けものフレンズR ”わたし”の物語   作:むかいまや

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https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im9098445 より設定をお借りし、8話Aパート相当の物語を書きました。

この前面白い夢見たんですよ。Pixivの通知が30件来ててびっくりするっていう夢。
肥大する自尊心と現実認識との折り合い的に無難すぎるし、そんな夢みる自分がなんだか情けないやら悲しいやら……どうぞ、お笑いください。

20/06/13 改稿


8-1

 何人かのフレンズさんがトラックに入っていきます。

 その中にはコヨーテさんの姿があって、彼女は気楽そうにご友人と話をしていました。……ってアレ、ロードランナーさんじゃないですか。あぁ、仰ってたとおり合流してたんですね。コヨーテさんがニタニタといたずらっぽい笑みを浮かべたりしている一方で、ロードランナーさんは妙に緊張した面持ちです。

 コヨーテさんはトラックの内側に立ちます。そして、彼女の反対側に移動してきた子(この子は真っ黒い鳥の子。多分先程ドードーさんとお話していた子じゃないでしょうか?)とともに白い帯をぴんと張るように両端を持ち合います。つまりは、ここがゴールということなのでしょうね……というか、コヨーテさんは走るんじゃ無いんですね……。

 一方で、何人かのフレンズさんは各自のスタート地点に立ちます。一番遠くには頭に角の生えた子(ドードーさんが言うにはプロングホーンさんだそうです)、そこからゴールに近づくにつれて、キリンっぽいフレンズさん、そしてその次にシマウマさん(この二人はわたしでもひと目でわかりました)。次に黒いもこもこした子(カルガモさん曰く、ツキノワグマさんだそうです)、その次に猫っぽい方(この子がチーターさんだそうです)。最後、最もゴールに近い位置にはロードランナーさんが居ます。……思っていたよりも走るフレンズさん達の数は少ないのですけれど、わたしの想像を裏切るようなフレンズさん達の姿も見受けられます。

 例えば、鳥であるロードランナーさん。彼女の足が速いということは既にわたしも知るところですけれども、なんだか不思議にも思われます。また、キリンさんですとか、ツキノワグマさんですとか、わたしの考える『足が速いけもの』という括りは含まれていないフレンズさんが居るのです。

 ですけれど……わざわざこんな多くのフレンズさんの前で走ることを望み、叶えたのです。そんな方々の持つ力を侮ることは出来ないでしょう。

 また少し上空には下でゴールの帯を持つ方と似た色合いの黒いフレンズさんが浮いています。遠目で良くわかりませんが、彼女は口に何か笛のようなモノを加えている様子。彼女が合図をすることで彼女達は走り出すのでしょうか?

 ぴぃーっとひとつ長い音が彼女から発せられます。その音を合図に選手のフレンズさん達が身構えます。ある子は立ったまま、ある子はしゃがんでお尻を上げるようにして……彼女達が身構えるのと時を同じくして、それを見守るわたし達の間にも緊張が走ります。

 破ってはならない静寂が、競技に向けた興味が、彼女達の姿から片時も眼を離すまいという思いが、それら全てが会場の空気に張り詰めたように充満しています。呼吸さえ躊躇われるような、静寂と緊張の世界。全てがひとつの瞬間の為に動きを止めた世界。それを打ち破るひとつ目の笛が、響きました。

 

 順番通り、一番最初にプロングホーンさんが走り始めます。次に走るであろうキリンさんはプロングホーンさんの姿を首を後ろに向けてじっと見つめています。

 しかし速いですね、プロングホーンさん……。最後尾からのスタートということは長距離を走ることが得意というフレンズさんの筈。それなのにあの速度……後半になってから追い上げるのではなく、最初から差を全力を出して走るということでしょうか? その速さの為か、彼女のオレンジまじりの茶色い上着の裾が風ではためいています。

 彼女の走りにわたし達が驚嘆しているまもなく、次の笛が短く鳴りました。

 

 キリンさんはプロングホーンさんよりもずっと速い速度で走り出します。

 前評判、つまりはドードーさんやカルガモさんから伺っていたお話ではプロングホーンさんは優勝候補であった筈……。違和感のようなものが頭をよぎりますけれど、それについて考える余裕なんてありません。

 

 さほど距離を開かずにスタートラインで待ち構えていたシマウマさんはキリンさんが走り出すと同時に前を向き、再び身構えて……笛の音が鳴ります。

 シマウマさんはキリンさんよりも少し速いくらいでしょうか……? 今の所の順位としては、最後尾をプロングホーンさんが追いかけるように走っていて、スタート位置の都合から加速が付いたキリンさんが先頭を走っています。けれど、差を少しずつ縮めるようにシマウマさんが追い上げます。

 彼女達の順番はこの通りですけれど……徐々にプロングホーンさんは速度を上げて……そして、間もなく彼女達は横並びに走ることになりました。この瞬間に歓声は起こりません。何故なら、このレースに、みな、熱中しているからでしょう。

 

 よっつ目の笛が鳴り響きます。ツキノワグマさんが、だぁっと駆け始めます。彼女のスタートは後ろに構えた三名のタイミングとは異なり、かなり余裕をもたせたものでした。遠目なのでしっかりとした距離はわかりませんけれど、十メートル以上は距離が置かれているようです。

 やはり彼女も速い……のですけれど、速度自体は他の子と比べるとあまり速いものではないようです。けれど、わたしよりもずっと速いですし、スタートのタイミングから見ても一位になることは不可能ではなさそうです。このまま逃げ切ることができれば……ですけれど……そんなことを考えていると、どこからか「頑張れぇっ!」という声が響きます。その声を受けて会場のあちこちから声が上がり始めます。

 熱中は熱狂へ。各々のお友達だからか、それとも単に走る彼女達の力になりたいからか……理由はめいめい違うのでしょうけれど、走るフレンズさん達を沸き立たせるように声が響きます。そんな中、次の笛が鳴りました。

 走り出したのは、わたしの予想に反してロードランナーさんでした。

 彼女はひゅんと走り出し、そのまま全力疾走でゴールを目指しています。彼女の速度は、こうして比べてしまうと、他のフレンズさん達に比べると明らかに遅い速度だとわかります。

 だから最前列に立ち、そしてかなり広い猶予を与えられてからスタートすることになったのでしょうか……? 速いには速いのでしょうけれど、他の方には及ばない速さ……わたしの知るフレンズさんだからか、つい、わたしも声を上げて彼女を応援してしまいます。

 

 一方で、後ろを走る子たちの様子はといえば、ツキノワグマさんにプロングホーンさん、キリンさん、シマウマさんが追いつき、再び横並びになります。……と、ロードランナーさんが走り出すと同時にプロングホーンさんは更に速度を上げます。

 まだ速度をあげられるのか! という驚きはもはや隠せるようなものではありません。「うおぉっ」という驚嘆なのか、あるいは感動なのか判然としない声が会場から上がりました。

 プロングホーンさんはぐんぐんと速度を上げ、横並びの状況からひとり離れ始めます。ロードランナーさんはそれを気にせず、ただひたすらにまっすぐ、まっすぐ走り続けますが、きっと最大速度なのでしょう、どこか辛そうな表情にさえ見えました。わたしは知らぬ間に立ち上がり、拳を握りしめていました。

 

 プロングホーンさんがチーターさんの横を通り過ぎます。何も気にしないような空気を纏い、じっと前を見つめるチーターさん。そして、一瞬遅れてシマウマさん、ツキノワグマさん、キリンさんという順番で、チーターさんの横を駆け抜け……そして、最後の笛が、鳴ります。

 チーターさんが走り始めました。いいえ、『走る』というよりももはや『跳ぶ』と形容したほうが適切かもしれません。それほどの速度を、一瞬で……。最後の笛がなると同時にプロングホーンさんは更に速度を上げました。きっとこれが彼女の最高速度。いわば、『フルスロットル』なのでしょう。チーターさんの速度も、プロングホーンさんの速度も、わたしの想像していた領域ではありません。少しばかり詩的な表現をするなら、きっと風そのもの。

 プロングホーンさんとロードランナーさんからしてみたら『どうやって一位になるのか』というよりも『どうやってチーターさんから逃げるか』という思考の方が優先されていそうな位……。チーターさんは駆け出すのとほとんど同時に彼女を追い越したお三方を追い越し、プロングホーンさんに迫ります。彼女達は横並びになって、文字通り風のような速さで走ります。追いかけられるロードランナーさんは一瞬だけ後ろをちらりと見て、前に向き直ります。彼女の速度は決して落ちることは無いのですが、決して上がることもありません。

 ロードランナーさんは……いいえ、あの場で走っている全てのフレンズさんみんなが全身全霊を振り絞っていることは、疑う余地なんてありません。だからこそ、純粋な感情が、彼女達を応援したいという感情が、ここに共有されているのでしょうか……?

 プロングホーンさん、チーターさんのふたりとロードランナーさんとの距離はどんどんと短くなっていきます。辛うじて先頭を走るロードランナーさんと、追い上げてくるプロングホーンさんとチーターさんのおふたりの距離が縮んでいくにつれて、会場の声は急激に小さくなります。これから達成せられるであろうゴールの瞬間。それを望むのは誰も同じなのです。

 

 どんどんと縮んでいく距離。かなりのアドバンテージを付けて走り出した筈のロードランナーさんですけれど、あっという間にその差は縮まりました。後数メートルほどの距離なのに……ロードランナーさんが勝つ可能性がわたしには想像できなくなってしまうほどの速度を出しながら、プロングホーンさんとチーターさんが走って……そして、そして……。

 

 ついに前を走る三名が並びます。ゴールまでほんの二、三メートルほど……このたった数歩の距離で勝敗が決するのです。会場中の全てのフレンズさんが息を飲み、会場は静寂が訪れます。そして、ゴールラインに貼られた帯が揺れると同時に会場中が爆発したかのような歓声に包まれたのでした。

 

 勝ったのは、プロングホーンさんでした。二位にロードランナーさん、三位がチーターさんという順位。そして一瞬だけ遅れてシマウマさん、キリンさん、ツキノワグマさんの順番でゴールイン。僅差でしたので、しっかりとした記録ですとか順位はもしかしたらわからないかもしれません。ですけれど、会場中には順位など気にしない、純粋な感動と称賛の拍手と喝采が飛び交っています。

 ぜぇはぁと肩で息をするように地面に倒れ込むチーターさんにプロングホーンさんが近寄り、手を差し伸べます。彼女達は二言三言ほど言葉を交わしたようでしたけれど、聞き取ることは出来ませんでした。そして、チーターさんはプロングホーンさんの手を取り、立ち上がりました。チーターさんとプロングホーンさんは並び立ち、ロードランナーさんに近寄ります。

 彼女も同じように地面にしゃがみ込み、荒く呼吸をしているようです。そしてチーターさんがロードランナーさんに手を差し出します。その瞬間にぐらりと彼女はバランスを失いましたけれど、それをプロングホーンさんが支えていました。そこでもやはり何か会話をしていたようですけれど……聞き取れないのがなんだかもどかしいですね……。

 そんな様子を何故だか安心そうに眺めるコヨーテさん……彼女、色々知ってるようでしたし、後で尋ねてみましょうか……? とは言え、それは失礼というもの。詮索好きが好まれるのは探偵業くらいでしょうから。

 

 喝采に湧き続ける会場と、それに包まれたトラック。その中で喝采を浴びる彼女達の姿は、わたしにはどこだか羨ましく思われました。単なる身体能力の高さを羨むだけではありません。自らの望んだことを行い、他者から称賛を受けるということへの憧れ……。

 自分を『小さい』と思ってしまう一方で、それを抱くことは間違っていないという思いもあります。何にしても、あそこに居る彼女達の姿は本当に、綺麗……。美醜のくくりではなく(と言ってもそのくくりでも彼女達は『美』なのですが)、そのありよう、その気高さ……。それらにわたしは強く、強く憧れてしまいます。わたしも、彼女達のように美しく在れるでしょうか……? そう思ってしまいます。明日に控える『狩りごっこ』。

 今日の彼女達の輝きに見合うだけのことが成せるでしょうか……? 緊張とはまた違った感情に気づきます。興奮とも恐怖ともつかない奇妙な震え。

 それでも、やりましょう。やれるだけをやって……イエイヌさんと笑ってここを去れるよう、頑張りたい。走りきった彼女達への賞賛の思いの中、自然に湧いて出た感情にわたしは身体を震わせました。

 

「凄かったですね……」

 イエイヌさんが心ここにあらずという具合で呟きました。わたしも、ドードーさんも、カルガモさんも、つい先程までの狂乱に飲み込まれてしまい、茫然自失としてしまっていましたが、イエイヌさんの言葉でようやく現実に戻されたような、そんな心地になります。

「ですねぇ……」

 わたしが同意しか出来なかったというのは、先程述べた理由だけが原因ではありません。純粋に、凄かったとしか言えないのです。一位になったプロングホーンさんの戦略が如何にドラマチックだったかですとか、チーターさんの文字通りの瞬足ですとか、そのおふたりに対して最後まで走りきったロードランナーさんへの称賛ですとか……そんな考えは後から湧いてきたもので、今この瞬間の思いはただただ先程繰り広げられた光景への驚嘆と憧憬。それはイエイヌさんも同じだったのでしょう。彼女は先程の言葉を言ったきり、トラックを見つめていました。

 

 トラックから選手のフレンズさん達が居なくなってからも暫くの間、会場はざわめき立っていました。どうやら熱気にアテられたのでしょう、身体を動かしたがる子たちまで見られました。と、唐突にざぁっというノイズが会場に響きます。会場の熱気は数段落ち着き、これから行われるであろうアナウンスへの期待感からざわざわひそひそという具合の静けさが訪れます。

「おつかれさまでしたぁー」

 アルマーさんの声です。

「しばらくの間、きゅうけいでーす。ごゆるりとー」

 のんきそうにそう告げて、ひと呼吸置いてから、今度はセンさんの声が響きます。

「次の種目は、『かけっこその二』です。開始前にまた、放送を行います。それまでご休憩を」

 そうしてぶつりと放送が途切れます。会場の空気はといえば、緊張の糸がぷつりと切れてしまったように再び賑やかになっていました。ぶつりという音を聞いて、何かを思い出したようにカルガモさんが手を打ちます。

「あ、そうそう、私はこの後集まりがあるので失礼しますね」

「かけっこの関係ですか?」

 わたしの質問に彼女は首を振ります。

「『サプライズ』……狩りごっこの関係で話し合いがあるとか……」

 この後の競技が見られないのは残念ですけれど……と続け、彼女は立ち上がります。

「さて、じゃあ失礼しますねーそれではー」

 彼女はぴょこんと跳ねながら髪の毛から続く羽を動かして空へと飛び立っていきました。わたし達は彼女を手を降って見送ります。

「……ともえさん。その……『お話』っていつ頃します……?」

 カルガモさんの姿が見えなくなってからイエイヌさんはわたしにそっと耳打ちをします。『お話』……? あぁ、笛のことでしょうか?

「笛のことですか?」

 わたしがそっとイエイヌさんに耳打ちを返すと、彼女ははこくりと頷きました。今でも良いのでしょうけれど、周りにはフレンズさんがいっぱいですし……ドードーさんが他の方に話を漏らすとは思えませんが……。

「まだ周りにフレンズさんが居ますし、今晩にでも……」

「わかりました」

 そう言って彼女はわたしの耳元から顔を離しましたが、すぐに再びわたしに耳打ちをします。

「これだけ……犬系の子と猫系の子が多かったです」

 ふむ……。

「わかりました、ありがとうございます」

 犬系と猫系……つまり、コヨーテさんやチーターさんのようなフレンズさんが多かった、と……。どなたが参加するのかまだわからない以上、対策の練りようもありませんが……それって結構、広い範囲のフレンズさんが対象なのでは無いでしょうか……?

「うーん……困りましたね……」

 わたしの呟きを聞き取ったドードーさんが身を乗り出してわたしに尋ねます。

「どうしたのぉ? ともえちゃん」

「いえ、ちょっと予定と違う事態が起こりそうで……」

 わたしのぼやかしにぼやかしたあやふやな返事に彼女は首をかしげます。

「んー……? なんだかよくわかんないけどぉ……」

 うーんと彼女は少しだけ悩んで続けます。

「最初の思い付きでやって良いと思うよぉ? 自信は無いけどねぇ……でも、わたしはそれで後悔したこと無いかなぁ……」

 彼女の言葉は確たる信念の下出された言葉では無いのかもしれません。けれど、わたしの出会ったフレンズさんの中でも長生きな彼女の言葉は、十分に参考となるでしょう。ナントカより年の功、とは古いことわざでしたっけ?

「なるほど……ありがとうございます、ドードーさん」

 彼女は「どういたしましてぇー」と微笑みます。

 彼女の言葉に従うなら、わたしの思い付きをそのまま実行するだけ。というか、それ以外に案も思い付きませんからね……。問題は、何をどこまでやるのか……。考えるしかありません。優れた足も爪も(攻撃は禁止ですけれどね)持たないわたしが出来ることは、考えることとそれを実行すること。やれるだけやるしか無いのです。

「ちょっと、おトイレに行ってきますね」

 イエイヌさんとドードーさんにそう告げてわたしは観客席を離れます。いえ、本当におトイレに行く訳では無いのですよ? 少しひとりになって考えたいだけ……。未だ熱を帯びているフレンズさん達の雑踏をすり抜け、わたしは会場の外へと向います。

 

「さて、と……どうしたものか……」

 とりあえず呟いてみましたけれど、まぁ、何が変わることもなく、わたしは歩き続けます。会場の外は中と比べると幾文か落ち着いているようでしたけれど、それでも先程のかけっこにアテられたのでしょう、少し離れたところで「よーい、どん!」と掛け声をして走り合う子達がいました。

 もしかすると、彼女達は次の『その二』の方に参加する子たちなのかもしれませんね。また、お昼頃にラッキービーストさん達がご飯を配っていたところでは、警備も兼ねているのでしょうか? お昼頃と同じようにお二人ほど立っていました。彼らはじいっと会場の方向を見つめています。わたしが会釈をして横を通り過ぎると、彼らも全身をひょこりと動かして会釈を返してくれました。小さく「お疲れさまです」と口にして、そのまま歩いていると、後ろから「ボス、ジャパリまん持ってないのぉ?」というフレンズさんの声が……。彼らは特に返事をしなかったのですけれど、どうやら反応が無いことから持っていないことを察したようです。「そっかぁ……」という残念そうな声が聞こえてきましたし、それを励ますご友人の声も……。

 そんな可愛らしいやり取りを聞くと、思わず笑みを浮かべてしまいますね。周囲の光景が何とも珍しいというか、あまりにも楽しげで、それだけで心も浮足立ちます。これは考えごとどころでは無いですね……その点では失敗です。

 とはいえ、なんだかこのまま少し歩きたい気分。きっとわたしも彼女達と同じように、アテられたんでしょうね。

「……っと、ロードランナーさんじゃないですか……お疲れさまです」

 会場から離れた木陰で幹に寄りかかって座っているロードランナーさんが目に入りました。

「……ん? あぁ、ともえか。何日かぶりだな」

 ひょこひょこと小さく手を振るロードランナーさんに歩み寄ります。

「隣、良いですか?」

 彼女は小さく「おう」と返事をしました。それでは失礼して……。木陰に腰を下ろすと、乾いた風が吹き、わたしの髪を撫でるようにそよぎました。

「かけっこ、凄かったですね。二位でしたけど……おめでとうございます」

 わたしの言葉に照れくさそうな表情になった彼女でしたけれど、どこか疲れた様子です。本当に全身全霊の勝負だったんでしょうね。

「ん? まぁ、ありがとな。やっぱプロングホーン様も、チーターのヤツも……かなわないなぁ……」

 悔しげに、でも嬉しそうに彼女は呟きました。

「っと、それはそれとして……ともえ……コヨーテに告げ口したろ……」

 告げ……口……? わたしを責めるような口振りの彼女でしたけれど、まるで心当たりがありません。

「何のことですか……?」

 ロードランナーさんは「はぁ」と小さくため息をつきました。

「あたしが今回のこと忘れてたって、言ったろ? それだよそれ」

 あぁ、なるほど……その事ですか……。

「告げ口も何も……事実じゃないですか、悪いのはロードランナーさんですよ」

 呆れながらわたしが彼女に返すと、彼女もどこだか愉快そうに笑います。

「まぁなぁ……」

 そして、楽しげな笑顔のまま、わたしの目を見て、彼女は言いました。

「そうだ、お前には話そうかな、うん。秘密にしとくのも何だかくすぐったいしな」

 あのふたりには秘密だぞ、と補足して、彼女は話し始めました。それは、わたしの知らない『運動会』の裏側の話。それは、わたしの知らないフレンズさん達の日常の話――。

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