「うわっと!」
いきなり飛びかかって来た怪人を睦月はギリギリ躱した。しかし、その衝撃でカードを積んでいた机が崩れ、辺りにカードが散らばった。怪人は尚も睦月に襲い掛かってくる。
「何なんだよ、一体」
その怪人は、まるでクラゲのような容貌をしていた。全身は薄紫と黒で覆われ、右手の指は異様に長く、左腕からは触手が伸びていた。頭は透明な膜ですっぽり覆い、口元は黒いマスクで隠しており、鋭い目がこちらを睨んでいた。
そして再び飛びかかって来た。睦月は杖―レンゲルラウザー―を使ってそれを受け止め、ラウザーを胴体に叩きつけた。怯み後ずさった所でさらにもう一発加える。続けて二発、三発、四発。しかし、決定打にはならない。やはり、何かカードをスキャンしなければダメだ。
そう考えていた時、敵が動いた。一発でも多くラウザーをぶつけて倒そうとしたのだが、突如体が軟体化したのだ。そのまま床に吸い込まれ、水たまりのようになってから怪人は素早く後ろに回り込み、顔を殴りつけた。尚も攻撃素養としたが、睦月はラウザーのリーチを利用し、適当に振り回して威嚇して距離を取ることができた。
やはり何かカードをスキャンしなければダメだ。しかし今日持ってきたカードはクローバーだけ。しかも2~10はスキャンした後近くのテーブルの上に置いたので今はそれらが床に散乱していて回収する時間もない。今あるのは、まだスキャンしていないカード、クローバーのJ、Q、Kだけだ。
「まだ試してないけど、一か八かだ」
睦月はホルダーからJのカードを取り出した。
『♧J FUSION』
いつもなら、スキャンした瞬間に何か変化が訪れていた。しかし、何も起こらない。体にも特に変わった様子はない。
「えっ?」
『♧J FUSION』
『♧J FUSION』
『♧J FUSION』
何度スラッシュしても同じだ。
「何で何も起こらないんだよ」
その時、怪人の左腕の触手が睦月の右手に巻き付いた。
「しまった!」
スキャンするのに夢中になってて、敵からの注意を反らしたことを見逃すわけが無かった。しかし幸運にも、これが好転の兆しになった。
怪人はそのまま左腕を大きく振り、倉庫の壁に睦月を思い切りぶつけた。反動で倒れたが、その場所は、カードを置いていたテーブルのすぐ近くだったのだ。敵が一瞬の隙を見逃さなかったのと同様に睦月もこのチャンスを棒に振る訳もなく、自然に体は一枚のカードを手に取っていた。
『♧4 RUSH』
睦月はラウザーを一直線に接近してくる怪人に真一文字に殴りつけた。その一撃は先ほどまで何発も当ててたそれとは威力が違う。その衝撃で怪人は大きく吹っ飛び倒れる。
「とどめだ」
睦月はさらに手近にあった2枚のカード拾い、
『♧5 BITE』『♧6 BRIZZARD』
『ブリザードクラッシュ』
「はっ!」
その声と共に大きくジャンプし、怪人に両足を向ける。そこから冷気が勢いよく噴射し、敵を急速に凍らせる。それを睦月は挟み蹴りにし打ち砕いた。
怪人は大きく叫び声を上げながら吹っ飛び、爆発した。怪人は尚も肉体を保ち、生きているようだったが辛うじてだ。腰につけてたバックルが開いた。そこに♧7と刻印されてあった。ふと横を見るとそこには怪人が飛び出したあのカードがあった。しかしそこには先ほどまであった絵が描かれていなく、今は少し鎖が描かれてる以外は空っぽだった。文字も数字も書かれてない。
睦月はそれを動けなくなった怪人のもとに持っていき、そっと相手のバックルにカードをかざした。するとその怪人はカードに吸い込まれていき絵が先ほどまで描かれてたものに戻った。文字も、『♧7 GEL』と印字されていた。
「・・・・」
工場内に長い沈黙。睦月は一旦バックルを閉じて変身を解除した。
「さっき俺は、何でこの2枚をスキャンした」」
2枚合わせれば強力な効果を得られることは知っている。しかし、現段階では1枚1枚の効果が分かっただけで、どのカードとどのカードを合わせればいいのかは『蛇』との戦いで使用したブリザードゲイル以外は分からないはずだ。しかし、睦月は何の迷いもなくあの2枚をスキャンした。
まただ。また、初めてなのに既に使い方を知っている感覚―デジャヴ―を味わった。俺とこのバックル、一体どんな関係があるんだ?
また、それ以外にもさっきの一件で様々なことが分かった。まず、J、Q、K。これらは他のカードと同様の使い方ではその効果を発揮することができないということ。まだJしかスキャンできてないが、他2枚も同様だろう。というのも、これら3枚はAのCHANGEと同様、スートに関係なく印字されている言葉が同じだからだ。JはFUSION、QはABSORB、KはEVOLUTIONと印字されている。それぞれ「融合」、「吸収」、「進化」という意味を持つこれらのカードはではどのようにして使うのだろうか。
しかし、それは後回しだ。今は―と、睦月は1枚のカードを取り出す。それは♧の10、REMOTEのカードだ。REMOTE、それは、カードの中に入っていた怪人を解放させる効果を持っていた。睦月は、その「解放」という言葉に引っかかりを感じた。床に散らばったカードを全て回収し、
「変身」
『♧ OPEN UP』
と、再度変身する。そして傍らから「あるモノ」を取り出した。それは、『蛇』との戦いで手に入れた球にピックが貫いているように見える黒い物体だった。
―「君が、絶望に囚われてる子達を解放してあげることができる唯一の存在なんだ」-
夢に出て来た男は、そのように言っていた。解放。つまり、REMOTEのカードを使えということなのではないだろうか。印字されてる言葉は「遠隔」なのだから、考えすぎの可能性もある。何も起こらないかもしれないし、最悪またあの『蛇』がまた出てくるかもしれない。しかし、このままずっと考えても、この物質が何かは分からない。ならばこちらからできる限りの刺激を与えなければならない。幸運にも、何か化け物が出たとしても、廃工場周辺には誰もいないのだから、問題ないだろう。
睦月は恐る恐る♧10のカードを入れた。
『♧10 REMOTE』
カードから一筋の光が伸びて、黒い物質に届いた。すると、それは白く光り、一気に広がった。睦月はあまりのまぶしさにとっさに腕を覆う。
そして、その光から何かが出て来た。それは―
「えぇ!?」
睦月は思わず声を上げる。余りにも予想外だったからだ。
出てきたのは、『蛇』でも無ければ、他の化け物でもない。
銀色の長い髪を持ち、それを小さくツインテールでまとめた、見た目小学生くらいの少女だった。
続く
今話も最後まで読んでいただきありがとうございます。
前にも話しましたが、これはライダーに興味が無い友達にライダーとはどういうものかを伝えるためにその友達が好きなまどマギを交えて小説にしようと思ったのがこの物語のきっかけです。
故に、初期の頃は結構文字数に偏りがありますし、変な所で切れてる部分もあります。
合わせてもいいんですけどそれはめんどい(笑)ので、友達に見せたのをそのまま垂れ流しているのが現状です。
今回2話連続で流したのもこういう事情からです。
身内の時は別々に出したけど、さすがに今回こういう形を取っちゃ読みごたえが無さすぎるかなと。
ご意見、ご感想、質問、遠慮なくお願いします。
次回で第一章最終回!こうご期待ください。