転生業務課は本日も大忙しです 作:通りすがりのめいりん君@すきょあ
ギリギリ1ヶ月経ってないからセーフ!
翌朝、夜明けと共に目を覚まし顔を洗おうと廊下を
桶を使い身体にお湯をかけたところで寝ぼけた頭が冴え渡り、同時にハッとした。
「お加減はいかがですかー?」
そんな声を共にタオルを持った使用人さんがトコトコと近づいてくる。
「良ければお背中をお流しさせてもらえませんか?」
まずい。寝ぼけていたとは言えあまりにも
ロリコンではないのでホルスの槍が起動することはないが、そういう問題ではないのだ。こんな人体の神秘みたいな身体を幼さ残る少女に見られてはいけない。
「いや。大丈夫です!軽く汗を流せれば満足ですから!」
早口にそう言うと少女は、
「遠慮なさらずに!どうか!」
と懇願してきた。
俺は男ながらに理解した。少女の目は美を求める女性のソレに似ている。おまけにうちの会社に居た女性社員が化粧品の話で盛り上がる時によく似たテンションで近づいてきている。
残念ながら今の俺はイナンナの身体を借りてるだけで、美のことは何もわからないし教えてあげられない。
冒険者として野の中山の中を駆け回っても綺麗な肌と髪を保てているのも「イナンナの綺麗な姿」をイメージして变化しているからに過ぎない。
「……人に触られるのはお嫌いですか?」
「す、少し……」
「そうですか……」
残念そうにシュンとする少女に申し訳なくなり「やっぱお願いしようかな」と言いそうになるのをすんでで止める。
正直な所、自分の身体が局部以外女性になっていたとしても、女性に裸を見せたいとは思わない。だって恥ずかしいし。ネフティスとは何度か入っているけれど慣れはしない。アラサーの男には刺激が強すぎるのだ。
つーか異世界は美形が多すぎだぞ。男にしろ女にしろ。
「あの……。あまり見られていると恥ずかしいので出ていってもらえませんか……?お風呂くらい1人で大丈夫ですから」
本当に止めてほしいと思っている俺の気持ちに気づいたのか使用人の少女は名残惜しそうに浴室から立ち去る。
それから数拍様子を見てからゆっくりと浴槽から上がる。
さっぱりするつもりだったのに無駄に気疲れしてしまった。とは言え気を緩めておくわけにもいかない。今日は王城へ、久々津の下へいくのだから。
なんかおかしいよな。目的は勇者のところに行くことなのに、まるでラスボスの城に挑む前みたいな雰囲気なんだけど。
「皆さん。準備はよろしいですか?」
「待って待って、鎧が上手く着れない」
「はぁ……。手伝ってあげるからさっさと着なさい。アンタが王様を確保できるかどうかも重要なんだからね」
「わかってる。ってかぜんっぜん起きなかったお前に“さっさと”とか言われたくねぇぞ」
「うっさい、早く着る」
ザコッシュはネフティスに軽く鎧を叩かれパコンと小気味いい音を響かせた。
なんとも緊張感にかけるけれど、変に気負うよりは良いかも知れない。
これでようやく終わる。1月もかけた冒険が、やっと。
謎はまだまだ多い。だけど、それも勇者に会えば判るはずだ。その時、俺は選択を間違えないようにしなくてはいけない。
「では、馬車を出します」
団長さんはそう言うと
さほどかからずに馬車は城壁の門までたどり着く、日はかなり高く登っており時刻はおおよそ正午前。ここからは一瞬も油断できない。久々津の仕掛けた罠や結界があるかもしれないから。
膝の上で拳をギュッと握っていると脇腹をツンツンされる。反射的に変な声が出てしまい、恥ずかしさでつついてきたネフティスの方を見るとニッコリと笑っていた。
『硬くなりすぎですよ。もっと自然体で』
俺の緊張をほぐそうとしてくれたようだ。
『ごめん。ありがとう』
馬車は城門の前で止まり、団長さんが小声で荷台の俺達に「着きました」と言う。
その後、馬車は城の御者に預け、俺達は団長さんの引率で城の中へと入る。
初めてきたときは遠目から見ただけだったのであまり気にならなかったが目の前に立ってみるとそのデカさに圧倒されそうだ。
白を基調とした煉瓦で作られた白。目立った汚れはなく、日差しを受け薄く輝いて見えるほどだ。
チンケな言い方になるが舞浜にある有名な遊園地にある城に近い雰囲気を感じる。
そして何より城門のなんたる壮大なことか。門扉には金の装飾が施され、豪華さを感じさせながらも黒の木目が派手にさせすぎないように引き立てる。どことなく懐かしさを感じさせる。
……門扉は良いのだが、白を基調にした壁と有ってないような気がしなくもない。
というか既視感の正体に気づいたわ。木造の門扉に金装飾ってお寺や神社の門扉と一緒じゃない?なんか気づいたらソレにしか見えなくなってきたわ。なんで西洋風の白の門扉が和風なんだよ。
「呆けてないで早く、置いていくよ」
「ごめんなさい!」
門を見て考え込んでいた俺を一切待つことなく進んでいたネフティスにそう言われて慌てて追いつく。
廊下でも俺はついつい物珍しさでキョロキョロと辺りを見回してしまう。
テレビでしか見たこと無いような赤絨毯に、飾られた甲冑。広々とした廊下は馬車で乗り入れてもすれ違えそうだ。
時々、見張りの兵がいるが、誰もこちらを見ることなく、気のせいでなければ意識がなさそうにも見える。
進んでいくと外の日が入りにくいのか奥に行くにつれて次第に暗くなっていった。更に兵士も減ってきたような気がする。
そんな中、薄暗い廊下の真ん中に佇む人影が近づく。
「待っていたぞ」
その影は俺らが目の前に来るまで待ってから口を開いた。
「……」
「団長。そやつらが例の冒険者で間違いないな?」
「そのとおりです。マイザ様」
団長さんは単調に答える。
近衛兵を
隷属化してた間は言葉を聞いていないからわからないが、そんなもんなのだろうか。
「そうか、ならばここからは私が引き継ごう。諸君らは営舎にでも戻っておれ」
「……ハッ!」
マイザと呼ばれた初老の男がそんな少ない言葉で団長と、近衛兵の鎧を着たザコッシュを下がらせる。
予定ではここから別行動になる。予定通り。出だしは上々といえるだろう。
マイザは2人が完全に見えなくなるまで立ち尽くし、それから俺達に向き直すとにっこり笑った。
「ようこそセレブダロウ城へ。お二方とも、呼びかけに応じて頂きありがとうございます」
あんな招待の仕方でよくもぬけぬけと言えるな。と思ったのは俺だけでは無いようで、隣に立つネフティスが1歩前に出ると口元にだけ笑みを浮かべる。
「丁寧な挨拶、痛みいるわね。手荒なエスコートだった騎士をは大違いだわ」
「……どうやら騎士との間で連絡不備が有ったようで、もうしわけありませんでした」
「それなら精々語弊を産まないようにすることね」
ネフティスの放つ皮肉にマイザはただただ頭を下げた。
経験則で判る。マイザは心から頭を下げているのではなく『謝罪をしている実績を作る』ために頭を下げているのだと。
証拠と言うわけではないが、ちらっと見えた顔が薄ら笑っていた。特殊性癖でないならば何かを企んでいるのだろう。
「申し訳ない、お二方ともこちらへ」
謝り倒したマイザは話を切り上げると、俺達を城の奥へと誘った。その方向は事前に見た玉座の間への道ではない。それは勇者の居ると思われる部屋の方向へ続く道。
やはり、久々津がこのイカニモナの資源問題を引き起こしている元凶なのだろうか。
勇者でありながら女を食い物にし、農民を酷使し、国を操る諸悪の根源に成り下がってしまったのだろうか。
いや、まだ決めつけるには早い。それに、それだけだと謎が残る。そう単純な話ではないはずだ。
俺は1ヶ月間、ただ魔物を討伐していたわけではない。なるべく広範囲かつ勇者が関わったと思われる土地を巡り情報を集めていた。ネフティスには冒険者として顔を売るためだと偽って、だ。
そう、俺はかなり初めの方から管理部を、いやイナンナを疑っていた。イナンナは人を騙してまで働かせるような女神だが、仕事に対しては真摯で仕事のやり方は教えてくれたし、わからなくても聞けば答えてくれた。それこそエルラドのときは答えてくれていたのである。それがイカニモナに来た途端に放任もいいとこ。
考えすぎかも知れないけれど、多分俺は試されているのだと思う。
「どうした姉さん。城についてからずっと上の空じゃないか。緊張してんのか?」
「そう、かもしれないですね……。
「ま、私達は客人なんだしもっと堂々としなよ」
「ティースは堂々としすぎですよ……」
確かに緊張もしている。
手はずでは俺かネフティス、もしくは両方を傀儡にしてくるであろう久々津に対して、俺達は術に嵌った振りをする。そして久々津が近寄ってきた所で一気に魂を引き抜く。
その後はわざと窓から目立つように脱出、ネフティスの補助で転移して人気のない所から天界に帰還。
久々津に出会ったら事は一気に終わる。はずだ。
情勢の安定については王の意識が戻ったら団長さんと一緒になんとかしてくれるだろう。団長さんも情勢の回復をしたいと言っていたし。
各地を回って確かめたが、そこまで近隣諸国との擦れが起きてるようにも思わなかった。下手に俺らがなにかするより
「……この先に勇者様の部屋がございます。私は王の下へ行かねばなりませんので、ここで失礼します。部屋の扉に薔薇があしらわれているのですぐに分かるかと思います。最後まで案内できず申し訳ない」
「あっそ。まあ、適当にやっとくよ」
「案内を離れる前に忠告を1つ。この城はあらゆる所に結界を張り巡らせています。あまり変な所へ行くと取り返しのつかないことになりますので、目的地へはまっすぐ行かれると良いかと。後ほど勇者様の部屋まで迎えを出します。それまでは勇者様とごゆるりされるといいでしょう」
「“ごゆるり”ね。わかったわ」
昨夜に話したとおり、マイザは勇者の部屋に辿り着く前に離脱。代わりの案内が現れるとの予測だったが、そこは勝手に行けとの事。
俺の中の常識で言えば、見知らぬ相手、それも冒険者などというヤクザな商売をしているような相手を城の中で自由にさせるのはおかしい。
とはいえ決めつけられるほどの情報も無い。今は怪しい程度にとどまるか。
一度疑い出すと全てが怪しく思える。若手の話していた人狼ゲームとかいうやつでもやっている気分だ。
「突っ立っていても仕方ないですよ。行きましょう長瀬様」
「そうですね。じゃなかった。そうだな。行こう。終わらせに」
無意識にイエナとしての口調で話してしまい、慌てて戻す。1ヶ月も話しているので癖になってしまうのも仕方ない。もし普通に女口調のキャラに化けていたら、咄嗟に出るのは女口調に成るわけだ。本当、敬語の姉キャラにしておいてよかった。
少し歩くと、薄暗かった通路は外からの光で明るくなった。どうやら外壁沿いに出たらしい。そして、目の前に見えるのは薔薇のついた部屋の扉。
「ここだな」
「……他にそれっぽい部屋はありませんでした。間違いないでしょう」
この部屋に入ればひとまずイカニモナでの活動は終わる。答え合わせは天界に帰ったらすればいい。答えは、久々津から聞けば良いのだから。魂を殺すかどうかもその後で良いはずだ。
「それじゃあ。ノックするぞ」
深呼吸をしてネフティスに確認してから扉を3回叩く。
一拍置いて、中から「どうぞ」の声が聞こえたのを確認して扉を開いた。
…To Be Continued
唐突に名前の由来について話していくコーナー。
イカニモナ編!!
・セレブダロウ
イカニモナにおいて長瀬が活動している国。
交易によって栄えているので、多くの金持ちな商人が家を持っている。
この国の首都に住むのがステータスとなる。住んでいるだけで「セレブだろう」と言える。
・ザコッシュ
交易の街を拠点にしている冒険者。
元々は本当に雑魚にするつもりだった。名前の由来も何も「雑魚っす」という理由。
長瀬君に瞬殺してもらおうと思ったけれど俺TUEEE!するタイプではないのでやめた。
・マイザ
セレブダロウの宰相。
名前の由来は「Miser(守銭奴)」から。
特に理由はないが、お金に関わる名前をつけたかった。
その上であまりいい意味の名前も使いたくなかったのでこれになった。
・パイザ
実は名前の由来を忘れた。マイザと名前が似すぎていてどっちかわからなくなることがある。
ちょい役に名前をつけるべきではなかったと反省している。
既にお気づきの方も多いでしょうが、セレブダロウではお金に纏わる名前を与えたキャラが多めです。
なるべくそういう名前をつけました。
私は名前を考えるのが苦手なので基本的にそういう所から取ることが多いんですよね。
なんて言葉で今回は締めたいと思います!
ではまた次回、お会いしましょう。