それにしても速度上がらないっすねって感じ。
20/06/12 改稿
実際のところ、ボール投げという種目は派手なところも無ければ、目立った活躍をした子が見つかることはありませんでした。……いえ、なんと言えばいいのでしょう? そもそもの絵面としてさほど派手になりようが無い、というのも理由のひとつではあるでしょう。
ですが、わたし以外のフレンズさん達は、参加した子達の記録を見て盛り上がったりもしていました。つまり、わたしの知る『常識』の範疇に置いて、そこで生まれた記録はおそらく大したことのないモノなのです。それも目立たない、さして驚きや感動を得られないような……。 競技の間中、わたしは頭上に『?』のマークが浮かんでいるような気分でした。
こう言うとわたしが薄情だとか、感性が乏しいだとか、そう思われるかも知れません。それは、多分少し違います。
ひとつ例を出しましょう。バンドウイルカさんやフォルカさんが泳いだ時に抱く感情が基準となっている場合や、イエイヌさんが走った時に抱く感情が基準となっている場合、たとえ私が泳いだり走ったりしても、「素晴らしい成績だ!」という思いは抱けないはず。わたし個人を知る存在にとって良し悪しこそあれ、客観視してしまえば、それは取るに足らない成績なのです。そういう『基準』や『感覚』の問題だと思われます。
参加した子の内の多くは三メートル以内の地面に叩きつけるような投げ方をしていましたし、一番になったフレンズ――アフリカゾウさんでした――が六メートルという記録です。
「すごかったねぇ、みんな!」
ドードーさんの言葉もそうですけれど、周囲の反応とわたしの考えがどうにも食い違っているような……。思わず彼女に疑問を投げかけてしまいます。
「ドードーさんって同じようなことしたことあります?」
想定していた返事と違ったのでしょう。ドードーさんは不思議そうに首をかしげます。
「……? どういうことぉ? えぇっと、無いかなぁ……何かを投げることって、あんまり無いし……」
経験不足……ということなのでしょうか……? それとも、何か、『フレンズ』という存在と『ヒト』という存在の間に何かあるのでしょうか? 試しに今晩にでも道具を借りて自分で試してみましょうかね……。
「そうですか……いえ、なんでもありません。えぇ、凄いと思います……」
どこか釈然としない様子でドードーさんはわたしの言葉に頷きました。なんだか彼女の楽しげな様子に水を差してしまったような気がして申し訳ないですね……。
「そ、そういえば、ドードーさん。次はかけっこでしたっけ?」
イエイヌさんが空気の変化を察したのでしょう。話題を変えようとして口を開いてくれました。
「うん! そう聞いてるよぉ。どれくらいしたら始まるのかは聞いてないけど……」
ちょうどその折、アルマーさんのアナウンスが聞こえてきました。
「みなさん、お疲れさまでーすっ!」
声が大きすぎたのでしょう。きぃんという音が響き、少しの間が空いて、再び彼女は喋り始めます。
「し、失礼しました……お昼ごはんの時間を挟んで、次の種目はかけっこその一です」
『その一』……? わたしを含めた何名かのフレンズさん達は不思議そうな表情を示します。
「またこちらからお伝えしますので、みなさま、ごゆるりとお過ごしくださーい!」
ぶつんという音がして、放送が終わった……かと思いきや再びアナウンスが。
「度々失礼します……会場の出入り口に、ボスが居るので、そこでジャパリまんを受け取ってください」
今度はセンさんの声でした。アルマーさん、きっとド忘れでもしていたんでしょうね……。センさんの声の後ろから「忘れてましたぁ!」という具合の声が、ぼんやりと聞こえます。
「あはは……」
わたしとイエイヌさんは苦笑いの表情を浮かべることになりました。
「それにしても、ともえさん、ドードーさん」
イエイヌさんは考え込むような素振りをしながらわたしに尋ねます。
「はい、なんでしょう?」
わたしと何故だか被るようにしてドードーさんも「なぁに?」と聞き返しました。
「その一って、どういうことなんでしょう。おふたりはわかりますか……?」
その言葉に、わたしもドードーさんも首を振ります。
「うーん……ルールが別れてるってことなんですかねぇ……肝心のその中身がわかりませんけれど……」
この手の種目名は、端的にわかりやすく名前が決められるものでしょう、普通……とちょっとした怒りのような感情さえ抱いてしまいます。
「その一というのはですね」
そう言いながら、とさりと着地したのはカルガモさんでした。
「いわく、『はんでぃきゃっぷれーす』とのことですよ」
彼女は言葉を終えると、わたしにぺこりとお辞儀をしました。
「お久しぶりです、ともえさん。えぇっと、おふたりは……」
イエイヌさんとドードーさんはお互いに挨拶を交わします。
「あぁ、あなたがイエイヌさん……広場で探したんですけれど、見当たらなかったので……」
あ、そういえばそうです。伝言をお願いしたんですけれど、イエイヌさんわたしと合流しちゃいましたからね……。
「その節は失礼しました……。イエイヌさんも一緒に来ることになったんです」
わたしの言葉を聞いて、彼女はぱちんと手をたたきます。
「それなら良かったですよ! あの時のともえさん、辛そうでしたから……」
あははとわたしは苦笑します。本当に、申し訳ないですね……。
「と、それはそれとしてですね……何やら参加する子達の体力や得意な距離をこーへーにするとかなんとかって理由で、スタートの時間や位置を微妙に調整するらしいですよ?」
何をどこまでというのはわかりませんが……と彼女は続けました。はてさて、どういうレースなんでしょう。
「それって……えぇっと……例えば、短い距離が得意な子は前に出て遅れてスタート、長い距離が得意な子は後ろから先にスタート……みたいな感じ……なんですかね……?」
わたしが考えながら発した言葉を、カルガモさんはうんうんと肯定します。
「それってなんだか不思議ですねぇ……」
イエイヌさんはぼんやりとつぶやきます。
「普段……というかよく見かけるあそびでしたら、一斉にスタートですし……」
「多分、どの子も一位になれるようなかけっこだよねぇ……」
ドードーさんの言葉を聞いてわたしは納得が行きました。単純な速さを比べるのではなく、ルール、つまり決まり事を設けてその中での速さを競う。どの子でも勝つ可能性は、『なんでもあり』と比べるとずっと高い。
「そうなると、なんと言ったらいいんでしょう……速い子だけが見どころじゃないというか、なんというか……」
なんだか言葉にし辛いのですけれども、面白そうです。もちろん、単純な速さを比べるというルールも面白そうですが……。
「ですねぇ……その二が同じ距離を一緒に走るそうなので、そっちは勝つ子は想像出来ますけど……」
カルガモさんは腕を組んで悩むようにいいます。
「それってどんなフレンズなんですか?」
イエイヌさんが尋ねます。
「やっぱり……チーターさんかプロングホーンさんか……そのおふたりのどちらかでしょうねぇ……」
彼女の言葉にドードーさんがうんうん頷きました。
「やっぱりそうだよねぇ。遠くで見たことあるけど、速かったよぉ」
先日、イエイヌさんが語った言葉。「私の三倍くらい速い」フレンズ……。その言葉が指していたのはそのおふたりのことなのでしょうか?イエイヌさんもわたしと同様に知らない方なのでしょうけれど、想像するとどこか現実を疑ってしまうような心地さえします。
「あら、お会いしたことあるんですね、ドードーさんは……私も噂話しか聞いたことが無いので……特にチーターさんはどの子とお友達って話も聞きませんし……」
フレンズさん達の交流関係は、きっと極めて地域的には限定されるのでしょう。ですから、会ったことのない子がどの子にも居て当然だと思われます。
けれど、友達の友達、そのまた友達……という具合に交流は繋がり、広がるものです。ですから、彼女達が『知り合いの子が居ない』と言ってしまうということは、なかなかに想像が付きません。単に繋がりのあるフレンズさんが偏っているというだけかもしれませんが……。
そんなことを考えて思い出したのは、『世の中、六人くらい繋がりを辿れば大体のヒトとお友達』というどう活用したら良いか悩ましい雑学の類。誰から聞いたんでしたっけ? えぇっと……。
「っと、皆さん、ボスにジャパリまんを頂きに行きましょう? お話してたら時間経っちゃいますし……」
カルガモさんのその言葉でわたしは考えを中断します。お腹が空いてはなんとやら。空腹では大体の物事は悪い方へ悪い方へと傾くのです。気持ちの上でも、現実の上でも。
「そうですね、行きましょうか」
カルガモさんにわたしが同意し、イエイヌさん、ドードーさんも同じように首を縦に振ります。行き先と思われる方向を見やると、フレンズさん達の山、波、行列……それも地上に空に……。思わず「えぇ……」と声をこぼしてしまいますが、カルガモさんはどこか張り切った様子で先へ進みます。
「さぁ! ついてきてくださいねー!」
あぁ、そういえばそういう子でした……。
どこかスイッチの入ったようにきびきびと動き始めた彼女に、わたしの躊躇いは伝わらないでしょう。いえ、そうでもしなければこうやってジャパリまんを貰いに行くことはなかったでしょうから、ありがたいのですよ? 本当ですってば。
イエイヌさんの方をちらりと見ると、彼女も同じように苦笑いを浮かべていました。彼女と目が会い、お互いに笑みを交わします。もしかすると、今日という日で一番過酷な瞬間が訪れるかもしれませんね……頑張りましょう、イエイヌさん……。
入り口に着き、フレンズさん達の列に加わります。
やはり、というべきでしょう。辺りはがやがやと騒がしいものです。少し離れたところでちょっとした喧嘩騒ぎが会ったようですが、他のフレンズさんの助けもありすぐに収まったり、はたまた、猫っぽい子とそのお友達らしき子がお互いのジャパリまんを食べ比べして味を言い合ったり、別のところからは「暑いねぇー」なんてぼやきも聞こえます。……きっとここは、今この瞬間、パークの中で一番賑やかな場所なのではないでしょうか?
何故でしょうか。わたしはこの喧騒に身を置くだけでどこか楽しげで、愉快で、彼女達の生命というものの輝きを感じられるようにさえ思えます。わたしは、きっと、ずっと、ずっと長い間、寂しく、不変の、命というものの無い空間に一人居たのでしょう。だからそう感じるのでしょうか? わたしはカプセルの中、ずっと、一人で眠っていて……今考えるだけでもぞっとします。幾ら意識が無いと言っても、あまりに寂しすぎる、あまりに悲しすぎる事態です。
ふと、『何故そんなことになったのか』という疑問が浮かびます。何か理由があったのでしょう。わたしの知り得ない事情。あるいは、わたしの忘れてしまった事情。でなければ、あんな、あんな、捨て子のような形で……そうでなければ、納得も、理解も出来ません。
あぁ、果てのない思考の渦がわたしを飲み込もうとしています。全てを知りたい。わたしが何故あそこに居て、何故ここに居るのか……その理由……わたしの過去……それらを知らなくてはなりません。わたしがわたしでいて良い理由。それを見つけなくてはなりません。生きる理由ではない、それ以上の意味、わたしが存在して良い理由。それは、笑って明日を迎えるために、どうしても必要に思えるのです。そんなもの無くったって、知らなくったって、きっと彼女達は過ごしているのでしょうし、過ごしてきたのでしょうし、過ごしていくのでしょう。
それなのに、何故、わたしはこんなにも思い悩んでしまうのでしょう? わたしが、弱いから? 力だけではなく、心も弱いから……そう、なんでしょう、ね……。どうすればよいのでしょう? どうすれば、どうすれば……。
「ともえさん? どうしました?」
カルガモさんがわたしに声をかけます。
「……はい? って、ご、ごめんなさい……」
列が動いていて、わたしの前には空間が大きく空いていました。イエイヌさんがわたしの顔を覗き込んでいるだけでなく、不審げに、あるいは心配そうに、周囲のフレンズさん達もわたしに視線を送っています。
「ちょっと考え事してました……えへへ、ごめんなさい、皆さん……」
わたしは小走りで前へと詰めます。いけないですね、お腹が空いては……ってこれは先程も……。
「あの、ともえさん」
わたしは後ろにくっつくように立つイエイヌさんの方を向きます。
「どうしました?」
彼女はわたしのベストの裾を掴んで言いました。
「……私を、頼ってください? ね?」
彼女の言葉はどうにも愛おしく感じられます。そして、考えを見透かされていたような感じも……。
「その時は、よろしくおねがいしますね、イエイヌさん」
それだけ言って、わたしは前に向き直ります。本当に困った時、きっとわたしは彼女に頼るでしょう。
けれど、きっとこれはわたしだけの問題です。わたしがわたしの力で解決するべき問題です。そうして初めて得られる答えがあると思うのです。だから、それまでは……。でも、少し位彼女に甘えても良いですよね?
少しだけ、イエイヌさんの方向に左手を出します。すると、何かを察したのでしょう。イエイヌさんはわたしの手をきゅっと握ってくれました。いつもの感触、いつもの暖かさ。それが落ち込みかけたわたしの心を、そっと支えてくれる気がします。イエイヌさんに気づかれないようにちょっとだけ視線を動かします。彼女はしっぽを振りながら、わたしの手を握っていました。
「ありがとうね、イエイヌちゃん」
わたしは声を出さず、口だけ動かします。ちょっとだけ、普段よりもわたしの頬が赤いのは『ちゃん』付けで呼んだからですよ。
ジャパリまんを受け取ったわたし達は座席へと戻りました。ラッキービーストさん達はといえばフレンズさん達が波のように押し寄せているのに対処するので精一杯らしく、今までの接触の時のような会話は出来ませんでした。わたし達の隣の列のラッキービーストさんに至っては、おそらく他の方よりも長く動いて疲れたのでしょう、彼の瞳の輝きは暗くなっていました。彼の背後には交代のラッキービーストさんがやって来て……その子はこれから訪れる忙しさに震えて居たようにさえ思えました。あわわ……なんて声が聞こえてきそうなくらいです。保守点検を主立って行う(のだとわたしは考えています)彼らにとって、こういった作業は不得意なのでしょうか……? なんだか大変そうですし、もし今度こういう機会があれば彼らのお手伝いをしたい位です。あぁ、案外、そういう生き方も悪く無いですね……なんて思いました。
「ふぅ……お疲れさまです、皆さん……」
どこかやりきったような笑顔でカルガモさんがぼやきます。
「だねぇ。ボス達も大変そうだったねぇ」
ドードーさんはぽふぅという不思議な吐息を漏らして椅子に座ります。彼女の勢いはなかなかのもので、わたしやイエイヌさんでしたらどさりと言う音がしそうなくらいでしたが、彼女が小柄な為かとさりと言う軽い音が響くばかりでした。
「では、皆さん、いただきましょうか。いただきます!」
カルガモさんの言葉に合わせるように、わたし達もそう言ってからジャパリまんを食べ始めます。
「んくっ……そういえば知ってるぅ? 繋がりをたどってくだけで世の中大体お友達になれるんだってぇ」
間延びした声でドードーさんが言った言葉は、わたしの心臓をどきりと跳ねさせました。わたしの驚きは伝わる筈もなく、彼女は「素敵だよねぇ」と誰に言うでもなく呟いています。
「けほっけほっ……ド、ドードーさん、それ、どこで聞いたんですか?」
わたしが噎せたことを心配そうにイエイヌさんが伺い、そっと水筒をわたしに差し出しました。わたしは「どうも」と伝え、水をひと口含みます。
「んーとねぇ……ずっと昔だからなぁ……おねえさんだったかなぁ……ふふっ、懐かしいなぁ……」
そう呟いて彼女は遠くを見つめるような眼差しになります。もしかして、彼女はゴリラさんと同じくらい長生きのフレンズなのでは……?
「それって、ヒト、ですか?」
イエイヌさんが水筒をひと口含んで、口を拭ってから言いました。
「そうだよぉ。みんな、ぱったり居なくなっちゃったから、お別れもあんまり出来なかったけど……」
わたしを含めたみんなが驚きの表情を浮かべます。
「ヒトが居るくらい前から生きてたんですか、ドードーさん……」
カルガモさんの言葉は、どうしてでしょう、わたしの胸をえぐるようでした。彼女にそんな意図は無い。それは断言できますが、それほどの長い時間を、わたしはたった一人でここで眠っていたという事実が殊更に強調されるようで……。
「ゴリラちゃんほどじゃないよぉ? わたしはまだ若い方なんだからぁ!」
胸を張るようにして抗議めいた口調の彼女をわたしは見つめることしか出来ませんでした。
「あの、ドードーさん……」
わたしの方をちらりと見て――その顔はどこか申し訳無さそうなもので――イエイヌさんは続けます。
「ともえさんとは、本当に初めて会ったんですか……?」
再び、わたしの胸はどきりと跳ね上がります。あぁ、きっとあなたは、わたしが聞くべきことを代わりに聞いてくれたんですね。
「……うーん、ともえちゃんと会ったこと……? 無いかなぁ……同じくらいの歳の子は居なかったと思うよぉ」
ドードーさんは言葉を続けます。
「わたしが生まれたのはね、ずうっと前だけど、ヒトが居た最後の頃……なのかなぁ? よくわからないんだけどね、けんきゅーもしてないのにぃー! ここでぇー! って叫んでるヒトも居たっけなぁ……」
彼女の発する言葉はわたしに取ってそうであるように、カルガモさんやイエイヌさんにとっても不思議なもののようでした。
「そ、そう、ですか……ありがとうございます、ドードーさん……」
イエイヌさんの言葉に首を降ってドードーさんは答えます。
「ううん、こちらこそ、お役に立てなかったみたいで……ごめんねぇ……」
「イエイヌさんも、ドードーさんもお気遣いありがとうございます。昔どうだったか、なんてことより、今ですよ、今。えぇ、わたし達、もう……もうお友達でしょう? 気にすることありませんって」
わたしは思わず口が動いていました。わたしの口から出た言葉は、果たして誰に向けたものなのでしょう?
「えへへぇ、そう言ってもらえると、とっても嬉しいよぉ……ともえちゃん!」
彼女は言葉を言い終わるか言い終わらないかの内に、わたしに飛びつきます。私の胸には罪悪感のような感情が芽生えてきますけれども、それに心が苛まれるよりも先に表に出てきたのは……
「暑いです……ドードーさん……」
わたしの言葉を受けてドードーさんは申し訳無さそうに身体を離します。
「ごめんねぇ、ともえちゃん……嬉しくって……つい……」
わたしは彼女の謝罪に「いえいえ……」と答えながらイエイヌさんに視線だけ向けます。するとイエイヌさんが羨ましげな視線をドードーさんに送っていることに気づきます。
「イ、イエイヌさん……? どうしました……?」
前にもこんなことがあったような気がしますね。えぇ、一昨日くらいに。
「後で、私も……その……良いですか……」
イエイヌさんはおずおずと申し訳無さそうに言ったのですけれど、それを元気良くドードーさんが否定します。
「今やってもらっちゃいなよぉーいいでしょ? ね? ともえちゃん!」
そんなわたし達をたしなめるように、カルガモさんが口を開きました。
「おしょくじ中です。おぎょーぎ良く」
大きな声ではありませんでしたが、言葉の重みは今までで一番だと思われます。わたし達は彼女の言葉に従い、ジャパリまんを再び頬張り始めたのでした。
わたし達がジャパリまんを食べ終わり、満腹の心地でいると、今日何度目かのきぃんという音が響きます。
「おまたせしましたーかけっこその一、はじまりまーす!」
会場中がざわめき立ちます。お昼寝をしていた子達もその騒ぎで目をこすりこすり起き上がり、喧騒の中に溶け込み始めます。
「楽しみですねぇ……」
イエイヌさんのつぶやきに返事をする子はいません。それは恐らくこの会場に居る全てのフレンズと同じものだったからでしょう。わたしも先程までの仄暗い感情はどこへやら。今は目の前で行われるであろう競技に、眼が、耳が、心が、向けられます。そうして、かけっこが始まりました。
せめて、競技シーンを描写するくらいまではと思っていました。無理でした。