転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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ちょっと遅刻したけどセーフでしょ!セーフ!

疲れで筆が乗らなかったんだ。許してクレメンス!


第八話:転生課の役目を果たすときみたいです

「待っていたよ」

 扉が開かれ、部屋の中に居る男と俺達、お互いの姿が確認できるようになると部屋の中に居る男はそう声をかけてきた。

 なるべく怪しまれないように俺達は「失礼します」と言ってから部屋の中へと侵入する。

 ひとまず部屋の入り口に結界のようなものは感じなかった。ネフティスにも目配せして確認を取ると、ネフティスは小さく頷く。

「はじめまして。私は冒険者のイエナと申します。こちらは妹のティースです。貴方は勇者様、でよろしいでしょうか?」

 ネフティスよりも1歩前に出ながら俺はお淑やかに礼をして、男に問う。

 本当は答えは聞くまでもなくわかっていた。男の身体には天の力が満ちている。これは天界で管理している勇者である証拠だ。その身体が天の力で構成されている勇者はある意味『勇者』という種族とも言える。見るものが見れば正体を見破るのはあまりにも易い。

「ああ、よく来てくれたな。俺は久々津(くぐつ)誠一郎(せいいちろう)。これでも勇者と呼ばれている」

「かの有名な勇者様にお目通りできて光栄の極みです」

 軽い挨拶をしたところで俺はふと背後が静かすぎると気づいた。

 今までは止めてほしくとも首を突っ込んでいたというのに、この部屋に入る前辺りから随分と静かすぎる。

『ネフティス?』

『おかしいと思いませんか?』

『何が?』

『私が1月(ひとつき)前に見た女性達の姿がありません』

『……ふむ?』

 ネフティスの話では女性を傀儡(かいらい)にして(はべ)らせているということだったはずだが、確かに部屋に女性の姿は無い。

 違和感があるが、俺が事前に集めていた情報を考えれば、そこまでおかしいというほどでもない。

 俺が得た情報。それは、久々津が農村に対し農耕の技術や簡易的な害獣対策を教えていたこと。また、災害による難民の対策も行っていたらしいこと。次にまた大雨や地震等の災害が起きても良いような知識の伝授。

 まさに救世主とも言える勇者的活躍。

 確かに見目の良い女性を城に呼び寄せたりなどの行動も有ったらしい。が、それは勇者が世間に顔を見せず、城に引きこもるようになってから。

 方法は()()()()()()()使()()()()()()の呼び出し。あのパイザとかいう男も居たらしいことを確認している。

 (いささ)か強引で陰謀論めいた考えだが、俺は宰相のマイザが何らかの力で兵を操り女性を呼び寄せ、久々津に仕向けることでコントロールしようとしたのではないかと考えている。

 とは言え、結局女を喰い散らかして、状況に甘んじて受けているだけなら世界にとって、管理する側にとって害になるのだろうが。

「どうした黙って。待っていれば俺が(すき)を見せるとでも思ってるのか?」

 久々津は薄い笑みを浮かべて軽い殺気を放つ。

 突然の殺気に背筋に冷たいものが走るような感覚を覚え、一歩、後ずさる。

「隙、とは?」

「とぼけんなよ。俺を狙いに来たんだろ?」

 そう言われた瞬間に俺は反射的に身構えてネフティスの顔をチラと見てしまう。まだしらを切ることもできたはずなのに。

 ネフティスはネフティスで予想していなかったのか驚きの表情が浮かんでいた。

 もう誤魔化せない。

 俺達の反応を見た久々津がニヤリと口角を上げ言い放つ。

「“勇者の名の下に命を下す。客人を無力化しろ!”」

 次の瞬間、天井やベッドの下、家具の中、そして俺達が入ってきた扉から何人もの人影が部屋に雪崩込んだ。

 あれよあれよと言う間に部屋と廊下が勇者の呼び出した女性達によって埋め尽くされる。

 咄嗟に防郭(ぼうかく)を貼っていなければ、俺はともかくネフティスは組み伏せられていたかもしれない。ネフティスも強いとは言っても、制約によって天の力は念話程度しか扱えないのだ。いくら強くても数には勝てない。

「まずいな……」

 女性達はいずれも武装している。久々津は無力化と言ってはいたが容赦なく襲ってくるだろう。怪我を負わせても魔法で治せば良いだけなのだから。

 転移で一旦逃げてしまうのも手だろうが、そうすると勇者に接触するのが困難になってしまう。

 怠惰(たいだ)で好き勝手やっていたとは思えないほど勇者からは隙を感じない。気配察知に優れている。だったか。まるで野生動物のようだ。

 女性達を無力化しようにも制圧できるような武術は使えない。俺にできるのは何でも切り裂けるスモールソードを1月で身につけた剣術を使って振り回すことだけ。ここで振り回したらゾンビ物も真っ青なグロ映像になることだろう。

 ひとまずは防郭のお陰で攻撃されても悠長(ゆうちょう)に構えていられるが、これでは膠着状態(こうちゃくじょうたい)になるだけで状況は良くも悪くもならない。

「そうやって身を守るのは良いが、いつまで持つかな?」

 久々津の言葉は明らかにこちらを見下し

『長瀬様。防郭を解いてください』

『流石に危険じゃないか?』

『この身体は現界で行動するために作られた仮のものですよ。天界の者は現界で死んだとしても天界で復活するだけ、ご存知でしょう?』

『だからって……』

『良いから解いてください。多分、上手くいくと思いますよ』

『……わかった』

 強気なネフティスの言葉に俺は渋々、防郭を解く。せき止められていたダムを開放するように操られた女性達が襲いかかってくる。

 棍棒らしきものを振り回す妙齢の女性、ナイフを突き刺そうとする少女、剣を持った婦人。様々な武器を手にした女性があらゆる方向から俺やネフティスに向かって振りかざす。

 俺は問題ない。天の衣を貫けるのは天の力だけだから。だが、ネフティスは―

「ぐっ……!」

「なんだ、もう少し抵抗するかと思ったが、案外早かったな」

 鍛えられてない女性の力とは言え武器を振りかざせば人を傷つけるには十分だ。ネフティスの身体は叩かれ、切り裂かれ、身体の各所に血を(にじ)ませていた。

 多数に全方位から襲われて大きな怪我を負っていないのは流石の技量というべきか。

「どうした。降参するなら精々可愛がってやるぞ」

「……誰が降参だって?」

 徴発する勇者の言葉にネフティスは(ほお)の血を拭って勇者を睨む。拭われた血の下に傷は無く、ただ拭われた血の跡だけが残っていた。

「私は殲滅治癒師(せんめつひーらー)よ。この程度の攻撃じゃダメージにもなりゃしないわ」

 そう言いながら襲いかかる女性の腕を右手でそっと払うと左手を真っ直ぐ相手の胸に叩きつけた。

 威力があるようには見えなかったが、掌底を食らった女性はカハッと息を吐き出して膝をついて倒れた。

 倒れる女性には目もくれず、上半身を軽く倒すようにして足を後ろ向きに振り上げすぐ後ろに居た別の女性の顎を蹴り上げ、更に今度は身体全体を落とすと前方に向かってスライディングするようにして数人の足を払った。

 一連の動きは一切の無駄も無く、さながら時代劇か何かの殺陣(たて)ようですらある。

「打ち止めかしら、私はまだ無傷よ?」

「っは、やってくれるじゃねーか」

 数秒で10人程を無力化したネフティスが勇者を挑発する。

『長瀬様、こいつらは武器を持っているだけの素人です。防郭を広げて一気に押し潰しちゃってください』

『わ、わかった!』

『全力で!』

 言われるがままに自分の周りに発生させている防郭を一瞬だけ全力で膨張(ぼうちょう)させ、周囲の女性達を吹き飛ばす。その勢いで壁に激突して動かなくなった。肉体の死を感じないので生きては居るようだ。しかし加減がわからなかったとは言え、打ちどころが悪ければ死んでもおかしくない攻撃。

 もしかしたら殺していたかもしれない。

 そう考えた途端にゾクっとした。

「これでアンタを守る盾は居なくなったわね」

 手が震え、立ち竦む俺など意にも介さずに、ネフティスは地を蹴り勇者へ拳を突き出し肉薄する。

 これを勇者は片手で受け止め余裕の表情で、こちらを称賛(しょうさん)する。

「防郭で吹き飛ばすとは考えたな」

 と。

 勇者の言葉に返事をすること無く、ネフティスは受け止められた拳をサッと引っ込め、逆の手を貫手(ぬきて)にして喉を狙う。勇者の反応が追いつかない程に素早く放たれる。

 しかし―

「チィ……!」

「並の攻撃では天の衣を破れない」

 天の力によって出来た壁によってネフティスの貫手は阻まれ、喉まで届くことは無かった。

『今です!全力で攻撃を!!』

 ネフティスの声にハッとして、俺も遅れながら勇者へ駆け寄る。拳を振り上げ、声を張り、とにかく全力で勇者を殴らんと猛る。もはや真意などどうでも良くなっていた。

 俺の中にあるのは女を操り、武器をもたせ自らを守る盾としたことへの怒り。そして期待していたがための失望だった。

 勇者はもはやネフティスを見ることすらなく、自信たっぷりの表情でこちらを見つめ、天の力を乗せた()を発する。

「“天に代わりて勇者が命ず、動きを止め、我に従え”」

「うおおおおおあああああ―」

 たが、その()が俺に届くことはない。いくら勇者と言えど生半可な力では純粋な天の力を防ぐことは出来ない。

「何!?て、“天に代わりて勇者がめいずりゅぐがぁ―」

「―っりゃあ!!!!」

 傀儡化(くぐつか)が効かず慌てふためく勇者の横っ面に拳が天の衣を貫き、叩き込まれる。

 素人のパンチではあるが大の大人が放つ全力のパンチ。人が飛ぶには十分な威力が乗っていた。

「っぐ……。くそっ!素人同然の動きしかしてない冒険者に天の衣が抜かれるだと!そんな馬鹿な話があるか!」

 良い一発が入ったと思ったが、勇者は軽く頬を抑えてすぐさま立ち上がり、手を地面に叩きつけた。

「“《バインドスパーク》”」

 勇者が叫んだ途端、床一面がバチバチと音を鳴らし絨毯を焦がす。

 目には見えなかったがどうやら電気が床を駆けたようだ。効果は一瞬だったのか飛び退いたネフティスはケロッとしている。

 名前から察するに地面に触れている相手を痺れさせる魔法のようだ。念の為に床に転がっている女性達にも防郭を張っておいてよかった。

「……もろともとはな」

「どう思おうと勝手だが、奴らは仲間じゃないからな」

「下衆が……」

 勇者の反応に俺もネフティスと同じ言葉を口から漏らした。

 このクズは一発殴った程度では生ぬるい。腐った性根に社会の厳しさってもんを刻みつけてやる。

 先程の魔法でわかったが、こいつはヘンリーと違って天の力を使いこなせてない。つまり、こいつの攻撃が俺に届くことはない。ならば俺はもう何も気にせず、とにかく勇者をぶっ飛ばせばいい。

「おっらぁ!」

 駆け寄り、振り抜いた拳は空を切る。

「このっ!」

 逆手でアッパーを仕掛けるも再び空を切る。

「ふん!」

 ならばと足を水平に振り抜くが、これも当たらない。

 薄々とわかってたことだが、いくら天の衣を抜けたって攻撃が当たらなければ意味がない。

「鈍い拳だな。油断しなけりゃそんな攻撃とも呼べないもの当たらねぇっつーの!!」

 全力で突き出した右の拳を半身で避けられ、そのままカウンターで俺の腹に勇者の拳が突き刺さ、らずに防郭によって防御される。

「にしても硬え防郭だな。……こりゃ体術じゃ無理か」

 勇者は足元に向かって電撃と思われる魔法を放つことで床材を弾けさせ、俺達が怯んだ隙に距離を離した。

 すぐさまネフティスが近づこうとするが、勇者は逃げに徹してネフティスを近づけさせない。俺も挟撃(きょうげき)のために動くべきだが、高速で動き回る2人を目で追うのがやっと。とてもではないが動きについていけない。

 ただ逃げてるだけではなく、勇者は何やら呪文のようなものを紡ぎ、内包する魔力を練り上げている様子だった。ネフティスもそれがわかっているようで、なんとか妨害してやろうと追いかける。

「“天に代わりて、勇、者が、命ずる……!”っ!“我、に(あだ)なす!者に光の如き裁(さば)きの雷霆(らいてい)によ、る!一撃!を、与え給え”!!」

 詠唱を終え練りに練られた魔力を窓の外に放ち、勇者は自らの身体を窓の左側に預けた。そのチャンスを逃すはずもなくネフティスは素早く拳を叩き込むが、それを勇者は手で受け止め、更にネフティスが放った足刀までも逆手で払うようにして掴んだ。

「捉えたぞ!“《閃電霆撃(せんでんていげき)》!!”」

 ネフティスの身体を抑える瞬間を待っていたとばかりに勇者は魔法を放つ。

 それは魔法と読んで良いのかはわからない。

 城に入ったときは晴れていたはずの空はどす黒い雲に覆われ、渦を巻いていた。地獄の鬼のような唸り声をあげ、紫電(しでん)紫閃(しせん)がビカビカと空を彩る。

 勇者がニヤリと笑った瞬間、

 ―ビッシャアアアン!

 という空気を裂く音と共に部屋が紫閃で埋め尽くされた。

 

 

…To Be Continued





~あとがき(に見せかけたキャラの元ネタ紹介)~


今回も読んでいただきありがとうございます。

あと少しで話の終わりまで辿り着けそうな気がします。少しと言うにも文字数かさみそうだけど……。

今回はイカニモナ管理課の面々。というか姉妹2人の元ネタについて解説したいと思います。


・イシス

大地の神ゲブと天空の女神ヌトの間に生まれた三女。
冥界の神オシリスと戦いの神セトを兄に、豊穣の神ネフティスを妹に持つ。
外見はトビの翼を持った女性の姿とされている。
イシスとは『椅子(玉座)』の意味であり、王権が神格化した女神とされている。

今作では「イシス・フィラエ」という名で、イカニモナ管理課の課長をしている存在になっている。
また、神話にてオシリスを蘇生させたり、ラーに毒を盛ったりしたことから、今作では『生と死を操る』特性を持っている。(あまり意味はない)


・ネフティス

イシスと同じくゲブとヌトの間に生まれた末妹。
配偶神が兄であるセトだが、オシリスが好きでオシリスとの間にミイラの神アヌビスを作ってしまう。(神話ではよくあること)
外見は腕に翼の生えた女性の姿。また、宝石で飾られた姿であることが多いらしい。
ネフティスのエジプト神名は「ネベトフゥト」で『城の女主人』の意がある。


今作では「ネフティス・フィラエ」の名で姉のイシスと共にイカニモナの管理課に所属している。
ネフティスも神話に基づく特性を持っているが、それはネタバラシに成るので伏せておきます。


・フィラエ


2人の名につく「フィラエ」とはエジプトのヌビア遺跡に存在する神殿の名前。
ヌビア遺跡の中にはイシス神殿などもあり現在はヌビア遺跡群としてユネスコ世界遺産に登録されている。




それでは今回はこのへんで筆を置かせていただきます。

ではまた次回、お会いしましょう!
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