第四十話 THE FIRST
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とある時間
ある時、ある場所に、一人の“魔法少女”と一人の“少女”がいた。彼女たちはお互いを慕っていて一番の親友だった。魔獣と戦う時も一緒だった。少女はまだ契約していないので戦えないが、それでも“魔法少女”は構わなかった。大切な人が側に居るだけで、何倍も力が出せたから。
ところがある日、彼女たちはとても強い魔獣と相対してしまった。“魔法少女”は“少女”を守るため、自身の命を犠牲にして、その魔女を倒した。
嘆き悲しんだ“少女”は、キュゥべえにお願いをした。彼女を生き返らせて欲しいと。願いを聞き届けたキュゥべえは、“少女”を“魔法少女”にすることと引き換えに彼女を生き返らせた。
彼女は、魔法少女の力を失っていた。“魔法少女”から“少女”に変わっていた。
“魔法少女”は、彼女がそうしてきたように、魔獣退治を積極的に行った。今度は自分が人を、そして“少女”を守るんだと張り切っていた。
しかし、死の記憶に“少女”は苦しみ、それが限界まで来たある日、自身で命を絶った。
この時、“魔法少女”は初めて知った。自分の願った事の愚かさを、その罪を。
とある時間
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2068年
クウガ、アギト、龍騎、555、剣、響鬼、カブト、電王、キバ、ディケイド、W、OOO、
フォーゼ、ウィザード、鎧武、ドライブ、ゴースト、エグゼイド、ビルド。
時代を駆け抜けた平成仮面ライダー達。その巨大な石像に囲まれて置かれている『常磐ソウゴ初変身の像』。
その前に、“ヤツ”はいた。黒と金を基調とし、長いフィルムのようなモノを肩から上半身に掛けて下げ、そこには黒い懐中時計程度の大きさの物が取り付けられており、背中に大きな長針と単身を下げ、顔には赤字で大きく『ライダー』と彫られた仮面を付けた男、オーマジオウが。
「突撃~~~~~~~~!!!!!!」
一人の兵士がそう叫んだ。それを合図に他の人々も己を鼓舞するように叫び、武器を持つ手に力を入れながら、オーマジオウへ向かって行く。
バババババ… ドンドン!!数多くの銃声を響かせながら、オーマジオウに向かって行くが、それらは全てオーマジオウの体に当たる前に破裂。無意味と化す。
オーマジオウは黙って右手を挙げた。すると、兵士のいた地面がたちまち大爆発し、多くの兵士は為すすべなく倒れていく。
続けてレジスタンスが持つ巨大兵器、タイムマジーンがオーマジオウを踏みつぶさんと進撃したが、その足が彼に届く前に止められ、次々に薙ぎ払われた。
無駄だと見るや、そのタイムマジーンを援護するべく待機していた部隊がミサイルを発射した。その時、オーマジオウがミサイルに向けて右手をかざした。すると、全てのミサイルが、足を上げていたタイムマジーンが、その場で動きを止め、戦場とは思えない程静かになった。まるで時が止まったかのように…、いや、本当に時間が止まっていた。
「いやっ!」
オーマジオウが右手を握ると、ミサイルはその場で爆発。それに巻き込まれ、多くのタイムマジーンがその場で倒れた。
「無意味」
自身に向かってくる兵器が無くなったのを見て、オーマジオウは生き残った兵士に向かってそう呟いた。
「何度やっても同じだ。お前たちは私には勝てない」
「それはどうかな!?」
オーマジオウの背後、そこから『らいだー』と書かれた赤と黒を基調としたライダー、仮面ライダーゲイツが時間ザックスを斧モードにし、振り下ろした。
が、それは左足を軸にクルっと回転した事で空振りに終わった。だが、それは想定していた事だ。負けじと二斬三斬と斧を振る。
「ただの兵器じゃ無理なら、お前と同じライダーの力で、お前を倒すのみ!!!」
「面白い」
そう言うとオーマジオウは、ゲイツの斧を受け止めた。
「何!?」
握る力が強く、時間ザックスが引き抜けない。その間にオーマジオウは片手にライドウォッチを持ち、静かに起動させた。
『ブレイド』
すると、アンデッドが描かれたカードがその場に出て来て、それがオーマジオウの腕に吸い込まれていった。
『♤2 BEAT』
パンチ力を増強させたオーマジオウの拳が、ゲイツに降り注いだ。
「ぐわぁぁ!!!」
ゲイツは防ぐ間もなく、そのまま吹き飛ばされた。
「兵士やタイムマジーンを囮にし、貴様が不意を突くのが狙いだったようだが、全てが無意味。これで分かっただろう?お前たちに私を倒すことは不可能だと」
「……それは、どうかな?」
痛みを堪え、何とか立ち上がったゲイツは、更にライドウォッチを起動させた。
『ゴースト』
それを時空ドライバーにセットし、一回転。
『アーマーターイム!開眼!ゴースト!』
ゲイツの顔の文字は『ごーすと』と変わり、仮面ライダーゲイツ ゴーストアーマーにへとその姿を変えた。
「私から奪った力で挑むか。これもまた一興」
『時間ザックス YOU ME!』
ゲイツは弓モードに切り替えると、エネルギー弾を発射。しかしそれは片手で軽くあしらわれてしまう。
「ならば…フンッ!!」
ゲイツは、ゴーストアーマーの力で、オレ、ムサシ、エジソン、ニュートンの四体のパーカーゴーストを出し、再び斧モードに切り替えた時間ザックスを持って彼らと共に向かって行った。
しかし、オーマジオウには少しも慌てた様子はなく、
『キバ』
静かにキバウォッチを起動させると、伝説のバイオリン、ブラッディローズが現れ、それを奏でた事で無数のコウモリが現出した。オーマジオウの合図でそれは放たれ、ゲイツとパーカーゴーストを蹂躙する。
「クッ!」
全身の痛みに耐えかね、ゲイツはその場で膝をつく。四体のパーカーゴーストも消えてしまっていた。
「どうした?もう終わりか?」
「まだだ…まだ終わりじゃない」
『ドライブ』
ゲイツは別のライドウォッチを起動させた。
『アーマーターイム! DRIVE!ドラ~イブ!!』
ゲイツはドライブアーマーにへとフォームチェンジした。
「次はスピードで、はぁ!!!」
ゲイツはアクセル全開、トップギアでオーマジオウへ向かって行った。が、ゲイツの攻撃は全く当たらず躱されるばかり。恐ろしいのは、対峙した時からずっと、彼は一歩も動いていない事だった。片足を軸にして少ない挙動で躱すか軽くあしらうか、そんな事しかしていない。バスケットボールならば文句なしの動きだっただろう。
『OOO』
それでも諦めず、ゲイツは突進していったが、その攻撃は突如目の前に出現した、仮面ライダーオーズ、サゴーゾコンボによって止められた。さらにゴリラの腕で上半身を殴られ、ゲイツの体は大きく上空へ飛ばされる。
「スピード勝負は終わりか?ならばこちらも行くぞ」
『555』
更にオーマジオウは仮面ライダーファイズも召還した。だが、それだけでは無かった。左右の手に持っているオーズライドウォッチとファイズライドウォッチ。それらを二人のライダーの前に翳すと、ライドウォッチは光輝き、その光が二人のライダーにへと吸い込まれていった。
仮面ライダーオーズは、ベルトにセットされていた三枚の銀のメダルが黄色とオレンジのメダルに変わった。
仮面ライダーファイズは、胸部の鎧が開き、複雑な機械を露わにし、CDのような仮面は黄色から赤にへと変わっていった。
『ライオン!トラ!チーター! ララララ~ラトラ~タ!』
『complete』
アクセルフォームになったファイズは、手首に付けているファイズアクセルのスイッチを押した。
『START UP』
そして、オーズラトラータコンボになった仮面ライダーオーズとファイズはそれぞれ構えの姿勢を取ると、同時に駆け抜けた。
倒れていたゲイツに、それを防ぐ術はなく、タカの爪が、ファイズの拳が雨の様に降り注いだ。何十、何百もの攻撃が1秒間に次々と襲い掛かり、もはやそれは、戦闘ではなく、悪夢だった
『three two one…Time out』
その時刻は、ファイズアクセルが刻む時間、10秒間続いた。猛攻に耐えられなかったゲイツはその場で膝をつき強制的に変身が解除された。
「だから言っただろう。お前たちに私を倒すことなど不可能だと。何故か分かるか?私は生まれながらの王である!!」
そう言うと、オーマジオウの周りに緑と紫の風が巻き起こり、それが彼の体を包むとその姿は見えなくなった。
今回の戦いも(もはや戦いと呼べるのかも怪しいが)そうして、一方的に幕を下ろされた。
そして―、
ここから先はある意味、オーマジオウと戦うよりも辛い時間だった。
今回の戦いは、ゲイツを主軸とした作戦で動いていた。オーマジオウの言った通りだ。彼には普通の武器は効かない。だから、その武器は主に目くらましに用いて、隙を見て同じライダーの力で倒す、そういう手筈だった。だが、作戦は失敗。ただ、いつも通りレジスタンスの命を失っただけだった。
彼らの家族が、友人が、恋人が、愛する者の喪失を嘆き悲しんでいた。
その中でも、一際大きな声で泣いている少女がいた。少女の事を、ゲイツはよく知っていた。彼女の父親はレジスタンスの部隊長であり、彼の友人だったからだ。
「嘘つき…」
側にゲイツがいるのが分かり、少女はそう呟いた。
「お父さんを、守るって言ったじゃない!!!!」
その言葉は、オーマジオウのどんな攻撃よりも痛かった。
2068年
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2002年
「(夢…)」
妙光陰ゲイツが水の魔女、アクリシャスと対峙してから2週間が経過した日の朝、ゲイツは久しぶりに夢を見た。
友が死んだ日の事を。2018年へ行ってまだ日が浅かった頃(正確に言えばアナザーエグゼイドが現れた頃)まで、毎日のように見ていた夢だった。
あまりにも多くの事が起こり、気が参っていたのかもなと、ゲイツは一人苦笑した。
昨日―。
水の魔女、アクリシャスと対面して以降、ゲイツ、真司、蓮はそれぞれ新たな“10の怪物”を探すために動いていた。
しかし、特にこれといった手掛かりは掴めなかった。当然と言えば当然の話だ。先の宗教についても、それより前の、真司と蓮が出会ったと言う“怪物”についても、たまたま近くに現れただけで、こちらから意図的に探し当てた訳では無いのだから。あの“怪物”がどこから来たのかも、何が目的なのかも分からない。分かっているのは、ミラーワールドと関係があるかもしれないと言う事だけだ。
それに加えて、城戸真司は、上司の令子が急な出張へ行き、彼女の仕事がそのまま真司に回って来たとかで忙しくしていたので、中々本格的な調査に乗り出せないでいた。
そんな時だった。転機は突然訪れた。
ゲイツ、蓮、真司の三人が今住んでいる喫茶店、花鶏の店主であり神崎優衣と神崎士郎の叔母、神崎佐奈子が買い出しに出かけていた時だった。
キーン キーン キーン キーン…
モンスターやライダーが近くにいる時に聞く耳鳴り。それと共に現れた。
「神崎…士郎…」
彼の登場に秋山蓮は大いに驚いた。妙光陰ゲイツは、彼に会うのは初めてだったが、その異様さはすぐに分かった。彼は、喫茶店の入口から入って来たのではなく、その窓ガラスに映りこむようにして現れたのだから。彼は黄土色のジャケットでほぼ全身を包んでいて、その表情は、とても重く、暗くそれでいて無表情だった。
それは、何度も死線を潜り抜けた兵士の目を見ているようで、ゲイツは落ち着かなかった。
「“10の怪物”の討伐状況はどうなっている?」
神崎士郎は、現れるなりすぐにそう尋ねた。
「二体倒した。これはその戦利品だ」
そう言うと蓮は、怪物を倒した際に落とした物―グリーフシード―を彼に見せた。
「それで良い。やはりお前らが一番可能性が高いようだな。今日はお前らに、これを渡しに来た」
神崎士郎は窓ガラスから実体のある手を出し、それが持っている資料を渡した。
「ある男がまとめた“10の怪物”の分布予想図だ。これを使い、一刻も早く怪物を倒せ」
“ある男”とは、仮面ライダーシザースであった須藤雅史が作成し、別のカードデッキと引き換えに渡した物だ。神崎士郎は、その資料をそのまま手渡したのだった。
「おい待て」
それを手に入れラッキーと思い終わらせるほど、ゲイツも連も甘くない。
「こいつは確かに貰っておく。だが質問させてもらう。何故俺らにこれを渡す?こいつを使って、お前が怪物を倒しても良いんじゃないか?あんなカードデッキをばらまく位だ。それこそ、モンスターを操ってな」
そう蓮は尋ねる。が、更にこう続けた。
「まぁ、大方の予想はつくがな。お前、焦っているんじゃ無いのか?」
神崎士郎は表情を変えない。だが、何も言わないので、事実だと判断しさらに続ける。
「一刻も早く怪物を倒してほしい。そう思い、情報を共有しようと思った。なら、あれがそもそも何なのかも分かっているんだろう?そろそろ話して貰おうか?あれは一体何なんだ?お前が一刻も早く倒させようと思っているのは何故なんだ?」
そして―、と蓮はゲイツを横目に見ながら、
「俺の隣にいるのは、未来から来たのだと言っている。それも今回の事件とどう関係している?お前の知っている事を全て話せ」
そう言うと、蓮は懐から自身のカードデッキを取り出し、
「何も答えないなら、俺は俺の目的のためにライダーバトルを続けるだけだ」
そう締めくくった。
しかし―。
「今お前が戦っても、願いを叶える事は出来ない」
それが目的なら優位はこちらにあるという意味を込めて、神崎士郎はそう断言した。
「何?」
「お前たちが願いを叶える為にエネルギーがその“怪物”達に奪われているからだ。それらは怪物同士が結びつき、独自のネットワークを作った。そのネットワークを断たない限り、エネルギーが戻ることは無い」
「俺がこの時間に閉じ込められたのもその影響か?」
「恐らくな」
神崎はゲイツの方を向きながらそう言った。ゲイツとは初対面のはずなのに、既に素性も全て分かっている様子だった。大方、鏡から情報を入手したのだろう。
「じゃあその怪物は、そんなエネルギーを手に入れて、一体何がしたいんだ?」
ゲイツはまだ1体しかその怪物を見ていないが、それが知性のある生き物のようには見えなかった。にも関わらず、他の怪物と連携してエネルギーを奪っているというの表現を神崎士郎が使った事に引っ掛かった。見た目だけで考えればまだ、エネルギーを摂取していると言われた方がまだ想像つく。
「あいつらには、親玉のような存在がいて、それにエネルギーを供給しているんだ。“怪物”をこの世界に現れたのもその親玉が原因だ。そいつは、人間を核にしているから自身ではエネルギーに干渉できない。だから、それが可能な存在が必要だったのだ」
「核になった人間だと?」
「その人間が…」
ここで初めて神崎士郎は言葉を詰まらせた。しかし数秒後、意を決したように言った。
「神崎優衣」
その言葉に蓮は目を見開き、そして神崎士郎に詰め寄った。
「どういう事だ?何故優衣が出てくる?何故巻き込まれたんだ!!??」
「それを知ってどうする?その事実を知ってなお、お前は見て見ぬふりが出来るのか?加えて、願いのエネルギーが不安定なのを良いことにそれを横取りしようと画策する奴らも現れている。お前たちに迷っている時間は無い。それを阻止したければ、一刻も早く“怪物”を倒し、ミラーワールドを元に戻せ」
そう言うと神崎士郎は、懐からカードを二枚取り出し、秋山連に投げてよこした。それは二枚とも、『SURVIVE』と書かれており、それぞれ、青と赤のオーラを纏った一枚の大きな翼が描かれていた。
「これはその為の力だ。受け取れ。――――――頼む。優衣を助けてくれ」
そして神崎士郎は窓ガラスから姿を消した。
最後の言葉、この時、神崎士郎は初めて戦士のような冷たい表情から、愛おしい物を見るような目に変わったことをゲイツと蓮は見逃さなかった。
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そして現在、ゲイツと蓮と真司はレポートに記された場所の一つに向かっていた。
昨日の神崎士郎の言葉は、城戸真司も大いに驚かせる内容だった。
神崎優衣が“怪物”に捕まっている。優衣ちゃんを絶対に助けるんだと意気込んでいた。
「着いたぞ」
三人は目的地の前でバイクを止めた。
「ここが…炎のビル」
神崎士郎の持っていたレポートには、“怪物”が起こした可能性のある事件がいくつもピックアップされていた。その中には、三人が遭遇したゼイビー教についても書かれていた。
見た所、それは“怪物”が現れた時期を推測し、その後に発生した不可思議な事件に目を付けていた事が分かった。
ゼイビー教にいた“怪物”は真司たちが撃破。自殺支援サイト『KILL』は、ある時を境にばったりと更新が途絶えている、と言ったように確実に遭遇できるであろう事件に絞り込んだ結果、炎のビルに行こうという話になった。
炎のビル。それは、5月下旬から多発している放火事件にまつわる都市伝説だった。その放火事件は、同一人物によるモノでは無く、複数の人物が犯行を犯していた。妙な事に、放火方法については公表していないにも関わらず、何人もの人が同じ方法で放火を起こしている事にあった。さらに奇妙なのは、その犯人が何の前触れも失踪してしまう事にあった。
そんな背景から付いた噂話だった。捜査状況を一部を新聞で取り上げたことにより広まった。
放火事件。その犯人たちは、互いに互いの顔も知らない赤の他人。しかし、そんな犯人たちに共通する事項があった。それは、とあるビルに出入りしていたという事だった。それは、今や誰も使っていない廃ビル。にも関わらず、そこに入っていくのを見たと証言した人を見つけた事で判明したと書かれてあった。
誰も立ち入らないようにと注意喚起を呼びかける記事だったのだが、廃ビルの存在がオカルトマニアの心の琴線に触れ、彼らのでっち上げの適当話も加わり、世間に浸透された。
“ここに入れば何かを燃やしたい衝動に駆られる”
“ここに入れば自分が火達磨になる”
そんな噂が飛び交っていた。
「城戸、妙光陰、気付いているか?」
「あぁ。あの気配がプンプンするな」
鳥籠を纏った者、水差しのような者と出会った時の事を思い出しながら城戸真司は答えた。
「いきなり当たりか」
ライドウォッチにバイクを収めながらゲイツも言った。
そして三人は、『関係者以外立ち入り禁止』の張り紙を無視して三人はビルへと入っていった。
するとたちまち、ただ狭い階段が続くだけの場所が開けた通路へ、そこから木が次々に生え、森のような空間になった。天井は、まだ昼間だというのに夜空にへと変わり、そこに椿の花びらが漂っていた。地面から、細いツルの体・四肢を持ち、顔には椿に蕾を付けた生き物が次々に生えていった。
ゲイツはライドウォッチを、蓮と真司はカードデッキをかざした。
「「「変身!!!」」」
三人は仮面ライダーゲイツ、ナイト、龍騎にへと変身した。
「行くぞ」
「あぁ」
「しゃぁ!」
三人は蕾の生き物を蹴散らしながら奥へ進んで行った。数は多いが、一体一体の強さは野生モンスターよりも下だったので、あまり苦労せずに進むことが出来た。
“怪物”の気配を強く感じるようになり、それが住まう最深部が近づいている事を実感した。
そして―。
「遂に来たな」
最深部は、曲がった木や大きな草花に囲まれて、大きなドームような様相になっていた。そこには、使い魔とは比べものにならない程大きい椿の木が生えていて、蕾ではなく椿の花が満開に咲きほこっていた。風は吹いていなかったが、花びらが千切れ続け、舞い上がっていた。妙な事に、それは華道をたしなむ人がよく着ていそうな女性ものの着物を着ていた。
魔女は、三人が入って来るや否や、周辺に火の玉をいくつか出して発射した。
三人はそれを躱す。そしてそれは、燃えた椿の花であったと気付いた。
『時間ザックス YOU ME!』
ゲイツは時間ザックスを弓モードに切り替えエネルギー弾を放った。
『STRIKE VENT』
龍騎はドラグクローを召還し、火炎を放った。
二つの方向からの同時攻撃に“怪物”の動きが一瞬怯む。が、すぐに新たな火の玉を、今度は広範囲に出した。
『NASTY VENT』
だがそれは、ナイトの契約モンスター、ナイトウィングの超音波によってかき消される。攻撃の隙を与えず、一気に終わらせるつもりだった。
『FINISH TIME!』
ゲイツはファイズライドウォッチを時間ザックスに装填した。
『ファイズ!ギワギワシュート!』
時間ザックスから放たれたエネルギーは円錐状の赤い光になり、それが“怪物”の体を捕らえた。“怪物”はまるで金縛りにでもあったかのように行動できなくなった。
「今だ、一気に決めろ」
ナイトは、ファイナルベントのカードをナイトバイザーにセットしようとした。
その時だった。
「何だ何だ。やけに使い魔の数が少ないと思ったが、先客がいたのか」
「!?」
予期せぬ訪問者に、ナイトの手が止まった。それは、サイ、ガゼル、カメレオンのような姿をしたライダーだった。バックルが龍騎やナイトと同様の形をしていたので、神崎士郎によってデッキを手渡された者である事がすぐ分かった。
「お前らも、神崎士郎に言われてきたのか?」
基本、誰にでもフレンドリーな龍騎がそう声を掛ける。
だが、その回答は冷ややかだった。
「へぇ、まだ神崎士郎の言う事を律儀に聞いている奴らがいたのか」
「あいにくですけど、俺たちはちょっと違うんすよね!」
「よろしければ、その魔女の討伐はこちらに任せてもらえるとありがたいのですが?」
「魔女だと?」
その単語に、仮面ライダーナイトは反応した。その単語で“怪物”を呼称した者を初めてみたからだ。
「あいつらは魔女と言うのか?お前ら、何故そう呼んでいる?」
「何故って、あぁそうか。知らないんですか!はっはっは~!お~しえない!」
ガゼル似のライダーが意気揚々と答える。
「おい!何なのか教えろ!」
それに龍騎が憤慨。と、そこへ―。
「何騒いでんだ?おい」
と、また別の二人が三人の後ろから歩み寄って来た。
それは、先の三人とは違い、見たことのないベルトをしていた。一人はカードデッキではなくメダルのような物が装填されていて、全身黒を基調とし、金色のラインが装甲のあちこちに入っていた。もう一人は、緑色のバッタのような見た目をしていて、ベルトにも、バッタ型の模型のようなものが装着されてあった。
「お!新しい仮面ライダーか!ど~も!よろしく!」
黒いライダーも、ガゼルライダーに負けず劣らずの明るい調子で話した。
「おっ、お前ら一体…」
そんな様子だったので、龍騎は一人混乱していたが、
「神崎士郎が言っていた。“怪物”とは別に、願いのエネルギーを手に入れようとしている動きがあると。恐らくあいつらだろう」
「あいつらを“魔女”と呼称していた事からも間違いない」
ゲイツとナイトは冷静に分析し、さらにナイトはナイトバイザーの先端を五人に向け、
「丁度いい。あの怪物について色々知ってそうだし、全部話させて貰おう」
「お~おっかないね~。見た所、戦い慣れしてそうだし、」
それに、と、ゲイツに目を向けながら、
「見たことないベルトのライダーもいるし、こっちはこっちで興味深い。よし!相手してやろう!愛矢は予定通り魔女を倒せ。佐野は愛矢のバックアップ。残りはあいつらの相手だ」
「「了解」」
「っていうか、何で本名言っちゃうんですか!?」
「あぁ、何も問題無いだろう」
「何をごちゃごちゃ言ってる」
『FINAL VENT』
「えっ!?いきなりファイナルベント!」
驚く龍騎を無視し、ナイトは手に持っていたカードをセットした。そして、契約モンスターであるダークウイングが背中に付いたのを確認すると、その翼に自身を包ませて、ドリルのように回転しながら五人の中央に突っ込んで行った。
だがそれは、五人がそれぞれの方向にジャンプして躱される。
「おい蓮!」
「よ!ちょっとゲームしようぜ!」
と、龍騎の前にサイ似のライダー、仮面ライダーガイが。
「新しいライダーの力、見せてもらうよ」
と、ゲイツの前にはカメレオン似のライダー、仮面ライダーベルデが着地した。
そして―。
「冷静でありながらも攻撃は中々派手で良いねぇ」
黒いライダー、オルタナティブ・ゼロは、仮面ライダーナイトと対峙した。
「行くぜ」
『STRIKE VENT』
ガイはサイの頭を模したグローブ、メタルホーンを装着すると、龍騎に向かってそれを突き出した。
「おい待てよ!」
『SWORD VENT』
龍騎はギリギリでそれを躱すと急いでドラグセイバーを召還し、尚も向かってくるそれを今度は受け止める。
「何で今戦わなきゃいけないんだ!?ライダー同士の戦いは無しのはずだろう!?そもそも、今はあの怪物を力を合わせて倒す方が先じゃないか!」
「悪いね。確かにそうなんだけど、あれは俺たちで倒さなきゃダメなんだよ」
ガイはドラグセイバーごと、それを力ずくで押し返す。
「なっ、何で!」
「大事な目的の為に。はぁ!」
ガイはさらに連続でメタルホーンを突き出した。だが、元々ライダーバトルに反対していた龍騎は、受け身。最後はガイの力に押され、胴体にメタルホーンの打撃を食らってしまった。
「邪魔しないで貰おうか?」
『HOLD VENT』
ベルデは、ヨーヨー状の武器、バイドワインダーを召還し、それを投げつけて攻撃した。
ゲイツは時間ザックスを斧モードに切り替え、それを弾きながら言う。
「お前らは、何を企んでる?」
「知りたいなら、俺らと来るか?戦力はいくらあっても良いから、大歓迎だぞ?」
「お断りだ」
勘だが、何か良からぬことを考えている気がしたので、ゲイツは即答する。
「なら消えてもらおう」
『CLEAR VENT』
「消えた…?ぐわぁ!」
消えたと思ったら、背後から鈍い痛みが。続けて、右、正面、左。
「こっちのライダーも大したこと無いね」
「(“こっちのライダー”?)」
「このまま終わらせてもらうよ」
「それはどうかな?」
ゲイツは痛みにこらえながら、別のライドウォッチを取り出した。
『ゴースト』
ゲイツは一度、オーマジオウの持つステルス兵器を相手に戦った事がある。その時に分かった能力を使うのだ。
『アーマータイム! 開眼!ゴーストー!』
「そこか!」
ゴーストアーマーに変化したゲイツは、弓モードに切り替え、エネルギー弾を発射した。
「何!?がぁ!」
攻撃が来ると思って無かったベルデは、防御できずに倒れた。
「俺が見えるだと?」
「透明化は俺には効かない」
「しかし凄いな。あんなデカい魔女が完全に止まってやがる」
ガゼル似のライダー、仮面ライダーインベラーは感嘆の声を上げた。魔女は未だに、ゲイツが出した円錐状のエネルギーによって完全に動きが止められていた。
「何でも良い。倒すのが楽ならそれにこした事は無い」
「相変わらずドライっすね~。かわいい顔が台無しだよ?」
「うるさい」
『RIDER JUMP』
キックホッパーはホッパーゼクターを横にスライドさせて、その場から高く跳び上がった。
残り少ない使い魔達は主を守るためにそれを自身の鞭で抑えようとするがもう遅い。ガゼルスタッブを召還したインベラーによって全て弾かれてしまう。
「良いよ~!愛矢ちゃん!さっさとやっちゃって~!!」
『RIDER KICK』
キックホッパーはバッタをもう一度横にスライド。両足を魔女に向けて、膨大なエネルギーを込めた攻撃が身動きの取れない魔女へと届こうとした、
その時だった。
キックホッパーの真横。そこから、そこから火の玉が飛んできて、キックホッパーの体を直撃。彼女はバランスを崩し、そのまま地面へ落とされてしまった。
「なっ!?一体…誰が!?」
驚いたインベラーが使い魔を倒しながら火の玉が飛んできた方向に目を向けると、
結界の最深部を囲んでいる異様な形の木、その一本の枝の上に使い魔とは別の形をしたモノがそこにいた。新たなライダーでないことはすぐに分かった。
それは、一見するとヤジロベエのような姿だった。小さな円錐の上に腹にあたる部分に大きな胴体を乗せそれを、絶妙に撓らせた二本の腕と、テニスボール程度の大きさの丸い手を使って器用にバランスを取っていた。
ヤジロベエは、右の丸い手を発火させた。それを、まるでバッティングセンターのボールを発射させる機械のように、腕を一回転させ、手が上に来たときにそれを投げた。
火の玉はものすごいスピードで地面に接近し、その衝撃でインベラーとキックホッパーのいる場所周辺を爆発させた。
爆炎に煽られ、二人はその場に転がる。
その隙にヤジロベエは、新たに発火させた左手を今度は魔女に向けて投げた。いや、正確には、魔女の動きを封じている赤い円錐状のエネルギーに向けてだ。
赤いエネルギーは火の玉によって弾かれ霧散、再び魔女は自由を取り戻した。
自分をここまで追い詰めた怒りからか、魔女は言葉にならない叫びをあげた。そして次に火の玉、ではなく、炎で出来た刃を生成。
もはや狙いなどあったものでは無かった。ストレス発散でサンドバッグに恨み言を言いながら拳をぶつけるように、お酒を飲んで憂さ晴らしするように、その刃をあらゆる方向に放った。
しかし、刃は地面に刺さると同時に破裂。狙いを定めなくても、圧倒的な物量と一本一本の威力の高さから、三組の戦闘を巻き込むには十分だった。
さらにヤジロベエの怪物も動いた。枝から体を離し、宙に浮いた状態でライダー達に接近。魔女の刃と共に、自身も火の玉を投げ付き始めた。
「あん?何だあいつは!!」
「使い魔?いや、だが使い魔は別にいたはず…」
ここで初めて、他のパラディのライダー達も結界に起こっていた小さな異変に気付いた。
「あんの野郎…俺たちの邪魔をしやがって!」
激昂したインベラーは立ち上がると大きくジャンプし、ガゼルスタッブを思い切り叩きつけた。後頭部と、完全な死角から狙われ、思わぬダメージに脳震盪を起こしたように頭をグラグラさせ、そのまま地面にへと近づく。
『FINAL VENT』
インベラーは大量のゼール軍団を召還させ、ヤジロベエの怪物にそれらの角、足、腕を当て蹂躙させた。それで動きが完全に止めた隙に、共にジャンプしながら近付いたインベラーがヤジロベエの頭部に飛び膝蹴りをし、その怪物は耐えきれず爆発した。
だが、魔女の暴走は収まる気配が無い。なおも火の玉や刃を放出し、結界を火の海にへと変えていく。
「やべぇぞおい!もう倒す所じゃねぇ!」
炎を避けながら龍騎は叫んだ。
「同感だ。今日は早く引き上げ…!城戸!あれを見ろ!」
爆発によって木が倒された事で現れた空間をゲイツは指さす。そこには―。
「人!?」
十人弱の人が、木の傍で倒れていたのだ。
「くっ!!」
人を助ける事がライダーの使命だと考えている真司。未来で一人でも多くの人を救おうと奮闘したゲイツ。そんな二人が見捨てるなどという選択肢を取るはずがなく、炎をかいくぐりながら真っすぐに倒れている人達の下へ向かった。
「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」
全員息はある。だが、目覚める気配は無い。
急いで抱えようとするが、その時、火炎玉や刃がこちらを目指して飛んできているのが見えた。人へ目を向けていたので、二人とも完全に反応が遅れていた。カードを装填する事も、ライドウォッチを起動させる時間も無い。
ここまでか―。
真司はせめてと何人かの人に覆いかぶさり守ろうとした。
その時だった。
もの凄く強い風が目の前で流れ、炎の攻撃を一つ残らず消し去った。
一瞬、仮面ライダーナイトかと思ったが、見た目が少し変わっていた。銀と藍色を基調としていた姿が、青と金を基調としたものになっていて、胸部には、まるでコウモリが翼を広げたような、絵本に出てくる騎士が付けていそうな鎧を纏い、甲冑のような部分も縁が金色に塗られ、更に神々しさが増した姿になっていた。
仮面ライダーナイトサバイブである。
炎が龍騎とゲイツに届く直前、ナイトはダークバイザーに、神崎士郎から受け取っていた『SURVIVE 疾風』のカードをセットし、その姿になったのだった。
「早くそいつらを連れて逃げろ」
ナイトは二人を一瞥してそう言うと、サバイブになった事で右腕に付けられたダークバイザーツバイにセットした。
『SHOOT VENT』
すると、ダークバイザーツバイがクロスボウを思わせるような形、ダークアローに姿を変え、矢の先端部から弓矢状の細いエネルギーを発射した。
それは全弾魔女の巨体に命中し、魔女は苦悶の叫びをあげる。技のレパートリーが増えただけでなく、威力も格段に上がっていた。
ここまま押し切ろうと考えたが、
「ぐわぁ!」
それは、突如横から飛んできた火の玉によって阻まれた。それは、赤いヤジロベエのような怪物が出した物だった。
まだ生きていたのかと思ったが、よく見たら、先ほどより一回り大きい。別個体だった。
そのヤジロベエは、その場で胴体を回転させ、あちこちに炎をまき散らした。それは、今捕まった人たちを逃がそうとする龍騎とゲイツの逃げ道も塞いだ。
ナイトは、軽く舌打ちし、新たなカードをセットした。
『BLAST VENT』
ナイトは、ダークウイングの進化形、ダークレイダーを召還し、その翼に付いている二つのホイールを回転。突風でヤジロベエの体を吹き飛ばした。
『FINAL VENT』
さらにナイトは、ダークレイダーの背中に乗った。それを合図にダークレイダーは徐々に地面に向かって滑空していき、翼を畳み、ホイールをむき出しにしたバイクへと、その姿を変えていった。
バイクの先端部からエネルギーを出し、ヤジロベエの動きを完全に止める。そこに、ナイトサバイブのマントで包んだバイクが、ミサイルの様にしてその懐へ超スピードで突っ込み、その体を爆発させた。
その瞬間に結界は消滅。魔女はもちろん、ついでにパラディと名乗っていたライダーも全員いなくなっていた。
「逃げたか」
周囲に反応が無いことを確認するとナイトは変身解除。龍騎とゲイツもそれに続いた。
「おい蓮、何だ今のは?」
「神崎士郎がレポートと一緒に俺に渡したものだ。まさかこれだけの力が出るとはな…。二枚ある。お前にもやる」
と、『SURVIVR 烈火』のカードを真司に渡す。
「おぉ!ありがとう…っておい!貰ってたなら教えろ!っていうか渡せ!」
そんな真司の突っ込みを華麗に躱し、
「そんな事より、何だったんだ?あいつらは」
「あの“怪物”を“魔女”と呼んでいたし、見たことも無いベルトを使ってたのを見ても、只者じゃ無かったな」
「あぁ。あいつらが、神崎士郎の言っていた“願いを叶える力を横取りしようとしている”連中で間違いないだろう」
そして、その横取りの為には、あの魔女と呼ばれていた怪物を倒す必要がある、と、蓮は考えていた。それは、魔女を倒すのは自分たちだと息巻いていた部分からも、ほぼ間違いないだろう。
となると欲しいのは魔女を倒した時に出る、あのオブジェのような物か?
正直蓮は、自分たちは他のライダーよりも一歩リードしていると考えていた。いち早く“怪物”と出くわしたし、未来から来たという別のライダーに会い、彼の話から、今起きている現象は時間の乱れにも影響していて、それにタイムジャッカーなる集団が関わっているかもしれないという情報を掴み、既に、通常のモンスターよりも強い“怪物”を2体も討伐していたから。
だが、それは杞憂だった。
今日出会ったライダー達は、既にその“怪物”の正体を知っていそうだったし、神崎士郎とは違うライダーを連れていた。何より、彼らは今回の騒動を利用して、神崎士郎を出し抜こうと考えていた。
蓮は静かに目を閉じ、心の中で反芻した。
何故俺はライダーになったか?何のために命がけで戦っているのか?
・・・・・・・・・・・・・・・。
もしかしたら、俺は―。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
蓮の思考は、真司の叫びによって途切れた。
「どうした?」
「おっおい!あれ!」
真司が指さす方向。そこには、たき火の様にパチパチと燃える炎があった。結界の攻撃が激しすぎて漏れてしまったモノだろう。とは言え、周囲は石とコンクリートだ。周りにはほとんど何もないし、放っておいてもその内消える。
そんな事を考えていたのだが―。
「そうじゃなくて!あれ、炎じゃない!」
その瞬間。ガラガラガラと音を立てながら、炎が変形。横に燃えていた炎が、ガスバーナーのように縦に燃える。否、あれは炎じゃない。
「まさか…」
それは、蓮が先ほど倒した、ヤジロベエの怪物だった。
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魔女の結界があった場所、通称『炎のビル』から少し離れた場所のミラーワールド内。
仮面ライダーガイ、インベラー、キックホッパー、オルタナティブ・ゼロ。結界を抜け出した五人は、仮面ライダーベルデの提案で、近くにあった窓ガラスからミラーワールドにへと集まっていた。
しかし、そもそも結界から逃げると言う選択に、仮面ライダーキックホッパーの徳山愛矢は納得していなかった。
「どうして!?どうして逃げたの!?確かに邪魔はいたし、魔女だって暴れてたけどそれでももう少し粘れば…!」
「あんだけ大暴れしちゃったら、効く攻撃も効かねぇよ。あんだけ結界がカオス状態になりゃ、もう望み薄だ。落ち込まないで、また探せばいいさ」
オルタナティブ・ゼロの剣持晴人がそれを軽く慰める。
「そんな事してる間に、もしも他のライダーが倒しちゃったらどうするの?あなたの計画がダメになっちゃうんじゃないの?」
「あの魔女は、この世界に現れてからそこそこ時間が経っちまってるってのもあってまぁまぁ強い。そう簡単に倒される事は無いだろう。それに、仮に倒されても俺たちと睦月以外の誰かがグリーフシードに何かをするとは考えにくい。頃合いを見計らって、奪っちまえば済む話さ。それよりも、今は別の事が先決だ。お前だって気付いてんだろ?今回の魔女の結界は普通じゃ無かった」
その言葉に、愛矢は黙って頷いた。晴人が言っているのは、もちろん、最深部で突然現れたヤジロベエの怪物の事だ。あれは、使い魔では無かった。使い魔は、最深部へ着く前にそれを阻むようにして現れた蕾の怪物の一種類だけだ。全ての魔女を見たわけでは無いから100%そうだとは言い切れないが、自身の記憶では、使い魔の姿は一つの魔女に一つの個体。それが大量にいると言うのが普通だったはずだ。
だが、今回は違う。あれは、蕾の使い魔とは似ても似つかない。それでも、魔女を守るようにして動いていたのだから、ミラーモンスターでも無い。
ならば何なのか?それを調べるために、ベルデは皆をミラーワールドに集めたのだ。その事に、晴人も気付いているようで、
「高見沢さん。早くあれを」
「了解」
『ADVENT』
ベルデがカードをセットすると、その付近から透明化していた彼の契約モンスター、バイオグリーザが姿を現した。そして、モンスターが口を開き、そこから長い舌を出すと―。
「これって!」
「おいおい…」
「逃げたのもそういう事か…」
そこから、モンスターの舌で縛られたヤジロベエの怪人が出てきた。インベラーがファイナルベントで蹴り飛ばした後、秘密裏に回収していたのだった。
結界が無いにも関わらず、その姿を肉眼で確認できる所からも、これの異常性は垣間見えていた。
その時―。
ピキッと頭に小さな亀裂が走った。それを中心に全方向へ亀裂は広がっていき、遂にその鎧は崩れ落ちた。
「おいおい、こいつはぁ…」
その鎧から出て来た姿に、晴人は面白いとばかりに口笛を吹いた。
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同じころ。通称炎のビルと呼ばれている廃ビル内。
背の高いヤジロベエの怪人は、ヨロヨロと立ち上がっていた。そして、一歩二歩と真司達に向かって歩いていたが、とうとう力尽きてバッタリ倒れた。
その拍子に怪人の鎧が砕け、その中にあったものが露わになった。
それは、男性の後頭部だった。それは、スーツを着ていた。慌てて真司は彼を起こすと、その姿に驚いた。
一連の連続放火事件。その容疑者として指名手配され、警察が行方を追っている、背中の大きな刺青とスキンヘッドが特徴の男、大岩武(おおいわ たけし)。彼が燃やしたとされるアパートの住人で、現在行方不明になっているひょろりと背の高いサラリーマン男性、牧田隆正(まきた たかまさ)。彼ら二人が晴人と真司、それぞれの近くにいたヤジロベエ怪人の中に入っていた。
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ミラーモンスター、ガルドサンダー。
他の野生モンスターと違い、神崎士郎に直に仕えていて、彼の命令を忠実に実行している鳳凰型のモンスターである。命令と言っても、その内容はモンスターらしくほとんどが殺しで、神崎士郎が不都合だと思った人間の捕食が主になる。ちなみに、仮面ライダーライアの手塚海之。その兄を殺害したのもこのモンスターである。
そのモンスターは現在、ある命令を実行しようとしていた。“侵入者”の始末である。
標的は前方。気付いている気配は無し。そう判断したガルドサンダーは相手を捕食せんと飛び掛かったが、
時が止まった。
比喩などではなく、本当に。ミラーワールドから現実世界へ飛び込んだ瞬間、モンスターの体が空中で静止したのだ。
標的だった少年は小さくため息をつくと、パチッと指を鳴らす。すると、モンスター上方からイグアナ型の機械が飛び出し、その口でモンスターを逆に捕食した。
その少年が出したのは、仮面ライダーゴーストが所持していたイグアナゴーストストライカーを模して作ったタイムマジーン。少年とは、タイムジャッカー、ウールの事である。
「危機一髪って所だったね」
一部始終を見ていたキュゥべえがひょいと傍まで飛んできた。
「これでもう五回目だ。勘弁してほしいよ」
「君の存在は、もう神崎士郎には筒抜けみたいだね。だけどおかしいじゃないか。君の話通りなら、例え君を殺した所であれはどうする事もできない。それは彼も分かっているはずなのに、何故こうも君を殺そうとするんだい?」
「何かせずにはいられないんだろう。例え不可能だと分かっていても、そこに望みをかけてしまう。元凶を倒せば何もかも元に戻るなんて言うのは、物語の定番だからね。感情の持たない君には、分からないだろうけど」
「ふーん。やっぱ人間って言うのは、非効率的な生き物なんだね」
「それよりも、今回は何しに来たの?」
「君にも伝えておこうと思ってね」
「何を?」
「始まったよ」
その言葉にウールは眉を顰める。
「場所は?どういう形で現れた?」
「場所は魔女の結界。魔女が自身の魔法で攫った人を改造して、新しい怪人を作り出したよ」
「なるほど。概ね、君の言った通りになった訳だ。それも“彼女”の指示かい?」
「あるライダーがずっと“彼女”に攻撃を仕掛けていてね。その間にどんな人物でも身体能力を上げる術を覚えて、魔女に発信したんだと思うよ」
「なるほど。魔女同士のネットワークを上手く活用している訳だ」
魔女のネットワーク。それは、大元である“少女”。もとい、神崎優衣を中心に、魔女同士を繋げたネットワークである。神崎優衣が身に付けた能力によって生まれたモノで、これによって魔女をある程度コントロールでき且つ、魔女の周辺で起こった事の共有も可能という代物だ。
故に、この世界にいる魔女は全て神崎優衣の支配下にあった。そうして魔女と自分を繋げ、魔女が得た情報を全て収集する事が目的だった。
水の魔女、アクリシャスや岩の魔女、ゴールダンが良い例だ。二体の魔女はそれぞれ、人間を見つけてすぐに殺すのではなく、宗教やインターネットの内部に潜り込み、口付けをした人間を長く生かしていた。それも全て、その人間を通じて自分が今いる世界について知る為だった。神崎優衣が力を得た事により引き寄せられた10体の魔女。初めにお菓子の魔女、シャルロッテと、鳥籠の魔女、フェザランドが倒されたことをきっかけに、魔法少女以外にも、魔女に対抗できる力の存在を知った神崎優衣は、それを詳しく調べるために、魔女を通じて情報を集めていたのだった。
「それにしても、ただの力の塊になり果てた彼女に、器用に新しいモノを作り出す能力があったのが驚きだよ」
「力の塊とは言っても、元は思考のある人間だ。彼女が生きている限り、脳は生きているんだから、何かを創造する事も容易いよ。君にとってはその方が良いはずだろう?」
「まぁね。ただの力の塊じゃあ破壊を繰り返すだけだ。彼女にはこれからも色々学んでもらわないと困るからね」
全てはスウォルツの支配からの脱却の為に。オーマジオウが支配する未来を変えるために。彼女は、その可能性を秘めた最たる候補者なのだから。
「破壊と創造。神崎優衣は、王をも超える神にへと昇華させるんだ」
ウールは興奮の炎を目に宿しながら言った。
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北岡秀一法律事務所。仮面ライダーゾルダでスーパー弁護士を自称する男にも、蓮に渡したのと同じレポートを神崎士郎から手渡されていた。
「なるほどね。これは便利だ」
一通りペラペラ捲った後、北岡はそう感想を漏らした。
「"怪物"に関連のありそうな事件がかなり詳しくまとめられている。作ったのは刑事か?いずれにしても、これに書かれているのが本当なら、生き残った"怪物"って言うのも少ないのかもしれない」
そこには、廃校にある体育館での学生の自殺、自殺を支援するサイトについても書かれていた。北岡はその二つをよく知っていた。どちらも、それに関係のある依頼を受けた事があったからだ。
廃校の方では、自殺未遂したという少女の親から。原因が部活内でのいじめにあるという事で、その人たちを訴えられないかという内容。自殺支援サイトでは、自殺を支援したサイトの管理人を訴えられないかという相談を、自殺未遂した女性の親から受けていた。
まぁ、廃校の方では、依頼者の希望通りになったが、サイトの方では管理人を突き止める事が出来ず、北岡秀一らしくなく、やむなく依頼を取り下げた。
それ以来、ある程度気に掛けるようにしていたのだが、ある日を境に自殺が、サイト上の書き込みがぴったり止んだ。
妙だとは思ったが、なるほど。どちらも"怪物"が引き起こしていて、それを誰かが倒したとすれば納得がいく。
このように、レポートに載っていて且つ近頃事件が起こっていない(or解決したと報道のあった)モノを除外すると、残るのは2つしか無い。
連続放火事件と子供の行方不明事件だ。
「先生、でしたら―、」
「あぁ。こいつを使ってさっさと仕事を終わらせよう」
北岡秀一はニヤリと笑いながら言った。
北岡秀一がライダーになった理由は永遠の命、不治の病の完治だ。その病気はいつ悪化するか分からない。だから、ライダーバトルが中止されてる今、その原因を作っているどこにいるかも分からない"侵入者"と"10の怪物"というのを疎ましく思っていた。
だが、それももうすぐ終わる。このレポートに書かれた場所に行けば高確率で出くわせるし、出会ったら後は倒せば良いのだから。ようやくその兆しが見えて、北岡秀一の気持ちは晴れやかだった。
北岡にとって、"10の怪物"についてまとめられたレポートは、難解なゲームの攻略本のような存在だった。
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しかし、皆が皆、そういう反応をするわけでは無い。攻略本も、そのゲームをプレイする気が無ければただの紙の束だ。
その程度の価値にしか思っていない男がいた。
浅倉威。
彼は脱獄犯で指名手配中だから、住める家は無い。人気のない川原で火をおこし、近くで捕まえたイモリを串で刺して焼いている所に神崎士郎は接触した。
神崎士郎から、同様のレポートが渡されたが、浅倉はそれを一瞥もせずに炎の中に放り込んでしまった。
「興味は無い」
「そいつらを倒さなければ、お前は願いを叶える事が出来ない」
「それがどうした?俺は戦えればそれで良い。何なら、今からやるか?北岡と戦りあってた時の借りもまだだったしなぁ」
浅倉はデッキを見せて戦闘意欲を示す。が、
「ならばなおさらだ。あの“怪物”どもを倒さなければ、ライダーの資格も、ミラーワールドも失い、お前は戦う事ができなくなる」
神崎士郎は浅倉の挑発を無視し話を進める。
「・・・・・・・・・」
その態度が気に食わなかったのか、浅倉は手近にあった木の棒を取り、叫び声を上げながら神崎士郎に思い切り振り下ろした。
しかしその瞬間、神崎士郎の姿は消え、棒は川原の石に当たった。
「戦いたければ、“怪物”を倒せ。そうすればライダーバトルを再開させよう」
姿は見えないのに、声だけが浅倉の耳に届いていた。
その摩訶不思議さに、浅倉は夜の川原で一人、クックと笑った。
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2002年.ここは元々、仮面ライダーがミラーワールド内でモンスターや他のライダーと戦いを繰り広げる世界だった。
ライダーになった者たちは、それぞれの思いと願いの下でモンスターと契約し、戦いの世界へ身を投じていた。
しかし、「魔女」と言う訪問者によって、今、その世界が大きく歪んでいた。
しかし、例え世界が歪んでいたとしても、ライダーになった者全ての思いや願いは変わらない。
「魔女」と言う異端を抱えながら、それぞれの思惑を複雑に絡み合わせ、運命の歯車を大きく狂わせていた。
これまでの戦いはほんの序の口。極端な言い方をすれば、これまでの戦いは、これから起こる世界の歪み、それに対抗できるかどうかを試す予選のような物だった。
何かが始まろうとしていた。
人を助けようとする者、自分の為に戦う者、人を守ろうとする者、世界の歪みを直そうとする者、逆に歪みを利用しようとする者、それらを静観する者。
それぞれが絡み合った螺旋の先にあるモノは、まだ誰にも分からない。
続く