けものフレンズR ”わたし”の物語   作:むかいまや

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https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im9098445 より設定をお借りし、10話Bパート相当の物語を書きました。

そして明確に理解される私の苦手分野。
動きのある表現難しいよぉ、ふえぇ……

19/11/01 大規模?改稿。相談に乗っていただいた方、ありがとうございました!
20/06/15 改稿


10-2

 打ち合わせの通り、開始の合図が鳴るとまっすぐにイエイヌちゃんが駆け出します。

 わたしは早足で前へ進みながらイエネコさん・リオさんの様子を伺います。彼女たちは二方向に別れて会場の外側方向へ駆け出していました。イエネコさんが左側、リオさんが右側……さて、どちらから……イエイヌちゃんの方をちらりと見ると、彼女は中腰で駆け出しやすい姿勢をしたまま立ち止まり、イエネコさんの方へと視線が向いていました。

 ふむ……それが良いでしょう。わたしの考えですが、サバンナの景色に溶け込み、姿を見失いやすそうなのはイエネコさんの方に思われます。であれば先にイエネコさんから捕まえるのが適切……なのではないでしょうか?

 『左』とわたしは指示を出し、イエイヌちゃんに動いてもらいます。彼女がこくりと頷くのを確認し、わたしはイエイヌちゃんから少し離れた距離を取りながらイエネコさんの方向へ歩みを進めます。一瞬でしたが、イエネコさんの耳がぴくりと動いたのを、わたしは見逃すことがなかったのは幸運だったと言えます。

 リオさんの方向を見ると、彼女はこちらを伺うように一定の距離を保ったまま、ゆっくりと動いています。方向としてはわたしの後の方へとゆっくり、ゆっくり……。「私は狙われていない」からと言って油断をしないような、慎重な足取りでした。

 わたしはわたしで、彼女の位置をしっかりと頭に入れておかないといけません。今後の行動のためにも、そして、『作戦』が見抜かれるかどうかを確認するためにも……。彼女たちはネコ系のフレンズ。つまり音が……指示が聞こえている筈なのです。でしたらなるべく合図を出さず、如何に上手に動くか……それが重要です。イエネコさんは笛の音にぴくりと反応を示していましたし……何か気づいているかもしれません。少なくとも今回の『攻め』の間だけでも看破されないよう願います。

 

 イエイヌちゃんはイエネコさんの右側へと回り込むように走ります。背後の方向にゆっくりと摺り足をしながらこちらを伺っていたイエネコさんですが、イエイヌちゃんが彼女の方に走り出したのを受けて、イエネコさんはぴゅんと素早く駆け出します。イエネコさんは、イエイヌちゃんとすれ違うようにして、イエイヌちゃんから距離を取りました。

 わたしはふたりの動きを移動しながら見つめ続けます。イエネコさんはゆっくりと後退しながら距離を調整したり姿勢を直したりという具合に細かな調整をしていました。そしてイエイヌちゃんとの距離を十分に確保すると、再びこちらの様子を伺うように立ち止まります。

 少しペースを上げて移動しながら、わたしは考えます。どうやら、イエネコさんはわたしとイエイヌちゃんに挟まれないようにしている様です。でしたら……。

 わたしは『右』と指示を出します。いささか大雑把な指示ですが、わたしとイエイヌちゃんの間で決められたルールの内のひとつ。『ひとりのフレンズに付いたら、方向の指示はそちらから攻める』というものの為に混乱はあまり無いはずです。さて、踏ん張りどころです……! 思いついた作戦の成功は、わたしの体力にかかっているのですから、頑張らないと……!

 わたしの指示を受けたイエイヌちゃんは再びイエネコさんの右側方向に駆け出します。わたしは、イエネコさんがイエイヌちゃんとすれ違うように逃げないようにするために、一方向に全力で走り出します。それはイエイヌちゃんの背後方向。逃げる方向を塞ぐことでイエネコさんの取ることの出来る選択肢を潰す。それが作戦のために必要なのです。

 わたしが走っている間も、イエイヌちゃんとイエネコさんの追いかけっこは小刻みに進んでいきました。会場の端の方へと進んでいくイエイヌちゃんとイエネコさん。偶然かどうかはわかりませんが、彼女達の動きはわたしの狙い通りのものでした。

 わたしの狙い。それは会場の角に彼女を追い詰め(わたしかイエイヌちゃんかはともかく)捕まえるというもの。イエネコさんはわたしの動きも視界に入れていたのでしょう。わたしとイエイヌちゃんの間に挟まらないように挟まらないようにと動いてくれました。そう、つまりは――

 

 イエネコさんを会場の端まで追い詰めることが出来た、ということです。

 

 わたしは『左』とイエイヌちゃんに指示を出し、それと同時にわたしは再び全力でまっすぐ走り出します。壁がある訳ではありませんが、会場の端っこに居る以上、イエネコさんの動く方向は必然的に定まります。わたしとイエイヌちゃんの間をすり抜けるしか無いのです。

 会場の端っこにイエネコさんが居て、その左右両側から彼女に向かって迫るわたしとイエイヌちゃん。逃げ道はひとつ……。

 案の定、イエネコさんは全速力でわたしとイエイヌちゃんの間を通り抜けようとします。こうなったらもう指示どころではありません。わたしかイエイヌちゃんか、そのどちらかが彼女を捕まえようと、飛びかかります。

 イエイヌちゃんは大きく一歩を踏み出すように、かたやわたしはと言えば「間に合え!」と言わんばかりに彼女の進行方向へと飛びかかります。わたしは無意識の内に手を伸ばして……イエネコさんの服を掴むことが出来ました……!

 イエネコさんは身を撚るようにしながら飛び込んで回避を狙いました。けれど、イエネコさんは、目測を誤ったのか、それともイエイヌちゃんを警戒しすぎたのか……それは定かではありませんが、わたしのすぐ真正面に彼女の姿があり、奇跡的に彼女の服を掴むことが出来ました。 

 当然、わたしの動きはほとんど反射的な動き……要するに、考えもなく飛びかかり、掴んだのです。ですから、不格好にべちりと地面に転んでしまいました。けれど、そんな痛みなんかどこへやら、妙に沸き立つような心地がして、痛みはどこか遠くにあるようでした。とりあえず、顔を打ち付けなかったのは幸いです。

 

 イエネコさんが捕まったことを確認したハクトウワシさんが笛を鳴らします。イエネコさんは上手に着地をしたようで、しゃがみ込むような姿勢をしていましたが、笛の音を聞いて、そっと立ち上がります。わたしもイエネコさんの動きに合わせて、立ち上がります。

 一瞬の間を置いて、そこで聞こえたのは歓声。その音は、沸き立つわたしの心をより一層昂ぶらせるようなものでした。嬉しくて、楽しくて、何かがこみ上げてきそうな……けれど、そんな興奮もつかの間。勝負はまだ続いているのです。そのことを殊更に意識した瞬間、「次はどうするのか」という問題について、わたしの思考がめぐり始めます。

「っちゃー……がんばってねー! リオー!」

 イエネコさんは残念そうにしながら、ゆっくりと競技エリア外へ。リオさんはこくりと無言で頷くような小さい動作を見せてから姿勢を低くし、生い茂る草むらの中に身を潜めます。

 わたしはじっとリオさんの動向を伺いながらも、お腹に付いた砂埃を払い落とします。

「お手柄です! ともえちゃん! ……大丈夫ですか?」

「ふう、ふぅ……まだ、へーきです! 始まったばかりですし、リオさんを捕まえませんと……」

 わたしの下に小走りで近寄ってきたイエイヌちゃんに、わたしは首を振りました。

 まだ時間には余裕があるかもしれませんが、詳細な残り時間は判然としません。ここでおふたりを捕まえることのアドバンテージは無視できませんから、もうひと踏ん張り……何より、わたしが捕まってしまう可能性は極めて高いのですから……。

「はいっ! 指示、お願いしますね!」

 楽しげな笑顔でイエイヌちゃんは頷きます。ほとんどの労力を彼女に押し付けている作戦ですけれど、まだ彼女は息を乱すことも無く、普段よりも汗ばんだ位の事も無げな表情です。

 一方で、わたしはけっこー疲れてしまっていて……けれど、彼女に無理をさせるくらいなら、わたしが無理をする方がずっとずっと良いと思うのです。わたしはイエイヌちゃんの目を見つめて、言います。

「ふーっ……ええ、任せてください! イエイヌちゃん!」

 大きく息を吐き出したわたしを見つめるイエイヌちゃんの表情は、少しばかり心配そうなものでしたけれど、それも一瞬でした。彼女が前に向き直ったのを確認したわたしは、囁くように彼女に伝えます。

「イエイヌちゃん。とりあえずまっすぐリオさんに走って……笛を鳴らすまでは任せますけど……動きは細かめにお願いします」

「はいっ! わかりました! ともえちゃん!」

 こくりと頷いて彼女は駆け出します。わたしは小走りで彼女の後を追いかけ……と、ひとつ重大なミスをしたことに気づきました。思わず自嘲的な呟きが口から漏れ出てしまいます。

「リオさん……見失っちゃいました……」

 わたしはがくりと膝から崩れ落ちたくなってしまいましたが、ぺちぺちと頬を叩いて前に向き直ります。諦めてしまうような、そんな大きな失敗ではありません。時間だってまだあるはずですし、何よりイエイヌちゃんが居るんです。わたしひとりじゃ、ありませんもの。イエイヌちゃんを呼び戻すか悩みますが……

「イエイヌちゃーん!」

 わたしの呼びかけにイエイヌちゃんは立ち止まり、小さく振り向きます。わたしはイエイヌちゃんに手で大きくバツ印を作ります。伝わると良いのですが……こんなことなら、見失った合図を作っておくべきでした……。

 わたしの合図を受けて、イエイヌちゃんは、すんすんと鼻を動かすような仕草をして、右手を胸のあたりまで挙げました。そして、ばうとひと吠え。わたしはじっと手の指す先を眺めます。すると、草むらに紛れるように揺れる灰色のしっぽをかろうじて見つけます。見つけるや否や、その尻尾はすぐさま草むらにしゅっと引っ込められてしまいましたが、大雑把でも場所さえわかれば考えようはあります。

「……はーい!」

 わたしは手を振って彼女に応えます。

 今、わたしは特に指示を出すつもりでは無いのですけれど、この場で誰がどこに居るのか、それを理解することの重要性は大きいはず。このやりとりを決めていて本当に良かったですね……。

 イエイヌちゃんはわたしの返事を聞き取ると、そのまま向いている方向へと駆け出します。まもなく、追い立てられるようにリオさんが低くしていた姿勢を上げ、駆け出しました。聞く意味……あんまりなかったような……。

 その後のイエイヌちゃんとリオさん達の動きは、至ってシンプルなものでした。ただ、リオさんの動きは、内側方向へと大きめに移動しようというもののようです。イエネコさんが捕まったまでのことを含めての逃げ方なのでしょうか?

 また、幸いだったのは、イエイヌちゃんが細かく追いかける方向を変えてくれていたことです。イエイヌちゃんの動きのおかげで、わたしが再びリオさんを見失うようなこともありませんでした。

 とは言え……です。このままでは決め手に欠けます。であれば、指示を出して、流れを変えなくてはなりません。

 

 わたしがイエイヌちゃんまで残り数メートルというところまで近づいた時です。わたしがすぐ後に居ることを察したのか、イエイヌちゃんがまっすぐリオさんに駆け寄ります。リオさんはイエイヌちゃんの動きから逃れるように会場の左方向へと動きます。

「今……っ!」

 わたしは内心で呟き、全速力で駆け出します。そして即座にイエイヌちゃんへ『左』と指示を出します。イエネコさんの時――つまり外側へ外側へと誘導する動き――とは異なり、イエイヌさんにはリオさんを会場の外側から追いかけてもらう動き――つまり、内側へと誘導する動き――です。わたしの考えがもしも上手く行けば……。

 リオさんはぴくりと反応し、彼女の視線はイエイヌちゃんに注がれました。当然、彼女はイエイヌちゃんに追われるがまま、右側……要するに会場の内側へと駆け出します。加えて、会場の外側へ追い込まれないために、後方に移動はしないはずですし、わたしの存在を確認している以上、わたしとイエイヌちゃんの間を通るような逃げ方はしないはずです。

 つまり、結果的にリオさんはまっすぐ横に移動することになるのです。

 となれば……わたしは細かく方向を微調整しながらですが、まっすぐ走ります。リオさんはイエイヌちゃんから逃げることに集中した結果、わたしに気づくのが一瞬遅れました。彼女はわたしを数メートル先に認めた時、驚いた様な表情を浮かべ、急停止、そして進行方向とはまるで異なる方向へと飛び跳ねます。

 が、わたしに捕まらないような無理な動きをした所為か、その速度は決して早いとは言えませんし、姿勢を崩してさえいました。そして、そこをイエイヌちゃんが見逃す筈がありません。

 一瞬間にリオさんの逃げる方向、速度、姿勢……それらを確認したイエイヌちゃんは、全速力で駆け出しリオさんを冷静に追いかけます。風のようにびゅんと駆け出した彼女は、急な方向転換で姿勢を崩してしまったリオさんを捕まえることに成功しました。

 さすがのイエイヌちゃんですけれど、飛びかかるように動いたために、リオさんに覆いかぶさるような形になってしまいましたが……。

 

 ハクトウワシさんは、イエイヌちゃんがリオさんを捕まえたのを確認すると、笛を鳴らします。

「しゅーりょー!」

 まだ二回ある『攻め』の一回目が終わったばかりですが、ふたりを捕まえられたということに安堵し、わたしは息をつきます。そのまま、放心状態のイエイヌちゃんとリオさんの下へ。

「立てます?」

 わたしは両手を差し出します。彼女たちは揃って手を取り、立ち上がりました。

「ありがとうございます、ともえちゃん」

「あ、ありがとうございます……」

 彼女達はめいめいに身体の砂埃を払い落とします。

「まだ始まったばかりですからね……!」

 感謝の言葉も程々に、リオさんは負けじとひとこと。そして彼女はそのままイエネコさんのところへと駆け寄ります。それを横目で見てから、わたしはイエイヌちゃんに言葉をかけます。

「お疲れさまです。……最後、大活躍でしたね! さすがイエイヌちゃんです!」

 わたしが褒めると、緊張が解けたのでしょう、イエイヌちゃんはにへらっと表情を崩します。満面の笑みを浮かべる彼女の頭をわっしわっしとすると、ますます彼女は楽しげな表情になって……と、それもつかの間。イエイヌちゃんは表情をはっとさせて、恥ずかしげに(あと、多分名残惜しげに)わたしの手から頭を離しました。

「も、もおぉ……ともえちゃん、他の方も居るんですから……」

 いつもと逆の構図。ふとそんなことを思ってしまいます。

「あはは……ごめんなさい……」

 わたしは頭を掻きながら彼女に謝ります。

「嬉しいですけど、恥ずかしいですよぉ……」

 一拍置いて、彼女は真面目な表情に戻りました。

「『逃げ』ですけれど……どうしましょう?」

 わたしはちらりとイエネコさん、リオさんの様子を伺います。彼女たちも作戦会議の様子。ひそひそと耳打ちをしあっています。

「……そうですね……多分前回と同じで、イエイヌちゃんに全力で逃げてもらうことになるかと……」

 ヤブノウサギさん、ユキウサギさんの時は、わたしがまっさきに狙われました。その結果、ふたりのフレンズさんを相手にとってイエイヌちゃんは会場中を駆け回ることに……。

 結果から言うなら、『あの子達よりも速い』と言っていた通り、イエイヌちゃんは平気な様子で逃げて切っていました。ですけれど、イエネコさんとリオさんは、少し相手にしただけですが、おそらくあの子達よりも速いという点では間違いがなさそうです。

「わかりました! 任せてください!」

 イエイヌちゃんは事も無げに頷きます。

「体力とか……大丈夫ですか? 無理はしないでくださいね?」

 イエイヌちゃんは胸を張るようにしてふふんと鼻を鳴らします。

「へーきです! 自信ありますから!」

 そうは言いましても……。どういった作戦で彼女たちが来るのかはわかりませんが、イエイヌちゃんの負担はなるべく減らしたいところです。この後も『狩りごっこ』は続くワケですしね。

「もし、指示を出せそうだったら出します。その時は――」

「はいっ! 『逃げる方向』ですよね!」

 お互いに頷きあい……と、ちょうど折よく準備の笛が鳴ります。

「お互い、頑張りましょうね、イエイヌちゃん」

「はいっ!」

 まもなく全員が所定の位置に着き、開始の笛が鳴りました。

 

 さて、わたし達が今度は『逃げ』る番です。

 イエネコさん・リオさんの作戦は、どうやらイエイヌちゃんをふたりで追い、捕まえるというもののようでした。イエイヌちゃんは余裕有りげな雰囲気で駆け出し、彼女たちから距離を取り続けます。わたしは放置されてしまっているので、安心するような情けないような……。と、それどころではありません。イエイヌちゃんのサポートをしなくては……!

 心構えを新たに、わたしはじっと彼女たちの動きを見つめます。どうやら、リオさんが小刻みに動いてイエイヌちゃんを動かしているようで、イエネコさんは姿勢を低くしてイエイヌちゃんの隙を伺っています。

 まだ勝負が始まって時間はあまり経っていませんが、既に一度、イエネコさんはしっぽと身体を揺らす動きをしてイエイヌちゃんに飛びかかろうとしていました。この時はイエイヌちゃんが動きを読んでいたと言わんばかりの綺麗な回避をしていましたが……それも時間いっぱいまで続くかはわかりません。

 わたしはイエネコさん、リオさんとある程度の距離を保ったままですけれど、イエイヌちゃんの方向へと数歩近づきます。イエネコさんがちらりとわたしの様子を伺いましたが、すぐにイエイヌちゃんの方向へと顔を向け直します。そして、草むらの中に身を潜めるように姿勢を低くして、じりじりと歩みを進めていました。

「ふんむ……」

 こうして見てみるとイエイヌちゃんは会場のやや外側に居るようで、リオさんも意識的にイエイヌちゃんを外側方向へと動かしている印象があります。つまりわたし達がやっていた作戦と似通ったもの。意図的かどうかはわかりませんけれど、この場合、わたし達が行っていた作戦が参考になる……ような気がします。

「わたしがやられて嫌なこと……」

 それを行うことがこの場を切り抜ける正解だと、ぼんやりと思います。いえ、わたしの性格が悪いとかそういう……じゃなくて……そんなことを考えている間にもイエイヌちゃんは端へ端へと……。

 

 わたしが出すべき指示に悩んでいると、事態が急変します。

 イエネコさんが低い姿勢のまま、小走り気味にイエイヌちゃんの方向へ近づきました。そして、それを確認したリオさんがだぁっと駆け出します。これは、まずい。そんなぼやきが胸に浮かぶのとほとんど同時にイエネコさんがしっぽと身体を揺らし始めます。彼女なりの(……もしかするとネコ系の子たちの皆さんが、かもしれませんが)狙いの付け方でしょう。

 わたしはイエイヌちゃんに『後』ととっさに指示を出します。

 立ち止まることだけは避けなくてはならず、そして、イエネコさん、リオさんの動きが決まる前に全てをひっくり返さなくてはなりません。そして、イエイヌちゃんが逃げられる方向がこのままではある程度誘導されてしまうことを防ぐ……。イエネコさん、リオさんの考える方向とはまるで逆の方向へと指示を出すことが、正解のハズ。わたしの考えが正しいかはともかく、イエイヌちゃんに『後』と一瞬で判断できたことは事態の打開に繋がりうる筈です。

 イエイヌちゃんはわたしの指示を聞き取った瞬間に、少し減速し、方向転換。先程まで走っていた方向とは真反対の方向へと駆け出します。それを見たイエネコさん・リオさんはやや慌てたようで、イエネコさんはぽかんとしたように立ちすくみ、リオさんはイエイヌちゃんの急な方向転換に判断が追いつかず、そのまま走り抜けてしまいます。どうやら、わたしの指示は正解だったようです。

 

 イエネコさん・リオさんは、急な事態に混乱しながらも、それを解消する為でしょうか? お互いに近づいてこっそりとお話を始めます。彼女たちの様子は、しきりにわたしとイエイヌちゃんを交互に見比べるなど、遠目に見ても焦りのようなものが見受けられました。

 対策が取られてしまうかも……という内心のはらはらとは裏腹に、イエイヌちゃんは楽しそうな表情でわたしの近くへと駆け寄ります。

「ともえちゃん! ありがとうございます!」

「いえいえ、とっさでしたけど……上手くいってよかったです!」

 イエイヌちゃんはイエネコさん・リオさんに注意を払いながらも立ち止まり、ほぅとひと息つきます。

「これからもしかしたら彼女たちの作戦が変わるかもですから、また同じようには出来ないかもしれません」

 イエイヌちゃんにわたしは危惧していることを伝えます。

「それに合図を出してるということでわたしが狙われるかも……」

 わたしの言葉にイエイヌちゃんは苦笑いを浮かべました。

「うーん……でしたら――」

 と、イエイヌちゃんの言葉が繰り出されるよりも先にイエネコさん・リオさんのふたりが動き出します。

「あー……後で大丈夫です!」

 わたしは無言で頷き、イエイヌちゃんから離れます。イエイヌちゃんは待ち受けるように中腰の姿勢になり、じっとふたりを見据えます。

 イエネコさん・リオさんのおふたりの動きが少し変わりました。

 リオさんが息もつかせぬ走りで追いかけ、隙を見つけてイエネコさんが飛びかかるという形には変わりのないものでしたけれど、イエネコさんが先程よりも大き目にイエイヌちゃんと距離を取り、且つ、わたしのことも狙うようにしきりに警戒するような仕草を取っているのです。おそらく……残り時間を意識した動きでしょう。読みが合っていればですけれど……。

 

 リオさんの速度に負けず劣らずのイエイヌちゃんは上手に逃げ回っています。多分、彼女を混乱させないためにも、わたしの『指示』はイエネコさんの動きにのみ注視して、必要に応じて出すべきでしょう。

 はっきりとはわかりませんけれど、恐らく『逃げ』の時間はまだ半分程度が経過した程度の筈。まだまだ気を引き締めて行かないと……!

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