転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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ついに、最終話です。


エピローグ:転生業務課は本日も大忙しです②

「どうぞ」

 イナンナの事務的な返事を返すと扉は開けられ、2人の人物が入ってきた。

「どもどもぉー。イナンナさんお久しぶりぃですねぇー」

「失礼します」

 部屋に入ってきたのはイシスとネフティスの2人だった。

 どうしてと思ったが、ブーティカが来た時も管理不備に対する罰則としてだったから、おそらく2人もそうだろう。

「さっきぶりですね」

 そんなネフティスの挨拶に「俺の感覚では数日ぶりですけどね」と返した。しかしネフティスはよくわかってなさそうな顔で軽く首をかしげた。

 途方も無い年月を生きているであろう神や天使からしたら2日、3日なんて本当に“さっき”なのであろう。

 俺は時間間隔の差に苦笑しながらも、2人の来訪目的を聞いてみた。

「姉さんは今回の魔王の一件と、貴方の研修に関する報告です。私は管理不備に対する罰則で転生課に出向です」

「ああ、なるほど」

 どうして2人も来たのかと思っていたが、なるほど。

 ネフティスは挨拶も早々に俺の机から書類の山を1つ取ると、空いてる机を勝手に使い、イナンナに一言断ってから仕事を初めた。これが1度目じゃないので仕事の説明などは要らないそうだ。

 イシスもイナンナと話し込んでいるし、俺も作業に戻ろうと机へ向き直したと同時にイナンナから声がかかった。間の悪さを感じながらもインナの方を向く。と言っても書類で顔が見えないのだが。

「改めてイシスから総評(そうひょう)を聞いたわ」

「あ、はい」

 何を言われたんだろう。そんなことを思いながら次の言葉を待っているとイナンナは俺の常識では測れないトンデモ発言をぶちかましてくれた。

「君、1度も死ななかったんだってね!?」

「いや1度でも死んでたまりますか!」

 反射的に突っ込んだ俺は悪くないと思う。死を当たり前みたいに言わないでほしい。

「死ぬ感覚に慣れておいたほうが後々楽よ?」

「そうだよぉ。肉体の死に慣れておいたほうがか、便利なんだよぉ」

 イシスまでイナンナの言葉に乗ってそんなことを言う。助け舟を求めてネフティスを見ればそちらも頷いていた。我ニ味方ナシ。

 そういえばネフティスは勇者の攻撃で消し炭にされていたし、あの様子では死ぬのも初めてではないのかもしれない。

 こうして考えるとやっぱ皆人間ではないんだなと思う。

「そういえばなんですけど」

「どうした?」

 死についてのことでふと思い出した。

「エルラドに行ったときに、首を飛ばされてるんですけど、死ななかったんですよ。意識もはっきりしていて、『戻れ』って念じたら身体も元通りになりました。思えば、イカニモナでは天の衣のお陰で(かす)(きず)すら負っていません。そもそもの話として俺は死ねるのでしょうか?」

 首が飛んだ時にしたって俺は血の一滴(いってき)すら垂らしていない。切れた首の断面を見たわけではないが、今の身体に血が流れているのかすら怪しい。

 例え胸に穴が空いていても平然(へいぜん)としていられるような気すらする。

「んー。死ぬときは死ぬんじゃないかしら」

「そんな適当な」

「今の長瀬君は無意識(むいしき)に力を使っているから、死のうとしてもそう簡単には死ねないと思うわ。でも、首を斬られた様に完全無敵ではないし、死ぬときは死ぬ」

 イナンナは「でも」と言葉を続ける。

「私達が言いたいのはそういうことではないのよ。この先も転生課として働いていれば派遣先で天使として『殺される』ことや、『死んだように見せかける』ことが必ず必要になってくるわ。そういう時にちゃんと『死ねる』ことが大切なのよ」

「仕事として死ぬ……」

「まあそういう意味でも今回の研修はいい経験になったんじゃないかしら。課題点(かだいてん)も残してるし、これからの成長に期待するわ」

 多分、いや間違いなく今まで聞いてきた中で一番のパワーワード。死ぬことを強要(きょうよう)される仕事とは一体。ブラック企業というかブラッティ企業というか。

「これからもよろしくね。長瀬君」

 姿は見えないがなんとなく名前の後にハートマークがついてそうな声色でイナンナが言った。

 こうして俺は研修期間を無事(?)に終え、正式に転生課の職員として働くことになった。なっちゃったのである。

 ところで、俺は1つだけ思っていたけど言わなかったことがある。イカニモナでは休息も取れたから良いとしても、働き続けで3ヶ月って実時間なら半年くらいになっているのではなかろうかと。

 まあ、天界に地球の時間間隔(じかんかんかく)を説いても仕方ないのだが。

 ともあれ、俺が転生業務課(てんせいぎょうむか)の正式な職員となり、これからも働き続けなければならないという事実がここにある以上、やるべき仕事はごまんとある。

「はい。これからも宜しくおねがいします。イナンナさん」

 俺は諦めて、これが新しい日常なのだと受け入れた。

 

 

 ***

 

 

 幾多(いくた)の山を作り連峰(れんぽう)と化した書類を切り崩しながら、俺はコーヒーを(すす)る。

 どういう訳か急激に増えた書類は処理する側から新しいものが天人(てんにん)によって運ばれて来て、もはや処理する速度を超えていた。

「流石に多すぎる!イナンナさん何が起きてるんですか!」

平行世界(パラレルワールド)同士が衝突して対消滅(ついしょうめつ)したって報告が、さっき届いたわ……」

 俺の(たけ)りに、俺よりも(ひど)い書類の山に埋もれた上司がしわっしわに枯れた声で答える。とんでもない事柄に俺は欧米人でもないのに「おーまいがー……」と声が漏れた。

 世界2つ分の魂が生命の樹(セフィロート)に流れてきているともなれば、弾かれた魂が膨大(ぼうだい)なのも納得できるが、いかんせん量が多すぎる。

「あ、でも罰則人員来ますよね……?」

 今まで通りならブーティカやネフティスのように出向された人員が来るはずだが、

「………………」

 イナンナは何も答えなかった。

「イナンナさん?」

「逃げた」

「え?」

「管理課の責任者が現界に逃げた。守護天使隊が追ってるけど、奴ら堕天(だてん)して天界を捨てたらしいわ」

「つまり?」

「捕まったとしても転生課(ここ)には来ない」

「Oh……」

 どうやら大変なことが起きているようだが、要するに書類の山々は全て俺達だけで処理しなければならないといけないらしい。

 こうして話している今も天人が部屋に入ってきては書類の束をドサッと置いていっている。

 あまりの多さに目眩がしそうだが、天使の身体がそれを許さないため仕方なく意識を保ったままひたすら心を無にして書類と戦う。

 やがて処理が追いつき、ようやく正面から書類が無くなった頃、俺は立ち上がり身体をグーッと伸ばす。もはや立ち上がることすらいつぶりか解らず、文字通り椅子に根を張っていたのではと思うほどの時間をかけていたようにおもう。

 しかし生前に比べれば良いものだ。腹も減らないし、喉も渇かない、目も、腰も痛くならない。眠くもならないし、()()()な苦痛は何一つない。

 イナンナの席を見ると、そちらも随分と書類が減りイナンナの顔が見えるようになっていた。

 随分と久しぶりに上司の顔を見たような気がするが、思い返してみればヘンリーの魂を転生課(てんせいか)へ連れてきた時が最後だと気づいた。

「おつかれさまです。コーヒー飲みますか?」

「……の゛む゛」

 髪は乱れ、口が半開きになり死に体な様子(ようす)のイナンナからマグカップを受け取り、既に()かれている豆を使ってコポコポとコーヒーを淹れる。

 コーヒーが波々と注がれたマグカップを手渡してから自分の分のコーヒーを口へ運ぶ。

 久方ぶりのコーヒーの苦み走った味と芳醇(ほうじゅん)な匂いが脳を刺激していくらか気分がしゃっきりとした。

 イナンナはコーヒーを飲んだ瞬間に、それまでの死に体が嘘のようにキリッとした表情になり、姿勢もピンと張って出来るビジネスウーマンのような雰囲気を醸し出している。

「なんか久しぶりに長瀬君の顔を見た気がするわ」

奇遇(きぐう)ですね。俺も久しぶりにイナンナさんの顔を見た気がしてました」

「そうそう、今回の原因となった例の男神(おがみ)共だけどね。捕まったわ。もう魂ごと処分したけど」

「……?あ、対消滅の」

「そう」

 時間が空きすぎてなんのことか解らなかったが、書類に追われる原因だと気づいた。そうか、男神だったのか。

 名前も顔も知らない相手だし、もう処分されてしまったのなら恨みようもない。

「まあ、世界の消滅(しょうめつ)自体はたまにあることだから、また起きたら頑張って頂戴」

「うへぇ……。わかりました」

 天界の人の感覚で“たまに”なら本当にたまになのだろう。そういうことにしておこう。

 コーヒーで軽く休憩した俺達は再び書類と向き合い、また仕事へと戻っていく。

 運ばれてきた書類を善魂(ぜんこん)悪魂(あくこん)に分けて、それぞれの処理方法で処理手続きをこなす、すっかり慣れたルーティンをこなし、コーヒーと紙の匂いで溢れた代わり映えのしない部屋で、いつまで経っても終わることのない仕事。

 ある意味で死ぬ前と何も変わらない日常で、今日も明日も明後日も休みなく働く。

 でも、美人な上司と2人きりで働くのは実はちょっと楽しいと思わなくもなかったり。

「長瀬君。悲しい知らせがあるわ」

「聞きたくありません」

資源(リソース)枯渇(こかつ)で世界が消滅したわ」

「聞きたくなかったのに!てか世界の消滅は“たまに”じゃなかったのかよぉ!!」

 前言撤回。

 やっぱ美人と一緒でも仕事に追われるのは楽しくない。

「働いていればいずれは起きうることだから諦めて」

「折角減ってきてたのにいいいぃぃぃ!」

 俺の悲痛(ひつう)な叫びが響く部屋に、次々に天人が入ってきては書類を積み上げていく。

 程なくしてイナンナの顔はまた書類の山によって隠され、俺の前にもまた連峰が生まれていた。

 この仕事に安寧(あんねい)はないと、俺は強引に理解させられるのだった。積み上げられた書類を処理しながらすっかり冷めたコーヒーを飲んで俺は思う。

 転生業務課は本日も大忙しです。

 

 

 

 

  了





~あとがき~

完結!
エタらなかった!私偉い!!褒めて!!

本当はもう少しあっても良かったのかな?なんて思わなくもなかったり、あそこの表現はもっと良いのが合ったんじゃないかとか、初めの方とか文章が雑だなとか、ストーリーをもっと上手く組めたんじゃないかとか、思うことは沢山ありますけど

とにかく完成できたことを喜ぼうと思います。

色々ありましたがここまで読んでくださった方に100万の感謝を!!
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