Twitter上で開かれている「#創作版深夜の真剣文字書き60分一本勝負」用に一時間で書き上げた小説です。

人生で初めて書いた転生モノです。面白く思えましたら、是非感想を><

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紅葉咲きかおる山奥で

昔々、秋の山奥、爛々と炊かれた炎のような赤い色の林を抜けたところに滝がある。そこで男は胡座を組み、澄んだ水を全身で受け止めていた。

 

 

 

 「ぬぅぅぅぅっ……」

 

 

 

 無精髭をボウボウに生やし、汚れてきた白装束を纏っている男は、冷たく突き刺さる滝水に耐えていた。

 

 なぜ耐えているか。それは男が人を超越した存在になるべく、悟りを拓こうとしていたからだ。

 

 なにせ人の世界は煩わしく、男の気難しい性分に相容れない。

 

 先週も、僅か一人の友人と口論した。

 

 

 

 「雲行き、山の匂いがおどろおどろしい。今日の狩りは止めだ」

 

 

 

 (なんだべさ、最近獲物が獲りやすいべさ、その機会逃さないべさ)

 

 

 

 「行かんと言ったら行かん。俺のカンが信じられないのか? どうせ普段から俺を悪く思ってるに違いねぇ」

 

 

 

 (当たり前さ! 獲物を一人占めしたい魂胆べさ! 仙人でもないのに適当言うなや!!)

 

 

 

 

 

 「だったら俺、仙人になってやる」

 

 

 

 雫と鼻水の滴る顔を上げ、男は決意を固めた。

 

 その頭上、巨大な体躯の、茶色の毛に覆われた獣が男を下敷きにして落ちてきた。

 

 

 

 目が覚めると男は熊になっていた。

 

 ずしぃぃぃぃんっという音から先を男は覚えていない。身が砕け消えていった感覚を戻し、男は起き上がる。

 

 いつもより目線が遥かに高い。手を見ると、茶色の毛皮に覆われおり、逞しい腕つきと鋭い鉤爪が己の意志で固くなれている。顔を下げると、川に猛々しい熊の顔が写った。

 

 熊になった男の思考は衝撃も何も感じず、その手を地面について、とりあえずノシノシと山を登った。

 

 熊になった男の感覚は地についた手と脚を通じて、自然と一体化していた。

 

 秋の日の暖かさが毛に籠り、ドクドクと大きく波打つ心臓を熱気づけた。

 

 熊になった男は軽々と川を飛び越え、山道を駆ける。何にも縛られず、自分の本能に従って山を駆け登るのは気持ちのいいものであった。

 

 

 

 もし男が一旦この状況を整理したなら、熊になった己が感じるこの気持ち良さを、現世から脱した成功として喜んだだろう。

 

 だがそれを感激するよりも、僅かだが徐々に膨れる空腹という感覚が、男の思考を埋めていった。

 

 幸い、この季節に獲物は食事を求めて巣から出ていた。小動物を大きな手で掴み、鹿などには巨大な体躯で押し倒しながら、空腹を凌いでいった。

 

 鹿肉を噛み千切りながら、熊になった男は山を見下ろした。燃えるように明るい色の紅葉をした山で、男の気分は何にも縛られず山の頂きに君臨していた。

 

 

 

 気がつくと一年を越し、熊になった男は山一番に強く危険な生物となっていた。空腹や気晴らしで山を降りては獲物を食らう。

 

 山から自分以外の生物はいなくなり、獲物のいないことにお腹は空腹で強く訴え始めていた。

 

 熊となった男は、ふと林の向こうから立ち上る煙を、巨大な体躯を立ち上がらせ高い目線で捉えた。

 

 あそこには何かある。そう確信し少なくなってきた体力で山を降りた。

 

 

 

 獲物は人里にいた。男だった熊は軽々と手を振り払い、獲物を民家から吹き飛ばした。

 

 

 

 「く、熊だっ!!」

 

 

 

 振り向くと、猟銃を構えた獲物が、恐怖と怒りを混ぜた憎しみの表情で己を見上げていた。

 

 

 

 「お、お前かもしれないべ……オイのダチを食ったのは!!」

 

 

 

 男でなくなった熊は獲物の言うことに耳も貸さず襲いかかろうとした。

 

 

 

 「オイのダチを食った恨み、ここで晴らして肉切れをアイツの墓石に捧げるべ!!!」

 

 

 

 そうなる寸前で動きを止めようとしたのは、獲物の顔立ちに既視感--これを食らうなという意思が、男の意思が一年ぶりに目覚めたからだ。

 

 だが本能に抗えず、男の友人に熊は太い牙を彼に突き刺そうとした。

 

 

 

 男は目覚めた。全身に感覚が戻り、頭上から流れ落ちる滝が冷たさに産毛が立った。

 

 男は身震いして滝から脱け出た。

 

 男はボウッとした頭を振り、辺りを見渡した。

 

 

 

 「俺にはここより、まずは大切だったアイツと仲直りするのがいいな」

 

 

 

 夢か幻か、熊だった男は山で好き勝手暴れるよりも、友人とまた仲良く狩りをしたい為に滝を背にして紅葉が日に輝く山を抜けていった。

 

 

 

 ばしゃぁぁぁんっと、何か巨大な存在が滝から落ちた音に気づかず、男はスッキリした気持ちで家に帰っていった。



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