くっころするまえに魔王にヤラれちゃった女騎士が、ウチの娘可愛いよぅで育てていくお話

1 / 1
お試し版

 確認……真**として必要とする基礎知識は消失しています。

 

 おぼろげな夢を見ているようでした。

 この世界で初めて認識したものは、とてもとても美しい少女。

 しかし彼女の表情は穏やかではありません。

 私を睨んで短剣を握りしめ振りあげていました。

 それはとても悲しいことです。

 悲しい気持ちをどうにかしたくて私はがんばりました。

 がんばって、微かな記憶の残滓を参考に笑顔らしきものを作ってみました。

 私に短剣を突き刺す寸前で少女の動きが止まります。

 そして短剣を落とし、泣きながら私の体を抱きあげたのです。

 

「ああ、こんなにも、こんなにも笑って……ユーリ……俺のユーリ……自分の身すら守ることのできない情けない()だけど、お前だけは……愛しいお前だけは絶対にこの母が守るから……!!」

 

 私の名前はユーリ。

 美しい少女が私の母さまだと理解しました。

 ~~~~~~

 それから、ときは緩やかにすぎていきます。

 私はずっと夢を見続けていました。

 夢の中で母さまは微笑みながら私に呼びかけます。

 

「ユーリ、美味しいか? 魔族の中でもお前は特殊な種族らしくて、お乳以外はなにが栄養になるかよく分かってないらしい……でも、海由来の物だから体に馴染むはずだぞ?」

 

 …………。

 

「ユーリ、顔をな、歯をいーってするんだ。そうそう綺麗に磨いてあげるから。うわ、相変わらずサメみたいに鋭いな……」

 

 …………。

 

「ユーリ、一緒にお風呂に入ろうな……しかし、十年でここまで大きくなるなんて流石は魔族だ……む、おっぱいが私より大きくなってる? ……いやいや、まさか……」

 

 ……へへ。

 

「ユーリ、今日は本を読んであげるぞ。お前も好きなアレスト冒険譚だ。こらこら嬉しいからって私の腰に触手を絡ませるな」

 

 えへへへ。

 

 夢……私の……ユーリの世界には、すべて母さまが出てきます。

 私の中の黒くて醜いものが、母さまによって砕かれ、輝き綺麗なものに変化していきます。

 それが嬉しくて必死に母さまの言葉に応えようとしました。

 しかし体は泥の中にいるような酷い鈍さで、自由に動かすどころか喋ることすら叶いません。

 でも、母さまと一緒にいられて幸せです。

 母さまが笑っていてくれると、とても幸せで穏やかな気持ちになれるのです。

 だけど、幸せなことばかりではありません。

 私の夢に出てくるもう一人の登場人物……やつが、母さまを傷つけるからです。

 私は荒々しい気持ちになってしまいます。

 下賤な種馬ごときが許せない!!

 私が真の**だ!!

 母さまを守りたい、母さまは私のものだ!!

 ……しかし、そんな気持ちとは裏腹に、私の体はまったく自由に動きません。

 

 そう、私がこの世界に生じてから十五年、あの覚醒の日までは……。

 

 

 ◇◇

 

 

 ひぎぃ陣痛ぅぅぅぅぅ!!

 

 その痛みで、前世の男の記憶が唐突によみがって人格ごと切り替わった。

 会社の帰り、コンビニに立ち寄って店内に入ろうしたところまでは覚えている。

 そこに包丁持った男が飛び出してきて正面衝突……。

 そっから意識が途切れ、そして今は、予想もしない激痛に悲鳴をあげている最中。

 ここは……中世ヨーロッパ風な豪華そうな部屋。

 たぶんね、痛みでよく見てないから知らんけど。

 お腹を抱えてうずくまる俺に、待機していたらしい古風なメイド服を着た女の人……侍女のような人たちが慌てて駆け寄ってきた。

 気のせいか、彼女たちの頭や背中に角とか羽があったような……。

 両腕と両脚を掴まれ抱きかかえられ、わっしょいわっしょいと数人掛かりで持ちあげられて、ベッドに寝かされマタニティな服を裾からまくられる。

 腹ボ……膨らんでデべそになった妊婦ボディと健康的な肉つきの良い脚が見えた。

 

「クロエさま、しっかり!!」

 

 ああ、うん、俺がクロエらしい?

 あーんーあーん。

 怖い怖いと泣いていたら、侍女たちが俺の手をにぎにぎして擦って励ましてくれた。

 おかげで死ぬほどの恐怖は軽減された。

 男として情けないけど仕方ないよね。

 突然の出産、しかも男の俺には自分が赤ちゃんを生むなんて想像もしたことがなく、覚悟なんてこれっぽっちもないのだから。

 股を大きく広げて、ひぃひぃ言いながら出産準備。

 がに股おっぴろげであそこ覗かれてるけど、恥ずかしいなんて感じる余裕はこれっぽちもない。

 ひーひーふーひーひーふー。

 無意識にしてしまうラマーズ呼吸法。

 ええ、男のときは笑いの持ちネタにしてましたよ、ごめんなさい。

 女は凄いな、いやマジで!

 俺を産んでくれてありがとう母ちゃんという感謝のラマーズでヒーヒーフー。

 激痛、空白、激痛、空白……。

 そんな痛みを延々と繰り返す。

 汗と涙と鼻水がボロボロとあふれてとまらない。

 侍女の一人がハンカチで根気よくフェイスを拭いてくれる、チーン。

 き、きた! 一番大きな痛みが、ひぎぃ……股の間から、ひぎぃ、ニュルンと抜け出で、ひぎぃ、感触がし、ひぎぃぃぃぃぃぃ!!

 ん? ……あれ……ひょっとして産まれた!?

 いやいや、赤ちゃんってそんなにすぐ、スポーンと産まれるものなん!?

 朦朧とした意識で手を握っていてくれた侍女を見あげると微笑んでいた。

 

「おめでとうございますクロエさま! ようやく(・・・・)お生まれになりましたよ!!」

 

 見守っていた侍女たちが感涙して喜びの声あげての万歳三唱。

 あ、まじで産まれてた、やったぜ万歳。

 実はかなりの難産だったらしく、俺はほとんど失神していたらしい。

 そういえば確かに疲労困憊だ。

 うん、偽女はやっぱり根性なくて駄目だよね。

 侍女が赤子を取り上げてお湯で優しく洗うと、布に包んで俺に渡してくれた。

 おっかなびっくりで抱きしめる、猿のような顔をした小さな赤ん坊。

 ははっ、なんだこれ、ブッサイクだなぁ。

 …………。

 うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉん!

 なにこれちょー可愛いっ!?

 なんじゃこれ、なんじゃこれ、なんなのこの生き物、可愛すぎるだろっ!!

 この小さな命を! どうしようもなく! 守って守ってあげたくなる気持ちはいったいなんなの!?

 これが母性……母性というものなのかっ!?

 女になった途端に母性を感じるなんて、元男としてはどうなんだ!?

 でもこの湧きあがる感動……凄まじい多幸感に比べたら些細なことっ!!

 じわじわと実感が湧いてきた……そう、今日から俺はマッマッになったんだよ!!

 そこで、我に返る。

 こ、この子、体はちゃんと、手足は生えそろっているのかな……!?

 不安になって慌てて確認。

 目や鼻や口や角? ……顔は大丈夫? ……指もそろっている……足は……。

 あっ……?

 包んでいた布を外し、そこで赤ちゃんの下半身が異質であることに気がついた。

 

「あれ……ええっと?」

 

 二本の足はない……それどころか、どうみても太ましい触手だった。

 ペチペチと抱きあげた手を叩き、強く絡みつく。

 まるで大蛇の尻尾のような白色のそれが、赤ちゃんの足の代わりに八本ほど生えていた。

 俺の……赤ちゃんに触手が……?

 衝撃のせいで、今まで引っ込んでいた女としての十七年間の記憶が流れ込んでくる。

 今世の俺は貧しい孤児院出身で、努力と苦労の末、女騎士になった。

 それから栄えある勇者PTに選ばれ……たんだけど……魔王に完膚なきまでに敗北して、撤退の時間稼ぎをしていたら一人だけ逃げ遅れて捕まってしまう。

 いや、クロエの記憶を探ると明らかに見捨てられてる……ギスギスハーレムPTだったようだ。

 

 そのあと魔王に、くっころする間もなく処女膜ぶち抜かれ散々ヤラれて……ついには孕まされてしまったぜ☆

 

 聖槍使いの天空女騎士クロエ・ルフィードこと元男の俺は、エロゲすぎる自らの状況に精神が耐え切れず、可愛い赤ちゃんを抱いたまま気を失った。

 

 ◇◇

 

 西洋風なお城……その広大といえる敷地の中にある後宮(ハーレム)での生活。

 赤ちゃんの名前は、白い触手が百合の花弁のように見えたので外国風にユーリとした。

 銀髪オッドアイの美少年という中二病くさい容姿の魔王は、後宮で自らの肉欲を満たすことにしか興味がなく、赤ちゃんには無関心だったので私が名前を決めた。

 というか魔王は、私の可愛いユーリを見にきて「なにこれ触手? なんだよこの気持ち悪い生き物は?」って小馬鹿にしたようにほざきやがった。

 ギリリッ……。

 どう考えたって原因はお前のDNAだろうが殺すぞこのクソがきゃあ……!!

 と、心の中だけで叫んだ。

 くやしいけど魔王の怒りを買うマネは避けるべき。

 ヤツにとって女はオナホほどの価値しかなく、気まぐれで命を奪われた者を何人も見てきた。

 私の最重要目標はマッマッとしてユーリを無事に育てること……そのため恥辱にまみれようと、安易にくっころして殺されるわけにはいかないのだ。

 歯を食いしばり笑顔で我慢していたら、魔王の後ろで控えていた妃たちや侍女ズがゴルゴのような冷めた目で魔王を睨んでらっしゃる。

 魔王が不穏な気配に振り向くと、全員が一斉に素知らぬ顔でちょっとクスっときた。

 現在、後宮で魔王の子を産んだのは私だけだ。

 魔界において王の世襲はなく、力による簒奪で魔王は決まる。

 要するに王の子は王ではなく、雄ライオンのような決闘による世代交代の世界である。

 そのため魔界の後宮は権力とは比較的無縁な場所で、そこに住む女たちとって唯一いる赤子のユーリは天使にも等しいアイドルになっていたようだ。

 

 殺意といえば最初は正義馬鹿クロエに引っ張られて、愛しい我が娘を頃しそうになった。

 魔王の血を受け継ぐ赤子は世界に災いをもたらしかねないって……中二病乙女、ぷぷー(笑)

 もちろんそれは失敗したんだけど、そのすぐあとにユーリのあまりの可愛さに女のクロエもメロメロの母性全開になって、そこから記憶が交じり合い今の人格を形成するに至った。

 といっても性格の差異は自分では分からず、精々俺が私になったくらいかな?

 前世の私は自他とも認めるアホだった。

 そしてクロエ・ルフィードの記憶を省みるに、彼女も私に負けずアホな子であった。

 なにしろ脳筋で聖槍使いの天空女騎士とか、そんな聖天使なんたら~的な痛々しい二つ名をつけられ、あからさまにおだてられても気づかず喜んでたくらい人生が可哀想な人だったから。

 アホ同士が融合合体してもアホ以上にはなれないということだよクロエ君。

 

 ま、ともかく、ユーリが大人になったらこんなところ出てってやるからな!!



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。