転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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おたませ。
ちょっとオーバーしたけど概ね一月だからセーフでしょ()


第八話:転生課の役目を果たすときみたいです④

 俺は1歩ずつゆっくりと前へ進む。

 走る必要ない。これは結末の決まっている言わば予定調和。

「何故だ!どうして私の攻撃が届かない!!」

 (わめ)く魔王を尻目に俺は天の力によって幾重にも結界を張り巡らせ、魔王を閉じ込めると同時にこの場にいる全員に加護を与えた。

 一時的なものではあるが神使代理(しんしだいり)としての役目を与え、それに見合う力を加護に込めた。生まれたての魔王如きが太刀打ちできるはずもない。

 そこまでの人間には過ぎたる力、本来なら代償もある。が、転生課の権限で踏み倒した。

「助かるイエナ!これなら戦える!」

 増幅された力に驕ることなく2人の神使代理は勇猛果敢に魔王へと挑む。

 ザコッシュは得意の爆発魔法を剣先に込めて一点を狙う鋭い突きを、団長さんは悪しき物を拒む浄化の魔法陣を魔王の下に描く。

「ぬぅ!やりおる!だが、闇の衣の前には全てが無力よ!」

 ゆらり、と魔王の周囲が怪しく揺らめく。

 どうやらマイザが纏っていたものと同じ、負の資源で出来た鎧を纏っているようだ。

 まるで天の衣の模写のように思えるが、今なら根本の原理からして違うと解る。負の資源、言い換えればマイナスのエネルギーによって作られた衣が、ダメージを肩代わりしているようなもの。

 確かに膨大な負の資源があるならば無敵に近いかもしれないが、マイナスを振り切る力で攻めるか、千日手ででも確実に攻め続ければ勇者の力がなくとも突破できるだろう。

 尤も、それでは解決しないのだが。

「さてと」

 2人を相手に五分の戦いを続ける魔王はこちらにまで意識を向けることが出来なかったのか、俺は何事もなく勇者の残骸の下までたどり着いた。

 素手で引き裂かれ、その後もエネルギーの奔流(ほんりゅう)に巻き込まれた身体はほとんど原型を留めてなく、もはや人の遺体であることすらわからない程に損傷していた。

『……っ』

 久々津は自らの遺体を前に目を背け口元を抑える。心配せずとも魂の状態で吐いたりすることなんて無いというのに。

 いや違う。()()()()()()。彼は目の前で自らが殺されるのを目撃し、変わり果てた遺体を今、目にしているのだ。こうなるのは必然とも言える。

 むしろ俺だって悲惨な死体を目にこうなってもおかしくないはず。だのに俺は悲しくないどころか冷静に場を、物事を推察できるほどに精神が静か。

 何かがおかしい。

『……器、用意してくれんだろ。早くしてくれ』

 久々津は目を覆い、催促する。こんなものは見たくないと、早くなんとかしてくれと。

「わかった。今からお前の身体(うつわ)を再構成する。自然の摂理を侵す行為。その代償はお前の魂の消滅。今ならまだ―」

『―いいから!やってくれ!!』

 最終確認しようとする俺の言葉を(さえぎ)り、久々津が猛る。

「いいだろう。覚悟せよ。お前は今から神の尖兵と成り魔王を討つ槍となるのだ」

 俺はなにもない虚空からバインダーに挟まれた1枚の紙とペンを取り出し久々津に渡す。

『……契約書?』

「そうだ。注意書きをしっかり読んで一番下に署名しろ」

『はぁ!?そんな場合じゃねえだろ!』

「いいから読め」

『だぁ!解ったよ!ほら書いたぞ。これでいいんだ、ろ―!?』

 乱雑にサインを書きなぐり俺に契約書を渡した瞬間から変化は始まった。

『なんだこれ!?おい、これどうなって―』

 勇者の残骸と久々津の魂が光を放ち、それぞれが光の玉へと変わる。

 とてつもない光が現れたことで魔王達も戦いの手を止め、こちらへと視線を向ける。

「それは一体なんだ。お主は一体なにをしておる!」

 魔王は激昂(げっこう)し、

「何という力……。しかしこの温かさは……」

 団長さんは安堵し、

「なんかすげえ……」

 ザコッシュは語彙力をなくした。

「神の正義の下に命ず。勇者、久々津誠一郎の肉体に魂を戻し、今一度(ひとたび)この世界に残照せよ」

 手を合わせ、片膝を着いて天を仰ぎ祈る。

 熟練の聖職者ですら泣いて讃えそうなほど堂に入り、一片の隙も無い完璧な所作によって行われた祈り。

 俺が行ったのは勇者の身体を一度資源(リソース)へと還元して、新たに天界から持ってきた資源を合わせてから勇者の身体を再構成すること。

 天使をして自由に力を使える転生課だからこそ出来る荒業といえる。

 光が収束し、人の形が見えてからポンっと勇者久々津が姿を現した。

「何がどうなって……」

 天の力でゆっくりを地面に降り立った勇者久々津は事態を飲み込めないのか自らの手を握ったり開いたり、辺りを見回したりしていた。

「んな……勇者が、生き返った……!?」

 ザコッシュの間抜けな声に久々津はようやく自身が再び肉体を得たことに気づく。

「ぬおおおお!身体!俺の身体だ!!」

 喜び勇み頬を引っ張ったり身体を叩いたりして喜びを全身で表す久々津とは真逆に、魔王は苦虫を噛み潰したような顔を作った。

 目の上のたんこぶだった勇者が居なくなったと思ったら、ものの1時間もしないうちに復活したのだ。気持ちは解る。同情する気は起きないが。

「我が怒りを剣に込め勇者久々津に託そう。受け取るが良い」

 俺は手に持ったスモールソードに天の力を纏わせ、やや無骨ながらも細部に細工の施された両刃の剣へと変える。ずしりとした重みを感じさせ、手に持つ事で誰かの怒りを感じさせる魔剣のような代物。

 剣を手渡された久々津は両手でしっかりと握り込むと刀身を額の前に掲げて俺に跪いた。

「天より授かりし剣、確かに受け取りました。命に変えても魔王を討って見せましょう」

 祈りを捧げるようにそう呟いた久々津は立ち上がると、両手で握ったまま持ち手を顔の右側まで持ち上げ、長い刀身をやや下げるようにして正面へと構えた。

 その構えは団長さんのものとよく似ている。

「先程からおかしな事ばかり起きる。我の力で破れぬ結界に、勇者の復活。貴様!この世界の住人では無いな!」

 魔王は怒り狂い闇の炎と思わしき魔法を乱雑に放つ。しかし、そのいずれも天塁壁(ヘブンズランパート)の前に霧散する。

「この力!我の力によく似ていながら全く違う力!おのれ!何故だ。何故管理者が地上に居るのだ!」

 負の資源を噴射するというロケットのような推進力で俺と久々津のいる方向へ飛び込んできた魔王を久々津が剣で受け止める。

「っぐ……重っ!!」

「堕落してた勇者なんぞに止められぬわ!!」

 腕を振り抜き、受け止めた久々津を剣ごと押し返すようにして弾き、そのまま爪を突き刺そうと腕を出す。(すんで)のところで爪を掠めながら、身体を捻ることで避けた久々津だったが、速度に寄って生まれた衝撃はまでは受けきれずに吹き飛び柱に打ち付けられる。

 漫画の描写の如く柱に人形のヒビを作る。

 もしも久々津が人間ならば頚椎(けいつい)背骨(せぼね)が折れてもおかしくないだろう。だが、久々津は“勇者”だ。()()()()()()()()()

「冥府より来たりし闇よ。光を飲み込め!《暗黒貪食(グラトニー・ポー)》!!」

 柱に打ち付けられた久々津に対して魔王が光すら飲むような黒い魔法で追撃する。

「やべっ―」

 回避行動の遅れた久々津に魔法が襲いかかる。

「―させません!!」

 もう駄目かと思われたタイミングで団長さんが割り込み、魔力を纏わせた剣で魔法を受け止める。

「これは……!長く持たないっ!」

「任せろ!」

 魔法を受け止めたはいいが、威力が強すぎるためか押された団長さんが苦悶の表情を浮かべる。そこにザコッシュが得意の爆発による加速を使って久々津を救い出す。

「もういいぞ!」

 ザコッシュの合図と共に団長さんは真横に飛ぶようにしながら魔法を反らす。

 素晴らしい技量だが、強引に割り込んだ代償が剣に現れる。たった一撃受け止めただけで、柄に装飾の施されたキレイなロングソードに亀裂が走っていた。

「力を過信するなと散々教えただろう」

「ごめん」

「彼の者の傷を塞げ《応急手当て(ライトエイド)》」

「助かるよ団長」

「……もう剣がボロボロでね。次は助けに入れるとは限らないぞ」

「解ってる。もう油断しないよ」

 身体の調子を確かめるように腕を回し、久々津は剣を構え直す。そんな様子を見て魔王は苦虫を噛み潰したような顔で3人を見下ろす。

「イエナ!支援してくれ!」

 2人より前に出て牽制に走ろうとするザコッシュが俺に向けて叫ぶ。だが、俺は否定する。

「何故だ!」

「既に我は十分に助けを出している。後は其方(そなた)現界(げんかい)の者が解決すべき事柄(ことがら)である」

「はぁ!?意味わからねぇよ!」

 実際、俺は場の負の資源を抑え、ザコッシュと団長さんには負荷を軽減する加護を与え、更には勇者の再構成まで行っている。

 これ以上の手助けはもはや助けではなく、お節介と言えるほどに。

 魔王の出現はこれっきりではない。毎回転生課や管理課から助けを必要とするようでは駄目なのだ。

「傭兵さん。恐らくだがこれはこの国の、いや俺達イカニモナに住む全員の問題なんだ。彼女におんぶに抱っこで居るわけにはいかないのだろう」

「……後で説明しろよ。イエナ」

 なにかに感づいていそうな団長さんの言葉に不満げながらもザコッシュは武器を構え直して今度は団長さんに支援魔法を頼んだ。

「あんたは防御と支援に徹してくれ、後は俺と勇者の小僧でやってやる」

「小僧じゃない。久々津誠一郎だ」

「解った。頼むぜクグツ」

 ザコッシュはニヤっと笑ってから、

「とにかく俺が暴れて引きつける。隙を見つけて仕留めるんだ。そのすげぇ剣なら魔王を殺せるんだろ?」

 そう言った。その問いに久々津は頷いて答える。

 彼らは強い。生まれたばかりの魔王ごときにやられることはないだろう。それも攻撃を防がれたことに狼狽(ろうばい)して勇者たちが態勢を立て直す猶予まで与えてしまうような魔王には。

「よう。待たせたな魔王」

「なにやら策を練ったようだが無駄だ!当代の勇者は性に乱れた(うつ)けよ!我が力でねじ伏せてくれるわ!」

「全力で行くぜ!」

 言うやいなやザコッシュは跳ぶ。(弾丸男)《バレッドマン》に相応しい彼の得意技。そう思われたが、速さが段違いで違った。

 俺の与えた加護と団長さんから受けた支援魔法によって人智を超え、文字通り爆発的な速さを生み出しているようだ。

 どうでもいいけど、よくあの速度で動体視力が追いつくなと思った。俺なら自らの身体を操りきれずに壁にぶつかっていると思う。そもそも肉体強化魔法がなければ風圧で身体が持たないのではなかろうか。

「喰らえや!《神風(カミカゼ)》ェ!」

 音をも置き去りにした剣閃が魔王を襲う。

「何という重さ……!!」

 刃は届かないまでも、速度によって生まれた衝撃までは防ぎきれないのか魔王はザコッシュの攻撃にややのけぞった。

 ザコッシュは切り結ぶことなく、そのまま魔王の脇を抜けると爆発を利用して要因に急旋回をして更にのけぞった魔王へ追撃を仕掛ける。

 躊躇(ためら)いなく喉元を狙い剣を振り抜く。が、やはり闇の衣によりその切っ先が届くことは無かった。

「速く、正確。だが、それだけでは我は倒せぬ!」

 負の資源を闇の力として操る魔王は、この世界の法則で計ることが出来ない存在と言える。

 確かにザコッシュの攻撃は速度に質量が合わさりとてつもない破壊力を産んでいる。少なくとも音速を超えている時点で衝突で産まれるエネルギーが凄まじい事になっているはずだが、どうやら衝撃波(ソニックブーム)すら届いてないようだ。

「いくらなんでも硬すぎんだろ!!」

 爆発を利用して跳び続けるザコッシュを久々津が止める。

「ザコッシュ!……だったか?まあいい。とにかく一旦止まれ!このままじゃ建物が持たない!そもそも合わせようにも見えねぇし衝撃波スゲェし!」

 ザコッシュが答えに応じ止まるとスイッチするようにして久々津が紫電の魔法を放つ。

「すまんな。自分でもびっくりするくらいノっちまってよ!」

 今度はその魔法を防ぐために突き出された魔王の手元を狙ってザコッシュが剣を振るう。

「俺に合わせてくれ!お前に合わせるのは無理だ!」

 合わせるのが無理と言いつつ、剣を止められたザコッシュへ魔法を放とうとする魔王の脇を逆袈裟(ぎゃくけさ)に切り上げる。

 ほんの一瞬、ザコッシュへ気を取られ勇者への警戒を(おこた)った魔王の右腕が飛んだ。

 真っ赤な鮮血が振り抜かれた切っ先に沿うように弧を描く。

「ぐ、あああああ!!!?我の、我の腕が!!許さん!許さンぞォ!!」

 怒り狂い、獣の如く勇者へと襲いかかる魔王。しかし、振り上げた左腕は光の壁に阻まれ振り下ろす事は叶わなかった。

「私を忘れてもらっては困りますよ!」

 結界魔法を生み出した団長さんが自慢気に笑う。

 そしてその隙を逃すはずもなく、久々津が今度は真正面から剣を振り下ろす。

「くっそぉぉ!!」

 脳天をかち割らんとする久々津の剣を魔王は既の所で防ぐ。だが、受けきれずに左手が切り落とされた。

何故(なぜ)だ!なぜ天は人に味方する!我とてこの世界に産まれた住人だ!どうして我を滅さんとするのだ!!」

 手のない左腕で、落とされた右肩を庇い、よろよろと後退する魔王は吠える。その怒りの矛先は俺へと向けられていた。

 魔王は負の資源を使い止血する魔王だったが明らかに弱っており、もはや浮いていることも出来ず今にも膝を折りそうに成っている。それでも確かな殺意をその目に宿す。

 場に静寂が訪れた。

 本来なら魔王に回復の暇を与えずにさっさとトドメを刺すべき状況であるはずだが、意識のないセレブダロウ王を除く誰もが、魔王の問いに対する俺の言葉を待っていた。

 別に答えてやる義理はない。そもそも天界の、神や天使の存在を現界(げんかい)に知られては行けないという依頼になっている。

 それでも俺は口を開いた。何も知らぬまま産まれてすぐ死んでいく存在に(あわ)れみを感じたからだ。

「……()達は誰の味方をしている訳でもない。ただ世界をこちらの都合に合わせるようとしているだけだ」

 誰に言われたでもない、負の資源の持つ力によって意思を捻じ曲げられ、ただ世界のシステムによって動かされている哀れな存在、魔王。

「俺は仕事として、己の部署とクライアントの意向を達成すべくここに居る。あんたはただ、その神の正義(意向)に沿わない存在だったってだけだ」

「そん、な。我は……」

 望んで生まれたわけでも無いのに、産まれた時点で業を背負わされ、挙げ句の果てに理不尽な暴力で消される。

 魔王は崩れ落ち、項垂れてしまった。

「……介錯(かいしゃく)してやれ」

「ああ……」

 俺は久々津にそう命令した。

 スッキリしない終わりだが、仕方のないことなのだ。魔王の命を絶たねばイカニモナは負の資源を溜め込みいずれ荒廃(こうはい)していってしまう。

 魔王の首が落とされる所を俺は目を逸らす訳にはいかない。何故なら魔王は俺が、俺の意思で殺したのだから。

 俺はこの世界に来て沢山の魔物の命を奪ってきた。それらは意思疎通の出来ない言わば害獣のようなものと割り切った。だがしかし、魔王は違う。言葉を介し意思の疎通も取れた。

 気づくと頭の中で魔王を殺したことへの正当性を考えていた。握り込まれた手は汗でじっとりと湿り、鼓動は早まり、無意識に噛み締められていた顎が痛みを発する。

 これが、人を殺す。ということなのだろうか。

 

「なあ、もしかしてお前って……」

 

 

 

……To Be Continued





今回はどうしてもキリの良いところが作れなかった。

今回で八話終わらすつもりだったけど駄目だった。

とは言え、ようやく魔王討伐です。

自分で書いておいてあれだけど、すっごく釈然としないよね!


さて、なにはともあれ次回はイカニモナ編の終わりと、エピローグに差し当たっての回答編です。

何の回答かはお楽しみに。ではまた!
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