転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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おまたせしました!
今回は以前、意見を頂いた様にが改行を多発したSSスタイルの書き方にしてみました。
それではどうぞ!


第五話:如何にもな異世界みたいです

 啓示達が限界へ降りるより過去。イカニモナ歴でおよそ三年前、その男は召喚された。

 

「…はい?」

 

 重厚なカーペットが敷かれ、荘厳(そうごん)な玉座の前に現れた男は辺りの様子に困惑し、そして自身の身体を(まさぐ)り更に困惑した。

 

 それもそのはず、彼は事故に合い、儚くも生命を散らしたはずなのだから。

 

 不幸にも命を落とし、イカニモナに転生させられた男。その名は久々津誠一郎(くぐつ せいいちろう)。彼は元々地球のとある場所に住んでいたなんの変哲もない大学生だった。

 

 彼の死因は溺死。

 

 農家の家庭に産まれ、幼いことより土と共に生きてきた彼は、大型台風が直撃した際に畑の様子を見に行き、どぶ川に転落。そのまま流されて最終的に溺れ死んだ。

 

 だがどうだ。死んだと思っていた自分が何故か見知らぬ場所で大勢の人に囲まれている。いきなりそんな状況に置かれれば久々津でなくとも困惑するだろう。

 

 慌てふためく久々津のそばに豪華なマントを羽織った王が近づき、膝をつく。

 

「我はセレブダロウの王、ポンドという。勇者殿。落ち着いて聞いてほしい。この世界は其方の居た世界とは異なる別の世界。我らはある事情があり、他世界より勇者を呼び出す勇者召喚の儀を行った。その結果現れたのが其方じゃ」

 

「は?異世界?勇者?何を言って…」

 

 目をパチクリとさせ、王の言葉に眉根を寄せた久々津に王は「落ち着いた頃に説明させてほしい」と言い残し、臣下達に久々津の世話を任せた。

 

 これまで田舎町しか知らなかった久々津にとって王城での生活は文字通りの別世界であり、浮かれた久々津は王から説明を受けた時をロクに聞かず二つ返事で頼みを引き受けてしまった。

 

 勇者としてもてはやされ贅沢ができると思っていた久々津は、各地の荒れた土地の整備などで日々駆り出され、また魔物と出くわしても戦えるようにとセレブダロウの近衛兵と共に訓練に参加させられるなどの過酷な環境に嫌気が差し、我儘を言い出した。

 

「俺に働いてほしければ相応のものを用意しろ。金でも女でもいい」

 

 と。

 

 すぐさま近衛隊長や、視察団など久々津に関わってきた者たちが説得しようとするが、これに失敗。それどころか何故か久々津に与するようになってしまう。

 

 久々津は記憶になかっただろうが、それこそが天界で己が求めた人の意識に干渉する能力だった。

 

 説得に来た者たちを追い返す際に気づいたその能力を使い久々津はすぐさま王を自身の傀儡へ変えてしまう。

 

 それからは好き放題の一言に尽きる有様が続いた。

 

 各地から美女を呼びつけ、意識を奪い自分にとって都合の良い思想を植え付け(はべら)せる。他国が干渉しようものなら、その国の兵すら傀儡へと変え牙を向く。

 

 天から与えられた力を己の私利私欲にばかり使い始めたのだ。イシスは異変に気づき、天啓を与えるなど久々津本人を軌道修正しようとするが響くこと無くついに資源(リソース)を補うどころか消費し始めてしまった。天の力を悪なる使い方をしたために資源を消費して負の資源(ダメージリソース)を生むという最悪の事態まで発生していたのだ。

 

 そして現在。自身が世界に仇をなす存在になっているなど本人が知る由もなく。

 

「おい、宰相(さいしょう)。わざわざ俺が畑を生き返らせてやったというのに上がりが減っているそうだな」

 

 豪華な広い部屋で半裸のまま多数の女性を侍らせ偉そうに座り、この部屋で久々津以外唯一の男に向かって声をかけた。

 

「はい、農奴(のうど)を多く使用し手を尽くしていますが、土地が痩せ始めているのか実りが悪くなっているそうです。どうか勇者様のお力でもう一度、畑に祝福をかけてくださりませんでしょうか」

 

 宰相と呼ばれた身なりの整った高齢の男性は久々津に(かしず)き、助けを乞うも、久々津はみるみるうちに顔をしかめ、声を荒げる。

 

「ふざけるな!あれだけ俺を働かせておいてまだ働けっていうのか!」

 

「ですが、このままでは勇者様への上納もままならない状況でして…」

 

「知るか!愚民共を絞ればまだ出てくるだろ!」

 

「もう限界でございます。これ以上は農民たちが干上がってしまいます」

 

「それこそ知らんな。俺が助けなければ今頃は路頭に迷っていたような連中だろ。助けに頼るばかりで自分らでなんとかしようとしてこなったツケだ」

 

 久々津は隣に侍らせた女性の胸を揉みながら鼻で笑いながら宰相へ吐き捨てた。

 

「で、ですがっ!」

 

「くどい!山に入って山菜をとっても良い、獣を狩っても良い、生きていくだけならいくらでも方法はある!」

 

「彼らは獣を追い出すのが手一杯で魔物と出くわした日には逃げるか死ぬかしかできません!」

 

「じゃあ死なせとけ!」

 

「……っ!」

 

「何か言いたそうだな。てめえも愚王(ぐおう)やこの女共(こいつら)みたいに操っても良いんだぞ。俺は困らん」

 

「まさか言いたいことなんて…。従わせていただきますよ。民を守るのが私の使命ですから」

 

 宰相は歯噛みし、ゆっくりと下を向いた。力強く瞑った目には涙こそないものの、悔しさのようなものが見て取れる。

 

 そんな宰相の様子を見て久々津は笑いながら出ていけと指示した。

 

 宰相が退出し、部屋の扉が閉まると久々津は舌打ちをして隣りにいる女性を乱暴に押し倒し、その胸に噛み付いた。

 

 噛まれた女性が苦悶の声を上げるものの、他の女性はそれを咎めたりすることもなく、まるで心が抜けているかのように黙って見ていた。

 

 

***

 

 そんな様子を窓から覗く影が1つ。その影は久々津が性行為を初めた所で静かに城壁を下り城下へと身を隠した。

 

 城下の大通りへ出てもローブとフードでしっかりと顔を隠している影は少しだけ大通りから外れた場所に立つ建物までこそこそと移動すると、ドアを5回ノックした。

 

「…イシスイズ」

 

 扉は開かず、代わりにそんな言葉が聞こえてくる。それに対し、影は、

 

「スイートシスター」

 

 そう答えた。

 

 ―ガチャリ

 

 鍵の開く音の後にギギギという古い木戸の音が鳴りながら薄く扉が開かれた。建物の中は陽の光がほとんど入らず、明かりは蝋燭(ろうそく)1本だけの暗がりが広がっていた。

 

「…ツケられてない?」

 

「…大丈夫です。城下に着いてからは気配を遮断しておいたので誰も私に気づいていません」

 

「わかった。とりあえず入って」

 

 影はそそくさと建物に入ると大きなため息をついて、ようやく顔からフードを外した。

 

「ご苦労さま。ネフティス。寒かったでしょ。ココアを淹れておいたよ」

 

 湯気の立った木製のマグカップを手渡して王城を偵察していたネフティスを労うのは啓示だった。その姿はイナンナの姿を借りた状態ではなく、啓示本来の姿であった。

 

「ありがとうございます」

 

 ネフティスは両手を温めるかのようにマグを抱えて何度かフーフーと息を吹きかけて熱々のココアを啜った。

 

「熱ッ」

 

「大丈夫?」

 

「すいません、大丈夫です」

 

「落ち着いたら状況の説明をお願いね」

 

「はい」

 

 しばしの沈黙とココアに息を吹きかける音やすする音だけが続き、ココアの中身が半分ほどなくなった頃にネフティスが口を開いた。

 

「…王城はひどい状況でした。おそらく宰相以外は全て操られていると見ていいと思います。忍び込むのは至難かと」

 

「でも、ネフティスは勇者のところに行けたんだよね?」

 

「お言葉ですが、ケーシ様が私と同じ様に気配を殺して城壁をバレずに登って移動するのは無理かと…」

 

「それは、無理だね。ごめん」

 

 王城に忍び込むに当たって天の力は使えないという話だっただめ、実力で登らなければならないと考えれば無理だ。自慢じゃないが元々運動する方でもなく、社畜ぐらしで体力も筋力も貧弱が城壁を登るなど気配を殺さなくともできる気がしない。

 

「……やっぱり()()じゃないと駄目?」

 

「それが堅実かと」

 

 アレというのは、俺が身体を女性に変化させて久々津の方から俺達を呼ばせるという手段の事。確かに美形2人で派手に動けばすぐに目に止まりそうではあるが、純粋に女として振る舞わなければならないというのは精神的にキツイ。

 

 そもそも女性的な振る舞いがよくわからない。イナンナのことは大体判るが、仕事姿に女性的もなにもない気がする。

 

「ちなみにですが、イナンナ様の姿以外に成れたりしませんか?どうにも心臓に悪くて…」

 

「うーん。出来なくもないんだけど日本の有名なアイドルの姿だから久々津に警戒されちゃうとお思うんだよね」

 

「他には?」

 

「成れたとしても活動できるほど安定しないんだ。期待ハズレで悪いんだけど、まだ天使の力に慣れてなくてね」

 

「ではやはりケーシ様が噂の新人だったのですね」

 

「え、噂になってるの?」

 

「もっぱらの噂ですよ。()()転生課に新人が入り淡々と仕事をこなしていると」

 

 そんな噂になっているなんて知らなかった。一体どこから流れたんだろう。

 

「ちなみに、噂の出どころは天族ですよ」

 

「え?」

 

「あれ、違いましたか?知りたそうに見えたので」

 

「いや、その通りだよ。びっくりした」

 

 天族というのは俺が天界へ来たときにたらい回しさせてきたアイツらの事だ。何らかの理由があり悪魂(あくこん)とされたものの、まだ善性が残っている魂が自らの背負っている業を清算するために身を変えたのが天族。

 

 主に生命の樹(セフィロート)の自動輪廻システムの補助をするのが彼らの仕事だ。生命の樹から弾かれた魂に関する書類を転生課へ持ってくるのも彼ら。要するに天界の庶務、雑用係だ。

 

「転生課は全ての部署に関係がありますからね。しかも転生課は超絶激務の部署と天界の誰もが知っています。そこに新人が入ったとなれば噂になるのも仕方ないと思いますよ」

 

「なるほど…」

 

 イナンナは天界の№2(ナンバーワン)な訳だし、その直轄になる新人となれば目立つのも仕方ないか。

 

「脱線してしまいましたね。えっと、ひとまず予定通り国境近くの交易街に移動し、ケーシ様のギルド登録を済ませましょう。その後はとにかく派手にクエストをこなしましょう。そうすれば自ずと久々津まで話が行くことでしょう」

 

「それしかないか…」

 

「はい、諦めてください」

 

 ネフティスにそう言われ、俺は項垂(うなだ)れながら静かに「了解」と呟いた。

 

 

 

 

To Be Continued




次回予告!
イナンナ「イカニモナへと降り立った啓示とネフティス。次なる目的地は交易の街、そこに待ち受けるのは荒事に長けた冒険者達の集う冒険者ギルド!果たしてケーシはビビらずにイナンナの姿に変化して冒険者登録を済ませることはできるのか!

次回“第五話:イカニモナ②”」
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