ダンジョンにアギトがいちゃだめでしょう。   作:リューイ

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第2話赤い瞳の少年

 翔一がヘスティアの2人は、ヘスティアがホームだと紹介した廃教会、その地下の居住スペースにしている小部屋にいる。

 

 部屋はベッドにソファーと机しかない正方形の部屋とキッチンスペースらしき長方形の小さな部屋がるだけの簡素な間取りだったが文化や技術の発展度合から行ってヘスティアが一人で暮らすなら十分足りているのだろう。

 

 「地下なのに明るいのですね。」

 

 翔一が驚いたのは灯りだ。電灯ではないのは勿論だが火を焚いているわけではないのも匂いでわかる。

 

 「そりゃね、いくらうちが貧乏だからって魔石灯ぐらいはあるさ。」

 

 「これが魔石灯ですか、なるほど。」

 

 翔一は顎に手をやりしきりに頷く。エイナからダンジョンのモンスターから取れる魔石を使ったアイテムがあることは訊いていたが実際に見るとすごさを実感する。こういうものが在るなら便利さを追求する現代の機械文明を生きてきた翔一でも中世ファンタジー的なオラリオの生活も少しはなじめるかもしれない。

 

 「さぁ、何はともあれまずは恩恵を刻もう。 上半身裸になってこっちに来るんだ。」

 

 ヘスティアはベッドに上にあがり魔石灯を興味深そうに見ていた翔一を呼ぶ。

 

 「裸になるんですか?」

 

 「そうだよ。恩恵は背中に直接刻むんだからね。」

 

 服を脱ぐことに難色を示す翔一をよそにベッドにちょこんと女の子座りで可愛らしく座るヘスティアは「ほら、早く早く。」とベッドの端をポンポンと叩き急かす。

 

 「はぁ、仕方ないですね。」

 

 翔一は不承不承ながら着ていた服を脱ぎ始める。 翔一が嫌がるのも無理はない。もし翔一が日本で同じ光景、露出が多い少女と半裸の成人男性が一つのベッドの上にいる場面に遭遇したならば、まず間違いなくその男に手錠をかけるだろう。

 

 そんな翔一の苦衷も知らずヘスティアは「ショーイチ君は案外鍛えてるんだね。」と自分のメレンゲの様な白く柔らかい身体とは違う、鍛え上げられた鋼の様な肉体が興味深いのか、まるで幼子が父にじゃれつく様にぺたぺたと体を触る。

 

 「ヘスティア君、そろそろ本題を思い出してくれるとありがたいんだけどね。」

 

 焦れた翔一がそう口にすると、ヘスティアは「そうだった、そうだった、すまない。今から始めるよ。」と頭をかきながら少し恥ずかしそうにした。

 

 「それじゃあ、少し前かがみになっておくれ。」

 

 翔一がヘスティアの言葉に従うと彼女はベッドわきのサイドテーブルの上に置いてある小箱から裁縫用の小さい針を取り出して自分の人差し指に突き刺す。滲んできたこの血こそ恩恵(ファルナ)を刻むための神の血(イコル)である。

 

 ヘスティアが翔一の背に一滴の血を落とすと丁度背中に収まるぐらいの光の波紋が現れ、その中に神々が使う文字、ヒエログリフが浮かんできた。

 

 恩恵(ファルナ)を刻む作業はこれで終わりなのだが、翔一に現れたステイタスを確認した瞬間、ヘスティアは驚きの声をあげた。

 

 「ええっ!!」

 

 「どうかしたのですか?」

 

 翔一の問いにヘスティアは「ちょっと待っておくれ。」と言うと光を翔一の体に押戻し、小箱から取り出した用紙を翔一の背中に乗せて撫でる様に指を滑らせる。

 

 するとまるで炙り出しの様に文字が浮き上がってきた。

 

 ヘスティアは翔一の肩越しに用紙を渡し、「これを見てみてくれ。」と言う。

 

 しかし受け取ってみたものの翔一には用紙に書かれた文字は読めなかった。

 

 「すいませんが私は此方の文字がまだ読めません。口頭で説明してくれますか?」

 

 「おや、そうだったのかい、もちろんかまわないよ。」

 

 ヘスティアは翔一から用紙を受け取り、さっさと服を着直している翔一に何を驚いていたのか説明し始める。

 

 「ショーイチ君のアビリティはオールIだ、これはまぁステイタスを授かったばかりの人間としては普通なんだけど、凄い事に君にはなんとそれだけじゃなく魔法とスキルが一つずつ発現していたんだ。」

 

 「なるほど、そうだったのですか。 ですが私ほどの人間ならそれも当然でしょう。」

 

 「何だい何だいその反応は、確かに高レベルの冒険者に成れば魔法もスキルも持っているのは珍しくはないみたいだけど、始めからどっちも持っているのは珍しいんだよ。もっと喜びなよ。」

 

 ヘスティアは魔法とスキルが発現していることを大いに喜びたかったが翔一が余に落ち着き払っているので自分だけでははしゃぐ事もできず、うずうずしていた。

 

 しかし翔一も外面を沈着冷静と言う風に気取っているだけで内心では褒められて嬉しく思っている。

 

 「それでどんな魔法とスキルなのですか?」

 

 「どちらも、今まで聞いたこともないようなレアな物なんだけど。」と前置きをすると、ベッドの上に立ち上がりまるで宣言書を読み上げる様に翔一のステイタスが書かれた用紙を掲げて読み上げる。

 

 「まずは魔法、G3ユニット召喚、

 ・G3ユニットの装備品を召喚する。ただし召喚できる物は魔力値に依存。

 ・詠唱は呼び出す装備の名称。

 ・召喚した装備品は自由に消すことができる。

 

  続いてスキル復讐者(リベンジャ―)

 ・成長速度、成長限界がアップする。

 ・オラリオの頂点に立ちすべての者を見返すまで効果持続。

 ・本人が必要とする限りにおいて効果および効果範囲が限りなく向上。

 

 魔法はよく分からないけど、スキルはオラリオで№1って言っても過言じゃない、まさにチート級の代物だよ。」

 

 ヘスティアはついに堪えられなくなったのかベッドの上を飛び跳ねて喜ぶ。やはり眷族が凄いスキルを持っていれば嬉しいのだろう。

 

 しかし翔一はむしろスキルより魔法の方が気になっていた。

 

 G3ユニット‶召喚″……ヘスティアの言葉のままに受け取るならば、此処では無い何処かから呼び出していると言う事だ。しかしG3ユニットがこの世界にあるとは考えにくい、つまりこの魔法は物質を異なる世界に移動させることができる、と考える事が出来た。

 

 そのことに思い至った翔一は自分ならすぐに異世界間移動の魔法も習得できるだろうと言う楽観が生まれ、自然と笑みがこぼれる。

 

 それを見たヘスティアは「今夜はショーイチ君のファミリア加入を祝って3人でパーティーだ。」とさらにテンションをあげていく。

 

 「3人?」

 

 暗にここには2人しかいないがと言った様子で翔一が不思議がるとヘスティアは、

 

 「そうだよ、ショーイチ君と、僕と、」

 

 と順番に指さして行ったあと、踊るようにその場で一回転、手を腰にあて、指を一本たて一を示す。

 

 「そして僕の一人目の眷族、ベル君の3人だよ。」

 

 ヘスティアがそう言い終えた時、丁度、ギィと扉の開く音がした。

 

 「丁度帰って来たみたいだ。」

 

 ヘスティアの声により一層喜びの色が増す。

 

 「神様、今帰りました。」

 

 声がした階段の方に白髪に赤い瞳をした14,5歳の少年がいる、彼がヘスティアファミリア最初の眷族ベルなのだろう。

 

 ベルが姿を見せるとヘスティアは勢いよくベッドからジャンプし彼に抱きついた。

 

 「おっかえりぃ!! ベル君、今日は早かったんだねぇ。」

 

 「ははっ、ちょっとダンジョンで死に掛けちゃって。」とベルが苦笑しながらそう言うと、

 

 「ええっ!! 大丈夫なのかい? 怪我は無いのかい? もし君に死なれたら僕はショックだよぉ。」とヘスティアはベルの体に異常がない全身弄り始める。

 

 それがむずがゆかったのかベルはヘスティアから体を離す。

 

 「大丈夫ですって、神さま。」

 

 ベルは少し屈んでヘスティアと目線を合わせる。

 

 「僕はヘスティアファミリア唯一のメンバーですよ。神さまを路頭に迷わせるようなことはしませんから。」

 

 「そう言う事を心配しているんじゃないんだけどなぁ。」

 

 ヘスティアは少し困り顔そう呟いたあと、

 

「まぁけど君がそこまで言うのなら僕は大船に乗ったつもりでいるから覚悟しているんだよ?」

 

と笑って見せた。

 

それにつられたのかベルも「なんかおかしな言い回しですね……」と笑い。

 

2人顔を見合わせまた笑う。

 

「そうだベル君、今日は君に残念なお知らせがあるんだ。」

 

全然残念そうではなくそんなことを言うヘスティアをベルは訝しむ。

 

「君はヘスティアファミリアの唯一のメンバーじゃなくなってしまったんだよ。」

 

「それって、如何いう……」

 

ヘスティアが何を言わんとしているのか分からなかったベルだが部屋の中に翔一を見つけたとたん、

 

「もしかして!!」

 

と期待に声をあげる。

 

「そう待望の二人目のメンバー、ショーイチ君だよ。 僕がスカウトしてきたんだよ。」

 

 「はじめまして、私は北氷原 翔一といいます。 これからよろしくお願いしますね。」

 

 ようやくベルに気づいてもらえ、ヘスティアから紹介してもらえた翔一はベルの前に歩み出て自己紹介をし、握手を求める。

 

 それにベルも応じ、「ベル・クラネルです。こちらこそよろしくお願いします。」と翔一の手を握り返す。

 

 その二人の姿は、翔一がベルより20セルチ以上背が高く、年も上であることからベルの方が新人のようにも見えた。

 

 そんな二人にヘスティアはその幼い相貌からは想像もできない、まるで子供を見守る母の様なまなざしを向けている。

 

 「さぁ、顔合わせも終わったことだし、次はショーイチ君の歓迎会だ。」

 

 挨拶が終わったころ合いを見計らってヘスティアが音頭を取る。

 

 「うわぁ、いいですね。 あっ、けど料理はどうしましょう。」

 

 ベルも翔一の歓迎会には賛成だったが、今日はダンジョンでミノタウロスに襲われ死にかけたため、早めにダンジョンを出てしまい稼ぎがほとんどない事を思いだしていた。

 

 「ふっふっふ、心配はいらないよ、ベル君。」

 

 悲し気な表情になってしまったベルをヘスティアは少し油で湿った紙袋を見せる。そこにはバイト先で貰ったじゃが丸くんが袋一杯に入っていた。

 

 「どうしたんですか?こんなに沢山のじゃが丸くん。」

 

 「バイト先の店長が売り上げに貢献したからってくれたのさ。」

 

 「すごいです神さま!」

 

 「さぁ、パーティーを始めよう。二人とも今夜は寝かせないぜ。」

 

 ヘスティアがカワイイキメ顔でサムズアップをするとベルは先程とは打って変わって満面の笑顔で「はいっ!!」と元気よく頷いていた。

 

 翔一は正直、歓迎会などする必要性は微塵も見いだせなかったがベルの明るく無邪気な様に否とは言えなかった。

 

 かくしてパーティーは始まった。

 

パーティーでは部屋の片隅の2人掛けソファーに三人で腰かけじゃが丸くんを食べた。ベルとヘスティアが小柄とは言えい2人がけのソファーに3人だ、翔一には窮屈で快適とはいいがたかったが、ベルとヘスティアはその窮屈ささえ楽しんでいる様だった。

 

 ベルは翔一を楽しませようと色々な英雄譚や、自分がハーレムを作る事を目標としている事、今日ダンジョンでミノタウロスに襲われ危機一髪で助けてくれた美少女剣士の話を大げさな身振り手振りで面白おかしく語っていたが、やはりダンジョンで死にかけると言う経験はベルの心身に大きな疲労を刻み付けていたのだろう、じゃが丸くんを食べ終えるころにはベルはうつらうつらと舟を漕ぎはじめた。

 

 そんなベルに翔一はもう休むように言ったのだがベルはファミリアが増えたことがよほどうれしいのか「もう少しだけ、もう少しだけと。」寝ぼけ眼をこすりパーティーを続けようとするが、翔一はそんな駄々を聞いてやるほど優しくはなかった。

 

 「私は明日からも居るのだから今日はもう寝なさい。」と翔一に強い命令口調で言われたベルは寂しさと嬉しさがないまぜになった様な表情で「はい。」と返事をし、ヘスティアにステイタスを更新だけしてもらいソファーのひじ掛けにもたれ掛かる様に座り眠った。

 

 「もう寝むちゃったね。」

 

 「よほど疲れていたんでしょう。」

 

 「そうだね。 ……ショーイチ君、悪いけど、ベル君をベッドに運んでやってくれないかい。」

 

ベルの正面に屈みそのあどけない寝顔を堪能したヘスティアは翔一にベルを運ぶように頼んだ。

 

「かまいませんよ。」

 

翔一はベルを抱き上げる。ベルは思いのほか軽く、翔一は彼がまだ少年であることを実感した。

 

「ところでヘスティア君、先ほどは何をごまかしたのですか?」

 

ベルをベッドに寝かせながら翔一は唐突にヘスティアに質問を投げかける。

 

「なっ何のことだい?」

 

ヘスティアの動揺に翔一は簡単に落ちるなと手ごたえを感じた。

 

「ステイタス更新の時、貴方がクラネル君をぬか喜びさせた件ですよ。」

 

「あっあれは手が滑っただけだよ。」

 

「そんな子供騙しな言い訳、クラネル君ぐらいしか納得しませんよ。第一手書きではないでしょう。」

 

「うっ、わかったよ、話なすけど、誰にも言わないでくれるかい?」

 

「それは内容と隠した理由によります。」

 

翔一の有無を言わせぬ様子に、やがてヘスティアは観念したのか「僕がベル君に隠していたのは……」と話し始めた。

 

 

 

 

「なるほど、憧憬一途(リアリス・フレーゼ)ですか、ダンジョンで助けてもらった少女アイズ・ヴァレンシュタインでしたか、彼女に追いつきたいというクラネル君の気持ちが形になった成長を早めるスキル。つまるところクラネル君を変えてしまったその少女に嫉妬したと言う事ですか。 何というか人間臭い……いえ、此処は女神らしいと言うべきでしょうか。」

 

翔一の頭には嫉妬から人を害する神の出てくる地球の神話が浮かんでいた。

 

「ちがうよ、確かに、悔しい気持ちがないわけじゃないけど、こんな珍しいスキルが暇を持て余してる他の神々に知られたら色々ちょっかいをかけられてしまうから、ベル君自身の口から洩れない様に黙っていたんだ。」

 

「私のスキルも同じようなスキルだったと思うのですが?」

 

「それはホラ、ショーイチ君はもう大人だから。」

 

ヘスティアは翔一の指摘に露骨に顔をそらす。嫉妬の比率の方が大きかったのだろう。

 

「まぁ、いいでしょう。クラネル君には黙っていると誓いましょう。」

 

翔一は大きく嘆息する。

 

「今日はもう寝ましょう。」

「そうだね。」

 

することもなくなり、ベルも寝てしまったので翔一は自分たちも休もうと提案する。

 

ヘスティアはそれを了承しいつものようにベッドに向かうが翔一がそれを停めた。

 

「待ってください。貴方はあっちです。」

 

翔一が指さしたのはソファーだ。

 

「ショーイチ君、僕は一応君たちの主神なんだけど」

 

「分かっていますよ。」

 

「じゃあ、もうちょっと敬っておくれよ。」

 

「もちろん、敬意はもっています。」

 

「それじゃあ、僕がベル君と一緒にベッドで寝ていいよね。」

 

「それはダメ。」

 

翔一はきっぱりと言う、その顔は笑みを絶やしていないが有無を言わせぬ迫力がある。

 

「なんでさ?」

 

「ヘスティア君とベル君を同じベッドで寝かせるなんて飢えた狼の檻に肥えたウサギを入れるようなものです。警察官として未成年の淫行を見逃すわけにはいきませんからね。」

 

そう言うと翔一はベルの横に寝転がった。

 

「そんなぁ~」

 

ヘスティアの落胆の声が小さく響いて消え、夜が更けていくのだった。

 

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