転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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第六話:チートで無双らしいです⑤

「我らが王が貴様らの活躍を聞き、是非とも会いたいと申されている。これより用意した馬車に乗り共にセレブダロウ城へ来てもらおうか」

 使者だと名乗った者達から代表と思わしき無駄に豪華な服装を来た男が俺達の前にズイっと出てきて開口一番にそう言った。

 怒りのあまり殴りかかりたくなる気持ちを抑えた俺は偉いと思う。

 ただでさえ傲慢不遜(ごうまんふそん)な態度だが、コイツらはそもそも俺らの泊まる宿に押し入ってきている。それも、早朝に、だ。

 俺達は扉をドンドンと乱暴に叩く音で目が覚め、着替える間もなく寝間着姿のまま彼らの侵入を許した。

 下卑た目でこちらを見下す代表らしき男と、キラキラと輝き汚れの見えない純白の鎧に銀色に光るヘルムに身を包み長めの剣を腰に下げた騎士と思わしき性別不詳の人間が見える限りで5人。

 狭い部屋で暴れられても困るので俺はなんとか堪えたが、とりあえず寝間着姿を晒させないように毛布を被せたネフティスがキレそうになっている。

 この1ヶ月、一緒に過ごして気づいたのだが、この人、じゃなくて女神は寝起きがとにかく悪い。無理に起こそうものなら周りに被害が出かねない。というか実際に寝ぼけてるネフティスにちょっかいを出したザコッシュがふっとばされたりしていた。

 非常にまずい。いつもならまだネフティスは寝ている時間帯な上にこんな上からの物言いで無理やり起こされている。少し前まで一般人だった俺が殺気を感じ取れるくらいネフティスがキレかけている。このままでは宿ごとふっとばされてもおかしくない。

 この男共がふっとぶ分には一向に構わないが、騎士の後ろでおろおろしている女将さんに迷惑をかけるようなことはしたくない。

 仕方ない。この一月、女に化けて過ごした成果を見せてやるか。

「…貴方達。一体なんのつもりですか。ここは淑女(しゅくじょ)が寝泊まりする場所ですよ。そんな場所に押し入り挙句の果てに一方的に勝手な物言いを言うなんて、あまりにも傲慢不遜が過ぎるのではありませんか?」

 キッと睨み、語句を強くして言い放つ。しかし、

「ふん。貴様らを城に招待してくださっている我らが王の寛大なお心を理解出来んとは、やはり下民だな。我らは別に貴様らのように不遜な態度を取るなら無理やり連れて行っても良いのだぞ?」

 代表の男は取り繕うどころか鼻で笑いながらそう吐き捨てた。

 不遜なのはどっちだよ。

 男は更に俺達に近づこうとしてきたので、俺はこれ以上近づけないように天の力で出来た壁でベッドを囲む。これも修行の成果の1つだ。

 不可視の壁に気づかなかった男は俺を掴もうと伸ばした手を壁にぶつけ苦悶(くもん)の表情と共に腕を引っ込めた。

「あら、どうかしましたか?」

「貴様……。何をした」

「何って、下卑た殿方に近づかれては何をされるか解ったものではありませんから、身を守ったまでですよ。自己防衛、同然のことだと思いますけれど?」

 あえて怒りを込めて挑発する。

 すると男は激高(げっこう)し、周りの騎士に向かって、

「お前たち!こいつらを捕らえよ!多少傷を付けても構わないと王から言われている!」

 そう命令する。

 騎士たちは一言も発すること無く、スラリと剣を抜くと躊躇(ちゅうちょ)なくこちらへ剣を振り下ろしてきた。だが―

 ―ギィン!

 と金属の弾ける音と共に騎士の振りかざした剣は俺の作った壁に阻まれる。

「その程度の攻撃で私の防郭(ぼうかく)が抜けるとお思いで?これでも私は《要塞(ブルタング)》の通り名を頂いている1等級冒険者ですよ」

「っぐ……」

 男は歯噛みして俺を睨む。おー怖い怖い。俺が普通の女の子なら泣いてるぞ。

 この要塞(ブルタング)と言うのは1等級へ上がった際にエルファによって付けられた通り名だ。

 俺としてはいい歳してこんな厨二病臭い通り名なんて御免被(ごめんこうむ)りたいのだが、こういう時には役に立つ。

 ちなみにネフティス、もといティースの通り名は《殲滅治癒師(せんめつひーらー)》、ザコッシュは《弾丸男(バレッドマン)》となっている。二人共ぴったりな通り名だと思う。

「剣が駄目なら魔法でもなんでも使ってこいつらを無力化せんか!」

「ちょ、それは流石に!」

 いくらなんでもこの狭い中で魔法を放たれては宿屋が壊れてしまう。今すぐコイツらまとめて転移しなければ。だが、俺はまだ転移を上手く使うことが出来ない。どうしても失敗してフィルデルフィアの様になったらと考えてしまって1人で跳べないのだ。

 騎士達は手をこちらへ向け、一斉に魔法の詠唱を始める。

 まずい。こうなったら失敗したとしてもいいからとにかく遠くへ飛ぶしか。そう思ったときにネフティスから念話で話しかけてきた。

『長瀬様、私はもう限界です。座標はこちらで指定しますので今すぐこのゴミ共ごと跳んでください』

『助かる!』

 渡りに船とはこの事、俺はこの室内に要る人間を全て巻き込んでネフティスの指定した座標へ転移させる。

 一瞬だけ視界が白に染まった後、俺達は見覚えのある渓谷へと跳んでいた。

「なるほどね……」

 ここはワイバーンを倒した渓谷だ。巣食っていたワイバーンは全て俺達の手で駆逐(くちく)されているので、横槍もなく()りあえるだろう。

「おい、お前ら」

 背筋の凍るようなドスの効いた声が背後から聞こえる。

 ゆっくりと振り返った先に見えた物で俺は「ああ、こいつら死んだな」と、そう思った。

「よくも私の安眠を邪魔したな。しかも無関係の宿屋を巻き込んで破壊しようとするたぁ。騎士の風上にもおけねぇぞ。ええ?」

 オーラでも出ているのか幻覚を見ているのかはわからないが、俺にはネフティスの毛が逆立ち、文字通り怒髪天(どはつてん)()いているように見え、反射的に目を背けてしまう。

「はー、これだから冒険者は。常識も、品もなんもない奴らばかりで(いや)になる。いいか、よく理解しておけ、下賤(げせん)な貴様らは口は我らのために嬌声(きょうせい)をあげるためにあるのだ」

 全く懲りる様子のない男の言葉に俺は怒りを通り越して呆れて物も言えなかった。どうしてこの男はネフティスの殺気を前に火に油を注ぐような事が出来るのだろうか。

 こんなの現代地球で言おうものならフェミニスト共に袋叩きに合うぞ。

 ネフティスがゆっくりとベッドから降りる。と同時にベッドが激しく燃え、ネフティスの身を包みこんだ。そして爆風と共に炎の中からメイスを持った鬼が現れた。

 今の炎に紛れて服装も寝るときに使っているネグリジェでは無く、普段冒険者活動をする際に着用している革のローブ姿へ変わっていた。

 というか、ベッドごと燃やしてくれたけど、そのベッド宿屋のなんですけど……。

「おい、覚悟しろよ。世の中には死ぬよりも辛いことがあることを教えてやる」

 先程からネフティスさんの口調がおかしいと思います。啓示とても怖いと思います。

 直感がここに居てはヤバイと告げているように感じたので、俺は走ってネフティスと使者から遠ざかる。途中、騎士が邪魔しようとしたが天の力で作った壁で近づけないようにしてやった。ついでにネフティスからの退路もなくなるように壁を展開する。

 ドーム状は難しいのでとりあえず柵状に取り囲む。

 一気に広範囲を囲む壁を生み出すと少しだけ立ちくらみがした。どうにも、力を使いすぎると貧血を起こしたような現象が起きる。だが、これで奴らはネフティスによってボコボコにされるだろう。ただ、城へは向かわないと行けないのだから使者を殺すのはまずいのだが、大丈夫だろうか?

 ゆらりとネフティスがメイスを男に向けて真っ直ぐ伸ばす。と同時にネフティスの立っていたところから土煙がたった。

 ギリギリ目で見えた様子だとネフティスは地を蹴って使者の腕に向かってメイスを突いたようだ。

 あの速さでぶつけたら腕が吹っ飛んでもおかしくないと思うが、はたして使者の腕は付いたままだ。だが、

「うがあああ!?う、腕が!私の高貴な腕がぁ!?」

 使者の叫びが渓谷に響く。よく見えないが、腕が変な方向に曲がったりはしていない。どうしたのだろうかと思っているとネフティスがメイスを肩に担ぎながら腕を抑えて叫ぶ使者を見下ろし冷たく言い放つ。

「もう泣き言か?まだ前腕の骨を折っただけだぞ。開放もさせてない、粉砕もしてない、ただ折れただけだ。そんくらい回復魔法が無くたって治るレベルだぞ」

「お、おお、お前たち!見てないで私を助けろぉ!」

 ようやくネフティスに恐怖感を抱いたのか使者が周りの騎士に対して助けを求める。しかし、ネフティスが再び土煙とともに消えたかと思うと騎士達は全員地に伏せてしまった。

 俺が目で追えたのは3人目までだったが、いずれも胸元へ向かってメイスを振るい、鎧を陥没させていた。

 あれ、生きてますかね?

「な……な……」

「どうした。お前が助けを求めていた騎士はもう居ないぞ」

「き、貴様ぁ!私に手を出したことを後悔させ―」

 反抗を止めない使者が立ち上がり折れてない腕を振りかぶろうとしたが、ネフティスは軽くメイスを振るって腕を弾く。

「―はい、反対側」

「うぎゃああああああ!!!」

 どうやら、反対側の腕も折ったらしい。

「痛そうだな。助けてやるよ。私は優しいからな」

 ネフティスが使者の腕に手をかざし回復魔法を発動させる。すると、一瞬だけ使者の腕が発光した。

 それだけで治ったようで、使者は自分の手を握ったり開いたりして驚いた様子を見せた。そのまま大人しくなるかと思ったが、使者の男は本当に諦めが悪いらしくニタりと笑う。

「ふはははは!わざわざ私の腕を治すとは、どうやら高貴な私に歯向かった事を後悔したようだな―」

「―ッフ」

 またしても使者が最後まで言い切る前にネフティスはメイスを振るう。

「ぎゃああああ!!」

「うるさい」

 ネフティスが叫びをあげる使者の胸元をメイスで突くと、使者の男は嫌な声を漏らしてそのまま動かなくなってしまった。

「ネ、ネフティスさん……?」

 思わず演技を忘れてネフティスを呼んでしまった俺を睨んで短く「イエナ姉さん」とだけ言った。慌てて言い直す。

「あ、ごめんなさい。ティース。その、大丈夫なのですか?その、生きていますか?」

「大丈夫よ。(あばら)が折れて息苦しくはなっているだろうけど、殺してはいないわ。コイツらには私達を案内してもらわないといけないからね」

「そ、それなら良かったわ」

 ひとまず怒りで仕事を忘れたりはしてない様子のネフティスに安堵する。そしてネフティスの本性に割とビビった。

 エルファやザコッシュから話を聞いていたものの、実際にキレたネフティスを見たのは初めてなのだ。

 戦いの様子から気づいたかもしれないが、ネフティスはゲームで言うところの“ヒーラー”ポジションの能力なのだが、彼女はその能力を尋問(じんもん)拷問(ごうもん)に遠慮なく使う。

 以前、山賊団を壊滅させた時は複数あるアジトの位置を聞き出すために指の骨を折っては治すという手段を取ったりしていた。結果的に回復魔法で治し、山賊団は無傷のまま街の衛兵に引き渡されたのだが、外傷は無くとも精神の方は何名かやられていたのを覚えている。

 足先をメイスで叩き潰してぐちゃぐちゃにしてから治すところを見た時なんかは吐いた。

 まさに《殲滅治癒師(せんめつひーらー)》の名に相応しい動きだと言えるだろう。

「とりあえず、宿に戻りましょうか。縄も無いし」

「あ、はい」

 騎士達を引きずって使者の周りに集めたネフティスが事も無げにそう言う。いや、ネフティス的には本当に事も無いんだろう。

 その後、ネフティスに座標指定を頼み、宿屋の前まで戻ってきた俺達は女将さんに迷惑をかけた事を謝り、ベッドや壁を弁償すると伝えた。

 女将さんはそれくらい大丈夫だと言っていたが、俺達はいずれこうなる可能性があることをわかっていて宿屋に泊まっていたのだ。

 そもそも今の俺は路銀としては多すぎるほどに金を持っている。具体的には金貨が20枚くらいある。

 大銀貨ですら額が大きすぎて使いづらいのに、金貨はそんな大銀貨が10枚分もある。正直、依頼(クエスト)の報酬でもらったものの使い道がない。

 俺は女将さんとそうこう話している内にネフティスは騎士達を縛り上げ、使者の男を連れて部屋の中に消えてしまった。

 なんでも尋問することがあるそうだ。

 同席するべきかと問うと、ネフティスは大丈夫だと言ってくれた。どうやら前回吐いた俺に気を使ってくれたらしい。

 手持ち無沙汰(ぶさた)になってしまったが、俺は都合がいいと思った。少し、俺も調べたいことが出来たからだ。

 俺は女将さんにベッドと壁の補修には十分すぎるほどのお金を渡してから、縛られた騎士の下へと向かった。

 

 

 

…To Be Continued




はい。今回はネフティスの戦闘回でした。

そしてみんな大好き。通り名が出てきた回でもあります。

今回、啓示に付けられた要塞(ブルタング)ですが、これはオランダに実在する星形要塞の名前です。

星形要塞は平面において死角が無く、とても高い防御能力を発揮するのだとか。

天の衣で無敵の防御能力を持つ啓示にはぴったりですね。

地味に要塞って通り名がビビリの象徴な気もして気に入ってますが、イカニモナでしか使えないのが残念。

ではまた次回、お楽しみに!!
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