けものフレンズR ”わたし”の物語   作:むかいまや

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https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im9098445 より設定をお借りし、書きました。

20/06/17 改稿


13-0

 身体が重い。視界がぼやける。耳鳴りの様な甲高い音で何も聞こえない。身体の感覚が、無い。時々見る夢に似たような、冷たい気だるさ。これは、夢なんでしょうか? 

 ですけれど、冷静に目の前のそれを見つめるわたしは居て、そして、失いつつある感覚が、わたしの意識を明瞭にさせようと、鈍く身体を刺激します。苦しい。まるで肺の空気が全部抜かれたような感覚です。すぅっと大きく息を吸い込もうとして、吸い込めません。だから、ゆっくり、ゆっくり空気を……。

「――うご……かな……」

 言葉にならないうめき声を絞り出して、ここから動けとわたしがわたしに命令します。えぇ、きっとそうなんでしょう。でも、動かないんですもの。諦めたいくらいでしたけど、動かないと。

 

 あたしはセントラルにお買い物に行きました。

 

 わたしはそれでも動こうとして、腕を動かします。けれど、力の抜けたそれはしっかりと地面を掴みませんし、じっとりとして不快でした。冷たい塊。しびれているかのような感覚。かろうじて動いているだけの腕。そこに意味なんてきっと見いだせないでしょう。動かないと……ここにいちゃ、だめ……。

 

 ご飯の材料を買って、その後……

 

 鈍痛が少しだけ強くなりました。脈打つように広がっていく痛みが不思議で、わたしはお腹に手を当てます。やっぱりじっとりしています。どうして手やお腹が濡れているのでしょう? なんでお腹が痛いんでしょう? 疑問に思ったわたしは、困惑しながら手のひらを見ます。首は殆ど動かず、眼を動かしてお腹の方を見て……。ぐるぐる回るような視界の中、見えたのは色だけ。真っ赤でした。

「……いっ……ち……。ち……?」

 なんで真っ赤なんでしょう? ぼやけた視界さえ、しっかりしてくれれば、もう少し周りがわかるのに。

 痛みが激しくなります。ゆっくりと、ゆっくりと全身の感覚が戻ってきます。ひとつ痛みが脈打てば、ひとつ何処かがはっきりしてくる。けれど頭はぼんやりしたまま。ぐわんぐわんと轟音が頭の中で鳴り響いているようでした。

 頭が、首が、胸が、腕が、手が、お腹が、腰が、腿が、脛が、足が、ぜんぶが、いたい。思わず漏れ出るうめき声と一緒に、不快感が込み上げました。口の中がしょっぱいような酸っぱいような、不思議な味で満たされているのです。眉間の金属のように冷たい痛みや、お腹のひりつくような痛みや、手のひらの刺すような痛み、そんな何もかもよりも先に、口の不快感をどうにかしたくて、口の中に溜まった物を吐き出そうとします。嘔吐に似た痛みと酸味を感じました。けれど、それがお腹から込み上がって来たものかもわからない。

「っ……へぇっ……ぅえぇっ……」

 情けない音を出して、首を横にして、口を開くとそれが漏れ出しました。けれど、口の中にはそれがまだいっぱい残っているようで、全身の痛みを我慢して、えづくようにして吐ききって、ようやく少し楽になりました。

 灰色と茶色の、薄汚れた視界の中に、赤い花。ぐるぐる回るような視界の中で、見えるのは色だけ。

 込み上げてくる不安と吐き気。

 だから?  それとも、痛い? つらい? 苦しい? 疲れた? 力が入らない? わたしはそっと瞳を閉じます。

「い……え…………ちゃ……?」

 届くでしょうか? かろうじて口から出た雑音に意味を見出してくれるでしょうか? 助けを乞うのでは無く、居てほしいから、彼女の名前を呼ぶんです。わかってほしい、通じて欲しい。それさえ叶うかわかりません。

 

 お父さんのシャツを買うんです、あたし。セントラルに新しくお店が開いたから、そこで……あなたと……。

 

 音は何処かに届いたようでした。重力に抗えず垂れる手に何かが触れました。それが温かいのか冷たいのか、彼女なのかそうでないのか、それもわかりません。けれど、彼女なら、嬉しい。

 

 プレゼント……お父さんは喜んでくれるでしょうか?

 

 もう一度口からソレを吐き出します。

 

 お父さん、たばこ辞められたんですもの、ごほうびです。

 

 今度は、もう雑音さえ出ません。目を開けて、手に触れるものを確認します。彼女でした。

 でも、彼女がわたしの手を握ってくれているから、一層の痛みが込み上げてきます。「ありがとう」そう言いたいのに、口から漏れるのは泣き声かうめき声か、それとも空気の音か。

 言いたい言葉はいっぱいあるのに、けれど音にできる思いなど欠片もなく。痛みを訴えて彼女を心配させたくないから、頑張っているのに、報われない。せめてもうひとことくらい、伝えたい。頑張って頑張って、絞り出します。

 

 お父さん、赤い煙草を吸ってましたから……赤色?

 

「いろ…………どう、し……ます……?」

 感謝の言葉では無く、口から出たのはそんな言葉。だって、シャツを買うんです、あたし。でも、色。お父さんは「もえが選ぶならなんでも」って……わからないんですもの。だから、イエイヌちゃんに聞いて決めようって思ってたんです。今、ようやく聞けました。

 

 ふっとろうそくの炎が消えました。それで、部屋は真っ暗。

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