けものフレンズR ”わたし”の物語   作:むかいまや

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https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im9098445 より設定をお借りし、6話Aパート相当の物語を書きました。

完結したらタイトル変えて、あらすじもちゃんと書こうと思いました。案は無いですけど。中身さっぱりわかりませんもんね、コレ。

20/06/11 改稿


6-1

 建物の外でささやく声が聞こえて、わたしの目が覚めました。

「まだ中で寝てるんじゃない?」

「そうだといいけど……入るわよー?」

 フォルカさんでしょうか? 彼女は、こんこんとノックをして、中を伺うような声で問いかけました。

「ふわぁ……朝……?」

 わたしがそう呟くのと殆ど同時に、フォルカさんとバンドウイルカさんが部屋に入ってきます。

「あたりで見かけなかったからもう行っちゃったのかと思ったわよ……まったく……。おはよう、ともえ」

 フォルカさんは、半ば呆れるように腕を組んで言いました。

「おはよー、ともえちゃん」

 にっこりと笑って、手を振るバンドウイルカさん。

「あ、はい、おはようございます、フォルカさん、バンドウイルカさん」

 わたしは目を擦りながら答えました。わたしの隣にはまだぐっすりと眠っているイエイヌさんが居ます。

「イエイヌさん、起きてください」

 わたしはイエイヌさんを揺り起こします。彼女は耳をぴくりと跳ねるように動かし、身体を起こしました。周囲を確認するように周囲をきょろきょろと頭を動かして、彼女は言います。

「……おはようございます……う、ん……」

 そういうと、彼女は欠伸をしながら、伸びをする様に体を動かしました。わたしの意識はなんだかまだぼんやりしているのですけれど、外を見てみると太陽が朝と昼の間だと思われるような、微妙な角度で輝いています。

「寝すぎちゃいましたね……」

 わたしが後悔する様にぼそりと呟くと、フォルカさんが口を開きました。どこか咎めるように感じたのは、わたしの気のせいでしょう。

「……普段からこんな時間まで寝てるの?」

「いえ……ふわぁ……ごめんなさい……普段はもっと早いですよ? イエイヌさんも早起きですし……昨晩、ちょっと色々ありまして……」

「一体何があったのよ……まぁ、何でもいいけど……」

「いや、その、ちょっと……お洋服の交換をしたら……思いのほか盛り上がってしまって……」

 わたしの言葉に何処か釈然としないフォルカさんでしたけれど、多分、この話を続けてしまうと……この場でお洋服の交換会が始まってしまうような予感がします……。

 わたしとフォルカさんが話している間、イエイヌさんは目を擦ったりしながらも、バンドウイルカさんとお話をしていたようです。

「さて、イエイヌさん、ご飯にしましょうか」

 わたしは鞄からふたつほどジャパリまんを取り出し、ひとつをイエイヌさんに手渡します。

「……あぁ、どこかでジャパリまんを頂かないとですね……これで最後です」

「それなら、私達がいつも貰っているところも紹介するわ。ちょうど方向も一緒なのよ」

「ありがとうございます、フォルカさん」

 わたしはお辞儀をして彼女に感謝を伝えます。

「けっこー穴場なんだよーあそこー」

 バンドウイルカさんはポケットからジャパリまんを取り出しながらのんびりといいます。

「まだ今日の分あるかも……んぐ……」

 ひとくち頬張ってバンドウイルカさんは続けて言いました。彼女の様子をみて、フォルカさんが腕を組みながら言います。

「ドルカったら準備が良いんだから……でも少し遅いんじゃない? 太陽も高くなって来てるし……アテにするなら急がないと……」

「寝すぎちゃったんで、あんまり進めないかもですけど」

 わたしは頬張ったジャパリまんを飲み込みます。

「出発の予定は変えたく無いですし……残ってると助かるんですけどねぇ……」

 わたしは次のひとくちを頬張ります。その時、イエイヌさんから「ごちそうさまでした」という言葉が聞こえます。ほぅと息をついて、イエイヌさんは続けて言います。

「私、先に行ってましょうか? お水も用意したいですし……」

「うーん……わたしもすぐ食べ終わりますから、大丈夫ですよ」

 イエイヌさんは「わかりました!」と元気良く答えてくれました。彼女を待たせる訳にも行きませんし……わたしはジャパリまんを食べながら出発の支度をすることにしました。ちょっとお行儀が悪いですけれど、仕方ないですよね。

 

 わたしは頬張るジャパリまんを飲み込んで、出発の号令をかけます。

「では、行きましょうか!」

 建物の中にみんなの声が響きました。扉を開き、まずはシャワーのある水場へと歩きます。先導をバンドウイルカさん、フォルカさんに頼み、その後ろにわたしとイエイヌさんが隣り合って進むことになりました。

「そういえば、昨晩マイルカさんに会いましたよ」

 わたしがそういうと、少し驚いた様にバンドウイルカさんが口を開きます。

「あ、そうなんだぁ! 最近見ないと思ってたんだけど……元気だった?」

「えぇ、元気でしたよ、素敵な歌を歌ってくれました」

「歌……? どんなのどんなの?」

「えーっと……タイトルはわからないそうなんですけど――」

 灯台のふもとで聞いた歌のことを彼女達に話すと、自然、彼女達の期待の目がイエイヌさんに注がれます。

「な……なんですか、みなさん……っていうかともえさんまで……!」

 視線に気付いた彼女はあたふたし始めます。

「いいのよ? イエイヌ。別に歌って欲しいなんて思って無いわよ?」

 笑いそうになりながらフォルカさんが言います。

「そうそう、へーきへーき、気にしないで?」

 フォルカさんの言葉に続けて、バンドウイルカさんも、笑顔で言いました。

「……意地悪ですね、皆さん……」

 わたしはイエイヌさんをフォローしようと言葉を選んだつもりですけれど、わたしもちょっと彼女に意地悪をしたくなりました。

「あ、でも、そうですね、ちょっと、ちょっとですよ? 聞きたいですかねぇ……」

「ともえさんまでぇ……」

「冗談ですよ、冗談……あ、水場に着きましたね」

 わたしの言葉に、イエイヌさんはこれ幸いといわんばかりにほっとした表情になります。わたしは肩から掛けた水筒の中身を補充し、ひとくちふたくち程、水をそのまま飲み込みます。イエイヌさんも同じように、んぐんぐと水を飲みました。

「……今まで気にしたこと無かったけど、それって水が出るものだったのねぇ……」

 フォルカさんがぼそりと呟きました。

「あーっ! 確かに!」

 わたしは水を飲み終わり、ふぅと息をついて尋ねます。

「あれ? 皆さんはここ使わないんですか?」

「冷たくて美味しいですよ! フォルカさんも、バンドウイルカさんも、どうですか?」

 イエイヌさんが口を拭ってから、バンドウイルカさんとフォルカさんに勧めます。不思議そうな表情をしながら彼女達は蛇口の使い方を教わり、そして水を飲み始めます。

「美味しい……!」

 ふたりしてそんなことをいいながら、こくこくと水を飲むのでした。ひと段落ついて、再びわたし達は歩き始めます。

「あそこね、ヘンなトコだなーとは思ってたんだー」

「そうよねぇ……あんな風に使うなんて、知らなかったわ……」

 彼女達の言葉に、わたしは違和感を覚えました。だって、イエイヌさんは普通に使っていたんですもの。

「……? イエイヌさん、あそこの使い方は誰から教わったんですか?」

「えぇっと……覚えて無いんですよねぇ……元々使い方を知っていた、ような……『おうち』のものとは形が違いましたけど、同じ物なのはわかったので使えたんです」

 フォルカさんはイエイヌさんに尋ねます。

「……みんなから色々と教えてもらったり、なんとなく知ってることもあったけれど……そういう知識って無かったわよ……? ね? ドルカ」

 バンドウイルカさんはフォルカさんの言葉に頷きます。

「あれ? そうなんですか? 不思議ですねぇ……」

 イエイヌさんも自分が「何故その知識を持っているのか」という理由に思い当たる節が無いようです。彼女がフレンズになる前の境遇が、何か関係しているのでしょうか?

「バンドウイルカさんやフォルカさんって、フレンズになる前のことって覚えてますか?」

 わたしの質問に彼女達は考え込みます。

「うーん……時間が経っちゃってるからぼんやりだけど……少しくらいは」

 バンドウイルカさんの言葉を肯定するようにフォルカさんが続けます。

「そうねぇ……例えば、私やドルカ、マルカが海で泳いだり、遊んだりするのが好きっていうのは、多分、フレンズになる前から変わらないと思うわ。ぼんやりとだけど……ボールとかで遊んでいた記憶も、あるような気がするの……」

 どこか切なそうな顔をする彼女達。わたしは、そんな様子を見ていると、『あの絵』を見たときと同じように、みぞおちの辺りがきゅうとなってしまいます。

 寂しくて悲しいのかもしれないけれど、その理由がわからない。そのこと自体が悲しくて、悲しくて……わたしは、自分から尋ねているのに、口にするべき言葉がわからなくなってしまいました。

「……そう……ですか……なんだかごめんなさい」

 バンドウイルカさんもフォルカさんも、悪くないとわたしに言ってくれましたけれど、先ほどまで楽しげだった空気を変えてしまったことへの罪悪感を抱いてしまいます。わたしが言葉を発することが、何故だか躊躇われてしまうくらいに。

 暫くの間、わたし達の間には気まずさを感じる沈黙が漂っていました。わたしの隣を歩くイエイヌさんの顔をちらりと見ると、彼女も同じようにどこか申し訳なさそうな表情をしていました。

 前を歩く彼女達の後姿は以前までと変わりないものでしたけれど、言葉も発しておりませんし、わたしの勘違いかもしれませんが、どこか気まずい雰囲気を纏っているように思われます。やっぱり……そう思ってわたしは歩く砂浜に視線を落とします。すると――

「……――――」

 イエイヌさんが、昨晩の歌を口ずさみます。思わず驚いた表情で彼女の方を見てしまいました。同じように、フォルカさんとバンドウイルカさんもイエイヌさんを見ます。一瞬だけ歩みを止めて、イエイヌさんは言いました。

「……エへん、ともえさんも、お願いします……」

 恥ずかしげに視線を逸らして言う彼女の顔は、どこか赤くなっているように感じました。彼女なりの心遣いなのでしょうか?

「……はい!」

 わたしが昨晩のイエイヌさんと同じように、彼女の歌に続いてハミングを始めます。マイルカさんやイエイヌさんのように綺麗に歌えるかは不安ですけれど……。

「あーっ! あたしもあたしもー!」

 釣られるようにバンドウイルカさんが言います。

「――……同じ感じで続くので、まねしてください」

 微笑みながらイエイヌさんが言いました。「うん!」とバンドウイルカさんは頷き、フォルカさんにも歌うよう促します。

「し、仕方ないわね……」

 少し嫌そうに言った彼女でしたけれど、気のせいでしょうか? 彼女の瞳は楽しげに輝いているように思われました。再び歩き始めたわたし達の間に漂う沈黙は、美しくも可愛らしい、わたし達の歌声に溶ける様に消え、楽しげな空気が訪れました。

 わたしは、ハミングをしながら心の中で皆さんへの感謝を伝えます。わたしの思いが伝わったのかそうでないのかはわかりませんけれど、イエイヌさんがわたしの手を握りました。ちらりと隣を見ると、そっとこちらを見るイエイヌさんと視線が合いました。そして、彼女はにこりと微笑んで、一瞬だけ強くわたしの手を握ります。わたしも彼女に微笑み返し、手を握り返しました。

 そうして歩く道のりは、今までと変わらぬものでしたけれど、そうして歩くわたしの心は、どこか晴れ渡ったものような気がします。

 

 合唱が始まって、それから少しすると、階段を登ることとなり、砂浜から土道へと道が変わります。道が変わって間も無く、前を歩くフォルカさんが指さして言いました。

「あそこ! ジャパリまんが普段あるのだけど……」

 その先に木製の屋根があり、ベンチとテーブルが鎮座していました。吹きさらしの休憩所と言ったところでしょうか? テーブルの上に何かが置かれているようです。青色の物体が細かく動いているのが見えましたけれど……。

 バンドウイルカさんが陽射しをさえぎるように手を額に当て、じっと遠くを眺める仕草をします。

「うーん……ボスが居るってことは、もう持って帰っちゃうのかな?」

「ということは……急がないと……!」

 わたしはそう言って、駆け足になります。胸からかけたペンダントが跳ねて、太陽の光をきらりと反射します。そうしている間にも、ラッキービーストさんは、ジャパリまんが置かれた籠を持ち上げます。彼らの持つ両耳を器用に動かして頭の上へ……感心するよりも先に、声をかけないと……!

「あっ、ともえさん、そんな急がなくても……」

 食糧という問題がわたしの中で結構重要だったのでしょう。イエイヌさんの静止は聞こえませんでした。

「ラッキービーストさぁーん! 待ってくださーい!」

 わたしの声に彼は気付いたのでしょう。少し立ち止まり、ぴょこりと跳ねて、こちらに向き直ります。

「オつかれさまデス、ともえ」

「はぁ……はぁ……お疲れさまです……ふぅ、ジャパリまん、貰っても大丈夫ですか?」

「ノコリでダイジョウブ?」

 彼の質問は「新しいの用意するけどいいの?」ということなのでしょうか?

「はい、大丈夫です」

「リョウカイ、ともえ。ドウゾ、トッテ」

 ラッキービーストさんは頭の上に乗せた籠を傾けるようにしました。

「ありがとうございます、ラッキービーストさん」

 わたしは感謝の言葉を伝え、何個かジャパリまんを貰いました。これで二、三日はしのげるでしょう。

「デハ、シツレいシマス」

 そう言って彼はぴょこんとテーブルから飛び降り、少し歩いてから、もう一度振り返って言いました。

「フィールドワーク、おツカレサマデス。ワタシモ、モドリマスネ」

 フィールドワーク……? 何か勘違いしているような気もしますけれど……。

「あ、ありがとうございます……」

 そのまま彼は茂みの中へ……本当に不思議な存在ですね……というか、というか! また色々聞きそびれてしまいました……。

「ふぅ……ともえさん、いきなりだったんでびっくりしちゃいました……」

 イエイヌさんは少し早足で歩いて、わたしに追いつきました。

「お手伝いできなくてごめんなさい……ジャパリまん、貰えましたか?」

 わたしは頷いて答えます。

「はい、二、三日は余裕があるかと……」

「良かったですね! 安心して進めますね」

 わたし達が安堵の息を漏らしていると、バンドウイルカさん、フォルカさんが追いついてきます。

「ねえねえ、ともえちゃん」

「何ですか?」

「それって、マイルカちゃんが持ってたやつ?」

 バンドウイルカさんはわたしの首から掛かる銀色のアクセサリーを指差して言いました。

「これですか? そうです、昨晩お会いした時に……お友達のしるしだということで頂きました」

「ほぇー……しっかり見るの初めてだけど……綺麗だねぇ……」

 バンドウイルカさんは興味深げに覗きこんで来ます。日の光に彼女の青い髪が輝いていて、笑顔の為に細められた瞳は青空のように透き通っていて……

「バンドウイルカさん、やっぱり綺麗ですねぇ……」

 衝動的に漏れ出た言葉に、バンドウイルカさんは驚いたような表情で顔をゆっくりと上げ、彼女の視線とわたしの視線とが交わります。頬は紅潮していて、喜びと恥かしさが混じった表情でした。

「――っ!」

 心なしか彼女は震えているようにも思えましたけれど……。

「ともえ……あなた、考えて言ってる……?」

 腕を組んで、呆れたように言うフォルカさん。

「そ、そこまで考え無しじゃないですよぉ! ……今のは……その、思わず出ちゃった言葉ですけど……」

 フォルカさんはやれやれという具合に頭を振ります。そんな中、イエイヌさんがわたしのベストの裾をそっと掴み、くいくいと引きます。

「イエイヌさん? どうしました?」

 そういって彼女の顔を見ると、期待に満ちた表情でわたしの顔をじっと見つめていました。 

「ともえさんともえさん!」

 ……イエイヌさんの言いたい事は大体判るような気がしますけれども……なんだか改めて言うとなるとタイヘン恥ずかしいですね……。

「……えぇ、イエイヌさんも可愛いですよ」

 わたしは彼女の頭を撫でながら言いましたが、今度はぽこぽことわたしの胸をバンドウイルカさんが叩いてきます。

「はーずーかーしーいー!」

「ちょ、い、痛……くはないですけど、お、落ち着いてくださいって……」

 わたしが困っていると、フォルカさんが口を開きます。

「ともえ……いつか、あなたの取り合いとか起こるかもしれないわよ……? 気をつけなさいね……?」

「そ……それって……どう、いう……」

 フォルカさんは、うーんと少し考え込むような素振りをして、言いました。

「……自分で考えたほうがいいと思うわよ……あなたも結構、テンネンよね……」

 良くわかりませんが、多分、ここはバンドウイルカさんに抵抗しないのが筋というものなのかもしれません。それくらいは何となくわかりました……言葉には気をつけた方が良いですね……はい……。

 

 少しして、バンドウイルカさんも落ち着き、わたし達は再び歩き始めます。

「もう! ともえちゃん! そういうこと、みんなの前で言わないでね! 嬉しいけど、恥ずかしいんだからぁ!」

 ぷりぷりとしながらバンドウイルカさんは言いました。

「ご、ごめんなさい……バンドウイルカさん……」

 褒めれば良いというものでは無いのは事実でしょう。反省ですね……。

「……あ、それでね、ともえちゃん」

 おほんと咳払いしてバンドウイルカさんは言いました。

「そのアクセサリーね、マイルカちゃんがいつも着けてたの。お気に入りーって言ってたっけな……会ってたなら今日も呼べばよかったなぁ……」

「そんな大事なものを……そういえば、イエイヌさん、今日出発って話……マイルカさんとしましたっけ?」

 わたしは改めてマイルカさんへの感謝の気持ちを抱くと同時に、出発の話を彼女としたかどうかという疑問を抱きます。

「えぇっと……確かしてなかったような……」

「あー……バンドウイルカさん、フォルカさん、マイルカさんにお会いした時に、ありがとうと言っていたと伝えてもらえますか?」

 おふたりは快諾してくれました。

「今日か明日かはわからないけど、伝えておくね!」

「そうね、私も隣の島の話、気になるわ……今度マルカと会ったらちゃんと話しておくわね」

 再びここに来ることは絶対です。寝袋を返す為でもありますし、フォルカさんやバンドウイルカさん、マイルカさん達と、お話をする為でもあります。勿論、単に楽しかったからという感情も大きいですけれど……。

 そんなことを考えて、彼女達とお話して……そうしている内に、周囲の様子が変わりました。うみべちほーの入り口と同様の門が道の先に見えます。

 眩しく輝く太陽は空の頂点を少し通り過ぎています。今まで時折吹いていた風は湿り気を帯びたものから、どこか乾いたように感じられるようになりました。

「あの門を通ればさばんなちほーだよ!」

 バンドウイルカさんが言います。

「申し訳ないけれど、私達はここまでね……あっちのちほーは、ちょっと乾燥しているし……もうちょっと違う時期なら着いていけたかもしれないけれど……」

 フォルカさんは少し俯きながら、申し訳なさそうに呟きます。

「いえ、ここまで道案内してくれただけでも、本当にありがたいですから……ジャパリまんの場所も教えていただけましたし……本当にありがとうございました!」

 わたしもイエイヌさんも彼女達に感謝の言葉を述べ、お辞儀をしました。

「いえいえー困ったときはお互い様だもの!」

「それに……あなたたちと過ごした時間、短かったけれど……楽しかったわ。また、会いましょう?」

「はい! そのときは、もうちょっとゆっくりさせて貰いますね!」

「他のちほーの話も聞かせてちょうだい? 楽しみにしてるわ」

 わたし達の別れの挨拶は、和やかに進みました。二度と会うことが無い、なんてことがありえないからでしょう。パークが広いといっても、また会うことは出来ます。再会出来ることの、なんと幸せなことでしょうか? 

 わたし達は手を振り合いながら、彼女達と別れ、門をくぐりました。

「なんだか……寂しいですね……」

 イエイヌさんの呟きに、わたしは答えます

「はい……ですけど……私にはイエイヌさんが居ますから……たぶん、この先も一杯フレンズの皆さんと会って、別れて……寂しい気がしますけど、平気です」

 わたしはイエイヌさんに手を差し出します。

「私も……その、改めて言うのも恥ずかしいですけど……ともえさんと一緒なら、どこまでだって、行けると思います」

 微笑みながら彼女はそう言って、わたしの手をとります。

「ふふっ……ありがとうございます、イエイヌさん。わたしだって、あなたと一緒ならどこまでだって……」

 わたしは彼女の顔から視線を外し、道の先を見据えます。草原のように見える大地でしたけれど、所々枯れてしまったであろう草の色が混じっていて、まだらになった動物の毛皮のような印象を与えています。まばらに、ぽつりぽつりと生える樹木が陰を落としていて、ずうっと遠くでは空気が揺らめいている様にぼやけて見えます。

 先ほど感じたとおり、風はどこか乾いていて、陽射しの強さに反して意外と心地よいものでした。土道がまっすぐと伸びていて、その先は白い冠をした山の方へと伸びているようです。もちろん、このまままっすぐ行けるとは思いませんけれど……。

「とりあえず、どこか休めそうなところを見つけましょう。今晩はそこで過ごす、ということで」

「はい! そうなると……大きな木の下とかですかね?」

「ですかねぇ……とりあえず、歩きながら探しましょう。無理はしない、ということで……改めて、出発です!」

 わたし達は「おー!」と空に手を突き出し、道を進むのでした。

 

 歩きながらわたしは首に下がったアクセサリーを弄んでいました。特に何かを考えて触っていた訳ではないのですけれど、弄んでいるうちに、不思議なことに気付きます。

「……? これって……」

「どうしました? ともえさん」

「いや、大したことじゃないんですけどね……? ここ、回るんですよ……」

 わたしは、筒状の『ソレ』をくるくると回します。すると、カプセル状のそのアクセサリーはどんどんと伸びて行き、最初の倍くらいの長さになりました。隠されていた箇所には小さな穴が開いていて、益々不思議な形状に……。

「ホントですね……なんなんでしょう、これ……」

 わたしは「うーん」と悩みながら、改めてじっくりと『ソレ』を見回します。その内、これが『あるモノ』なのでは無いか? と思いつきました。

「これって……笛?」

 笛といえば、カルガモさんが首からかけていたモノをわたしは連想しますけれど……こんな筒のような小さい笛……どんな音が鳴るんでしょう? おもむろにわたしはそれの吹き口だと思われる、底の穴に口をつけて息を吹き込みます。

「……?」

 すーっという空気の漏れる音がするばかりで、音色のようなものは一切しません。わたしの吹き方が悪いのかと思って何回か息を強く吹き込んだり弱く吹き込んだり……それでも音はなりませんでした。やはり、笛では無いのでしょうか……?

「……ともえさん……うるさいです……」

 イエイヌさんは、頭の上の耳を両手で押さえて、わたしに訴えました。

「へ……? イエイヌさん、音聞こえるんですか?」

「……? 凄い音ですよぉ……それ……すっごい高い音です……」

「ご、ごめんなさい、イエイヌさん……わたしには、この音聞こえないんです……あの、イエイヌさん、聞こえますか?」

 わたしはそっと弱く息を吹き込みます。わたしの耳にはやはり空気の漏れる音がするばかりですけれど……イエイヌさんはぴくりと耳を動かしてから答えます。

「はい、聞こえますよ?」

 イエイヌさんの表情は、当然です! と言いたげな顔でした。表情からして彼女が嘘をついているようにも思えません。そういえば……。

「イエイヌさんって、確か、えぇっと……」

 わたしは『おうち』で読んだ動物辞典の内容を思い返します。

「そうだ! そうです! イエイヌさんって耳が良いんですよね……? 多分それの違いかと……」

「なるほど……じゃあ、この音ってともえさんには聞こえないんですか……」

 イエイヌさんは不思議そうに考える仕草をします。

「ですねぇ……合図とかには使えるんでしょうけれど……」

 首からかけるだけで十分綺麗なアクセサリーですので、実用性を求めることは筋違いでしょう。何より、マイルカさんの大切にしていたものですしね。わたしは笛を手で弄ぶのをやめ、再び道に視線を戻すのでした。

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