仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

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 水の魔女 アクリシャス。その性質は「渇き」

 この魔女は、常に自分を潤わせる事に力を注いでいる。しかし、自身が潤う為には自身が満たせる容積以上の水が必要なので、今日も魔女は水を浴び続けている。満たされる事は無い事を知りながら。



スピンオフ2話 水と泥棒と守りたいもの

 時は、西暦以前の時代、紀元前にまで遡る。

 

 古代都市、エジプト。王妃ネフェルティティと、その夫であり、有名なツタンカーメン王の父であるアクエンアテンが砂漠の中に築いた都市、アマルナ。

 

 そこから少し離れた場所に、今や歴史書のどこにも記述が無い、小さな小さな村があった。

 

 「それじゃあ行ってくる」

 

 「あんた…」

 

 お父さんは笑顔を浮かべていたけど、私たちはどうしても笑顔で送り出す事が出来なかった。

 

 「どうしても行かなくちゃダメなの?仕事なら、ここにだって…」

 

 「アクエンアテン様の命令だ。少しでも男手が必要との事だ。それに、ここでの仕事だけなら、どうやっても俺たち全員が生活することはできないだろう?仕方ないさ」

 

 古代エジプトは多神教だった。その名の通り複数の神が崇拝されており、同じ宗教でも振興形態が異なっていた。それを当時のアマルナの王、アクエンアテンは、太陽神アテンのみを崇拝した都市を築こうと考えた。それがアマルナである。彼は今、壮麗な石の神殿を建設を民に命じていた。

 

 水を汲み、ナイル川から来る船から荷を下ろす。

 

 その作業には、人手がいくらあっても足りない。そこで、近くの村にも声が掛けられたのだ。

 

 村から男手を向かわせ働かせる、また、村で作った作物の何割かを国に献上する。代わりに、村で何か緊急事態(盗賊や他の国からの襲撃)の時は兵士を派遣し村を守るという契約だ。

 

 しかし、契約というのは上部だけ、半ば強制的に契約させられたという事を私は知っていた。

 

 アマルナが私達の村にやってくるまで、村の男の人達は農作業を行う班と村の警備を行う班、双方をローテーションで行い、村の繁栄を保っていた。

 

 屈強な人が多く、盗賊がたまにやってきても、すぐに倒す事ができていた。

 

 村とは言っても、国にも負けずとも劣らない程の形態を既に持っていた。

 

 アマルナは、そんな村だったから、目をつけた。

 

 あの日の事は、幼いながらよく覚えている。突然、武器を持った兵士がやってきた。その時、お父さんの班は警備の係だったから、すぐに追い出そうとした。だが、所詮は村だ。多勢に無勢。武器を持った大勢の兵士を相手にすることは出来なかった。

 

 その日の夜には、村の警備班全員が、アマルナで仕事をする事が決まった。警備の班が由緒ある国の兵士に敵意を向けたかららしい。

 

 さらに、作物も何割か献上しなければならないと聞いた時、母は初めて激昂した。

 

 このままではあの子達を満足に育てる事もできないじゃないと、怖い顔で言っていた事を覚えている。

 

 少し大きくなってから、私は気付いた。私達の村は脅されてたのだと。

 

 アマルナでの労働環境はとてもでは無いが良いとは言えなかった。当然だ。王がいる都市でさえ、本当に裕福な暮らしをしているのはほんの一握り。ほとんどの民は労働と貧困に耐える毎日だ。

 

 それがよその村ともなればなおさらだ。

 

 「お父さん……」

 

 心配だった私は思わず声を掛けた。

 

 「メイ」

 

 お父さんは屈んで私と同じ目線になると優しく撫でてくれた。

 

 「心配するな、お父さんは力持ちなんだから!」

 

 「でも!一昨年シュトのお父さんも死んじゃったし、トリツだって!」

 

 「大丈夫。お前の顔を思い出すだけで、父さん元気になるんだから!」

 

 お父さんは奥で眠る妹、ケイをチラッと見た。

 

 私には、二つ下の妹がいた。名前はケイ。生まれつき、体が弱く、すぐに倒れてしまう。妹の為にも、少しでも体に良い物を食べさせたい、そんな想いから、働きに出ている事を私は知っていた。例え、過酷な場所だとしても。

 

 「お前は、ケイを守ってやってくれ。約束できるか?」

 

 だから私は、

 

 「うん、約束する!」

 

 と、大きく首を縦に振った。お父さんは満足そうに頷くと、

 

 「じゃあ、行ってきます」

 

 「行ってらっしゃい!!」

 

 私とお母さんは、お父さんが見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 それが、私達が見た最後の姿だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 お父さんは死んだ。石の神殿を作るために高い所に登って、そのまま転落したとの事だった。

 

 その日の夜に、遺体が届けられた。母と私と妹は夜通し泣いた。

 

 次の日、父は埋葬された。棺や副葬品の類いは無い。それは王族・貴族の上級国民だけの特権だ。

 

 私達平民の埋葬は、体にむしろを巻いて埋めるだけの質素なモノ。

 

 どれだけ働いても、状況は一向に良くならない。子どもは病気で苦しみ、大人はそれに加えて過酷な労働によって命を蝕まれる。

 

 王は、太陽神を信じればいつか平和に暮らせる日は来ると言うが、その「いつか」はいつだ?明日?明後日?1年後?10年後?その時には私達は生きているの?

 

 神殿造りは進むが、私達は一向に良くならない。王族や貴族はお腹いっぱい食べているのにも関わらず、私達の毎日は日によって悪くなる一方だ。

 

 毎日、担架で誰かが運ばれてきて、毎晩、誰かが泣き叫ぶ声が聞こえる。

 

 これが神の施しだと言うのなら、

 

 「くそ食らえよ」

 

 悲しみが怒りに変わり、私は誰に言うでもなく呟いた。

 

 「神はいないよ」

 

 突然後ろから聞いたことの無い声が聞こえて、私は驚いて振り返った。

 

 そこには、今まで見たことの無い白くて小さな動物がいた。

 

 もしかして、あれが喋った?

 

 「だけど、君たちが言うところの悪魔と呼ばれる存在はいる。君の周りで病気や事故が多発しているのは、環境だけでなく、その悪魔が原因であることが多いんだ」

 

 「ちょっちょっと待って!あなたは一体何者なの?いきなり何を…」

 

 「お姉ちゃん?」

 

 急に大きな声を出した為か、眠っていたケイが起きてしまった。

 

 「誰とお喋りしてるの?」

 

 「あっ、ケイ。ごめんね、起こしちゃった?それが凄いのよ、ほら見て!見たこと無い喋る動物!」

 

 と、それがいる方向を指差したが、

 

 「お姉ちゃん?どこを指差してるの?」

 

 「えっ?どこって、ほら、白い動物、見えるでしょ?」

 

 「何も…見えないよ?」

 

 『彼女には見ることができないよ』

 

 「!」

 

 突然の事に私は飛び上がった。今のは、声が聞こえたというよりむしろ、頭の中から声がしたから。

 

 色々な事が重なり、ショックで遂におかしくなったのか?

 

 『そんな事はない。君は到って成長だよ』

 

 「!」

 

 また飛び上がった。心を読まれた…。

 

 「お姉ちゃん?」

 

 ケイが訝しげにこっちを見ていた。当然だ。この白い動物が見えなければ、ただその場で意味もなく驚いているようにしか見えないのだから。

 

 「やれやれ、ここじゃあ説明しづらいね。外に行こうか、付いてきてくれるかい?」

 

 「………………………」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 キュゥべえと名乗る"彼"(私は男の子だと考えてる)はビックリする事を色々教えてくれた。この世界には、「悪魔」と呼ばれる存在が裏で悪事を働いてること、人の悪意の上昇、それによって生まれる暴力、自殺、いじめ。そして蔓延する病。これらのほとんどに魔女が関与していて、私の住む国もその一つなのだと。そして、それと人知れず戦う「戦士」と呼ばれる少女がいて、私にもその素質がある事を。

 

 「つまり、あなたと契約すれば、国を悪いようにしてるヤツとも戦えるって事よね?」

 

 「そうさ!それに、戦士としての契約を交わすなら、君の願いを一つ叶えてあげられるよ?」

 

 私は興奮していた。この感覚は久しぶりだった。今までの私は、この国の理不尽を嘆くだけのただの平民だった。でも今は違う。この国を不幸にしている元凶を知り、お父さんの仇を知り、それと戦う力が目の前にあるんだ。

 

 願ってもない話だ。これを断る人がどこにいる?

 

 「分かったわ。契約する!」

 

 「なら君は、その対価に何を願う?」

 

 願い。それはもう決まっている。この村の人が一番欲している物、未来永劫必要な物。

 

 「この村の人が皆、十分に生きていけるだけの水と食べ物を頂戴。未来永劫、皆がそれに困らない程の!」

 

 「分かった。契約は成立だ!」

 

 キュゥべえは自身の耳を私の胸に突っ込んだ。そして、どうやって作ったのか、花の蕾のような小さな、だけどとても綺麗な宝石を取り出した。

 

 私はそれを受け取った。すると、その宝石は目映く青く光だし、私の姿を変えていった。

 

 つぎはぎだらけだった服は青空色のロングスカート、腰に大きな水瓶を付け、上半身はゆったりふわふわとした軽くて綺麗なドレスに変わり、肩には背中を覆い尽くす程の染み一つない白くて大きな羽衣を纏っていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「やぁぁぁ!!」

 

 私は変身した時に持っていた青く柄の長い斧を手に次々と使い魔を倒していた。

 

 「メイ、戦闘経験が0に等しい君が早速"悪魔"に挑むなんて無謀だ。まずは使い魔の結界を探すことにしないと…」

 

 「何言ってんのよ!こいつの性で皆悲しい目に逢ってんのよ!?もうそんなのはたくさん!ようやく見つけたんだから、今日で悪事を終わらせる!」

 

 そう。私は契約するや否やすぐに街へ出掛けた。魔女を捜す為に。そして、幸か不幸か、幾分も経たない内に結界を見つけ飛び込んだのだった。

 

 「メイ、気を付けて!そろそろ結界の最深部だ」

 

 「了解」

 

 そう言い終わらない内に今までとは比べ物にならない程荘厳な門が見えた。

 

 中を潜ると、円形のホールになっていて、その中央に大きな球体が浮かんでいた。

 

 かと思えば、私の侵入に反応したのか、球体が変形。四方八方から触手のようなモノが飛び出してきた。

 

 そして、その内の一本を発射した。

 

 「はぁ!」

 

 私は斧を横に振った。

 

 触手を切り裂くつもりだった。しかし、

 

 「なっ…!」

 

 衝撃で横に逸れただけで、全く斬れていなかった。

 

 「硬い!」

 

 それを合図に魔女は次々に触手を発射した。

 

 私はそれを次々にかわす。少し前まで私がいた位置に次々に大きな穴が空いていく。

 

 少しでも間違えれば串刺しに…。

 

 そう考え、注意が触手から逸れてしまったのが間違いだった。

 

 触手が束になり、大きな弾丸のようになりながら私に迫って来ていたのだ。

 

 「くっ…!」

 

 私は反射的にジャンプでかわした。

 

 しかし、空中にいる私を狙って更にもう一本の触手が…

 

 「えいや!」

 

 それは斧を振って弾いたが…

 

 「なっ!」

 

 私はその陰に隠れていたもう一本の触手に気付かなかった。

 

 「きゃああ!!」

 

 私はその触手に当たり壁に激突。そのままずるずると床に滑り落ちた。

 

 咄嗟に腕で防御したが、それでも痛かった。

 

 「メイ!もう無理だ!君では勝てない。一度退いて、体制を立て直すんだ!」

 

 「馬鹿言わないで!」

 

 私は斧を杖のように立ててよろよろと立ち上がる。

 

 「折角見つけたんだから…こいつは、私にしか倒せないんでしょう?」

 

 正直、逃げたい気持ちもあった。一発喰らっただけでこの痛み。それを後何発も喰らわなければならないかもと思うと身がすくむ。

 

 私が、自分のためだけに戦っていたのなら、きっと逃げていたと思う。

 

 でも、

 

 私の脳裏によぎるのは友達の、そして妹の顔。

 

 お腹が空いたと泣く子供の声、蔓延する病。

 

 それら全てが、もう、終わる。

 

 負をばらまいてたこいつを倒せば終えられる。

 

 私は願いで皆が生きられるきっかけを作った。だったらこいつを倒して、新しい旗をあげたい!

 

 「私は、絶対にあいつを倒す!」

 

 再び触手の追撃が始まった。

 

 私はそれを次々にかわしていく。必ず倒すと息巻いても状況は変わらない。

 

 触手への攻撃は無意味だ。ならば触手が出ている球体を狙うしかない。だけどしなる触手をかわすのが精一杯のこの状況では近付く事もままならない。

 

 斧ではダメだ。何か飛び道具があれば…。

 

 「メイ!水瓶を!」

 

 ふと、キュウべえの声が聞こえた。

 

 「これって…!」

 

 言われるまま水瓶を見てみるとそこには矢が5本入っていた。

 

 更に、背中に来た謎の感触。

 

 手に取って見ると、それは弓だった。国の衛兵が使っている弓と全く同じ構造をしていた。

 

 何でこれが…って、今は考えてる場合じゃない!

 

 私は触手をかわしながら、弓に矢をセットし、弦を引いた。

 

 「メイ!"悪魔"相手に普通の武器は効かない!それに魔力を込めて!」

 

 魔力を込める…具体的にどうすればと思ったけどすぐ分かった。変身をした時と同じ感覚だと私自身が教えてくれた。

 

 呼吸、消化、睡眠…。生きるために最低限必要な、誰に教わるでもなく自然に覚えた動作。それと同じように、魔力を操る事も今の私には容易い事になっていた。

 

「やぁぁ!!」

 

 矢を球体の中心に目掛けて発射。しかしそれは触手の一本によって弾かれた。

 

 だったら!

 

 今度は触手に目掛けて発射。次は弾かれる事なく触手に上手く刺さり、その勢いのまま壁に張りつけられた。

 

 更に一本、一本と放ち続け、触手は次々に壁に張りつけられた。だが、初めに放った一本の魔力が尽きかけ、今にも離れそうだった。

 

 とてもではないが、全ての触手を張りつけにするのは不可能だ。

 

 「メイ!」

 

 キュウべえはその事を指摘しようとしたが、そんな事は私も知っていた。

 

 目的は触手を封じる事じゃない。触手の数を減らす事だから。

 

 明らかに攻撃の幕が弱くなった。これなら、より大きな物を生み出せる!

 

 ガラガラガラガラドッシャーン!!

 

 "悪魔"の真上。そこから大量の大岩、砂が降り注いだ。

 

 いくら浮遊しているとは言え、攻撃が通じないとは言え、物質としての重さは感じる。

 

 そう、全てはこれを出すための時間稼ぎだ。

 

 岩や砂の重さに耐えかねて、今まで安定していた"悪魔"の球体が揺らいだ。

 

 その隙に私は一気に懐へ。

 

 私は自身の魔力を斧にこめた。

 

 「やぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そして大ジャンプすると縦に大きく振り下ろした。

 

 「/:"',.~f/1g'r2:'f23'.d2」

 

 "悪魔"から断末魔とも思えるような叫び声が聞こえ、そのまま消滅。結界も消えた。

 

 私の初陣は勝利で終わった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 次の日、村人がビックリする事件が立て続けに起きた。

 

 一つめは、村にある食糧庫に新鮮な野菜・果物が大量に置いてあった事だ。日照りによる水不足から、不作が連日続いていて、満足に備蓄も出来ない中、誰が置いたのかと疑問に思ったが、すぐにそれはどうでもいいと言うことになり、それは村人全員に均等に分けられた。

 

 均等に分けても十分過ぎる食糧がそこにはあった。

 

 二つ目は、雨だ。先にも言ったが、この村では連日日照りが続いていて、溜池の水も完全に干上がってしまっていた。

 

 そんな中、ここまで降ったのはいつ以来だと思うほどの大雨が降り、溜池を再び水で一杯にする事ができた。

 

 村人全員の喉が潤い、皆にも十分な栄養を与える事ができた。

 

 妹も、久しぶりに満足そうに眠っている。こんな表情は久しぶりだった。

 

 空は大雨で暗いが、気分は晴れ晴れ。遂に願いが叶ったのだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 少し経た後、国からある御触れが来た。

 

 現在国では、深刻な食糧不足、さらに干ばつが続いているので、国に収める水や育てた作物の割合を増やして欲しいとの事だった。

 

 私たちの村にだけ、雨が多く降る事から来た命令だった。

 

 村はすぐにそれを受諾した。作物を全て与えたとしても、痛くも痒くも無かっただろう。

 

 どれだけ食べ物が減っても、次の朝にはまた村人全員に行き渡る分の食糧が備蓄されるんだから。

 

 お腹が空いたと泣く声は、いつの間にか聞こえなくなった。

 

 「でも本当、誰なんだろうね~?」

 

 ある日、私の友達の一人(マエ)がそんな事を口にした。

 

 「こんな小さな村に毎晩毎晩食べ物を運んでくれるなんてさ、物好きな貴族もいたものね」

 

 彼女は、食べ物を密かに運んでいるのは貴族の誰かだと考えていた。当然か。この国で、余る程の食べ物がある人なんて、貴族か王族しか居ないんだから。

 

 「貴族じゃないわよ」

 

 別の友達(シルク)がそう口を開いた。

 

 どういう事?と尋ねると、

 

 「私のお父さん、ちょっと前に、誰が食べ物を運んでるんだろうって、それを確かめる為にずっと食糧庫の前に居たんだって。だけど、誰も前を通らなくて、気が付いたら食べ物が溜め込んであったって」

 

 「えっ!?それって本当!?」

 

 「そうみたいよ。だから、最近よく降る雨もそうだけど、これは、神様が与えてくれた慈悲だって噂」

 

 「まぁ、確かにそうかもしれないわね…」

 

 マエはそう言うと、自分の脚を見つめた。

 

 マエは、病気だった。栄養不足から来る壊血症で、命を落としかけた。だけど、私の願いで新鮮な野菜・果物を一杯食べることができ、一命をとりとめた。

 

 死の淵をさまよっていた友達を救う事ができて、私は契約して良かったと改めて思った。

 

 「でもさ、もしそうなら、その神様の慈悲があるっていうあの食糧庫、あれごと国の人が持ってっちゃうなんて事は無いかな?」

 

 「あっ、それお父さんも言ってた。それに、もしも食べ物がいつの間にか溜め込まれるこの現象を国の人が知ったら、それこそ食べ物ぜーんぶ持ってっちゃうんじゃ無いかって」

 

 村に食べ物がいつの間にか運び込まれる事を、村の人は知らなかった。もしも知ってしまえば食べ物を全て没収されるし、最悪、兵士が村を襲撃し、完全な支配下に置いてしまう可能性もある。

 

 元々、アマルナに対して良い印象を持っていなかったのもあり、この事は黙っていようと村で決めていた。

 

 村長が、『育てた』作物の何割かを国に納めるという契約なので、嘘はついてないと言って、皆を笑わせてたっけ。

 

 「え~!そしたらまた食糧不足に~?」

 

 「大丈夫だよ」

 

 すぐに私は否定した。

 

 「きっとそうなっても、また新しい所に食べ物が溜め込まれるわよ」

 

 私がいる限り、この村に食べ物が無くなる事は絶対に無い。

 

 「何でそんなに自信たっぷりに言えるのよ?」

 

 「えっ?」

 

 しまった…ちょっと話し過ぎたか。

 

 「ええと、ただの勘よ!あの食糧庫って元々はただの食糧庫だったんだから、それが無くなったらまた別の所が特別な倉庫になるって考えた方が自然でしょ?」

 

 「ま、それもそうね」

 

 私の話に、特に疑問は持たなかったらしく、私は少しホッとした。

 

 そして―

 

 

 

 "その日"は、何の前触れもなくやって来た。

 

 夜中、外の騒がしい声に、私は目が覚めた。

 

 横を見ると、妹はすやすや眠っていたので、私はそっと傍を離れた。

 

 お母さんは既に起きていて外を伺っていた。

 

 私も覗いて見ると、松明を持った男の人が何人もとある家の前に立っていた。あれは、友達のシルクの家だ。

 

 次の瞬間―、

 

 「えっ…?」

 

 松明を持っていた男は、突然それをシルクの家に投げつけた。家はあっという間に燃え広がり、火柱が上がっていた。

 

 一軒だけじゃない。それを合図に何軒も何軒も家の中に松明を放り投げていた。

 

 お母さんも隣で目を見開きながら固まってしまっていた。

 

 「シルク!」

 

 私は急いで家を飛び出し、シルクの家へ向かった。

 

 道中で、家を飛び出した他の人が松明の男に詰め寄った場面に出くわした。

 

 「あんたら、よく見たら国の兵士じゃないか!どうしてそんな事をぐわぁぁぁ!!」

 

 男は村人が全てを言う前に腕に火を押し付けた。

 

 「何でだと?とぼけるのも大概にしろ。貴様らにはある罪が掛けられている。貴族の家から水や食べ物を持ち出した罪がな」

 

 「なっ…!」

 

 「知らないとは言わせないぞ。その貧民とは思えん程しっかりした体がその証拠!それに、お前と同じ村人から食べ物がひとりでに出てくる食糧庫の話も聞いた!」

 

 兵士は村人の胸ぐらを掴み詰め寄った。

 

 「だがこれはただの窃盗じゃない。今でも信じられんが私は見たのだ。ある貴族様の警備をしていた時、食べ物が突然消えるのをな!これは悪魔に魂を売った魔術の類い、言え!これをやったのは誰だ!?」

 

 「し、、知らない!本当だ!」

 

 「そうか、では死ね」

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 村人は火を服に当てられ、あっという間に火だるまになった。そして、持っていた松明を家に投げつけた。

 

 私は動けなかった。

 

 ひとりでに現れる食べ物、魔女への初陣の時に突然現れた兵士が使うものにそっくりな弓。

 

 まさか、、、、、まさか!!!

 

 ずっと私は、自分の魔法は物を生み出す魔法だと思っていた。必要な時に、必要な物を必要な分量だけ、それを必要としている場所へ生み出す魔法なのだと。

 

 でも、実際は―。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「当然の話さ」

 

 村が、人が燃やされる様子を、キュゥべぇは王宮の上から見ていた。

 

 魔法少女、または魔法少女候補生とキュゥべぇはテレパシーで会話できる。故に、メイの思考もある程度読み取れた。

 

 キュゥべぇは、メイとコミュニケーションを取る事なく、ただ思った事を淡々と呟いた。

 

 「そもそも、人は何故、ご飯を食べるのか。もっと言うと、人は何故、栄養を摂取しなければいけないのか。それは、生きるために必要なエネルギーを摂取するために他ならない。高度な思考能力を持つ人間でも、無からエネルギーを作る事はできなかった。当然だよね。もしもそれが可能なら、僕たち、インキュベーターが、希望から絶望への相転移で生まれるエネルギーの回収なんていう遠回りなエネルギーの確保なんて方法を取らないんだから。エネルギーは普通、等価交換でしか生み出されない。無から生み出せるのはもう、法則を変えるような神の領域だ」

 

 メイ。彼女の願いによって生まれた魔法は無から有を生み出す魔法ではない。必要な物を、それがある場所から必要な場所へ移す、いわば泥棒の魔法だった。

 

 と言っても、彼女の魔法は普通の盗む魔法とは少し異なっている。

 

 彼女は、魔法少女になる前、国の現状を憂いていた。貴族や王族直属の兵士だけが不自由無い生活をし、自身を含めた平民は、満足な暮らしもできない現状に。

 

 その「憂い」は、いつの間にか「恨み」へと変わっていった。それが、魔法の方向性を少し歪めたのだ。

 

 王族貴族、その直属の兵士。「裕福な暮らしをしている人から物を盗む」。これが、彼女の身につけた魔法だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、

 

 私は走っていた。友達の下へという明確な目的地を持って外へ出たはずなのだが、今は違う。

 

 どこへ向かっているのかは、私にも分からない。

 

 火のはぜる音、燃える臭い、辺り一面から聞こえる悲鳴。

 

 違う違う違う違う。

 

 私は、そんなつもりで願ったんじゃ……。

 

 「キャァァァァ!!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえて、私は思わずそこに足を進めた。

 

 友達のマエだった。

 

 国の兵士に詰め寄られていた。

 

 「マエ!!」

 

 私は思わず声をあげた。

 

 それが間違いだった。

 

 兵士に追い詰められていたマエは、私を指差し、

 

 「兵士さん!あの子よあの子!メイよ!全部メイの性なの!あの子、前にこの事について話した時言ってたの!これは永遠に続くって、確信するように!!!」

 

 マエも、確信があって言った訳ではない。行きたい。そんな生存本能から言った言葉だと思う。

 

 それでも、殺戮によって麻痺した兵士の注意を惹き付けるには、十分な言葉だった。

 

 「魔術師を見つけたぞ!!!あいつを捕らえろ!」

 

 私は恐ろしくなってただただ逃げた。

 

 "悪魔"。それは私が戦ってる敵の名前。だけど、この状況を引き起こしたのは間違いなく私だ。これを悪魔の所業と呼ばずに何と呼ぶ。

 

 「ああ!!」

 

 兵士が射った矢の一本が私の脚に当たり、そのまま倒れた。

 

 あっという間に兵士に追い付かれ、髪を引っ張られ、喉に槍を向けられた。

 

 「お前が魔術師だな!?」

 

 言葉が出なかった。確かに私だ。だけど、私が頷けば、この殺戮は止まるのか?

 

 兵士だって、確信があって私を捕まえた訳じゃない。他の兵士が、同じようなことをやっているのが目に入った。

 

 疑わしい村人の一人。それでしかない。

 

 変身する気もとっくに失せていた。

 

 「兵長、こいつの血縁者はどうします?」

 

 「あぁ?聞くまでも無いだろう?疑わしきは罰せよ!家族だろうがなんだろうが、ここにいる村人は全員処分だ!」

 

 その言葉に、私の"何か"が覚醒した。

 

 抜けていた力が、一気に溢れだす。

 

 「あ?」

 

 突然力を入れてきた私に、兵長と呼ばれた男が訝しげな表情を浮かべた。

 

 「………せない」

 

 「あ?」

 

 「私の家族は、絶対に殺させない!!!!」

 

 その瞬間、私は戦士に変身し、その衝撃で兵士を吹き飛ばした。

 

 「何だあれは……!」

 

 「はぁ!!」

 

 「えっ?ぐわぁぁぁ!!!」

 

 兵士の近くの砂を他の兵士の頭上に飛ばした。砂が無くなった事で蟻地獄のようになったり、頭上からの砂の重みで動けなくなったりと数人の兵士は完全に封じた。

 

 しかし、砂が突然空に浮かぶなんてすれば、当然誰が見ても不審に思い、

 

 「いたぞ!あいつだ!あいつが魔術師だ!!」

 

 私の今の格好も含め、兵士達はそう判断した。

 

 それでも構わなかった。間違っていないのだから。

 

 私は恐らく死ぬ。体が異様にダルく、寒気もする。だけどその前に、私の大切な人だけでも安全な所に。

 

 私は家へ走った。道中で見かけた、背中に剣を刺したまま倒れてる女性の横を通りすぎて。

 

 家に戻ると、既に火がつけられてあった。

 

 それでも私は一縷の望みをかけて飛び込んだ。

 

 火のはぜる音、熱で食器が割れる音が響く中、僅かに、咳き込む声が聞こえた。

 

 「ケイ!!!」

 

 妹は、顔中を煤だらけにし、酷く衰弱していたが生きていた。いつも通り、ベッドに横たわっていた。

 

 「お姉……………ちゃん」

 

 掠れた声だったがハッキリと聞こえた。私は泣くほど嬉しかった。

 

 本当に強い子だ。

 

 「いたぞ!あそこだ!」

 

 私はケイを抱き抱えるとすぐに家を出て、ナイル川へと向かった。

 

 そして、港に繋がれていた1隻の船に目をつけた。

 

 私は魔法で食べ物が一杯詰まった袋を二つ取り出し、船に乗せた。

 

 「ケイ、あなたを愛してる。あなたは強い子よ。だから絶対に生きてね」

 

 それだけ言うと、私は抱き締め、額に小さくキスをした。

 

 ケイは何が何だか分かっていないようだった。だけど、説明をしている余裕は無い。

 

 こんな考えしか思い付かなかった。

 

 バカなお姉ちゃんでごめんね。

 

 私は、川の上流に水を一気に移動させた。

 

 その衝撃で、さっきまで穏やかだった川が嘘のように激しく流れ、船はその流れに乗って進んで行った。

 

 私は、船が見えなくなるまでその場に立った。

 

 「元気でね」

 

 そうポツリと言うと、ゆっくりと振り返った。

 

 何人もの兵士が私を取り囲み、槍を向けている。

 

 私は高らかに宣言した。

 

 「全て私がやったわ。私が、街から物を盗んだ魔術師です!!」

 

 

 

 そこから先は、覚えていない。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 アマルナ、王宮内

 

 「全滅……だと……?」

 

 「はい、伝令が途絶えた為確認に向かった所、ナイル川の港付近に、何十人もの兵士と、肝心の彼女の遺体が発見されました…」

 

 「ならばやはり彼女は…」

 

 「はい。これは魔術師などの類ではありません。彼女が最後にやった所業。これは、神の類に近いかと」

 

 ウームと、王は首を傾げた。

 

 「今回の事に関わった兵士は?」

 

 「全員、まだアマルナ内に待機させています。彼女がいた村の生き残りを拘束する作業もありますので」

 

 「殺せ」

 

 「はっ?」

 

 「昨日の事に関わった奴らは全員殺せ。村人も兵士も皆だ。早く!」

 

 「な…何故ですか?彼らは……」

 

 「急げ!反逆者だとか適当な理由をつけて捕らえるのだ!」

 

 アマルナは、太陽神アテンのみを崇拝するように作られた都市だ。

 

 王は恐れていた。彼女の事が知られたら、彼女を崇める人が現れるのでは無いかと。もしそうなってしまえば、王の威厳も失うのではないかと。

 

 「それから、昨日の出来事を一切、口外することを禁ずる!」

 

 

 

 

 

 古代都市、エジプト。王妃ネフェルティティと、その夫であり、有名なツタンカーメン王の父であるアクエンアテンが砂漠の中に築いた都市、アマルナ。

 

 その都市は、僅か15年で滅んでしまった。

 

 その理由には諸説あり、研究員の間でも意見が分かれている。

 

 そのアマルナから少し離れた場所には、小さな小さな村があった。

 

 歴史書のどこにも書かれていないし、痕跡も残されていない。

 

 故に、誰も知らない、小さな小さな村がそこにはあった。

 

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 ある時、ある国のある村に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。

 

 ある日、お婆さんは川へ洗濯に、お爺さんは日課であった漁をしに海へ出掛けると、どんぶらこ どんぶらこと、1隻の船が流れてきました。

 

 驚いたお爺さんが中を覗きこむと、そこにはあちこちからカビの生えたチーズやパン、空っぽになったビンが転がっていました。

 

 しかし、何よりもお爺さんが驚いたのは―――、

 

 

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