ライダーとして、遂に本格的に動き出します。
三葉睦月は、「クインテット」という名前のアパートに一人で住んでいた。部屋が5つ用意あることから名付けられたのだ。大学まではバスで30分、そこから電車に乗り換え30分と交通の便がいいとは言えない。それでも、大学内にある寮よりは家賃が安かった為、貧乏な大学生にはそこそこ人気のあるアパートだった。しかし一年前、巨大企業の高見沢グループが大学と提携を結んだことで、大学内に安い寮が建てられた。当然、クインテットに住んでいた人たちはそちらに行ってしまいた。しかし睦月は、このクインテットの土地を持っているのが自分の親であることと、大学内に住んだら誰かが泊まりに来たりすることは明らかだと思ったので、離れなかったのだ(アパートの大家さんには凄く感謝された)
今、クインテットには睦月の他にもう一人住んでいる。百江なぎさだ。本当なら彼女は警察に預け、ちゃんとした施設に行かせた方がいいのだが、彼女と出会った経緯は誰に言っても信じてくれる訳ないだろうし、何よりなぎさ自身が睦月と一緒にいることを望んだので、アパートに住まわせているのだ。幸い、睦月にもそこそこの蓄えがあったので、女の子を一人預けることくらい何の問題も無かった。
そして今日から、三葉睦月と百江なぎさの共同生活が始まるのだが―
「なんだこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
二人の共同生活は睦月の大声で始まった。
「どっどうしたのですか?睦月?」
トーストをかじっていたなぎさは驚いて聞き返した。睦月は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
「何で・・・OREジャーナルに俺の記事が・・・」
睦月は写真の参考になればとOREジャーナルというネット情報配信を定期購読していて、それを朝食を食べながら読むことを日課にしていた。そんなOREジャーナルの記事に、レンゲルのことが載っていたのだ。
「『謎の怪物と戦う黄金の鎧をまとった戦士現る』これ昨日の睦月ですよね?ニュースになるなんて凄いのです!」
横から覗き込んだなぎさは嬉しそうに言った。しかし、そんななぎさとは違い、睦月は素直に喜べなかった。
「そんなこと言ってる場合じゃ無いよ、なぎさちゃん。まさか昨日の戦いが見られていたとは・・・」
「何か問題があるのですか?睦月は悪いことをしているわけじゃないのですから別に大丈夫だと思うのですが・・」
「まぁ、個人的に俺が人にちやほやされるのが苦手だっていうのもあるんだけど・・・何というか、あんまりライダーの存在っていうのは世間に広めない方がいいと思うんだよね」
睦月は苦笑しながら答える。
「それはどうしてなのです?もしかしたら仲間が増えるかもしれないのに」
なぎさは首をひねった。
「まぁ、この記事を見て俺と一緒に戦ってくれる仲間が増えることは嬉しいよ。人数が増えればできることが多くなるのは分かってる」
だけど―、と睦月は一旦切った。そして少し間をおいて続けた。
「俺も上手くは言えないんだけどさ、仲間って言ってもただ増えるだけだとダメなんだよ。何というか、「敵を倒す」ことを目的にした奴が来たら、それは何か違うような気がするんだよね」
なぎさはきょとんとしたような表情を浮かべた。何を言っているのか、よく分かっていない様子だった。
そんななぎさの頭を睦月は優しくなでながら言った。
「まぁ、なぎさちゃんにはちょっと分かりずらかったかな」
なぎさとそんな話してるうちに気持ちの整理が付いた。撮られたことは失敗だが、だからと言ってあの時はなぎさを助けるために行ったことで後悔はしていない。だから、今のところ二人に害は来ていない。それだけでも良しとしようと思えて来た。そして睦月は残ったコーヒーを一気に飲み干すと、
「さて、そろそろ大学に行く時間だ。なぎさちゃんも、早くご飯食べちゃいなよ」
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身支度を手短に済ませ、出かける時間になった。なぎさは玄関まで睦月を送りに行った。それを見て、睦月はまた心配になった。
「なぎさちゃん、今朝も聞いたけど、本当に俺が学校に行って大丈夫か?無理だったら、今日は休んで一緒にいてもいいんだよ?」
「なぎさは大丈夫なのです。なぎさの為にズル休みをするのはいけないことなのです」
「―――」
本音を言えば、今日は一日なぎさのそばに居たかったし、元々そのつもりだった。だけど、近所の小学生が学校へ登校している様子を見て、なぎさは睦月はどこにも行かないのかと聞いてきたのだ。そこで睦月はつい、いつもなら大学に行っていると言ってしまったのだ。それに対してなぎさは大きく反応し、行かなきゃダメ、ズル休みはいけないことと言ってきたのだ。そして睦月はなぎさに負け、急遽行くことになった。なぎさはどうやら真面目な気質があるらしい。
「なぎさちゃん、俺は携帯を持ってるから、何かあったらすぐに電話を掛けるんだよ。いつでもいいから。後、お昼はあり合わせしかないけど作って冷蔵庫に入れたから。それから―」
「何回も聞いたのです。なぎさは大丈夫だから、早く行くのです」
自分は大丈夫。それに確信が持てないから今日休もうとしたのに・・・。睦月は一つため息をつくと、
「分かったよ。何回も聞いて悪かったな。夜はなるべく早く帰るから」
と、ドアに手を掛けた。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいなのです」
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そして、睦月は今大学で講義を受けている。もちろん、集中できるわけが無かった。何せ昨日の今日だ。なぎさを一人にすることはやっぱり心配だった。少しでも気が紛れればと、睦月はなぎさの言動などから今までの状況を整理することにした。あの後なぎさは睦月に、自分が知っていることを色々と教えてくれた。
まず、数日前に自分が会った『蛇』のことだ。あれはなぎさは「魔女」と呼んでいた。そして、彼女曰く、それは「魔法少女」と呼ばれるものになってしまったが為に変化してしまったものであるらしい。その魔法少女は、「キュウベエ」―なぎさは動物と呼んでいたが―と「契約」を交わすことでなれるらしく、キュウベエに自分の願い事を言えばそれを叶える代わりに魔法少女にするということらしい。
魔法少女、魔女。アニメや漫画の世界ならまだしも、現実世界にそれらの存在がいることには驚いたが、自分が変身しているレンゲルも似たようなものだと気付いたので、睦月はひとまず納得した。
話していく内に、睦月はなぎさの記憶が曖昧であることに気付いた。もっと言えば彼女が、魔法少女になる以前の記憶がごっそり抜け落ちていたのだ。
初めてなぎさと出会った時、彼女がうわごとのように「お母さん」と言っていたことを思い出した。あの言葉から、家族に関わる事なのだと思うのだが、それについては知らない風だった。嘘をついているようでも、隠し事をしているようにも見えないので、モンスターの出現などでパニックになって、部分的に記憶を失ったと結論付けた。
睦月はキュウベエという存在に憤りを覚えていた。それと彼女がどういう契約を交わしたのかは知らないが、こんな小さな少女に戦う運命を与えて、さらにいずれ怪物になる存在に変えることはどう考えても間違ってる。
なぎさの他にも、キュウベエと契約し、魔女になった少女はたくさんいるだろう。それから解放する力を、自分が今持っているのなら―
ここまで考えた時、講義終了のチャイムが鳴った。今は16:10分、ようやく今日の講義は終わりだ。早く帰ろう。なぎさちゃんの為にも今日はおいしいモノを作ろうと急いで帰り支度をしていた時だった。
「おい、睦月」
一人の男が声をかけて来た。彼は、如何にも高そうな服を身に付け、顔もそれに合わせてクールに整えられてまるでホステスを思わせるような風貌だった。彼の名前は剣持 晴人(けんもち はると)。同じ写真サークルに所属している人物である。その風貌から、睦月を含め、彼を知らない人はいなかった。
「見たかよ。今日のOREジャーナル」
今日のOREジャーナル。それはもちろん、レンゲルの記事のことを指しているのは明白だった。
「凄えよな!? まさかあんな奴がこの近くにいたなんてよぉ」
痛い所をついてくる。やはり、あの記事が与えた影響は相当の物だった。何か喋ればボロが出るかもしれない。こういう時は黙ってるに限る。それでもなお、晴人は続ける。
「それでよ、同じ写真サークルとして、今色々な奴にこの写真についての意見を聞いているんだけどよ。どうだ?このまま朝までこいつについて語り合わないか?」
ハァ!!?
冗談じゃなかった。レンゲルについてこれ以上誰かに話せるものか。何より、早くなぎさの下に帰りたかった。だから、それを限界までオブラートに包んで、
「いや、ごめん。これからバイトだからさ。また今度な」
と言って、そそくさと退散した。しばらくサークルは出入り禁止だなと思った。
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17時を少しすぎに睦月は帰った。
「ただいま」
「お帰りなのです」
帰ってくるなりなぎさは睦月に飛びついた。
「大丈夫だった?」
「なぎさはもう子供じゃないから全然平気なのです」
と、まだ子供な人が言いそうなセリフを聞いて、睦月はひとまず安心した。
「それじゃ、買い物行こうか」
「はいなのです」
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そして二人で睦月が普段バイトをしている近所のスーパーへ、今晩の夕食の材料を買いに行った。
「今日は何にするのです?」
「うーん、そうだなぁ。今日はなぎさちゃんと暮らす一日目だからな。ハンバーグでも作ろうかと思うんだけど、それでいいかな?」
「賛成なのです」
そして睦月は、ひき肉、卵、玉ねぎと次々と材料をかごに入れていった。そしてどうせならと、最後に睦月は乳製品のコーナーへ行った。
「何を買うのですか?」
「うん?普段こういうの作らないからさ。どうせ作るなら、ちょっと豪華にしようと思うんだよね。チーズハンバーグとか」
「嫌です」
なぎさははっきりとそう言った。
「えっ?」
「チーズは・・・嫌です」
睦月は驚いた。しかしそれは、チーズが苦手なことにではない。食べ物の好き嫌いは当然あるだろうから、チーズが嫌いでも珍しいことではないからだ。問題は、なぎさの反応だった。今まで明るかった声は急に暗くなり、彼女の手は睦月のズボンのすそをギュッと掴んでいた。そして、その手は震えていた。
「おや?睦月君?」
その時、誰かから声が掛けられた。このスーパーで働くパートさんだ。
「あっ、どうもお疲れ様です」
「こんな時間に買い物なんて珍しいね。今日は何かあるの?」
と、ここで、パートさんはなぎさに気付いた。
「おや?この子は誰だい?」
「あぁ、えっと、この子は遠い親戚の子です。訳あって、しばらく預かることになりまして」
そう、睦月はとっさに嘘をついた。パートさんも、それで納得したようだった。
「なるほどね。それで今晩は手の込んだ夕食を作るのね。育ち盛りの子にお惣菜だけじゃ可哀想だものね」
そして目線はなぎさの方に向き、
「君、名前は?」
「百江なぎさなのです」
「なぎさちゃんね。しばらくの間、よろしくね」
「はいなのです」
不意のパートさんの登場で、先ほどなぎさが感じていた妙な感情は薄れたみたいだった。それに睦月はホッとした。
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ハンバーグを作るのなんて本当に久しぶり―少なくとも一人暮らしをするようになってからは作ったことない―だったから、できるかどうか不安だった。しかし、何とかうまく焼けて、二人で楽しくお喋りしながらワイワイ食べた。
思えば、こうして自分の家で誰かと一緒にご飯を食べるのは初めてだった。普段は人と関わるのが苦手ということもあり少し他人とは距離を置いているのだが、こういうのも温かくて悪くないと心から思った。
「なぎさちゃん」
そして食事が終わった後、睦月は真剣な顔でなぎさに話しかけた。本当は彼女に魔女の話を持ち込みたくは無いが、今後の為にもしっかりと話しておかなければならなかった。
「俺は、レンゲルの力でこれからもなぎさちゃんの様に姿が変わってしまった人を助けようと考えている」
なぎさはこの言葉に小さく反応した。
「今日なぎさちゃんを見て改めて決心したよ。なぎさちゃんは悪い子じゃない。あの時は悪いことしかできなくなった魔法に掛けられてるだけなんだってことを。俺は、その魔法から人を解き放つ力があるなら使いたいと思っている。なぎさちゃんには辛い思い出を思い出させることになるかもしれないけど、いいかな?」
「――――」
なぎさはしばらく何も言わなかった。ただ沈黙が流れる。しばらく経った後、なぎさは口を開いた。
「睦月は、こういうのほっとけない人なのですよね。なぎさの時も必死で助けてくれたから、なぎさは分かるのです。睦月なら、そう言うと思ったのです。なぎさがそうだったんだから、他の魔女も多分元に戻せるのですし」
さらになぎさは続ける。
「なぎさは、動物と契約を交わして魔法少女になったのです。その時のお願いは覚えていないけれど、魔法少女になるときに作られるソウルジェムが黒くなったとき、なぎさは・・なぎさは・・」
ここまで言うと、なぎさはまた目に涙をためた。睦月は彼女を抱きしめて、何とかその恐怖心を取り除こうとする。
「大丈夫。大丈夫だよ」
「ありがとうなのです。なぎさは大丈夫なのです。だから睦月、他の魔女も助けてあげようです」
睦月は、その彼女の表情を見て頷いた。
もしもこの時、スーパーで彼女が見せたあの表情について聞くことができていたのなら、あのような結末にならなかったのだろうか。しかし、あの時の睦月はこれ以上彼女について土足で踏み込むのについ抵抗してしまった。彼女の「今」の笑顔が見たいがために、平行線を選んでしまった。
続く
令和が始まると同時に主人公が戦う決意をする話を書けたのは本当にタイミングが良かった。
次回はいつも通り、日曜に投稿するのでよろしくお願いします。