その1 「なぜ」俺の占いは外れるようになったのか
キーン キーン キーン キーン…
耳鳴りが聞こえる。モンスターが現れた合図だ。
丁度いいと思った。
モンスターと契約を交わした仮面ライダーは、野生のモンスターとも戦わなければならない。
一般人が被害にあってしまうからというのもあるけど、それ以上に、そうしないと契約モンスターに自分が食べられてしまうからだ。
モンスターだって生き物だ。食べ物が無ければ生きていけない。契約を交わしたモンスターは、人間を襲うことは止めるが、代わりにライダーが倒したモンスターの命を補食する。
戦うのを止めれば、モンスターは何も食べられない。なら責任取って契約者がエサになれということだ。
だから、耳鳴りが鳴ったらモンスターに食事を与えるチャンスなのだ。
だが、彼が丁度いいと思ったのはそういう意味ではない。確かめたい事があったからだ。
彼の名前は手塚 海之(てづか みゆき)。エイ型のモンスター、エビルダイバーと契約して、仮面ライダーライアに変身する男だ。
しかし、元々彼は仮面ライダーになる予定は無かった。彼が今使っているデッキだって、元々は彼の友人に送られた物だった。彼はピアノが得意だったが、浅倉威によってその夢は断たれた。そこに神崎士郎が漬け込み、デッキを手渡したのだ。しかし、ライダー同士の戦いを拒んだ彼は一向にライダーにならず、しびれを切らした神崎士郎がモンスターを派遣し彼を殺害。友人の意志を継ぎ、ライダーバトルを終わらせる為にモンスターと契約を交わした。
手塚海之の職業は天才占い師。「俺の占いは当たる」が口癖で、文字通り100%当たる占いとして評判だった。しかし―、
ピン!
手塚は、ポケットからコインを取り出すと、親指で弾いて真上へ投げた。
クルクルと宙を舞ったコインは、そのまま落下していき、手塚はそれを手の甲ともう片方の掌で挟み込むようにしてキャッチした。
占いの定番、コイントス。それは、コインの表と裏だけで判別するのではない。それ以外にも、コインの落下箇所、落ちた時のコインの角度、その時の空気の動きなど、様々な要素を考慮した上で判断する。
手塚は、いつもの要領で考え、結論付けた。
「2体」
そう言うと手塚は、窓にデッキをかざした。バックルが現れて、巻かれる。
「変身!」
彼はバックルにデッキをセットした。全身が、ピンクを基調とした、エイのような姿のライダーにへと変わった。
ミラーワールドに入ると、そこにはゲルニュートが2体現れていた。
『SWING VENT』
ライアは鞭、エビルウィップを召還し、立ち向かった。
電流を帯びたしなる鞭を自在に振り回し、モンスターに攻撃のペースを作らせない。
鞭の予測しづらい軌道に翻弄され、連携が売りの筈のモンスターが本来の力を出せてなさそうだった。
このまま終わらせる。
そう思ったライアはデッキからファイナルベントのカードを取り出したその時だった。
「ぐわぁ!」
背中から、鋭い痛みが走った。
2体のモンスターは目の前にいる。何故…。
振り向くと、大きな手裏剣を持ったゲルニュートが1体、姿を見せていた。
「くっ…」
そこで怯んだのが良くなかった。
これが好機と、続けざまにモンスターが殴る蹴る斬ると、手塚の体を痛め付けていく。
「くそっこのままじゃ…」
『ADVENT』
痛みを堪えながらライアはエビルダイバーを召還し、それの体当たりで3体の内の2体の体を宙に浮かした。
『FINAL VENT』
その隙にライアはさらにカードをセット。
エビルダイバーが彼の元に戻り、ライアはその上に乗った。
そして、更に加速をかけ、落下していく2体のモンスターへ突進。ゲルニュートは爆発四散した。
しかし、手裏剣を投げたゲルニュートの姿は見当たらなかった。仲間がやられたと見て、逃げたのだった。
「・・・・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
現実世界に戻ったライアは変身を解き、大きくため息をついた。
また占いが外れた。これで何度目だろうか。
ある時から、正確には神崎士郎がライダーバトルの中止を呼び掛けてから、手塚の占いは全く当たらなくなっていた。
それに気付いたのは、一人の女性が手塚にクレームを言ってきたのがきっかけだった。
その女性には、「近い内に出会いがあり、その男と結婚する」と伝えた。
だが、その女性が出会ったのは結婚詐欺師でお金を騙し盗られたとの事だった。
そんな筈は無いのに…。それ以来、事あるごとに自身に占いを行うようになった。次に自分の前を横切るのは男か女かとか、駐車場に来て、今から10分間に何台の車が駐車するのかとか、本当に色々と。
しかし、全て外れた。
手塚は、自分の占いに絶対の自信を持っている。だから、外れる事はあり得ない。それには、外的要因が絡んでいるに違いないと思った。
思い浮かぶのは、やはり神崎士郎がライダーバトルを中止した事だ。
さらにもう一つ手掛かりがある。
ミラーワールドに入った時、何か糸のような、オーラと呼ぶべきモノだろうか?それが何かに向かって伸びているのを感じた。それは、占いをするときにいつも感じているモノと酷似していた。
だけど、感じたと言っても虫のようなか細いモノだ。辿るにしても、どこへ繋がっているのかが分からない。
「ふぅぅぅ…」
これはもうダメだと思った。見ると、傍に「花鶏」という喫茶店が。
ちょっと一息入れよう、そう思い、ドアを開けた。
「いらっしゃ~い」
チリンチリンという音と共に元気な声が聞こえて来た。小さいながも多くのお客さんがいてそこそこ混んでいた。店員は先ほど声を掛けてくれた50~60代位の女性しか見当たらない。一人で切り盛りしているのかと思ったが、ゲイツ君や蓮ちゃんは居候の癖にどこをほっつき歩いてるんだと小言を言っていたので、そんな事も無いようだった。
手塚はカウンターの向かって左端の椅子に腰かけた。
「コーヒー」
そう注文すると、女性はカウンターに乗り出して、
「家はね、紅茶専門」
と鋭い目つきで言われた。
これは失礼と詫び、改めて紅茶を注文すると、早速ブレンドし始めた。
「………」
普通なら、何てことない会話だ。たまたま見つけた店が、こだわりの強い店だったというだけ。初めて入るのだから、専門店だと知らなくても無理はない。
しかし、手塚は違う。この店が何を提供するのか、いつもの彼なら事前に見る事ができたはずだった。そんな小さな事も見えなくなっている自分に落胆した。
一体、何が起こっているというんだ。
と、何気なくカウンターに目をやった時―
「!!!!」
手塚は弾かれたように立ち上がった。ガタっという大きな音を立てたので、周りのお客さんも驚いて彼を見つめる。
「どうしたんだい?一体…」
紅茶を作っていた女性も声をそう掛けたが、今の手塚には、それよりも重要なことがあった。
「すいません、この写真は何ですか!?」
そう言って手塚は一枚の写真を剥ぎ取って女性に見せた。それは、一組の男女が肩を寄せ合いながら笑顔を浮かべている写真だった。
「何って、優衣ちゃんと士郎の写真だろう?それがどうかしたのかい?」
「士郎!?」
その名前に反応し、すぐに写真を見つめる。すると、男の姿に驚愕した。その男は、ミラーワールドに時々姿を現していた神崎士郎だったのだ。
普通なら、写真の人物に真っ先に目が行く。知り合いであるなら、なおさらだ。にも拘らず、手塚が見落としてしまったのは―、
「あの、この家は何ですか!?」
二人が立っている背景、レンガ造りの大きな家に注目していたからである。
「あ~これは優衣ちゃんと士郎が子供の時住んでいた家だよ。と言っても、二人にとっては良い思い出は無かっただろうけどね」
「良い思い出が無い?」
「優衣ちゃん達のご両親は既に亡くなっているんだけどね、生前は酷く二人を縛っていたらしいのよ。ほとんど家の外にも出させないで閉じ込めてね。それに併せて火事騒ぎもあったし」
「火事?」
「優衣ちゃんが8才位だったかな?家が燃えているのを通行人が通報して消防署が来たことがあったのよ。でも、それは嘘だったらしいけど」
「嘘…とは?」
「消防車が現場に行ったけど、全く燃えて無かったのよ。通報者は確かに轟音と窓ガラスが割れる音を聞いたって言ってたらしいけど、実際には何も起こっていないのだから当然聞く耳持たず、悪戯だろうって処理されたわ。だけど、そのお陰で二人の折檻にも気付けたから特別にその人にはお咎めは無かったらしいわ」
「二人のご両親は?」
「それがあの騒ぎ以来行方不明なのよ。警察は虐待の容疑ですぐに捜査を始めたけど、今日まで影も形も無し。全く、どこへ行ったのやら…」
手塚は改めて写真を見つめた。壁掛けにあるのは、優衣と士郎、二人で写っている写真ばかりだ。本当に仲が良かったのだろう。
「二人は…優衣と士郎はどこに?」
「しばらくは家で預かってたんだけど、優衣が8才の時に離れ離れになったわ。士郎がアメリカへ、優衣ちゃんは私と一緒に残る形でね」
「その、優衣という人物に会えませんか?」
「あんた凄い食いつくね~、ま、悪い子には見えないし会わせてもいいけど、お生憎様、今はいないのよ」
「いない?」
「しんちゃん―ここに住んでる居候の事だけど―の話だと、長期の旅行に行ったんだって。アメリカにいる士郎の所にでも会いに行ったのかね?」
それはどうだろうと手塚は思った。士郎は今、どこにでもいてどこにもいない。ライダーのデッキを作り、ミラーワールドで戦わせるように仕掛けている。優衣はどこまで知っていたのだろうか?
「この家の住所、お教えいただけませんか?」
最後に手塚は、写真の住所を訪ねて花鶏を去った。
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「(そう言えば、優衣と別れる前に、士郎は妙な事を言ってたのよね)」
手塚が帰った後、写真を見つめながら、神崎優衣と士郎の祖母、神崎沙奈子はある事を思い出していた。
『離せ!俺は優衣の傍にいないといけないんだ!俺がいないと優衣は20歳の誕生日に死んじゃうんだ!』
「(なんか真に迫る感じだったのよね…)」
そして、虚空を見つめながら思った。
「(優衣、早く帰ってきなさいよ)」
その20歳の誕生日は2003年の1月19日。もうすぐなのだから。
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手塚が写真を見て飛び上がった理由は、写真に写っている家を見た時ミラーワールドにあった“霞がかった糸”をこれまでにもなくはっきりと感じたからだった。
感じた処ではない。感じたモノは言わば塊。糸がこんがらがって、球になった繭。
単純に考えれば、ミラーワールドで感じていた糸全てがあの家に集まっているという事だろう。
四方八方、あらゆる方向から家に向かって集まっていたから、一方向にある糸が弱く、霞の様にしか感じなかったのだろう。
そして、手塚はようやく、ミラーワールドに蔓延していた糸の正体が分かった。
少し考えれば分かる事だったのだが、あれだけはっきりと見るまで分からなかったなんて、占い師失格だなと手塚は苦笑した。
あれは、人間の“運命”を構築しているエネルギーそのものだ。
人間一人一人には皆、一本のレールに乗っている。それが“運命”と呼ばれるモノだ。
占い師とは、その人の未来を教える職業だ。多くは金儲け目的の偽占い師だが、手塚も含め、一部の人間には、本当に未来を見る事ができる占い師もいる。
これは、生まれ持った体質に関係している。修行とか努力とか、そのようなもので身に付けられる能力ではない。生まれた時の魂の形が未来を見るのに適していたと言うことが正しい。
その体質の人が、ある一定の行動をする事で、未来を見ることが出来る。やり方は見る人によって十人十色。コイントスで見える人もいれば、タロットカードで見える人もいるし、対象に触れるだけでその人の未来が見える場合もある。
さて、ではその“未来を見る”という行為は、厳密にいえば何を見ていることになるのだろうか。先ほども言ったが、人間は誰でも、“運命”と呼ばれるレールに乗っている。つまり、人間の未来は生まれた時点で全てが決まっているのだ。
身長が何センチ伸びるのかとか、誰と出会い誰と友人になるのかまで全て。それは、例え事前に分かっていたとしても、いずれそうなってしまう。修正力と呼ばれるものだ。つまり、占い師とは、その人が乗っているレールを、即ち“運命”を見る職業なのだ。
ならば、占いが外れるようになった理由はたった一つ。そのレールが壊れ、変わりつつあるからだ。全て決まっていた出来事が、揺らいでいる。はっきりとしていた道が舗装されて、新しい道が構築されつつあるのだ。
普通ならこんな事は起こらない。それが起こっているという事は、もはや神の所業だ。
だとすると、なるほど。神崎士郎がライダーバトルを中止した理由も今なら分かる。
デッキを渡した時の神崎士郎の言葉はこうだ。「ライダーバトルで最後に勝ち残った勝者には、何でも一つ願いを叶える」と。「願いを叶える」という事は、“運命”に変換すれば、本来あるはずだった運命を歪めてその人の望む未来にへと方向を変える行為だ。ミラーワールドとは、そんな神の力がある場所だとも言える。
もうすっかり慣れてしまったから忘れてしまっていたが、そもそも異形の怪人と戦えるだけの身体能力だって、元を正せばミラーワールドから与えられた力だ。それだけ多くのエネルギーが眠っている場所なら、運命を変えられるだけの力があったとしても不思議ではない。
神崎士郎がどのようにしてその神とも近しい力に近づいたのか、それとライダーバトルにどのような関係があるのかは分からないが、もしも、その「運命を変える程のエネルギー」に何らかの干渉があったのだとしたら、中止にしてでも対処しようとしているのにも納得がいく。
「!!!!ウグッ!」
目的の家まで近づいた時、手塚は思わず膝をついた。空気が重い。エネルギーが体に纏わりついているのが分かる。明らかにここは異質だ。
キーン キーン キーン キーン…
モンスターの気配を感じ、ヨロヨロと立ち上がり問題の屋敷へ行くと、それはモンスターでは無く、ライダーが映っていた。それも今まで見たことが無い、しかし、他のライダーやモンスターとは異なる雰囲気を持ったライダー。
「変身!」
手塚はライアに変身し、すぐにミラーワールドに入った。
「何だ…これは」
入ってすぐに異質だと分かった。
ミラーワールド上空に、白と黒で半分に分かれた殻状の大きな球体が浮かんでいた。
目視できる程の濃い運命エネルギーがあの球体に流れ込んでいるのが分かる。あれが元凶である事は間違いないだろう。
圧倒的な存在感。ただそこにあるのを見るだけで体が動かなくなるような、圧倒的な力を感じた。
少し離れた所に、先ほど見えた金のライダーの姿があった。
あの球体で忘れそうになるが、あのライダーも異質だと直感で分かっていた。
そこにあるようで無い、全く生気が感じられないのだ。にも関わらず、あのライダーからは、自身とは比べ物にならない程の力を感じていた。まるで、戦う為だけに存在している人造人間かのような。
オーディンは鳳凰召錫 ゴルドバイザーにデッキのカードを一枚セットした。
『SWORD VENT』
オーディンは2本の刀、ゴルドセイバーを召還した。
『ADVENT』
さらに、契約モンスターであるゴルドフェニックスを召還し、自身の肩にしがみつかせた。
『優衣』
声が聞こえ、ライアは急いで辺りを見渡した。そこには―、
「神崎士郎…」
神崎士郎が窓にいた。いや、正確には窓に「映って」いた。それも一枚にでは無い。屋敷にある窓全てに神崎士郎の姿が写っていた。というか―、
「(あいつ今、優衣って…)」
『優衣、今度こそ、お前を救い出す』
その声を合図にオーディンはパッと消え、殻の真上にゴルドセイバーを突き刺した。しかし、びくともしない。すると、その殻がバッと開いた。その勢いは、瞬間移動によってかわされた。
殻だと思われていたモノは白と黒の羽だった。向かって右半身は黒い羽根で、全身が鎧のようなような物で覆われ胸には『FAM』という文字が彫られ、顔もオペラ座の怪人のような嘴のある仮面を付けていた。腰には、ライダーについているようなバックルとデッキがその鎧に半分だけ埋め込まれていた。逆に向かって左半身は仮面も鎧も付けておらず、すらっとした白いドレスを身にまとい、前髪の髪留めにある白い宝石がキラキラと輝いていた。
「あれが、神崎優衣…?」
確かに面影はある。しかし、写真に写っていたようないたようなあどけなさは欠片もない。肌は白く、目の光は失われ、口は緩く、真一文字のまま動かない。感情の全てを失ったかのような顔だった。
オーディンは再度彼女の傍に瞬間移動し、斬りつける、が、どこから出したのか、グレーの薙刀で受け止める。それを大きく振り、返り討ちにしようとするが、それを瞬間移動で躱し、後ろに回り込むと再度斬りつけようとしたが、それも後ろに回した薙刀によって防がれる。
すると、腰にあったデッキが黒く光り、一枚のカードが宙に浮いた。その一端が薙刀に触れると、そのカードが黒い炎で燃え上がり、
『GUARD VENT』
いつもカードをセットした時に流れる音声よりもさらに低い声だった。
すると、両方の羽が一気に噴出し、オーディンを吹き飛ばした。ライダーの体が勢いよく屋敷の壁にぶつかる。
『!優衣!目を覚ましてくれ!!』
いつもの神崎士郎とは思えないほどの取り乱し方だった。しかし、その声が届いた様子はなく、優衣はさらにカードを一枚セットする。
『STRIKE VENT』
優衣は薙刀を上に向けると、無作為に噴出された羽が全てオーディンとライアに向いた。
オーディンは先ほどのダメージなど無かったかのように立ち上がり、淡々とそれに対処しようとする。
『GUARD VENT』
それを見て、ライアも慌ててカードをセットした。
『COPY VENT』
オーディンはゴルドシールドを召還し、ライアもそれをコピーし自身にも装備した。
その瞬間、優衣の周りにあった羽が一斉に発射された。
「グゥッ!!!」
このゴルドシールドは、とてつもない硬度を持っていることはすぐに分かった。その盾で防いでいるにも関わらず、衝撃はとてつもない物だった。棒立ちだったオーディンさえ、衝撃を抑えきれずに膝をつく。
『SWORD VENT』
加えて優衣は新たなカードをセットした。薙刀の表面に紫の結晶がコーティングされる。そうして形成された薙刀をオーディンに向け、結晶部分を発射した。
ガシャン!!
結晶はゴルドシールドと相殺し砕かれる。
間髪入れず、彼女はオーディンに接近し、結晶付きの薙刀を振り下ろした。オーディンは二本のゴルドセイバーで挟み込むようにして防いだが、今まで傷一つ無かった剣にヒビが入り、根元から折れ、ライダーの胴体に一閃入れられてしまう。よろりとオーディンの体はよろめいた。
『FINAL VENT』
その隙に優衣は最後のカードをセット。すると、彼女の頭上に黒い球が現れた。それが、徐々に広がっていき、羽が、頭が、尾が現れていく。
「あぁ…」
手塚はその姿に酷く驚いた。そして分かった。あれは、開けてはならなかったパンドラの箱なのだと。次元が違う。
それは、カラスを思わせるような黒い胴体、黒い羽根を持っているが、頭はダチョウのような細い首が伸びた先に付いていて、その首には目がびっしりと付いていた。そして、その首が三本並んでいた。
さらに、そのモンスターが現出するや否や、周囲の空間が歪なモノにへと変わっていった。普通の青空だった空が絵具をぶちまけたかのように黒や緑が混ざったような不思議な色に変わり、地面は反対に赤やオレンジが混ざった明るい色になり、そこから大きく不思議な形の彫刻が生え、頭部と思われる個所から出血しているかのように赤い絵の具が流れていた。さらに、地面からは、胴体は無く細い脚の上に嘴の付いた頭が付いた、まるで子供が描いた鳥が出て来て、それがオーディンを囲って脚を曲げたり伸ばしたりとピョコピョコダンスを踊っていた。
それを見届けると、優衣は薙刀を地面に向け、勢いよく突き刺した。すると、オーディンの足元から結晶が噴出し彼の体は宙に浮き、それを結晶で固定する。その宙に浮いた体を待ち構えていたモンスターが捕らえると、三つの嘴を向けて突進、その体を貫き体は爆発四散した。
踊っていたモンスターは奇声を発した。ライダーが倒された事を称えているようだった。
「……………………………………」
あっという間だった。仮面ライダーオーディンは、明らかにライアとは一線を画していた。しかし、そんなライダーの力をもってしても、手も足も出なかった。そして、仮面ライダーライアは何も出来なかった。
気が付くと、窓に映っていた神崎士郎の姿は消えていた。
オーディンの爆発を見届けると、優衣はここで初めてライアに目を向けた。その瞬間、ライアの体がこわばった。手塚は、ライダーバトルには消極的だったが、今まで一般人からモンスターの脅威を守るために戦ってきた。決して、臆病というわけでは無い。そんな手塚が、戦いにおいて初めて恐怖を感じていた。これはもう、一個人がどうこうできるレベルを遥かに超えている。勝てる確率はゼロ。確実に殺されると。
しかし、優衣は一瞥しただけですぐに目を反らした。脅威にすら感じていないという事だ。
つまり、今なら簡単に逃げられる。普通ならホッと感じても良いはずだった。だが、手塚は恐怖を感じると同時にこうも感じていた。これは、長年占い師をしていたから分かる勘だ。
“今倒さなければ、確実に世界が終わる”と。
一目見た時から分かっていた。今の彼女はまだ子供のような存在で成長過程の段階だ。
運命エネルギーを取り込んで、自身の力を蓄えている状態。だからさっきも、羽で自身の体を包んで眠っていたのだ。
なら、十分にエネルギーを吸収したらどうなるのか。それこそ、本当に取り返しがつかなくなる。運命を自在に操る、正真正銘の神の誕生だ。
ここで止めなくては…。
手塚は、デッキから一枚のカードを取り出し、震える手を抑えながらそれをセットした。
『FINAL VENT』
ライアは、自身を無理矢理奮い立たせ、エビルダイバーの背に乗った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」
手塚海之こと仮面ライダーライアは、最大の力を込めて、優衣の背に向けて突進していった。
優衣はゆっくりと振り向いた。そして―、
全てが真っ黒になった。
脱落者 2名
新規参入者 0名
戦闘可能総数 11名