「なんでっ…だってゼウスは神力を使えるのに」
「治癒の神力だったからかもしれない。父さんは強い人が好きだから」
荷物を整理している僕を悲しそうにマイラが見ている。
「そんな、酷い…まだ14歳の子供に出て行けなんて…」
マイラは今にも泣きそうだった。
「ありがとう。そんなに悲しんでくれて」
「…これからどうするの?一人で、しかもまだ子供が生活していけると思っているの?」
「…旅をしようと思う。各地の村を回って、この神力で人々を助けるよ。それが母さんの願いでもあるから」
「私もいっしょに行く!」
「気持ちはうれしい。だけど一緒には行けないよ」
「なんでっ?」
「それは、家族だからさ」
国の門を出て、改めて城のほうを向いた。城の先っぽがまだ見える。
「僕には大きすぎたな」
再び道のほうへ向きなおした。道はどこまでも続いている気がした。
「ありがとうゼウスさん!」
「どういたしまして。これからは気を付けるんだぞ」
「はーい!」
擦り傷をつけて泣きながらやってきた男の子は、笑顔で帰っていった。この村に来てから二週間かあ、そろそろ違う村に行こうかな。
月日は流れ、はや四年。村を転々としながら生活している。最初のほうは、神力に慣れていないせいか、数人が精いっぱいだった。だけど四年もやっていると、さすがに慣れた。村を見てきて気づいたことは、やはり神力を持つ人はめったにいないことだった。持って生まれた数少ない人も、近くの国へ出稼ぎに行っていてほとんど村には帰ってこないらしい。だけどみんな一生懸命に生きていた。村のみんなで協力し合って生活をしていて、大きな家族のようであった。僕にとってそれがとてもうらやましかった。
「ありがとうございました!」
村の人たちに別れの挨拶をし、新たな目的地へと向かった。しかし、突然あることを思い出した。
あ、そういえばここはガレオ王国に近いな
出来心だった。もとから決めていたわけではないが、少し立ち寄ることにした。国民には顔は知られていないし、存在も知らない。大丈夫だろう。
城壁が見えると、だんだんと緊張してきた。こんな複雑な感情を祖国に向けるものなどきっといないだろう。しかし、さらに近づいていくと奇妙な点が見受けられた。城壁が所々崩れていた。それはまさしくどこかの国と戦争をした証拠だった。どこの国とやったんだ?そんな疑問を持ちながら向かっていった。しかし、その疑問は城門へ着いたとき最悪の形で解決した。
国の紋章が変わっていた。
一つ失念していたことがあった。それは、わが祖国、ガレオ王国が敗北するという考えだった。その考えは自然と現れなかった。なぜなら、父さんがいたからだ。父さんの強さだけは嫌でも知っていたし、認めていた。だからこの国の敗戦、つまり、父さんの敗北は頭の中を少しもよぎらなかった。城門の前でただ呆然と見慣れない紋章を、眺めていた。
カラカラ
後ろのほうから馬車の音がする。商人が向こうからやってくる。
「すみません」
「おー、どうした、坊主」
「あの、この国は…」
「ああ、ヴィレオーティス帝国の属国だな」
現実に突き落とされた。
「お前、もしかしてガレオ王国の出身か?」
「え、ああいや、前に来たことがあって」
「なるほどな。あんまり知らねえのか。実はな三年位前の戦争で、ガレオ王国はヴィレオーティス帝国に負けたんだわ」
「あのっ!王様とか、誰か処刑されましたか?」
「いや、よくはわかんねえけど王族は殺されたんじゃねえの?」
「…そうでしたか、ありがとうございました」
今どこを歩いているんだっけ?
無意識に足が動いていた。その国から離れるように。頭の中は一つの望みで埋め尽くされていた。
マイラ、マイラ、どうか生きていてくれ!
日が暮れてきた。村に着くことは難しそうだ。野宿するしかないか。そう思い、寝れそうな場所を探すため辺りを見渡すと、森の奥に、明かりが見えた。誰かいるんだろうか。明かりのほうへ向かった。明かりの正体は小さな小屋の光だった。ここに泊めてもらえないだろうか。わずかな望みをもって扉をたたいた。
「ごめんください。ここで一晩過ごさせていただけませんか」
そう言い切る前に扉が開いた。
「おう、もちろん。入りな」
出迎えてくれたのは、おじいさんだった。髪や顎鬚は白く染まり、これまで出会ってきた村長のような安心感のある優しそうな方だった。
「お前さん、どこから来たんだ?」
「いえ、僕は旅をしてまして、医者として村を転々としてます」
「へえそうなのか。そんな年ですごいね」
おじいさんは何かを察したかのようにそれ以上は追及してこなかった。
まだ自分が自己紹介をしていなかったのに気付いた
「あ、申し遅れました。ゼウスと言います。先ほど言った通り旅人です」
「ほう、ゼウスか。いい名前だね」
「本当ですか。ありがとうございます」
おじいさんは一呼吸おいてから自己紹介をした
「私はオーディン。この小屋で生活をしているただの爺さんだ」