転生業務課は本日も大忙しです 作:通りすがりのめいりん君@すきょあ
「なあ、もしかしてお前って……」
「どうかしましたか?」
ザコッシュが何かを言いたげにしているのを無視して俺は微笑みながらはぐらかす。
「いや……。やっぱいいわ。そういえばアイツは?」
答える気の無い反応を察したのかザコッシュは話題を変え、
「あの子は……」
どう答えるべきかわからずに言い淀んで部屋の入口へ目を向ける。
「ティースのやつがどうかしたのか?」
「あっ……。その、だな」
怪訝そうな顔をするザコッシュに久々津が目を泳がせながら申し訳無さそうに言葉を選ぶ。
今更だが彼女は死んでない。確かに肉体が炭化したが、天使や神にとっては“それだけのこと”で済ませられる。
先程、天使としての力を使っていた時に気配も確認した。今はまた現界へ降りてきているようだ。
天使になる前に説明は受けていたはずなのに、気配を感じるまではその事を忘れ、死んだと思っていた。いや、そもそも生きてるとも言い難いのだが。
俺の肉体にしたって、このイカニモナにおいて活動するために創造されたもので俺本来の肉体ではない。
久々津は自分が殺してしまったと思っているのか、しどろもどろになりながら「部屋が、俺が……」と少しずつ話そうとしていた。
「何をどもってんだ?ティースに何があったんだよ」
「それは、えっと、その……」
痺れを切らしたザコッシュが久々津に詰め寄る。そのタイミングで部屋の入口に人影が現れる。
「アタシがどうかしたのか?」
気配を感じ取れていたのでわかっていたが、どうやら入るタイミングを伺っていたらしいネフティスがわざとらしくボロボロの衣服を身にまとって現れた。
「なんだ。無事じゃねーか。ビビらせやがって」
ザコッシュは久々津の頭をグリグリと強く撫でてから軽く手を上げてネフティスを呼んだ。それから団長さんと久々津を指差して「治療してやってくれ」と言った。
団長さんは強がっているものの剣を握っていた指の骨がひと目で分かるように折れていたりと決して軽い怪我ではなかった。久々津もまた魔王によって与えられた傷で衣服のあちこちに赤い滲みを作っている。
「何よ。アンタが一番ボロボロじゃない」
ネフティスの言うようにこの中で一番の重症者は間違いなくザコッシュだ。
与えた加護や団長さんの補助魔法などで能力を高めた結果、亜音速に近い速度で動き回った結果、空気抵抗により上半身の服は跡形もなく消え去り、肌の一部が
「お前こそボロボロだぞ」
「アタシはもう治したからボロなのは服だけよ。あーもう痛々しいわね」
「良いんだよ。死にゃしねぇ」
「跡が残るでしょ跡が。全く……。天の御心よ今ここに《ハイヒーリング》」
ネフティスが魔法を唱えると、ザコッシュの身体が淡く光を放ち、爛れた皮膚がみるみるうちに元に戻った。同じようにして久々津と団長さんにも回復魔法をかけていく。
最後に王へ天の力を使った何か別の術をあたかもハイヒーリングかのように見せてかけた。
「言っておくけど、血が戻ったわけじゃないから。水を飲まないと脱水症状で死ぬわよ」
「ああ、サンキュ。……やっぱ回復魔法はすげぇな」
「崇め奉りなさい」
「はいはい。助かりました」
2人がじゃれ合っている間、俺は今回の依頼を振り返っていた。
多分、間違えていないはずだ。この依頼は恐らく
「久々津さん、少しよろしいですか?」
「!?はい!?」
俺はあることを確かめるために久々津を呼ぶと、イエナとしての口調で呼んだためか久々津は目を丸くして驚く。とはいえ、そんな事にいちいち反応していられないのでスルーして話を続ける。
「私との契約を覚えていますか?」
「あー……。そういえば契約書になんか色々書いてあったっけ……」
明らかに読んでいない事がわかる反応に俺はため息を付いた。契約書にはそこまで難しいことは書いていなかったというのに。
まあ、読まないだろうと思って契約書を作っているのだが。
ちなみに契約内容は、
1、甲―イカニモナ管理課―は乙―久々津誠一郎―に勇者として世界を管理する上で必要な力を与えなければならない。
2、乙は与えられた力を使い、甲の意向に沿って動かなければならない。
3、乙の魂は死後、天界において
4、乙は天界について知り得た事を口外してはならない。
5、上記に反する場合は乙を
以上の事に同意する場合は署名すること。転生課所属、
こうなっている。
「……そんな契約だったのか」
「という訳ですので、まずは魔王と貴方のせいで混乱している情勢を安定させ、国の立て直しをしなさい。言っておきますが
「ま、マジすか……」
「マジです」
実の所、“5”の項目は有っても無くても変わらなかったりする。契約書に署名した時点で契約書の力によって久々津は無意識のうちに
そう、強制力。俺が確認したかったことの1つがこれだ。天使の持つ知識の中に契約書についてそう記憶されていた。
以前、イスラに『元の肉体に引っ張られすぎている』と言われたが全くもってその通りだ。俺は天使の力も知識も全然活用出来ていない。
ともあれ、これで勇者の処分と情勢の安定、それぞれ依頼にあった事は達成したと言える。情勢については即効性ではないものの、契約書の強制力で久々津が時間がかかったとしても解決させるだろう。
「ティース、私達は一度帰りましょう。そろそろ王が目を覚ましそうです」
「ん?ああ、そうね。ほら、雑魚も出るわよ。起きたときに
「雑魚じゃねぇし!ったく、んじゃとりあえず俺達は帰るからクグツの坊主と団長さんで事後処理頼むわ」
「え?あのっ!ちょっと」
「よろしくおねがいしますね。団長さん」
「……あ、はい」
後のことを丸投げし、俺達は王城から立ち去った。こそこそしながら。
困ったことに、魔王が消え、久々津の傀儡化能力も消えた結果、城内の兵士は正気を取り戻し、目が冷めた者から順に慌ただしく駆け回っていたのだ。
一時はどうなるかと思ったが、ネフティスが姿を消す魔法を使ってくれたおかげで事なきを得た。
城内から出た後はザコッシュとも別れ、俺とネフティスは初めにイカニモナに来たときと同じ隠れ家へと向かった。
「そういえば勇者の部屋と生き残りの女の子達は?」
俺は適当な椅子に腰を降ろして、久々に自らの姿へ戻してからネフティスに聞く。
「死体を消し、娘達の記憶を改変しておきました。勇者やマイザに関する記憶を消して、私達の事は王に呼ばれた事になっています」
「それで王様にも記憶改変を施したのか?」
「はい」
「
「……お気づきでしたか」
「研修、だったんじゃないか?」
「本当に良い目を持ってますね……。探偵か小説家への転向でも考えてみてはどうでしょうか」
ネフティスは態とらしく肩をすくめて見せた。
「その通りですよ。
「久々津が操っていると思っていた王様が魔王、かはともかく他の何かに操られてることが判った」
「そうです」
恐らくネフティスが気づいたのはこの世界に来たとき、初めにしていた偵察で判明したのだろう。
研修として俺に力の使い方を教える合間にそれを探っていた。
「魔王が顕現していたのは誤算でした。勇者が城に張っていた結界のせいで
『はいぃ~。ですのでぇ、急遽予定を変更したんですぅ』
「―!?っと……。ああ、イシスさんですか、びっくりしました……」
唐突に入り込んできた声に驚いたが、間延びした話し方ですぐにイシスであることに気づいた。
あの時、怒りに任せて久々津に剣を振り下ろそうとした時に聞こえたのもイシスの声だった。
「一旦、戻りましょうか。管理課の方で全てお話しますよ」
椅子から立ち上がり背伸びしながらネフティスが言った。最後に「お姉ちゃんが」と付け加えて。
笑って良いのか困惑する俺を置いてネフティスは手を差し伸べてくる。俺がその手を取ると身体は光に包まれ、眩しさに閉じた目を開いた時にはワークデスクが並ぶ管理課の一角へと帰っていた。
……To Be Continued
ちょっと短いんですけど、キリが良いのでここで切りました。
というか毎回切りが悪いっすね!!
次は頑張って早く投稿するよ!多分、きっと、おそらくは!
てな訳で次回!転生課第九話「転生課は本日も大忙しです①」お楽しみに!