転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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休暇から帰ってきて一気にかきあげました。
終りが見えてきて非常に楽しいです。


エピローグ:転生業務課は本日も大忙しです①

 様々な出来事を超えて、俺は久々に転生課へと戻ってきた。

 地球とは時間の流れも日付感覚も違うけれど、体感的には一月ほど空いていたように思う。

 実際、デスクの上の書類をどかし、置いていた地球の時間に合わせた時計を見ると、DATE機能が依頼開始から一月半経っていることを示している。

 3月24日。俺が死んでから3ヶ月程のときが経ったことになる。同時に、転生課(ここ)で働き始めてからも3ヶ月という事にもなるか。

「おかえり」

 書類の山で壁になった机から掠れた女性の声が聞こえる。

「ただいま戻りました。大丈夫ですか?随分と、こうコミカルな机になっていますが」

 心配するべきかどうするか迷ったが、あえて少しおどけて様子を見ると、イナンナは声を荒げ、

「大丈夫な訳ないでしょー!」

 吠えた。

「ブーティカのやつ責務(せきむ)を放り出して逃亡したのよ!ただでさえエルラドの管理の件で仕事が増やされていたのに、逃亡してくれちゃったおかげで更に仕事が増えてるんだから!イカニモナの件の報告は後で良いから長瀬くんもとりあえず作業に取り掛かって頂戴!」

「は、はーい」

 書類の山が出来上がっていたのはその所為(せい)だったのか。

 俺は明らかにピリピリしているイナンナを刺激しないようにコーヒーを2杯淹れ、そっとイナンナの所に置いてから席につく。まずは書類を分類分けして、一番簡単な悪魂(あくこん)の転生に関わる処理をしていく傍ら、今回のことを振り返って考えてみた。

 今回の発端はイカニモナに召喚された勇者久々津誠一郎(くぐつせいいちろう)が勇者としての使命を放り出して色欲におぼれてしまったことから始まる。

 なんとかしようにも勇者は城に結界を施し、管理課からの手出しが出来ない状態になった。そのため管理課は現界(げんかい)でも問題なく能力の行使が出来る転生課に応援の依頼をした。

 しかし、これは表向きの理由で実際はイナンナから管理課に、俺が天使として、転生課として能力を使えるようになるための研修だった。そのため、依頼は非常に簡単で本来ならネフティス1人だけでも解決できるような極々些細(ごくごくささい)な問題。のはずだった。

 ここで更なる問題が発生した。管理課は勇者が国を操っていると見ていたが、実際のところは勇者の他に国を操っているものがいたのである。しかし、結界のため深入り出来ず。調べるためにも本来の目的通り、色ボケ勇者に招き入れてもらうために、あえて派手な冒険者活動をした。俺が能力を使えるようにする練習も兼ねて。

 そうした活動の傍らで俺はネフティスの動向に不信感を覚え、独自に探りを入れ始め、ネフティスはネフティスで俺が普通の天使ではないことに気づき、探りを入れていた。

 そして俺が『神の正義』の意を持つザドキエルという天使としての真名(まな)を持つことが判明した。

 正直、平社員からいきなりの重役に戸惑いしかない。『神の正義』だなんて大層な肩書も重くて仕方ない。俺はそんなに大きな人ではないのだから。

「ふぅ……」

 山一つ分を処理し終えた俺はすっかり冷めているコーヒーをズズズと(すす)る。酸化したコーヒーの強い酸味と雑味が脳を刺激し、いくらか意識がハッキリとする。

 眠気が襲ってこないとはいえど、精神的な疲れは溜まる。

 そうこうしている内にまた天人(てんじん)の男性が書類を抱えていそいそと入ってきては置いていく。減ってはいるはずだが、途中で増えるものだから全然進んだ気がしない。

 小さく息を吐き、残ったコーヒーを一気に飲み干してから俺は備え付けのコーヒーサーバーからコーヒーをマグカップへと注ぐ。

「私にも頂戴ー」

 席へ戻ろうとする俺にヨレヨレな声のイナンナが書類の山の隙間から腕だけを出して言う。

 もはやギャグのような光景に俺は思わず笑みが漏れながらも「どうぞ」と言いながらマグカップを渡す。

「ありがと」

「いえ」

 簡単な返事で会話を終わらせ、再び席に座り残りの山を崩しにかかる。

「そういえばさ」

 ある程度、作業が進んだところで唐突にイナンナが話しかけてきた。

 俺は作業の手は止めずに「なんですか?」とだけ返す。

「私の姿を使ってみて、どうだった?」

「ぶっふぉっ!!?」

「何をびっくりしてるのよ。バレてないとでも思っていたのかしら?」

「えっと、それは、その」

「私の身体、使ったのでしょう?」

「うっ……」

「恥ずかしいとこも全部、見たのでしょう?」

「それはっ!」

「それは?」

「………………」

 なるべく見ないようにはしてたけど、1月も生活していれば見ちゃうことも有ったわけで。

「くくく、あははははは!」

 どう言い訳したものかと焦っているとイナンナが急に笑い出した。

「いひひ、あーははは!いやー笑った笑った。ふふふ、別に責めてる訳じゃないのよ。そりゃあ勝手に姿を使われたのは少し気恥ずかしさもあるけれど、そこまで狭量(きょうりょう)じゃないわよ。これでも神ですから」

 姿は見えないけれど、声からしてドヤっている感じが伝わる。ともあれ助かった。勝手に姿を借りていたことを今の今まですっかり忘れていたから。

 でも確かに、胸やクビレ、脚などの女性らしいラインを見てしまっているのである。いくら女体化しないと行けなかったとはいえ、セクハラどころの話ではない。まあ見れてラッキーとは思ってしまったりしたけど。ちょっとだけ。

「あー本当に気にしてないから、そんな気に病まなくていいよ」

「……はい」

 社会人なんだからコンプライアンスくらい考えるべきだったと今更ながら反省する。散散(さんざ)っぱら会社で言われてた事なのに。

「反省より今は作業のが優先ね」

「はい」

 それからたまのコーヒータイムを除いてずっと山を崩すべく作業を続け、気づけばデスク上の時計はそろそろ26日になろうとする時間を指し示していた。

 大量にあった山はその殆どが処理され、机らしい見た目に戻っている。イナンナの机はまだ山が残っているものの、隠れていたイナンナの姿が見える程度には片付いていた。

「流石ね。ブーティカとは作業の速さが段違いだわ」

「えと、ありがとうございます?」

「なんで疑問形?まあ良いわ。少し落ち着いたし、イカニモナに関する報告を聞いちゃおうかしら」

「あ、はい。わかりました」

 俺はイカニモナ管理課に行ってから、転生課へ戻るまでのことをざっくりを話す。城に行き、魔王が現れたことや勇者の再構成をしたことなど重要そうな部分は詳しめに。

「いくつか聞いておきたいことがあります」

「何かしら」

 この展開が判っていたのかイナンナは俺の態度を見ても眉一つ動かさない。

「まずは俺の真名についてです。イナンナさんは当然ご存知でしたよね?」

「ええ、そうね。私が昇華の際に指定したことだからね」

「あんな別の人格みたいなの聞いてなかったんですけど?」

 多少の恨みを込めてイナンナにジト目を飛ばすと、イナンナは苦笑しながら、

「別の人格ではないわ。それは長瀬君が長瀬君自身の感情を抑制(よくせい)しただけね。恐らくそのままでは精神に負担がかかってしまうから自己防衛のために無意識下で能力を使ったのよ」

 そう答えた。

「よくあることなのよ。勇者でも転生者でも、生き物を殺す事、傷つける事に慣れてない者は特にね」

「そうでしたか……」

「まあ、伝えてなかったのはわざとだけどね」

 おい、と思わずツッコミを入れそうになるのを(すんで)で抑える。

 そこからまた説明に戻り、最後まで話した所でイナンナは俺に「よくやった」と(ねぎら)いの言葉をかけてくれた。

 これで報告は終わりだ。だが、まだ話が終わるわけではない。管理課で確かめたことと合わせ、答え合わせしなくてはならないことがいくつかある。

 まず、大きなものから。

「イナンナさん」

「ん?」

「イナンナさんは()()()()()()()()()のですか?」

「全部知っていたわ。イカニモナに魔王が生まれていたことも、勇者が操り人形に成りかけていたことも」

「やはり、でしたか」

「『どうして?』って聞かないのね」

「なんとなくわかるので」

「えー……」

 不服そうな声を出すので仕方なく聞き返すことにした。

「……どうしてですか?」

「よく聞いてくれた。天部の部長でもある私のもとには各世界の資源(リソース)情報も入ってくるのである!」

「なるほど?」

「これを見てみ」

 そう言いながらイナンナは一枚の紙を手渡してくる。

 見れば、そこにはグラフでイカニモナの資源情報が描かれていた。

「ここ、急に負の資源が増えている。それと同時に天の力が弱まっているのもわかるでしょ?こういう動きから勇者が劣勢なのか、魔王は倒せそうなのかとかも見てるのよ。そして力が足りなさそうなら管理課へ通達して勇者のサポートを促すってわけ。結構大変なのよ?」

「それって管理課の仕事じゃないんですか?」

「うん……本当はそう……」

 シュンと肩を落として力のない返事が帰ってくる。

「500年くらい前かな?管理部の部長だった男神(おがみ)がメンタルブレイクしちゃって部長から外されてね。その時、管理部の部長も任されたのよ。一時的なものはずだったんだけど、なんか後釜になる人が来なくってそのまま」

「うわぁ……」

 余りの酷さにかける言葉も見つからない。というかこの組織大丈夫なのか?

「まあ、そんな訳でイカニモナの状況は知ってたわ。知った上で長瀬君に丸投げしたわ」

 丸投げって言いましたよこの女神。

「長瀬君の成長のために、仕方なくよ。決して対処が面倒だったからじゃないわ」

 しかもなんか言い訳し始めたんですが。

「長瀬君、要領(ようりょう)良いし、なんとかしてくれると信じてたわ」

「おい」

「そんな怖い顔しないの。ある程度はイシス達の裁量(さいりょう)でやらせないと管理課の責任問題にもなっちゃうし」

「あー、そういうのもあるんですね」

「まあ長瀬君に丸投げしたのは本当なんだけどね」

「おいこらダ女神」

 自白しましたよこの女神。

「何か有ったときのためにイスラに監視させてたから、もしもの時はイシスに連絡して解決させるつもりだったのよ」

「見られてたのか……」

 なんとなく監視されていたことを知り、背筋がゾクっとする。俺はもちろんのことネフティスも気づいていなかったはず。しかもイナンナの言い方だと初めから見られていたと思われる。それも1月以上の間、気づかれずに。

 そういえばイスラも真名のある天使だっけか。やっぱ能力もすごいのだろうか。

「なにはともあれ、長瀬君。君はすごいわ。ただ管理課の言うことに流されるだけじゃなくちゃんと考えて事態を解決してきた。しかも女体化と言う今までの人生では考えられないような状況に置かれても自分を見失うことも無かった。合格だわ」

「合格、ですか」

「試用期間ってあるでしょ?」

「ああ、丁度3ヶ月くらいですもんね」

 試用期間とか今はじめて聞いたわとか言いたかったけれどやめておいた。これはもうそういう組織なんだと思う。大人には諦めも必要だ。それに、何言っても何やってもイナンナの手のひらの上から抜けられないような気がするし。

「そんなことないわ。これでも綿密(めんみつ)な計画を立ててから、その場のノリで送り出しているわ」

「さっきから随分と言葉がはっちゃけてませんかねぇ!?というかどんだけ心を読んでいるんだよ!」

「だってもう取り(つくろ)う必要ないし?優秀な手駒(てごま)が手に入ったし?」

 この女神、猫かぶってやがったのか!

「そうでーす。これが私の素でーす。長瀬君にはこれから私の手となり足となりキリキリと働いてもらいまーす」

「…………」

 あまりの変貌(へんぼう)っぷりに思わず言葉を失い、顔もなんとも言えない表情のまま固まってしまう。いわゆる絶句。

 大人には諦めも必要だとは言ったけれど、すぐに状況を飲み込めるわけではないと思います。

―コンコン

 そんななんとも言えない空気が(ただよ)う転生課内にノックの音が響いた。

 

 

……To Be Continued




なんやかんやで休暇を挟んで1月くらい空いちゃいました。

その間、私は転職活動に勤しみ、内定と勝ち取ってきたので後は現職の任期満了まで悠々と過ごすだけで済みます。

作品の方はと言いますと、長くなったこの作品は長瀬君の壮大な研修のお話でした。

詳しい事はまた作品内で語るつもりですが、ようやく1つの区切りが終わりそうで安心しています。

とはいえまずは完走させないとですね!

それではまた次回、お楽しみに!
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