物語の中心、主人公の仮面ライダー、1号ライダーなどとも呼ばれるそれらの人物は、それぞれ癖はあっても総じて皆、善人だ。
だがそんな中一人、おおよそ善人とは呼び難い者がいた。
彼の名は
津上 翔一、芦河 ショウイチとも違うアギトの世界の仮面ライダーである。
学生時代優秀な成績を残した彼は、己の優秀さを示すため警察官となり、未確認生命体対策班の実働部隊G3運用チーム、G3ユニットに所属して人々からの称賛の声を浴び出世するためにG3システムを纏いグロンギやアンノウンと闘い、そして己が生き延びたいがためにアギトの力を用い
そんな彼が新たに紡ぐのは迷宮都市オラリオでの
迷宮都市オラリオ、町の中心のダンジョン、それを塞ぐ天を突くほどの巨大な塔バベルを中心に繁栄する街。
冒険者は今日の稼ぎを夢想しながら意気揚々とダンジョンに向かい、街の人はそれぞれ自分たちの仕事の用意にと、活気づいている。
だがそんな街も片隅に行けば人気もなくなり閑散とした路地裏がいくつもあった。
そんな路地裏の一つに黒髪黒目の男が立ち尽くしている。取り立てて美しい顔ではないが整えられた清潔感のある髪と仕立ての良いブランド物のスーツのおかげかどことなく上品な雰囲気があったが、持っていた通勤鞄を取り落とし唖然としてポカンと口を広げていては台無しだ。
「此処は何処なんだ?」
誰に聞いたわけでもないが、ぽつりとそんな言葉が零れ落ちる。
翔一が混乱することも無理はない。彼は通勤途中、地下鉄を降りるため改札を通った途端にいきなりオラリオに来てしまったのだ。しかし生来の性格ゆえ、少しすると落ち着きを取り戻し、薄暗い路地裏から出てみることにした。
大通りに出た翔一を迎えたのは石と煉瓦の街並みに、剣や槍を携える冒険者たちが行きかう姿だった。
その中世の欧州を思わせる光景に翔一は幼い頃訪れたトルンを思い起こさせていた。
トルンは東欧ポーランドの地方都市のひとつで中世の街並みを今に伝える旧市街が文化遺産として世界遺産に登録されている街で地動説を唱えたニコラウス・コペルニクスの生家があることでも有名だ。
また古くはドイツ騎士団国の領地であったこともあり、砦跡なども残されている。その近くでは観光客向けに金の十字の上にインエスカッシャンとして鷲が描かれた、いわゆる騎士団総長の紋章的なものがついている木の盾や木剣が売られて、小さい子供が親に買ってもらい遊んでいたりする。
翔一も親にねだりそれらを買ってもらい騎士ごっこをしていたことを思い出す。彼の幾つかある人には知られたくない恥かしい記憶だ。知られたら
だがそれはさておきここで行きかう人々が携えているのは翔一の幼いに日の思い出にある木剣の様なちゃちな物でなく、重厚感のある本物の凶器だ。
翔一は改めてここが日本ではないことを思い知らされる。
「こんなこと、ありえない。」
そう口にした瞬間、彼の脳裏に一つの言葉が浮かぶ。
不可能犯罪
こんな事が出来るのはアンノウンか、その親玉の黒ずくめの男ぐらいだろう。
だがそうである確証など無いし、例えアンノウンの仕業だとしても今一番大事な事はどうやって日本に戻るかであることは翔一も重々分かっていた。
しかしそれが容易ではないことを先ほどから嫌でも視界に入る、中世はおろか現代の日本でも作れないであろう、雲を突き破るかのような高さの塔が知らせていた。
迷宮都市オラリオ、その何も入る
翔一は今、そのギルドの建物の一室で、ブラウンのセミロングの髪からぴょこんととび出した長い耳が特徴的な、黒いスーツを着た女性と机を挟み向かい合いソファーに座っていた。
彼女はギルドの受付嬢でハーフエルフのエイナ・チュールといい、翔一にオラリオやダンジョン、冒険者についてレクチャーしてくれている。
翔一がオラリオでの生活に必要であろう知識を最低限ながら得る期会に恵まれたのは、路地裏から通りに出た後、まっすぐに
なぜそうしたのかは簡単で、スカイツリーより大きな建造物をただのランドマークとして建てたりはしないだろうという己の中の常識に照らし合わせての予想だ。
その予想はおおよそ当たっておりバベルに近づくにつれ疎らだった道が一気に人であふれていく。
そしてバベルに到着した翔一はどうやって中に入ろうかと思案したのだが、結局良い案は浮かばず武装した者達、冒険者に紛れバベルに入ることにした。
しかしそこをバベルの視察に来ていたエイナに見咎められたのだ、だがこれが翔一にとっての幸運だった。
翔一が今日来たばかりでここの事を何も知らなかったのだと詳細をぼかしながら事情を説明するとエイナは基の性格が世話好きなのかオラリオについての説明を買って出てくれたのだ。
その幸運に翔一は飛びつき、今に至るというわけだ。
「……と、オラリオやダンジョン、冒険者に関してはこのぐらいでしょうか、他になにかご質問はありますか?」
「いいえ大丈夫です。微に入り細に入り、丁寧な説明、本当に感謝します。」
エイナの説明が終わると翔一は礼を言い、悠然とギルドを出たが、内心は踊りだしそうなほど興奮していた。
エイナのもたらしてくれた情報は今の翔一にとってはどれも値千金と言えたが、特に神と魔法が彼の興味を引く。
曰はく神とは万能の力
彼らは下界の人間、彼らの言う所の子供たちと同じ目線に立ち、共に生きていくために
そこで神々は人間たちに身体能力が向上するアビリティや魔法、スキルが発現するステイタスと呼ばれる
そしてそのために
翔一に言わせればそんな例外を作っている時点で同じ目線ではないが、重要なのはそこではない。今注目すべきは、神と呼ばれるものたち
もし神が下界に来るとき
推測に推測を重ねた、凡そ確実ではない一縷の望みだ。だが翔一はどれだけ僅かであろうと希望があるのならば、自分なら掴めると信じていた。
翔一は気を落ち着けるためにギルドの前の通りで一旦立ち止まり短く息を吐く。
目的が決まれば後は行動するだけだ。まずは魔法を得るために神に
翔一はスーツの襟を正し不敵な笑みを浮かべオラリオでの新たなスタートをきった……のだがそうそう何もかも都合良くはいかなかった。
数時間後日も暮れて、家路につく人が増えてきたころ、通りの片隅で翔一はうなだれていた。
「まったく、この私を門前払いするとは、この世界には見る目がない者が多すぎる。」
口を突く言葉に何処か覇気がない。
それもそのはず、翔一は朝から回った十数軒のファミリアに軒並み門前払いされ続けてていたのだ。
「クソ、ひどいところだ。」
目の前を行き交う人達を眺めながら翔一は悪態をつく。
しかし翔一が門前払いされるのもある意味仕方がなかった、門前払いした者の全てが翔一に悪感情を抱いていたわけではない。
問題は年齢だった。冒険者のほとんどは十代の内に恩恵をもらいファミリアに入る。それはオラリオの平均的な就業年齢が現代日本より低いこともあるが、冒険者が強くなる、レベルアップをするには時間がかかるからだ。今のレベル一から二への最短記録で一年、それ以降はもっと時間がかかる、中には一生かけてもレベルを上げられないものもいるぐらいなのだ。
ゆえにファミリアは
翔一が訪ねたのが中小零細ファミリアであれば人員不足の所もあるのでまた違った反応があったのだろうが、自らがすぐれた人間であるという無駄に高いプライドが邪魔をし、そちらに目を向けられなかったのだ。
しかしもうそんなことを言っている状況ではなくなってきた。
普段なら一日二日ぐらい何も食べないでも行動に問題が出ないぐらい鍛えている翔一も慣れぬ異世界に心身共に思った以上負荷がかかっていたのか、空腹と疲労でいっそのこと恥も外聞も捨てて座り込んでしまいたい欲求に駆られていた。
「こんなことなら先にこのあたりの通貨と拠点を確保しておくんだった。」
今更ながら先にやっておくべきことを忘れていた。そのことに思い至った翔一は、存外に動転していたんだなと自嘲する。
「大丈夫かい? もしお腹が空いてるならじゃが丸くん食べるかい?」
お世辞にも進んで話しかけたくなるような状態じゃない翔一に声をかけてきたのは長い黒髪をツインテールにした年のころは14,5歳の少女。
「ありがとう。だが遠慮するよ。子供に食事を恵んでもらうまでに落ちぶれたくはない。」
「子供だって! 失敬な! 僕は女神で君よりよっぽど年上だよ。」
子供発言にプリプリと怒りながらも少女はコロッケに似たじゃが丸くんという食べ物を翔一に突き出し無理やりにでも渡そうとする。根が優しい少女のようだ。
「君が女神?」
「そうさ、僕は女神ヘスティア。」
翔一が思わずじゃが丸くんを受け取ると、ヘスティアはその大きな胸をこれでもかと張って、手を腰に当て、どうだ、参ったかと言わんばかりに名乗った。
なるほど、エイナに教わった通り、神はどこか人間と違う雰囲気がある。それにノースリーブの胸元も大きく空いたホルターネックのバックレスワンピースに、胸の下を通る両の腕も合わせた体を一周しているリボンなんてともすればいやらしく見えかねない服装にも関わらずヘスティアの幼いながら整った顔立ちのおかげで寧ろ可愛らしくもある。などと考えながら名乗られたのだからと名乗り返す。
「私は北氷原 翔一と言います。」
「そうか、ショーイチ君っていうのか。それで君はなんで落ち込んでいたんだい?」
「別に落ち込んでなどいませんよ。」
翔一が虚勢を張るとヘスティアは彼の目の前に人差し指を突き出し、「チッチッチ」と可愛らしくも自慢げに指を左右に揺らす。
「ダメだよ、ショーイチ君、僕たち神々は
「なら君が女神と言うのも怪しいね。私はたんにこの私が入団するに相応しいファミリア探している途中、少し休憩しただけなんですから。」
本気でそう言っていることを悟ったヘスティアは深く嘆息する。
「自分自身にも嘘を吐いてしまうなんて君も難儀な子だなぁ。けどまぁ、そう言う事なら話は簡単だ。」
ヘスティアは改めて翔一に手を差し伸べる。
「ショーイチ君、僕の
翔一は今、「ここが僕らのファミリアの
翔一はヘスティアの手を取った時、神自らのスカウトと言う事で彼の自尊心は少しばかり満たされ、運命さえ感じていた、これまで他のファミリアに入団を断られていたのはこの出会いを演出するための
しかしホームだと案内されたのは廃墟である。
これではまるで、お前程度にはこの廃墟が相応しいと言われて、自分自身でそれを認めたようである。翔一はそれが街そのものから嘲笑われている様でたまらなく腹が立った。
「ヘスティア君。」
翔一は教会に入ってゆくヘスティアを呼び止めた。
「なんだい、話なら中で……」
振り返ったヘスティアは翔一のただならぬ様子に言葉を詰まらせた。
「本当はもうどのファミリアでもいいって思っていた、恩恵をもらって元居た場所に戻るための魔法が発現すれば、どこだろうと関係ないって……だけどやっぱり違う、こんな廃教会がホームのファミリア、私には相応しくない。」
「えっと、僕らのホームが嫌で、別のファミリアに行くつもりなのかい?」
「ありえない!」
残念そうな表情でショーイチの心の中を窺うようなヘスティアの言葉に強い口調で否定する。
「私の優秀さを理解できない愚物どもに頭を下げてファミリアに入れてもらうなんてことはありえない!!」
翔一は夕日に赤く染まるバベルを指さす。それにつられるようにヘスティアもバベルを見上げる。
「相応しくないのなら、相応しくなるようにすればいい。私たちでバベルを目指す。あの最上階でこの街を見下ろしてやろう。」
翔一が他のファミリアに行かずにヘスティアのファミリアに入る意思を示したことにより先ほどまで沈んでいたヘスティアの顔が華やぐ。
「バベルの最上階なんて今のボクには想像もつかないけど、夢は大きい方が楽しいもんね。それにクは君がファミリアに入ってくれるだけでとてもうれしいよ。」
ヘスティアは自ら教会の扉を開き、改めて翔一を迎える。
「じゃあ改めて、ショーイチ君、ようこそヘスティアファミリアへ、歓迎するよ。」
「よろしくお願いしますよ。ヘスティア君。」
今度はショーイチもヘスティアの開けた廃教会の扉をくぐった。その姿は背筋がしゃんと伸び、自信満々ないつもの調子に戻っている様だった。
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