週1更新はしんどいかなぁとなり始める。頑張るけども、けども。
20/06/15 改稿
……わたしはイエネコさんに捕まってしまった為、競技場の外から祈るようにしながらイエイヌちゃんの逃走劇を見つめていました。空から会場を見つめるハクトウワシさんが、おもむろに顔を動かして会場から視線を外します。そして――
「しゅーりょー!」
ハクトウワシさんが大きく笛を吹き、大きな声で叫びました。続けて、大きな歓声が会場中に響き渡ります。それらは、わたし・イエイヌちゃんとイエネコさん・リオさんとの『狩りごっこ』が終わったことを告げる音達です。会場から沸き起こる歓声に気を配る余裕なんて、わたしにはありません。わたしは疲労を訴える身体を無視して、イエイヌちゃんにだぁっと駆け寄ります。
「お疲れさまです! イエイヌちゃん! 勝てましたね!」
言葉を口にするが早いか、それとも彼女を抱きしめるのが早いか……それはともかく、わたしは思わずイエイヌちゃんを抱きしめてしまいました。
「わふっ! ……はい! 勝てました! ともえちゃんのおかげですっ!」
イエイヌちゃんはそのままわたしの身体に自分の身体を預けてくれました。
駆け回った為に上がった彼女の体温も、ほんの少し汗ばんだ身体も、そのどちらも勝利のために果たした彼女の労力の代償と思うと、一層嬉しく、愛おしいものに感じられます。
「あー……負けちゃった……ともえちゃんは捕まえたんだけどなぁ……」
「どんまい……イエネコちゃん……イエイヌちゃん、先に狙ったほうがよかったのかも……」
リオさんは項垂れるイエネコさんの肩に手を添え、励まします。けれど、どこか彼女も残念そうな声色。
彼女たちは三戦目ではわたしを優先して捕まえるようになりました。そして、案の定、わたしはすぐ捕まってしまったのですけれど……イエネコさん、リオさんがおふたり揃ってわたしを追いかけた為、イエイヌちゃんが自由になってしまいました。その所為かイエイヌちゃんはその度に体力を回復することが出来ましたし、イエネコさん、リオさんの動きを見てから行動を始めることが出来ました。
もちろん、そういった理由だけでなく、イエイヌちゃん自身が頑張ってくれたおかげですけれど……結果として、彼女は見事に二戦目、三戦目とも逃げ切ることに成功したのです。
ふぁさりとハクトウワシさんが着地し、ゆっくりとわたし達に近寄って言います。
「ともえも戻ったわね。じゃあ、両チームとも、握手!」
ハクトウワシさんが促し、わたし達は皆で握手を交わします。
浮かべた顔は、みなそれぞれ違いました。わたしとイエイヌちゃんは楽しげな笑顔で、イエネコさんとリオさんは残念なような悔しがるようなそんな顔で……けれどお互いに「やれるだけのことはやった」という思いは共有されているように思われます。
握る手を離して、わたし達は向かい側に立つ相手と視線があいます。
「お疲れさまー……悔しいけど、この後も頑張ってねー」
「コヨーテさんのチームか、リボックさんのチームでしょ……? どっちも強いから、頑張ってくださいね」
イエネコさんも、リオさんも、おふたりとも悔しげな声色でしたが、先程の悔しげな表情ではなく、晴れ晴れとした表情で言いました。
「えぇ……大変でしょうけど……ありがとうございます!」
「はい! 目指すはゆうしょーですから! 応援しててくださいね!」
わたしもイエイヌちゃんも、勝利の喜びを噛み締めつつも、相手をしてくださったおふたりに感謝の言葉を述べます。ハクトウワシさんはうんうん頷いて言いました。
「ふた組ともお疲れ様。見てて楽しかったわよ。……じゃあ、イエネコとリオはトクベツ席があるからそっちへ行ってちょうだい。案内はフウチョウのふたりがするわ」
いつの間にやらイエネコさん、リオさんの背後に真っ黒な鳥のフレンズさんが降り立っていました。
「んにゃっ……!」
イエネコさんは飛び跳ねながら振り向き、驚きの色を示し、リオさんはぼんやりと首だけ振り向きました。フウチョウさん達(……おふたりとも別のフレンズさんですよね?)は微笑みながら軽く会釈をして「行くよ」とひとこと。イエネコさんとリオさんは彼女たちの案内に従って競技場の外へと歩いていきました。
「……で、ともえとイエイヌね。テントへ戻るわよ」
ハクトウワシさんはイエネコさんとリオさんが歩いていくのを見てから、わたし達に告げました。
「はい!」
そうして一回戦目と同じように、彼女に連れられて会場を出ます。
わたしは会場を抜け、テントへ戻る道すがら、『狩りごっこ』のことを思い返します。
二戦目の『攻め』。その時、わたし達は一戦目と同じようにイエネコさん・リオさんのおふたりを捕まえようとしました。結果的に、リオさんだけ捕まえることが出来ました。
というのも、わたしがリオさんを捕まえるために考えた作戦に一度失敗してしまいました。一戦目と同じく、外側へ追い詰めて、捕まえるという流れでしたのですが……わたしの動きよりも早くリオさんが逃げたのです。これは『作戦のミス』というよりも、考えた作戦にわたしの身体が追いつかなかったということなのかもしれませんが……。その為、態勢を整える必要が生まれました。
その後、リオさんを捕まえることは出来たのですけれど……イエネコさんを捕まえるだけの時間はありませんでした。もちろん、合計得点は三。勝利に一歩近づいたとは言えるのですけれど……。
試合に大きな変化が起きたのは二戦目の『逃げ』の際のことです。前半はイエイヌちゃんを追うものでした。その時、イエイヌちゃんにわたしは一度、『指示』を出しました。その『指示』を受けて、イエイヌちゃんはなんとかイエネコさん達の攻撃から逃れることが出来たのですけれど……その直後に彼女たちは軽く話し合い、こくりと頷いたのです。
そして、ふたりしてわたしを追いかけはじめました。……最初の内はイエイヌちゃんから指示を受け、逃げていたのですけれど、その指示を先回りするように彼女たち――特にリオさん――が動き、わたしはてんやわんやの様相に……。その内にいつの間にかわたしの視界から消えていたイエネコさんが飛びかかってきて、わたしは捕まってしまいます。次はイエイヌちゃん……と彼女たちが追いかけ始めようとしたところで、二戦目が終了となりました。
会場から少し離れ、最初に待機していたテントの前へとわたし達は到着しました。
「そう言えば、ともえちゃん……」
イエイヌちゃんが尋ねます。
「はい、なんでしょう?」
振り向いて見ると、眉間にシワを寄せて悩む彼女の姿がありました。
「やっぱり合図はわかりやすいんですかね……?」
「あー……わたしも同じこと考えてました……」
というのも、三戦目の『攻め』の件が問題なのです。
三戦目の『攻め』、特に前半ではわたしが出す合図そのものを理解していたかのように、彼女たちが動いていたのです。そのため、もうひとつ、前もって決めていた作戦を実行しました。その作戦とは、指示の内容を全部ひっくり返すというもの。つまり、『右』という指示はその音の組み合わせそのままに『左』。『前』という指示はその音の組み合わせそのままに『後』というものです。
「うーん……三戦目まではバレなかったワケですし……多分大丈夫だとは思うのですけれど……」
わたしはイエイヌちゃんにそう言ったのですけれど、自分でもなんとも承服しかねる気がします。
「……『逆』にしたらなんとかなりましたしねぇ……」
そういうイエイヌちゃんも発言の内容と内心とは異なっていそうです。何故って、彼女はまだ眉間にシワを寄せたままなんですもの。
「決勝でどっちが当たるのかはわかりませんけど……リボックさん達だったらきっと『聞こえない』とは思うんです」
わたしの言葉にイエイヌちゃんは頷きます。そして悩ましげに口を開きました。
「でも、コヨーテさん達……どなたと一緒なのかは知りませんけど……だと多分すぐバレちゃいますよね……」
「そうなんですよねぇ……」
『逆』にするという行為は、言ってしまえば嘘をつくという行為ですから、少しばかり気が引けてしまいます。それに……
「コヨーテさんだったら、すぐに見抜いちゃいそうですし……」
わたしの言葉に、イエイヌちゃんも「うーん……」と悩ましげな声をあげます。
イエネコさんとリオさん。そのおふたりだって、『逆』になっていることはすぐに見抜きました。けれど、試合の残り時間の短さや、混乱している間に捕まえるという電撃作戦が功を奏し、対策を取られるよりも先に『攻め』を終わらせることが出来たのです。
「……あなた達そんなことしてたの? 何かしてるのはわかったけれど……そういうこと……」
ハクトウワシさんが怪訝な顔でわたし達に振り向き、尋ねます。
「あはは……」
咎められるのでは、と思ったわたしは困った声を漏らしていしまいます。そんなわたしをかばうように、イエイヌちゃんが弁明してくれました。
「そ、そうですけど……一応、ゴリラさんには話をしてます……」
緊張した具合でしたけれど。
「あら、そうなの。別にどうこう言う気も無いけれど……合図なら、あの子達だってしてたもの。気づかなかった?」
思わず、わたしは「えっ?」と聞き返してしまいました。
「あぁ、気づかなかったのね。イエネコが攻めるタイミング……でしょうね、しっぽを揺らしてたじゃない?」
「あー……そういうことですか……」
度々しっぽを揺らしていたのは、確かに確認しています。
「てっきりイエネコさんのクセなのかと……」
「身体はいつも揺らしてましたけど、しっぽは……どうでしたかね……」
イエイヌちゃんがちょっとだけくすりと言う声を漏らしてから、言いました。
「大体ネコ系の子ってあんな動きするわよ? 見たことは無いけど、アムールトラも同じことするんじゃないかしら」
あんなにむっつりとした、強そうな方が……? 本当でしょうか? わたしは思わず身体を揺らしてから飛びかかるアムールトラさんを想像して小さく笑い声が漏れてしまいました。
「ともえちゃん、失礼ですよ……?」
「えぇ、そうですよね……」
って、イエイヌちゃんだって軽い笑みを浮かべているじゃないですか……!
「まぁ……聞いた話じゃ、アムールトラは『良いハンター』ではあっても、『狩りごっこ』は苦手らしいわよ?」
ハクトウワシさんも、わたし達と同じように笑みを浮かべて……って、そっちはなんとも想像がつきません。
「そうなんですか? てっきり最強の存在……的な方かと……」
「あくまで『聞いた話』よ? 誰から聞いたかしら……」
ハクトウワシさんはそういって考え込んでしまいます。歩みこそ止めてはいませんが……。
「案外、ゴリラさんだったりして……」
なんて、イエイヌちゃんがぼやきます。真偽を確認する気は無いのですけれど、少しだけ興味が湧いてしまいますよね、こういうお話って……
「どうだったかしらねぇ……と、着いたわね。じゃあ、ここで待っていてちょうだい」
わたし達の先導をするハクトウワシさんは立ち止まり、テントを指差します。そこは一番最初に待機していたテントです。それはもう、どなたも居ない、空っぽのテント。
「中はもう誰も居ないわ。のんびりしててちょうだいね」
ハクトウワシさんはテントの入り口を開き、わたし達に中に入るよう促します。
「……今日はありがとうございました、ハクトウワシさん」
これはイエイヌちゃん。
「本当に……おかげさまで楽しかったです、一日、お疲れさまでした」
これはわたし。ふたりして言葉を告げて、その後にぺこりとお辞儀をしました。わたし達の言葉にちいさく「ふふっ」と笑ってから、ハクトウワシさんは口を開きます。
「どういたしまして。ふふっ、ぼらんちあの報酬よね、きっと、これは……ありがとう、ともえ、イエイヌ」
よくわからないことをぶつぶつ言った後、一拍置いてから言葉を続けます。
「でもね、まだ早いわよ? まだけっしょーせんだって残ってるのだし……頑張りなさい?」
わたし達は彼女の言葉に「はい!」と返事をします。その様子を見て彼女は満足そうに頷きました。
「そうそう、その意気よ。それと、もうひとつだけ……これは私の願望よ? だから本気にしなくても良いのだけど……」
ハクトウワシさんは「うーん」と考え込むような仕草をします。
「ど、どうかしました?」
「あなた達……というよりもイエイヌね。本気出してないでしょう?」
彼女の言葉に、わたしはなんとなく納得するような感情を抱きます
「……えぇっとですね、その……」
イエイヌちゃんはどこか困った様子です。
「本気出してないというよりも……その、指示や作戦のおかげです……手を抜いてるとかそういう訳じゃ……」
あぁ、なるほど……。
「そういう事……。じゃあ私があれこれいうことも無かったわね、ごめんなさい……そうね……」
再びハクトウワシさんは少しだけ考え込みました。
「イエイヌの全力に合わせるともえとか、そういうのを見てみたいって思っただけなのよ? ごめんなさいね。ともかく、頑張ってちょうだい。時間になったらまた迎えにくるわね。じゃあ、また後で!」
彼女はそう言って飛び立ちます。わたし達はそれを見送ってテントの中へ……。
テントの中には彼女の言葉の通り、誰もおらず、また、椅子がふたつ用意されていました。太陽が頂点から降り始めたからか、少しだけ伸びた陽射しがテントのメッシュ地の窓から、ぼんやりとした淡い影を生み出しながら中に差し込んでいます。大自然の中から切り取られた、ふたりだけの空間、なんて柄にもないことを考えてしまったりなんかして……。
「ふぅ……緊張が抜けちゃって、なんだか急に疲れちゃいました……」
わたしはぼやきながら、椅子に腰掛けます。イエイヌちゃんはわたしの言葉にくすりと笑いながら、わたしの同じように椅子に腰掛け、ひとこと。
「寝ちゃいますか?」
「うーん……どうしましょう……考え事もしたいところですけれど……」
待機時間の残りはそこまで長くないはず。長く見積もっても三十分くらい……。その間に考えられることなんてたかが知れていますけれど……かと言ってお昼寝というのも……。
「作戦を考えたりとか……しようかなとは思いましたけど……うーん……」
「大丈夫です。きっと……よいしょっと」
イエイヌちゃんは微笑みながらわたしの帽子を外します。
「考えすぎちゃうのも良くないです、多分ですけど……それに、さっきのお返しもしたいんです……」
今度は上目遣いでわたしに頼み込むような仕草をしました。
「お、お返し……?」
はてさて、とわたしが考えようとすると、イエイヌちゃんはじれったそうに自分の太ももをぽんぽんと叩きます。
「な、なんです……?」
「もう、ニブいですね……こうです、こう」
彼女は少しだけ頬を赤くして……って、きゃあ……!
「わ、私だって、たまには甘えられたいんです」
消え入りそうな声で、彼女はわたしの頭を撫でます。そうですとも、わたしの頭は今、彼女の太ももの上。所謂、膝枕をされているということ。
「さ、さっきのお返しってそういう……」
わたしは照れを隠すように納得したように彼女に言います。けれど、彼女はわたしの思いを知ってか知らずか、わたしの頭を撫で続けます。
「えぇ、誰も、いませんから」
今度はどこか強がった口調。なるほど、意趣返し、という訳でしょうか。わたしは「誰もいなければ良かったのか……」とツッコミをしようかとも思いましたが、やめました。
「……ここまでされたら、仕方ないですね。ちゃんと起こしてください?」
「えぇ! 任せてください!」
わたしはイエイヌちゃんの手のひらの温もりと、太ももの柔らかさに負け、瞳を閉じます。一層強く感じる、優しげな手付き、柔らかな中に少しだけ高い熱を帯びた彼女の身体……。彼女の香りなのでしょう、太陽の匂いとわたしはかつて形容した記憶がありますけれど、それに混じるどこか甘い匂い。愛おしく、大切で、どこか懐かしいような……心が溶けてしまいそうな位です。
あぁ、何という幸福でしょう。今日を通しての疲労がどっと押し寄せるように感じられ、わたしはするりと微睡みの中へ……重いくらいの瞼、真っ暗な視界をに差し込む柔らかな陽射し、側頭部を撫でる手の優しさ……何もかもがわたしを誘惑していました。わたしは抗いきれません。
意識がなくなる寸前に思い出されたのは、先程のやりとり。ハクトウワシさんが申し訳なさげな口調で言った言葉。 それらはわたしに取って、どこか重要な意味合いを持つように感じられました。『わたしの指示のおかげで』とイエイヌちゃんは言いました。
けれど、裏を返すならば、もっと上手くやれるということなのです。『逃げ』の際はともかくとしても、『攻め』の時、イエイヌちゃんが全力で動くならば、きっと、もっと、ずっと……それが出来ないということは、わたしが彼女の足枷になっているということで……それはきっと事実で……わたしは、どうすれば――
「おやすみなさい、ともえちゃん」
意識の片隅で、彼女の声が聞こえました。本当に優しくて、心の奥底から愛情を込めているのが、わたしでさえわかる。そんな声……。
――――――
――――
――
「――せーっ! ってあら……」
「……しーっ」
緩やかに、けれど唐突に浮上する意識の中、声が聞こえます。
「もう少しで終わるから来たのだけど……お邪魔だったかしら?」
「あ、いえ……そこまででは……」
起きないと、ですね……。
「う、ん……」
「あぁ、大丈夫よ、まだ余裕あるもの。寝てて平気」
優しげに諭すような囁きにわたしは従います。
「ぁい……ん……」
わたしは柔らかで暖かなモノにきゅうっと抱きつきます。それがなんなのかなんて気にせず、ただ、そうしたいから。
「……!」
それが少しだけ跳ねましたけれど、わたしは気にしません。
「あらあら……」
くすりと笑う声が聞こえて、再びわたしは――
「時間ですって、起きてください、ともえちゃん」
わたしはイエイヌちゃんの声で、目が覚めました。
「ふぁ……おはようございます……イエイヌちゃん……」
「はい、おはようございます、えへへ……」
どこか照れたようなイエイヌちゃんの顔を見て、視線を動かすとハクトウワシさんがいました。
「さしずめすりーぴんぐびゅーてぃーってところかしら? ふふっ、会場に行く時間よ? 平気?」
意味を捉えかねる言葉を彼女は度々発言しますけれど、流石に今回はわかりました。
「そ、それは言い過ぎじゃないですかね……」
わたしはハクトウワシさんの言葉を否定して、立ち上がり、伸びをします。姿勢が姿勢だったので、どこか身体がこわばってしまったような……。そんなわたしのマネをするように、イエイヌちゃんも立ち上がって伸びをしました。
「んーっ……ふぅ、私はだいじょーぶです!」
「わたしも行けます!」
わたし達の言葉にハクトウワシさんは頷いて、歩きはじめます。
外界の光に、わたしは目をくらませながらも進みます。
外は相も変わらず風は無く、穏やかそのもの。遠くにははっきりと山が見え、その稜線が空を切り取る様は、まさに偉大としか表現のしようがありません。けれど、どこかぼやけた空と大地の境界線は、薄目を開けてこれから起こるであろう戦いを見届けてくれているようで、わたしは何故だか背筋をしゃんとさせてしまいます。しばらく歩いていると、イエイヌちゃんがわたしに尋ねます。
「あの、すりーぴんぐびゅーてぃ……? ってなんですか?」
「あぁ、それは――」
わたしが答えようとすると、ハクトウワシさんが愉快そうに説明しました。
「おとぎ話よ。眠った綺麗な女の子にキスをする話」
なんともざっくりした要約ですけれど……大筋というか、オチとしては間違いでないような……? いや、間違っている気がします……。
「ほ、ほえぇ……わたしが、ともえちゃんに……はえぇ……」
イエイヌちゃんはハクトウワシさんの説明で思い当たる節があったのか、それともその様子を想像したのか、果たしてわかりようも無いのですけれど……。
そのまま上の空になったイエイヌちゃんと手を繋いで歩きます。なんとも緊張感のない状況ですこと……。まもなくフレンズさん達の背中が目に入り、いやにしんとした、不思議な空気を、わたしは感じました。
「あの、イエイヌちゃん?」
「ま、まだ早い、です……!」
えぇっと、何が……?
「……? いえ、そろそろ会場着きますよ?」
わたしの言葉にイエイヌちゃんははっとした様子になります。そしてわたしと繋いだ手をほどいて、彼女は頬をぺちぺちと叩いて気を取り直します。
「し、失礼しました……も、もう大丈夫です……」
「……さっきのハクトウワシさんのお話の所為なんでしょうけど……もし具合が悪いなら、無理しないでくださいね?」
わたしが尋ねると、イエイヌちゃんは首を振ります。
「い、いえ、体調はへーきです……ちょっとへんなこと考えちゃって……」
「な、なんだか聞かないほうが良さそうですけど……何を考えてたんですか?」
イエイヌちゃんは顔を真っ赤にしながら先程よりも勢いよく首をぶんぶんと振ります。
「な、なんでもないです!」
「……へんなイエイヌちゃん……」
くすりと笑って、わたしは彼女の手を引きます。
「さ、行きましょう? これで最後ですから、気を引き締めて行かないと……!」
イエイヌちゃんは「はい!」と頷いて、わたしの後に続きます。ハクトウワシさんが、振り返ってわたし達を待っていました。小走りで追いつくと、彼女は「どうしたの?」と尋ねること無く会場の中へ入ります。
怯えることも、竦むことも無く、足を前へ、前へ……会場の真ん中へ、わたし達は着きます。目の前には――