素晴らしい事…か…」

 

 睦月は深くため息をついた。

 

 「俺は、そんなに凄くないよ。さっき話したでしょ?本当は、なぎさちゃんの他にも三人いたんだ。だけど、小夜は死なせちゃったし、舞花は行方不明、愛矢も…ここを離れた。俺がもっと強かったら、皆を守れたかもしれないのに、結局はこのざm-―――――!!」

 

 睦月の言葉はそこで途切れた。野原が急に、睦月に抱きついてきたから。

 

 「……………」

 

 「あなたは強いわよ。最後に私と会った時よりもずっと…」

 

 「えっ?」

 

 「だって、あなた、それでも逃げなかったじゃない!辛くて、悲しくて…それでもあなたは、今あるモノを守ろうと必死だった。違う?」

 

 「ずっと居なかったのに、何でそんな事…」

 

 「分かるわよ。あの子を、なぎさちゃんを見てれば。あの子の目は、とても親愛してるような目だった。心から信頼している目だった。ちょっとしか見てないけど、あの子、睦月といる時凄く楽しそうな顔してたわよ?それが、あなたが積み上げて来た結果でしょう?」

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 「小夜ちゃんや舞花ちゃん、愛矢ちゃんとは何があったのかは私は知らない。それでもきっと、あの子達との日常は楽しかったんだと思う」

 

 『思う』と言っておきながら、野原はほぼそれを確信していた。なぜなら、彼女は見てしまったから。小夜と舞花の部屋にあった物を。

 

 「それが急に無くなって、辛かったでしょ?寂しかったでしょう?」

 

 野原は尚一層睦月を強く抱きしめた。

 

 「あの子の為に、よく、頑張ったわね」

 

 「・・・・・・・・ゥ」

 

 睦月は静かに、大粒の涙を流した。

 

 それは、今までずっと吐き出せなかった感情だった。小夜を、舞花を、愛矢を失った事への、五人での日常が一生戻って来ない事への寂しさ。

 

 あの日々は、睦月にとっても意味のあるモノだった。彼自身も救われていたのだ。友達に裏切られ、一度はふさぎ込んだ彼の心を溶かしてくれたのは、紛れもなくあの四人の少女なのだから。

 

 本当は、小夜が死んだ時はもっと泣きたかった。舞花がいなくなり、愛矢が離れてしまった時は寂しいって言いたかった。

 

 だけど、皆の、なぎさの前では、頼りのある姿を見せたかった。日常を取り戻す為に安心を与えたかった。

 

 だから、なぎさの前では弱音は吐かないと。彼女が過去を話してくれた時に決めた。

 

 今、なぎさは外にいる。

 

 ―――――やっぱり、野原さんには敵わない。

 

 

 「落ち着いた?」

 

 「うん」

 

 しばらく経った後、睦月はそっと野原から離れた。

 

 「さてと!」と、野原は元気よく立ち上がって言った。

 

 「あなたは本当によくやったわ!だけど、もうここから先は、一人で抱え込もうとしないで!」

 

 「?」

 

 「私はここの大家よ!これからは、私も手伝う!女の子をここに住まわせるのよ?いつまでも、あんたのバイトだけじゃやってけないでしょ?それに、あの子を学校にも通わせてあげなくちゃね!!あなたたちみたいに戦えないけど、私にもできる事をさせて」

 

 野原は優しく微笑んだ。それを見て睦月はまた目頭が熱くなった。

 

 「―――――ありがとう」

 

 「いいって事よ!」

 

 野原は満面の笑みでサムズアップ。睦月はクスっと笑った。

 

 

 その時。

 

 「睦月!モンスター!」

 

 部屋のドアが勢いよく開き、なぎさが飛び出してきた。睦月は急いで涙を拭いた

 

 「さっきのヤツか?」

 

 「はい!多分」

 

 「よし!それじゃあ」

 

 「待って!」

 

 なぎさと共に行こうとする睦月を野原が止めた。彼女は急いで目元を擦った。

 

 「二人共、少しだけ、付いてきて」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そうして連れて行かれたのは裏の倉庫、よりも更に遠くにある一際大きい倉庫だった。睦月も、そこにあるのは知っていたが、実際に来たのは初めてだった。

 

 野原が、ここの鍵を開けてシャッターを開いた。

 

 「これって…!」

 

 中にあった物に睦月は驚いた。

 

 「これから、必要になるでしょ?使いなさい」

 

 それは、かつて南と堀之に言われて買ったバイクだった。多少埃を被っているが、まだまだ使える様子だった。

 

 「捨てといてって頼んだのに…どうして…?」

 

 「何か捨てられなくてね。これ買った時のあんた、凄くキラキラしてたから。いつかまた乗りたいって思うかもと思って、ずっとここにしまっていたのよ」

 

 「野原さん…」

 

 睦月は、感謝の気持ちで一杯になった。そして、自分がどれだけ想われていたのかを身を持って知った。

 

 「さ、早く!敵が逃げちゃうわよ!」

 

 「うん!なぎさちゃん!」

 

 「はい!」

 

 睦月となぎさはバイクの前に並んで立つと、それぞれのベルトを付けた。

 

 「睦月!」

 

 野原が呼び止めて言った。

 

 「今のあんた、スッゴくいい顔してる!」

 

 睦月は嬉しくなった。

 

 『メロン』

 

 「「変身!!」」

 

 『♧Open Up』

 

 『メロンアームズ! 天下御免!』

 

 そしてレンゲルはバイクに、斬月はその後ろに乗り、野原に向き合った。

 

 「それじゃあ、行ってきます!」

 

 「行ってらっしゃい!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 睦月はバイクを発車させた。

 

 颯爽と風を切る感覚。久しく忘れていた感情。初めて乗った訳では無いのに何もかもが新鮮だった。

 

 その想いが伝ったのか、すぐに異変が起こった。

 

 全身真っ黒だったバイクの色が徐々に金色に変わり、正面には大きな紫のクローバーが浮き出たのだ。それは、レンゲルの姿に酷似していた。

 

 「姿が変わった!」

 

 そうか、レンゲルにはそんな力もあるのか。

 

 「キャアアアアアア!!!」

 

 女性の叫び声が聞こえ、睦月はすぐにその方向へ走った。見ると、女性が先ほどのモンスター、ゼノバイターによって鏡の中に引きずりこまれそうになっていた。

 

 「なぎさちゃん!」

 

 「分かってるのです!」

 

 斬月はすぐにラッパ状の銃を噴射。銃弾が見事にモンスターにヒットし、思わず女性から手を離す。

 

 二人はバイクを降りると、すぐに女性の元に駆け寄った。

 

 「もう大丈夫ですよ。すぐに逃げて!」

 

 「は……はい!」

 

 女性は二人に背を向けて路地の向こうへ駆けた。

 

 モンスターはすぐに体勢を直したが、先ほど負けたからか、鏡の中に飛び込んだ。

 

 「今度は逃がさねぇよ!」

 

 睦月となぎさは再びバイクに乗り、そのまま飛び込んだ。

 

 現実世界とミラーワールドとの間にはある程度距離がある。故に今までは、敵が待ち伏せか余程足が遅い時しか捕捉できず、逃亡目的の敵相手だと見失う事がほとんどだった。

 

 だが今は違う。バイクという足を得た事により、今までとは段違いのスピードでミラーワールドへ入る事が出来た。

 

 辺りを見渡すと、屋根の上、そこから跳んで逃げようとするモンスターがいた。

 

 「なぎさちゃん!」

 

 「了解なのです!」

 

 斬月はそれに向けて発泡。見事撃ち抜かれ、ゼノバイターはアスファルトにべちゃっと倒れた。

 

 「新しい力を試してやる」

 

 バイクが変形した時、ハンドルの中央部の真下にラウザーと同じ、カードをスラッシュできる物が付いていた。

 

 果たして、バイクにそれを使うとどうなるか。

 

 『♧6 BLIZZARD』

 

 すると、バイク全体が冷気で包まれた。

 

 「これは、行ける!」

 

 睦月はバイクでゼノバイターに向かって突進。前方から冷気が勢いよく噴射され、モンスターの体はみるみる内に凍っていき、バイクによる打撃で粉々に砕け散った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「ただいま」

 

 「お帰り、お疲れ様」

 

 帰って来た睦月は目の前にあるものに驚きを隠せなかった。

 

 「えっ?これって…」

 

 「なぎさちゃんの歓迎会、やらなきゃと思ってね!さぁ、睦月は出たでた!」

 

 数十分後―。

 

 ガチャっとドアの音と共になぎさは出てきた。

 

 「なぎさちゃん…」

 

 その姿に睦月は度肝を抜いた。なぎさは、照れくさそうに笑いながら、睦月に言った。

 

 「どう…ですか?変じゃない?」

 

 「変じゃない、変じゃない!凄くかわいいよ!」

 

 「女の子なんだから、これ位おめかししないとね。本当、余ってて良かったわ、浴衣」

 

 なぎさは、水色で金魚のプリントがされたかわいらしい浴衣を着ていた。普段は長い髪を下ろしていたが、今は左右にまとめてお団子状にしている。夏祭りスタイルといった感じだった。

 

 「さ、行きましょうか!夏祭り!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 野原の帰国が早かった理由。それは、夏祭りの実行委員の手伝いを頼まれていたからだった。当日は人手が足りなくなるだろうから、ピンチヒッターをお願いと、チベットに飛び立つ前に言われたのだという。

 

 会場に着くと、野原はすぐに屋台のヘルプの為に別れた。

 

 「うわ~、凄い着信履歴。会合すっぽかしちゃったからかな~」

 

 スイマセン。

 

 こうして、睦月となぎさの二人きりになった。ドンドンと響く和太鼓。地元の音頭に合わせて踊る子供や女性。良い匂いを漂わせ、声高々に宣伝している屋台の数々。久しぶりのお祭りに睦月も少し興奮していた。

 

 それは、なぎさも同じのようで―、

 

 「睦月!あれ!」

 

 なぎさは早速一つの屋台を指差した。

 

 最初に買ったベビーカステラをつまみながら、焼きそば、フランクフルト、たこ焼き、キュウリの浅漬け。一体そんな小さな体のどこに入ってくんだと思う程バクバク食べていく。

 

 その後は射的、水ヨーヨー釣り、輪投げ、金魚すくいと遊びパートへ。どれもこれも失敗続きだったが、その度に、

 

 「あ~あ~全く!かわいいからほら、サービス!」

 

 と、キャラメル、水ヨーヨー1個、熊のぬいぐるみとアヒル状のラッパ(吹くとガアガアとアヒルの鳴き声のような音がする)、金魚一匹をお情けで貰った。

 

 その後は第二ラウンドと言わんばかりにイカ焼き、冷やしパイン、わたあめを食した。

 

 ええい!彼女の胃袋はブラックホールか。

 

 何か、最近、なぎさの食欲がかなり増えたような気がする。彼女も、前に進もうとしているのだろうか。

 

 休憩も兼ねて、二人はベンチに座ってかき氷を食べた。その時、睦月はそれとなく尋ねた。

 

 「どう?楽しい!」

 

 「うん!とーーーーっても、楽しいのです!お祭りなんて、なぎさは初めて来たからってうおぉぉぉ!キーンなのです~!」

 

 喜怒哀楽。そんな色々な表情に、睦月は凄く嬉しくなった。

 

 さっきのわたあめの屋台でも…

 

 『妹さんかい?かわいいねぇ。ハイ!ちょっと大きくしといたから!』

 

 その時に彼女が見せた笑顔、あんな顔、初めて見た。

 

 「あっ…」

 

 「ん?」

 

 パーッン!

 

 空を見上げると、打ち上げ花火が上がっていた。

 

 まだ遊び足りないのに、いつの間にかそんな時間になってしまっていた。

 

 それは、お祭りの終幕の合図だった。

 

 そして、夏も。

 

 一発の大きな花火を合図に、次々に赤、オレンジ、緑と打ち上がった。ススキを思わせる尾の長い花火、ハート型の花火と形の違う花火もまた、次々と上がっていく。

 

 そんな夏の花畑を二人は黙って見つめていた。

 

 そんな中、睦月の脳裏にあったのは…、

 

 

 『睦月、危ない!』

 

 『えっ?うぁぁぉ!』

 

 足元からネズミ花火の大群が接近してきて、二人は思わず飛び上がった。

 

 『へっへ~、ドッキリ成功!』

 

 

 最初の夏。睦月達は花火をやった。5人が過ごした、本当に楽しかった最後の時間。あれからまだ一ヶ月も経っていないと言うのが信じられなかった。あれから、本当に色々な事があった。

 

 色々と、変わってしまった。

 

 「た~まや」

 

 ポツリと、小さな声でなぎさは言った。

 

 「なぎさちゃん…?」

 

 「愛矢が言ってたのです。花火が上がったら、こういう掛け声をするんだって」

 

 なぎさはそう言って弱々しく笑った。

 

 「――――――」

 

 なぎさも同じだった。

 

 「睦月」

 

 再び花火に目を向けながら、なぎさは言った。

 

 「来年も花火、見たいのです」

 

 「うん。そうだね」

 

 今度は皆で。

 

 この一ヶ月で、睦月の周りは色々と変わってしまった。永遠に失ったモノもある。だけど、まだ取り戻せるモノがある。

 

 一度壊れてしまった睦月となぎさの糸が、こうしてまた繋がって、また花火を見れるようになったんだから。

 

 これからは、魔女になった人を助けるだけじゃない。新しい日常を手に入れる為に戦うんだ。

 

 いつの間にか花火が何十発も連続で上がるようになった。

 

 赤、オレンジ、黄色、緑…。大きな丸、小さな丸、すすきのような花火、ハート型の花火。

 

 今までバラバラだった花火が重なり、夜空は虹色に輝いていた。

 

 花火ももうすぐ終わる。

 

 二人は黙って、そんな七色に輝く夜空を最後まで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

第三章 記憶編 完

 




 皆様へ、最後まで読んでいただき誠にありがとうございました(って、何か終わりみたいですね…)。

 これにて、前半部分は終了です。約1年掛かってしまいました。更新が不定期で本当にすいません。

 1~3章でようやく世界が温まりました。いよいよ、睦月達の戦いは新たなステージにへと進みます。

 魔法少女の世界との融合、それによってどのような事が起こるのか、また、そもそも何故龍騎の世界に魔女が現れたのか、この物語の根幹になる謎にもいよいよ踏み込んでいきますので、是非、楽しんでご覧ください!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。