コンプレックスワールド~アンセスター~   作:牛田一

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3話

「ところでゼウス君は次はどこの村に行くんだい?」

「特に決めていないですが、その前に買い物をしたいと思っているので、村に行くのはそのあとですね」

「だったら、プティア王国に行ってみないかい?」

「プティア王国ですか?」

「そう、ちょっと遠いんだけどね馬車に乗ればすぐにつくよ。私も明日そこで買い物するつもりだったから、どうだろうか」

「そうですね、ほかに当てもないので一緒に行かせてもらいます」

「よし、だったら今日は早く寝よう。朝出発だからね」

 

 

僕とオーディンさんは馬車に揺られてプティア王国を目指した。乗っているのは僕たちだけだった。道中は特に何もなく、ただただ平穏だった。しかし、あと一時間程のところで前方に人影が見えた。それは二人の子供で、兄弟のようだ。女の子が脚を泣きながら抑えていて、お兄ちゃんが心配そうにしている。僕は馬車を止めるようお願いした。誰も乗っていなかったのと御者の行為で止めてもらえた。僕は急いで二人に駆け寄った。

「大丈夫かい?」

男の子は当然ながら突然現れた僕たちを不安そうに見ていたが、勇気を振り絞って答えてくれた。

「妹が転んじゃって、血が出て……」

確かによく見ると女の子の脚に擦り傷ができていた。

「ああ、可哀そうに」

いつの間にか後ろにオーディンさんが立っていた。

「だけど、もう大丈夫だよ。このお兄さんが治してくれるからね」

そういいながら僕に満面の笑みを浮かべていた。それは僕が言うのに…苦笑いで返した。

「そうだよ。僕はお医者さんだから、すぐに治してあげるからね」

そういうと、初めて女の子が顔を上げた。目は涙で赤くなっていた。痛かったんだね。

「じゃあ、痛いところを見せてね」

「…うん」

なかなか大胆に転んだらしく大きな擦り傷ができている。傷口に砂がついている。

 

 

 

「あ、水が必要か。持ってくればよかった」

傷口に砂が付着していた。血も傷口の周りを汚していた。治癒の神力でも汚れはきれいにはならない。

「ちょっと、水があるか御者に聞いてくる」

私たちは水は持ってきていないから、持っているとすればあとは御者だけだろう。しかし、ゼウス君は尋ねに行こうとする私を止めた。

「その必要はありませんよ」

どういうことだ?もしかして水はいらないのか?

「水は必要ないのかい?ゼウス君」

「いや、必要ですよ。汚れを洗い落とさなくてはいけませんから」

何を言っているんだ?矛盾しているぞ。

「いや、だけど、私たちは水を持っていないじゃないか」

もしかして知らないうちに持ってきていたのだろうか?しかし彼の回答は全く予想だにしていなかった。

 

「つくればいいじゃないですか」

 

本当に何を言っているんだ、この少年は?水をつくる?そんなこと神力がなきゃ出来ないことではないか。

「ゼウス君、そんなこと神力を持っていないとできないことだよ」

「はい、神力で水をつくるんですよ」

「いや、だけど君の神力は治癒じゃないのか。だったら…」

「何言っているんですか。もうやっちゃいますよ」

そういうと彼は右手を結んだ。すると次の瞬間、結んだ手の中が光りだし、何かが零れ落ちてきた。それはまさしく水であった。

「わあ、水が出てきたあ」

子供たちはいきなり出てきた水にとても驚いていた。しかし、私の驚き様には敵わないであろう。

「しみるかもしれないけど、我慢してね」

ありえないのだ。神力が与えられるのはほんの限られた人間だけ。持っているだけで奇跡なのだ。それを二つ有しているなんて聞いたことがない。考えられるのは、彼はうそをついていて、本当は治癒の神力は持っていない、ということだった。

「うん、きれいになったね。じゃあ傷を治していくよ」

しかし、彼は奇跡の力を使い、傷をきれいさっぱり消し去った。

 

 

 

子供たちと別れ、馬車に再び乗ると私はしばらくの間考え込んだ。しかし、いくら考えても納得のいく答えは出なかった。本人に聞いてみるしかない。

「ゼウス君」

「はい、なんでしょう?」

「単刀直入に言う、君は神力を二つ持っているのかい?」

この返答によって世界の常識は大きく変わる。二つの神力を有しているなんて前代未聞だ。しかし、彼は変に戸惑った感じで答えた。

 

「え、ふつうそうなんじゃないんですか?」

開いた口がふさがらなかった。彼はそれ以前の問題だった。

「…君は一体どんな教育をされてきたのだ?」

彼は目を伏せた。しかし意を決したかのようにしっかり私の目を再び見た。

「実は、僕は学校に行っていませんでした。いや、行かせてもらえませんでした」

 

彼は自分の生い立ちを話した。第三者からしても彼の人生は何とも辛く、悲しいものだった。

しかし、私が一番気になったのは、「ツリー」の件だ。

「ツリーは全く反応しなかったのか?」

「はい、そうみたいです」

どういうことだ。仮にそうだとしたら、神力は後天的に備わったことになる。そうだとしても、この世界の常識はかわる。

「僕の手が触れても、ツリーの根元が光るばかりで、光が枝のほうへ向かわなかったらしいです」

枝に光が向かわず根元が光る。…ん、根元は光ったのか?神力を持たない人が触っても根っこはおろか光さえ現れないのに。根…植物を支えるあし…「ツリー」の始まり…二つの神力…相容れないはずの二つの神力…だけど…相容れる場所が…一つだけある!!神力の性質を指し示す光が最初に通る場所、それは…ああ、そうか、そうだったのか!!ゼウス君、君は確かに持って生まれたんだよ。一つの神力を持って生まれたんだよ!それも今までなかった、だれも考えつかなかった神力を!!!

「ゼウス君、君の神力は一つだけだ」

「えっ」

「君の神力は、すべての神力の始祖、神力をもつ者の上に立つことが許される唯一の神力、

 

 

【あらゆる神力を使うことのできる神力】だ!」

 

 

 

 

男の子は声をかけた。「大丈夫?」

男の子は励ました。「そんなことはないよ。きっとみんな心配している」

男の子は大人たちに暴力を受けている。「ごめんなさい」

男の子が遠ざかってゆく。だんだんと消えてゆく。

いかないで!!

 

 

目が覚めた。涙が流れている。久しぶりにこの夢を見たな。見させなくていいのに。私は忘れない。あの時の自分の弱さを。

朝食までに身支度を整える。自分の身は自分で管理するようにしている。支度が終わり幾分か時間がたった頃、扉をたたく音がした。

「朝食の用意ができました」

聞きなじみのある声。彼女と会ってから何年がたっただろうか。

「ああ、今行くぞ、マイラ」

 

扉を出るとマイラのほかにもう二人よく知っている奴らがいた。

「お前たちもいたのか、ハーデス、ポセイドン」

「おはようございます、姫様」

「姫様はやめろと言っているだろうが、ポセイドン」

「へへ、すみません」

「ハーデスを見習え。この寡黙さを」

「いや、こいつはしゃべるのが苦手なだけで…」

「………(ニヤリ)」

「あっ、こいつ!俺の顔見てニヤついてやがった!」

「いいかげんにしろ、お前ら。さっさといくぞ」

 

既にテーブルには全員座っていた。最後らしい。

「遅かったな、お前たち」

「すみません父上」

「いや、いいのだよ。今日から帝王はお前なのだから」

「はい」

「では、いただくとしよう」

 

 

眼下の広場にはこの帝国の民衆の何割が参加しているのだろうか。地面が見えない。今日から私は彼らの上に立つ存在となる。もう引き返せない。弱くはなれない。

「私は証明しよう。この帝国に敗北の文字がないことを!私は誓おう。この帝国を世界最強の国にすることを! 

 

 

 

 

 

我、ヘラの名において!」

 

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