仮面ライダーレンゲル☘️マギカ   作:シュープリン

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その3 皆、疲れているのか

 これは、角無舞花自身も気付いていない事なのだが、彼女がそうなってしまったきっかけは幼少期にある。

 

 先にも話したが、角無舞花は昔から飛びぬけて運動ができる子供だった。だから、例え自分より年齢が上の子供の前で、体操教室のお手本をやらされた事も何度もあった。彼女自身も、人前でやる事に全く恥ずかしさは無く、むしろ自分はできるんだという事を周囲に自慢できて誇らしい気持ちになっていた。

 

 そんなある日の事だった。

 

 いつものように子供たちの前で手本を見せて、母親の所に戻ろうとしたとき、ヒソヒソと話している声が聞こえた。

 

 その話し元は、その教室に通っている子供の母親だった。舞花は、何度も人前でお手本を披露していく内に、何人かの子供や大人の顔は頭に入っていたからすぐに分かった。

 

 「またあの子。一体何のつもりかしらね」

 

 「いやみよいやみ。自分の子供はあなた達の子供よりも優秀ですよって見せつけているのよ」

 

 「いや~ね~。意地汚い。そんな見栄の為に子供を利用して、しかも見世物にするなんて、子供がかわいそう」

 

 舞花はまだ幼かったから、二人が何を話していたのかは理解できなかった。だけど、二人が舞花の母親に向けていた視線。あの時の目が凄く怖くて、そんな目が自分の母親に向けられているという事実に、とても悲しくなった。

 

 一度気付いてしまうと、無視しようとしてもどうしても目に入って来てしまうのが常である。舞花はその後も、他のお母さんたちもチラチラと自分の母親にあの視線を送っていた事に気付いた。しかもそれは、舞花がみんなの前でお手本を披露した後に多いという事も。

 

 それで何かが大きく変わったという訳はない。視線を向けてくる一人一人に「止めて!」と怒るとか、そういう事はしなかったし、もちろん母親も何か行動を起こすという事はしなかった(そもそも母親は、舞花の活発な性格にいつも手を焼いていたので気付いていなかった)。

 

 だけどその後、彼女の中で僅かな変化は起こっていた。それは無意識でやっていた事だから舞花は気付かず、本当に小さな変化だったから両親も見逃していた事。

 

 自転車の補助輪が外れた、一輪車に乗れた、二重跳びができるようになった。成長するにつれて出来る事はどんどん増えていったが、それを自分から見せるようなことはしなかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「痛ったぁぁ!!!」

 

 魔女の結界、最深部。そこで角無舞花は一体の魔女と対峙していた。

 

 いや、対峙しているとは言えないかもしれない。

 

 それは傍から見れば一方的に痛めつけられてるようにしか見えないのだから。彼女の攻撃はとても単調だ。一直線に特攻し、相手の懐に入って行動する。

 

 ナイフを前にして怯んでしまう一般人相手なら、その戦法でも十分に戦えるのだが、相手はそんな恐怖心とは無縁の魔女だ。

 

 一直線に突っ込んで行けば、必ずその隙を狙われるし、長くなればなるほど相手の癖なんかも学ぶことが出来るから、場合によっては相手が構えるより前に罠を張るなどして攻撃を加える事も可能だ。

 

 そうなればもう泥沼。相手の攻撃をただ受けるだけの一方的な攻撃。魔法少女とは言え限界はあるし、それがもしもソウルジェムに届きさえすれば一発で死ぬ。殺られるのは時間の問題だ。と、ここに観客がいれば誰もが判断するだろう。

 

 だから初めにこう言ったのだ。傍から見れば、一方的に痛めつけられているだけの様に見えると。

 

 そう。傍から見れば魔法少女の方が不利な状況にあると見えるだろう。

 

 「さて」

 

 舞花はゆっくりと立ち上がった。魔女の攻撃によって受けた傷がたちまちに癒えていく。

 

 故に気付かない。一方的に攻撃を受け続ける事こそが彼女の作戦であるという事に。

 

 「それじゃあ、始めましょうか!」

 

 舞花は勢いよく飛び出した。しかし、今度は一直線に突進では無い。ウサギの様に、空間を立体的に飛び回りながら近付き、魔女に短い双剣で切り裂いた。

 

 すぐに魔女は反撃を繰り出そうとするが、その時には舞花は床を蹴り上げて空中へ、更に天井から魔女の元へ超スピードで落下し、その勢いでまた斬りつける。

 

 今度は魔女が翻弄されていた。攻撃をしようと構えた時にはもう対象は別の場所にいる。そして気が付けば自身が斬られている。その繰り返しだった。

 

 それはもちろん、彼女が速くて攻撃が当てられないという事もあるが、それ以上に大きいのは、攻撃の予測が一気に出来なくなったことだ。

 

 戦闘が長期化してくると、相手の攻撃パターンや癖なんかが何となく分かるモノだ。しかし、彼女の場合はそのセオリーが通じない。先ほどとは全く違う動きで立体的に動いて攻撃を仕掛けているのだから当然だ。とは言え、先ほどとは別の形で攻めてくる人相手に瞬時にそれに対応するというのは、二重の意味で無理な話だった。

 

 舞花は双剣に魔力をこめた。

 

 「これで…終わり!!!!」

 

 舞花は腕を大きく振り、魔女をバツ印に切り裂いた。そして魔女は倒れ、結界は消滅した。

 

 

 角無舞花が契約によって手に入れた魔法は二つあった。一つは『治癒力の増加』。人よりも早い回復能力を有しているので、ある程度の怪我であれば数秒で治す事ができる。

 

 もう一つは『思い込みの付与』。「相手がこう来るなら、こういう時はきっとこう来るだろう」、「相手がこう動いたなら次はこう来るはず」。誰もが感じた事がある行動の予測。それを人為的に、色濃く相手に与える事ができる魔法だ。

 

 彼女の戦法は、この二つをフル活用したモノだった。

 

 それを説明するうえで、二つ目の魔法、『思い込みの付与』についてもう少し詳しく説明しておこう。まず、覚えておきたいのはこの魔法は幻覚とは違うという事だ。幻覚とは、対象の脳に自身がイメージしたモノを無理矢理書き込み、その思考を支配する事だ。だから、相手の脳が、幻覚を埋め込まれる直前に何を考えていたのかはあまり関係がない。考えていたモノを全てグシャグシャに塗りつぶしたうえで新しく書き直すのだから。必要なのは、幻覚を使う者のスキルだけだ。

 

 だが、「思い込み」は違う。思い込みをする為には、そう結論付けるための知識や経験が必要だ。例えば、ある学校の給食の主食が、ご飯→パン・麺→ご飯→パン・麺→ご飯と一週間続いているとしよう。入学したばかりの頃は、今日の給食は何かと献立を見る時、主食がどのような部類であるかも注視するが、ある程度の時間が経過すると、曜日によってどのような系統の物が出るのかを想像できるようになる。そうなると、その学校の生徒達は、いついかなる時でも火曜日と木曜日はパンか麺が、月水金はご飯が主食に来ると考える。別にその周期がずっと続いたからといって未来永劫そうであるとは限らないのに、だ。このように、思い込みというのは、過去の経験の積み重ねによって成り立ち、それはその経験をさせられた日数が多くなるほどその思考が強く頭に残る。

 

 角無舞花の『思い込みの付与』というのは、その、相手が抱える思い込みが脳に強く浸透するまでの時間をある程度スキップさせる事を厳密にいえば指すのである。

 

 だからこそ、先の戦闘では舞花は最初あのような行動をしたのだ。幻覚とは異なるのだから、まず初めに相手に、思い込みをさせる上で必要な知識を埋め込まなければならない。それが単調な攻撃だ。単調な攻撃を繰り返す事によって「相手は猪突猛進型だから、相手が立っている場所の延長線上に攻撃を仕掛ければよい」という思考を浮かばせ、それを彼女の魔法で通常よりも強く頭に染み込ませる。

 

 その間に受けた攻撃は、一つ目の魔法、治癒力の増加で癒す。そうなれば後は彼女の独壇場だ。彼女が得意としているジャンプ力を利用した立体的な動きによる攻撃法に切り替えれば、相手は混乱する。攻撃しようにも頭に強く過去のデータがインプットしてしまっているのですぐに順応する事ができない。その隙に、短時間で相手を攻めて倒す。これが彼女の考えた戦法だった。

 

 そしてそれはちゃんと結果として出ている。持ち前のチャレンジ精神や運動神経もプラスして、舞花の戦歴は全戦圧勝。魔女もこれで6体目だ。

 

 「ふぅ~倒した倒した♪」

 

 戦利品であるグリーフシードを指で弄びながら舞花は満足そうに言った。

 

 「僅か5日でここまで…君は中々の才能を秘めているよ」

 

 「ふふっありがと」

 

 舞花は素直に褒め言葉を受け取った。全てが絶好調だった。

 

 キュゥべえと契約を交わしたその次の日、舞花は誰よりも早く登校し、バレーボールの練習を始めた。

 

 彼女は驚いた。もう痛みも違和感もない。舞花の足は、階段から転げ落ちる前と何も変わらない。健康な足そのものだった。

 

 朝練で体育館に入って来た部員たちの表情は、今でも脳裏に焼き付いて離れない。最初は何やってるの!?と、心配する声を多数掛けられたが、大丈夫だと一蹴。その後、確実に復帰できるように病院で検査を受けた。舞花の驚異の回復力に誰もが驚いたが、異常が無いという事実は変わらず、幾つかの検査の後、もう自由に動いて大丈夫だと、医者からのGOサインも貰った。

 

 レギュラー編成も全て元に戻り、また舞花はたかしと同じ土俵に立つ権利を獲得する事が出来た。

 

 大会までは後4日。絶対に優勝してみせると舞花は決意を新たに前に進む。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ところで、舞花の通っている高校、葵重高校には、生徒に大人気なモノがもう一つある。それは、新聞部が毎月出している広報誌『葵新聞』だ。

 

 葵新聞とは、学校で起きた些細な出来事から、イマドキの高校生に人気なスポットまで、葵重高校の生徒が今一番求めている情報をピックアップし、その情報を隅から隅まで掲載したモノだ。

 

 もちろん、葵重高校は運動が盛んなので、何か大会が開かれると、その大会に出場する部や選手にスポットを置いた記事を展開する。

 

 とは言え、これらは全て部が出来た時から行われたモノなのだが、実は今日のような人気を獲得するようになったのはつい最近の事だ。と言うのも、女子バレーボール部に期待の新星、角無舞花が入部したように、その一年前、新聞部にも期待の新星が入部してきたからだ。

 

 名前は星野保(ほしの たもつ)。保は、新聞記者の父がきっかけで、自身も情報を発信するような立場に付きたいと考え入部。

 

 そんな彼が今、今月号をどうするべきかで酷く考えあぐねていた。

 

 バレーボールの大会があるのだからそれを取材すれば良いと思うだろうが、生憎、バレーボール部についてならこの1年間でほとんど取材し尽くしてしまったし、特に男子バレーボール部員の情報何かは、自分が取材するよりもずっと、ファンの女の子達の方が詳しいだろうと考えていた。

 

 既に他の生徒が知っている情報には興味が無い。それでは新鮮味が無い。そこで、女子バレーボール部にいるという期待の新星、角無舞花を取材しようと思いつき、すぐに取材を申し込んだ。最初は良い返事を貰えなかったが、「是非舞花の記事を見てみたい」という部員の後押しもあって、最後は了承してくれた。

 

 個人を取材する場合、より多くの情報が欲しいため、先月号が発表されたその次の週から密着取材が始まる。

 

 そんな中、予選大会3日前の事だ。彼女にインタビューする機会に出会えた。

 

 保は、部員全員が帰ったのを見計らって、自身の鞄からレコーダーを取り出し、スイッチを入れた。

 

 

 『えっ?何?録音するの?』

 

 『事実と食い違った内容は入れられませんから念のため』

 

 『何か恥ずかしいわね』

 

 『皆そう言うんですけど、時期に慣れますよ。さ、時間も惜しいですし、始めましょうか』

 

 『うん、よろしく』

 

 『早速ですけど、舞花さんは昔から運動が得意だったというのは本当ですか?』

 

 『まぁね。小学校の時なんか、私をチームに入れた方が勝つと言われてた程だったわ』

 

 『そんな舞花さんが、運動部でバレーボールを選んだきっかけは何だったんですか?』

 

 『きっかけは些細なモノよ。私のママがPTAでバレーをやってて、それで興味が湧いたってだけ』

 

 『・・・・・・・それだけ…ですか?』

 

 『それだけ?』

 

 『いやね、多分舞花さんが色々な運動が得意になったのって、それらをちょっとしたきっかけで始めたモノが多いんじゃないかと思いまして』

 

 『そりゃぁ、まぁ。サッカーとかは近所の子がやってたのを見て興味が湧いたとか、そういうのがあるけど、それが?』

 

 『いやね、そうやってちょっとしたきっかけで色々始めて、そのほとんどで凄い成績を残してるんでしょうから、その競技を全て愛していたと思うんですよ。だからこそ、一つに絞るのは凄く迷ったんだと思うんですが、それにしてはあっさり決めたなぁと思いまして』

 

 『あっさりって、さっきから何言ってんのよ?』

 

 『あっ、すいません。いやね、バレーを始めたきっかけは確かにPTAかもしれませんが、バレーボールに絞ったきっかけは別にあるのではと思いまして』

 

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・別に、特にないわよ』

 

 『あぁ~そうですか、すいません、ちょっと意地悪しました』

 

 『意地悪っていうか、あんた妙な所に引っかかるn』

 

 

 星野保はここでレコーダーを切った。自分で言った通りだ。あの時は、ようやく千翼のインタビューにこぎ着けた事に舞い上がって、少し意地悪な質問をしてしまった。

 

 だけど、あの時、あの質問をした時の彼女の目がどうしても気になった。

 

 嘘をついているようには見えなかったが、何というか、『そうなんだ』と自分に言い聞かせていたような…そんな考えが頭をよぎった。

 

 ただの勘だ。何の根拠もない。だけど、一時気になったら確かめずにはいられない主義だった保は、もう一度話を聞こうとしたのだが―――――。

 

 保は、デジタルカメラのデータを見ると、ふぅっとため息をつき、記事作りに取り掛かった。今月の特集は、『葵学生の夢見るカフェ』。来月特集しようと思っていた記事だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 全国大会前日。その日は、朝早くからバスで会場へ行かなければならないので、コンディションを整えるためにも、早めに部活を切り上げて、帰宅するようにという命令が来ていた。

 

 千翼的にはもう少し練習していきたかったが、部長命令なら仕方ないと渋々帰り支度をしていた。

 

 更衣室を出た時、横目に友達の久米幸子が帰っていくのが見えた。

 

 そう言えば、最近は遅くまで練習練習で、一緒に帰ってなかったなと思い、急いで追いかけた。

 

 「さ~ちこ!」

 

 ポンと肩を叩くと、幸子はビクっと体を震わせた。

 

 「久しぶりね。こうやって一緒に帰るの。んもう!こういう時位声掛けたっていいのに~」

 

 「……………」

 

 「あっそうそう。幸子が貸してくれた漫画、返すね?遅くなってごめんね。あれから色々あったから返しそこねちゃって」

 

 と、漫画本を差し出すが、幸子は受け取らない。

 

 「…幸子?」

 

 さっきから一言も話さない幸子に舞花は訝しげな表情を浮かべた。

 

 「どしたの?体調悪い?それとも、何か気に障るような事言った?だったら謝r」

 

 「ふざけないで!!!」

 

 ここで初めて幸子は舞花に顔を向けた。その表情は怒りに満ちていた。

 

 「さっきからあなた何なの!?何で私にそんな風に話し掛けられるのよ!!?何で何も言わないのよ!!??気持ち悪いのよ!!!!!」

 

 「…………えっ?何を言って…」

 

 「今回だけじゃないわよ!その何も知りませんよ~っていう鈍感な振りした態度!!見てて気分が悪いのよ!!!!気付いてないとでも思ったの!?そんな下手くそな隠し事されてると余計に嫌になるのよ!最近のあんた本当分からない!何!?あなたは私にどうして欲しいのよ!!!!」

 

 「………さっきから言ってる意味が分からないわよ。一体あなた、何に怒って…」

 

 

 嘘だ。

 

 角無舞花は分かってる。ただ、それを話題にすると、後戻りできなくなるような。今まで積み重ねていたモノ全てが粉々に砕け散るような気がして、怖くて、認めたくないだけだ。事実、久米幸子が怒りをぶつけてから、舞花ソウルジェムは急激に濁っていった。

 

 「あんた、本当に何なの!?分かってる癖に、私が―」

 

 

 

 ダメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

 

 ライダーの世界に召還され、辺りを彷徨っている方の舞花の意識がギリギリで覚醒した。

 

 ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…

 

 心臓が、先ほどよりも遥かに激しくバクバク鳴っている。暑い訳じゃないのに、汗もダラダラ流れる。

 

 ダメよ。ダメダメ…。それ以上は…それ以上知ったら私…。

 

 

 『分かってる癖に』

 

 頭の中から誰かの声が聞こえる。

 

 『嘘、嘘、これも嘘。あんたの言葉はぜ~んぶ嘘に溢れてるって』

 

 「違う!!!!」

 

 舞花は目に見えない誰かに向かって声を荒らげた。

 

 『そう?これまでのも全部そうだったじゃない。例えば、小夜が死んだあのキャンプ場。あれだって、心の中では自分だけはあのカメレオンの化け物から逃げたいって思ってたんでしょ』

 

 「違う。そんな事思って無い!!」

 

 その声は、よく聞いた事ある人の声によく似ていた。

 

 『じゃあその次の日、小夜の仇討ちに行くって言った時は?死んでも構わないとか言ってたけど、本当はそんな事一ミリも思って無かったんでしょ?ただあの時、私だけが助かりたいって考えてしまった事を認めるのが嫌で、そういうポーズを取ったんでしょ?』

 

 「違う…私は…」

 

 生まれてからずっと自身の耳で聞いている声。

 

 『何が違うのよ?本当にそう思ってるんなら、黙って出ていくもんでしょ?睦月なんかにいちいち宣言しに行かないでしょ?あんたは分かってたのよ。そう言えば睦月も動いてくれるって。可哀想な私を命がけで守ってくれるガーディアンがいれば安心だって』

 

 「違う。睦月をそんな風になんて…」

 

 すなわちそれは―。

 

 『声が小さくなってるけど?あっ、でもあの時は別ね?小夜が初めて変身した夜、小夜に対して無理だって言った時の事。あれはスッキリしたな~。あの時私が思ってた事を純度100%で吐き出してくれたんだから』

 

 「違う…違う…違う…」

 

 『嘘、嘘、嘘。生まれ変わっても嘘ば~っかり。そりゃそうか!!オリジナルだってそうだったんだから』

 

 つまりそれは、角無舞花。

 

 

 

 

 角無舞花は根っからのスポーツ少女だった。生後8ヶ月でつかまり立ちを、さらにその2ヶ月後の生後10ヶ月には歩けるようになった。その時は、歩けるようになったことを母親に見せびらかすようにしていたと、小学生の頃彼女の母からよく聞かされた。

 

 2歳の頃には、スキップやギャロップといったような器用な足さばきを必要とする動きができるようになり、その動きは、親以外の、第三者から見ても素晴らしいと判断され、4才児専用の運動レッスンの会場でお手本になってくれと頼まれたほどだった。

 

 そういう子だったから、外へ遊ぶ事がとにかく大好きだった。

 

 サッカー、縄跳び、鬼ごっこなど、何でもやっていたし、成長し、幼稚園やテレビと、自身の耳に情報が入る機会が多くなってくると、些細な事がきっかけで色々な競技に挑戦し、極めるようになった。 その度に誰かが自身に嫌な目を向けてくるので、その度に競技を変えた。次こそは、次こそはと思いながら…。

 

 

 中学校に上がると、舞花はバレーボール部に入った。小学校の頃、彼女の母親はPTAに入っていて、他校のPTAとの交流のためにバレーボールをした事があり、その時に惹かれたのだ。 次はこれを始めてみようと思った。この時点では、サッカー、野球などのスポーツと位階は同じだった。

 

 本格的に始めようと思ったのは、小学6年生の時。中学校見学で部活を見る機会があって、その時に千翼は、胡桃たかしに出会った。圧倒的なフォームの良さ、得点が入った時に見せる笑顔。気が付くと舞花は、彼ばかり目で追いかけていた。

 

 

 持ち前の運動神経の良さから、 彼の隣に立ちたくて、彼と一緒の時間を過ごしたくて、舞花は絶対に葵重(あおいがさね)高校に入学しようと決めた。その為に必死に努力して、1年でレギュラー入りし、目まぐるしい活躍を見せた。そのため、高校はスポーツ推薦で、運動部が盛んな葵重高校に入学した。すぐにたかしの元に行き、この思いを伝えようと思った。だけど、それよりも前に、

 

 「たかし先輩ってカッコいいわよね…」

 

 と、部活に入ってすぐに知り合った友達、久米幸子が舞花に向かって言った。その時の彼女の目が、胡桃たかしの事を考えている自分とそっくりで、止めた。

 

 それらを全て、『舞花』の声をした誰かが舞花に見せつけた。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 『分かった?あなたは元気いっぱい、夢いっぱいな少女じゃないの。本当のあなたは、誰かに嫌われることを極端に恐れて、いつも周りの目を気にして、好かれるためならどんな気持でも全部蓋をして、考えもしていないことをベラベラと話す。あなたの優しさも言葉も、そんな自己防衛から来ている。そんな意地汚い子なのよ、あなたは』

 

 「違う」

 

 『嘘つき。あなたが漫画を好きになったのもその表れじゃない。あれは、登場人物の気持ちが、ちゃんと書かれていて分かり易かったからでしょ?今あの子は何考えてるんだろうっていちいち考えないで済むから、人の顔色をず~~~っと伺う毎日に嫌気がさして、逃げたかったんでしょ?』

 

 「違う」

 

 『そんな風に嘘ついてもム・ダ。ぜ~んぶ分かっちゃってんだから。別に良いじゃない。悪い事じゃないんだから。あっ!あなたがそんなだから、あの子もずっと傷ついてたのよね。ならごめんごめん、前言撤回~。ほ~ら見て御覧なさい。あなたが起こしたことの全てを』

 

 「ダメ…」

 

 

 突然だった。

 

 レギュラーが決まり、部活の練習が激しくなった。その日も、例外なく練習が激しく、終わった時はフラフラだった。

 

 帰り支度をし、石段を下りながら友達 久米幸子とお喋りをしていた時だった。

 

 その時、うっかり足を滑らせて階段から転げ落ちたのだ。

 

 

 

 そのステージに立つのは私のはずだったのだ。なのに何故、その権利を急に奪われてしまったのか。こんな理不尽、到底許される訳が無い、だけど、ただ攻めるだけではダメ。悪目立ちすれば、たかし君にダメな私を見せてしまう、と。これを覆せるのは、キュゥべえが持ち込んだ、奇跡と魔法の力しかない。

 

 だから、彼女は即答だった。

 

 「なる。もちろんなるわ。だからキュゥべえ、私の足を治して(あの日の事は、事故だったって事にして)」

 

 

 角無舞花が契約で身に付けた魔法は二つあった。一つは『治癒力の増加』。もう一つは『思い込みの付与』。

 

 

 「止めてって言ってるの!!!!!!!」

 

 クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス…

 

 「出鱈目ばっか言って!出てけ!私の前から出てけぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 その声を合図に、『舞花』の声によく似た誰かの声は段々と聞こえなくなった。

 

 だけど、『彼女』の笑い声は今も頭から離れない。

 

 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…

 

 キーン キーン キーン キーン…

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ミラーモンスター、ゲルニュートは餌を求めていた。

 

 ゲルニュートはミラーモンスターの中では弱く、しかし、一番個体数が多い。故に、狩りも効率化を図る為に二匹~三匹のチームで行うのが基本だ。

 

 そのゲルニュートも例外ではなく、スリーマンセルで行動し、次の食料は、ミラーモンスターの中ではご馳走に値する、ライダーとその契約モンスターのセットを狙っていた。しかしそれは失敗。仮面ライダーライアによって仲間の二体を倒されてしまった。

 

 もうお腹が空いて死にそうだった。

 

 そんな時だった。ゲルニュートは、ある人物を見つけた。

 

 その人物は13~14歳位で、窓ガラスに手をつき、立っているのもやっとという状態だった。仮面ライダーでは無いが、引き締まった体をしていた。袖から覗く腕は、とても華奢で、程よくモチモチしてそうで美味しそうだ。

 

 そう考え、ゲルニュートは、獲物が逃げないように、ゆっくりと標的に近づいた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…

 

 「何をやってるのかしら…私」

 

 舞花はポツリと呟いた。

 

 「全く、こんな所見られたら、誰かに笑われるじゃない」

 

 まるで、さっきまで起こっていた事を、思い出していた事を全て無かった事にしようとしているように。

 

 「きっと、疲れているのね」

 

 そう言うと、フゥと息を吐き、

 

 「そうだ、帰らなきゃ」

 

 と言った。

 

 だけど、無かったことにしようと考える事程、それは頭に残るモノである。

 

 「ここは、どこかしら?」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 舞花は思い出す。

 

 大会の前日、角無千翼と久米幸子が話していた会話を。

 

 「さっきからあなた何なの!?何で私にそんな風に話し掛けられるのよ!!?何で何も言わないのよ!!??気持ち悪いのよ!!!!!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 舞花は呟く。

 

 「睦月達、きっと心配しているわよね…」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 舞花は思い出す。

 

 あの日の、久米幸子の怒号を。

 

 「今回だけじゃないわよ!その何も知りませんよ~っていう鈍感な振りした態度!!見てて気分が悪いのよ!!!!気付いてないとでも思ったの!?そんな下手くそな隠し事されてると余計に嫌になるのよ!最近のあんた本当分からない!何!?あなたは私にどうして欲しいのよ!!!!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 舞花は呟く。

 

 「そうだ、お詫びに何か買っていこう」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 舞花は思い出す。

 

 「あんた、本当に何なの!?分かってる癖に、私が、たかし君の事を好きだったって事も、だから私も、あなたと同じ気持ちでどうしてもレギュラーになりたかった事も!!!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 舞花は呟く。

 

 「なぎさが好きなの、何だったかしら?クッキー?チョコレート?」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 舞花は思い出す。

 

 あの世界で、自分が魔法少女であった時に最後に聞いた言葉を。

 

 あの時、久米幸子が、自身の目を涙で濡らしながらも、憎しみを持つ目で舞花を睨んだ事を。

 

 「だからあなたがずっとずっとずっとずっと邪魔で、その為にあなたを―」

 

 その直後、私の中から何かが飛び出し、友達の、久米幸子の体を、内臓を、全て食し、流れ出る血液も余すことなく飲み、骨髄も吸い出した事を。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 舞花は呟く。

 

 「あの子、マシュマロも好きだったかしら?アイスクリームも捨てがたいわね、って、溶けちゃうわね。フフッ」

 

 

 キーン キーン キーン キーン…

 

 

 だから舞花は気付かなかった。

 

 先ほどからずっと、耳鳴りが鳴り響いている事に、そして、彼女のちょうど真横、舞花が手をついている窓ガラスから、赤を基調とした、イモリのモンスターが角無舞花に迫ってきていた事に。

 





 葵重高校、新聞部、部室

 この日も、星野保は最後まで残った。

 次に出す新聞が間に合わないからじゃない。写真が見たかったからだ。誰もいない時に、学校で。

 先週、葵重高校の生徒の一人が遺体で見つかった。名前は角無舞花。女子バレーボール部の部員だった。同日、彼女の友達である久米幸子が行方不明になっている事が分かった。

 星野保は、ずっと角無舞花を取材していたが、彼女の事はまるで分からなかった。何を話しても、適当にはぐらかされてるような…更に言えば、何か、ベールのようなモノで、完全に本当の彼女が隠れてしまっているような、そんな感覚だった。

 と言っても、そう認識するようになったのは、彼女が足を骨折した後だったが。

 彼女は、骨折するまでの重傷を負ったにも関わらず、何もしなかった。

 かと思えば、足は完治。

 それでも、他の人なら当然するであろう行動をしなかったのが、不思議でならなかった。

 保は、自身の机からデジタルカメラを取り出した。


 あの日、もう少し話を聞こうと思い、体育館前でずっと隠れて待っていた。

 程なくして、舞花が出て来た。すぐに話し掛けようとしたが、一緒にいる久米幸子がキョロキョロと辺りを伺っていたのが分かり、慌てて隠れた。

 でも、何でそんなに周りを気にして?

 気になった保は何が起きてもすぐに反応できるようにカメラを構えた。

 そして、次の瞬間―――――。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 保はデジタルカメラの中に保存されていた一枚の写真を表示した。

 そこには、久米幸子が、友達の角無舞花を突き落とす所がハッキリと写っていた。

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