FateGrandOrder ーafter alternativeー   作:Oデュパン

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ハーメルンに慣れないせいか二度も文章を消すという失態を犯し投稿が遅れてしまいました。
遅筆のいい訳じゃないかって?
うるせー。




第一幕 「銀」のセイバー
第一話 不死鳥の魔術師


この街は何時になっても好きになれない。

それが年中立ち込める曇り空が醸しだす陰鬱な雰囲気によるものなのか、この街を訪れる理由の殆どが妖怪じみた老害達との折衝であるせいなのか、

 

ヴィルヘルミナ・ムジークは空港について以来何度目か判らない溜息を漏らした。

 

輝くばかりに豪奢な金髪を無造作に流し、一目で特注と判るスーツを体の一部のように着こなす。

そうしてロンドンの街路を闊歩するさまはモデルでも務まりそうな美少女だが、見る者が見れば彼女が身に纏う異端の雰囲気を読み取ることができるだろう。

世界の裏側を統べる輩、

 

すなわち 〝魔術師〟 と、

 

ちなみに現在ロンドンの空は珍しく晴れ渡り、彼女の憂鬱の根源は後者にあることはほぼ確定である。

 

ご主人様(マスター)、そのような顔ばかりしていると小皺が増えますよ。」

 

「うるさいわトゥーレ!!! 私はまだ18だ!!!。」

 

振り返った先に見慣れた教育係のしたり顔が映る。

ヴィルヘルミナのきっかり二歩後ろを粛々と歩くのはシンプルなドレスコートを纒った長身の女性だ。

ちょっとした箪笥ほどもあるトランクを片手で軽々と運び、異様なほど整った容貌は紛れもないホムンクルスのそれだが、そこに浮かぶ表情は研究室篭もりの魔術師よりよほど人間臭い。

幼少期からヴィルヘルミナを軽くトラウマになるほど厳しく鍛えあげてきた家庭教師(カヴァネス)のトゥーレⅦは、少しばかりヴィルヘルミナに過保護だった祖父が彼女のために鋳造した教育型ホムンクルスである。

祖父曰く「だいぶマイルドに出来た、」との事だが彼女がそれを実感した試しはない。

礼儀作法から魔術の修練まで、トゥーレのやり方は一切の妥協を許さないスパルタ一辺倒だった。

ヴィルヘルミナにとっては研究で多忙だった両親より遥かに家族に近い存在であり、今でも全く頭が上がらない数少ない一人だ。

 

「時計塔の重鎮方との会談が気に重いのは良く判りますが、仮にも所長代理がそのようではを部下に示しが付きません。お祖父様が見たら何とおっしゃることか。」

 

片手を額に当ててよよと泣き真似をするトゥーレにむきになって言い返す。

 

「だ、だいたいウチが引き継ぎで忙しいのは仕方ないだろう、それを知っててお偉方は手紙一通で呼びつけたんだからな。」

 

「メールでなかっただけマシでしょう。」

 

神秘の衰退と科学技術の普及によって殆どの魔術師が大なり小なり電子機器を使わざるを得なくなったとはいえ、頑としてそれを拒む頑迷な魔術師もまた存在する。

とりわけこれから会う時計塔の重鎮たちが携帯端末を持っているとはとても思えなかった。

 

「メールといえば、飛行機を降りてから着信を確認しましたか?」

 

「え、ーーあ、マズイ。」

 

慌てて取り出した黒いPD端末ーー今月発売されたばかりの最新モデルだーーの機内設定を解除すると、画面の最上部が無数の着信に埋め尽くされた。

 

「着信件数99件プラス・・・これ全部仕事か?」

 

トゥーレに目で促され、内容を確認する。

 

「ええと、業務報告にトリスメギストスⅡの使用許可、技術科からの意見書にボイラー室からの苦情・・・ホントにこれ全部私が見ないとダメなのか?」

 

涙目で振り返るも、鬼教官の言葉は非常だった。

 

「これでも所定の八割は職員と私で負担しています、所長代理としての責務なので、慣れてください。」

 

「ーーーハイ、」

 

ヴィルヘルミナが時計塔に召還されたのは彼女が所長代理を務める機関の代表としてである。

 

人理継続保障機関「ファルス・カルデア」

 

現代魔術世界でその名を知らないものはいないだろう、人類100年の安寧を保障する資料館。

かつて人類史から生まれた獣たちを打倒し、異星の神からも人類を救った生ける伝説。

異星の神との最後の戦いで壊滅したそれをヴィルヘルミナの祖父が再建したのが現在のカルデアだ。

最盛期の技術の多くを喪い、魔術協会や聖堂協会の支配が強まったとはいえ、半世紀以上に渡って営々と築かれた成果と人脈は今日の魔術世界で無視できない影響力を保っていた。

そのカルデアの所長代理を弱冠18歳の彼女が務ているのには相応の理由が存在する。

 

「あくまで移行期間ゆえの一時的なものです。正式に所長に就任される頃には多少なりとも減っていますよ。」

 

「わかった、善処する。」

 

顔を上げると無言でGoodrackのサイン、彼女の期待を裏切るわけにはいかないなと内心苦笑した。

これから仕事など比較にならないほどの心労が続く事をヴィルヘルミナはまだ知らない。

 

「それにしても、普段は嫌ってる我々をわざわざ呼びつけるとは、一体どんな風の吹き回しだ?」

 

カルデアは名目上は国連の直轄機関だが、実態はムジーク家の研究機関と言うのが正しい。

その特異な任務の性質ゆえ魔術と科学を混交させた最先端の研究機関としての一面も持ち、局員には相当数の科学者や一般人も含まれる。

その独特な気風から、懐古趣味のお偉方に白眼視されるのはある意味当然といえた。

 

「時計塔の権力を思えば、大抵の事ならば我々より遥かに適任な者が居るでしょう、我々に声がかかったとなれば、必ず理由が存在する筈です。」

 

「カルデアにできる何かが目当て、か。」

 

答えたヴィルヘルミナの声は僅かに低い。

 

「いずれにせよ、用心するに越したことはないな。」

 

それきり会話が途絶え、無言で二人は歩く。

ほど近いビックベンが鳴らす時報が、次第に音を増してロンドンの街に響いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時計塔(クロックタワー)

 

アトラス院、彷徨海と並ぶ魔術協会の一角。他二部門の閉鎖的な環境からすれば、その実態は魔術協会そのものと言っても過言ではない。

ロンドン郊外に位置する五十余の学術棟と百を超える寮、そしてそこに住む人々が利用する様々な施設によって構成される一大学園都市にして、神秘の衰えに抗う魔術師達の最大の牙城だ。

その中でも中枢に位置する時計塔の原初の学び舎、その門前にヴィルヘルミナとトゥーレは到着していた。

 

「「始りの学舎」、いつ見ても陰気な所だ。」

 

見上げた視線の先、年降りた石材と煉瓦で出来た講堂は十二世紀から寸分変わらぬ姿を地上に留めている。

明るい陽の下に晒されてなお、逆光の中に佇む建物は拭い切れない影に沈んでいる気がした。

広い階段を登った先にあるエントラントには、いかにもなローブを纒った受付係が立っている。

いつもフードを被っている上に一言も喋らないのでいつ見ても容貌は判然としないが、ヴィルヘルミナは勝手に女性ではないかと思っている。

秘密主義上等のバルトメロイ派では研究棟に近付いただけで私設部隊が襲ってくるというが、そこまでではないにしろこの受付係もかなりの実力者であることは間違いない。

そっと片手を挙げて道を遮る受付係に、トゥーレが取り出した一枚の封筒を差し出した。

上質なボヘミア産紙に赤いインクで署名がされた封筒を受付係は静かに受け取る、

パリッと小さな衝撃音とともに紫電が瞬き、封筒のインクが一瞬青く光った。

それは果たして封筒の真偽を調べる術ででもあったのか、彼女は束の間封筒を凝視したまま立ち尽くし、やがて無言で封筒を返した。

トゥーレがそれを丁寧に懐中にしまう。

受付係は一歩引いていつもの位置に戻っていた。

軽く会釈した二人は、薄暗いロビーにゆっくりと足を踏み入れる。

驚くほどに広いわけではない、せいぜいが小規模なホール程度か、施された内装も一見華美ではなく、魔術協会の総本山としては拍子抜けするほどだ、

だがそれはあくまで外見の話、ある程度の実力を備えた魔術師が見ればこの場所は黄金の宮殿に等しい。

壁に施された彫刻、ステンドグラスから差し込む光、あるいは床の大理石の間隔さえも、ここでは意味を持っている。

それ一つ一つはなんの影響も及ぼさない無数の式が複雑なパズルのように組み上がり、一種の結界として建物と一体化しているのだ、さながら複雑な電子回路のような網目状の魔力が縦横に走り、一つの小宇宙とも言うべき空間を形成している。

ここに来るたび、ヴィルヘルミナは巨人の胎内に飲み込まれたかのような言い知れぬ圧迫感を感じる。

この建物そのものが巨大な魔術工房とするならば、その感覚はけして間違ったものではないだろう。

 

ふと、正面のアーチに刻まれた文言が目に停まった。

 

「ーーーpetite et dabitur...求めよ、さらば与えられん、か。」

 

「旧約聖書だ、」

 

翼を広げるように階下へ通じる階段から声が響いた。

 

「マタイ伝第七章第八節、我々魔術師にとってこれほど相応しい言葉もないだろう。」

 

ゆっくりと階段を降りてくるのは穏やかな笑みを浮かべた痩身の男だった。

歳は三十前後と言ったところか、清潔感のある黒髪を長く伸ばし、整った顔立ちと相まって見るものに中性的な印象を与える。

ヴィルヘルミナの良く知る顔だった。

 

「ロード・エルメロイ、あなた自らお迎えとは。」

 

「Ⅳ世と付けたまえ、私の如き卑小の身にその名は重すぎる。」

 

魔術師の最高位たる「冠位(グランド)」にして現代魔術科(ノーリッジ)君主(ロード)という肩書を持つ男は悪戯っぽく笑った。

 

「ようこそいらしたレディ・ムジーク いや、久しぶりと言うべきかな? ミーナ。」

 




ユガ・クシュートラはいつ実装されるんだろうか?

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