あずみは走る。結界の中をひたすら走る。
結界自体はすぐに見つかった。アンデッドと同じで、気配を辿ればすぐに見つけられる。統制者と気配が似ている存在。あずみはすぐに中に入った。中には、全く別の世界が広がっていた。コンクリートを踏みしめていたにも関わらず、あずみは木の幹の上に立っていた。地面が何重にも複雑に絡み合った幹に覆われていて、時刻は昼間だったはずなのに、空は星一つない暗い闇が広がっていた。
ビキビキと幹がひび割れ、中から蔓が出てきた。蔓が上に伸びて胴体に、左右に伸びて腕に、上に伸びていた蔓はある程度伸びきると上部でぐるぐるに球状に丸まり、人形にへと形成していく。
「(やはりアンデッドではない…)」
あずみはただただ気持ち悪く感じていた。アンデッドではないにも関わらずアンデッドと同じ気配を発している生き物に、あずみが今立っている場所が、バトルファイトの空間を彷彿とさせる事に。
「はぁぁ!!」
怒りのままにサーペントアンデッドに変身したあずみは自身の爪で使い魔を切り裂いた。さらにもう一匹、一匹、一匹…。
「お前らは、一体何者なんだ!?」
しかし、それに答える使い魔はいない。ただ無数にその数を増やしていくだけ。
さらに、
より強い気配を感じ、あずみは反射的にジャンプして上の木の幹へ上った。
あずみが先ほどまで立っていた場所に火柱が上がる。
見ると、ヤジロベエの様な怪物が両手に火の玉を持って構えていた。
侵入者を撃滅せんと結界の主は次々に兵士を生成していく。まるで、アンデッドを生み出す統制者の様に。
数が増えたからと言って逃げ出す程、カテゴリーQは落ちぶれていない。
「はぁ!!」
あずみはヤジロベエの怪物に向けて飛び上がり、右腕に巻き付けていた鎌状の鈍器を相手にぶつけた。頭部に当たり怯んだ隙にさらに爪を、鈍器を相手にぶつけていく。
「貴様らの様な偽物が、アンデッドを語るな!」
あずみの後ろから使い魔が飛び掛かろうとする。
「来い!」
あずみの声に応じ一本の弓矢が使い魔を切り裂いた。あずみが手駒に加えた金色のクマバチモンスター、バズスティンガー・ブルームと銀色のツチバチ型モンスター、バズスティンガー・フロストだ。
二匹のモンスターは弓矢を分断させた刀で、毒針でその他の使い魔を次々と倒していく。
「ハァ!!」
サーペントアンデッドは口から衝撃波を出し、ヤジロベエを倒した。ヤジロベエの体から使い魔が離れ、中から人間が現れる。
「(人間…)」
あずみは舌打ちをした。
「おっ、何だ先客か?」
声のする方向へ振り返ると、そこには黒いライダー、さらに後ろにはサイ、コウモリ、バッタ、ガゼル、カメレオン型のライダーの姿があった。
「仮面ライダーか…」
「って、よく見たらお前あの時のアンデッドじゃねぇか。魔女の結界なんかで何やってんだ?」
「魔女の結界?」
その言葉にあずみは眉を潜ませた。そして、鈍器をライダーに向ける。
「魔女の結界とは何だ?ここは一体何なんだ?今すぐ、知っている事を話せ」
「はぁ?何でお前なんかに」
「いや待て」
突っかかろうとするインベラーをオルタナティブ・ゼロが止めた。
「高見沢さんは魔女を倒しに行け。俺はちょっとこいつと話す」
「?構わないが、何でこいつなんかの相手を。状況分かってんのか?」
「分かってるよ。だがまぁ、俺が抜けても五人だろ?そうそう他に取られるなんて事はねーよ」
だといいが、とベルデは言い残し、五人は奥へ進んだ。あずみは黙ってそれを見送った。
「あんたが教えてくれるの?」
「おぉ、だがその前にこっちも質問するぜ?お前は、何で魔女の結界何かに興味があるんだ?」
「質問をしてるのは、こっちよ!」
『SWORD VENT』
サーペントアンデッドが振り下ろした鈍器をオルタナティブ・ゼロはスラッシュダガーで受け止めた。がら空きの胴体にオルタナティブ・ゼロはすかさず蹴りを入れる。
サーペントアンデッドは衝撃波を発射。それもスラッシュダガーで防ぎ威力を半減させた。
衝撃波がダメならとサーペントアンデッドは再び鈍器を振り回すが、オルタナティブ・ゼロはそれを軽々と受け流す。そして、攻撃を躱しながら晴人は言った。
「何故お前が魔女の結界に興味を持っているか。答えはこうだろう?」
何を言っているのかあずみは分からなかった。見ず知らずのライダーが何故自分が今考えている事を当てる事ができる?何を疑問に思い、どうやって結界に辿りついたのか、それすらも分からないだろう相手が。
そんな思考は、オルタナティブ・ゼロの次の一言で全てが吹き飛んだ。
「アンデッドと同じ気配がしたから…だろ?」
その瞬間、あずみの攻撃の手が止まった。それを見逃さず、晴人はアンデッドを切り裂いた。
「図星か」
倒れているアンデッドを見下ろしながら晴人は言った。
「やっぱりな。思った通りだ。これでようやく分かったよ。魔女が何故この世界に来たのか。そして、両者にはどういう繋がりがあるかもな」
「あんた…何を…?」
何故彼の口からアンデッドという言葉が出てくる?そもそも、アンデッドと魔女と呼ばれる存在に似た雰囲気を感じる事が出来るのはアンデッドだけのはず。それなのに、人間のライダーがそれを言い当てた?いや、推測した?
「無駄だよ」
その思考すらも、オルタナティブ・ゼロの一言で全てが止まった。
「お前が何をしようが何も変わらない。バトルファイトは永遠に再開しないんだから」
「―――――!」
不死の生命体にこんな表現を使うのはおかしいが、あずみは確かに、自分の心臓が止まる感覚を味わった。
アンデッドの存在意義であるバトルファイトの事を知っていたのもそうだし、そもそもバトルファイトは始まらないとハッキリ断定したから。
一体この黒いライダーは何者なのか?
いや、そんな事よりも、もしも本当にバトルファイトが無いのなら、何故自分はここにいる?
『ACCEL VENT』
気が付くと、あずみの目の前にスラッシュダガーの切先が見えた。防御する間もなくあずみは斬り裂かれその場で転がる。
「俺の考察を確かなモノにしてくれた礼だ。殺さないでおいてやる」
と言ってもお前は死なないか、とオルタナティブ・ゼロは薄く笑った。そして、その視線を最後にオルタナティブ・ゼロも結界の奥へと消えた。
あずみはノロノロと立ち上がると、バズスティンガー・ブルームとバズスティンガー・フロストに指示を出して結界を後にした。
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それから数十分後、仮面ライダーレンゲル、斬月、龍騎、ゲイツの四人が結界に入った。
魔女本体がいる結界だというのに使い魔の数が少ないし、所々に幹のひび割れや抉られた様な跡がある。
「誰かが入って戦闘したって感じだな」
ゲイツが呟いた。
「晴人達だろうな」
「と言う事は愛矢も…」
「蓮もいるかもしれない」
四人は急いで結界の奥へと進んだ。
結界内へはすんなりと進む事が出来た。使い魔がほとんどいない。体力を温存できて良しと見るか、結界の最深部へ着く頃には晴人達が魔女を倒してしまう可能性を考えて悪しと見るかが悩ましい所だが。
右斜め上から火の玉が飛んできた。
咄嗟に腕で庇いながらその方向を見る。
「現れたか、ヤジロベエ」
「だが待て、様子が変だぞ」
倒そうとラウザーを構えるレンゲルをゲイツが止める。このヤジロベエは、これまで会ってきたモノとは少し違っていた。
太陽のようにオレンジに光っていて、体のあちこちがひび割れ、その隙間から煙がもうもうと出ていた。
「許さない…絶対に許さない…」
そのヤジロベエが口を聞いた事に四人は驚いた。ヤジロベエの怪物は、使い魔が人間を完全に乗っとるので知性は持っていない。故に口を聞く事は無かった。しかし、四人は既に目撃している。使い魔に体を取り憑かれながらも知性を持った怪物がいるということを。
四人は改めて武器を構えたその時、ヤジロベエがけたたましい悲鳴を上げてその姿を変化させた。
ひび割れが全身に及び、ヤジロベエだとその姿を他人に認知させていた装甲が崩れ、中から日本の手足が伸びた人形の怪物が現れた。
「やっぱり進化したか」
「だけどあれは、」
「あぁ、あの時見たヤツとはまた少し違うな」
その怪人は、昨日四人が見た怪人と同じ顔で、羽衣を纏っていた。しかし全身は青ではなく煌々と燃える炎を思わせるオレンジ色をしていて、羽衣は薄紅色、スタイルも青い怪人よりも多少がたいが良く、男性である事が分かった。
ヤジロベエの進化体。長く取り憑いた事で、その人間の知性・感情を吸収して生まれた姿。人型怪人、ヒート。
「許さない、許さない許さない…全員燃え果てろおおおおおぉぉォォォ!!!」
ヒートは大きく腕を横に振ると熱風が吹き出し、辺り一面が無作為に爆発した。
大きく咆哮したヒートは突進。炎を纏った拳を龍騎にぶつけた。
『GUARD VENT』
龍騎はそれをドラグシールドで防ぐ。が、完全には防ぐ事が出来ず体勢が崩れた。
さらにもう一つの拳を龍騎にぶつけようとする。
『時間ザックス・OH NO!』
横からゲイツが斧を振り下ろした。ヒートは攻撃を止めジャンプして躱す。
空中にいるヒートに向かって斬月はラッパガンを放った。エネルギー弾によってヒートは着地に失敗し倒れる。
そこに畳みかけようとレンゲルはラウザーを打ち付けた。みぞおちにラウザーをぶつけると胸部に向かってラウザーを突こうとしたが、それをヒートは抑えつけた。そして、ヒートの拳をアッパーでレンゲルにぶつけた。
さらに打撃を与えようとするヒートをゲイツが止めた。ファイズフォンXを持ったゲイツが後方からエネルギー弾を放ったのだ。
『FAIZ』
『ARMOR TIME COMPLETEφ 555』
「腹立たしい…何故こう俺の邪魔ばかりすんだ…ぬおおおおおおおお!」
レンゲルからヒートへ再び方向転換したヒートはゲイツにパンチを放つ。
『READY SHOT ON』
そのパンチをゲイツはギリギリの所で屈んで躱すと、ファイズショットを取り付けた拳を上に向けて放ち、ヒートの体は上方へ吹っ飛ぶ。
『READY POINTER ON』
ゲイツはすぐにファイズフォンXを操作し、ファイズポインターを足に取り付けた。
『FINISH TIME 555』
『EXCEED TIME BURST』
ポインターから赤い円錐状のエネルギーが放たれ、ヒートの胴体を捕らえた。そこにゲイツは右足をぶつけた。円錐状のエネルギーがドリルの様に回転しヒートの中に入った。
エネルギーが体を貫くとφマークがヒートの体に描かれると赤い炎を放ってそのまま爆発した。
ヒートの体から蔓の使い魔が出ると消滅。ヒートの体は元の人間の姿に戻りそのまま倒れた。
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「殺してやるぅぅぅぅぅ!!!!!俺を認めない奴は全員殺す!!!!!!!!」
レンゲル達が戦っていたのとは別のヒートと晴人達は戦っていた。熱された棒振り回ながら一団に突っ込んで行く。
「蓮」
『NASTY VENT』
ダークウイングから発せられた超音波で怯みヒートは足を止める。
「佐野」
『FINAL VENT』
インベラーは大量のゼール軍団を召還し、モンスターの角や脚をぶつけた。そして最後にインベラー自身が飛び膝蹴りを食らわせ、ヒートの体は爆発。使い魔がヒートの体から出ると消滅した。
「ったく、バカデカい力を持ってもこの始末。知性があるってのに全く使いこなせてない」
こいつらの人間性が伺えるなと晴人は呆れる。そして倒れている元ヒートの人間を見るとさらに続けて言った。
「許せない許せないと言ってたが、誰もこいつの許しなんか求めてないだろ、きっと。こいつが馬鹿だから失敗して自滅しただけだろうなぁ」
「?お前、こいつのこと知ってるのか?」
「知りませんよ?高見沢さん。でも分かんだよ。現状に満足してないにも関わらず腐ってたヤツだってな」
そうでもなきゃ魔女になんか捕まらないだろと晴人は付け足す。
「失敗しても負けても、絶望せずに前に進み続けた奴だけが勝つ。希望を追うのを止めて過去に囚われた時点で負けだ」
「随分な言い様だな。そういうお前はどうなんだよ?何度失敗しても前に進み続ける事ができるのか?」
芝浦が茶化すように言った。
「できるぜ?ってか今がそれだ。失敗したからこそ、このチャンスに全てを賭けてんだ」
「…?」
「さぁ着いたぜ、第二ラウンドと行こうか!」
パラディの目の前には木の幹に覆われたドームが建っていた。
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仮面ライダー斬月こと百江なぎさは一人来た道を引き返していた。ヒートになった人間を結界の外に出すためだ。
仮面ライダーになった事で増加した腕力で男性の肩をかつぐ。
『何であんた、自分から戻るって言いだしたの?』
“声”が聞こえた。学校に行くようになってすぐに聞こえて来た“声”。
「この人の事、放っておけないから…」
『それだけならあんたが行かなくてもいいじゃない。あんたの他に三人もライダーがいたんだからさ。愛矢に会えないかもしれないわよ?それでも良いの?』
「・・・・・」
『他にも理由があったんじゃないの?』
「・・・・・・」
『答えないなら私が教えてあげる。共感したからでしょう?』
「・・・・・えっ?」
なぎさの足が止まった。
『許せない許せないって当り散らしてたそいつが、羨ましいって思ったからでしょう?』
「そんな…。あんな、睦月達を殺そうとした人が羨ましいなんて…」
『別に嫌がる事は無いじゃない。あなたも少し前までは魔女として恨みを当り散らしてたんだから』
「!!それは…!」
『関係ないって言うの?本当に?今のあんたもそうでしょ?ムカつく奴らに復讐したいってそう思っているのよ』
「何でそう言い切れるのですか!?」
『分かるでしょ?だって私は―』
その時、低い獣の様な唸り声と共にキンという斬撃の音が聞こえてなぎさは我に返った。
誰かが来る。
なぎさは咄嗟に幹の陰に身を隠した。
静かな靴音と共に音の主が姿を現した。
紫に蛇の鱗のような六角形の模様が付いた鎧を纏ったライダー。初めて見るライダーだが、なぎさはそのライダーに不穏な空気を感じていた。
「祭りの場所はここかぁ…」
紫のライダーが誰に言うでもなくそう呟いた。
仮面で見えなかったが、なぎさには彼が不敵な笑みを浮かべている事が分かった。
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睦月達は知らない事だが、人間に憑依した使い魔が進化する条件は憑依した時間の長さだけではない。それ以外にも、ある特定の感情を限界以上に引き出した時、進化が起こる。その感情を糸にし、人間と使い魔の結びつきをより顕著なモノにするのだ。魔女は、呪いを振り撒く存在。故に、その「特定の感情」も、マイナスな感情。今回の場合は「怒り」。あいつはムカつく、嫌い、目の前から消えて欲しい、それら全てにある根本の感情である「怒り」が、進化の為のトリガーになる。
喜怒哀楽と言う言葉があるように、怒りの感情は生きていれば誰しも持つ感情である。しかし、例え怒りを持ったとしても、大抵の人間は自身にある倫理観や道徳心によってそれを抑えつけるので凶行に走る事は少ない。
しかし、その怒りの感情が限界以上まで引き出されるとどうなるか。怒りに身を任せ、敵味方関係なくただ目の前の物を破壊しつくす。まるで獣の様に。進化し、言葉を話し、知性を持ったように見えてもやる行動は獣と変わらない。一見相反している様に見える二つの特性が両立できる可能性を秘めているのが「怒り」と言う感情なのだ。
しかし、それはあくまでも一般的な話。学校が憎い、教師がウザい、社会が憎い、家族がムカつく。では具体的にどんな所にイラついているのかと問えば、「なんとなく」とあやふやな答えが返って来るような漠然とした怒りに限りそれは成立する。
概念ではなく具体的な人・モノに恐ろしい程の怒りを抱えていた時、獣を思わせるような破壊の力は精錬され、武器へと昇華する。普段は鞘にしまい、必要な時にだけそれを振るう刀の様に。
レンゲル、龍騎、ゲイツの三人の前に、昨日出くわした青色の羽衣を纏った女性怪人が現れた。
彼女は先ほど戦ったヒートとは違って目が合った者全てを破壊しようとする事無く、ただ一点を、レンゲルに変身している三葉睦月を見つめていた。
「真司さん、ゲイツさん、悪いけど先に行ってくれますか?」
レンゲルは改めてラウザーを強く握りしめながら続けて言った。
「誰だかは分からないけど、こいつの狙いは間違いなく俺です。魔女や晴人達との戦いで邪魔しない為にも、こいつは俺が引き受けます」
続く