まぁコツコツ書いていきます。ではどうぞ!
翌日、俺たちはメルド団長をはじめとしたハイリヒ王国騎士団の団員の付き添いの元、【オルクス大迷宮】へと潜っている。
迷宮の入り口はゲームでよくあるような不気味な洞窟だと思っていた俺とハジメは、博物館の入場ゲートのような入り口を見てがっかりした。しかも周りには屋台などが沢山あり、迷宮の入り口とは思えないほどに活気づいていた。
ちなみに、騎士団員の後ろを、周りをきょろきょろと見ながら付いていく姿は生まれたばかりのアヒルのようだろう。そんな様子を冒険者は微笑ましい表情で見ていたことは誰も知らない。
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迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。
縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。
俺たちは隊列を組みながらゾロゾロと進む。俺とハジメは隊列の最後尾を歩いている。俺のステータスがクラス内で一番高いので、メルド団長に最前線へ行くように言われたのだが、ハジメの身を守るためだと言って無理やり納得させた。あのバカ勇者と一緒に戦いたくなかったってのもある。フレンドリーファイアされそう。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。
物珍しげに辺りを見渡していると、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。
「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」
メルド団長が最前線の勇者パーティーにアドバイスをする。その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。
灰色の体毛に赤黒い目がギラりと光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。そして、まるで見せびらかすようにポーズを取る。男からしたら吐き気しか催さない。
ヤツの正面に立つ勇者(笑)はどうでもいいのだが、雫の頬が引き攣っている。よし、あのクソネズミは抹殺だ。
それと、雫はあまり知られてないがかわいいものが大好きだ。あんな悍ましいものを見たらトラウマになっちまう。後で慰めなければ(謎の使命感)。
間合いに入ったラットマンを雫、勇者(爆)、脳筋の三人で迎撃する。その間に、白崎と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。逆に、不意を打たれると弱いが、あのネズミにそこまでの知能はないだろう。
勇者(爆)は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。まぁ他のメンバーには見えないだけであって、俺にはスローモーションで見えている。この上層ならあのレベルでも十分だが。
あの剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、名称はべったべったの〝聖剣〟である。何のひねりも無くて拍子抜け。ただ性能は馬鹿にできない。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという能力を持っている。いやらしい、実にいやらしい。
脳筋は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。どっしりと構えて敵を後衛に近づけないその姿はまさに重戦士のそれだ。
雫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。うん、美しいね、さすがは雫だ。
そして雫たちを援護するように後衛の白崎達から詠唱が響き渡った。
「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」
三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。
後にはラットマンの影も形もなかった。他の生徒の出番はなしである。どうやら、仮にも勇者として召喚された俺たちの戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。
「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」
さすがの団長も苦笑いだった。王国最強の戦士でもここまでの火力は見たことがないようだ。生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意する団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められないようで、頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」と団長は肩を竦めた。
「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」
団長の言葉に白崎達後衛組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。
そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。
そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。
現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。
俺達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなのだ。この世界の超一流など火力のごり押しでどうにかなってしまう。楽々と二十階層まで攻略できた。だが、迷宮で一番恐いのはトラップである。RPGではよく見るものだ。ゲームの中ならやり直しがきくが、現実ではそうもいかない。致死性のトラップに引っかかったらそこでおしまいなのだ。
故に、トラップ対策として〝フェアスコープ〟という魔法がある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるので、ほとんどはフェアスコープで発見できる。ただし、欠点がある。それは索敵範囲がかなり狭いこと。なので、スムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。
なので、俺たちの力押しが七割、団長の連れてきた団員たちによる補助が三割。俺たちだけではここまで安全に来ることはできなかっただろう。ひとえに彼らのおかげだ。
「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」
団長の声が響く。アドバイスに一行の間に緊張が走る。
ここまで、ハジメは特に何もしていない。まぁ俺もこれと言って派手なことをやったわけじゃないが。ハジメは騎士団員たちが弱らせて誘導した魔物を錬成を使って固定、一瞬のスキをついて剣で串刺しにしただけだ。ハジメ本人はそこまですごいことをしたとは思っていないようだが、団員たちを見ると少なからず驚いていた。ハジメは見ていないから気づいたのは俺だけだ。
「悠聖、これどう見てもただの寄生プレイヤーだよね……」
「おいおい、それを言うならステータスが高いから最前線から遠ざけられた俺に当てはまると思うんだが」
「そ、そうだよね…はぁ~」
ハジメはどこまでも落ち込んでいく。確かに戦線を遠ざけられた俺と一緒に居たらそう思うのも無理はない。
「それでもちゃんと成果は出てると思うぞ。錬成の速度が上がってるように見える」
「あ、やっぱり?僕もそう思ってたんだ」
ハジメも気づいていた。ならもうちょい自信持てよと思ったが言おうとしたタイミングで騎士団員が弱った魔物をハジメのほうに誘導したので、邪魔にならないように距離を取る。
そんな俺を見て、溜息を吐きながら魔物に接近、手を突いて地面を錬成。万一にも動けないようにして、魔物の腹部めがけて剣を突き出し串刺しにした。普通に戦えてるぞ、おい。
魔力回復薬を口に含みながら、額の汗を拭うハジメ。騎士団員達が感心したようにハジメを見ていることには気がついていない。
やはり彼らはそこまで期待していなかったらしい。まぁ錬成師なんて戦闘職じゃないもんな。実際は錬成を利用して確実に動きを封じてから、止めを刺すという騎士団員達も見たことがない戦法で確実に倒していくのだ。錬成師は鍛冶職とイコールに考えているから錬成師が実戦で錬成を利用することなど思いつかなかったのだろう。
この戦い方は、ハジメ自身が自分で考え付いたものなので俺も知らなかった。錬成の練習には付き合ったが、こんな策を考えていたとは知らなかった。
しばらく進むと団長が小休止を宣言する。小休止に入り、ふと前方を見ると雫と目が合った。どうやら俺が安全地帯で大人しくしていることで安心したらしい。けどな、肝心の雫が最前線にいるんだよなぁ。雫の隣では白崎が微笑みながらハジメのことを見つめていた。それを確認した俺と雫は頷きあうと……
「ハジメ~、白崎とラブコメってるとか余裕だな~」
「な、なに言ってるのさ悠聖。ただ白崎さんと目が合っただけだって?!」
「はいはい、そういうことにしといてやるよ」
雫のほうは…
「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」
「もう、雫ちゃん! 変なこと言わないで! 私はただ、南雲くん大丈夫かなって、それだけだよ!」
「それがラブコメしてるって事だろ(でしょ)?」と、俺と雫は思ったが、これ以上言うと二人とも本格的に拗ねそうなので口を閉じる。だが、雫は目が笑っていることは隠せず、それを見た香織が「もうっ」と呟いてやはり拗ねてしまった。
そんな様子を横目に見ていた俺は、ふと嫌な感じの視線を感じて周囲に目を向ける。ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。どうやらハジメに向けられているらしく、出所を見つけ出そうとした途端に霧散してしまい、見つけることは叶わなかった。
(視線の先はハジメ……となると檜山達小悪党組の線が濃厚だが、さすがに見てただけで問い詰めるのもよくないよなぁ。もう少し様子を見るか)
その視線は今が初めてというわけではなかった。今日の朝から度々感じていたものだ。視線の主を探そうと視線を巡らせると途端に霧散する。朝から何度もそれを繰り返しており、ハジメはいい加減うんざりしていた。
隣で深々と溜息をつくハジメ。どうやらハジメもこの不快な視線に気づいていたらしい。だがやはり出所が分かっていないようなので、不安を煽る必要は無いだろう。
その後も、休憩を少しづつ挟みながら俺たちは二十階層を探索する。
迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。
現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。
二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。
そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に自分の足で帰らなければならない。若干弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。
すると、先頭を行く雫を含んだ勇者パーティーや団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。まぁこの横幅ならよほどのことが無い限りこちらには来ないだろう。
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
団長の忠告が飛ぶ。
その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。擬態能力を持ったゴリラだ。某パズルゲ―の動くゴリラじゃねえぞ、マジもんのゴリラだ。
「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」
団長の声が響く。クソ之河達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を脳筋が拳で弾き返す。クソ之河と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。
坂上の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。
直後、
「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」
部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの雫たちが硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”らしい(ハジメ情報)。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させるという何ともめんどくさい能力だ。
まんまと食らってしまった雫たち前衛組が一瞬硬直してしまった。
その隙にロックマウントが突っ込んでくると予想した支援組が障壁を張ろうとしたが、予想に反してサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達支援組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームでだ。 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が白崎達へと飛んでいく。
白崎達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。
しかし、発動しようとした瞬間、白崎達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。俺も思わず「うへぇ」と言ってしまう。
なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて白崎達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。白崎、谷口、中村の三人は「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。
「香織?!」
頭上を越された雫が悲痛な叫びをあげる。ちっ、それ聞いちまったら見て見ぬふりなんてできねぇな。
足裏のベクトルを操作。一瞬にして最前線へと飛び込むと、ダイブ中のロックマウントの顔面に回し蹴りを叩き込む。そして、足が触れた瞬間にもう一度ベクトルを操作。ロックマウントに掛かる重力を反射するのに加えて、俺の前への推進力も含めて亜音速でロックマウントを蹴り返す。
「吹っ飛べ」
一方通行の声を真似ながら足を振りぬいた。
ズドドドドドドドドドド⁈
ロックマウントが勢いよく戻っていく。ただし地面にめり込みながらだが。
「「「「「なっ⁈」」」」」
団長や団員、クラスメイトが驚愕の声を上げる。
当然だ。これまで戦闘に参加していなかった俺が勇者(爆)よりも速く動き、一瞬で魔物を撃破したのだから。
「おい前衛組、前に出すぎだ。一人ひとり交代しながらスペースを使って戦え。狭い場所で無理に横に展開しようとすんじゃねェよ!」
それだけ言って元の場所に戻ろうとしたら白崎に声を掛けられた。
「榊君、守ってくれてありがとう」
「別に白崎が気にすることじゃねェよ。ただお前になんかあったら雫が悲しむからってだけだ」
「ふふ、それでもありがとう」
白崎は何が嬉しいのか、微笑んでいる。
「わかったよ、とりあえずその気持ちだけ受け取っておく。お礼ならちゃんと雫に言っとけよ」
戻ろうとしたら、最前線で勘違いクソ野郎がなんか大声で喚いていた。
「貴様……よくも香織達を……許さない!」
どうやら彼女たちが動けなかったのが恐怖からだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにするクソ之河。それに呼応してかヤツの聖剣が輝き出す。
「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」
「あっ、こら、馬鹿者!」
団長の声を無視して、大馬鹿は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。
その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。
馬鹿だ、馬鹿がいる。どうやったらあそこまで妄想が飛躍するのか知らないが、確実にやり過ぎだ。
パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイル(笑)で白崎達へ振り返った馬鹿。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。ハッ、ザマァ。
「へぶぅ!?」
「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」
団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪するクソ之河。白崎達が近寄って苦笑いしながら慰める。なんで慰めるんだろうな、それがアイツの勘違いを助長しているのだが。
その時、ふと白崎が崩れた壁の方に視線を向けた。
「……あれ、何かな? キラキラしてる……」
その言葉に、俺を含めた全員が白崎の指差す方へ目を向けた。
そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。雫や白崎などの女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。
ちなみに、雫は皆に隠しているが、極度の可愛い物好きである。
「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」
グランツ鉱石とは、言うなれば宝石の原石だ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族の女性に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。俺たちには縁遠いものだ。
「素敵……」
白崎が、団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、俺と雫だけは気がついていたが……
そんな中、小物がいきり散らし始めた。
「だったら俺らで回収しようぜ!」
そう言って
「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」
しかし、クズは聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。
団長は、止めようと
「団長!トラップです!」
「ッ⁈」
「チィ!」
俺はヤツを蹴落とすために足裏のベクトルを操作しようとしたが-----時すでに遅かった。
檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。
魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。吐き気がする。
「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」
団長の指示をよそに、雫とハジメ、できるなら白崎を連れて部屋を出ようとしたが、間に合わなかった。
部屋の中に光が満ち、俺達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。
空気が変わったのを感じ取った俺は思わず顔をしかめた。さっきまでいた二十階層とは全く別物の空気。かなりやばい気配がする。
尻もちを大半の生徒がついていたが、団長や騎士団員達、雫達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。
転移の魔法陣。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。
周りを確認したところ、俺達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。落ちたら生存は不可能だろう。
橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。俺たちは橋の中間地点に飛ばされたか。
それを確認した団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。
「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」
雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。
しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけが無いだろう。これだけだったらトラップを置く意味がない。
その予想は正しかった。
階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が現れる。
その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめる団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。
――まさか……ベヒモス……なのか……
読了ありがとうございます。結構長かった……
アンケートは次話を投稿したら締め切ります。まだの人はお早めに!
では次の話で!
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