転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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ネフティスは妹だけど妹じゃないのである


第六話:チートで無双らしいです

 意識を失った俺が目を覚ましたのは、辺りがすっかり暗くなった時間だった。寝ている場所も草の上では無くベッドの上。どうやらネフティスが運んでくれたらしい。

 朦朧(もうろう)とする意識の中、半身を起こして昼間のことを思い出す。と同時に殺したワイバーンの姿が脳裏にフラッシュバックし、再び吐きそうになる。

 自分の手を見るとわずかに震えている。その震えを抑えるように拳を握り、自分の(ひたい)へと当てた。

 生き物を殺した感覚がべっとりと手に付いて離れない。

 殺したから生きている。殺されないために殺した。その事は理解している。つもりだ。ワイバーンを殺すことで近隣の人々が襲われぬようにギルドの依頼で、“仕事”で殺した。

 これが責任転嫁だと言うことはわかる。それでも俺は―

「…ん。目が冷めましたか」

「ネフティス…」

 俺の隣で毛布に包まるネフティスが薄めを開けながら眠そうに声をかけてきた。

 気づかなかったが、どうやら一緒に寝ていてくれたようだ。情けない話だが寄り添ってくれているネフティスにとても安心感を抱いていた。

「ご気分は…、あまり良くなさそうですね」

 ネフティスは震える俺の手を包み込むように握った。

「とても冷たいですね」

「…」

「怖かったですか?」

「…うん」

 武器という相手を殺傷するための道具を使いワイバーンを殺した。頭に剣を突き刺した時、俺はワイバーンと目があった。怖かった。呪い殺されるのではないかと思うほどに。

「生き物を殺すのは誰だって怖いものです。ケーシ様が臆病なわけではありません。だから安心してください。さあ」

 ネフティスは俺の手を引き、俺の身体を寝かせた。そして頭をそっと抱き寄せ、胸に包み込んだ。

「ね、ネフティス…!?」

「今はゆっくり休んでください」

 困惑する俺を、ネフティスはまるで子供を抱くように頭を撫でてきた。

 ほんのりと甘い香りと、温もりに少しだけ慌てたものの、疲弊した俺の心には効果抜群で、程なくして俺は眠りに落ちた。

 こんなに安心して眠れたのは幼い頃に母さんの腕の中で寝た時以来かもしれない。

 翌日、窓から差し込む朝日で目覚めた俺は、眼前に見えるネフティスの顔に思わず声を上げそうになり、(すんで)の所で夜のことを思い出してゆっくりとネフティスの腕を解いた。

 眩しい朝日に目を細めながら窓を開けて外気を取り入れる。寒くは無いがスーッと流れる風に少しだけ身震いが起きる。

「むにゃ…寒っ…。姉さん、寒いー…」

「あ、ごめんなさい」

「むにゃ…すぅ…」

 朝日を避けるように毛布を頭から被り寝息を立てるネフティスに口をほころばせながら窓をしめる。

 昨日は良い歳した大人なのに格好悪い所を見られてしまったな。そんなふうに思いながら俺は宿の1階へ降りて宿の女将さんに井戸の場所を聞いた。

 そして水を汲み上げた(おけ)を覗くと、そこには髪のボサボサなイナンナの顔があった。

「うぉあ!?」

 思わず奇声をあげて桶を手放す。

 ―…ポッシャン

「…」

 桶が落ちる音から数泊の間を置いてから俺は自分がイナンナの姿を借りている事を思い出して恥ずかしくなった。

 俺の声に心配してきてくれた女将さんに問題ないことを伝えて、俺はもう一度水を汲んで顔を洗い、髪を軽く手で()いておく。

 軽く寝癖を取ればいいと思っていたが思った以上に髪が言うことを聞かない。髪が長い女性って手入れが大変なんだな。

「あら!ちょっとお嬢ちゃん!」

「へ?」

「ダメじゃないそんな乱暴に髪を弄っちゃ!折角、綺麗な黒髪なんだから!こっちに来なさい!」

「え?えー!」

 髪を整えていた所に宿の女将さんが現れ、あれよあれよと言う間に宿の中に引き入れられてしまった。

 壁に鏡の備えられたドレッサーらしき机の前に座らせられ、髪を梳かされる。おまけに椿油まで使ってもらって、女将さんの手入れが終わると元のボサ髪は何だったのかと言うくらいツヤッツヤのストレートになっていた。

 女将さんはと言うとなんだか人仕事終えましたみたいな満足げな顔で額の汗を拭っている。

「姉さん?」

 ギィ…っと音を立てながら薄く開かれた扉から寝ぼけ眼のネフティスが顔を覗かせた。

「ようやく起きてきたのかい。相変わらず朝に弱いわねぇティースちゃんは」

「女将さん…?」

「ほら良いから顔を洗ってきなさい」

「ふぁーい…」

 女将さんからタオルを手渡されたネフティスは欠伸混じりの返事をしながら、またギィっと扉の音を鳴らして首を引っ込めた。

 その後、ばっちり目を覚ましたネフティスに街の案内をしてもらいながら昨日の出来事を聞く。俺が気を失ってからのことを。

 どうやらあれから残りのワイバーンを1人で片付けたらしいネフティスは俺を担いで街まで戻り先に宿で寝かせてからギルドへ報告へ行ったそうだ。

 後は何もなく、夜にうなされていたらしい俺と添い寝する形で寝て終わり。

 それからはクエストのことに付いて話してくれた。

 討伐したワイバーンが計12匹。報酬は成功報酬で大銀貨3枚と、追加討伐7匹分で大銀貨2枚と小銀貨3枚。合わせて大銀貨5枚と小銀貨3枚が報酬だ。と言われても価値観がよくわからないのでそれについても軽く説明してもらった。

 大銀貨は小銀貨10枚分、小銀貨は銅貨50枚分の価値があり、この街の一般的な住民が日々を生きていくのに1日あたり銅貨20枚程度必要とのこと。つまりたった一度のクエストでこの街の住民が130日以上生きていけるほどの大金を手に入れたことになる。

「とりあえず、これ姉さんの分ね」

 そう言いながらネフティスは大銀貨を3枚手渡してきた。

「多くないですか?私、3匹くらいしか倒せていませんよ?」

「私は元々手持ちが割とある方だし、姉さんは街の散策でもお金使いたいでしょ?」

「それは、まあ」

「だから気にしないで受け取っといて」

「なんだか妹にお金の心配されるのは情けない気もしますが…。ありがとうティース」

 お金を貰った私はすぐ近くの屋台へ向かってレモネードらしきドリンクを2杯買った。

「はいどうぞ」

「ありがと」

 買ったレモネードをネフティスに渡して考える。容器は木製で飲み終わったら返さねばならない。その上で2杯頼んで銅貨2枚だった。

 レモネード

 感覚的には銅貨1枚で100円くらいな気がするが、だとすれば1日あたり銅貨20枚というのは些か安すぎる気もする。それともこのくらいの生活水準であれば十分なのだろうか。

「姉さん難しいこと考えてるでしょ」

「ちょっとお金のことを考えていただけですよ」

「そんな心配しなくても、適当にドラゴンとか狩ってくれば数年は遊んで暮らせるわよ?」

「ど、ドラゴンだなんて簡単に言うなっ…言うものではありませんよ!」

 ドラゴンと言うからにはワイバーンなんかとは比較にならないほど大きくて強いのだろうし、俺なんか出くわしただけで気を失う自信がある。現にワイバーンと戦っただけで気絶したのだから。

「姉さんなら何が来ても余裕なのよ。もっと自信を持ちなさい」

「そう言われても…」

 怖いものは怖い。なんとなくの感覚で使っているけれど、天の力は目に見えるわけじゃないし、戦いとなると天の衣がいつ破られるのか不安でならない。ヘンリーレベルに強く、更に天の力を使えなければ破られないと說明を受けても信じきれないのだ。

 非現実的で、不確かな力。それをすぐに理解し、納得しろというのは無理がある。

 転移や身体の変化はある程度慣れてはきた。それでも転移前は心臓がバクバクになっているけれど。

 だってそうだろ。転移に失敗したらフィラデルフィア計画のエルドリッジの様になるかもしれないのだから。

 自分1人ではまだ飛びたくないね。エルラドの時もウインスに座標指定してもらって跳んでいるし、イカニモナ(ここ)に来てからもネフティスに座標指定してもらっている。なんやかんやで自分の力だけで跳んだことはないからね。

 …話が脱線したが、この世界の金銭感覚よ。

 少し考えてみた結果、思いついたことが1つある。

『ネフティス、この世界に砂糖ってある?』

『ありませんね。イカニモナで甘味料と言えば蜂蜜(はちみつ)ですが、高級品ですよ』

『じゃあさっきのレモネードはかなり贅沢なものか』

『そうですねー。蜂蜜が使われていたようなのでかなり贅沢だと思いますよ』

 やはりか。

 地球でも中世の頃はまだ甘味が主流ではなく、イカニモナと同じ様に甘いものと言えば蜂蜜か果実(かじつ)だったと聞いたことがある。

『銅貨より更に細かいお金があれば教えてほしい』

『あれ?言い忘れてましたか…。えっと、小銅貨があって5枚で銅貨1枚分ですよ』

『昨日のお昼に食べたパンは1つでいくら位?』

『小銅貨で2枚くらいですね』

 俺はネフティスに念話で礼を言って考える。この世界は、一見すると中世ヨーロッパくらいの文明に見えるが、それにしては鉱物資源が豊富と見える。聞けば大銀貨の上にも小金貨と大金貨、更にその上に白金貨(はくきんか)があるらしい。まあ、依頼達成までに金貨を使うことは無いだろうと言われたけれど。

 ちなみに貨幣には現代日本の硬貨より細かな細工もされている。これについては魔導具によって施されているそうだ。

 魔法のせいなのかは知らんが文明レベルがめちゃくちゃだな。

『ケーシ様』

 うんうん、と考えを巡らせているとネフティスが念話を使って話しかけてきた。

『どうした?』

『天界に住む先輩としてアドバイスです。どうやらこの世界についてあれこれ考えているようですが、どうせ依頼が終わるまでの間しか居られません。考えようによっては仕事とは言え現界(げんかい)に降りているのです。少し位、息抜きしても怒られないと思いますよ。特に転生課の(かた)は休みが全然無いと聞きますし。長瀬様は些か根を詰めすぎているように感じますよ』

「うっ…」

 痛い所を突かれて思わずうめき声が漏れた。

 根を詰めすぎだと言われるのはこれで2度目だ。会社に居た頃も同僚に言われた覚えがある。

『この世界のことを深く知ろうしてもらえるのは管理者として嬉しい限りですが、ケーシ様が次に来るとしてもおそらく貨幣そのものが変わっていると思うので、考えるだけ無駄かと』

 言われてみればその通りである。そもそも転生課の出向が必要な案件自体が珍しい(らしい)のだ。ブーティカのように杜撰(ずさん)な管理でもしなければ滅多に起こらないのだろう。

 その上で再びイカニモナを訪れる機会なぞ、いつあるのか想像もつかない。

『今回は特に急ぎでもありませんから、ゆっくりしましょう。私も管理課で書類に追われるよりはこうして現界で活動するほうが好きなので』

『あはは、そうだな。俺も転生課で事務仕事するより、こうして見知らぬ土地を旅するほうが好きかな』

『ふふ、でしょう?』

 ネフティスと2人、向き合って笑い合う。旅行気分でもと内心では思っていたつもりだが、どうやら心底ではあまりにも仕事脳になりすぎていたようだ。

 とりあえず今日はオフみたいなものだし、久々の旅行を楽しむくらいの感覚で居てもいいだろう。

 そうして、ネフティスの助言の通り、張り詰めていた気を緩めて街を練り歩いた。そして日が落ちそうなほど傾いた頃、俺達は宿まで戻ってきた。

 夜に何を食べようかネフティスと話しながら宿に入ろうとすると、

「―ようやく帰ってきたか、ティース。久しぶりだな」

 ネフティスを呼び止めるような声が聞こえた。

 

 

…To Be Continued




設定を書き起こしてあるのに、くだらないミスが多すぎる!
ネフティスは啓示のことを「ケーシ様」って呼んでいたはずなのに、2話前くらいからずっと「長瀬様」って書いてた…。

ほんっとミスだらけだよね…。
読者さん…。気づいたら遠慮なく教えて、いや教えてください…。

では、また次回。
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