けものフレンズR ”わたし”の物語   作:むかいまや

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https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im9098445 より設定をお借りし、8話Bパート相当の物語を書きました。

物語が……前に、進まないっ……! ぜんっぜん……
ライブ感重視の書き方なので、無理矢理謎の描写をした過去を回収……できてるかしら?

20/06/13 改稿


8-2

――――――

――――

――

 んで……コヨーテがなんかマジメそーにあたしと話をして……ってところだったか。あたしは寝ぼけてたからそんなことすっかり忘れて過ごしてたけど、しばらくしてから、また話をされた。

「よう」

 川辺に水を飲みに行った時だった。喉が乾いてたってのもあるけど、暑くってな。

「おっす。……久しぶりだな、コヨーテ」

 実際あれからしばらく会ってない。

 まぁわざわざ周りのヤツらとコヨーテの話はしないから、単にどっか遊びに行ってんだろうなって思ってたけど、ちょっと違ったらしい。

「この前話してた運動会なんだがな――」

 コヨーテはあれこれ細かい話をし始めた。いつやるのかとか、オルマーとセンが歩き回って宣伝するとか、かけっこのこととか……。

 あたしははっきり覚えてないって正直に言うと、コヨーテを怒らせそうだったから適当に相槌打ってた。

「で、だ……なんでこんな事考えてたか、お前には言っとこうと思う」

 あたしはコヨーテのおかげで「そんなこともあったなー」とか半分くらい思い出せてたから、そこは感謝だな。

「ん? コヨーテって結構面白いこと考えるだろ。なんかカード使ったゲームとかあったじゃねえか。そういう感じじゃないのか?」

 数字? の書かれたカードを……ってこれはかんけーないな。

「んー……そうだな、俺は楽しいことが好きだぞ? ただ今回のはそれだけじゃなくてな」

 あたしがふんふんと頷いてると、コヨーテは続けていった。

「もっと仲良く出来るだろってな、思ったんだよ」

「はぁ? どういうことだ?」

 あたしが問い詰めると、アイツはなんだか言葉を選んでるようだった。

「あたしがそんな他人の悪口みたいな事言いふらすと思うか?」

 そういうことじゃないのかもしれないけど、アイツなりに悩んでるんだったら、言いやすくしてやらねえとな。

「……ちょっと違うがなぁ……チーターのヤツ居るだろ? アイツ、友達居ないからなぁ……悪いヤツじゃないのは知ってるんだけどな……」

 なんでここでチーターの名前が出るのかって不思議に思ったけど、口を挟むのもヤだったから、相槌だけ打った。

「で……プロングホーンのヤツだったら仲良く出来るだろってな、思ったんだ。走るの好きだろう? アイツ。それに――」

 プロングホーン様の名前が出てきたからちょっとだけ言い返す。

「なんでプロングホーン様なんだ? 別にお前だって足速いじゃねえか」

「まぁ待てって……。それなのにチーターは誰かと走るような性格じゃない。だからいっそのことこっちで誰かと走る場を用意してやろうってな」

 けっこー無理矢理な感じがするけど、コヨーテなりに考えてるんだなぁって思った。

「じゃあ、別にあたしとかお前とかいらなく無いか?」

 そしたらコヨーテは首を振った。

「違うぞ。みんなでやるから楽しいんだよ。なぁ、わくわくしないか? パークで一番速いヤツと走れるんだぞ? もしかしたらもっと速いヤツが出てくるかもしれない。それに……」

 妙なところでコヨーテは言葉を切った。伝えて良いのかどうか悩んでるようだった。

「それに?」

 あたしの言葉を聞いて、少ししてからアイツは楽しげな顔で言った。

「……プロングホーンに勝ちたくないか? ロードランナー」

 正直どうでも良い。勝ち負けの話は、あたしあんまり興味ないんだな。

 そりゃあプロングホーン様がチーターと競争するならプロングホーン様に勝ってもらいたいけどさ。あたしがどうこうってのは……。

「んー……?」

 実感が沸かないってのもあるな。あたしがプロングホーン様に勝つなんて、まず無理だからな。

「……ま、まぁ……ともかくとして……楽しみにしてろよな。忘れるなよ。まぁアルマーとセンに会うだろうから大丈夫だと思うが……じゃあな、他にも会わないといけないヤツが居てな」

 そう言ってコヨーテは手を振りながらどっか行った。忙しいヤツだなーとだけ、あたしは思った。あたしの思いとは違ってコヨーテのヤツは楽しげに笑ってたから、ちょっとだけ羨ましくも思ったりもしたんだけど、まぁ、アイツがあんだけやってるし、あたしに手伝えることも無いだろうしなぁ……。あたしも手を降って見送ってやったさ。

 

――――――

――――

――

 そこまで聞いて、わたしはいくつか思うこともありましたけれど、開口一番彼女に尋ねたのは……その、なんというか……『ツッコミ』でした。

「なんでそんな大事そうな話を忘れるんですか、あなた……」

 わたしの言葉に照れくさそうに頭をぽりぽりと掻きながら、へへんと鼻を鳴らしてロードランナーさんは言います。

「オオモノだろ、あたし」

 何も言うまい、そう思いました。えっへんと胸を張るようなことでも無いでしょう……指摘しても良いのでしょうけれど、そんな誇らしげな表情をされると……その気も失せてしまいます。

「……それで、そのーえー……その後は……?」

「ん? えぇっと……その後は……お前と丘の上で会って原っぱの方をうろうろして……もう一回お前と会って話をした時に全部思い出したな」

 そしてサバンナの方に帰って行った、と……。

「メモとか日記とか……そういうのした方が良いと思いますよ、ロードランナーさん……」

 どちらも聞き覚えの無い単語だったのでしょう。彼女は考え込むようにしてわたしの言葉を繰り返します。わたしはと言えば話が一段落ついた今こそ尋ねるべき質問が思い浮かびます。

「あ、後……ロードランナーさんに質問なんですけれど……」

「ん? 何だ?」

 少しだけわたしは悩んで彼女に尋ねます。 『あの子』の居ない場で『あの子』のことを尋ねて良いのかどうか……そう思ったからです。ですけれど、少しでもあの子の役に立てるかもしれない……そう信じて……。

「……お会いしたっていう『新しいフレンズ』ってイエイヌさんの事……ですよね?」

「おう」

 気楽そうな表情でロードランナーさんは応えます。これはわかっていた事。問題はその先。

「ロードランナーさんは……あの子がフレンズになる前のこと、知ってるんですか……?」

 彼女はまるで何かを思い出すように、少しだけ唸り声を上げて、そして口を開きました。

「んー……あっちの方は時々遊びに行くだけだしなぁ……懐っこいヤツだったぞ? いつからあそこに居たのかは知らねえけど……」

「そう、ですか……」

 彼女が教えてくれた話以上のことは何もわからないということでしょう。残念な気持ちもありましたけれど、それ以上になんだか罪悪感……。

「どうかしたか?」

 わたしは怪訝な顔をしていたのでしょう。ロードランナーさんが不思議そうにわたしの顔を覗き込みます。

「いえ、大丈夫です……なんでもありません……」

 彼女は納得行っていないような表情でしたけれど、わたしから顔を離します。

「ともえさぁ、お前かわいいんだからさぁ」

「なっ……」

 急な褒め言葉にわたしは言葉を失い、ロードランナーさんの顔を見つめます。

「ココにシワ寄せてたらもったいないぞ?」

 彼女は自分の眉間を指しながら言いました。少しだけ照れくさそうにしながら……。

「あはは……ありがとうございます、ロードランナーさん」

 彼女の言うことはもっともでしょう。いえ、わたしが可愛いとかそういう点ではなく……。

「なんだろうなぁ……バカにするつもりはないんだけどな、見てると心配なんだよ、お前……」

 彼女はわたしから視線を逸らし、会場の方を見つめます。

 視線の先では楽しげな声が響き渡り、まるでこの木陰だけ世界から切り離されているよう。そよ風に乗り届く音を楽しむように、ロードランナーさんは一瞬だけ沈黙しました。そして、ひまわりのような晴れやかな笑顔をわたしに向けました。

「……だからさ、イエイヌが一緒に居るっての知れてよかったよ」

 彼女の言葉に、わたしは少しだけ違和感を覚えましたけれど、何よりも感じたのは彼女なりの気遣い。

「ありがとうございます」

 ロードランナーさんは「いいっていいって」と返します。

「旅、かぁ……頑張れよ。……色々じょーきょーが違ったら、あたしも――」

 唐突に会場からざぁっと言う音が響きます。

「次の種目がはじまりまぁーす。参加する子は入り口に集まってくださぁーい」

 ロードランナーさんはその放送を聞いて、跳ねるように立ち上がります。

「やっべ、行かないと」

 あなた両方とも出ていたんですね……。大変でしょうに……。

「わりぃな、ともえ、行ってくる。じゃあな」

 彼女はそう言いながら走っていきました。競技中ほどの速度では無いのですけれど、それでも結構な速度。

「頑張ってくださいねー!」

 わたしは走り去る彼女の姿を手を振って見送ります。彼女も軽くこちらを振り返り、手を降ってわたしに応じます。

「思ったよりも時間経っちゃいましたね……わたしも急いで戻らないと」

 よっしと口にして、立ち上がります。そういえばわたし、彼女にイエイヌさんと居るって話しましたっけ……? なんて思いながら道を進むのでした。

 

 会場に入ると、先程よりも少しばかり慌ただしい空気の中、フレンズさん達がこれからの競技への期待感に胸を膨らませながらトラックを見つめていたり、あるいはお友達とお話をしていたりという具合でした。

「戻りました、イエイヌさん、ドードーさん」

 わたし達の掛けていた座席に戻り、おふたりに謝ります。

「遅くなってしまってごめんなさい、ちょっとお話をしていたので……」

 イエイヌさん、ドードーさんとも首を振ります。

「おかえりなさい、ともえさん。いえいえ、ちょっとだけ心配しましたけど……」

「おかえりぃ。おトイレ大丈夫だったぁ?」

 あぁ、そう言えば……。

「あはは……まぁ、はい……」

 ウソをついて出てきたという事と、イエイヌさんへの妙な罪悪感からぼかして応えてしまいました。

「……ロードランナーさんと居たんですか?」

 イエイヌさんがすんすんと鼻を鳴らして尋ねます。

「えぇ、ちょっとお話を……」

 じとぉっという妙な視線……イエイヌさんそんな顔するんですね……。可愛らしいのは変わりないのですが、何故でしょう、罪悪感を抱かせる様な、わたしを責めているような……。嫉妬? まさか……。

「ど、どうかしました?」

「どんなお話をしたのかなぁ……と思いまして……」

 少しだけ表情を和らげたイエイヌさん。

「えぇっと……『運動会』の裏側のお話ですかね……」

 ドードーさんはわたしの言葉に興味深げな表情をします。イエイヌさんも少しだけ興味があったのでしょう、ほんのちょっと、お耳がぴくりと動きました。

「へぇ……なんだか面白そうだねぇ……」

「ですねぇ……ドードーさんから先程聞きましたけど、こういうもよおし事ってそんなになかったそうですし……」

 期待の籠もった眼差しをふたりから向けられます。こういう視線に弱いんですよねぇ……ロードランナーさんは「ふたりには内緒」と仰っていましたが、恐らくその『ふたり』とはプロングホーンさんとチーターさんの事。でしたら他のフレンズさんに秘密ということでイエイヌさんとドードーさんに話してしまっても良いような……

「他の方には内緒にしてくださいね? ロードランナーさんも他の方にはあんまり教えるなと言っていましたから――」

 話が広まらないように少しだけ注意をしながら、ロードランナーさんから伺った話を伝えようとすると、会場にフレンズの皆さんが入ってきました。

「――っと、競技が終わってからで大丈夫ですか?」

 おふたりはこくりと頷いて、わたし達はトラックへと眼を向けます。

「……確か同じ距離を一斉に、でしたっけ?」

 イエイヌさんが頷きます。

「みたいですね……前と比べると、なんだか想像が着く気がするんですけれど……」

 わたしも同感でした。

 その思いはどうやらあながち間違っていなさそうです。入場してきたフレンズの皆さんはと言えば、『その一』に参加した面々に加えて、コヨーテさんを始めとした何人かのフレンズさん達……。小さな角の生えた子や、頭に小さな羽根のある子、はたまたお団子ヘアーの子、ウサギっぽい子がおふたり(白色の子と茶色の子でした)……。先程と比べるといくらか賑やかな印象です。新しく入ってきた子達は先程の競技の様子を見ていたのでしょう、どこか緊張した面持ち……。

 それはもちろんコヨーテさんも同じようで、今度はロードランナーさんに茶化されて居ます。仲いいですねぇ、あの二人。今回ゴールに立つのは前回もお手伝いをしていた黒い鳥のフレンズさんのふたり。揃って真っ白の帯をぴんと張っています。

 

 一方で、アルマーさんに誘導された選手の方々はスタートラインに立ちます。誘導が終わった彼女はそのままスタートラインの脇に立ち、笛を加えます。今回は一斉のスタートですので、空からしっかりと確認する必要が無いのでしょう。先程の光景が胸中に蘇ったのか、会場では準備の最中だというのに持ち上がって応援の声を上げる子も居ます。

 そんな周囲の熱気を知ってか知らずか、ゆっくりとアルマーさんは笛を口に加え、ひとつの長い音を響かせます。音を聞いた選手の皆さんは身体を構えます。そして、笛の音が響くのと同時に、観客席は一瞬でしんとします。ごくりと思わずわたしも喉を鳴らしてしまいます。そして、短く笛の音が響き『かけっこ』が始まったのでした。

 

 

 ……結果から言えば、チーターさんの独走状態でした。いいえ、『独走』というのも過小評価なのかもしれません。笛の音がなった瞬間に最高速度に達した彼女はそのまままっすぐにゴールラインを走り抜けたのです。他の追随を許するとか許さないとか言う次元ではありませんでした。その後はプロングホーンさん、コヨーテさん、小さな角の生えた子、小さな羽根の子、お団子の子、シマウマさん、キリンさん、ツキノワグマさん、ロードランナーさん、同着でウサギの子達……と言った具合でした。なんというか……一位と二位は想像通りでしたね……。

 

 そんな結果でしたけれど、わたしはひとつ、気づいたことがありました。チーターさんの表情です。

 先程伺ったロードランナーさんの話では、なんというか、いつもむっつりとしていてひと付き合いの苦手そうな子という印象でしたし、実際、今思い返せば『その一』の競技が始まる前の彼女の表情は(緊張もしていたのでしょうけれど)結構固いものだった気がします。

 けれど、今ゴールの先で立つ彼女の表情は柔らかなものでした。チーターさんは愛嬌のある笑顔でプロングホーンさんにVサインを繰り出していましたし、それを受けるプロングホーンさんはやれやれという風に首を振っています。お友達に、なれたんですね。多くのフレンズさんの知らないところで繰り広げられたイザコザ(というほどの事なんでしょうか……?)。その結末がコレ……という感じなのでしょうね。

 ロードランナーさんからお話を聞いていたからわかる……のでしょうけれど、なんだかほんわかした心持ちになりますねぇ……。完全に部外者のわたしがどうこう言うのも不思議なお話ですけれどね。なんというか、ぼんやりとした記憶の中から『少年マンガ』という言葉が浮かんでくるくらいです。

 

 競技が終わり、出場したフレンズさん達がトラックを出ていきます。幾分か落ち着いた空気の会場でしたけれど、それでもわたしを含めた観客席の皆さんは盛大な拍手で彼女達を見送りました。

 拍手が鳴り止んだ頃、イエイヌさんが呟きます。

「さすがでしたね……」

「ですねぇ……イエイヌさん。もしも参加できてたら、なんですけど……自分は何着だったと思います?」

 わたしは素直な疑問を彼女に尋ねます。

「うーん……そう、ですねぇ……」

 彼女は腕を組んで真剣な表情で考え込み始めました。頭の中で走ったりしてみて比べて居るのでしょうか……? 考え込んで居るイエイヌさんを尻目に、ドードーさんはわたしに問いかけます。

「そういうともえちゃんはどうなのぉ?」

 楽しげな、好奇心に満ちた表情でした。決して悪意のない、ちょっとだけ茶化す様なそんな顔。

「あはは……多分ビリですよ、ビリ」

 わたし自身が運動を得意としていないこともありますけれど、恐らくヒトという種は彼女達と比べようもないのではないでしょうか……?

「そっかぁ……わたしも足遅いから……あ、そうだ! 今度くらべっこしようよぉ!」

 微笑みながらの提案。断る理由もありません。

「えぇ、良いですよー勝っても負けても恨みっこなしですからね」

 お互い笑顔での勝負の約束。こういうのもなかなか良いものですね。

「ふふーん、負けないんだからぁ」

 売り言葉に買い言葉というヤツでしょう。ドードーさんは楽しげな笑顔でわたしに返します。と、唐突にイエイヌさんが先程の問の答えをわたしに告げます。

「ともえさん、多分……私、四位くらいだと思います……」

 自信が有るのか無いのか何とも言えない、妙にリアリティのある順位ですね……また……。結構しっかり考えていたんでしょうね……。

「……トップの方々がとんでもないですからねぇ」

 今回の『かけっこ』で感じた呆れとも驚きともつかない言葉が出てしまいました。

 と言っても、よく考えてみたら彼女自身が得意だと言っていたのは長距離。単なるスピードだけではなく、速さの維持やペースの配分と言った今回のような短距離の競争とは比較の難しい距離です。

「イエイヌさんは長い距離が得意なんでしたっけ? どれくらいの距離を……」

 と尋ねて思い出したのは旅の初日のこと。イエイヌさんは走ってわたしに追いつきました。何が彼女を駆り立てたのかは、わたしにはわかりませんけれど……。ともかく、彼女はかなりの時間をかなりの速度で走ったことになるでしょう。

「そうですねぇ……最初の日――えぇっと、私が追いついた日、覚えてますか?」

 ちょうど例として適切なのか、彼女も同じことを考えていたようです。

「全速力だと、あの時が限界ですかね……あれ以上は倒れちゃいます……たぶんですけど。あの半分の速度でいいなら……試したことないですけど、もっと行けそうですねぇ……」

 少しだけ悩むように手を顎に添えてイエイヌさんは答えてくれました。

「やっぱりとんでもないですね……イエイヌさんも……」

「だねぇ……」

 わたしの驚きの声に合わせて、ドードーさんも頷きます。とりあえず同意しとけ、とか思ってませんよね? イエイヌさんは謙遜しているのでしょう、首を振りました。

「あの距離だと……ここからうみべちほーへまっすぐ行く位の距離……ですよね?」

 一応、ドードーさんにも感覚を掴んで頂いたほうが良さそうです。わたしは距離についてイエイヌさんに尋ねました。イエイヌさんは「ですです」と頷き、それを聞いたドードーさんは「ほえぇ……」と妙な声を上げて感心している様子。

「速いかどうかってなると、怪しいですけどね……」

 謙遜とも自虐とも取れる彼女の言葉。ですが、凄いものは凄いと思うんですよねぇ……。

「十分凄いですよ。わたしにはできそうに無いですし……」

 わたしがそう言うと、イエイヌさんは照れくさそうに「えへへ……」と頭を掻くのでした。

 

 かけっこが終わり暫く経っても、会場の熱気はまだ依然として残っています。何らかの連絡や放送があるだろうと思い、わたしを含めた会場のみんなはじっと待っていましたが、何も無い、空白の時間が訪れました。時間はどれくらいだろうと思い、空を見てみると、太陽は眠そうに、お昼寝時と言わんばかりの傾き具合です。けれども、まだ夕暮れと呼ぶには幾許かの余裕がありそうな様子。今日はこれで終わりなのでしょうか……? なんだか、のんびりとした雲の動きも相まって、本当にお昼寝でもしたくなりますね……。そんなことをぼんやりと考えていると、折よくアナウンスがなされます。

「今日はこれにてしゅうりょーでーす! 明日もお楽しみにぃー! おひさまが出てから少しして開催でーっす」

 楽しげな声が響きました。アルマーさんの放送を聞いたフレンズさん達はめいめいに会場を離れていきます。わいわいがやがやと言った具合でそのひと波が会場の出口へ向かっていったり、空へ飛び立っていったり……空を飛べるって……非常に便利そうですね……。とは言え幾ら羨んでもわたしは空を飛べる訳ではなく……少し様子を見てから移動しましょうか。

「そういえば……コヨーテさんは……」

 雑踏が解消するのを待ちながら呟くイエイヌさん。わたしは彼女の言葉にはっとします。

「あー……ここに戻ってくるんですかね……どうなんでしょう……?」

「どうなんだろうねぇ……行ってくるとは言ってたけどぉ……」

 イエイヌさんもドードーさんも首をかしげています。うーん……混雑を回避する為にどうせここに暫く残るのですけれども……。

 ほんの数分ほどして、わたし達は声を掛けられます。それも会場のトラックの方から。誰もそちらに視線を向けていなかったので、わたし達はびっくりした声を上げてしまいます。

「よう、待たせたな……って、悪い、びっくりさせるつもりは……」

 コヨーテさんでした。彼女はトラックと観客席を隔てる壁をがしがしと登ったのでしょう。

「いいえー大丈夫だよぉー」

「お気になさらず……まだここから出られそうにありませんし……」

 イエイヌさんは周囲を見渡して呆れたような諦めたようなそんな口調で言いました。空を飛べる子やジャンプ出来る子などは地形を無視してぴょんと会場を後にしていますが、わたし達のように歩くことしか出来ない子たちの方が多い様子。まだ少しばかりフレンズさん達の波が残っております。

「あー……だなぁ……」

 コヨーテさんもイエイヌさんと同じように呟きます。会場に残るフレンズさん達は、先程述べたとおり、まだ残っておりますし、よく耳をすましてみれば、出入り口のあたりががやがやと賑やかで、大変な混雑になっていることが想像できます。

「裏口もあるにはあるが……下に行かないといけないから……暫く待つしかない、かな……」

 コヨーテさんの言葉にわたし達は同意せざるを得ませんでした。

「そういえば、コヨーテさん」

 幾つか質問したいこともありますが、ひとつだけ。

「どうした?」

「あのおふたりについての計画。成功でしたか?」

 わたしの言葉に彼女は眉間にシワを寄せます。

「……ん? なんでそれを……?」

「ロードランナーさんから伺いました」

 そう聞いた彼女は「はぁ」とため息をついて言いました。

「秘密にしろとは言ってないけどなぁ……んーと……大成功、かどうかはわからんが……上手く行ったんじゃないか? 後はあいつら次第ってところだと思うぞ」

「……優しいんですね、コヨーテさんは。お疲れさまでした」

 コヨーテさんは「ふふん」と鼻を鳴らします。わたしには、彼女の仕草に気恥ずかしさとほんの少しの自慢げな感情が見え隠れしているように思われました。

「……まだ終わってないぞ。明日もあるんだからな。ともえとイエイヌには頑張ってもらわないとな」

「プレッシャーですよぉ……」

 わたしがぼやくと彼女はへへんと笑って出入り口の方を指差します。

「ん、空いてきたな、一旦外に出よう」

 彼女が先頭を行く形で、わたし達は観客席を出ていきました。

 明日の会場は違うそうですけれど、わたし達が皆さんの前に出るのは決定事項。その時、わたしは皆さんの期待に応えられるでしょうか? 皆さんを失望させるようなことをしないでしょうか? 心配事は山のようにあります。

 やらねばならぬと思えば思うほど、腕と足が重くなっていき、胸の鼓動が早くなっていきます。それでも明日は来ますし、土壇場で引っ込んでしまうことは避けたいと思っています。身体が強くないんですもの、せめて、心だけでも、せめてイエイヌさんに応えるくらいはしたいのです。

 観客席から出る寸前、振り返ってちらりと会場を見ます。

 今日ココで起こったこと。それはフレンズさん達が自分のできることとやりたいこととを最大限実行して、そしてそれに対する称賛を浴びた場。

 前に向き直ると、通路に風が吹き込み、わたしの髪の毛をなで上げます。明日は、わたしが……みんなの前で……。怖いですし、不安です。ですけれど……今日の彼女達に恥じないよう、何よりもイエイヌさんに恥じないよう、やれるだけのことはやってやりますとも!

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