けものフレンズR ”わたし”の物語   作:むかいまや

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蛇足です。

1話Cパートな雰囲気です。

19/06/01 訂正
20/06/08 訂正


1-3

 わたし達は部屋を後にします。わたしの鞄とスケッチブック、そのたったふたつがカプセルの中にあるだけで、他に何も見当たらなかったという事実。そして、その部屋には、扉がもうひとつありましたが、そちらはしっかりと施錠されておりこれ以上の探索が出来なかったという事実もありました。

 期待していたほどの収穫が無いことにどこか虚しさを覚えましたが……それでも何も見つからなかったよりはマシというもの。そう考えながらも、わたしは部屋の中を見回していました。

 イエイヌさんは施錠されている扉をがちゃがちゃと弄っていましたが、少しすると諦めたように肩を落とし、わたしに呟きます。

「こっちには……行けませんね……」

「そうですね……どうしましょう? 道を戻って他に探してみますか?」

 わたしが提案すると、彼女は首を振ります。

「他に扉はありませんでしたし……ともえさんのニオイも残っていたりはしませんし……」

 イエイヌさんの言葉を信じるならば、わたしが目覚めてから通った道以外にニオイが残っていないということ……。『ニオイ』というものがどれほどの時間で消えてしまうのか、わたしは知りませんけれど、多少なりとも時間が経過しているのだと思われます。

 

 わたしは「うーん」と声を出して悩んでしまいます。

 例えば、ひとつの案としては、別の入り口を外から探すというものが思いつきました。けれど、ここがこの様子では他の扉も施錠されているでしょうし、仮に侵入できても荒れ果てていて探索どころでは無いかもしれません。

 見かねた様にイエイヌさんがわたしの顔を見つめて言います。

「ともえさん。悩んでいても仕方が無いですし、いったん帰りましょう?」

 その声色は不安げなようで、心配なようで……けれど、心底わたしの事を案じてくれているのは間違いないようでした。

 確かにイエイヌさんの言うとおりです。この場で悩んでいてもどうしようもありません。再び時間を置いて探索をすれば良いだけのことです。幸い時間なら幾らでもありそうな現状。無理をする必要は欠片もありません。というか……

「イエイヌさん。わたし、あなたのところにお世話になっても大丈夫なんですか?」

 当然の疑問です。単純に申し訳ないという思いもありますが、何よりも彼女に掛かる負担の事を考えると考えなしに頼ることは出来ません。まだわたしは身体が自由に動くワケでも無いですし、何か彼女のお役に立てることがありそうな気もしません。

「当然です。一緒に帰りましょう? ね? ともえさん」

 当然でした。断言でした。とはいえ、多少なりともご迷惑をおかけしてでも、今は彼女と一緒に居なくてはならないのもまた事実です。今後の自分の生き方も含めて考える為にも、ここは一端、彼女にお世話になりましょう。

 

 わたし達は建物を後にします。相も変わらず、私の歩みは遅く、イエイヌさんのペースには中々追いつきませんでした。起きたばかりの頃と比べると、ずっと快復したように思えますが……まだまだ本調子とは呼べないでしょう。

 それに考えるべきことはたくさんあります。過去のこともそうですし、これからどのようにして生きるのかということもそうです。加えて、どうしたら自分自身の過去を取り戻せるのかということ。それらに今、正解を見出すことは叶わず、正解に至るための過程すら、わたしには思いつきません。

「ともえさん、ともえさん」

 わたしの先を歩くイエイヌさんが傾きかけた陽射しを浴びながら、振り返ってわたしの名前を呼びます。

「なんですか? イエイヌさん」

 えへへと彼女は楽しそうに微笑んで言いました。

「今日は楽しかったですね! お散歩も出来ましたし……ともえさんだって、お名前もわかりましたし、持ち物だって見つけました! 大きな一歩ですよ!」

 その微笑は、彼女の発言が心の奥底から嘘偽りの無い本心で発せられたものであることの何よりの証明でした。そして、何よりも、わたしが悲観的に過ぎるのだということを痛感させました。

「ええ、そうですね……イエイヌさん。ありがとうございます。あなたと出会えてよかったです」

 わたしも、多分微笑んでいました。

 

 イエイヌさんが歩くペースを緩めます。そうして彼女はゆっくりとわたしの隣を歩き始めました。

「どうかしましたか?」

 わたしは首を傾げながら問いかけます。

「まだ、夢の中にいるみたいです……こうしてヒトと……いいえ、ともえさんとお散歩できて……」

 きっと現実ですよ、イエイヌさん。

「……暫く、せめて体調が良くなるまでは、イエイヌさんのお世話になっても良いですか……?」

 わたしがそう尋ねると、彼女は一瞬きょとんとした顔を浮かべました。

「……? 何言ってるんですか? 当然です! ともえさんさえ良ければずっと一緒にいたっていいんですから!」

 彼女の申し出は、なんとも都合の良い言葉でしたけれども、なんとなく、その裏側に込められた彼女の感情が透けて見えるようでした。孤独。言い方は悪いですが、それを紛らわせる事、あるいは終わらせること……それが当面、わたしがイエイヌさんにできることなのでしょうか? それは……あまりにも自分を買いかぶり過ぎに思えました。

 わたしは彼女の言葉に「ありがとうございます」と返して、一拍置いてから続けます。 

「また明日も一緒にお散歩しましょう? 良ければ、他のところも行ってみたいです。案内していただけますか? イエイヌさん」

 彼女は満面の笑みを浮かべて、強く頷きました。

「はい! 任せてください! ……うふふ、楽しみです!」

 えぇ、わたしも楽しみです。よろしくお願いしますね、イエイヌさん。

 

 わたし達は、夕日に染まる土道を手を繋いで歩きます。イエイヌさんはわたしの隣をゆっくりと歩いてくれていて、その心遣いがわたしにはなんとも嬉しく思われました。時折、わたしがバランスを崩しそうになると、すかさずわたしを支えるように身体をぴったりとくっつけてくれたり、繋いだ手に力がぐっと加えて寄りかかっても良いのだと暗に教えてくれていたり……彼女のひとつひとつの行動の全てが、わたしの助けになってくれていました。

 イエイヌさんは『ずっと一緒に』という言葉をわたしはふと考えます。

 ずっと一緒に居られるのならば、それはきっと素敵でしょう。彼女が素敵な方であるということは言うまでもなく、そんな彼女のお友達ですとか、知り合いですとか、そんな方々とも繋がりを持って、広大に見える世界がちっぽけになるくらい、ずっと一緒に居られるのなら……きっとそれは素敵です。

 けれど、わたしはわたしの事が気がかりでした。

 それは、安堵に包まれた今でさえ胸の奥で燻り続ける過去への欲求。あるいは、わたし自身への疑念。ゆっくりと脈打つその鼓動は、きっとわたしをいつかどこかへ駆り立てる……そんな気がしました。

「ともえさん! 着きましたよ!」

 わたしははっと顔を上げます。

「ずっと考え事してました……もう着いちゃったんですか……」

「むつかしそうな顔してたんで、声はかけないようにしてましたけど……無理はしないでくださいね……? そっちの方が心配です……」

 彼女はしゅんとしながらわたしの顔を伺います。

「うーん……多分、大丈夫です。身体が元気になるまでは、なるべく気楽に構えようかなって思いますので……」

 イエイヌさんはじっとわたしの眼を見つめます。数秒か、あるいは一瞬か、彼女はゆっくりと眼を瞑って頷きました。彼女の顔が再び視界に入った時、その表情はどこか淋しげなものに思われました。

「そうですよ! だから、せめて……せめて、元気になるまでは、笑って下さい!」

 わたしは彼女にほほえみ返し、頷きます。

「お言葉に甘えて――」

 わたしは『ただいまぁっ』と大きく声を出して『おうち』のドアをくぐります。イエイヌさんもわたしと同じようにして、中へ。

「――お世話になります。これからよろしくおねがいしますね、イエイヌさん」

 イエイヌさんは満面の笑みで頷いて「はい!」と応じます。

「こちらこそよろしくおねがいします! ともえさん!」

 その言葉をきっかけに、何かが始まった気がしました。




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