転生業務課は本日も大忙しです   作:通りすがりのめいりん君@すきょあ

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実はヘンリーは私のお気に入りキャラだったりします。


EX1:エルラドの勇者②

 

「勇者ヘンリーよ。来たときは幼子だった貴様も随分と大きくなったものだな。だが、ただ大きくなっただけでは無いことをそろそろ証明せねばならん」

 王の間で跪き、王の語る徳のなさそうな話を延々と聞いたヘンリーは最後に援助金を受け取ってから退室した。

 援助金が無ければ出席すらしたくなかった。実際、王の話の大半は「育ててやった恩を返せ、魔王倒してこい」これだけだ。

 あまりにアホらしい。ヘンリーは農村で静かに暮らしていたかった。父と母、そして兄の家族と引き離され、合うことも出来ずに気づけば10年以上経っている。もはや村が今どうなっているのかすら解らない。

「よう。話は終わったのか?」

 動きやすそうな軽鎧にポーチをいくつも付けた旅装備を身に着けた男が2人、俺の帰りを待っていた。

 彼らはアインスとトレス。此度の旅に同行してくれる仲間であり、ヘンリーも気を許している兄貴分である。

 ヘンリーは革袋に入った金貨をトレスに手渡すと出立の意思を伝える。

 今日は男がエルラドに転生して18年目。これからこの3人は魔王討伐のための旅に出る。

 そう、たった3人で。

 国として軍が出るわけでも、魔王領に隣接してる他国と連携するわけでもない。遠回しに『死にに行け』と言っているようなものだ。

 しかし、この国の王はそんなつもりで言ったわけでは無いことを3人は知っていた。この国の王は馬鹿なのだ。本気で勇者さえ居れば魔王を討伐出来ると考えている。

 もし本当にそうならば、アインスやトレスのような実力者を集めて挑むだけで勝てているはず。そんな事すら解らない愚者なのである。

「んで、坊主。どっから行く?」

「まずは魔王領に隣接してるデモニアを目指そう。何か情報が得られるかもしれない」

「おいおい、デモニアはうちの国と仲が悪いんだぞ。知ってるだろ」

「アインス……。前にも話したけど俺の故郷、ギユーの村はデモニアとも交友関係があったんだ。だから行きがけに村に寄って村長に紹介状を書いてもらうよ」

「ま、そういうことなら良いんじゃね」

 こうして最初の目的地を帰郷と決めたヘンリーは徒歩で街道を進み、道中いくつかの街に寄りながら3週間ほどかけてギユーの村に入った。

「ヘンリー、この村は一体……」

 村に入る際、隠蔽の結界を抜けてからトレスはずっと辺りを不思議そうに見ていた。

「そのうち解るよ」

 しばらく歩くと森を抜け、村らしい建物が見える平野が姿を表した。

 そこに居たのは動物のような顔付きだったり、尻尾が生えていたりする様々な獣人(じゅうじん)や頭に角のある魔族(まぞく)そして―

亜人(あじん)に、エルフまで……」

 尖った耳に長身で整った顔立ちの妖精族(エルフ)がさも当然のように農作業を行ったりしている姿があった。

「それにしても魔族がなぜこんなところで農作業を……。彼らは奴隷かなにかなのですか?」

 トレスの疑問にヘンリーは首を振って否定した。

「彼らは角や翼があるせいで魔物混じり(魔族)なんて呼ばれているけれど、実際は獣人族と同じただの人間なんだ。この村は、大昔に勇者が作り上げたと言われていてね。様々な種族の人達が身を寄せ合って暮らしている村なんだ。だから結界で村を隠しているし、魔族国家のデモニアとの交流もある」

「王国の書庫に情報のない村だと思っていましたが、そういうことでしたか……」

 納得した様子でトレスが頷く。

 ヘンリーは歩きながら変わりない様子の村に安心していた。もしかしたら自分が勇者として騎士団に徴兵された影響で村の存在がバレたりしたんじゃないかと思っていたからだ。だが、村は特に変わった様子もなく至って平穏な空気が流れている。

 まずは村で活動するために3人は里長(さとおさ)の家を訪ねた。

 村の中で最も大きな樹の根本をくり抜いて作られた家が里長の家だとヘンリーは言った。その樹は結界を抜けてからずっと見えているほど巨大な樹で、遠目からでも大きいのが見て取れたが、近づくと更に大きかった。直径が15(メートル)はある樹の根本に小さな扉がポツンと取り付けられている。

 ヘンリーは躊躇(ためら)いなくその扉を叩く。すると程なくして中から「入ってきなさい」と返事が帰ってきた。

「失礼するよ」

 一言断ってから扉を開けて入っていくヘンリーと騎士2人。しかし中に居た人物は特に驚きもせずにこう言った。

「おかえりヘンリー」

「ただいま。元気そうですね」

 椅子に座り柔和な顔で3人を出迎えるシワだらけで少し小柄な年老いたエルフの老人。(よわい)は千を軽く超えるエルフの中でも特別長命な彼は魔法を使い自身の前に3つの椅子を並べた。

「元気と言ってもお前さんほどではないよ。……随分と(たくま)しくなったじゃないか」

「騎士団で鍛えられましたから。それで里長、頼みがあるのですが―」

「―好きにせい。事情は精霊や木々から聞いておる。デモニアの商人が来るのは7日後じゃ。それまで里の(もん)に話を聞きたけりゃ聞けば良い」

「ありがとう里長!」

「ただし、あれこれするまえに両親にしっかりと顔を見せてやりなさい。あやつらもお主の帰りを待っておったぞ」

「……わかりました」

 ヘンリーは少し顔を落としながら静かに答えた。

 それから3人は里長が魔法で淹れたお茶を飲んでから里長の家を後にする。

 その後、里長の家から少し離れた所に立つ木造の平屋へ移動した。その家こそヘンリーがこの世界で育った家。

 扉に手をかけて固まるヘンリーに2人が声をかけた。

「どうしたのですか?」

「いや、どう入ったものかと思って」

「早く入ろうぜ。お前んちなんだろ?何をためらってんだよ」

「わかってるんだけど……」

 ヘンリーは一種の罪悪感のようなものに駆られていた。この世界に落とされてからたった5年とはいえ育ててくれた両親。感謝だってしている。だが、唐突に居なくなり勇者として帰ってきている。使命がある以上、この先、育ててくれた恩を返すことが出来るかどうかもわからない。生きて帰れるかすら判らない。そんな自分が親と再会する資格なんてあるのかと。

 自分は親不孝者ではないか。そんな思いから戸を開けずにいた。

「うちの前で何やってんだお前ら」

 そんな時、背後から声がかかった。

 声の主は2(メートル)を超す長身で、エメラルドのように輝く緑の鱗と丸太のように太く逞しい尻尾を持ったトカゲ顔の青年。彼を見たアインスは咄嗟(とっさ)抜剣(ばっけん)し切っ先を向けようとする。しかし、

「やめろアインス!」

 即座にヘンリーが声で牽制(けんせい)し、その切っ先は行方を失った後にゆっくりと鞘へ戻された。

「リザードマン、だよな?」

「違ぇ、俺は竜人族(りゅうじんぞく)だ。あんなトカゲの魔物を一緒にすんな」

「りゅ、竜人!?伝説では無いのですか!?」

 竜人と聞いたトレスが目を輝かせて竜人族の青年をまじまじと見る。

 竜人族の青年は奇異な様子のトレスにややたじろくが、扉の前にいる人物に気づくと目を見開いて詰め寄った。

「人間が居るだけでも驚いたが、お前、まさかヘンリーか!デカくなったじゃねぇか!」

「マラク兄……。久しぶり、だね」

 マラクと呼ばれた竜人族の青年は嬉しそうにヘンリーの肩をバンバンと叩く。それとは対照的にヘンリーの顔は沈み込みマラクから目を背けていた。

「なんだよ帰ってくるなら言えよな!元気そうで何よりだぜ!」

 尻尾を地面に打ち付け楽しそうに笑うマラクは、ヘンリーの様子を見て一瞬だけ何かを考えるような顔をしてから扉を開けてヘンリーを家に押し入れる。それから唖然(あぜん)とした様子の2人も招き入れた。

 アインスとトレスは不思議に思っていた。なぜならヘンリーはマラクの事を“兄”だと呼んだからだ。

 ここがヘンリーの実家で、そこに住む“兄”と呼ばれた竜人族の青年。普通に考えれば2人は兄弟という事になるが、ヘンリーは教会で認定された正真正銘、人間族の勇者だ。教会が嘘偽(うそいつわ)りを言っていないのであれば竜の血が混ざっているはずがない。

「母さん、居るか?」

 マラクが家の奥に向かって声をかけると「はいはい、居ますよ」と返事がした後にパタパタと音を立てて赤い髪の女性が現れた。その女性は、マラクとは違い人間族のように見える。その姿を見てアインスは納得した様子だったが、トレスは依然として眉根を寄せたままだった。

「あらあらあら、お客様かしら?」

 女性は柔和な笑顔で近づいてきたが、突如として驚いたような顔に変わり目にも留まらぬ速さでヘンリーに抱きついた。

「ヘンリー!ああ、また会えるなんて!よく帰ってきてくれたわね。元気だったかしら?ご飯はちゃんと食べてる?随分と逞しい身体になったわね。母さん嬉しいわ。立派に育ったわね。王都での暮らしは苦労してないかしら?」

 身につけている軽鎧が変形しそうなほど力強く抱きしめたまま涙を流し、ヘンリーに頬ずりする女性の姿を見たトレスは何かに気づき「やはり……」とこぼした。その(ささや)きは荒ぶる女性の声にかき消され誰の耳にも入ることは無かった。

「おかえりなさい、ヘンリー」

「た、ただいま……」

 熱烈な抱擁(ほうよう)から開放され、疲弊した様子のヘンリーはやはり沈んだ様子で自分の母親からも視線をそらす。

 ヘンリーは家族の様子にどう答えればいいかがわからなかった。2人共少し見ただけで自分に気づき喜んで迎えてくれた。本当に温かく、本物の家族のように。

 自分は前世の記憶を持つ。それどころか()()()()()()()()()()()

「お父さんももう少しで帰ってくると思うわ。すぐに発つ訳じゃないのでしょう?久しぶりの家なんだからゆっくりしていきなさい」

 ヘンリーの母、サラマはマラクに客間の準備をするように言いつけてから、今日はごちそうにしないとと言い残して家の奥へと姿を消した。

 残されたヘンリー達はマラクの指示で3人だと少し手狭なマラクの私室に通され、客間が片付くまで待っていてくれと言われた。

「ヘンリー。聞かせてください」

 マラクが部屋から出ていったのを確認してからトレスが口を開く。そのままヘンリーの返事も待たずにトレスは言葉を続ける。

「この村は一体なんなのですか?」

「……トレスならもう気づいてるんじゃないのか?」

「予想はついています。これはただの答え合わせみたいなものですよ」

 2人の様子にアインスが口を挟む。

「待てよ。何の話をしてるんだ?」

「気づかなかったのですか?この村に入ってから私達はまだ人間族(にんげんぞく)を見ていません。つまりこの村は亜人の隠れ里ですよ」

「はぁ?サラマさんは人間族だったじゃねーか」

「いえ、サラマさんも竜人族ですよ。髪に隠れていましたが角がありましたし、耳元にも赤い鱗がありましたから」

「え?マジ……?」

 信じられないといった様子でアインスはヘンリーを見る。

 見られたヘンリーは観念したように話し始めた。

「トレスの言う通り、母さんも竜人族だよ。父さんもな」

「待ってくれ!だってヘンリーは人間族だろ!?」

「そうだよ」

「え、じゃあヘンリーって……?」

「多分、捨て子だったんじゃないかな。詳しいことは知らん。物心つく頃にはこの家に居たからな」

「そう、か……。なんか、悪ぃな……」

 バツの悪そうなアインスにヘンリーは「気にしてない」と答えた。

 

 

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