なので、クオリティもそんな高くありませんが、それでも良ければどうぞ。
「ぐッ!」
ザァーと近くで水の流れる音を聞いて、俺は目を覚ました。
「痛ッ!…クソが……」
ふらつく頭を片手で押さえ、悪態を突きながら起き上がる。頭は痛むが、確認したところ、血も出ていないようだ。
辺りを見渡すと、緑光石の発光のおかげで何も見えないほど暗くはなかった。体のすぐ横を川が流れており、少しでも座標が違ったら流されていたかもしれない。
「そうだ……確か、魔法をぶつけられてハジメと共に落ちたんだったか……。————ッ、ハジメ!!」
頭が回転を始めると、一緒に落ちた親友のことを思い出す。
慌ててハジメの姿を求めて周囲を見渡すが、人影は一つもない。代わりに、俺が倒れていた周りには、全体が白で、ところどころが黄ばんだ、先端が鋭利な刃物のように尖ったものが落ちていた。そう、まるで犬の歯のような————
「ッ!?」
そこまで考え、俺は慌てて自分の体を確かめた。もしそれが本当に犬歯————魔物の歯なのだとしたら、自分は体の一部分を喰われたのではないかと考えたからだ。
しかし、どれだけ体を隅々まで調べても、魔物に噛まれたような傷跡は一つも見つけられなかった。せいぜい、橋の上でぶつけられた魔法の痣だけだ。
魔物に襲われたわけではないことに安堵し、改めて周りを見ると、暗闇に目が慣れてきたのか、先ほどよりも鮮明に周りが見えてきた。
「チッ!完全に迷宮の最下層だろ」
俺は思わず悪態を突いてしまった。当然だ。二十回層に居たはずが、もう何階層かもわからないような奈落にいるのだ。怒るなと言う方が無理だ。
そして、分かったことがそれ以外にもあった。まずは、この場所から上へ上ることはできないということ。上を見上げても、何も見えなかった。壁伝いにベクトル操作で駆け上がろうにも、途中で力尽きるのは明白だ。となると、横手に見える道を進むことになるが————
「やべぇ雰囲気がビシビシ漂ってるんだよなぁ…」
今自分が何階層に居るか分からないが、降りれば降りるほど難易度の上がるのが迷宮だ。見たことも無いような魔物がいるのはもちろん、レベルもかなり高いことが予想できる。今の俺のレベルだと不安だ。
しかし、進まないことには何も変わらない。
「少しづつ進みながらハジメを探すか…」
決めた後の行動は迅速に行う。
何か武器は無いかと思って周りを探すと、腰に違和感を感じた。
確かめると、そこには、トラウムソルジャーを殲滅しているときに折れたはずの十字剣だった。それも、傷一つ無い状態だ。
「何故これがここにあるんだ?」
そうだ、折れたのはあの時にこの目で確認したはずだ。なのになぜ……?
しかし、考えていても答えは出ない。考えるのは後回しにして、先に進もう。いつ魔物に襲われるか分からない以上、安全の確保が必要だ。
道中で敵に出くわすのも面倒くさいので、慎重に慎重を重ねて歩いていく。
周りの岩肌は、低層のような四角いブロック塀ではなく、岩や壁があちこちからせり出し通路自体も複雑にうねっている、まさに洞窟と呼ぶに相応しい場所だ。
ただ、大きさは上層の比ではない。構造も複雑だ。
物陰から不意打ちを喰らわないように慎重に歩き続けた。
どれほど歩いただろうか?
時間の感覚があやふやになった頃、遂に初めての分かれ道にたどり着いた。そこは、巨大な四辻だ。道の先から魔物が現れる可能性を考慮して、岩陰に隠れながら行き先を考える。
その時だった。視界の端を何か白い物が通過した。
気になったが、安易に姿を見せることはしない。隠れている岩陰から確認すると、俺のいる通路から直進方向の道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。長い耳もある。見た目はまんまウサギだった。
が、今俺の視界に映るアレはどう考えてもウサギじゃない。
まず大きさだが、中型犬くらい。既にこの時点でおかしいが、異常はそれだけに留まらない。後ろ足がやたらと大きく発達している。前足は普通なのにだ。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。普通に不気味だ。
見た目はウサギだが、どう考えてもヤバい。特に、あの大きな後ろ足から出るキックをまともに受けたら木っ端微塵だろう。捕獲して食料にすることも考えたが、実行不可能なのでやめる。ウサギに見つからない通路へ向かうことにするべきだ。
息を潜めて最高のタイミングを待つ。そして、ウサギが後ろを向き地面に鼻を付けてフンフンと嗅ぎ出したところで飛び出し、横を抜けようとしたが、それは叶わなかった。
あれだけ慎重に行動していたにもかかわらず、腰に十字剣を挿していたのを忘れていたのだ。
洞窟内にカーンという、決して小さくない音が響き渡った。
次の瞬間だった。地面に顔を向けていたウサギが耳をピンと立たせながら、こちらを振り向いた。
そして、思わずそちらを見ていた俺と目がバッチリあった。その瞬間、俺は悟った。アイツには勝てないということに。
同時に、ウサギも、俺が自分を脅かす捕食者ではなく、自分に狩られる弱者だということに気づいたらしい。血のように真っ赤な瞳に侮蔑の色が浮かんでいるのがはっきりと分かった。
しかし、早く視界から消えれば襲ってくることは無いだろうと思い、すぐに逃げようとして愕然とした。
体が動いてくれなかったのだ。
おそらく、自分よりも圧倒的に強い敵に会ったために、恐怖で足が竦んでしまったのだろう。
それを見たウサギは、ゆっくりと足を踏み出した。俺が恐怖で動けないことが分かっているのだろう。俺の恐怖を助長するように、殊更ゆっくりと歩いてくる。
それに対して、どれだけ動こうとしても俺の足は動いてくれない。
そうこうしているうちに、ウサギは動けない俺の前へとたどり着く。
そして、俺の目の前で、大きな後ろ足を振りかぶる。反射の壁を張っているが、たやすく突破されるだろう。
雫に生きて帰ると約束した直後に魔物に殺されるとか救いようがねぇな、と思い、目を閉じて諦めていた。
が、いつまでたっても自分が蹴り飛ばされた感覚がない。
不思議に思って目を開けると、目の前にまで近づいていたはずのウサギの姿はなく、数メートル先に見ることができた。
自分が助かったと思うのと同時に、何故あのウサギは逃げたのか、という疑問が俺の頭の中に浮かぶ。
その答えはすぐにもたらされた。
先ほどまでウサギが見ていた先————つまり俺の背後に自分よりも恐ろしい敵を見たからだった。
呆然とする俺の体の真横を何かが高速で通り抜け、逃げていたウサギを背後から串刺しにしたのだ。
ウサギを貫いた何かは、先ほどの巻き戻しのように背後へと戻っていく。
それを追うようにして俺も後ろを向くと、そこにはやばそうな魔物が、捕まえたウサギを捕食している姿があった。
獣だということを示す四足歩行。全身に広がるしなやかな筋肉。獅子の頭と胴体。蛇の姿をした尾。そして、先ほどのウサギと同じ迷宮の魔物だということを示す赤黒い血管。
そう、ゲームでよく見る
ウサギを捕まえたのは蛇の姿をした尾のようで、合成獣はウサギの肉を引きちぎり、腹の中に収めていく。
食事を終えた合成獣がようやく俺に目を向ける。
その瞬間、ウサギと目が会った時以上の恐怖が俺の全身を駆け抜けた。
勝てない。どうあがいても勝ちの目が見えない。ウサギと相対したときは、恐怖こそあれど、かろうじて反射の壁を構築することができた。演算をするだけの余裕があった。
だが、今回はその比ではない。演算をする余裕すらないとすぐに理解した。
しかし、奈落に落ちる寸前に見た雫の顔が脳裏を過る。
そうだ、俺は約束したじゃないか。生きて雫の元へ帰るって!
ならばまだ諦めるわけにはいかない。できる限りの反射の壁を構築して、隙を見て逃げるしかない。
できるかどうかは分からない。それでも、生き残るために全力を尽くそう。
合成獣は俺のことを完全な獲物として見ているためか、俺が覚悟を決めるまでは待っていたようだ。
立ち向かう俺をいたぶるつもりなのかもしれない。
「まったく……趣味悪ィぞ」
思わず突っ込んでしまった。魔物相手に何かを言っても意味がない。あるのは、ただ生き残るために戦う意志だけだ。
息を整え、今までで最高の精度でできる限りのベクトルの壁を作り出すことに成功。そのまま合成獣に立ち向かおうとして————突如、わき腹から身を焦がすような灼熱の痛みが走った。
「なっ……カハッ!?」
喉の奥から血がこみ上げ、吐血する。かなりの量の血が地面に落ちる。
痛みをこらえながらわき腹を見て愕然とした。
先ほどウサギを捕らえた時と同じように、合成獣の尻尾が伸びて俺の右脇腹を貫通していたのだ。
その光景に、忘れていたはずの絶望が再び襲い掛かってきた。
俺は勘違いしていたのだ。俺のような奴がどれだけ足搔いたところで、格上の魔物を単独で倒すことなど不可能だったのだ。
グイ、と合成獣の方に引き寄せられる。脇腹を貫いていた尾の先が鉤爪のように変形し、俺の背中側に引っかかっているらしい。
そんなことを、朦朧とし始めた頭の片隅で考えているうちに、合成獣の目の前にまで引きづられてしまった。
俺の意識も消えかかっていて、ただただ、合成獣が俺を呑み込まんと口を大きく開けるのを眺めていた。
そんな時だった。再び雫の顔が脳裏に浮かび上がる。それも、あの月の下で誓った約束も同時に思い出す。
そうだ、あの時に誓った。雫を守れるぐらい強くなると。
「ぐ、おぉぉぉぉぉぉ!?」
意識が覚醒し、拘束から抜け出そうともがく。
しかし、合成獣はそんな暇すら与えてくれなかった。
尾を通して何かが流し込まれる感覚を感じた途端、体がビクンと跳ね、それっきり動かなくなったのだ。
「なッ……」
手足の感覚が鈍い。どことなく痺れているようにも感じる。毒を流し込まれたのかもしれない。
致死性のものだったらしく、意識が再び落ち始めた。
それでも俺は生きようと抗った。
約束がある。待たせている人がいる。彼女に誓った言葉がある。まだ伝えられていない想いがある。やり残したこともある。
だからッ!だから俺は、生きなきゃいけないッ!!帰るためにッ!
同時に、こうも思った。俺をこんな理不尽な世界に連れてきた、エヒトとかいうクソ神を、聖教教会のイカレ信者どもを消したいと。俺をこんな目に合わせた復讐を。
俺は強く願った。
生きて雫に会い、この世界の神を殺して元の世界に帰還すると。当然、雫やハジメたちと一緒にだ。
強く、強く願った。
しかし、願いが届くことはなく、俺の意識が暗転した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
〝————渇望を承認。汝の願いは条件を満たした————”
〝————これより、根源への接続を開始する。肉体が適応するまで52秒————”
〝————接続完了。これより、我と汝は一心同体。ともに己が渇望を満たすために。幸あれ。Amen————”
この瞬間、オルクス大迷宮地下の奈落の底にて、一つの悪が生まれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
合成獣は信じて疑わなかった。己の勝利を。正確には、食料を得るための狩りだが。
それでも、負けるはずがなかった。自分はこの階層で一番の強者なのだから。
ならば、目の前に立っているアレは何だ。なぜ絶対的強者である自分がこうも簡単に地に伏し、今瀕死であるのか。
最初は楽だった。自分と出会った恐怖におびえながらも、気丈に立ち向かおうとする獲物を捕まえるだけだったから。少し暴れたが、毒を流し込んで殺した。
食べようと口を開いたときにそれは起こった。
獲物が持っていた剣————合成獣は知らないが、悠聖が宝物庫で見つけた十字剣————が突如、鞘からひとりでに抜け出し、こちらの眼球に向けて刺突を放ってきたのだ。
驚き、慌てて距離を取る。その拍子に獲物が尾から外れたが、再び捕まえればいい。そう思った矢先、十字剣が獲物の背中に突き立ち、その刀身を泡のように分離させると、獲物の中に入っていったのだ。
唖然とする中、瀕死だったはずの獲物がゆっくりと立ち上がったのだ。
これには合成獣も驚きを隠せず、呆然と獲物を見ていた。
立ち上がったソレは、姿形こそ大きな変化はなかったが、さっきまではなかったほど濃密な殺意をこちらに放ってきたのだ。
しかし、こちとらこの階層の強者だ。退くことはないと攻撃を仕掛ける。
しかし、伸ばした尾はソレの手刀でたやすく切り飛ばされた。さらに、動揺している間に、地面から何十本もの
赤い杭が生え、こちらを串刺しにしたのだ。
されには、こちらの魔力を凄まじいスピードで吸収したのだ。
時間にしてほんの数秒だが、すでに合成獣に立ち上がるだけの力は残されていなかった。魔力とともに、生命力も奪われたのだ。
そして今、自分を追い詰めたソレは、目の前で足を振りかぶっている。
「何か最後に言い残すことはあるかァ?」
「グルルルル……」
「そうか、じゃあ死ねよ」
唸り声をあげて、せめてもの抵抗をしようとした合成獣はあっけなく頭部を粉砕され、絶命した。
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奈落に一人の悪魔が現れた。
果たしてそれが榊悠聖なのか、十字剣の意思なのかははっきりとしないが、間違いなく悪魔だ。見た目はそこまでだが、常に放っているプレッシャーと殺気が尋常ではないからだ。
そして、悪魔は、ここから脱出するための行動を始める。
すべては己が渇望のため。欲望のため。復讐のため。
悪魔は、動き始めた。
読了ありがとうございます。
まず謝辞から……遅くなってしまい申し訳ありませんッ!課題が多い……。思ってた以上に大学ってきついんですね、学びました。
話の中に出てきたキメラは、FGOのキメラを想像してもらえると分かりやすいかと思います。そして何よりも不安なのが、渇望が足りているのかということ。少々足りない感があるんですよね……。後、雑でごめんなさい、頑張ります。
最後に、感想など送ってもらうと、モチベーションが上がるかもしれません。それでは、また次話で。それと、ロクでなし魔術講師と武装親衛隊のほうもよろしくお願いします!それでは、また次話でお会いしましょう!
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