ありふれた世界で一方通行   作:双剣使い

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 遅くなってしまって、本当にすいません!ポケモンのUSUMやってたせいで、全然書けなかった…大学の期末もありましたしね……

 時間かけた割には、全然本編は進みません。ご容赦ください。

 では、どうぞ


クラスメイトside1 少女たちの決意

 時間は少し遡る。

 

 ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫雫は、暗く沈んだ表情で未だに眠る親友————白崎香織を見つめていた。彼女の親友であり、幼馴染でもあるため、雫が香織を看病していた。

 

 

 五日前のあの日。二人を含めたクラスメイトは、迷宮攻略の中で、取り返しのつかない損失を味わった。

 

 あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能扱いと怠け者であったとはいえ、仮にも勇者の同胞だった者が二人も死んだのだ。国王や教会への迅速な報告が必要だった。

 また、今後の戦いのことを考えると、勇者一行に戦意を喪失されてしまうわけにはいかないようだ。厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るのだ。致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあったらしい。

 

 雫は、王国に帰って来てからのことを思い出し、香織に早く目覚めて欲しいと思いながらも、同時に眠ったままで良かったとも思っていた。

 

 帰還を果たし、悠聖とハジメの死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としていたが、死んだのが、実力はあるのに怠けてばかり(だと思われている)悠聖と、〝無能〟のハジメと知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

 

 国王やイシュタルですら同じだった。強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかという不安が国民の間で広がるのは困るのだ。神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。

 だが、国王やイシュタルはまだ分別のある方だっただろう。中には悪し様に二人を罵る者までいたのだ。

 

 もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。やれ死んだのが無能や怠け者でよかっただの、神の使徒でありながら、まじめに戦闘訓練をしないクズなど死んで当然だの、それはもう好き放題に貶していた。まさに、死人に鞭打つ行為に、雫は憤激に駆られて何度も手が出そうになった。自分の大切な人がそのように言われていたら誰だってそうなるだろう。

 

 しかし、雫は必死に手を出さないように努めた。腰に吊っている刀に手が触れないように、悠聖から貰った髪飾りを握りしめ、感情を抑えた。

 

 実際、あの場面で正義感の強い天之河が真っ先に怒らなければ飛びかかっていてもおかしくなかった。天之河が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、悠聖とハジメを罵った人物達は処分を受けたようだ。もしこれで彼らを処分せず、見逃していたら、実家で身に着けた剣術で、彼らを血の海に沈めていたかもしれないのだ。その点に関しては、天之河には感謝しかない。

 しかし、その後の展開に、雫が納得したわけではない。

 

 二人を庇ったことで、天之河は、使えない無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、天之河の株を上げただけ。悠聖とハジメは勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。

 

 あの時、自分達を救ったのは紛れもなく、勇者も歯が立たなかった化け物をたった一人、錬成で食い止め続けたハジメと、自分たちの危機を救い、化け物を純粋に圧倒していた悠聖だというのに。そんな彼らを死に追いやったのはクラスメイトの誰かが放った流れ弾・・・だというのに。

 

 生徒たちは、図ったように、あの時の事を話さない。自分の魔法は把握していたはずだが、あの時は無数の魔法が嵐の如く吹き荒れており、〝万一自分の魔法だったら〟と思うと、どうしても話題に出せないのだ。それは、自分が人殺しであることを示してしまうから。

 

 結果、現実逃避をするように、あれは二人が自分で・・・何かしてドジったせいだと思うようにしているようだ。死人に口なし。無闇に犯人探しをするより、彼らの自業自得にしておけば誰もが悩まなくて済む。クラスメイト達の意見は意思の疎通を図ることもなく一致していた。

 

 メルド団長は、あの時の経緯を明らかにするため、生徒達に事情聴取をする必要があると考えていた。生徒達のように現実逃避して、単純な誤爆であるとは考え難かったこともあるし、仮に過失だったのだとしても、白黒はっきりさせた上で心理的ケアをした方が生徒達のためになると確信していたからだ。

 こういうことは有耶無耶にした方が、後で問題になるものなのである。なにより、メルド自身、はっきりさせたかった。〝助ける〟と言っておいて、ハジメを救えなかったことに心を痛めているのはメルド団長も同様だったからだ。また、奈落の底に落ちていく悠聖を見つめる、雫の悲痛な顔が、頭から離れないというのもある。

 

 しかし、メルド団長が行動することはできなかった。イシュタルが、生徒達への詮索を禁止したからだ。メルド団長は食い下がったが、国王にまで禁じられては堪えるしかなかった。

 その話を、メルド団長から教えてもらった雫は、イシュタルを斬るために教会に向かおうとしたが、メルド団長の必死の説得を受け、渋々と引き下がった。

 その代わり、心の中で滅多切りにしたが……

 

 

「あなたが知ったら……怒るのでしょうね?」

 

 

 あの日から一度も目を覚ましていない香織の手を取り、そう呟く雫。

 

 彼女を診た医者からは、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと。

 

 雫は香織の手を握りながら、「どうかこれ以上、私の優しい親友を傷つけないで下さい」と、誰ともなしに祈った。

 

 その時、不意に、握り締めた香織の手がピクッと動いた。

 

 

「!?香織!聞こえる!?香織!」

 

 

 雫が必死に呼びかける。すると、閉じられた香織の目蓋がふるふると震え始めた。雫は更に呼びかけた。その声に反応してか香織の手がギュッと雫の手を握り返す。

 

 そして、香織はゆっくりと目を覚ました。

 

 

「香織!」

 

「……雫ちゃん?」

 

 

 ベッドに身を乗り出し、目の端に涙を浮かべながら香織を見下ろす雫。

 

 香織は、しばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす雫に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

 

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう?違和感はない?」

 

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

 

「そうね、もう五日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」

 

 

 そうやって体を起こそうとする香織を補助し苦笑いしながら、どれくらい眠っていたのかを伝える雫。香織はそれに反応する。

 

 

「五日?そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

 

 徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て、マズイと感じた雫が咄嗟に話を逸らそうとする。しかし、香織が記憶を取り戻す方が早かった。

 

 

「それで……あ…………………………南雲くんは?」

 

「ッ……それは」

 

 

 ハジメの名前を出された途端、ハジメと共に奈落の底へ落ちていく悠聖の姿が蘇ってくる。しかし、今は悲しみに浸る前に、香織の問いにどう答えるかだ。

 苦しげな表情でどう伝えるべきか悩む雫。そんな雫の様子を見て、自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。だが、そんな現実を容易に受け入れられるほど香織はできていない。

 

 

「……嘘だよ、ね。そうでしょ?雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも榊くんも助かったんだよね?ね、ね?そうでしょ?ここ、お城の部屋だよね?皆で帰ってきたんだよね?南雲くんは……榊くんと訓練かな?訓練所にいるよね?うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ……だから、離して?雫ちゃん」

 

 

 現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎハジメを探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を掴み離そうとしない雫。

 雫は悲痛な表情を浮かべながら、それでも決然と香織を見つめる。

 

 

「……香織。わかっているでしょう?……ここに彼はいないわ。……悠聖も」

 

「やめて……」

 

「香織の覚えている通りよ」

 

「やめてよ……」

 

「二人は、悠聖と南雲君は……」

 

「いや、やめてよ……やめてったら!」

 

「落ち着いて、香織!二人はここにはいないの!」

 

「ちがう!死んでなんかない!絶対、そんなことない!どうして、そんな酷いこと言うの!いくら雫ちゃんでも許さないよ!」

 

 

 イヤイヤと首を振りながら、どうにか雫の拘束から逃れようと暴れる香織。雫は絶対離してなるものかとキツく抱き締める。ギュッと抱き締め、どうにか彼女を落ち着かせようとする。

 

 

「落ち着いて、香織。私は二人が死んだなんて一言も言ってないわよ」

 

「え……?でも、ここにはいないって……」

 

 

 ようやく落ち着いたのか、話を少しずつだが、聞いてくれるようだ。そう思った雫は、話を続ける。

 

 

「ここに居ないことが、二人が死んだことに繫がるわけではないわ。本当に死んだかどうか確認してないんだから」

 

「でも、あんなところに落ちちゃったら……」

 

「大丈夫。まだ落ちただけよ。生きてる可能性だってあるのよ。それに……」

 

 

 雫はポケットに入れていたものを取り出し、香織に見せる。

 それを見た香織は、驚きに目を見張る。

 

 それは、悠聖が奈落に落ちる中で、雫に渡した髪飾りだ。

 

 

「あの時、悠聖が私に送ってくれたの。思い違いかもしれないけど、これを手にしたときに、悠聖の声が聞こえた気がしたわ。南雲くんと二人で、絶対に生きて帰ってくるって」

 

 

 馬鹿馬鹿しい話だ。信じられる根拠なんて何一つない。それでも、雫は悠聖のことを信じている。香織にも信じてもらおうなどとは思っていない。これは、自分の気持ちの問題だから。

 

 香織は、しばらく呆けていたが、何を思ったのか、笑い出した。

 

 

「ちょっと。何で笑うのよ?」

 

「ごめんね、雫ちゃんがそこまで榊くんのこと信じてるんだったら、私も信じてみようかなって思ったんだ。でも……」

 

「でも?」

 

「そうしたら雫ちゃんが嫉妬しちゃうかなって思って……」

 

「ちょ、何言ってるのよ!?そんなわけないじゃない!!」

 

 

 雫の慌て具合に笑みをこぼすが、すぐに神妙な顔になる。あの時の光景が頭から離れないのだろう。

 

 

「あの時、南雲くんは私達の魔法が当たりそうになってた……誰なの?」

 

「わからないわ。誰も、あの時のことには触れないようにしてる。怖いのね。もし、自分だったらって……」

 

「そっか」

 

「恨んでる?」

 

「……わからないよ。もし誰かわかったら……きっと恨むと思う。でも……分からないなら……その方がいいと思う。きっと、私、我慢できないと思うから……」

 

「そう……」

 

 

 俯いたままポツリポツリと会話する香織。自分は、悠聖を助けるために強くなる決意をした。香織がハジメを助けるために強くなりたいと言い出すまで、雫は待つことにした。

 やがて、香織は真っ赤になった目をゴシゴシと拭いながら顔を上げ、雫を見つめる。そして、決然と宣言した。

 

 

「雫ちゃん、私、信じないよ。南雲くんは生きてる。死んだなんて信じない」

 

 無理して言っているのではないかと心配したが、香織の決意を秘めた顔を見て、それは杞憂だと分かった雫は、安堵の息を吐いた。

 

 

「うん、それでこそ香織よ。私だって、悠聖が死んだなんて少しも思ってないわ。悠聖が安心して帰ってこれるように、今よりも強くなるわ。あなたは?」

 

「うん、私も、もっと強くなるよ。それで、あんな状況でも今度は守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。南雲くんのこと。……雫ちゃん」

 

「なに?」

 

「力を貸してください」

 

「何言ってるの、当然のことじゃない。私は悠聖に、強くなれたと胸を張って言えるように、香織は今度こそ南雲君を守るために。目標は違うけど、強くならなければいけないわ。あなたが折れそうになったら私が支えるわ」

 

「ありがと、雫ちゃん。じゃあ、雫ちゃんが倒れそうなときは、私が支えてあげるね!」

 

「あ、それはいらないわ。私を支えていいのは悠聖だけなんだから」

 

「ひどいよ!?」

 

 

 泣き真似をしながら雫に抱き着く香織。雫は、そんな彼女の突然の行動に、焦ることなく、しっかりと受け止めた。その際、雫の豊かな双丘に顔を包まれた香織が、とてつもない敗北感を感じていたが、雫は気づかなかった。

 

 香織の行動が、じゃれつきだと気付き、ようやく、軽口を言い合えるようになってきたことに、雫は心の底から安心した。

 

 しかし、周りの者から見れば、彼女たちが、ショックから抜け出せていないのでは、と思うだろう。特に、あの思い込みの激しい幼馴染の勇者は。

 

 普通に考えれば、雫と香織の言っている可能性などゼロパーセントであると切って捨てていい話だ。あの奈落に落ちて生存を信じるなど現実逃避と断じられるのが普通だ。

 

 おそらく、幼馴染である天之河や坂上も含めてほとんどの人間が二人の考えを正そうとするだろう。

 

 だが、そんなことは関係ない。他人からどう見られようと、二人だけが分かっていればいい。他人には分からないだろうし、分かってほしいとも思わない。同性の親友である二人の間で十分だ。

 

 

 その時、不意に部屋の扉が開けられる。

 

 

「雫!香織はめざ……め……」

 

「おう、香織はどう……だ……」

 

 

 天之河と坂上だ。香織の様子を見に来たのだろう。訓練着のまま来たようで、あちこち薄汚れている。

 

 あの日から、二人の訓練もより身が入ったものになった。二人も悠聖とハジメの死に思うところがあったのだろう。何せ、撤退を渋った挙句返り討ちにあい、あわや殺されるという危機を救ったのは彼らなのだ。もう二度とあんな無様は晒さないと相当気合が入っているようである。

 

 そんな二人だが、現在、部屋の入り口で硬直していた。訝しそうに雫が尋ねる。

 

 

「あんた達、どうし……」

 

「す、すまん!」

 

「じゃ、邪魔したな!」

 

 

 雫の疑問に対して喰い気味に言葉を被せ、見てはいけないものを見てしまったという感じで慌てて部屋を出ていく。そんな二人を見て、香織もキョトンとしている。しかし、聡い雫はその原因に気がついた。

 

 現在、香織は雫の膝の上に座り、雫の両頬を両手で包みながら、今にもキスできそうな位置まで顔を近づけているのだ。雫の方も、香織を支えるように、その細い腰と肩に手を置き抱き締めているように見える。

 

 つまり、激しく百合百合しい光景が出来上がっているのだ。ここが漫画の世界なら背景に百合の花が咲き乱れていることだろう。悠聖やハジメなら、作画がどうのこうの、アングルがあーだこーだと言いそうな状態だった。

 

 雫は深々と溜息を吐くと、未だ事態が飲み込めずキョトンとしている香織を尻目に声を張り上げた。

 

 

「さっさと戻ってきなさい!この大馬鹿者ども!」

 

 

 今日も、王宮には、オカンの声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 読了ありがとうございます。一か月近く投稿できなくて、すみませんでした。ポケモンに久々にハマり、ポケカやUSUMやってたのが一番の原因だと思います。次は早く書き上げるようにします。気長に待っていてください。

 では、次話でお会いしましょう!

ヒロイン強化アンケート~雫Ver.~ 期限は、勇者一行がベヒモスを倒すまで

  • 直死の魔眼
  • 聖遺物「緋々色金」
  • 鬼呪装備:阿修羅丸
  • 七天七刀

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