地中海を目指し、海洋を超えていく。
『・・・ッ見つけた!』
後数十秒で接触可能な距離に、地中海の底に居を構える、海皇の神殿を発見した。
あぁやっと、やっと辿り着くことが出来た。
そこには、海の水を遮断する、不思議な空間が広がっていた。
空気があるのは有り難い。
正直、海を泳ぐのに飽きてきたところだ。
空間の中心にはギリシャ風の神殿が存在し、囲むようにして八つの道が伸びている。
八つ道の内、三本の道の先には白い柱がそびえ立っていた。
二本の小さい柱と、一本のどでかい柱。
『・・・よし』
俺は海中を進む勢いを殺さぬまま、海皇の拠点内に真っ直ぐ突っ込んだ。
目視できる場所に友人がいないかと目を動かす。
「あっ」
そして、着地地点を決めていないことに気が付いた。
ドオオオン!!
爆音を轟かせて、白い柱が粉々に砕け散る。
意図せず、小さな柱の内の一本に突撃して粉砕してしまった。
・・・ま、まあ、友達を誘拐した連中に気を遣う必要はないな。
うん、不可抗力なら仕方がない。
「・・・きっ、貴様ぁ! よくも北大西洋の柱を! 何者だ!?」
神殿から続く道より、黄金の鎧を着た男が現れた。
ソロ家で会ったアイオリアさんの鎧よりも、少し濃いめの金色だ。
ヘッドマスクを被っているので、容貌は確認できないが、声からして成人した男性なのだろう。
「た、大切な柱なら、ちゃんと近くで守れよな」
「黙れ・・・! 何者なのかと聞いている!」
「・・・俺はエル。お前達の攫ったジュリアンの従者だ」
「なに? エルだと」
怒りと疑いの混じった目で、男は俺を睨めつけた。
「・・・聞いていた話と随分と違うな。エルという従者は、唯の一般人のはず。天秤座の武器もなしに北大西洋の柱を破壊した貴様と、同一人物であってたまるか」
「つい数日前に一般人を卒業することになったんだよ。・・・なあ、俺に戦う意志はない。ジュリアンがどこに居るか教えてくれ」
「フッ、何を甘いことを。我が守護柱を破壊した者を、この
男は失笑を零し、尋常ならざる殺気を纏い始めた。
そして声高に叫ぶ。
「見るがいい、星々の砕け散る様を────ギャラクシアンエクスプロージョン!!」
男が両腕を頭上で交差させた瞬間、
その両の手から、世界を破壊する力が生まれた。
銀河の星々をも砕く、圧倒的な力の奔流が俺の身を飲み込む。
「な──ッッ!? ぐううぅっ・・・!!」
咄嗟のことに対処が遅れる。
両手を突き出して耐えようとするが、凄まじい衝撃波に押し負け吹き飛ばされた。
崩れた柱に身体が打ちつけられ、瓦礫に押し潰される。
「ふふ、はははは! 多少はやるかと本気になってみれば、戦いを知らぬ、くちばしの黄色いヒヨコではないか!」
「・・・
「む、テティス、何の用だ」
「大西洋の柱が爆発するのが見えたので、何事かと駆け付けたのです──・・・!? ジュリアン様の従者のエル・・・!? な、なぜ貴方がここに!?」
「・・・そういうあんたは、誰なんだよ」
「ほう、我が最大の拳を受けて、立ち上がれるか、エルとやら」
傷を再生させ、俺は静かに起き上がり、参入者に目を向ける。
狼狽した声の正体は、桃色の鎧を纏う、裂傷に塗れた美しい女性だった。
自らの気持ちが良いほどのやられっぷりに、呆れて声も出ない。
エルキドゥの肉体でなければ、死んでたな。
・・・敵地で何を油断しているんだ、気を引き締めろ。
戦う意志がないなど、
突然攻撃を仕掛けてきた男を睨み付けながら、俺は言葉を言い放つ。
「今の攻撃がお前の最大の技だと言うのなら、お前に俺は倒せない」
「なんだと?」
「この空間内でも、大地からの魔力は問題なく得られる。故に、一撃で俺を倒す火力もないのなら、無限に再生するこの身を破壊させることは不可能だ・・・──痛い目みたくなきゃ、さっさと俺の質問に答えろよ金ぴか野郎」
「・・・強がるなよ、小僧。そんなに生き急ぎたいのなら、この私がこの世から消してくれる」
「い、いけません、海龍様! この人はポセイドン様が探すように命ぜられた──!」
「問答無用!」
「!!」
海龍の手が、大きく三角形を描いた。
──世界が歪んでいく。
「愚かな従者よ、時の狭間に落ちるがいい!────ゴールデントライアングル!!」
海龍が技名を口にすると同時に、異次元の扉が開かれた。
先程の技の折に幻視した星々に加え、朽ちた飛行船や海賊船といったものが異空間に浮かぶ。
一度入れば、常人は戻ることの叶わぬ異次元空間、時の狭間。
そんな絶望的な世界が、俺を飲み込んだ。
「魔の三角地帯──
「そんな・・・! 海龍様、なぜこのようなことを!!」
「わからんのか、テティス。あのエルとかいう従者は不死の肉体を持っている。殺しても死なぬ厄介な存在だ、異次元に放り込むしかないだろう」
「し、しかし・・・」
「ふん、安心するがいい。異次元といっても、あの者は私の把握できる位相に送り込んだ。聖闘士共を片付け終えるまで、大人しくさせておくだけの話よ。・・・ん? なんだ、この虚空から伸びる白銀の鎖、は・・・ッ!?」
地面に突き刺さる白銀の鎖を中心として、景色に亀裂が生まれる。
割れた手鏡の表面のように、歪な線が幾重にも走る。
ピキピキピキピキピキ────パリンッッ!!
「なッ──!?」
現世と異次元との境界線を無理矢理こじ開けて、海底神殿に舞い戻る。
俺は、驚愕の表情を浮かべる男に突貫し、吠えた。
「喰らえよ海龍ッ!!
右拳で正拳突きを放ち、海龍を吹き飛ばす。
そして、地面から数十本の鎖を生み出し、宙を舞う男を拘束した。
殴られた拍子に、男のマスクが外れる。
「なっ、なんだこの鎖は!? ぐうッ、解けん・・・!!」
緑がかかった青い長髪が男の肩に落ちた。
二十代かと思われる、負けん気の強い面が顕になる。
「神性を宿した鎧を着たのが、あんたの敗因だったな。・・・その鎖は、ティアマトって神様も拘束できるぐらい強力だ。異次元に逃げることも出来ない、お前の負けだ」
「馬鹿な・・・! 私がこんなぽっと出に敗れるなど・・・ッ!!」
「・・・あんたは何も話してはくれなさそうだな。・・・テティス、だったか? 頼む、ジュリアンがどこに居るのか教えてほしい。・・・あいつは、俺の大事な友達なんだ」
「・・・なりません。今の貴方をジュリアン様の元へ連れて行くわけには・・・」
「・・・そうかよ、まあ、侵入者に優しくしてくれる訳ないもんな・・・いいさ、ポセイドンに直接聞くことにする」
何やら俺を知っているような言い回しをしてはいるが、俺は侵入者で、彼女にとっては敵。
期待はしていなかったが、仕方が無いだろう。
無理矢理口を割らせる手も考えたが、それは自分の流儀に反するし、ジュリアンが知れば悲しみそうなので、止める。
拠点に侵入する瞬間、目に見える範囲にはジュリアンはいなかった。
だとすれば、唯一屋根があり中の様子が見えなかった、中央の神殿が最有力だろう。
そう考え、中央に伸びる道へ向おうとする。
しかし、傷だらけのテティスが俺の前に立ち塞がった。
「エル・・・ジュリアン様は、自らの意志でこの神殿に留まっているのです、連れ戻すことは貴方でもできません・・・どうか、ここで止まってください」
「・・・は?」
訴えかけるように放たれた言葉の中身に、思わず懐疑的な声を漏らす。
歩き出した足を止めてしまう。
真意を測ろうとテティスという女性に目を向けるが、敵意も、騙す気も全く感じられない。
彼女の真っ直ぐな瞳は、真実のみを映し出していた。
「・・・ッ・・・なんだよそれ・・・・いや、そんなの有り得ない、信じられない」
「く、くく・・・無知とは、これ程までに滑稽なのだな。ソロ家の従者よ、テティスは心からお前のことを想って言っているのだぞ?」
「・・・・・・滑稽で結構、気遣いも不要だ」
誕生日のパーティの中、突如として姿を消した俺の友人。
あいつは、数年前は危なっかしいところも沢山あったが、今は皆に心配をかけないようにと、当主で有りながらも気遣いを忘れない奴なんだぞ。
そんなジュリアンが、自らの意志でこの神殿に留まっている・・・。
「・・・それが事実であるのなら、その真意を尋ねなければならない」
「エル・・・」
何故、このテティスという名の女性が、俺を気遣うような態度をするのかは分からない。
しかし、ここまで来て立ち止まることなど出来るはずもなかった。
「──ならばこの場は、俺に引き継がせて貰おうか」
突如として、崩れた柱の直ぐ近くに、新たな人影が出現した。
「・・・こ、この小宇宙は! 不死鳥、フェニックスの一輝!!」
海龍が焦ったような声で名を叫んだ。
傷だらけの少年が、激しい焔を纏い現れる。
その様は、炎の中から蘇った不死鳥そのものだった。
「お前は、ゴールデントライアングルにかけられ、異次元に飛ばされたはず・・・!」
「女神の
一瞬、この少年を一人残していいものかと悩んだが、一番危険な海龍も鎖に縛られ、無力化されている。
女神という言葉からして、恐らくこの一輝という顔の老けた少年は、女神の聖闘士なのだろう。
戦う術を持つのなら、今は、その言葉に甘えさせて貰おう。
「・・・あぁ、感謝する、不死鳥の一輝」
俺は礼を述べて、魔力を込めた足で宙を蹴った。
道を通るよりも、空を走った方が早い。
「くっ、待て! お前が行けば、ポセイドンを刺激することになる・・・!」
「フッ、叫ぶことしか出来ないとは、双子座の名が廃るな、カノンよ・・・さあ、お前には聞くことがある・・・──」
後ろで何やら海龍が喚いているが、一輝という少年に任せて、気にせず神殿を目指すことにした。
ん・・・?
なんだあの黄金の光輝は・・・。
神殿へ、一条の流星が閃光となって降り立った。
見覚えの有る・・・そうだ、アイオリアさんの鎧と同じ輝きだ。
聖闘士達も戦っているのだろう・・・俺も、急がなくては。
振り返ることなく空を行く俺は、
桃色の鎧を纏った女性が、酷く悲愴な表情で立ち尽くしていることには、気が付くことができなかった。
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次の更新はいつになるか分からないので気長に待って貰えると嬉しいです。
ついでに、聖闘士星矢を読んだことのない人は是非読んでみてください。めちゃくちゃツッコミどころが多・・・面白いので、おすすめです。
「アズガルドは?」と思う人がいそうなのですが、原作基準で書いてるので出てきません、ごめんなさい。作者はフェンリルが結構好きだったりするのですが、アニメは原作以上にツッコミどころが多いので描く気力が湧きませんでした。