思ってた何倍もここ続いてる……自分でもわからない……なんで……?
競技シーンは次から入る筈です。お楽しみにどうぞ?
20/06/14 改稿
ハクトウワシさんが呆れた様子で新しくやって来たフレンズさんを中に促します。
「はぁ……まぁ良いわ……。えぇっと、あなた達はここで待っててちょうだい」
中に入ってきたフレンズさんはわたし達にぺこりと会釈をして、少し離れたところに腰掛けました。イエイヌちゃんはつい先程までと同じく、わたしに顔を押し付けるような姿勢でしたが、新しく入ってきたフレンズさん達の為もあってか、流石に姿勢を改めました。
片方の子は頭から長い角を生やしていて、茶色が基調の長い髪の毛に顔の輪郭をなぞるように二房の白色の髪、ぴょこんと頭から小さく尖ったお耳が覗いています。表情はと言えば緊張のためか、きりりとしています。そんな面持ちに彼女の吊り目気味の黒い瞳が加わり、真面目そうな印象を与えます。髪の色と同じ茶色のジャケットとその下にはワイシャツの様な服の下には、白の縁取りのある紺色の短いスカート、また、茶色のストッキングを履いており、靴は茶色のローファーです。どことなく、遠目に見たことしか無いのですけれど、プロングホーンさんと似たような印象です。
もう片方の子はと言えば、短めの角が生えていて、うっすらと白色が混じったような茶色の髪の毛。短めの髪型ですけれど、ちらりと覗く後ろ髪はまとめられて居るのにもっさりとしていますし、白味がかった前髪は軽く捻ったような癖がついています。黒い瞳はまるっこく、彼女はあまり緊張していないのでしょう、楽しげな空気を湛えています。白色の半袖のワイシャツと、茶色のブレザー、首元には赤色のリボン。また、茶色のホットパンツを履いていて、足元は茶色のスニーカーと同じ色合いのハイソックス。やはり、というべきでしょうか、どこかプロングホーンさんに印象が似ている気がします。ただ、彼女のほうがずっと人懐っこいような、そんな雰囲気です。
「次のしあいが終わったら……そうね、ジャパリまんを持ってくるわ。それまで、ゆっくりしていてちょうだいな」
彼女はわたし達全員に聞かせるようにそう言って、テントから離れていきました。
「……にゃっ? ジャパリまん……?」
イエネコさんが眠たげな顔をあげ、周囲をきょろきょろと見回しましたが……単語が出たに過ぎないと分かったのか、残念だと言わんばかりに「ふすー」と鼻を鳴らして再び眠り始めてしまいました。わたしやイエイヌちゃんだけでなく、先程中に促されたフレンズさん達も小さく笑い声を漏らします。
おかげさまで……と言ってよいのかはわかりませんが、どこかテントの中の空気が和らいだ様に思われます。わたしはそっと席を立ち、おふたりに近寄ります。
「わたしはともえです。こちらはイエイヌちゃん。よろしくおねがいします」
自分からの自己紹介って、なんだか緊張しちゃいますよね。イエイヌちゃんは先程までわたしにくっついていたのを見られた為か、少し恥ずかしげにしていましたが、ぺこりと会釈をします。それを受けて、短い角のフレンズさんが立ち上がりました。
「こんにちわっ。あたしはサイガなー。こっちは――」
「私はスプリングボック。リボックでいいよ」
セリフを取られたことに膨れた様子のサイガさんでしたが、それを気にせず、リボックさんは続けます。
「ともえとイエイヌね……よろしく」
そう言って彼女は手を差し出します。それに応じる形でわたしはリボックさんと握手をします。と、それを見たサイガさんが――
「あっ、先を越されたな……。あたしも、よろしくなー」
挨拶とか握手とかって……そういうものでしょうか……? 疑問はさておき、わたしとイエイヌちゃんは順番に握手を交わします。
「これでおっけーな!」
元気な子ですこと……。とは言え、テントの中には緩やかで穏やかな空気が流れ始めます。
「そういえば……キミ達はどうして『狩りごっこ』に参加したんだい?」
「……? なにかあるんですか?」
イエイヌちゃんが聞き返します。確かにそのとおりです。参加したいから参加するという以上の理由があるのでしょうか?
「ホントかどうかは知らないけどね……ゆーしょーけーひんとかいうのがあるらしいんだ」
リボックさんは少し訝しげな表情をして言いました。
「でなーそれがトクベツなジャパリまんだとかジャパリまん一ヶ月分だとか、そんな噂なんだなー」
瞳をキラキラさせながらサイガさんが言います。真偽はさておき、そんな噂があるなら、参加者の多さにも頷けますね。
「なるほど……わたし達は特に考えてなかったですね……ゴリラさんとお話した時も、特に何も言われなかったですし……」
「ですねぇ、他に参加できそうなしゅもくがなかったのもありますけれど、面白そうでしたから……」
わたし達の言葉を聞いて「ふむん」と頷くおふたり。と、いきなり後から声をかけられます。
「わたし達も噂を聞いて参加したんです。ふわぁ……ゴリラさんのお話、本当ですか……?」
声の主はリオさんでした。
彼女はいつの間にかわたし達の後に立っていたようです。眠気から抜け出ようとしているかのように伸びをしてから椅子にちょこんと腰掛けます。
「えぇ、アルマーさんとセンさんからも何も……」
わたしの言葉にイエイヌちゃんも同意しましたが……どうにも皆さんは納得の行かない様子。
「んー……確かアルマーからそんな噂を聞いたような……? サイガは誰から聞いたの?」
「あたしは……誰だったかなー……噂でもちきりだったときもあったからな、忘れたな」
「わたしも……いつの間にか噂だけ広まってた……のかなぁ」
噂話って怖いですねぇ……。
皆して出処を気にしていないのも不思議ですけれど、「楽しそうならやってみる」というような信条の子が多いフレンズさん達らしいというかなんというか。それに海の方ではそんな話も聞きませんでしたし……興味や関心がそれぞれはっきりしているということなのでしょう。
「でも本当だったらワクワクしちゃいますねぇ……ね、ともえちゃん」
イエイヌさんもいつの間にか期待に満ちた顔つきに……現金な方ですこと……。
「ま、まぁ……そうですねぇ……トクベツって言われると、気になりますし……ハクトウワシさんが来たら、確認してみます?」
一同頷き、なぜかごくりと唾を飲み込む音が聞こえた気がします。……なんでしょう……? 『狩りごっこ』のときよりもずっと緊張感があるような気が……。この場を突如包んだ緊張感から離れているのは、わたしと、寝たままのイエネコさんだけ。
『食』という行為が彼女たちの中では結構な興味を持っていたり、優先される行為である……ということが知れただけでも……儲けもの……なんですかねぇ……?
それでも、緊張感は暫くすれば緩まり、お互いに自己紹介も兼ねた身の上話や世間話なんかを始めることになりました。わたし達の旅の話は、どうやら彼女達にとっても結構興味を引くものだったようです。リボックさんは「私も旅でもしてみようかなぁ」というような言葉を口にしてみたり、ゴリラさんが言っていたハーブティーの話にリオさんがわくわくした顔で詳細をせがんでみたり……。と、不意にサイガさんが口を開きます。
「でも、よくゴリラと話が出来るなー……」
気づかぬ内に起きていたイエネコさんも加わって、わたしとイエイヌちゃんはうんうん頷かれます。
「そ、そうなんですか……? てっきり怖い見た目だけど優しいって方かと……」
「いや、それはわかるのよ? ただ、なんて言ったら良いのかしら……いつも真剣な顔だし……話しかけにくいのよ」
多分、ゴリラさん、そういう顔って話だと思うんですけれど……ゴリラさんに失礼だと思い、それは口にしませんでした。
「ねー。おせっきょーされそうだしねー」
イエネコさんも同意するように腕を組んで頷きます。
「そもそもどこに行ったら会えるのかも知らないなー……」
「それは……ちょっとマズイんじゃないですか……? 困りません?」
リオさんの言葉に「ぜんぜんなー」と呑気そうに答えるサイガさん。そう言えば……。
「あの、リオさん。ゴリラさんって普段どこにいらっしゃるんですか?」
「えーっとね……あっちの方の林の山の方……でしたっけ?」
サイガさんはにやりと笑みを浮かべ、「リオもわかってないのなー」と楽しげにリオさんを茶化します。リオさんは何か言い返していたようですけれど、それを無視するような形で、リボックさんがわたしに言いました。
「リオの言う通りね。林と森を抜けて、その辺りだったはずよ。……まぁ、私も行ったことはないのだけど」
リボックさんの言葉を聞いて「ほらねー」と何故かイエネコさんが誇らしげに胸を張ります。
「なんでイエネコちゃんなんですかぁ……」
楽しげにイエイヌちゃんが言いました。それを受けて、イエネコさんはけらけらと笑い、それに釣られてリオさんも笑い出します。笑いの波は、わたしやイエイヌちゃん、リボックさんにサイガさん、皆を包んで、一層和やかな空気に――
「おまたせー。ジャパリまん持ってきたわよー……ぉ?」
ほぅと息をついてハクトウワシさんがテントの入り口をくぐります。
いつの間にか試合が終わっていたようです。その瞬間に、ジャパリまんという言葉もあってか、先程の会話が思い出されます。(わたしとイエネコさん以外の)緊張、再来……というワケです。
「な、なによ……? ど、どうかしたの……?」
一瞬で空気を察したハクトウワシさんは、部屋の中をぐるりと見回します。わたしとイエネコさん以外の皆さんは、じいっとハクトウワシさんを見つめ、時折、何かを牽制するかのように(もしかしたら『あなたが聞きなさいよ!』ということかもしれませんが……)お互いに目配せをしあって居ます。噂が本当かどうかはともかく、なんにしたってジャパリまんは逃げないでしょうに……。
「と、ともえ……さん? こ、これは……?」
呆れたような、困ったような、そんな笑顔と声が漏れていたのでしょう。ハクトウワシさんはわたしに尋ねました。
「えぇっと……食欲の……とりこ……?」
わたしが言葉を口にするよりも早く、雰囲気にいつの間にか飲まれきっていたイエネコちゃんが絶妙な言葉を言い放ちます。当たらずとも遠からず……というか、ほぼ正解じゃないですか。本当に寝てましたか? あなた……。
「どういうことなのよぉ!」
ますます困惑の色を強くするハクトウワシさんに、わたしは応えます。
「『狩りごっこ』の優勝賞品でジャパリまんがもらえるって噂がですね――」
わたしはハクトウワシさんに噂の概要を伝えました。すると、ハクトウワシさんはそわそわしながら口を開きます。
「と、とりあえず……座っても……?」
わたしは「どうぞ」と応じ、彼女の脇に椅子を動かします。椅子に座った彼女は「どうも」と言って、言葉を続けます。
「……はっきり言うけど、嘘よ、嘘。そんな話は聞いて無いわ。誰かがお昼にジャパリまんが配られるって言うのと間違えたんじゃないかしら?」
一同がっかりした様子……どなたかのため息交じりの吐息まで聞こえてきます。
「そうですかぁ……」
「残念です……」
「……まぁ、やるからには最後まで……でも……そうねぇ……」
この中でも割合に真面目そうな印象のある(ありますよね……?)、イエイヌちゃん、リオさん、リボックさんの落胆の様子を見るに、余程の期待を寄せていたのでしょうね……サイガさんに至ってはしゃがみこんで震えている位。そんなサイガさんの背中をそっと撫でるイエネコさん。
「はぁ、やれやれね……聞いても良いかしら?」
どこか見かねた様子で、軽くため息をついてハクトウワシさんが尋ねます。
「あなた達だけじゃなくて……皆その噂を信じてるの?」
その言葉に頷くのはわたし以外の皆さん。少しだけ遅れてイエネコちゃんも。
「一応、ゴリラさんに聞いてみるわ。用意できないか聞いてみるわ」
その言葉に皆さんは俄に活気づきます。
「あなた達の為ってワケじゃなくてね。そっちの方が楽しそうじゃない? 張り合いがあるってものよ。もてぃべいしょんの問題ってヤツね……」
「ホントな!?」
一番落ち込んでいたサイガさんが勢いよく顔をあげ、ハクトウワシさんにきらきらとした瞳を向けます。
「ま、まぁ、あんまり期待しないでちょうだい? 実現できるかはわからないもの」
あまり期待出来ないと彼女は言いましたが、それでも、何らかの報酬があるかもしれないという事実はそれだけでやる気が出てくるものです。良かったですね、皆さん。わたしだって、まぁ、可能性があるとなればそれはそれで楽しみです。むろん、わたし達が優勝出来ると確信しているワケでも自信が満ち満ちているワケでもなく、むしろ皆さんの士気が高まり、より手強くなってしまったかもしれないと少し怖いくらいなのですけど……。
「それに……ホントかウソかわからない噂を野放しにしてたこちらにも否があるわ。それにカタをつける。それだけよ」
なんとも真面目な方ですこと……。
妙にきりりとした表情なのも相まって、説得力があります。事実となるかどうかは、ゴリラさん次第ですけれど、ハクトウワシさんなりに動いてくれるということで、ジャパリまんの問題は一件落着……と思ったのですが、そう言えば今までとなにかが違います。
「……そう言えば、前の勝負に勝ったフレンズさんってどうしたんですか?」
わたしの質問に、ハクトウワシさんはまたまた呆れたようなため息をつきます。
「びっくりさせてやるって言って別のところに行ってるわよ」
んー……? ハクトウワシさんはわたし達にジャパリまんの入ったバスケットを手渡し、ぼやきます。
「はぁ、あの子のさぷらいず好きはどうにかならないかしら……? 好きなだけならまだ良いけれど、結構バレるというか読めちゃうのよねぇ……」
彼女も自分の分のジャパリまんをもぐもぐと食べ始め、それを見て釣られる様に皆、ジャパリまんをパクパクとし始めます。
「……あ、私、なんかわかっちゃいました……」
イエイヌちゃんは何かに気づいたようです。
「んっく……確かに、考えてみるとわかりやすいですよねぇ」
彼女はくすくすと笑い声を漏らしながら、ハクトウワシさんに言葉をかけます。
「あら……? 知り合い? というか……」
改めて周囲を見てみると、リボックさんとサイガさんも何やら理解した様子。
「そうよねぇ……そりゃ隠す意味無いわよねぇ……まぁ、大丈夫よ。あの子達も他の子の試合の様子は見てないから、そこは平等よ? 誰とぶつかるかも知らないはず。なんだか確信めいたこと言ってたけど……」
イエイヌちゃんの知り合いで、この辺りの子達の知り合いで、サプライズめいた事が好きなフレンズさん……?
「あー……なーるほど……」
彼女はうっかり過ぎるんですよ……あんな思わせぶりなこと言っておいて、今の今まで何があるワケでも無く……。ことココに及んでこれなんですもの。
「ともえちゃんも気づきました? コ――」
「やめときなさい。一応、アレでもバレてないと思ってるんだから……それに、気づいてなさそうな子も居るみたいだし」
ハクトウワシさんはちらりとイエネコさん、リオさんの方を一瞥します。彼女たちはと言えば、我関せずという様子でジャパリまんをもっくもっくと頬張っていました。
「あのう、次の試合まではどれくらいかかるんですか?」
リオさんがこくりと咀嚼するジャパリまんを飲み込んで、ハクトウワシさんに質問します。話題があっちゃこっちゃという具合ですけれど、彼女の疑問は当然のものでしょう。わたし達も黙って彼女たちのやり取りに聞き入ります。
「んー、そんなに長くないわよ。食事が終わったら、一旦あっちに戻るけど……次に来た時かしらね。ゆっくり待っててちょうだい」
リオさんは「わかりました」とひと言、そして食事に戻ります。『狩りごっこ』の熱気や、先程の緊張感なんかどこへやら。不思議な位穏やかなお昼休みです。休息と捉えても良いのでしょうし、あるいは最後の作戦を詰める時間と捉えても良いのかもしれません。無理してあれこれするよりも、後は最早やることをやるだけ……少し位はのんびりしましょうかね。
食事を終えたハクトウワシさんは「よっし」と呟き、立ち上がります。
「ゴリラさんと話をしてくるわ」
わたし達は皆、口々にハクトウワシさんにお礼の言葉を告げます。
「これを言うのもヘンだけど……頑張りなさいよ? 用意出来ても、勝たなきゃ意味ないんだから」
彼女の言葉に、わたしはついくすりとしてしまいます。
「あはは……がんばります! ね、イエイヌちゃ……ん……?」
イエイヌちゃんはと言えば、今の今まで重要なことを忘れていたというような表情。他の方々も同じように緊張を取り戻したように真剣な表情になります。わたしが周囲の空気に気圧され始めるとほとんど同時に、ハクトウワシさんは「ばーあい」と気楽そうに手を軽く挙げて去っていきました。
結局、場に訪れた空気は変わらず、わたし達はめいめいにグループごとに椅子に腰掛け、じいっと次の試合を待つこととなりました。時折、確認のようにイエイヌちゃんと言葉をひっそりと交わしましたりしましたし、他の子達も同じような具合でひそひそと話し合ったりなど……先程までの雰囲気とは変わりなく……そのまま(体感ですけれど)三十分ほどの時間が経過して、再びハクトウワシさんが訪れました。
「やっほー、喜んでいいわよー!」
にっこり笑顔な上、妙に上機嫌な彼女の様子に、わたし達は俄に色めき立ちます。
「景品、用意するらしいわよ、良かったわね!」
リボックさんはぐっとガッツポーズのような仕草を小さくし、相方であるサイガさんは両手を掲げて喜びの意を示します。イエネコさんとリオさんはお互いに黄色い声で喜びの言葉を互いに交わし、イエイヌちゃんはわたしと繋いだ手に力を込めます。
「っと、それはそれとして……次の試合ね。イエネコ、イリオモテヤマネコのペアとイエイヌ、ともえのペアよ。着いてきてちょうだい」
わたし達もイエネコさん、リオさんも揃って返事をし、立ち上がります。
「負けないからねー」
「ジャパリまんの為……ジャパリまんの為……」
イエネコさんは楽しそうに手をひらひらさせて、リオさんは自分を奮い立たせるようにつぶやいて、わたし達に先んじてテントを出ていきます。
「行きましょうか、イエイヌちゃん」
「はいっ! ともえちゃん!」
わたし達も、彼女達に続いて行きます。背後からはリボックさん、サイガさんから「みんながんばれよー」という言葉がかけられます。わたし達は、小さく振り向いて、微笑みながら頷き、感謝の意を伝えて、そのまま外へ――。
会場に入ったわたしは周囲を見渡します。たくさんの楽しげなフレンズさん達と、ざわついたような、歓声のような、おたけびのような、わいわいがやがやという地響きにも似た音とに、わたし達は迎えられます。最初の時と比べると、心に幾らか余裕が生まれたのでしょうか? だから周囲を見渡すことが出来たのかもしれません。
空は変わらず高く青く透き通り、白くちぎれて漂う雲はゆったりと当て所無いように、けれどまっすぐと進んでいきます。けれど、そんな穏やかな空とは裏腹に、早鐘を打つように鳴り響くのは、わたしの鼓動。わたしを取り囲む光景を眼に入れてしまい、一層の緊張をしてしまいましたが……
「がんばってねぇーともえちゃあーん!」
不意に聞こえる、聞き覚えのある声。ドードーさんでした。彼女の隣には、ロバさんも……。彼女たちに手を振り返すと、それに気づいたのでしょう、彼女たちもわたし達に両手を大きく降ってぶんぶんと返してくれました。応援してくれる方が居る。それのどれほど心強いことか。わたしは、きっと今ここに立たねば気づかなかったでしょう。
わたしは前に向き直り、歩みを進め……と、不意に遠くにゴリラさんの姿が、それもドードーさんとロバさんの背後に……って、チーターさんとプロングホーンさんじゃないですか。そのおふたりにゴリラさんはそっと耳打ちをします。気にはなりますけれど、何をしているのかを確認しようとするよりも早く、わたし達は会場の真ん中へ。
「それじゃ、挨拶!」
ハクトウワシさんの指示に従い、わたし達はお互いにぺこりとお辞儀をし、握手を交わします。自己紹介はお互い済んでいましたから、簡潔に……。
「じゃあ……お互いに離れてちょうだい」
試合の開始が、ほんの目の前にある。そう感じた瞬間、自分でも奇妙なくらい意識は集中していきました。
頭が真っ白になってしまうのでは無く、『何』を『どうする』のかを冷静に、客観的に考える、そんな意識が再び生まれていきます。姿勢と呼吸を整え、ひとつの瞬間を、わたしは待ちます。
「イエイヌ、ともえのペアから『攻め』よ。それでは、開始!」
甲高い笛の音がひとつ、鳴りました。