ありふれた世界で一方通行   作:双剣使い

10 / 15
どうも、双剣使いです。
まず初めに謝辞から。遅くなってしまって本当にすみませんでしたぁぁぁぁぁッ!
学校の課題とかやってるうちに気づいたらこうなってた…まぁゲームやってたってのもあるんですけどね 


とりあえず序章?は終わりです。ではどうぞ


別れの時 後編

「君!あまり前に出すぎるな!援護ができない!」

 

 

 俺は、生徒を纏めるために団長に送られてきたアランという騎士団員の言葉を無視してトラウムソルジャーに殴り掛かる。

 周りでは未だにパニクっているクラスメイトがウロウロしている。正直言って邪魔だからどうにかしたいのだが、ハジメに頼まれた以上、なるべく彼らに被害を出さないように立ち回る。

 幸いなのは、トラウムソルジャーが連携を取っていないこと。もし連携を取っていたら俺自身ここまで一人で戦えないだろうし、クラスメイトにも被害者が何人かは出ていたはずだ。

 

 

 ドオォォォォォォン!?

 

 

「アァ!?」

 

 

 後方で大きな爆発音が起きたので振り向いて確認すると、勇者(笑)の必殺技がベヒモスに当たったようだ。俺よりもステータスが低いとは言え、仮にも勇者だ。少しぐらいならダメージを与えられるだろう。

 そう思っていた矢先だった。巻き起こった土煙の中から無傷のベヒモスが出てきたのは。

 

 ちょっかいをかけられたことに苛立ったのか、ベヒモスが咆哮して角を掲げると、赤い光を放ち始めた。そして、そのままの状態で飛び上がる。

 直感でアレはやばいと分かった。最悪死ぬかもしれない。

 飛び上がったベヒモスは勇者(爆)に狙いをつけたらしい。奴が被害を受けるなら構わない。が、傍には雫とハジメ、白崎の三人がいる。ならば見過ごすことはできない。

 

 

「すいません、後はお願いします!」

 

「えッ、ちょっ、待っ……」

 

 

 俺は近くにいた騎士団員に後のことを任せて戦場へと走る。団員がまたなんか言っていたが無視だ無視。

 

 

「邪魔なんだよォ!どけェ!」

 

 

 ベヒモスのところへ行かせないためか、トラウムソルジャーが進行先に立ちはだかるが、そんなものは関係ない。足裏のベクトルを操作して突貫。一瞬で駆け抜ける。

 しかし、駆け抜けた先の視界には、すでに落下体勢に入っているベヒモスが見えた。このままでは間に合わない。どころか俺まで巻き込まれる。ならば------

 

 俺は咄嗟に立ち止まり、地面を踏みつける。もちろんベクトルを地面に放射状に放ち、それによって俺の半径二メートルほどに亀裂が走る。

 その時に浮き上がった小石をベヒモスに向かって蹴り飛ばす。黒い帯を引いて飛ぶ小石。それを追いかけるように再び走り出す。

 蹴り飛ばされた小石は最初は原形を留めていたが、途中で消滅する。しかし、黒い帯だけは消滅しないでベヒモスに向かって飛び、落下していたベヒモスの角とぶつかり、ゴッキィィィィィィィィン⁉と大きな音を立てる。

 一瞬だけだが、ベヒモスと黒い帯が拮抗するも、すぐにベヒモスが打ち破り、落下を再開する。

 

 けど、一瞬止めただけで十分だ。その間に残りの距離を詰め、ロックマウントの時と同じように蹴りを叩き込んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ウラァァァァァァァァァァ⁉」

 

 

 ベヒモスと激突したときに最初に感じたのは、失敗したという感覚だった。激突の瞬間に演算して反射に切り替えたが、焦ったからか、不完全な反射になったのだ。

 

 バシィッ⁉

 

 不完全とはいえ、反射したことで俺とベヒモスは互いに後方へと弾き飛ばされる。

 ズザザッ、と靴底を滑らせながら着地する。逆にベヒモスはうまく着地ができなかったようで、ひっくり返っていた。

 

 

「ちょっと悠聖!あなた大丈夫なの⁉」

 

 

 チャンスなので今のうちにダメージを与えようと思ったら、駆け寄ってきた雫に声を掛けられた。まぁそりゃ特に武装もしてない俺がベヒモスのやばそうな攻撃とかち合ったらそういう反応もするだろう。

 無視してもよかったが後がめんどくさそうなのでベヒモスへの追撃をやめて振り返る。

 

 

「あぁ、大丈夫だ。ちょっと反射に失敗したが、怪我はねぇ」

 

 

 一応心配させないように腕を振ると安心した様だ。その表情は俺が前線へ出ることへの不満でいっぱいだったが。

 

 

「雫、今すぐに団長たちを連れて後退してくれ。アイツの相手は俺がやる」

 

「はあ?!何バカなこと言ってるのよ!」

 

 

 当然のごとく怒って怒鳴ってくる。だがそれを聞き入れることは出来ない。

 

 

「別に俺は大真面目だ」

 

「その言葉が既に不真面目よ!それに、あなたが戦う理由なんて無いでしょ!撤退するなら皆で一緒に撤退するわよ!」

 

「悪いがそれは出来ない。撤退したくても後ろはトラウムソルジャーの集団が固めてる。仮にベヒモスを無視して突破しようとしてもあれだけの数だ。どれだけ全力を出しても時間が掛かる。その間にベヒモスに攻撃されたらクラス全員お陀仏だ。撤退を安全にするためには誰かが残ってベヒモスを足止めしなきゃ行けねぇんだよ」

 

「なら何もあなた一人で戦う必要なんてないじゃない!私や光輝たちと一緒に足止めするべきよ!」

 

「それができるなら俺もこんな提案はしねぇ。けどさっきのを見ただろ。アイツの防御は、クラスの中でも二番目に強いバカ勇者の現状の最大火力でも突破できねぇんだ。だったら俺が行くしかないだろ」

 

「けど……ッ!」

 

 

 雫の言葉は途中で中断させられた。ベヒモスがこちらに突進してきたからだ。

 

 俺は雫の前に出ると右手を前に突き出す。そして、右手を中心に反射してベヒモスの突進を受け止める。しかし、先ほどと同じように受け止めるだけで弾き返すことはできない。それでも踏ん張ってベヒモスの突進を阻む。

 ベヒモスは突進を受け止めているのが先ほどの落下攻撃を弾き返したのと同じ人物だと分かったのか、咆哮を上げながらさらに力を入れようとしたが、そのタイミングで俺はベクトル操作で強化した右足の前蹴りを叩き込んだ。

 

 

「グルァァァァァァァァァァ⁉」

 

「オォラァァァァァァァァァ!」

 

 

 ベヒモスも咆哮を上げて踏ん張ろうとするが、今回は俺のほうが上だったようだ。

 先ほどの再生のようにベヒモスは吹き飛ぶ。今度は俺は後退しなかった。

 

 

「さっきの続きだが、後ろのトラウムソルジャーを突破するためにはクラスが協力する必要がある。けど今はそんな事出来ちゃいねぇ。誰かがアイツらを纏めなきゃ行けねぇ」

 

「それだったら、一番強いアナタの役割なんじゃないかしら?」

 

「確かに俺はそういう面で引っ張れるだろうが、今必要なのはそういうことじゃねェ。必要なのは全員を落ち着かせ、活力を与えるカリスマだ。それを持っているのがあの勇者ってだけだ」

 

「確かにそれは分かるわ。でも、さっきも言ったようにアナタが囮になる必要なんてないわよ」

 

「だからさっきも言っただろうが、ステータスが高い俺の役割だと。それにもうあの約束を忘れたのか?」

 

「え……?」

 

「昨日の夜約束しただろ。何があっても俺は生きて帰ってくるって」

 

「……そうね、分かったわ。……悠聖、死ぬんじゃないわよ」

 

「当たり前だ。ほら、はよ戻れ」

 

「雫、急いで後ろに戻ろう!皆を助けるんだ!」

 

 

 雫が後ろに下がることを了承したタイミングで勘違い勇者君がクラスメイトを助けるために雫を呼んだ。雫はもう一度俺へと目を向けてから、後退を始めた。

 俺は前へと向き直る。そこでは、再びベヒモスが突進の構えを取っていた。

 

 

「さあ来いよ、デカブツ。叩きのめしてやるからよ!」

 

 

 多分、今の俺は笑顔だと思う。戦いを楽しんでいる自分を感じながら俺はベヒモスに向かって走り出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「チィッ!」

 

 

 俺は舌打ちをしながらベヒモスの前から後退する。

 戦闘開始から約十分ほど。戦局は俺が押され気味だ。

 間違ってもベヒモスが後ろのクラスメイト達に攻撃しないように立ちまわっているのに加えて、俺の攻撃力では決定打にならないことが分かった。

 勘違い勇者の一撃を受け止めていることからそれなりに固いとは予想していたが、どうやらそれ以上だったらしい。最初は持っていた剣を当てるタイミングでベクトル操作を使って威力を出していたが、耐えきれなかった剣が崩壊してしまった。仕方がないので、拳と蹴りで応戦しているが、そう簡単にはいかない。

 後ろのクラスメイト達も突破に少し時間が掛かっているようだ。もう少しこのままか。

 そう考えていた時、後ろから聞きなれた親友の声がした。

 

 

「悠聖、大丈夫?!」

 

「ハジメか!?何でこっちまで来た!下がってろ!」

 

「ううん、僕は後退しないよ!」

 

「馬鹿言ってんな!俺だってギリギリだ。お前を守りながら戦うことが難しいんだよ!」

 

「大丈夫だよ、自分の身は自分で守る。それに、僕に考えがあるんだ。聞いて!」

 

「―――わかった、手短に頼む」

 

「うん!―――」

 

「なるほど、確かに危険だが唯一の方法かもしれねぇな。好きなようにやれ、援護はしてやるよ」

 

「うん、ありがとう!悠聖!」

 

 

 ハジメの作戦には驚いたが、今の俺よりも安全かもしれない。ならば、それに賭けるまでだ!

 

 

「グゥオォォォォ!?」

 

 

 弾き飛ばされたベヒモスが角を赤熱化させ、再び落下攻撃を行う。

 ハジメが距離を取り、俺はやつをギリギリまで引き付け―――

 

 

「シィッ!」

 

 

 着弾よりも一瞬早くその場を離脱する。

 ゴッ!と音をたててベヒモスが橋に突撃して角が地面に埋まる。

 ベヒモスが角を引き抜こうと足掻くタイミングでハジメが俺と入れ替わって前に出る。

 

 

「――〝錬成〟!」

 

 

 石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまう。

 ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。

 

 ベヒモスのパワーはかなりのものであり、油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入るが、その度に錬成をし直して抜け出すことを許さない。ベヒモスは頭部を地面に埋めたままもがいている。中々に間抜けな格好である。

俺は、背後が無防備なハジメに襲いかかるトラウムソルジャーを殴って吹っ飛ばし、他の個体も巻き込んで一掃する。

 

 

「さて、人骨共。これから先は死地と思えよ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その間に、団長を筆頭とし、勘違い勇者や雫達がトラウムソルジャーを突破し、上層への階段前を陣取っていた。

 

 

「待って下さい! まだ、南雲くんと榊君がっ」

 

 

 トラウムソルジャーを突破するために後退しようとしていた団長に白崎が猛抗議した。

 

 

「坊主の作戦だ!ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する!もちろん坊主達がある程度離脱してからだ!魔法で足止めしている間に坊主達が帰還したら、上階に撤退だ!」

 

「なら私も残ります!」

 

「ダメだ!香織は俺達の生命線だ!魔力を消費したりした生徒の回復をしてもらわなきゃ行かん!」

 

「でも!」

 

 

 なお、言い募る白崎に団長の怒鳴り声が叩きつけられる。

 

 

「坊主の思いを無駄にする気か!」

 

「ッ――」

 

「そうよ、香織。あなたは私たちの中で一番治癒魔法がうまいから後退しなきゃいけないわ。大丈夫よ、南雲君は悠聖が守ってくれるわ」

 

 

 なかなか引き下がらない白崎を見かねた雫が注意し、二人の言い分が正しいと判断した白崎は、渋々と後退を始めた。ハジメの方をチラチラと見ながらではあるが、撤退する彼女を追って後退を始めた。雫だって悠聖が気になって振り向きたかったが、今振り返ったら撤退できなくなると自分に言い聞かせる。

 

 

 トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。それでも被害が少ないのは、騎士団員の奮闘と悠聖の無双のおかげだ。

 しかし、悠聖は最前線に向かったし、騎士団員達も満身創痍。統制の取れないクラスメイト達は、今までの訓練を無駄にするかのように、連携も取らず、魔法も使わないで勝手に戦うため、徐々に周りを包囲されつつある。全員がこの絶望的な状況に気づきながらも立て直せない。

 誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

 

 

「――〝天翔閃〟!」

 

 

 純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

 

 橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、クラスメイト達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。望んでいながらも、見ることのできなかった希望がそこにはあった。

 

 

「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」

 

 

 そんな言葉と共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。天之河が発するカリスマに生徒達が活気づく。

 

 

「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか!馬鹿者共が!」

 

 

 皆が頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

 

 いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。白崎が精神を落ち着かせる魔法をかけているのもあるが、2人のカリスマはかなりのものだ。

 治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛はしっかりと陣形を組み、倒すのではなく、後衛を守ることに徹する。

 

 治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃が始まった。チート集団の強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣によるトラウムソルジャーの召喚速度を超えた。

 

 そして、階段への道が開ける。

 

 

「皆!続け!階段前を確保するぞ!」

天之河が掛け声と同時に走り出す。

 坂上と雫がそれに続き、圧倒的なパワーでもってトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。

 

 そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路がトラウムソルジャーが群れることで閉じようとするが、そうはさせじと天之河が魔法を放ち蹴散らす。

 

 クラスメイトは皆訝しげな顔をする。当然だ。目の前に階段があるのに撤退しようとしないからだ。

 

 

「皆、待って!南雲くんと榊君を助けなきゃ!たった二人であの怪物を抑えてるの!」

 

 

 白崎のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。仕方がない。ハジメは〝無能〟で通っているし、悠聖は実力はあってもそれを使わない怠け者と思われていたからだ。

 

 だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこにはベヒモスを錬成で足止めするハジメと、彼に迫るトラウムソルジャーを次々と蹴落としている悠聖の姿があった。

 

 

「なんだよあれ、何してんだ?」

 

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

 

 

 次々と疑問の声を漏らす生徒達に団長が指示を飛ばす。

 

 

「そうだ!坊主がたった一人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ!前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

 

 ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練がましい表情で見ている者もいる。雫は、そんな彼らの顔に気づいていた。

 無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように前を向いたので、指摘することは無かった。そんなことよりも悠聖たちの安全の方が上回ったのだ。

 

 階段へ向かうことを諦めきれない者の中には、檜山大介もいた。自分がやらかしたことではあるが、本気で恐怖を感じていた檜山は、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。責任など知ったことではない。

 

 しかし、ふと脳裏にあの日の情景が浮かび上がる。

 

 それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していたときだ。

 

 緊張のせいか中々寝付けなかった檜山は、トイレのついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、その途中、ネグリジェ姿で歩く白崎を見かけたのだ。

 

 初めて見る白崎の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、白崎は檜山に気がつかずに通り過ぎて行った。

 

 行き先が気になって後を追うと、白崎は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。その扉から出てきたのは……ハジメだった。しかも、ハジメは白崎を部屋に招き入れたのだ。その数分後、部屋からハジメと同室の悠聖が「2時間ぐらい外に出てる」と言う、そういうことを示唆することを言って出てきた。

 

 檜山は頭の中が真っ白になった。檜山は白崎に好意を持っているが、彼女の隣にはいつも天之河が居る。彼がいるなら、所詮住む世界が違うと諦められた。

 しかし、ハジメは違う。自分より劣った存在(檜山はそう思っている)が白崎の傍にいるのはおかしい。それなら自分でもいいじゃないか、と端から聞けば頭大丈夫?と言われそうな考えを檜山は本気で持っていた。ちなみにこれは、彼を含む小悪党4人組の中での共通認識である。さらに言えば、悠聖が雫と仲良さげに喋ったり昼食を食べるのも、雫が騙されているからだと思っている。そんなことは無い上に、雫の眼中に無いのは彼らの方だと言うのに……。

 

 溜まっていた不満は、すでに憎悪にまで膨れ上がっていた。白崎が見蕩れていたグランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなってあらわれたからだ。

 

 その時のことを思い出した檜山は、たった一人でベヒモスを抑えるハジメを見て、今も祈るようにハジメを案じる白崎を視界に捉え……

 

 ほの暗い笑みを浮かべた。

 

 が、突然横から肩を叩かれる。驚きのあまり心臓が止まりそうになる。先程の表情を見られていないかと焦って慌てて肩を叩いた人物を見て安堵する。

 肩を叩いたのは1人の男子生徒。彼は雫に好意を持っている生徒だが、彼女が悠聖と仲良さげなのが気に食わないらしい。ハジメを蹴落としたい檜山たちに同調し、表立って行動することは無いが、裏から色々と画策している。しかも雫のようなカッコイイ系の女子を屈服させたいという願望を持つとんだサディストである。優しげな顔をしていながら何気に腹黒だ。

 彼は考えていることはわかっていると言った顔で頷く。自分は悠聖を狙うからハジメを狙えと囁いた。当然それに頷き、ニヤリと笑った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ベヒモスは相変わらずもがいている。ハジメの魔力は残り少ないだろうが、この分なら逃げられる。ベヒモスに追いつかれても反射で押し返せばいい。

 

 ハジメがタイミングを見計らい、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。同時に、俺とハジメは一気に駆け出す。

 

 俺たち逃げ出した五秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……

 

 ハジメを捉えた。しかもその隣には自分の攻撃のことごとくを弾き返したいけ好かない奴がいるのも気づいたらしい。

 

 再度、怒りの咆哮を上げるベヒモス。俺たちを追おうと四肢に力を溜めた。

 

 だが、次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、その威力だけでベヒモスの足が止まる。

 

 間違えて魔法を反射しないように頭を下げて全力で走る。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、チート集団がそんなミスをするはずないと信じるしかない。先ほどまで向けられていた憎悪の視線は感じられなかったから、巻き添えなどないと信じる。

 

 しかし、淡い希望は即座に打ち砕かれた。

 

 無数に飛び交う魔法の中で、火球が一つ、クイッと軌道を僅かに曲げたのだ。

 

 ……ハジメの方に向かって。

 

 

「チィッ!」

 

 

 ハジメを守るために前に出て火球を反射する。事故だと思うが、ハジメを狙ったものだと思えば容赦はできない。演算して火球を正確に跳ね返す。

 

 

「なっ!?」

 

 

 反射した火球が途中で爆発した。一瞬見たところ、火球の後を追うように風球が迫っていた。その二つがぶつかったことで爆発がおきたのだ。

 爆発のせいで煙が巻き起こる。視界が塞がれてしまう。

 そこにさらに風球が叩き込まれる。

 

 

「ぐあぁっ!」

 

 

 視界が塞がれたことで反射ができず、風球をまともに受けてしまう。内臓に当たったらしく、息はできるが声が声ができない。

 

 

「「悠聖ッ!」」

 

 

 雫とハジメが声を上げるが、衝撃で返事ができない。

 手でハジメに先に行くように促すが、ハジメは聞き入れない。

 

 

「悠聖のことを置いて帰ったら八重樫さんに切られちゃうよ」

 

 

 そう言って笑いながら俺に肩を貸し、前へと進む。普通だったら美談だが、今は極限状態。後ろからはベヒモスが迫っているのだ。しかもベヒモスは角を赤熱化させて落下攻撃に入っている。が、このままなら間に合いそうだ。

 

 しかし、またもや希望は打ち砕かれる。新たな火球と風球がこちらに向かってきた。明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。

 

 動けない俺を背負っているので動きにくいにもかかわらず、ハジメは、なけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が目前まで迫る。

 

 

(間に合えッ!)

 

 

 軽くではあるが、体が動かせるようになったのでベヒモスの攻撃を反射しようと試みる。

 が、攻撃自体は防げたが、衝撃を完全に消すことはできず、衝撃が全身を駆け巡る。しかも、それは俺の体にとどまらず、俺が倒れていた橋全体を揺らし————メキメキと音を立てて崩壊を始めた。

 亀裂が、俺を中心にして、円状に一瞬で広がる。そして、中心から奈落へと落ちていく。

 

 

「グウァアアア!?」

 

 

 ベヒモスも着地した地面が崩壊を始めたことで、奈落へ落ちていく。体重が重いせいか、俺よりも早くその姿が暗闇に消えた。俺の体もそれを追うように落下する。

 ハジメはどうなったのかと視線だけを巡らせると、数メートル離れたところで同じように落下していた。

 激突の衝撃で気を失ったのか、名前を呼んでも応答がなかった。

 

 反射で戻ろうにもハジメのところへ行くまでで少し時間がかかる。それに、下に行けば行くほど戻るための足場もなくなる。

 諦めて目を閉じようとした時、聞きなれた彼女の声が聞こえた。

 

 

「悠聖ッ!」

 

 

 顔を上げれば、雫が橋の欄干から身を乗り出して、何度も俺の名前を呼んでいる。その隣では、涙を流しながらハジメの名前を呼び、追いかけようとしてクソ勇者に羽交い絞めにされている白崎もいた。

 雫の表情は俺が奈落へ落ちていることへの驚き、俺が死ぬことへの恐怖、自分も後を追おうとする意志、その他もろもろの感情を映していた。そして、俺が戻ってこないことに気づくと、飛び降りようと身を乗り出す。

 それだけはだめだと思い、彼女を引き留め、約束を思い出させる方法を考え————あった。

 

 俺は未だに動かしづらい体に鞭を打って、ズボンのポケットへと手を入れ、中にあったものを掴む。

 花柄の髪留め。

 雫は普段のクールな印象とは裏腹に、実際は可愛いものが大好きな少女だ。特訓の合間に団長やアリスさんに確認し、空いている時間に王都の露店で買ったもの。雫の誕生日が近かったからだ。異世界で何してんだと思われるだろうが、毎年の恒例だから仕方がない。まぁ渡すことはできなかったが。

 

 今にも飛び降りようとしている雫の気を引くため、髪留めを右手に持ち、残り少ない体力で軽めのベクトル操作を行う。

 

 彼女のもとへ届くように。自分は必ず生きて帰ると誓って。

 

 

「ラァッ!」

 

 

 髪留めは光を反射しながら飛翔し、今にも飛び降りようとしていた雫の手に収まる。

 自分の手の中に飛んできた髪留めに驚き、すぐにそれの意味に気づいたようだ。約束が伝わったかどうかは分からないが、涙を流しながらもこちらを見てこくりと頷く。

 

 それに安堵した途端、意識が薄れ始めた。

 薄れゆく視界の中、雫が何事かつぶやく。声は聞こえなかったが、口の動きだけで何を言ったのか分かった。

 

 

 ————待ってる。だから絶対に生きて帰ってきて————

 

 

 あぁ、当然だ。

 

 

 そして、俺の意識が暗転した。

 

 

 

 

 




どうも、「ありふれ」9巻をようやく手に入れ、表紙が雫だったことに大喜びしたのもつかの間、ハジメに惚れた描写が出てきて、Web版のトラウマが呼び出されて発狂した双剣使いです。私、Web版の時から雫イチ押しだったので、あの場面には当時さんざんハートがブレイクされました。そして同じことを今回も繰り返す…何やってんだろ、私。
まぁ気を取り直して、読了ありがとうございます。
アンケートの方も多くの方に回答していただき、感謝しかありません。お気に入り登録も500件を超えました。よかったよかった。アンケート結果は次話くらいで書けたらいいなと思います。

最後の雫誕生日云々は、話の都合上こっちの方がいいかなと思ったので勝手に作りました。本編にも書いてなかったのでまあいいかなとw

それではまた次話でお会いしましょう!(それより先に他の作品が出るかも…)


ヒロイン強化アンケート~雫Ver.~ 期限は、勇者一行がベヒモスを倒すまで

  • 直死の魔眼
  • 聖遺物「緋々色金」
  • 鬼呪装備:阿修羅丸
  • 七天七刀
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。