転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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おまたせしました。

※修正しました(20.8.5)


第三話:転生課と勇者には深い関係があるらしいです③

「では、勇者ヘンリー。世界エルラドのために一度死んでくれ」

 そう言うと、キャメルはカッと目を見開いて立ち上がる勢いのまま手に持った光るものを俺に突きつけた。だが、突きつけられたペンは首に刺さる事なく天の力に阻まれる。

「よさないか!キャメル!」

「でも!」

「“でも”じゃない。まだ事情も聞いていないだろう」

 静かに2人のやり取りを見守る。下手に何か口にすればまた刺されるような恐怖を感じたからだ。そう。ぶっちゃけ滅茶苦茶ビビってます。ヘンリーに首をはねられたときよりも怖い。

 キャメルは窘められて尚、鬼気迫る形相で俺を睨み腕が震えるほどペンを力いっぱい首に突き立てている。頭では天の力を貫けるわけがないと思っていても、感情が不安を掻き立てやまない。俺はただ悟られないように黙ってヘンリーがキャメルを(いさ)め終わるのを待つ。

「…妻がすまない。だが、俺も死ねと言われておとなしく死ねるほど往生際が良くないんだ。納得できる説明をしてもらおうか」

「勿論、そのつもりだ。少し話を端折(はしょ)り過ぎてしまったようで、申し訳ない」

 努めて冷静に、突然会社に訪問してきた取引先の人に疲れを悟られないようにと練習したポーカーフェイスで返す。内心はまだ心臓がバクバクしてるけど。

 目の前には渋々ペンを収めたものの不満を隠しきれていないキャメルが未だに睨んでおり胃に穴が飽きそうなほどのプレッシャーを与えてくる。

「別に本当に死んでもらうわけじゃないんです。ただ、今の肉体は捨ててもらう。本来、人の身体で天の力を使うことは出来ない。勇者には勇者の身体が必要なんです」

「待て、ならなぜ今の俺は勇者の力…。お前に言わせれば天の力か、それが使えるんだ?」

「強引に設定を書き換えているような状態なんですよ。昔のゲームで最大MP(マジックパワー)が999しか無いのに、データ上で999分の10000にしているような極めて力づくで乱暴な方法でね」

「なるほど…?」

 いまいち伝わらなかったのかヘンリーは首をかしげた。

「あー、どういえばいいやら…。えっと、本当はどんぐりなのにコーヒーと言っているみたいな?」

「代用勇者…って事か?」

「そんな感じ。本物の勇者ではないんです。勇者って言う種族の生物があると思ってもらったほうが良いかな…?勇者と言う生物は形に囚われないから例え見た目が悪魔だろうが天使だろうが、勇者として生まれたならば“種族:勇者”になる」

「よくわからないが、とりあえずブーティカの仕業だって事は理解した」

「あ、それでいいです」

 実はイナンナに聞きながら説明していたのだが、やはり自分が理解していない事を人に説明するのは難しい。

「とりあえず、今の人間の身体を捨てて、勇者としての身体を手に入れてもらうって事です。人としてのヘンリーは死ぬけれど、魂を引き継いで新しい勇者の身体に生まれ変わってもらう。要するにこの世界に来た時と同じように転生させます」

「…少し待ってくれ」

 ヘンリーは(ひたい)に手をおいて少しうつむいた。それほど時間をかけずに顔を上げて、

「まず、転生ということは俺はまたガキから始めなければならんのか?」

 そう聞いてきた。“まず”ということは聞きたいことがいくつかあるのだろう。

「新しい身体は今と同じ状態で作るのできにしなくて良いですよ」

「…ふむ。今の身体はどうなる?」

「えっと、少々お待ちを。……魂のない器として肉体は残るらしいんで、転生が済んだら火葬しろ。とのことです」

 イナンナに問い合わせ、聞いたままのことを伝える。話の中身がぶっ飛んでいると感じつつも事務的に言う。自分で自分の死体を燃やせって倫理観が狂っているとしか思えない。神に人の倫理を説いても仕方ないのだが。

「貴方には人の情というものが無いのかしら。言ってることが滅茶苦茶だわ」

 案の定キャメルが噛み付いてきた。でも、俺が逆の立場なら同じことを言う気がするので何も言えない。

 流石のヘンリーもこれには唸ってしまった。

「…次の質問だ」

 納得してなさそうな顔のままヘンリーは話を次へと進めた。

「どうぞ」

「いや、質問というよりはお願いなのだが、転生するなら次の身体は人族ではなく魔族にしてもらえないか?」

「あー、なるほど」

 この世界の情報を見たところ魔族は人間より長く生きるらしい。少なくとも人間の倍、種によっては数倍も生きるそうだ。キャメルやレオは夢魔であり、250年くらい生きる種族。それに比べてヘンリーは人族。この世界の人族は60歳前後が寿命であり、恐らくはレオの成長すら満足に見れないまま死んでいくことになる。

 個人的には願いを叶えてあげたい。とはいえ…。

「うーん…私の権限ではなんとも言えないんで、直接うちの上司と交渉してください」

 俺がただ情で訴えるよりは本人から訴えてもらったほうが聞いてもらえるかもしれない。どうせ一度転生の書類を受け取るために転生課にいく必要があるし。

「解った。俺としては寿命を延ばせる可能性があるなら転生することに異存はない」

「ヘンリー…」

「キャメル。許してくれるかい?俺は君たちより圧倒的に短い命なのがずっと気がかりだったんだ」

「それは…。私も考えたことはあるけれど、でも一度死ぬのよ…?」

「どのみち、俺がこのまま生きていてもエルラドを枯らしてしまうだけだ。この話を聞いてしまった以上、今のままのうのうと生きていくことは出来ない。それに産まれた経緯はどうであれ、俺は勇者なんだ。解ってくれ」

 ヘンリーには同情出来ないこともない。理不尽な死を遂げて、ブーティカによって死を(もてあそ)ばれ勝手に転生させられた挙げ句、こんな美人な嫁さんもらって、美人でエルフの幼馴染が居て、可愛い息子が居て…。

 あれ、こいつ以外と恵まれてるな。別に身体が勇者じゃないとは言え天の力を使える転生チートに違いはないし。資源の減少はヘンリーに関係があるわけじゃないし。

「それでも…」

「信じてくれ。必ず戻ってくる」

「うん…」

 段々と茶番を見せられている気になってきていた。本人たちは至って真面目なんだろうけどそれが逆に演技っぽさを感じさせるのだ。

 平和な日本で育った俺にとって、ドラマチックな出来事なんて文字通りテレビドラマや映画くらいでしか見たことがなく、二人のやり取りも目の前で芝居でもしているような気がしてしまう。

「覚悟はできた。一思いにやってくれ」

「あ、はい」

 時代劇で切腹する武士のような真剣な顔で見つめられてスンッと感情が落ちた。

「じゃあ、天界体験ツアーにご招待しまーす」

「え、何その棒読―」

 真顔のまま腕を伸ばし、ヘンリーの額に手を当てて魂を身体から引き抜く。魂の抜けた身体は糸の切れた人形のように机に突っ伏して動かなくなった。

「あ、あなた!?」

「魂を抜いただけですよ。今はまだ息があるかもしれませんが、その身体は時期に死を迎えることになる。その後は先程伝えたように火葬でもすればいい」

「ヘンリーを返さなかったら絶対に許さないから」

 ヘンリーの身体を不安そうに抱え、目に涙をにじませたままそれでも尚、強気にキッと睨まれ俺は肩を竦ませながら、

「任せてください」

 そう伝えて天部へと跳んだ。

 一瞬だけ光りに包まれ、次の瞬間には無機質な部屋に見慣れた書類の山と机が目の前に現れる。

 もしかしたらまだイザナミが居るかと思ったが、姿はなく、代わりに別の人影があった。

 書類に囲まれ苦虫を噛み潰したような顔でブツブツと怨嗟(えんさ)の声を漏らしながら机に向かっている()()に気づいたヘンリーが猛る。

『っ!ブーティカァ!』

 叫びを上げて掴みかかろうとするヘンリーの首根っこを掴み阻止する。

「止めるな!こいつは、こいつは一発殴ってやらないと気が済まん!」

「あ~…?」

 名前を呼ばれたブーティカが心底やる気のなさそうな声を出しながら首だけでこちらを見た。そして暴れるヘンリーを見て目をパチクリさせた後、ニターっと嫌な笑みを浮かび上がらせる。

「っぷ、何、あんた死んだの?ざまーないわね!このブーティカ様の手を煩わせた罰よ!」

「んだと!っく、離せ!あいつをぶっ飛ばしてやる!」

「へへーんだ。殴れるもんなら殴ってみなさいよ。実体もないくせに、べー!だ」

「っく!このっ!」

 まるで子供の喧嘩のような言い合いが続くかと思われたその時、

「随分余裕そうね。ブーティカ?」

 部屋の奥、書類で隠れた机に向かっているイナンナが一言、そう言うとブーティカは途端に青ざめた表情になり「すいませんでしたぁ!」と叫んで再び目の前の書類に向かい始めた。

 ヘンリーはヘンリーで見覚えのある光の輪で身体を縛られた状態のまま何かを叫ぶように口をパクパクとさせていた。恐らくはイスラがウインスにしたのと同じ力だろう。天の力に名称は無いそうなので、適当に〘拘束(バインド)〙と〘沈黙(サイレント)〙としておこうか。

「おかえり長瀬君。どうだった?現界は」

「悪くないですね。少なくとも転生課(ここ)よりはゆっくり出来ました」

「熟睡してたみたいだもんね。羨ましいわ」

 心なしかイザナミが来ていたときよりも隈が濃くなっているように感じるイナンナが遠い目をしてそう言った。百年単位で働き詰めの女神は疲れ切った顔のまま紙を一枚、俺に差し出す。

 転生申請書、特定の魂を思い通りに生まれ変わらせるために必要な書類。昇華の儀が必要な天使や神といった存在を除けば本当にどんな姿、能力にも出来る勇者を産むための必須アイテムだ。

 俺はヘンリーに落ち着いて暴れるなと伝えてから〘拘束〙と〘沈黙〙を解く。

「これから転生させるから、改めて確認していきますよ。まずは身体。これはエルラドで過ごしたそのままの姿をベースに、種族は羊型の夢魔。年齢も今のままにしておきます」

「あら、素体元(ベース)の種族を変えるのね」

 書類に目を通しながら聞いていくとイナンナが興味深そうに聞いてきた。そう言えばヘンリーが交渉するって話だったな。渡された書類に素体元(ベース)と書かれていたので流れで聞いてしまっていた。自分で言ったことを忘れるとは社会人にあるまじき失態。

 俺が確認するかと思って振り返ろうとすると、目の前に居るヘンリーがスッと腰を降ろし、頭を下げた。今日日(きょうび)みないくらい綺麗な土下座。

「お、俺…じゃなくて私の妻の種族、夢魔は人種の数倍は生きる種族で、ハーフである息子も長く生きるはずです。私は、この成長も満足に見れないまま寿命を迎えてしまうのが怖い。そこで転生の話を聞き、種族を変えられないかとケーシさんに頼んだのです。どうかお許しを頂けないでしょうか」

 良い歳した男が切実な声で頭を下げている。並々ならぬ思いだろう。果たしてイナンナはこの想いにどう答えるのかと内心ワクワクしている自分がいる。少し下衆(げす)い考えではあるが、他人が真剣に土下座して頼み込んでいる事の顛末(てんまつ)というのは気になる。

 だが、返ってきた答えは、

「ふーん。ま、良いんじゃないかしら?(つがい)が違う時を生きるのは悲しいし。長瀬君の判断に任せるわ」

 そんな投げやりでやる気の感じられないものだった。地に伏して全力で神頼みをしたヘンリーからしたら肩透かしだろう。

「え、あ。ありがとうございます!」

 そんな一幕もありつつ、全検を(丸投げ)された俺は仕切り直して話を続けた。

「えっと…。夢魔にしてみれば老け顔かもしれませんが構いませんね?」

「あ、ああ」

「使える能力も今までのまま、天の力を正しく使えるようにだけしておきます。晴れて本物の勇者になるる訳です。これもいいですか?」

「大丈夫だ」

「…後は特に無い。ですよね?」

 俺の問いかけにヘンリーは真剣な表情で頷く。後は出来上がった書類をイナンナの承認の下にセフィロトへ送れば転生が果たされる。

「生まれ変わり、落ちる地は家の前にしておきます」

「ああ、わかった」

 頷き合い、俺はイナンナに必要事項を記入した書類を手渡す。するとイナンナは怪訝そうな顔で、

「折角の同郷だと言うのに、もう別れて良いのかしら?」

 そう聞いてきた。

 俺とヘンリーは向き合って、そしてお互いに笑った。住んでいた星が同じとは言え、国が違えば生活も違う。実はそれほど共通の話題はなかった。それでも俺達は同じ元地球人だ。

「なに、また話したくなったら遊びに来ると良い。天界も悪い奴らだけじゃないと解ったしな」

「それは何よりです」

「…なあ、最後くらい素で話してくれよ。出会ったばかりとは言え同郷の友人じゃないか」

 ヘンリーは俺の右手で肩をポンと叩いて、左手で拳を突き出してきた。それに答えるように俺も右手で拳を作り突き合わせる。

「そうだな…。次はもっとゆっくり話そう」

「良いだろう。その時は本場のイギリス料理を食わせてやるよ。折角だ。スターゲイジー・パイを作ってやる」

「そ、それはちょっと遠慮しておこうかな」

 魚が雑に刺さっているパイを想像して丁重に遠慮の意を言葉と全身で伝える。不味いと噂のニシンのパイなんて食べたくない。ヘンリーがボソッと「噂されるほど不味くないんだがなぁ」と零しているが、イギリス人の舌は信用ならない。

 ウインスの作った料理は確かに美味しかった。だがそれは久々に食べる食事であること、空腹であること、何より地球の飯で有ることを前提とした「まあ美味しい」程度だ。

 イギリスの食事が不味いと言われるのには理由がある。それは“出汁”と“塩気”の欠如。例えばウインスの作ったローストミート。あれはローストしすぎた硬い肉に、抜けきった肉汁とワインを足しただけに思えるソースをかけたものだった。正直、ほぼ肉の味だ。それでも肉の出汁があるだけまだマシなのである。

 とは言え、パンと一緒に食べたローストミートは割と美味しかった。

 多分、エルフは元々素材の味を好むため、イギリス料理と相性が良かったのだろうと思う。朝飯として食べたトーストには無縁のバターが塗ってあり、塩すら振られていない堅焼きの目玉焼きが乗っていたし。たまには悪くないが、濃い味が好きな日本人には味気ないもんだ。

「料理は置いておくとして、折角だ。同郷の(よし)みとしてこれを渡しておくよ」

 イギリス料理から逃げるようにヘンリーに手のひらサイズの丸いガラス玉のようなものを手渡す。

「それに天の力を注げば、俺と通話出来るようにしてある。もしエルラドで困ったことが起きたら手助けしてあげる」

「いいのか?俺に出来ることなんてパイを焼くくらいだぞ?」

「それはいらない」

 ややかぶせるくらいの勢いで断る。

「言っただろ。同郷の(よし)みだって」

 初めでの出張で出会った人。ただそれだけのことだが、俺にとっては同郷の人であり、また不安も多かった初の現界で仲良く成れた人達でもある。

 エルラドには然程、情があるわけではないが彼らの手助けが出来たら良いなと思った。

「ありがとう」

「ウインスとレオにもよろしく言っておいてくれ」

「ああ、頼まれた」

 言葉なく手を差し出し、ヘンリーも黙ってその手を握った。数秒の間、力いっぱい握手をして、それからイナンナへ向き直り、改めて書類を渡した。

「もう良いのね?」

 イナンナの確認に頷いて返す。

 書類を受け取ったイナンナは立ち上がり、目を閉じて書類に天の力を流した。書類はまばゆい光に包まれた後に光がヘンリーの方へ移り、ヘンリーの姿はそのまま光に溶けて消えてしまった。あっという間の出来事に余韻(よいん)も何も無いまま。

「これでよしっと…。じゃ、長瀬君。次はここに行ってきて」

 感傷に浸る間も与えず、イナンナは疲れ切った顔でまた紙を渡してきた。

 

 

 

…To Be Continued




これにてエルラド編終了です。
何ていうか、ようやく設定の説明が終わった感じですね。
戦闘なんか一瞬で終わったし。もっと戦闘描写などをしっかりと書きたいものですね。

切りが良いように見えるんですけど、プロット的には1章が終わったばかりです。
本当に切りが良いのは次の話の終わりくらいかな…?多分…。

あ、ちなみにコメントはいつでも待ってます。切に。
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