転生業務課は本日も大忙しです 作:通りすがりのめいりん君@すきょあ
俺はネフティスに耳打ちでザコッシュについて聞いてみた。するとネフティスは嫌そうな顔をしてから、小さくため息を付く。
「ザコッシュは名前の通り雑魚よ。姉さんなら余裕で倒せるはずだわ」
「う、うん。とりあえずティースがザコッシュのことをよく思ってないのは判りました」
「…使うのは剣と炎、特に爆発系の魔法を好んで使うわ。魔力操作に長けていて爆発の反動を使って人間離れした速度で剣を振るうイキり男よ」
ネフティスは渋々と言った様子で淡々と説明した。說明を聞いている限りとても雑魚には聞こえないのだが。
「姉さんの防御魔法を貫ける奴なんか居ないわ。あのイキり男がどれだけ強くてもね」
確かに防御面は天の衣があると言っても攻撃面はなにもないし、人間離れした速度とか目で追える気がしない。天の力が使えたって動体視力は普通の人間なのだから。
負けないのと勝てるのかどうかは全く別物だ。
どうしたものかと唸ると、目の前でコソコソしている俺らを見ていたエルファがくすくすと笑った。
「勝たなくても大丈夫よ。実力を見て、見合った等級をつけてあげるから」
それを聞いて少し安心した。倒さなくてもなんとかなるのなら俺は天の衣で身を守るだけである程度の実力と判断されるはずだ。
ズルだって?良いんだよ。戦えないんだから。
「心配ないわ!姉さんは勝つ!」
「ティース、私は守るだけで精一杯ですよ」
むしろ守ることしか出来ないまである。
「とにかくあのイキり男に勝つの!いいえ、勝ちなさい!」
ネフティスが軽くキャラ崩壊に陥っていた。一体どんな因縁を持っているのか知らないが、俺を巻き込むのはやめてほしい。
「エルファ!この
ネフティスは壁に向かって跳び、貼り付けられていた依頼書をエルファに突きつけると、俺の首根っこを掴んで走り出してしまった。
「え、ちょっ、ネフっ、ティース!?」
「ちょっと、ティース!試験は明後日なのよ!?」
エルファの呼び止める声も虚しく街の外までノンストップで駆けたネフティスは、町外れの森の近くまで来てようやく俺をおろしてくれた。
いや、降ろすというよりは急停止して俺は振り落とされたのだが。受け身も取れなかったものの、天の衣が機能してくれたのか特に痛みもなく背中から着地した。
俺は起き上がりながら道中のことを思い出す。ネフティスは門番の呼び止めを「クエストに行くから!」と言い残すだけでロクに検閲を受けて受けずに飛び出していたが街へ戻る時は大丈夫なのだろうかと。
服についた土を払い。なにやらうずくまって頭を抱えているネフティスに声をかける。
「……した」
「え?」
「やらかしたぁ!ほんっとすいません!私、頭に血がのぼるって長瀬様に大変な迷惑を!」
「う、うん。とりあえず落ち着こ―」
「本当にすいませんでしたぁ!」
ガバっと顔を上げたかと思えば俺に向き直り、額を地面に擦り見事な土下座を披露してくれたネフティスにやや引きながら、俺は落ち着くようにと呼びかけた。
それから三十分ほどかけてようやく落ち着いたネフティスは改めて頭を深く下げて謝ってきた。
「大丈夫だから、もう謝らなくていいよ。それよりさ、受けた依頼をこなしちゃおう?」
前向きに考えるとしよう。依頼をこなせば路銀が手に入ると。
試験が明後日であるならば、明日は街を見て回る程度に押さえておきたい。となれば今日のうちに依頼をこなしてお金を手に入れておくしかあるまい。そんな観光気分で良いのは知らないが、考えようによっては久しぶりの旅行みたいなものだ。少しくらい楽しんだってバチは当たるまい。
ネフティスとザコッシュの間柄も気になるは気になるが、そんなのは後でも聞ける。むしろ今聞いて話が長引かれる方が面倒だ。
「依頼内容を教えてもらっていいかな?」
「はい…。えっとこの先の渓谷に出現するワイバーンの討伐です。ワイバーンは別名“亜竜”と呼ばれますが、立派な竜種で強さとしては2等級の冒険者が
それでも竜種の中では最弱だと、ネフティスは付け加えた。
「そんなの2人でどうにかなるの?」
「私ならソロでも狩れなくはない相手ですね。ワイバーンの攻撃手段は鋭い翼爪とムチの様にしなる尻尾、あとは噛み付く程度なので近接戦闘で倒すことができます。長瀬様はあまり天の力を扱うのに慣れていない様子でしたので、練習になればと」
取り乱していた割にはしっかり考えられてる。討伐数は5匹以上で、6匹目からは追加報酬となるそうだ。1匹辺りの報酬も大きく、1匹分で街の人間が1週間ほど生きていけるほどの金がもらえるらしい。
破格すぎるような気もするが、最弱とは言え竜種の鱗は硬く剣を弾く、また空を飛ぶため並の冒険者では一方的にやられてしまい、手傷を追わせることすら出来ないそうだ。
そんなワイバーンを1人で倒すことになりました。
「なりましたじゃねーんだよ!」
俺は憤りをどこにぶつけるでもなく叫びとして虚空に放った。
「何を叫んでいるのですか?」
「なんでもない」
「?えっと、本当に私は見ているだけでいいんですか?」
「うん。自分の使う路銀くらい自分で稼ぐよ」
どうせ戦うことは避けられないのなら、自分を追い込んでしまおうと言い出したものの少しばかり後悔していた。というのも、既に上空にはワイバーンが数匹飛び回っており、俺らのことに気づいているのかキーキーと甲高い鳴き声を渓谷に響かせているのだ。
遠目なので正確な大きさはわからないが、おそらく頭から尻尾の先で10
正直、あれが体当りしてくるだけでも人間は粉々になると思う。
「ワイバーンは岩肌を砕いて落としてくることもあるので、戦うならば開けた場所に出て爪などの直接攻撃を誘い出してください」
「わかった!」
俺は何度かの深呼吸の後、意を決して岩陰から飛び出す。一気に走り、言われた通りなるべく開けた場所へと出る。
―ギキィィィィ
何匹かのワイバーンが俺が飛び出すと同時に騒ぎ出して、そのうちの1匹が俺に向かって急降下してきた。
いきなりすぎる攻撃にビビり反射的に目を閉じて頭を守るように腕を突き出す。それからすぐ、ズゴン!という大きな破壊音が聞こえ、情けなくも俺は膝から崩れてしまう。
心のなかで何度も天の衣があるから大丈夫だと自分に言い聞かせて、ゆっくりと目を開けるもののワイバーンの姿はそこになかった。
「一体どこに…」
そう思ったのもつかの間、今度は背後から破壊音と共に大量の石つぶてが飛んできた。
「わぁう!?」
即座に身体を丸めて衝撃をやり過ごそうとするが、そもそも衝撃を一切感じない事に気づいた。ネフティスが言っていたように俺の害することは出来ないようだ。
「…ふふふ、ふふふふふ、アーハッハッハッハ!勝てる!どうしたワイバーン!俺は傷一つ付いてないぞ!」
―ギュアアー!
「ひぃぅ!?」
調子に乗ってごめんなさい。怖いものは怖いです。
ある程度は状況に慣れてきたものの、でかい空を飛ぶトカゲなんて居るだけで威圧感がある。それにいくら俺に攻撃が通用しないと言っても俺からワイバーンへの攻撃方法も特に無い。
俺は腰に下げたスモールソードを抜き、テレビで見たフェンシングの構えを見様見真似で取って切っ先をワイバーンへ向けてみる。
こんな細い剣なんてワイバーンに当たった所で折れてしまうのではないかと思ってしまう。
『ケーシ様、落ち着いて攻撃を避けて剣を当てるのです』
どこからか様子を見ているらしいネフティスが念話を飛ばしてくるが、それが出来たら苦労はしない。
そもそもスモールソードは刺突剣だ。図体のでかいワイバーンを相手にこんな細い剣を刺した所でダメージになるのだろうか。
『その剣は天の力で作られてます。ある意味で聖剣クラスの代物なので折れる心配はありません。私を信じて思い切り振り抜いてください』
『りょ、了解…!』
攻撃が通じなかったのが不服なのかワイバーン達は騒ぎ、今度は2匹同時に急降下してきた。
引け腰になりながらも俺は目を閉じないように眼を見開いて突撃してくる2匹のうち片方だけを注視する。
ワイバーンは地表近くまで降りてくると身体を捻り、前方向に回転しながら速度の乗った尻尾を垂直に叩きつけてきた。
どんな屈強な壁でも崩せそうな一撃は、天の衣によってあっさりと受け止められる。
「うおおおおおおぉ!」
一寸先に見える巨大な尻尾に怖気づきそうになりながら俺は剣を力任せに振り抜く。すると―
―スッ
と、まるで常温のバターをナイフの刃で撫でたかのように
続けざまに襲いかかってきたもう1匹にも反射的に腕を振る。低空を滑空して噛み付くように襲いかかってきたワイバーンは頭から脚にかけてスッパリと切られ見事なまでの2
「え?」
2枚に卸されたワイバーンから大量の血と内臓が降り注いでくる。が、血は1滴たりとも俺の身体にかかることはなく天の衣によって弾かれた。
「うっ…」
辺りには強い血の匂いが広がり、散乱した
「うああああああ!!」
食べられたくない一心でワイバーンに向かって剣を振る。
スパッと、ワイバーンの脚が飛ぶ。
剣を振る。
今度はまさに食べようとしていた下顎が切断される。
痛みからかワイバーンは大きな声を上げ首を持ち上げ、俺の剣から逃げようとする。
「ふっ…ぐぁ…!!」
俺はただ剣を振る。
剣を振る
剣を振る。
翼を、胴を、脚を、腕を。
恐慌状態になり、何も考えられなくなったまま切り落としていく。
「ギ…ギギァ…」
身体中を切られ、虫の息となったワイバーンがついに身体を支えきれなくなって倒れた。
ズズン…と大地を小さく揺らしながら倒れたワイバーンの頭に俺は容赦なく剣を突き刺す。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
初めて生き物を殺した感触が手に残り、切り裂いたワイバーンの身体、飛び出した臓物が脳裏にフラッシュバックして最悪の気分だった。
止めに濃厚な鉄のような血の匂いでついに俺の精神は耐えきれなくなった。
「うおぁえ…」
ゲボォっと胃の中に入っていたものを吐き出す。すべて吐き出してもなお吐き気は治まらなかった。
頭がぐるぐると回り、胃の中がひっくり返ったような感覚で目眩がする。自分が今、立っているのか座っているのかすら判らないほど気持ち悪い。
胃液すら出なくなるほど吐いて、やがて意識はプツリと切れた。
…To Be Continued
チートな戦闘が始まりました。
誰がなんて言おうとチートで無双です。
さて、ようやく話が面白くなってきた気がします(遅い)
こっから怒涛だからなぁ?見とけよ見とけよ~。