けものフレンズR ”わたし”の物語   作:むかいまや

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https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im9098445 より設定をお借りし、2話Cパート相当の物語を書きました。

進行速度遅い……遅くない?

4月14日 加筆。
20/06/08 改稿


2-3

 おうちに帰る頃にはあたりは完全に真っ暗になっていました。外は日が沈んでいるためか少しばかり冷え込んでおり、朝と同様、肌寒さを感じるほどでした。わたし達は今朝と同じように、「ただいま」といいながらおうちに入ります。

「ともえさん、もうちょっとしたら、ご飯にしましょう」

「はい、わかりました」

 わたしはベストを脱いで、クローゼットにしまいます。『おうち』の中は不思議なことに暖かく、ベストを着ている必要が無いように思われたためです。

「不思議……暖房? でも音はしませんし……」

 イエイヌさんは手洗いを済ませて椅子に腰掛けます。

「どうかしました?」

「い、いえ……」

 イエイヌさんに聞いても判らない気がしますが……

「イエイヌさん。このおうちって暖房とかってあるんですか?」

「だんぼう? 何です? それ」

 わたしは簡単に説明します。部屋の温度を上げるための機械。要するにこういうことでしょう。

「きかい? うーん……」

 イエイヌさんは首を傾げます。彼女の場合は特にでしょうけれど、フレンズさんたちはヒトが作った『何か』を利用しているだけで、その機能や運用には意識が向けられていない気がします。もしかしたらその『何か』は普通では気付くことが出来ないようになっていたりするのかもしれませんが……益々ジャパリパークという存在が理解できなくなってきて、疑問や疑念、違和感。そんなものが胸中に沸き起こります。

 何故ジャパリパークという存在が生まれたのか、ここの歴史はどういったものか……『あの場所』にしてもそうです。あんなにも厳重な施錠が施されていたのです。あそこは極めて重要な場所であった筈です。しかし、何故、あそこを利用する人も、維持する人も、警備する人も、居ないのか。この世界についてわたしの知る箇所は多くありません。しかも、ありとあらゆる場所に人の痕跡『しか』見当たらないのです。

 わたしの思考はひとつの事実に直面します。

「もしかして……まさか、そんな……でもそうでないとおかしい……」

 胸の鼓動が早くなります。

「と、ともえさん?」

 わたしの様子が変わったのを察してか、イエイヌさん心配そうにわたしを覗き込みます。ですが、わたしに彼女の言葉に答えるだけの余裕はありません。

「やっぱり……もう人は……? 『あの場所』もここも……でも……そうなると、わたしは? 子供ひとりを置いて……? ありえない……でも……何か……あった? もしかして……わたしは捨――」

「ともえさん!」

 イエイヌさんがわたしの肩を掴んでわたしを呼びます。

「どうかしま……いえ、落ち着いてください……」

 わたしは彼女の声ではっとします。

「ご、ごめんなさい、イエイヌさん」

 わたしは恐る恐る彼女にひとつの質問をします。

「イエイヌさん、急で申し訳ないんですけど、ひとつ聞いても良いですか?」

 彼女ははいと頷き言葉を待ちます。極めて長く感じる一瞬の後、わたしは覚悟を決めて問いかけます。

「わたしの他に……ヒトに会ったこと、あります?」

 ほんの少し前にもした筈の質問を、わたしは彼女に尋ねてしまいます。

 その時と同じ様に、イエイヌさんは首を振りました。わたしの胸に衝撃のような悲しみのような絶望のような名状し難い感情が訪れます。

「そう……ですか……見かけたり噂話でも良いんですが……」

 やっぱり彼女は首を振りました。

「私の知る限りではともえさんしか、私は知らないです」

 彼女の言葉はわたしに重くのしかかるようでした。孤独感さえ覚えます。あれほど強く感じた鼓動が消えてしまったかのようにさえ感じられます。

「……ともえさん。ご飯に、しましょう? まずは落ち着かないと……」

 言葉を失ったわたしを案じてくれたのでしょう。

「…………えぇ、そうしましょう。ありがとうございますね、イエイヌさん」

 彼女の気遣いに感謝をすると同時に、わたし自身、現実から逃げたいという感情から、彼女の提案に乗ります。まずはご飯を食べてから。どうも、悩んだら悩みっぱなしというのはわたしの悪い癖のようです。

 

 ○

 食事を終え、お風呂も済ませた後、わたし達はベッドにもぐりこみます。イエイヌさんはすぐに眠ってしまったようですが、わたしはどうも眠れません。食事の前に直面することとなったその『現実』の事をどうしても考えてしまうのです。

 わたしはそっとベッドを抜け出し、夜風に当たるために表へ出ます。

「ふう……」

 夜風を浴びながら、深呼吸をします。考えることは幾つかあります。わたしは何故ここに居るのか、何故今ここにわたし以外のヒトが居ない(と考えられる)のか、わたしは今後どうすれば良いのか……こんなところでしょうか? 前者ふたつに関しては、恐らく今ここで考えたところで結論は出ないでしょう。パークにおける知恵者やヒトの痕跡が残る物品の観察など、そういった何らかの行動によって初めて判ることだと思われます。

 最後のひとつ、わたしの今後について。

 全て――わたしの過去、事実、そういった諸々――をあきらめて、ここでイエイヌさんと暮らすという未来。欠片でも良いから答えを求めてパークを探索するという未来。そして、生命の危険さえ顧みず、パークから出るという未来……。

 考えても答えは出ないのでしょうけれど、取るとしたらひとつ目とふたつ目。みっつ目は単なる無謀ですしね……。

 

 わたしの過去について思い出したことも、整理しましょう。

 「写真と違ってありのままである必要は無い」……この言葉で思い出したことがありました。わたしは昔から絵を描くことが好きだったということ。そして、誰か――恐らく絵の先生に当たる方――から同じ言葉を教えられたこと。その言葉を告げられた後に頭を撫でられてくすぐったかったこと。言葉とその手には確かにわたしへの愛情が込められていました。その頃のわたしはここでは無いどこかに居て、風景を描いていました。何故、今、わたしがここにいるのかが益々わからなくなってしまう、それだけの疑問。ですが、ひとつ確実なことがあります。それは、わたしは誰かから愛されていたという事実です。そのたったひとつの事実がわたしの過去を今を、保障してくれるような感覚さえ抱いてしまいます。

 

 不意に声をかけられました。予期せぬ訪問者にわたしの身体は驚きで跳ねます。

「よう、こんばんは……ってイエイヌじゃないのか。誰だ? おまえ」

 声の主はやはり少女の声。ですが、ロバさんともイエイヌさんとも違う強気な口調でした。月明かりに照らされる彼女の姿は、やはり見知らぬフレンズさんでした。色は定かではありませんが、半袖の上着に白のシャツで、おへそを出しています。シャツには数字がプリントされています。スカートの裾は膝丈よりもずっと上で踊っていますし、また、長めの靴下を履いています。イヌのような耳と尻尾……

「ど、どうも……えぇっと、わたしはともえと言います。あなたは?」

 彼女は少しの間、わたしをいぶかしむような目で見つめ、すぐに親しげにニッコリと笑いながら自己紹介をしてくれました。

「ともえ……そんなフレンズ居たかな……? まぁいいや。俺はコヨーテ、ともえ、よろしくな」

 言い終わると簡単なストレッチをしながら彼女は続けます。

「気分でこっちの方まで来たが、珍しいこともあるもんだな、こんな時間に他のヤツと会うとはな」

 へへんと言った具合で笑って、彼女は続けます。

「この辺りはセルリアンも滅多に出ないし、夜でも大丈夫だろうが……気をつけろよ?」

 はて? 初めて聞く単語です。

「セルリアン……?」

 思わず口に出てしまっていたようです。

「知らないのか? フレンズの敵……と言い切っても良いのかもしれないな……とはいえ、だ。ココ、イエイヌのナワバリだろう? やっかいになっているんだったら、イエイヌに聞きな。時間も時間だ。話すと長くなる、悪いな」

 彼女は申し訳なさそうに頭を掻いて言いました。

「いえ、わざわざありがとうございます、明日の朝、イエイヌさんに聞いてみます」

「もうちょっと早い時間だったらな、教えたんだが……」

「いえ、危険を教えてくれただけでも、ありがたいです。優しい方なんですね」

 彼女の第一印象を素直に述べます。

「ふふっ、ありがとうな。じゃあ、私も帰るとするか」

 彼女は手を振りながら来たであろう道を戻ろうと振り返りました。わたしも手を軽く振り、応えます。ですが、コヨーテさんは何かを思い出したようにもう一度振り返って言いました。

「悩んでたようだがな、ひとことだけ、良いか?」

「どうぞ、わざわざありがとうございます」

 彼女は少し思い出すように頭を捻り、そして言いました。

「失敗は恐れても、好奇心は恐れちゃダメだぜ」

 どういう意味でしょう……?

「あ、ありがとうございます……どなたかの言葉ですか?」

「悪い、それは忘れた。だが、いい言葉だと思ってな。今度こそ、じゃあな!」

 そう言って彼女は走っていきました。それも結構なスピードで。さすがフレンズ……と思う間も無く、彼女の言葉の意味を考えます。

「失敗は恐れても、好奇心は恐れるな……ですか……」

 決めました。コヨーテさん。ありがとうございます。と、わたしがおうちの扉を開こうとすると再び声をかけられます。

「すまん、ともえ。伝言お願いできるか?」

 コヨーテさんでした。彼女が帰ってくるとは思っておらず、少しばかり動揺してしまいました。

「え、えぇ……大丈夫ですよ」

「ホント、悪いな……ロードランナーに会ったら例の約束忘れるなと伝えてくれ。今度こそ、じゃあな」

 どなたですか?と問いかけるよりも早く彼女は走り去っていきました。慌しい方ですね……。




ようやく物語を動かせた気がします。
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