仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

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岩石の魔女 ゴールダン。その性質は執着。

 その魔女は一度定住するとその場を動かない性質がある。故に自身から発する電波や使い魔を使って獲物を届けさせる非常に怠け者な魔女なのだが、誰かが自身の領域を侵そうとするのを見ると烈火のごとく怒り自ら制裁を加える。



スピンオフ3話 村と依存と約束

 ヒック、、ヒックヒク、、ヒック、、

 

 私は泣いていた。理由は簡単。仲が良かった友達が、遠くへ引っ越してしまうからだ。

 

 しかし、その友達、ひーちゃんは笑顔を浮かべていた。今にして思えば、私をこれ以上悲しませない為に気を使ったのかもしれない。

 

 「泣かないで!絶対に、いつか戻って来るから!ほら、私達、約束したでしょ?」

 

 「約束……」

 

 「うん!私、遠くへ行っても絶っっっっ対に忘れないから!はい!」

 

 そう言ってひーちゃんは小指をさしだした。

 

 「その約束を絶対に忘れないようにする約束を今しよう!」

 

 「……」

 

 私はつい吹き出してしまった。

 

 「約束の約束って変なの」

 

 「変でもいいの!ほら!」

 

 私は嬉しかった。私はひーちゃんの小指と自分の小指を絡めて、泣き笑いしながら言った。

 

 「ゆーびきーりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます ゆびきった!」

 

 「た!」の時、ひーちゃんはもう片方の手を開いて私に見せた。

 

 そこには、ブレスレットが二つ入っていた。

 

 「これは…?」

 

 「友達の証!いつかカフェを開いた時、これ付けて一緒にやろ!」

 

 私は涙が止まらなかった。本当、ひーちゃんは私の予想をヒョイと越えてビックリを見せてくれる。

 

 私は、単純な言葉で今の想いを伝えた。

 

 「ありがとう!」

 

 これは、小学1年生の時に交わした約束。でもその約束が、今の私を動かしていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 私は沼南 葉月(しょうなん はづき)。この宮原村に住むたった一人の中学生。

 

 この村には、私と両親以外にはお年寄りが何人かいるだけ。まぁよくある過疎化した村だった。

 

 だけど、私が生まれるより前まではそこそこ栄えていたらしかった。ここ、宮原村は元々林業がとても盛んな村だった。まだ電気もガスも無く、ご飯を炊くときもお風呂を沸かすときも薪を使ってた時代の話だ。あの時はどのお家でも薪を倉庫一杯に溜める事が常識だったから、村の人たちは大忙しだったけど、それだけに人もたくさん来て大賑わいだったとおじいちゃんから聞いた。

 

 だけど、世の中が便利になって、薪なんか無くてもご飯が炊けるしお風呂も沸かせるようになってからは変わった。林業の需要は一気に減って、宮原村は急激に廃れていった。

 

 元々の交通の便の悪さ(一時間に一本のバス)というのもあって、私が生まれた時には既に多くの人が村を出ていったのだった。

 

 そして現在、状況は良くなるどころかどんどん悪くなっていった。一時間に一本だったバスは二時間に一本に変わり、唯一あった学校も廃校になった。

 

 私は今は町の学校に通っている。

 

 片道二時間は掛かるから朝は早いし、バスの終電も早いから部活にも入れない。授業を受けて帰るだけの毎日だ。

 

 それでも私はこの村を出ていくつもりはさらさら無かった。おじいちゃんが宮原村の村長だからとかでは無い。

 

 理由は三つ。

 

 一つ目は、ここの村人が好きだからだ。学校へ行くために家を出ると、既に起きてお掃除をしているおばあちゃんやお散歩をしているおじいちゃんから、満面の笑みで「おはよう」と言ってくれる。私たちの事を気に掛けて、おいしいお菓子やお野菜を一杯くれるし、勉強だって教えてくれる。とても温かくて、家族のような人たちが私は好きだった。

 

 二つ目は、自然がとてもきれいだから。木々は太陽に当たってキラキラ輝いて、水は透き通るようにきれいで、魚も気持ちよさそうに泳いでいる。春には花が咲き、夏はセミの、秋はコオロギの鳴き声を聞き、冬は雪で遊ぶ。季節と一緒に私も歩いているような感じがして好きだった。

 

 そして三つ目は、

 

 「そんな!」

 

 ママの悲痛な声に、私はハッと我に還った。

 

 「それって、もうどうにかならないの?」

 

 お爺ちゃんは重々しく頷いた。

 

 「まだ正式には決まっていないが、時間の問題だ。時期にこの村は終いになる」

 

 村の超高齢化、廃れていく産業、その他諸々を講義した結果、廃村が決定した。私達の村にダムを建てる計画があるらしく、私達は私が今通っている学校がある町に移るという事だった。

 

 「これについては、村人の何人かは同意している。年で足腰も悪くなったから便利な町に住みたい、その為の支援もしてくれるなら万々歳だとな。だからー」

 

 「嫌だ…」

 

 私はたまらず言葉を漏らした。

 

 「葉月…。気持ちは分かるけど、仕方ないのよ。ここの人達だって離れたくないっていう気持ちは同じなはず。だけど、もうこの村を維持できる余裕も無いのよ。ほら、あなただって学校が近くなるのよ?部活とか入れるし」

 

 「そんなのどうでもいい!!」

 

 「葉月…」

 

 「不便なのは、ここに人がいないからでしょ!?何で誰もそれを何とかしようとしないの?若い人が来れば、お仕事も畑もたくさん出来て、また賑やかになるかもしれないじゃない!」

 

 「そうは言っても葉月、具体的に何をするんだ?もう私らにはそんな体力は無いんだよ」

 

 「だったら私がやる!ここでひーちゃんとカフェをやっていっっっっぱいお客さんを入れるから!」

 

 ハァっと、ママは大きなため息をついた。またそれかという感情があるのは分かっていた。

 

 「葉月、何度も言うようだけど、あれは小学1年生の時の話でしょ?あの子もきっと忘れちゃってるわよ。そんな前の事持ち出して、お爺ちゃんを困らせないで」

 

 「忘れてないよ!絶対にひーちゃんは戻ってくる!それまでは私、絶対にこの村を離れないから!」

 

 「いい加減にしなさい!!!」

 

 ママが怖い声で怒鳴ったので、私は怯んだ。

 

 「口を開けばひーちゃんひーちゃんって、そんな子の為に私達を困らせないでよ!あんたが我が儘言ったって何も変わらないの!分かったら、部屋の整理でもしてなさい」

 

 そう言うとママは席を立ち、夕御飯の準備を始めた。

 

 「葉月…」

 

 お爺ちゃんは何か言いたそうだったが、話す気を無くした私は自分の部屋へ入った。

 

 そして、ゴロリと畳の上にうつ伏せになった。

 

 夕焼けが部屋を真っ赤に照らしていた。外から時折ひぐらしの鳴き声が聞こえるだけで、部屋はシンと静まり返っていた。

 

 私がこの村が好きな理由の3つ目であり、離れたくない理由。それは、友達のひーちゃんだ。

 

 ひーちゃんは、昔この村にいた女の子で、私の友達だった。

 

 今は私のお爺ちゃんが村長をやっているけれど、少し前まではひーちゃんのお爺ちゃんが村長をやっていた。

 

 それに加えてひーちゃんのご両親はここで小さな、だけど大人気の洋風レストランをやってたけど、ひーちゃんは自慢とかしないから詳しく知らないけど、あの子のお家は昔からこの村に住んで、人々を守ってきた名家らしく、彼女の家族が引っ越すまではずっと、あの子の家の人が村長をやっていた。

 

 お爺ちゃんは元は村の役員の一人で、村長とも付き合いが多かった為、私達が仲良くなるのにそんなに時間は掛からなかった。

 

 私は臆病な性格だった。

 

 顔に水が掛かるのは嫌だったし、森は怖くて入りたく無かったし、他の村人と挨拶をするのも恥ずかしくてできなかった。それ以前に、いつもすぐ転んで痛い思いをするので外へ出るのも億劫だった。

 

 外で動く事が多い村なので、そんな私の性格に家族の皆は酷くため息をついたという。

 

 そんな私を少し変えてくれたのがひーちゃんだった。彼女はいつも私を引っ張って、私が食わず嫌いしていた未知の世界を見せてくれた。

 

 何より私が好きだったのは、決して強制しなかった事だった。

 

 今まで私が出会った村人や両親は、村で育った環境によってどちらかというと押し付けるタイプだったから、その分嫌になる気持ちも大きかった。押し付ける程、反対に動く力が強くなるバネのような感じだ。気持ちと体がアンバランスだったんだと思う。

 

 だけどひーちゃんは違った。何でも遅かった私をずっと待ってくれて、何をするにも私の自由意思に任せてくれた。

 

 村の自然を素晴らしいと思うようになったのも全部ひーちゃんのお陰だ。

 

 ひーちゃんの活発さとそんな優しさに牽かれて、私は変わることが出来たんだ。

 

 彼女とカフェを開く、その話が出たのはお引っ越しする本当に少し前だった。きっかけは、彼女が私にホットケーキをご馳走してくれた事だった。

 

 「凄い美味しい…本当にこれ、ひーちゃんが作ったの?」

 

 「そうよ、先生が最後に教えてくれたんだ~」

 

 先生とは、彼女の家に来ていたお手伝いさんの事だ。彼女の家族は村長のお爺さんと、隣の町でレストランを開いている両親の5人家族。だから、昼間はお手伝いさんが来て、ひーちゃんの面倒を見ていた。彼女が物心付く前から来ていて、親のように慕っていた。

 

 先生が別の町に行った時、大声で泣いていたのを、今でも覚えている。

 

 と、話が逸れちゃったわね。それでその時、私が言った言葉がきっかけだった。

 

 「これ、お店に出したら絶対に売れると思う!」

 

 その言葉に彼女は目を輝かせた。

 

 「それよ!」

 

 「えっ?」

 

 「私ね、いつか自分で、お母さんとお父さんがやってるようなレストランをやりたいなって思ってるの!」

 

 「レストラン?」

 

 「そ!村どころか、この国中に有名になるような超有名レストラン!それでお客さんをいーーーーーーーーーーっぱい入れるの!」

 

 その為に今から練習するんだと、彼女は付け加えた。凄くいい夢だと思った。

 

 「それで、あなたが良かったらなんだけど、チーちゃんも一緒にやらない?」

 

 「えっ?」

 

 「二人でここでお店を開くの!そして、お客さんを入れて、この村をまた賑やかにするの!ね、やろう!一緒に!」

 

 この時の私は5才になったばかり。だけど、現在までを考えても、この時以上に興奮したことは無かった。

 

 私は初めて夢を持った。

 

 この後すぐにひーちゃんは、両親のレストランの移転を理由に引っ越しちゃったけど、彼女は約束してくれた。必ずまた戻ると、その時お店を開こうと。

 

 9年経っても、それは昨日の事のように覚えてる。

 

 今でも約束を信じてる。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 皆が寝静まった夜、私はこっそり外に出た。

 

 昼間は蒸し暑いけど、夜は太陽が出ていない分とても涼しかった。

 

 空を見上げると、満点の星空がそこにはあった。

 

 私は星に詳しくないから、どことどこを結べば何座になるとか、そういう事は分からない。

 

 だけど昔、まだこの村にひーちゃんがいたころは、彼女以外にも子供はいたから、こういう天気のいい日は星空の観測会を村ぐるみで行っていた。

 

 星についての小難しいお話は覚えていないけれど、大好きな友達と門限をとっくに過ぎているのに合法的に会っておしゃべりして、綺麗な空を見上げるという「特別」がたくさん揃った時間が、私は好きだった。

 

 だけど、それはもうすぐ終わる。

 

 都会は夜でも明るい。天の川は見られるかな、ここが無くなるって聞いたら、ひーちゃん、どんな顔をするだろう。

 

 そんな事を考えると、私は涙がポロッとこぼれた。

 

 その時、ガサッと茂みから何か音が聞こえた。初めは動物か何かかと思ったが、土を同じ周期で踏む音が続いて聞こえて来たので、それは誰かが歩いている靴音だと分かった。

 

 こんな深夜に出歩くなんて珍しい。一体誰が…。

 

 私はすぐに靴音のする所へ行ってみると、

 

 「おばさん?」

 

 そこには、私の家の隣に住んでいるおばさんがいた。だけど様子が違った。目がうつろで、足も自分の意思で動いているというよりは、マリオネットのように誰かに歩かされているような感じだった。

 

 「おばさん、おばさん!!!」

 

 話し掛けても、全く反応が無い。いつもだったら私に笑顔を向けてくれるのに。

 

 「ちょっとおばさん、どうしちゃったの!?しっかり…!!!」

 

 気が付くとそこは、私がいた林とは全く違っていた。

 

 一応木のようなモノは見受けられるものの、それはピンクに、赤に、青に、ネオンサインの様にチカチカと点滅を繰り返し、ただ雑草が生えていただけの地面も歪な模様が入ったただの道になり、時折、顔が靄で隠れたとても細い四肢をした生き物が側を通り過ぎるのが見えた。

 

 明らかに普通じゃない。早く出口を見つけなきゃ!

 

 「おばさん!急いで逃げよ!!ほら!!」

 

 しかし、おばさんはてこでも動かず、ただ足を前に進めていた。私が渾身の力を込めているのに、全く止まる様子が無い。

 

 「彼女に何を話し掛けても無駄さ」

 

 見ると、禍々しく点滅している木の一本、その枝の上に白い犬のような猫のような生き物が座っていた。

 

 「僕の名前はキュゥべえ!ここは魔女の結界。その人はもう、魔女の口づけを受けてしまっている」

 

 「魔女ってどういう事?というかあなた、何で喋れるの!?」

 

 「僕たちはそういう生き物だからさ」

 

 「そういうってキャァ!?」

 

 突然の謎の生き物の登場に驚いていると、地面が大きく揺れ、ベルトコンベアの様に移動し始めた。

 

 「って、何よこれ!?」

 

 前方に壁と扉が見えた。それがひとりでに開いていくと、そこには円形の舞台と、そこから何本もの通路が伸びている空間があった。私とおばさんは、その通路の一本にいた。

 

 周囲には、先ほどの靄で隠れた人型生命体が多数いて、それぞれが歓声をあげていた。

 

 「これはまずいことになった」

 

 混乱している私の側にキュゥべえがやって来た。

 

 「まずいって…」

 

 「ここは、結界の最深部だ!」

 

 その時、円形の舞台の円周上に煙が一斉に噴射された。それを合図に、大きな物体が姿を現した。

 

 「何よ…あれ…」

 

 恐怖と威圧感に私の声は震えた。

 

 それは、村の神社にあった阿修羅像のように、一つの下半身から、四つの上半身が四方に伸びていた。しかし、顔はあの人型生命同様に靄で隠れていて、それが不気味さの演出に一役買っていた。

 

 「まずい、とうとう魔女が現れた。葉月!今すぐ僕と契約を!!」

 

 「えっ?契約?それって…というか、何であなた、私の名前…」

 

 「それは後で詳しく説明する!願い事を決めるんだ、早く!!!!」

 

 「えっ?ね…願い事???」

 

 その時、魔女の顔に掛かってた靄が大きくなり、それが生き物のように私に迫って来た。

 

 「願い…願い…」

 

 その靄は、あっという間に私とおばさんのいる所に到達して包み込んだ。

 

 

 しかし、

 

 

 

 その靄は、あっという間に拡散された。拡散された所からは、木の枝が伸びていた。その根元は茶色い球形で、靄が晴れると、それはゆっくりと開いた。

 

 「凄い…魔法みたい」

 

 「魔法“みたい”じゃない。本物の魔法なんだ。そして君は、それを操る魔法少女なんだ!」

 

 今まで、Tシャツに短パンと、動きやすさだけを追求し、誰かに見られる事を意識していなかった格好だった私の姿が、花を存分に付けた薄ピンクのワンピースドレスの姿に変わっていた。

 

 「これが…私?」

 

 「そうさ。これで君はあれと戦える力が手に入った。さぁ千景、あの魔女を倒そう!」

 

 「えぇ…」

 

 魔法少女がどうとか分からないし、私の願いが本当に叶っているのかも分からない。だけど、簡単に逃げ切れる状況じゃないことは分かった。

 

 歓声を上げていた人型生命体は静まり返り、全員が私を見つめていた。顔が靄で見えないが、雰囲気で友好的で無いことは分かった。

 

 そう言うと私は先っぽが尖った短い杖を取り出した。

 

 「ねぇ、これってどうやって使うの?」

 

 「君が願いを叶えた事によって、魔法少女の姿になった君は呼吸や食べ物の消化の様に、誰に教えられる事無く元から使える技術の一つに組み込まれる。君が意識するだけで魔法が使えるはずだよ?」

 

 「分かったわ」

 

 私は目を閉じて、杖の先端に意識を集中させた。すると、何かのアニメで言うところの魔力と呼ばれるものだろうか。体の中から炎のような水のような、柔らかい粘度のような物が湧いてくるように感じた。それが私の腕を伝って杖へと流れていき、私はカッと目を見開いた。

 

 「はぁぁぁ!!!!」

 

 短かった杖の先端が太く長く伸びて観客席を貫いた。

 

 その衝撃を合図に沈黙を保っていた使い魔が一斉に動き出した。

 

 四方八方から私に向かって突っ込んでくる。

 

 私は前方に転がって躱した。

 

 私は元の形に戻った杖を使い魔に向けた。すると今度は、地面から太いツルが伸び、それが鞭のようにして使い魔の大軍を薙ぎ払った。

 

 キュゥべえの言ったとおりだった。私は、戦い方を知っていた。

 

 「(これが私の魔法…)」

 

 私の願い。それは、「私の村が潰れないようにして」だった。だから私は、「村にある植物を自在に操る」魔法を手に入れていたのだった。

 

 「葉月、後ろ!!」

 

 使い魔が薙ぎ払われたのを見て、本体の魔女が動いた。

 

 8本ある腕の一つが私に向かって振り下ろされた。

 

 私はジャンプしてかわすと、杖を再び巨大化させ、観客席に固定させた。

 

 私は杖をもう一本生成すると、魔女の足元に意識を集中させた。

 

 そして、木をあっという間に成長させ、魔女を幹にねじ込ませ、圧殺させた。

 

 こうして、私の魔法少女としての初陣は幕を閉じた。

 

 しかし、事態はまだ終わりでは無かった。

 

 

 結界は消滅し、見覚えのある森の姿へと戻っていった。

 

 私はおばさんの元へ駆け寄った。よかった。気を失っているだけだ。

 

 急いで運ばなきゃと考えていた時、

 

 ガサガサ…

 

 後ろでまた、誰かが草を踏む音が聞こえた。驚いて振り返ると、

 

 「お前、何やってんだ?葉月…」

 

 村長のおじいちゃんと数人の村人たちだった。

 

 私は、変身を解いていなかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 おばさんは、家に運び寝かせておいた。

 

 その場にいた村人と私のパパとママはすぐに村の集会場に集まった。

 

 キュゥべえの姿は魔法少女か、魔法少女の素質がある人にしか見えない。だから、キュゥべえの言葉を一言一句私が伝えるしかなかった。

 

 初めての世界に私も驚きながらも全てを伝え、最後に私の魔法を披露した。最後まで話すと、ママが口を開いた。

 

 「それであなたは契約を…」

 

 「うん、そう。村が無くならないようにして欲しいってお願いしたの」

 

 「そんな、危険よ!これからもずっとその魔女とか言う怪物と戦うなんて…村なんかの為に」

 

 「「なんか」じゃない。私はこの村が大好きだから。ひーちゃんとの思い出が詰まった大切な場所。だから、後悔なんかしてないよ?」

 

 「でも、本当に村が無くならないなんて保証は無いでしょう?一体どうやって無くならせないって言うの?」

 

 「―――――」

 

 痛い所を突かれたと思った。確かにそうだ。魔法という圧倒的な力で関係者を追い払うとか、そんな事で凍結されるほど、この世界は良くできていない。具体的にどういった方法で願いが叶えられるのか…。

 

 そう不安がってた私に、キュゥべえは言った。

 

 「大丈夫。君の願いはすぐに叶えられるよ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 本当にすぐだった。その次の日(ママたちに魔法少女について話した時には0時を回っていたので正確にはその日の朝)、村の開発計画は無期限に凍結すると言うお知らせが村長の元に届いた。

 

 何でも、開発の責任者がお金を横領したとか何とか…。それに、開発に当たって良くない所にまでお金が回っていたとかで、とにかく色々と不正が明るみに出た事がその理由だった。

 

 「これがあなたの願いによる力…」

 

 「葉月ちゃん、ありがとう」

 

 小さな村だから、私が魔法少女になった事、そして村の開発を中止するようにお願いしたことはすぐに伝わった。村の人からは次々にお礼を言われた。

 

 しかし、全員では無い。開発に当たって村人に配られる予定だったお金でもっと便利な場所に住もうと考えていた人もいたからだ。

 

 だけど、それについては問題無かった。私にはある考えがあった。

 

 私の魔法は、村にある植物を自在に操る事ができる。私はその魔法をフル活用して、村人にとってさらに住みやすい村になるようにした。

 

 新しい道を作ったり、乗り物を作って魔法少女によって増幅された力でそれを引いて近くの町まで送ったり、菜園の野菜の成長を促進させたり…、とにかく、毎日村の為に忙しく動き回った。

 

 そうしている内に、村からは不満の声が聞こえなくなり、代わりに笑顔が増えて私は嬉しかった。

 

 そんなある日、キュゥべえが久しぶり(初めて会った日以来姿を見せていなかった)に私の元を訪れた。

 

 「魔女を倒さなくて、大丈夫かい?」

 

 簡単に言えば、魔女を倒せと言う催促の要件だった。

 

 私は、あの日以来、一度も魔女を倒していなかった。戦ったのは、時々村に現れた使い魔位だ。

 

 「倒そうとは思ってるんだけどね、この村には中々出なくて…」

 

 「ここ1カ月で人の出入りが増えたと言ってもまだ全体の市町村で見れば少ないからね。仕方ないさ」

 

 「そうよね…」

 

 私はポケットからソウルジェムを取り出した。村の為に頻繁に魔法を使っていたが、私の魔法は植物自身が持っているエネルギーも利用している為、私自身が消費する魔力が少なかった。だからそこまでグリーフシードを早く集めなきゃという焦燥感はあまり無かった。

 

 とは言え、契約時は綺麗だったソウルジェムが黒ずんでいるのは気分的に嫌だった。だから、それを元に戻そうと、一度町まで下りたことはあるのだが、「ここは私のテリトリー」だからと早々に追い出された。誰かと揉めるのは嫌だったので、それ以来町へは行っていない。

 

 ソウルジェムを観察していると、それは魔法少女にならなくても、一定時間が経過すると少し黒くなっている事に気付いていた。

 

 だから、特に深い意味もなく、ただふと疑問に浮かんだが故に出た言葉を口に出した。

 

 「そう言えば、ずっと気になってたんだけど、このソウルジェムって黒くなったらどうなるの?」

 

 「グリーフシードに変わって魔女になるよ」

 

―――――――――――――――――――――――――――――。―――――――――――――――――――――――――――。―――――――――――――――――――――――――。

 

 そよ風が吹くように、川に水が流れるように、何の前触れもなく言ったキュゥべえの言葉に、私の脳がそれの意味を判断するまで時間が掛かった。

 

 「はっ…?」

 

 「聞こえなかったかい?ソウルジェムは限界まで濁りきるとそれの姿をグリーフシードにへと変えるんだ。そして、そのまま魂は魔女にへと―」

 

 「ちょっちょっと待ってよ!!」

 

 どういう事か、私は全く分からなかった。

 

 「魔女って、どういう事?一体あなた、何を言ってるの!?」

 

 「うーん、これはあまり他の子には話さない事なんだけど、君には特別に教えてあげよう」

 

 キュゥべえは私に包み隠さず説明した。ソウルジェムとは私たち魔法少女の魂そのものである事、そのソウルジェムが濁り切った時魔女に変わり、キュゥべえとはその時に発するエネルギーを回収するために動いている事、そして、私が契約を交わした時に出くわした魔女も、隣の町にいた魔法少女の一人が魔女に変わった姿である事を。

 

 「何よ…それ…」

 

 全てを聞いた時、私は腰が抜けてしまった。全てが信じられなかった。

 

 私がもう人間じゃない事も、私が相手にしなければならない相手が元は魔法少女だった事も、私がいずれそうなることも。

 

 「何で…何で隠してたの!?」

 

 「聞かれなかったからさ」

 

 私の声に何の謝罪の気持ちも無いようで、キュゥベエは坦々とそう答えた。

 

 「聞かれなかったからって…そんなの、私達を騙してる事とおんなじじゃない!ふざけないで!」

 

 「…君たち人間はいつもそうだね。真実を話すと決まってそういう反応をする。これでもかなり譲歩しているというのに、訳が分からないよ」

 

 「譲歩?どこが!?」

 

 「僕たちが魔法少女の契約を進めているのは、この宇宙の寿命を延ばす為なんだ。そのためのエネルギーとして君たちの感情を回収するのが、僕たち、インキュベーターの役割なんだ。その為の魔法少女への契約だって、君たちの同意の下行っている。ちゃんと願いだって叶っただろう?良かったじゃないか。魔女になるのが嫌なら、ソウルジェムに気を付ければいい。幸いにも、君の魔法でのソウルジェムの濁りは遅い。時間だってたくさんあるんだから」

 

 そう言うと、キュゥべえはその場を去っていった。

 

 …………………………。

 

 ――そうだ。

 

 どちらにしても、グリーフシードは手に入れないといけない。魔法少女の真実を知ろうが知らまいが、やることは変わらない。時間だってあるんだ。一体でも狩れば問題ない。

 

 1体でも…

 

 ―村をあちこと探した―

 

 1体でも…

 

 ―探して三日、ソウルジェムには何の反応も示さない―

 

 1体でも…

 

 ―それでも昼間は、村人の為に魔法を使わなければならない―

 

 1体でも…

 

 ―仕方ないと町まで下りた。こっそり倒せば大丈夫。

 

 反応があった。

 

 これで助かるかと思ったが…

 

 「あら、いつかのあなたじゃない。何?また来たの?ここは私たちのテリトリーだって何度言えば分かるのよ?」

 

 「そんな事言ってる場合じゃないの!!早くしないと私は…」

 

 そこで私はハッとした。もしもここで真実を話せば、ここの魔法少女たちはどうなる?もしも魔女を巡って争いが起これば、それこそよそ者の私は…。

 

 気が付くと、私は他の魔法少女に囲まれてしまった。

 

 「出ていきなさい。痛めつけられなく無かったらね」

 

 見るからに武闘派のような魔法少女だ。私は、渋々引き下がった―

 

 1体でも、1体でも、1体でも…

 

 ソウルジェムの黒ずみはさらに酷くなっていき、無視をする事もできなくなっていた。

 

 一刻も早く魔女を見つけないといけないのに、

 

 「葉月、ちょっと良い?買い物をしたいんだけどバスが無くて、悪いんだけどまたお願いできる?帰りは5時くらいになるから…」

 

 何も知らない村人たちは、今日も私に何かをさせようとする。

 

 確かに私は魔法を使って、この村のあらゆる所を変えた。だけど、私は神様仏様じゃない。彼らの考えを全て実現できるわけない。少しは自分で―。

 

 その時、私は気付いた。私が村の為に魔法を使うようになってから、いや、魔法少女になってから一度も、村人たちが何かをしたことが一つも無い事に。

 

 彼らはただ要望を出すだけ。それが実行可能かどうかは考えない。魔法だからできるだろうと、万能の物だと勘違いしてただただ縋る。

 

 そう、彼らはいつの間にか、私の魔法に依存するようになっていたのだ。

 

 私は、活気ある村が好きだった。最初はその性で私にも色々と強制してきた事があったけど、ひーちゃんと一緒にできる事が増えてからはあまり気にならなくなった。気にならなくなってからは、活気があるが故の良い部分もたくさん見る事ができるようになっていた。

 

 川に掛かっていた橋が壊れれば、当たり前のように次の日から修理が始まる、畑がイノシシに荒らされれば、皆で協力してイノシシ退治に勤しむ。村おこしだって、開発が決まるまでは、反対派の何人かが協力して、苦手だったパソコンを一から学習してホームページを作ったりしていた。

 

 今はどうなの?木を切るのも、動物を追い払うのも、全部私だけ。彼らはあれをやれこれをやれと指示するだけじゃないか。何も知らないで。

 

 「…ざけるな」

 

 「えっ?」

 

 そんな事を考えてしまったから、私は溢れる感情を抑えられなかった。

 

 「ふざけるな!!私はあんたらの道具じゃない!!!!」

 

 そう言うと、私は集会場を飛び出し、二度と振り返らなかった。

 

 

 どこまで走っただろうか。私は立ち止まって周りを見た。

 

 村人を乗せるために作ったそり状の乗り物、私が土を動かして作った畑。

 

 全部私が作った物だ。

 

 私は村が大好きだった。人は優しく、自然は綺麗。だけど、今の村を見ても、果たして同じことが言えるのだろうか。

 

 今の村ってとても、醜くないか?

 

 目の前の力に気を取られ、いつの間にか、本当に好きだった所をすべて失くしていた。残ったのは、上っ面な活気だけ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「キャァ!!!」

 

 森のさらに奥、皮肉なことにそこでようやく私は魔女に出会った。

 

 しかし、

 

 「はぁ!」

 

 私はツルを一本魔女にぶつけた。しかし、それだけで魔女を牽制することが出来ず、逆に返り討ちにあう。

 

 体が重い。かなりソウルジェムの魔力を消化したせいで、もうまともな魔法は使えなかった。

 

 勝てる見込みが無いなら、逃げるしかない。だけど、そうすればグリーフシードは手に入らず、魔女になってしまうし、もうあの村には戻りたくなかった。

 

 「はぁ、はぁ…」

 

 活気はなく、私に依存するようになっただけの村。考えてみれば当然の話じゃないか。廃村に反対していたのは私を含めて一部だけ。他の皆は、村に対して何の未練も無かった。それを私の魔法で無理矢理繋げただけなんだから。皆は、自身をより支援していく方に動くんだから、私を頼るのも当然だ。

 

 いつかママが言っていた。

 

 「本当にこれで良いのか?」と。あの時は命がけの戦いをする私を心配していただけだと思っていたけど、ママはこうなる事が分かっていたのかもしれない。

 

 そう言えば、ママが私に何かお願いしてきたことは一度も無かったな…。

 

 「ははは…」

 

 私は力なく笑った。

 

 やっぱりこの村は、廃村するべきだったんだ。それならまだ、私の村に対する幻想を残したまま終わらせることが出来た。こんな醜い姿を見る事は無かった。

 

 もう疲れた。私が撒いた種だ。

 

 だったら、

 

 ソウルジェムで最後まで保っていた緑の光が黒くなる。

 

 魔女になって、全部を壊すのも一興か…。

 

 私は黙って目を閉じて、ソウルジェムの陰りに身を任せようとした。

 

 その時―、

 

 

 

 「ゆーびきーりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆーびきった!!!」

 

 

 

 声が聞こえた。

 

 これは、私とひーちゃんの最後の記憶だ。何でそれを今思い出す。

 

 薄目を開けて、右手を見ると、そこには片時も外すことが無かったブレスレットがあった。

 

 「!」

 

 それを見た時、私の何かが覚醒した。そして、魔女の攻撃を間一髪でかわした。

 

 ダメ…

 

 私の中で何かが叫んでいた。そんな終わり方は絶対にダメだと。

 

 そう思った時、ソウルジェムが濁るスピードが遅くなり、ろうそくの灯程度の光が残った。

 

 この魔女だけは、絶対に倒さないといけない。

 

 だけど、どうやって?

 

 そんなのはもう、一つしかない。

 

 私は細いツルを二本出した。それを岩や地面に思い切りぶつけ、ピシピシと大きな音を出した。

 

 「こっちへ来なさい!さぁ!!!」

 

 私は音を出しながら、結界のある方向だけを走り出した。

 

 音につられて魔女が、結界を伴ったまま移動する。

 

 結界で周囲の空間が変わっても、村周辺の森は私の庭みたいなモノだ。今どこにいるのかが感覚で分かる。

 

 お願い、保って、私の体!!

 

 私は、ツルが消えないようにしながら、渾身の力を込めて足を前に進めた。

 

 魔女の攻撃で転びそうになっても、私は何とか踏みとどまった。

 

 そして…、

 

 「何よこれ?」

 

 「分からない。魔力が近づいてきてると思ったけど、急に結界が…」

 

 「どこかに留まるモノじゃ無かったの!?」

 

 そんな声が聞こえて来た。

 

 良かった、町に入ったんだ。ここの魔法少女は武闘派が多い。きっと、どうにかしてくれる。

 

 緊張が解け、今まで無理矢理抑えていた濁りの早さが、少しずつ戻っていく。

 

 だけど、私の心はいつにもまして晴れ晴れしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひーちゃん、私、村を守れたよ。だけど、約束は守れそうにないや。

 

 ごめんね。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「何…だよこれ…」

 

 結界の最深部まで来た魔法少女たちは、今までにない光景に唖然とした。

 

 「共食いしてる…」

 

 「って、何やってんのよあなたたち!!チャンスじゃない!敵は私たちに気付いてないし、グリーフシードだって二つも手に入る!さっさとやるわよ!!」

 

 リーダーらしき少女の掛け声に続いて、魔法少女たちは魔女同士が争っている場所に飛び込んでいった。

 


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